命改変プログラム

ファーストなサイコロ

この一杯に魂を



「なっ……シルク様……それに――」
「あはは――見つかっちゃった」


 開け放たれた扉と共に倒れ込む様に部屋へ流れ込むシルクちゃん達。あいつ等、一体いつからあそこにいた? セラは、流れ込んだ全員を見つめてそれから、ブルッと震える。
 そんなセラを見て、テッケンさん達も苦笑いを返してる。そしてセラは真っ赤に成って、扉を開けた態勢のまま固まってしまった様だ。


「――あ、あれ? セラちゃん!? セラちゃん!! 大丈夫?」
「あわわわ! セラ様……セラ様が石に成ったっす~~!」


 なんだか一気ににぎやかになったな。ワイワイガヤガヤと騒いでるよ。慌てふためくシルクちゃんとノウイを余所に、苦笑いを漏らしながらテッケンさんはこっちへ。
 鍛冶屋の奴は――――まあなんかダルそうにしてる。


「目が覚めて良かったねスオウ君」
「テッケンさん……いつからあそこに?」


 テッケンさんは爽やかに僕の身を案じてくれる台詞を言った。一瞬その言葉に釣られて、心が浮きかけたけど重要な事を思い出したよ。
 それは聴いておきたい。盗み聴きはね……セラ程じゃないけど、僕だって恥ずかしい。


「ええ~と、それはね……いや、盗み聞きなんてする気は全然全く僕達には無かったんだけど……」


 なんだか珍しく言い訳苦しいテッケンさん。まあテッケンさんが進んでそんな事をするとも思えないのは、僕だって良く分かってるけども……じゃあ何で? 
 僕はしどろもどろになってる言葉の続きを待った。


「シルクちゃんが……僕達を部屋の中に入れてくれなくて」
「シルクちゃんが?」


 なるほどなるほど……僕とセラを二人っきりにしたのもシルクちゃんだし、今回の事は全てシルクちゃんの陰謀か。でもどうしてシルクちゃんがそんなこと?
 僕はセラに色々と声を掛けてるシルクちゃんに視線を向ける。そう言えば、セラの奴とは仲良かったっけ。だからって事なんだろう。
 なんだか僕もセラもどう互いに接したら良いのかわからなくなってたからな……それを案じたんだろう。まあ、さらにどう接すればいいのか、分からなくなったかも知れないけどね。
 だって、何もわだかまり溶けてないし……最後にアイツ何した? それを考えると、妙に額が熱くなる。


「ああ、ごめんスオウ君。盗み聞きしたのは申し訳ない。後でセラ君にもちゃんと謝らないといけないね」


 そう言って丁寧に頭を下げてくれるテッケンさん。この人はこういう所が良いんだよね。素直に頭を下げられる。そんな風にされちゃ、怒れる訳がない。


「はは……まあ、そうですね。僕はまだ良いけど、セラには謝った方が良いかもですね。アイツ固まってるし。あのテッケンさん……それなら最後アイツが何したか見てました?」
「ええ!?」


 なんだか妙に大きな反応を返すテッケンさん。この人はある意味素直すぎるのでは無いだろうか。嘘がつけない性格だ。これは完全に見てるよな。


「いや、最後アイツが何したか、僕は見てないんですよね。だから一応確認を」
「見てない見てない! 僕達は何も見てないよ! あははは、あははは、それにしても随分派手に暴れたね」


 話題逸らしの為にテッケンさんは大きく欠けた穴の方へ向いた。


「それはセラの奴が一方的に聖典をぶっ放したんですよ。それよりテッケンさん、何をそんなに慌ててるんですか?」
「慌ててるって何がだい? 僕は至って冷静だよ」


 そう言って、テッケンさんは額から汗を流しながら、けど涼しげにそう装う。


「テッケンさん、一+一は?」
「十だったかな?」


 動揺しすぎだよこの人!! テッケンさんが何だかおかしい。涼しげな外見とは裏腹に、内面がメッチャ混乱してる。すると僕達の様子を遠目から眺めてた鍛冶屋が、割って入ってきた。


「そのくらいでやめておけ。何をされたか……それを知ってどうなる。お前が何にも気づいてない以上、そんな事に意味はない。文字通りバーーカなんだよ」
「はあ?」


 なんだか鍛冶屋の癖に全てわかってます、みたいな体で言いやがるな。ムカつく。


「気づいてないとか、バーーカとか……なんだよ一体。それはアイツが何も言わないからだろ。こっちは聴いてやる気満々なのに……たく」
「聴いてやる気ね。そう言う所がバカなんだよ。気持ちは強引に聞き出す物じゃない。察する物だ。無粋な奴め」


 やっぱこの鍛冶屋の態度は妙に感に障るな。なんなの一体? 僕が悪いのかよ。察する位わかってるっての。でも、それで全てがわかる筈もないじゃん。
 より相手を知りたいなら、口を使う事をしないでどうするんだ。何を思い、何を考えてるのか……口はそれを伝える為の機関だろ。


「分かったように……」
「少なくとも、お前よりは分かってるぞ。そんなに気になるなら教えてやろうか?」
「鍛冶屋君! そこら辺で止めておいたほうがいい!」


 今度は僕と鍛冶屋の間にテッケンさんが割り込んできた。しかも結構慌ててる。そんなに僕に聴かせちゃまずい事があるのか?
 ちょっとショック……と思ってると、更にもう一人こっちに加わってきた。


「鍛冶屋君、そのお軽い口は裁縫糸で止めた方が良いのかな? かな?」
「シ……シルク?」


 鍛冶屋の後ろには可愛らしいシルクちゃんが笑顔で立ってる。そう笑顔で……なんて物騒な事を言ってるの? あれは本当にシルクちゃんか?
 なんだか怖いんですけど。そしてその感覚は鍛冶屋も共感してた様だ。


「鍛冶屋君、ちょっと向こうで大事なお話をしましょうか?」
「どうか命だけは……」


 切り替えが早い鍛冶屋は、既に床に土下座してた。どうやらそこら辺のプライドは無いようだ。まあ、なんだか異様にシルクちゃんの笑顔が怖かった……ってのもあるだろうけど。


「そ、そんな命だなんて……ちょっとお話をしたいだけだったのにそれはヒドイですよ。もう良いです。でもこのことはもっとデリケートに扱ってくださいね。
 そうでないと、固まった位じゃセラちゃんは済みません」
「了解した……」


 シルクちゃんはいつもの感じに戻って、そう言葉を紡いだけど、依然鍛冶屋は遜ってた。念の為って奴か? いや、僕よりも女の子を理解してるって事なのかも。


「スオウ君」
「うん?」


 シルクちゃんはこっちにトントンと向かってくる。フワリと揺れるロングスカートとかが眩しいぜ。そして目の前に彼女の顔が迫る。


「スオウ君はなるべく今まで通りに接してくれるとありがたいです。きっとセラちゃんはこれから頑張るつもりだと思うから、それに今まで通りの態度で付き合ってください。
 それだけで十分ですから」
「え……まあ、それでいいなら。深く考えるなって事ですか?」


 何だかバカにされてる? のとは違うって分かるけど、理解しなくていいって……それでセラは良いのかな? まあアイツが教えない訳だし、シルクちゃんの言葉は僕にとっても良いことだ。


「深く考えるなと言うよりも、あんまり気にし過ぎにないであげてって事です。できますか?」


 ここで出来ないなんて言えるかよ。なんてたってシルクちゃんのお願いだ。僕はこの子の頼みなら、大抵の事は聞く自信があるね。
 でも、懸念事項もあるけどね。


「シルクちゃんがそう言うなら、やってみます。今まで通りでいいんなら気が楽だし。けど一つだけ。今まで通りの扱いは困るんですけど……」


 そう、僕はそれを改善したいと常々考えてるんだ。だからこその行動でもあった。今まで通りが、理不尽な事までも含まれてるのなら、ちょっと遠慮したくなる。
 けど、僕のそんな懸念にシルクちゃんは反則的な微笑みでこう返した。


「大丈夫です。それはきっと、二人がもっと近づくごとに変わりますよ。きっと」
「はあ……」


 それ以上何も言えない。それくらいシルクちゃんの笑顔にやられた。良いもの見せてもらったぜ。まあそんな訳で、この問題はここで一端の区切りをつけた事になった。




 ――――で、僕達はあの部屋から移動して、一階のリビングへ。ここもセンスの良い高そうな家具やら装飾やらで随分整った感じを受けるリビングだ。だけどやっぱりアルテミナスとは違うな。内装が随分和風っぽい。床が畳じゃない事が残念だけど、それは客室がフローリングだったし、考えてみれば当たり前か。
 気品っていうよりも風情を感じる所も和風なのかな。あのオバサンにしてはなかなかだ。けど……


「ミセス・アンダーソンはいないのか?」


 そう肝心のオバサンの姿が見えない。てか、どうやらここには僕達しかいないようだ。僧兵もいないみたいだし……どうなってるの?
 自分で言うのもなんだけど、僕って結構危険人物じゃん。あんな事したし……


「あの人はお仕事が忙しいらしいです。ここは自由に使って良いとの事ですよ。と、言うか元々はここに私達を招待するつもりだったみたいです」


 そう言ってシルクちゃんがリビングと隣接してるキッチンを指し示す。まあ言うなればここはリビング・ダイニング・キッチンが一緒くたにされた様な感じなんだろう。LDKだな。
 部屋の奥の方のキッチンスペースには、豪華な料理が盛りつけられて、カウンターみたいな所に並べられてる。


「確かにそうっぽいね。って事は、アイツが言ったことは本当か」
「言ったこと?」
「ああ、あのオバサンはこの行動には反対だって言ってたよ。敵は作らないに越したことはないってね」


 まあそれには僕も同感だけどね。でも、それをしなきゃいけなくなった。こんなに用意した料理を無駄にしてまで……それは多分、あの元老院の爺が怪しい。
 アイツが来ることはミセス・アンダーソンも知らなかったみたいだし、そのせいで予定が狂った感じだった。


「確かに、あの方があんな強引なやり方をするとは思わなかったからね。元老院の意向なのだろう。向こうの方が立場は上だ」
「立場だけで動く人にも思えなかったけど……」


 僕はテッケンさんの言葉にそう続けた。だって先の強制イベント時、ミセス・アンダーソンはそんな上の立場の奴らと対等以上に接してた。
 あの人が、立場と関係性だけで納得出来ない事をやるとは、なかなか思えない。


「だから、納得はしてるんすよ。聖院の誰もがあの子を、外に出してはいけないってのは総意って事なんじゃないっすか?」


 珍しく的を射た事を言うノウイ。まあそうとしか考えられないよな。やり方は気に食わないけど、それだけは同じ考えって事なんだろう。


「創世歴……」


 僕はぽつりと呟いた。それはミセス・アンダーソンが教えてくれたキーワードの一つ。創世歴が覆る……そんな事を確か言ってた。


「なんだいそれは?」


 僕の呟いた声を聞き取ってたらしいテッケンさん。僕はミセス・アンダーソンが言ったことをみんなにも伝えてみた。


「クリエちゃんの存在が、この世界の作られ方を覆すって事ですか? それは……にわかには信じれない事ですね」


 まず最初にそう言ったのはシルクちゃん。シルクちゃんは博識だから、理解が早いよね。ノウイなんかは


「どういう事っすかそれ?」


 てな感じの事しか言わないもん。まあ実際、僕も同レベルなのが問題だけど。だって僕はLROの歴史なんか微塵も知らない。
 まあ、リアルの方では相当話題にもなったしで、結構な人がその存在を知ってる有名ゲームだけど……そう言う事じゃないもんな。
 この場合の創世歴は、当夜さんがプログラミングを打ち込んで行った歴史じゃない。この世界が実際に刻んで来たとされる歴史だ。
 まあ、いうなればそう言う設定のこと。大まかな事はOPでも説明されてた筈だけど、創世の事とかまでは何にも言ってなかったもん。
 僕のLROの歴史の知識はOP止まりだよ。だからここら編で補完するのも良いのかも。みんな詳しそうだしね。


「えっと……実際僕は創世歴がどんなのか知らないんだよね。さっき本でちょっと読んだ所によると、光明の女神のシスカがテトラをぶっ殺してこの世界が始まったってあったけど……」
「ぶっ殺したって、随分品の無い言い方だな」
「うるせえ」


 鍛冶屋に品とか言われたくない。シルクちゃんにならまだしも、武器にしか興味ない奴の癖に。鍛冶屋の奴は相変わらず自身の武器の手入れに熱中してるもん。
 だけどそれでも、片手間で語れる程度の知識はあるようだ。


「まあ確かに俺も大概だが、お前はミッション一つもやってないんだろう。そんな奴よりは知ってるさ。お前が言ったのは創世歴と言うよりも、それはその後だ。
 創世歴ってのは、基本二人の神の争い部分だからな。この世界を創世するための戦い。その部分が創世歴だ」
「ふ~ん、二人の神の争いね……」


 僕は鍛冶屋の言葉を考えながら、リビングのソファに腰を下ろした。いつまでも立ち話も何だしね。


「ん?」


 腰を下ろすと同時に、何故か運ばれてきた紅茶。てか、それを運んできたのがセラだってのが驚きだ。ええ? どう言うこと?


「なんて顔してるのよ。私はメイド、こう言うのは私の役目なの」


 そう言うセラは、手際よく全員へお茶を行き渡らせる。その手慣れ方は、確かにメイドだった。セラの始めてみるメイドらしい姿だ。
 さんざん疑ってたけど、ちゃんとメイドらしい事出来るんだな。だけど……僕は高級そうなカップに注がれた紅茶をジッと見つめる。


「毒とか入ってないよな?」


 その瞬間、僕の頭には熱湯が注がれてた。


「ああああああっっつーーーーーーーー!!!」


 床を転げ回る事になった僕。いや、洒落じゃなくマジで熱い。かなり効くぞこれ。


「ああ、ごめんっすスオウ君」
「わざとだろこれは!! てか、何しやがるノウイ!!」


 何でお前が僕に熱湯を注ぐんだよ。セラならやりそうだったけども、ノウイじゃ予想外過ぎた。ノウイの奴、さっきからセラの下部みたいに付き従ってるから、紅茶に注ぐ熱湯の換えを持っていたらしい。
 それを僕にぶっかけたって訳だ。なんて奴……リアルだったら大火傷で大惨事だ。救急車呼ぶレベルだよこれは。


「だから事故っすよ」


 まだ言うかこの胡麻みたいな目をした奴は。いっその事、目を無くしてやろうかと本気で思った。だけどそれを実行する前に、またも予想外の声が、怒気をはらんで割り込んできた。


「ノウイ!」
「は、はいっすセラ様! ……ええと、これはあくまでも事故……」


 必死に事故をアピールするように身振り手振りを交えて、状況を再現するノウイ。だけどそこへ反対側へ居たセラはズカズカと進んでいく。
 もしかしたらセラはこういう仕事――というか役割みたいな部分には厳しい奴なのかもしれない。メイドの仕事を完璧にやる誇りがあるとか。常時メイド服なのはその現れとかね。
 だからいくら僕の失礼な言葉が原因だとしても、セラにとっては自分の完璧なメイド業を邪魔したってな風に……


「温度は?」
「「え?」」


 セラの意味不明な言葉に、僕とノウイの声が重なった。するとノウイの目の前に迫ってるセラはもう一度、ギラっとノウイを睨みつけて言葉を紡いだ。


「お湯の温度は何度だったのって聞いてるの」
「ええっと、沸騰した直後っすから、百度位っすかね?」


 それは人に注いじゃいけない温度だ!! はあ? 百度? アホじゃないのこの目が点エルフ。流石のセラもこれは怒るんじゃないか?


【死なないように虐めなさいよ】


 位言いそうじゃん。なんだか悲しいけど。


「適温ね。ならいいわ」
「よくねぇよ!! 何が適温だ!? 人体には悪影響しかねえよ!!」


 じっさい僕の体は今かなり赤いし熱い。だけど僕のそんな訴えに、セラはケロリとしてこう言った。


「紅茶に注ぐお湯の適温は、大体百度位なのよ。できの悪い部下でも、たまには褒めないと伸びないでしょう?」
「えへへ、よっし!」


 何嬉しそうにはにかんでるのノウイの奴? そうじゃない……そうじゃないだろ。論点がおかしくないか? 僕の見てるものと、セラが見てた物はなんか違うぞ。


「紅茶の適温なんてどうでもいい! 百度の熱湯をぶっかけられたんだぞ僕は!」


 そう、僕が訴えたいのはこれだよ。この事実だけ。だけど何かが不味かった。どうやらセラの許せない部分を僕は刺激した……らしい。


「どうでもいい? 私にとってはそんな出来事事態どうでもいいわよ。寧ろおいしい紅茶を入れる為に沸かされたお湯に謝って欲しいくらい。
 何あんた? 何の権利があって熱湯が茶葉と混ざりあう瞬間を邪魔してるわけ? 最高のタイミングってのがあるのよわかる!?
 わかるわけ無いわよね? どうでも良いだものねあんたは!」 


 えええええ? 何で僕が責められてるの? どうやらセラは、紅茶に並々ならぬこだわりがあるようだ。そんな紅茶を僕が貶した物だから、なんか切れてる。
 まあだけど、今の所手が出ないのはちょっとした進歩なのか……けどなんか熱く紅茶を語るセラは、別の意味で怖いんだけど。


「ちょっと飲んでみなさいよ」


 そう言ってセラはテーブルに置かれたままの紅茶を指さす。だけど直ぐに気付いた様にこう言った。


「ああそっか、毒が入ってるんだっけ? それは残念、折角最高の茶葉最高の水、そして最高のタイミングでこだわり抜いた一杯なのに……まあそれが、スオウにとっては確かに毒かもね」


 はあ――――と、深いため息をついて哀れんだ様な目を向けて来るセラ。なんかスッゲーバカにされてる気がする。やっぱり僕たちの関係は何も変わってなくない?
 てか、良くそこまでいえるな……これはどうにかして貶してやりたい。


「フッ……言ったなセラ。美味しすぎるとでも言いたげだけど、たかが紅茶にどれだけ心血注いでるんだっての。そんなに美味いんなら、これで死んでも本望だな」


 僕はそう言って、ティーカップに手を伸ばす。そして一口……するとそこには衝撃が!


「な……なんだこれは!? 口の中に広がるアールグレイの香り。それがまるで味覚の上で暴れてるかのような鮮明さだ。
 そして決して口の中では熱すぎない温度で、口全体を刺激し、喉を鳴らすただ一つの瞬間が流れるように過ぎていく。止めようとしても止められない……それほどに滑らかに、そして優し通って行きやがる!!」


 補足すると、更に喉の潤いと共に心の潤いまで感じるぜ。なんだこれは? これが紅茶か? なんだか体力どころか、気力や魔法力、全てが全快したかのような……これじゃまるで、伝説の回復アイテム【エリ○サー】の様じゃないか。
 僕の言葉に釣られてテッケンさん達も紅茶を口にする。すると


「「「ぱはぁーーーーーーーーーー」」」


 と幸せそうな顔になってた。特にシルクちゃんがやばい。トリップしてる。それほどまでにこの紅茶は強力だ。驚愕する僕を見て、セラは嬉しそうにこう言った。


「これが紅茶の力よ!!」


 紅茶の力ね……なんか混じっちゃいけない力が混入してる気がしてならない。だけどまあ……確かに美味いことを否定は出来ないな。
 これ飲んでると、熱湯を注がれた程度の事で怒るのもバカらしくなる。不本意だけどまあ、これはしょうがない。


「美味いな……たかがとか、どうでもは取り消してやる」
「うん!」


 セラの笑顔がその時弾けた。なんだか初めて褒められた新参メイドみたいで……それが異様に可愛く見えたのは、この際この紅茶のせいだとしておこう。








 だけど最後にこの至福の一時にポツリと冷静に鍛冶屋が言った。


「だが、紅茶か……外の景色は和風なのに紅茶……緑茶という選択肢は無かったのだろうか……少し侘びしいな。ああ、これがワビサビか……」


 実はアホだなこいつ。お茶をすする音がそれこそ侘しく響いたよ。

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