命改変プログラム

ファーストなサイコロ

今は過ぎゆく



 静かな空気が流れてた。LROの中とは違う……ここには争いなんか無いと、そう感じさせる空気だ。良い匂いもするしね。
 下へ降りると、更にそんな感じが強まるよ。聞こえてくる包丁の小気味良い音。それとご機嫌に口ずさまれる鼻歌が、平和だなって思わせる。
 まあいつもの事なんだけどね。でも自立するとか言っといてなんだけど、まだまだ日鞠が必要だな。最近は時々日鞠が来ない日もあるけど、そうなると途端にインスタントに頼るからね僕は。


 随分と幼なじみって存在に頼ってたって思い知るよ。うざったいとか思ってたけど、来なくなるとそれはそれで困るんだよね。
 それに今は色々と大変で……ってこれは言い訳か。僕は頭を掻きながらキッチンの扉へと手を伸ばす。ガチャっと扉を開くと、そこには変わらない後ろ姿がある。
 なんだかこれ以上無いくらいに安心する光景だな。てか、そう思う自分が日鞠に依存してるよな。ドアが開く音を聞いて、日鞠は僕の存在に気づいた。だけど……なんかあれ? 怒ってる?


「なんだスオウか。起きてこないかと思った」


 そう言う日鞠は僕に視線を向けてくれない。手際よく切った物をフライパンに投入して、ジュージュー炒めてる間も、何かブツブツ言ってるし……明らかに不機嫌そうだ。
 てかスオウかって、ここは僕ん家だぞ。


「え~と、なんか怒ってる?」


 僕は恐る恐るそう聞いてみる。すると揺れる三つ編みの後ろ姿から声が届く。


「怒ってる」
「う……」


 やっぱり。ええ、なんか僕したかな? 日鞠は野菜炒めでも作ってるのか、パパッと塩胡椒とかを振りかけてる。でもその動作一つ一つに怒気がハラんでる様な……日鞠は怒った理由もいつもなら口に出すのに今日に限ってはそうしないし……これこそ察しろって事か。


「え~と、今日ってなんかあったっ――――――――アッツゥゥ!!」


 怒る原因でも聞き出そうと思ったら、いきなり肉体に危機が訪れたじゃねーか。前言撤回……十分リアルも戦場だ。
 てか、炒めた野菜を投げるんじゃねーよ。熱いしもったいないだろ。


「スオウは、今日が何の日か覚えてないの?」
「は? 今日って八月の……あっ!」


 なるほど。察せたかも知れない。そうか、もうその日なんだ。これは素直に謝った方が良いかもな。そういえば今日は朝から「昼には帰ってくるからね」とかなんとか言ってた様な……早くLROに入りたくてあんまり聞いてなかったけど、確かにそんな事言ってたな。
 日鞠は忘れてる訳ないって思ってたんだ。ずっと昼頃から、僕が帰ってくるのを待ってたのかも……そして夕ご飯の準備まで……くっそアギトの奴も教えろ……は無理か。


 この日の事は僕と日鞠しか知らない。二人だけの秘密みたいな物だ。全国的に同じ様な事やるけど……でも子供でこの日に毎年本気で祈る奴らは少ないだろう。
 僕が色々と考えてる間に、日鞠は料理を盛りつけてテーブルへと運んでくる。僕は何も言わずに、戸棚から食器を取り出す。
 そして二人して定位置に座り「頂きます」を紡ぐ。なんだかこんなに静かな夕食は初めてかも。カチャカチャモグモグと、それぞれの箸を動かす音と、口を動かす仕草しか目に入らない。


「あのさ……ごめん忘れてて」


 僕はこの空気に耐えきれない。これを紡ぐしかなかった。すると日鞠は僕の皿に取り分けてた野菜炒めを奪って食べてこう言った。


「別に、間に合ったから許してあげる。食べたらお参りに行くからね」
「わかってるって」
「後ここにも行くからね!」


 そう言って日鞠が見せつけたのは、お祭りのチラシだ。そこには本日の日付と花火の打ち上げとかが書いてある。こいつ実は、ここに二人で行きたかっただけじゃ……とか思ったけど、外には結局出るんだし――てかこの祭りには毎年行ってるし、拒否する事もないなって思う。


「はいはい」


 僕はそう口ずさんで、お返しとばかりに日鞠の皿の野菜炒めを奪ってやる。ハムハム……なんかどっかで食べた味……というかどっかの店のお総菜みたいな感じがするのは気のせいか?
 まあ上手いけど。作ってる所も見たけど……どっかで味付けでも覚えて来たのかな?


「ちょっと、スオウ何するのよ! いっぱいあるんだから意地汚い事しないで」
「お前が先にしたんだろ」


 僕は理不尽な事を言う日鞠に言い返す。すると頬を膨らませて反論してきた。


「それは罰よ! スオウが忘れてた罰! 私はなんにも悪いことしてないもん。だから『あーん』とかして欲しい位。願っても良いよね?」
「どういう理屈だよそれ。そんな恥ずかしい事、出来る訳無いだろ」
「でも病院ではしたじゃない」


 ケロッとした感じで言い放つ日鞠。それはあんまり思い出したくない事実だけれども……


「ああ、あれは例外だ! あの時は弱気に成ってたからな……体も痛かったし……だからそれだけ。看護なんだよあれは! 特別な意味はない」
「私は、スオウだから『あ~ん』ってしたんだよ」


 そう言って、日鞠は野菜を一摘みして僕へと向けてくる。イタズラっぽい表情浮かべて。くっそ、恥ずかしい事実を握られてしまったな。
 けど……


「おい、それはお前がするのか? してほしかったんじゃ無いのかよ」
「してくれるの!?」
「しねーよ」


 輝く笑顔を見せた日鞠を一刀両断する僕。うん、やっぱりいつもの関係だな。もう何年もこうだから、気遣う必要もなくて日鞠は楽だ。
 まあ色々と迷惑でトラブルメーカーな奴だけど、それも日々を刺激するためには必要なんだよな。


 日鞠は拗ねた様にご飯と野菜炒めを交互にがっついてる。みるみる僕の分までの飯が減っていくぜ。負け時と僕も箸を伸ばす。ここで栄養補給しなきゃ、後々腹減るだろうからね。
 まだまだLROでやることが一杯あるんだ。


「お前な、少しはお腹周りとか気にした方が良いんじゃないのか?」
「大丈夫。だって私はスオウの好みの体型をバッチリ維持してるもん」
「僕の好みの体型ってなんだよ?」


 どこでそんな情報を仕入れてるんだよこいつは。


「それはほら、私を見ればわかるでしょ? 綺麗な肌に、手のひらに収まる位の胸に、クビレはしっかりあって、足はスラッと細長い! ね、ばっちりでしょ?」
 嬉しそうにそう言い切った日鞠だけれども……それは僕が認めてしまって良いことか? でも思うに、好きになったのなら、ぺったんこでも、ちょっと位太ってても関係無いのかもとか考えるけど。つまり日鞠は、僕の好みが自分だと言ってるのと変わらなくね? 


「だってそうでしょ? スオウは私大好きでしょ?」
「嫌いじゃないとだけいっといてやるよ」


 何大好きとか公言してるんだこいつ。自分の気持ちを散々言うのは別に止めないけど……人の心を勝手に代弁するんじゃない。


「う~ん、学校では私達、既に両想いなんだけどな」
「はあ!? いつからだそれは!?」
「入学して私が会長になるまでの間でかな? 格好よかったもんスオウ」


 それってたった二ヶ月程度の事じゃんか。しかも日鞠がひっくり返した生徒会長選挙が原因かよ。そもそも一年は会長になれない筈なのに、こいつがその制度事態を覆して当選した頃から、こいつの学校での人気は異常だ。
 そしてそれに伴って僕が学校で狙われてる感じがしてたけど、それもこれも日鞠のせいだからな。無駄に人気者が僕に甲斐甲斐しくするものだから、言われなき嫉妬を受ける羽目に成るんだ。


「二学期に成ったらクラス分けを提案してやる」
「それは二学期に成る前にしなきゃ意味ないよ。てかそれは無謀だね。一学期毎のクラス替えとか、面倒なだけだし、二学期からがクラスの本当の始まりなんだよ」
「なんだよ本当の始まりって?」


 すると日鞠は、指をビシッと突き立ててこう言った。


「体育祭や文化祭! 二学期は行事毎の宝庫なんだから! 今年からハロウィンも何かやって、クリスマスには全校パーティーを開くんだ!
 どう? 考えるだけでワクワクするでしょ? だからクラス替えは出来ません。会長判断で却下します」
「横暴で独断な生徒会長だな」


 まあ、クラス替えは流石に無理とは思うけど……無駄に行事を増やさないで欲しい。楽しいは楽しいけど、静かに過ごしたいって奴もきっと居るもん。
 特に僕とか……どうせ当日に成ったらこき使われるだけだしな。経験有る。中学の三年間がまさにそうだった。僕のクリスマスの思い出に、甘酸っぱいのが一個もないのは、常に傍にこいつが居るからだ。


 翌日からカップルに成ってるクラスメイトを知らされるのがどれだけ辛いと思ってるんだこいつは。
 日鞠はだけど、そんな僕の思いなんて何のその……沢山の行事案を頭の中で広げていってるらしい。さっきからブツブツと言ってるもん。


「どうせなら秋には紅葉狩りもしたいかも。地域清掃をして集めた落ち葉で焼き芋大会もいいし……」


 やばいな、無駄に厄介な行事が今年から大量に追加されそうな雰囲気だ。その度に副会長の僕が大変なんだから勘弁して欲しいよ。
 僕はさっさと飯を食べて「ごちそうさま」の後に、止まらないアイディアを書き留めようとしてる日鞠に向かってデコピンを食らわす。


「あて! 何するのよスオウ! 折角映画上映会から、文化的地域の歴史館巡りまでのプランを立ててたのに!」


 なんだそれ? 絶対に不評にしかならねえよ。映画上映会とかはまだしも、地域の歴史館巡りって……高校生が「うおっしゃー!! 歴史館巡り最高おおお!!」とか言うと思ってんのか? だらけるに決まってる。てかその光景が想像できる。そもそもそんなに一杯巡る所あるかって話だし。


「あるよー、みんなが知らない穴場がこの街には一杯だよ。だから絶対に良いと思うんだけどな」


 流石は日鞠。そこであると言い切れるのな。まあこいつの交友関係はあり得ない位に広いから、街の一つ位の事なら知らない事ないのかも。
 でもそれは、学校のみんなの為にも副会長としてここで止めておこう。


「はいはい、まあ歴史館巡りとかは取り合えず置いておけよ。墓参りに行くんだろ。あんまり遅くなったら待ちくたびれてるかもだぞ」
「それをスオウが言う? 遅くなったのはスオウのせいなんだけど」
「まあ、確かにそうだけど……日が高い内にいくよりも、このくらいの方が出やすいかもしれないじゃん」
「出やすいって……」


 ちょっと引いてる日鞠。確かにこの時期にはあんまり洒落には成らないよな。なんてたって帰ってくる時期だし。


「出てきてくれるのなら、言いたいことは少しはあるよね。それはスオウだってそうでしょ?」


 引いてた日鞠が、少し寂しげにそう言う。もう一度会いたいなんて、夢のまた夢なんだけど……日鞠はずっと気にしてるな。
 まあそれは、確かに僕も同じだけど。だけど僕は日鞠ほど熱くはないからね。墓の前で言えば伝わってるって思うことにしてる。


「僕は毎年言ってるさ。忘れないでやってるだけ、ありがたいと思ってくれてるだろう。それで十分じゃん」
「忘れてたじゃん。てか毎年、私が言わないと忘れてるじゃん」


 モグモグと野菜炒めを頬張る頬が膨らんでる日鞠。まあ確かに、そうなんだけど……日鞠が覚えてるから、僕は安心して忘れられるってのがあるんだよね。


「さあて、洗い物でもするかな」


 唐突にそんな事を言いながら、僕は食器を流し台へ。いやさ、こればっかりには反論できないじゃん。完全な僕の甘えだし。だから逃げだよ逃げ。


「洗い物なら、私が後でやるよ」


 首を傾げながら、さも当然の様にそう言う日鞠。だけどそこは断固拒否だね。日鞠はいつだって僕に構いすぎるんだ。


「この位別に良いっての。てか、二人で決めただろ、僕がやれることは自分でやるって。この位の事でもやらないと、全然自立なんか出来ないじゃん。
 それに――」


 僕は流し台の方から日鞠をチラリと見て、こう紡ぐ。


「何?」
「――いや、その格好でいいのかなって思ったわけ。まあ僕は気にしないけど、わざわざ戻ってから、祭りに行く気はないぞって事」


 そう紡いだ僕の言葉に、日鞠は何かを察したのか、残りを頬張って食器をこちら側へ持ってくる。


「準備してくる」
「おう」


 そう言って日鞠はそそくさと自分家へ。まあ用は、何だって女の子の方が準備が大変って事だよ。男なんてたかが五分、多くても十分あれば充分だけど、女の子はそうは行かないだろう。
 日鞠はメイクとかあんまりやるタイプじゃないから、女子の中では早い方だけど……それでも着付けとかって時間がかかる物だろう。
 日鞠に全て任せてるより、こうした方がよっぽど効率的だよ。


 てなわけで、僕は食器をカチャカチャ洗う。なんだか一人で洗い物をやってると、随分空しい感じがするな。一人になると、途端に空気が重く感じるし。
 それこそ、何か出てもおかしくない……なんてバカな事を考えてしまうほどに。




 あれから四十分程して、日鞠は再び僕の家にやってきた。そして僕たちは、今二人で夜の街を並んで歩いてる。てか今日は、祭りってだけあって夜なのに人が結構目立つ。
 それも浴衣の。ついでに綿菓子とか持った人とかも。まあだけど、先に目指す場所はお祭りの会場とは違うんだ。僕たちが目指すのは、墓地……まずは墓参りだからね。


 だけどさっきから妙に、そわそわしてしまう。祭りだからって訳じゃなく……一年のこの時期にだけ見せる、女の子の特別な姿ってのがさ……なんか反則気味なんだ。
 別にすれ違う程度の存在ならどうでもいいし、気になんて成らないんだけど……こうやってよく知ってる筈の奴が、見違えて現れて隣を歩くってのがね。
 いや、毎年の事なんだけど……毎年僕は浮き足立つな。


「ねえスオウどうしたの? さっきからなんだかキョロキョロしててこっち見ようとしないよね? 何、浮気? みんな女の子が浴衣で可愛いからって、目移りしてるって事?」
「そんなんじゃない。別に、そんなんじゃないっての」


 僕はちょっとムキになって否定する。変な誤解されるのはイヤだからな。すると日鞠は「ふ~ん」と僕をいぶかしむ目で見てくる。
 そしてカランコロンと音を立てながら前に行き、振り向き様、こう言った。


「ねぇねぇ、じゃあ私の浴衣姿はどうかな? 毎年見てるからって見飽きたとかは無しだからね」
「見飽き……」


 る訳がないとはいえない。日鞠が振り返った時に、裾や袖がふわりと靡く感じが日本の風情だね。てか、浴衣ってだけで、女の子は三割り増しに見えるよな。


「まあ似合ってるよ。毎年毎年な……てか、毎年買ってんのか? 去年と違う気がするけど」
「えへへ~、お父さんが、私の為に毎年違う柄を用意してくれるんだよ。浴衣も安くない筈なのに、毎年カメラもこの時期には新調してるよ」
「なるほどね」


 どうりで毎年柄が違うと思った。去年は涼しげな緑と青が混じった、シャボンの様な柄だったけど、今年はぐっと大人っぽく成った感じだ。
 高校生に成ったからって事なのかな? まあ基本は涼しげに白なんだけど、柄は多分天の川。それが上から下に斜めに流れてる感じ。そこだけは黒っぽい色で、星の明かりを表現してる様な感じに成ってるんだ。


 それと足下は赤い履き物で、手には同じ柄の小さな巾着。長い黒髪は頭の上で纏められていて、覗くうなじがなんかエロいんだ。その髪を留めてるのも、大きな銀色の蝶みたいでなんか随分、今回は決まってる感じ。
 まあ用は……かなり可愛く成ってる。すれ違う浴衣の方々がどうでも良いくらいには思えるよ。


「てか、相変わらずなんだなお前の親父さんは」
「相変わらずも相変わらず、娘達を溺愛してるよ。まあ最近は妹には冷たくされてるけどね。その反動がこっちにも来てるけど……」
「はは、まあ仲良くていいじゃん。家族ってそう言う物の筈だもんな」


 僕はそう何となく言った。何となく言った筈だけど、隣で歩き出す日鞠は、少し気を使う様にこう言った。


「ねえスオウ。そっちはどうなの? 連絡とかこないの?」


 僕が珍しく家族なんて言葉を使ったから、日鞠は敏感に反応したようだ。だけど別に、僕は本当に何となくいっただけだから、探るような声で言ってきた日鞠に、明るく返してやる。


「ないない。有ったらあったでそっちが驚きだし、いつも通りだよ」
「……そっか」


 そう言って、それから日鞠はその事を追求とか、話題にすることはなかった。まあ付き合い長いし、いつだって日鞠は気を使ってくれる奴だ。
 本当に触れて欲しくない部分にはって意味で。自分の欲望には気を使わないけどね。


 それから僕らは、蒸し暑い夜の道を二人で他愛もない話をしながら歩いた。それはやっぱりいつもの事。こうしてリアルに戻れば、僕にとっての日常が変わらずにちゃんとあるって事に、安心する。




 そして僕たちは墓地へと着いた。やっぱり夜……しかもこの時期となると、なんだか雰囲気が倍増した様な気がするな。なんたって今は、怪談最盛期だからね。テレビを付ければ、どこもかしこも怪談をやってるよ。
 しかも今日は近くで祭りをやってるせいか、その祭り囃子が妙にこの墓地には空しく届く。


「なんだか、やっぱり夜は雰囲気あるよね」
「確かにな、てかこの提灯行列とか、嫌がらせかよと思うんだけど……」


 この時期だからあえてこういう風に提灯を出してるのかも知れないけど……なんかあの世に誘われそうだぞ。


「そ、それは多分、ほら私達の様な参拝客がこの時期には夜も来るから、転ばない様に沢山吊して、足下を明るくしてるのよきっと」
「まあ、そう思うことにするか……」


 余計な想像しても怖いだけだしな。てか、僕たち以外にこんな時間に墓参りなんてな……居るわけがなくない? とか思いながら、僕は取りあえず、常備されてる桶に水を汲む。花は持ってきてるし、掃除の為の箒とかは日鞠が持っていざ出発だ。


 敷き詰められた砂利道を歩く度にジャリジャリ音がする。それがいつの間にか三人分の足音になり……四人分の足音になり……おかしいと僕達は冷や汗垂らしながら歩いてた。
 すると前方にうっすらと灯りが見えた。


「ちょっ! スオウこれって……」
「いやいや、さまよってるだけだろ、目を会わさなければ問題ない。知らない振りを通すんだ」


 コクコクと頷く日鞠。その手が僕の服を摘んでるのがわかる。僕達は、灯りと交差する。その時だった。


「ああ、日鞠ちゃん。やっぱり今年も――」
「「ぎゃああああああああああ!!」」


 僕と日鞠は恐怖の叫びと共にそこを離れようとした。だけど更に声は聞こえてくる。


「どこに行くの二人とも? 私よ! 幽霊じゃない、花歌よ!」


 その言葉で急に止まる日鞠。服を掴んでるから、僕まで止まる羽目に。てか知り合いか? まさか幽霊にまで知り合いがいようとは驚きだ。


「違うよスオウ。あの人は死んでない。ちゃんと生きてるよ。私達の早とちりだよ」
「ああ、そう言うことね」


 僕達は恥ずかしげに隣の墓へと戻る。てか僕達がお参りする隣がその人達のお墓だった。すると日鞠が親しげに話しかける。


「すみません、幽霊と勘違いしちゃって。でも今年はなんだか大人数ですね?」


 そう紡ぐ日鞠に、上品そうな女性(三十代?)が寂しげに墓石を見つめて答えてくれる。


「今年は三回忌なの。だからね。この子が旅立ってもう三年……なんだかあっと言う間だったわ」


 なるほど、だから黒服の怪しい人たちがこんなにも。日鞠はそんな話を聞いて「私達にもお参りさせてくさい」と言った。僕達は手を会わせて祈る。顔も知らない誰かへと。
 墓に刻まれた子は、たった六歳の女の子だった。

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