命改変プログラム

ファーストなサイコロ

女心と虹の空



 高くなった日差しが差し込む部屋。手に持つ古びた本を読むフリをしながら僕はこの気不味い時間をやり過ごしてた。
 僕が座ってるベットの横には、今はセラしかいないんだ。あの飛空挺での会話から、ここまでよく考えたらまともに話してなかった。
 だからここに来て、いきなり二人っきりはとても気まずい。いや、僕はそうでもないんだけど……なんかセラが借りてきた猫みたいに、さっきから成ってるからなんだか変な空気が流れてるんだ。
 いつものきつい表情じゃないし、僕を睨む目にもいつもの力がない。なんだか目が合いそうに成ると、逆に涙目に成りそうな程だし。だからさっきから、もの凄く不自然に顔を背けて床を一点に見てる。
 なんだか悟りでも開きそうな集中力。う~ん、調子が狂っていけない。なんだかこうやってみると……まるでセラが女の子の様な……さ、感じがするじゃん。
 いや、女の子であることは分かってるけど……


「「…………」」


 部屋に静けさと言う沈黙がいつまでも流れてた。なんだか一秒が十秒位には感じる。時計の音に、無意識に意識を集中しちゃう。


【ああ――――そうだ! 私はスオウ君が目を覚ました事をみんなに伝えてきますね】


 そんな事言って、突然出ていったシルクちゃん。もう五分位経つし、遅くない? みんなを連れてきて、この状況の打破を僕は願ってる。
 けど一向に現れないな。この家がどれだけ広いか僕は分からないけどさ、五分もあれば普通大抵は端から端まで行けるだろ。


「……あの……さ」
「ふっ――――ヒャイ!?」


 フヒャイ? マジでなんかおかしいぞセラの奴。まあだけど、先に声を出した僕も、別に何かを言おうと思ってた訳じゃないから、次の言葉が出てこない。
 時計の秒針がそのまま一周しても言葉が出ない。窓から見える空は、雲の代わりに虹が移り変わってた。でも、その間ずっとセラの視線が刺さる。
 セラは、次の言葉をずっと待っててくれてる様だ。そんなセラに、僕さらに「おかしい!!」と思うわけだけどね。
 だって待っとくなんて殊勝な事をこいつがするわけなくない? それが今までの理不尽な扱いで確固とした僕の印象なんだけど……罠か? これは罠だろ? 


 だけど脳裏には、あの飛空挺での「そんなに嫌いじゃない」って言葉が思い出される。あれが意外と僕は嬉しかったらしい。
 なんだかそれなら……位には思えるもん。まあ取りあえず、気まず過ぎて空気を吸って吐くのもきついから、何かを紡いだ方が良さそうだ。
 なんだっていいんだよな、いつものケンカなら何も考えずに出来るんだけど……会話って難しい。


「ええ~と、そうだ! 箱庭の場所って結局どこだったんだ? 聖典を飛ばしとくなんてやるじゃんセラ」
「そそそそんなの当たり前じゃない。アンタはどうせ突っ走るだけだろうし……でもそれだけじゃ上手く行かない事があるって私は知ってるわ。
 それに私は、常に保険を掛ける様にしてるってだけ……アンタの行動はいちいち派手なのよ」


 なんだかものすっごくモジモジしながら言葉を紡いでいくセラ。誰だこいつ!! って僕は思ったね。まあだけどちゃんと毒は放ってるな。弱々しいけど。
 でもそれが、唯一この目の前のエルフをセラだと思える要因だ。けど……


「でも……それが周りの目を引きつけてくれたから……ってのもあるから……良くやったとも……」


 ゴニョゴニョと蚊の鳴くような声で呟くセラ。でもそれを聞いた瞬間に僕はある可能性に気づいてしまった。


「どうしたんだセラ? いや……誰だお前!?」


 ここに入るのはセラじゃない!! 僕の直感がそう告げてる。LROには魔法がある。変身魔法だって当然あるだろう。それを使って誰かがセラになりすましてる? ――――そうとしか思えない!!
 だって……今なんて言ったよこいつ……「よくやった」……あり得ないだろ。その言葉をここまで恐ろしく使えるのはある意味セラだけだろうけど、やっぱあり得ないよ!!


 セラが礼を言うなんて事が絶対に無いとは言わないさ。だけどな、その下準備にはまず、心を抉る様な暴言の嵐と命を削るコミュニケーションが最低五回は必要だろ! だから、今この状況で「よくやった」なんて言うセラは、セラじゃない。うん、間違いない。


「えっと……何それ?」


 僕の突然の言葉に、目を丸くして付いてこれてないかの様な態度を取る偽物。浅ましい奴……まあセラに化ける時点で間違いだけどな。
 何が目的かなんて知らないけど、今更そんな白々しい芝居が通用するとでも?


「ふふふ、はははははは!」
「や、やっぱりもう少し寝てた方が良いんじゃない? ちょっとおかしいわよ」


 これは自分の冴えた頭に、笑いが堪えきれなかっただけだ。偽物の癖して一丁前に心配とは徹底してるじゃないか。
 だけどそれが間違いだ。セラはこんな時


「とうとう頭までぶっ壊れた訳? それじゃ救いようがないわよ。私を不快にしないうちに消えてよ。
 いいえ、消してあげよっか?」


 位言うっての。そしてそんな時こそ、本当に楽しそうにしてるんだ。それがセラなんだ! 偽物は僕に向かって手を伸ばしてくる。僕は持ってた本を置いて、その手を強引に取った。


「きゃ!!」
「おかしいのはお前だ。本当のセラは、そんなに僕に甲斐甲斐しくないし、そんなにモジモジしてない。確かに果てしなく理不尽で訳分からなくてムカつくけど、いつだって自分に自信を漲らせてる。
 そういうところだけは、かっこいいんだよ!!」


 僕は息が混ざりあう様な至近距離で、偽物に宣言してやった。まあ、格好良いってのは女子に対する評価として適切じゃないだろうけど、でもそこら辺は評価してるんだ。
 アイツは暴言吐ける位に強いんだ。それだけの力ってものを持ってる。まあだからって、それをひけらかしもしないしな。プライドがきっと高いんだろう。


 それが暴言の元かも知れないけど、無くして欲しく無いところでもある。暴言理不尽意外ね。偽物は僕の言葉を聞いて戸惑ってる。もう一押しで、正体を表しそうだ。


「だからお前はセラじゃない! どこのどいつだ!? 僕の仲間は返して貰う!」
「あ……う……」


 言葉が詰まった様なうめき声を出す偽物。ここまで……そう観念してくれたら良いんだけど――――って待てよ……ここで僕は更に大変な事実に気づいたかも知れない。
 この目の前のセラが偽物って事は、あのシルクちゃんは本物だろうか? ピクは? 一体どうなんだ? 出て行ってから一向に戻ってこない所とか怪しくないか? 


 いやそもそも、この今見てる全てはどうだろう? 魔法で見せられてる幻影とか? それだと全て説明が付くぞ。そもそも、あれだけの事をして普通にこんなベットで寝てる方がおかしいし……僕は苦い顔をしてこう言った。


「そうか……そう言う事か……これは全部幻影。ミセス・アンダーソンかなんかの卑劣な幻か。大方、僕がクリエから聞いた【願い事】でも知ろうとしてんだろ?
 そう考えると、このあり得ない状況もおかしなセラも、帰ってこないシルクちゃんも説明付く」
「スオウ! それは違う! 私は本物よ!」
「ありえん!!」


 偽物の言葉を一喝して、僕はベットを挟んで反対側に、降りる。同時に傍らにあったセラ・シルフィングを手に取った。そして鞘から刀身を抜いて、覚悟を決める。こういう幻覚って、自信を痛めつけると解けるって言うからな。


「僕は僕の仲間の元へ戻る!!」


 セラ・シルフィングの切っ先を自信の太股へと向ける。だけどその時だった。僕が一喝して、それから俯いてた偽物が、突如口を開いたのは。


「そんなに……そんなに行きたいんなら、私が手伝ってあげる!!」


 向けられる二本の指。そして偽物の周りには聖典が展開してた。あれ? これは見たことある光景だ。デジャヴ? って思ってる間にそれは発射されてた。迫る桜色の光。それが僕を包み込む。


「へ? ――――うおおおおおおああああああああ!!」


 建物をぶち抜いて、綺麗な光が朝の空に舞った瞬間だ。だけど僕はその光の中でこう思ってた。


(こ、これぞまさにセラって感じ……)


 てね。




 光が収まって、この部屋に大きな穴が空いた中、僕は黒こげで床に転がってた。それはなんだか昔のマンガにでも描かれてそうな光景だ。
 でもね、やられた方は実際たまったものじゃないよ。壊せない筈の町中のオブジェクトを破壊するって……一体どれだけの威力込めて撃ったんだよこいつ。


「どう? これがアンタの望む私なんでしょう」


 人を黒こげにしたくせに偉く不遜な態度のままのセラ。いや……もうセラだよこいつ。間違いない。こんな奴、二人もいたら身が持たないもん。
 でもそれじゃ、ええ~一体どういう事? って感じだ。


「なにがなんだか……さっぱりなんだけど?」
「あ……アンタが勝手に変な妄想を全力で信じるから、本物だって分からせてあげたの。これがアンタにとっての私、らしいから」
「あ……そっすか」


 確かにまあ、あれは僕の勝手な被害妄想だったとは認めよう。けどさ、その原因はこいつだよ。そこら辺は言っておきたい。


「けど……お前があんな紛らわしい態度とるから……ついてっきり」
「……んなに……あり得……ての? ……かしい……?」
「ああ? 何だって?」


 言葉が途中で途切れ途切れになってるぞ。それじゃあなんて言ってるのかわからん。怒ってたと思ってたら、いつの間にかセラは、僕の目の前に立ってる。そして顔を見せない様にしながら、必死に言葉を紡いでる感じ。


「だから……そんなにあり得ないの? 私があんなんだったらおかしい?」


 俯いたまま、なんだか拳を握りしめてるセラ。それに声も微妙にふるえてる? なんだか黒こげなんだけど、ギャグっぽくは成れない感じ。僕は大穴から、晴天の青空と、そこに架かる七色の虹を見ながら、思った事を言った。


「ああ、あれはスッゲーおかしい」
「ぐふっ……あああ、あれは――――」


 一瞬何かが刺さった様によろめくセラ。だけど言葉を紡がせないまま僕は続けるよ。


「けどさ、まあいいんじゃね? あのままなら、こんな事に成ることは無いわけだし」
「でも……おかしいんでしょ?」


 なんだかジト目で僕を睨むセラ。やっぱ身の安全だけで否定したことを肯定する事はできないか?


「ねえ……アンタ……ス、スオウはやややっぱり私のこと……」
「お前の事?」


 なんだ? セラの事がなんだと続く? 僕は頭に疑問符を浮かべながら、言葉の終わりを待つんだけど、セラはそれからを紡げないでいる様な感じだった。
 メイド服のスカートを、皺に成りそうな程握りしめてるセラ。なんだろうか? なんだか今日のセラは、今までと違う。言葉に詰まって、何かから逃げ出しそうな自分を必死に押さえつけてる様な……そんな風に見えるぞ。


「なにに、怯えてるんだよ。セラともあろうお前が?」


 僕のそんな言葉に、セラは更に力を入れた様に見えた。そして眉根が更に下がる。なんだか外の方からザワザワ聞こえるのは、家がブッ壊れてるからだよね。そもそも、ミセス・アンダーソンがこの状況で部屋に来ないのがおかしい。
 スッゲェ風通し良く成ってるんだけど……


「怖いわよ。私だって普通の人間なのよ。怖いこと……幾らだってある。本当の私は、臆病で人見知りで……だからここでは、そんな自分と違う自分を必死に……そうでありたい自分を頑張って……でもスオウは……アンタには……」


 何かが感極まって来たのか、セラの瞳からはポロポロと宝石の様な滴が落ち始めてた。真っ赤に染まった頬を通り過ぎていく透明な涙は、大穴から降り注ぐ太陽の光を受けてキラキラしてた。
 泣いてる奴に、こんな事思うのはダメで失礼なのかも知れない。でも僕は、そんなセラを見て初めて――――と言うかようやく? なんだかかわいいと思える事が出来た気がした。


 まあ……心の底からって意味で。でも、なんで涙まで流してるのかは全く謎だ。けど、何か言わないとその宝石は無くなって行くだけに成りそうだ。
 もったいない……そう思える程に綺麗だから、ここで使ってしまうのもなんだかだろ。けど、何を紡げばセラの心に届くのだろう。
 ケンカばっかりだったからいまいちこれと言った言葉が見つからない。


「あっ」


 その時、僕の脳裏にはずっと考えてた言葉が浮かんだよ。そうだそうだ、良いのがある。たく、黒こげにされながらもホント良くやるよって、我ながら思う。
 でもなんだか今のセラは放っておけない。いつもは何十ものブロックで堅固に覆い隠してた部分……それが剥き出しの状態の様な気がして、このままじゃ壊れてしまいそうな……そんな危うい気がするから。


「セラ」


 僕は前を向いて立ち上がる。セラは既に僕の言葉に何かを返す事も出来ない状態に成ってる。溢れだしてくる涙が、それをさせない状態だ。
 僕はそんなセラに一歩、二歩と近づいていく。そしてセラはすぐそこに、手を伸ばせば伸ばしきる前に届く距離。そこで僕はこう言った。おふざけなんかじゃない。真剣にだ。


「セラ、僕はお前が大嫌いだよ」


 その瞬間、扉の方からガゴって音が聞こえた気がしたけど、それはこの際置いとく。セラがその言葉を聞いて、僕を無言で見つめてくるから、ほかの事なんて考えてられない。
 溢れ出す涙は更に多くなった様に見える。確かにそうだろう……それだけの事言った。結構……キツいんだこれ。僕は知ってるよ。


「お前は僕にだけ暴力的だし、僕にだけやたら楽しそうに酷いこと平気で言うしで、実際迷惑極まり無い奴だ」


 僕のその言葉に、セラはたまらず俯いた。一瞬睨んだ様に見えたけど、結局力無く俯くことしか出来ない様子だ。震える肩はだんだん大きく激しく成って行ってる様に見えた。
 何かが決壊しそうな感じ……だけどその前に、まだ聞いてほしい事がある。まだ僕は言い終わってない。だってここで終わったら、泣いてる女の子を虐める最低野郎で終わりだ。
 僕は別に、最低な事をしたいわけじゃないんだよ。


「けどさ――――」


 僕は紡ぎ出す言葉と共に腕を伸ばす。すぐそこにはセラの顔。僕はセラの宝石の様な涙を一端せき止めてやる。そして、その行為に驚いて顔を上げたセラを真っ直ぐに見つめてこう言う。


「――――本当はそんなに嫌いじゃない。嫌いじゃないんだ。だからこういうセラも、良いと思う。おかしいとか言ったけどさ、意外だったってだけだからな。
 お前が頑張ってるってのは見てたら分かるし、真剣なのも……頼りにもやっぱ成るし、そこは否定できない。だからそこら辺は、そんなに嫌いじゃない。いやまあ、正しく言うと、そんなお前だから、嫌いに成りきれないんだよ」


 ホント、僕が死ぬ前に扱いを改善してくれたら良いんだけどね。でもしょうがない、僕はこんな奴でセラの今言った部分は、本当に気に入ってる部分だしな。
 嘘なんて今回は一つもない。


「それって……それは……」
「おう、お前が僕に言ったよな」


 大嫌い、でもそんなに嫌いじゃない……これはセラに飛空挺で言われた事だ。ずっと考えても答えはでないけどさ、今にはピッタリかなって思ったんだ。


「……カ」


 すると目の前のセラの口から、何かがようやく漏れてきた。でも上手く聞き取れない。僕は「ん?」と呟き、声に耳を傾けようとした――――まさにその時だった。
 おもむろに右斜め上方へと伸びるセラの腕。そしてバッチーーーーーン!! と脳まで響く音と衝撃が轟いた。


「バカ!! アンタっは、大バカよ!! 勝手に人の言葉引用すんな! どんな意味かも分かってない癖に!! バカバカバカバカバカバカバカアアアア!!」


 更に振りかぶられるもう片方の腕。だけど僕はそれを受け止める。てか、今のはかなり効いたぞ。心とかに刺さったよ。
 こっちは必死に模索して探し出した解答だっての。これは完全否定なのか? 


「てかな……バカバカうるさいんだよこのバカ!! どんな意味があったんだよ! お前が何も言わないから、分からないんだろ!? 
 僕だってな、必死に考えたんだ! イチイチ暴力に走るな!」
「うるさいうるさいうるさい!! これは暴力じゃないわよ! 乙女の正当な権利を主張するわ! 大嫌いなんて大嫌いなんて……フリでも聴きたく無かったわよ! 
 何にも分かってない……何にも……なんにも!!」


 ああもう、ペシペシペシペシ残った方の手でうざったい。僕は掴んだセラの手を引いて近距離まで引き寄せる。その距離、鼻先が触れそうな程だ。


「だから何なんだ! 何にも言わないから何にも伝わらないんだよ! 僕はテレパシーなんか受信できないぞ。言いたいことがあるなら口で言え。伝えたい事は口使え! 
 聴いてやるから。ちゃんと!」


 抱き寄せてる様な態勢になってる僕達。一歩間違えばキスでもしちゃいそうな距離。だけどそんな事、今はどうでも良かった。僕はセラとのしこりをここで取り払う気満々だ。
 そう、僕は満々なんだけど……


「――わない」
「あ?」
「――アンタの指図でなんて言いたくない!! これは違うんだから……そんな簡単に口に出して良いものじゃないのよ! だから今は絶対に言わない。
 アンタがさっきの言葉の重さをちっとも理解してない今なんて言えるわけ無い!」


 いつの間にか涙が止まって、キツく睨んでそう言うセラは、なんだかいつものセラっぽかった。でも僕も、今日ばかりは引かないぞ。
 ここが正念場だ。今日のセラはいつもと違う事は分かってるんだから押し通す!


「理解出来ないから言えって言ってんだろ! 頭おかしいのかオイ?」
「そっちこそ、何が詰まってんのよその頭? ちょっとは私の為にも要領使いなさいよ。どうせ幼なじみの事とかセツリの事ばっかり何でしょう?
 ああ、今はクリエもだっけ? 随分お盛んじゃない」


 なんだかどんどんどんどん険悪なムードに成っていく僕とセラ。こいつさっきまで涙流してたのが嘘の様だ。実は嘘泣きだったのでは? と疑いたくなる。


「お盛んとは随分だなオイ。んな状況かよ。お前は目まで曇ってるんじゃないのか?」
「確かに曇ってるかもね……私だってそう思う……そう思いたいわよ!!」


 セラは一瞬弱く成った――――フリをして僕の油断を誘い、そこから強烈な体当たりをかましてきた。そして僕の上に跨りマウントポジションを確保しやがった。
 フルボッコにされる――――と思ったらセラは何故か攻撃してこない。僕の腹の上に腰を下ろしたまま、手を振りあげて、そして僕の上でこう言った。


「訂正する。アンタの事は大大大大大大大大嫌い」
「あっそ」


 随分嫌われたもんだ。こっちは関係改善を目指してた筈だけど……失敗だなこりゃ。するとまだ続きがあった。


「でも……時々それほどもでもないかも」
「はあ?」
「良いから歯を食いしばりなさい!!」


 そう言ってセラは掲げた手を振りおろす。僕は思わず目を閉じた。だけど手の衝撃はこない。代わりに鼻孔を擽る様な香りと、額に触れる柔らかな感触があった。


「ふえ? なんだ……おい!?」


 一体なにされた? 目を開けると既にセラは立ち上がって、ドアの方へ歩いてた。でも僕の声で立ち止まり、振り返ってこれだけ言った。


「バーーカ、絶対に教えない」


 訳分からん。何なんだよ一体? 額に残る感覚が何となく熱を残す様な……まさかだけど、頬が僅かに赤くなる。ガチャッと開け放たれた扉――――するとそこからシルクちゃん達が流れ込む。その光景に、セラは石の様に固まってた。
 顔を赤面させて……ね。

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