命改変プログラム
十字架は二つの意味を持つ
「どけえええええええええ!!」
そんな声がサン・ジェルクの穏やかな街に響きわたる。弾けた雷撃に僧兵だけじゃなく、周囲の人々もざわめいた。
「スオウ君、駄目だ!!」
そんなテッケンさんの声は喧噪の中、聞こえてた。だけどもう止まれない。僕は僧兵達を越えて、風の如く駆け出してた。
(ごめんテッケンさん)
心の中で自分の愚かな行動を懺悔しつつも、だけど視線は前へ。自分を求める声を聞き逃さないように、僕は全力で走り続ける。初めての街を走って走って……その時だ。
「止まりなさい!!」
そんな声と共に、僕の前に立ちふさがったのはミセス・アンダーソン。僕は急停止して、その小さな体を睨みつける。
だけど、おばさんは動揺なんかしない。寧ろこうなることが分かってたかの様に、頭を抱えてため息一つ吐く始末。
「本当に……全く、何故に追いかけてきますかね? まあ貴方ならそうするであろうから、私がここで待ってた訳ですけど……余りにも予想通り過ぎて呆れちゃいます」
「うるさい。僕だってこんな強引に別れさせられなきゃ、こんな事するつもりなんて無かった」
僕はミセス・アンダーソンにジリジリと詰め寄りながら、そう言葉を紡ぐ。それは本心だ。こんな強引な別れじゃなく、クリエは駄々こねるだろうけど、それでも普通に「またな」って言って別れられたのなら、こんな事しなかった。
それを無くしたのはおまえ達だ。
「でしょうね。私もこれには反対でした。無闇に敵は作る物では有りませんし、言葉だけで済むならそれに越したことはないですから」
「じゃあ、何で!? どうしてアイツを、そこまでして隔離させたい!!」
僕の言葉に、ミセス・アンダーソンは自身が首に下げる十字架のペンダントを引き抜いてこう言った。
「それは答えかねるわ。一冒険者程度ではね……言ったわよね? これ以上関わるなと。諦めて引いてくれないかしら?
貴方のその行為は、あの子を見守り続けて来た立場としては嬉しいけど、私の立場としては認めれないわ」
引き抜いた十字架が光を放つ。するとミセス・アンダーソンと変わらぬ大きさに成っていた。あれが、このおばさんの武器みたいだ。
十字架で戦うなんて罰当たりっぽくないか? いやでも、リアルでも十字架は処刑の道具だったっけ?
にらみ合う僕とミセス・アンダーソン。既に引くなんて選択肢は僕にはない。だけどこれだけは聞いといてやる。
「嬉しいか……そう思うのなら、もっとアイツを見てやれよ。信じてやれよ! 事情なんて何も知らないけど、それはお前等の勝手な都合だろ!!
アイツは子供だ。陽気そうに見えて寂しがり屋だ。だけどそれでも諦めない奴だ。こんな事に意味なんて無い。アイツはお前等が思ってるよりも強い! ずっとな!!」
「……そうかもですね。だけど子供です」
「だからアイツだけじゃ出来ない事を手伝ってやるって約束したんだ!!」
その瞬間、床を力一杯蹴る。その衝撃が床から水面に伝ったのか、水が隙間から弾けあがる。吹き上がった水滴の粒……それが落ちる前に僕はミセス・アンダーソンの前に迫る。
そして容赦なくその剣を振り抜いた。けど手応えが無い。
「手伝うとは何をでしょう? 気になります」
そんな声と僕へ向かって正面から十字架が降ってくる。僕はそれを打ち落として、前を見据えた。するともっと後ろの方でミセス・アンダーソンはケロリとしてる。
そしてどういう訳か、どんどん十字架が投げつけられるじゃないか。一つじゃなかったか? 全部を相手にしてたらキリがない。
僕はある程度を打ち落としながら、前へと進む。
「この程度で!!」
今度は雷撃を纏わせた一撃を放つ。青い光と強烈な音がその場に響く。だけどまた、手応えがない。これじゃあまるでさっきまで見てたのはホログラムの様な……
「こっちですよ」
その言葉と共に、こんどは後ろから十字架が迫ってきた。僕はとっさに横へと転がる。そしてさっきまで居た場所に刺さる刺さる。こっちの攻撃じゃぶっ壊す事は出来ないけど、NPCはそうじゃないみたいだな。
まあでも、そんな事よりも問題なのは……
「魔法か」
「ええ、その通りです。なにせ私達モブリは魔法を得意とする種族。人やエルフのような拳や剣を振り回す蛮族とは違うのですよ」
そう言うミセス・アンダーソンは次々と十字架を出現させては、僕へ向かって投げつけて来る。これだって十分野蛮だと思うのは僕だけか?
魔法なら炎出すとか水を出すとか出来るのに、ある意味物理攻撃じゃんこれ。そんな文句を考えて間に、床は穴だらけ。
「――って、待てよ。僕はこの先に行きたかったはずだ」
その事実に気付いた。ミセス・アンダーソンはこの道をわざわざ開いてくれてるじゃん。今はこのおばさんと交戦してる場合じゃない。
僕の目的はクリエの救出だ。なら、この十字架の雨を抜けてオバサンに迫る必要なんて無い。僕の目指すべき道は反対方向なんだから。
僕はミセス・アンダーソンに背中を向ける。そして一目散に走り出した。
「ええ――それやっちゃいますか?」
「うるさい! アンタの相手なんかしてられる――っつ!?」
言葉を紡いでる瞬間、小さな風切り音が聞こえた。それに反応してミセス・アンダーソンから視線を外して前を見てみると、何故か正面から迫る十字架があった。
(避けられない!)
僕は咄嗟にセラ・シルフィングを交差させて十字架を防ぐ。だけどその勢いは止められない。僕は体ごと後方へ押し戻された。これも確かに魔法だな。勢いがおばさんが投げたソレじゃない。
「ふふ、流石素晴らしい反応速度ですよ。だけど、これでわかったでしょう? 戦闘中に背中を見せる危険さが」
そんな言葉を紡ぎながら、ミセス・アンダーソンが前方に現れる。その周囲には彼女を囲む様に十字架が展開してた。
「ちっ」
こんなおばさんに講釈されるとは癪だな。だけど一体どういう魔法だ? 幻を映し出す魔法と思ってたけど、確かにさっきまでは自分の後方からしか攻撃は来てなかった筈だ。
でもさっきは全くの反対側からの攻撃……一瞬で前に行ったってことか? そんなこと、ノウイのミラージュコロイドでも使わないと無理だろ。
それか幻さえも同じ攻撃が出来るのなら話は別……ん?
(そう言えば、テッケンさんの分身は攻撃出来たな)
あれと同じタイプの虚像か。なら全ては説明できる。でも説明出来るだけで、更に厄介になったって事だ。これじゃあ確かに、背中を見せるのは自殺行為。
それにテッケンさんと違って、ミセス・アンダーソンは自身で攻撃に参加してない可能性がある。魔法で身を隠されちゃ、僕には探しようがないし……ますます厄介だな。
(どうする? どうする?)
そんな思いが募りながら、僕は取り合えず目の前のミセス・アンダーソンを目指す。どの道ここを抜けなきゃなんだからな。
「さあ、どうしましたか? もう諦めてくれると楽なんですけど?」
「ふざけるな!」
直線的なだけの十字架の攻撃なんて、実際数が問題なだけで、怖くなんか無いんだよ。わざわざ一つ一つ打ち落とす事もそろそろ面倒だ。
僕は更に加速して、生み出した風と雷を回転しながら撃ち出す。目の前に迫ってた十字架が一気に弾け飛んだその隙に、巻き起こった粉塵の中へ。死角から一気に決めてやる。
するとミセス・アンダーソンの声が聞こえた。落ち着きはらった声だ。
「十字架は、自身を守護する聖域を作り出します」
その瞬間、煙は晴れて太陽の光が降り注ぐ。十字架に幾重にも連なる様に発生してる魔法陣……あれが聖域とか言うのを作ってるのか。
けど、守護するって事はこいつは実体? その可能性はある! 僕はその聖域とやらを抜く気概で二対の剣を同方向からぶつける。
「ぬおおおおおおおおおおおおお!!! ブチ抜けえええええええ!!」
「愚かな事を」
僕の気概とは反対に、冷静にミセス・アンダーソンはそう言う。そして少しだけ持ち上げた十字架を床に落とす。するとその瞬間、聖域が外に広がる様に膨れ上がり弾けた。
僕はその勢いに再び距離を取られる。
「くっそ……」
「貴方じゃこれは抜けませんよ。抜ける訳がない。何も背負わないそんな剣で、我ら神の守護が破られる道理はありません」
そして再びダン! と床に叩き付けられる十字架。するとまた何本か分かれる様に姿を現した。単調な攻防の繰り返しだな。なんだか向こうには僕を倒すまでの意志はない様に感じられるし……目的はあくまで足止めか。
でも……何も背負わないとは言われたくない。この二本の双剣には確かに背負う物がある。
「背負ってる。アンタ達が守りたい大層な物じゃないかも知れないけど、それは僕にとっては譲れない物だ。だからその言葉は取り消して貰おうか!!」
僕は立ち上がりながら強くそう言った。するとミセス・アンダーソンは手を振れずに現れた十字架を浮かせながら更に言葉を紡ぐ。
「それなら……示してみなさい。その背負うの物の重さを!!」
「上等だ!!」
三度目の突撃。これ以上時間を掛けてなんか居られない。だからただ真っ直ぐに、無謀なほどに直情に僕は進む。向かい来る十字架が顔を掠り、腹を掠り、足を削る。だけど止まらない。止まれるか!!
「――っく、止まりなさい!!」
狼狽えるミセス・アンダーソン。やっぱりな……
「止まらない! アンタは僕を刺す気がないからな!!」
だからさっきから掠ってばっかりなんだよ。こんな真っ直ぐ突っ込んで来るだけのバカに、当てる気があるなら出来ない筈はない。
「今度こそ突き破る!! セラ・シルフィング!!」
二本の剣を前に出す。白い風がその周りに現れだした。そしてバチバチと言う青い光も同時に発生する。そしてそのまま勢いを保って聖域に守護されてるミセス・アンダーソンへ突っ込んだ。
二つの力が混ざりあう。激しい風が周囲を巻き込んで吹き荒れる。力と力の拮抗で、激しく腕が震える。でも、ここで力を緩める訳にはいかない!!
「突き破れええええええ!!」
切っ先が聖域の守護に入り込む。僅かに入った亀裂により、そこから風と雷が浸食しだす。
ビキ……バキ……と亀裂は広がり……そしてその瞬間はやってきた。
吹き荒れる風、荒れ狂う雷撃によって十字架の守護は破れ去る。
「なっ――きゃあああああ!!」
驚愕に浸る暇なく、剣を取り巻く風に吹き飛ばされるミセス・アンダーソン。光の残滓と共に、魔法が解けていく様だった。
だけど安心するのはまだ早い。僕は勢いそのままに、この場を駆け抜けようとする。けれどその時、地面に広がる複数の魔法陣が僕を捕らえた。
「――っつ!?」
「そこまでだ!! これ以上、この場所で好き勝手にはさせん!!」
力強く響くそんな声。僕の体は魔法陣から延びてきた光の蔓みたいな物に縛られてる。しかもそれは次から次へと、腕足を覆って行きやがる。
顔を後ろに向けると、そこには僕が薙ぎ倒した筈の僧兵達。どうやら追いついて来たようだ。
(こんな時に!)
やっとでミセス・アンダーソンの妨害を跳ね除けたのに、今度はこいつらか。次から次へと、本当に厄介な奴らだ。
「こんな場所で……終われるか!」
「ここまでですよ」
その瞬間、僕の両足に容赦なく十字架が突き刺さる。
「ぐっ!! あああああ!!」
床に倒れ込む僕、マジでこれは容赦ないぞ。両足が串刺しになってるよ。床の隙間を通り越して、僕の赤い血が鏡の様な水面へと落ちてる。
「アンダーソン様!! ご無事ですか?」
「ええ、よくやりましたね。お礼を言います」
「そ、そんな! もったいないお言葉です」
ミセス・アンダーソンに礼をする僧兵達。ちっ……向こうが本気で狙って無かったから、こっちも聖域を抜くだけにしたのがダメだったか。
僕も随分甘い……まあそれはわかってた事だけど。
「っつ……」
遠くなる。床を伝わるその音も、空気を震わすその声も……どんどん遠ざかって行く。そして不意にそれらは途切れた。
「もう手遅れ。どうやら箱庭へ入った様です」
「手遅れ……アンタはアイツの望みを知ってるのか?」
「望み? 箱庭から逃げ出す事でしょう? あそこはあの子にとっては退屈らしいですから。恵まれてる筈ですけど、なかなか贅沢な望みですよ。
あそこから出て、どうやって生きていく気なのか。あの子は何も知らないからそんな事を言える。自分が実はどれだけ恵まれてるか……それが当たり前だと気付かない物です。
ですから、貴方はこれ以上何もしなくていいんですよ。あの子は幸せなんですから」
幸せ……? 何いってるんだこのオバサン。やっぱりクリエは誰にもあの事は言ってないみたいだな。いや、もう一人……確か世話役のシスターって人はどうか知らないけど……アイツは、こいつらを信じてなんかいない。
そして僕もそう思う。僕は地面に倒れ伏したまま、見上げる形に成ったミセス・アンダーソンを睨んで言葉を出す。
「その幸せは……本当にクリエにとっての幸せかよ? それはお前達にとっての――だろ。自分にとっての幸せは、誰かが決める物じゃない。
自分自身が感じて決める物だ。それを与えた気になってるなんて……随分おこがましいと思うけど……」
「子供に、何が幸せの基準なんてわかりませんよ。私達は信じてます。いつかあの子がわかってくれる日を」
ミセス・アンダーソンの言葉は、まあお手本の様な言葉が並んでる。いつかわかってくれる……確かに親はそう思って子供を育てないと、やってられないのかも知れない。けどこのままいって……それをクリエがわかった時、どうなるか……聞き分けの良い奴に成ることはどう言うことか……僕にはわかる。
それは……
「きっとその時は、アイツが自分を諦める時だ」
僕の言葉に眉を潜めるミセス・アンダーソン。でも、きっとそうなんだ。アイツが行きたい所は、それを理解したら、いけない……そんな気がする。
なんたって月だしな。そんな所、聞き分けの良い奴が目指す訳ないだろう。だけど、アイツは行きたいと言った。
行かなきゃと願ってる。
なんでかなんて分からないし、自分自身でも分からない様だったけど、僕は叶えてやるって言ったんだ。そして多分それは不可能じゃない。
与えられる道がある……僕達は確かにそれをあの湖でみた。
「アンタは……それを幸せなんて言うのかよ! 神の教えは、子供の夢を奪うのか!?」
「……神だって、全てに置いて万能ではないのですよ」
ミセス・アンダーソンはなんだか苦しそうにそう言った。てか、そんな事言っていいのか? って感じだ。ある種のカミングアウトみたいだぞ。
シスカ神は万能じゃないんだ――と、そう言ってる。
「あの子は、ただひっそりと生きていてくれればそれでいい。死を与えないだけの幸せと受け取ってください」
「ふざけるな! そんなの生きてるだなんて言わない。飼われてるんだ!」
夢も許されないんなら、生きてるだなんて言えない。言える訳ない! それを追いかけるのが生きてるって事だろ。
別に夢じゃなくたって、目の前の目標……望み、そのために毎日があって、限られた時間って物を消費していくんだ。
いつか死ぬと分かっていても、前を向いて何かを残そうとするんだろ。
「貴方の考えは立派ですよ。そう思いますし、間違ってる訳はないでしょう。でもそれは何も知らないから言える事でもあります。
一つだけ教えてあげます。あの子は……この世界に存在して良い子じゃ無いんです。だけどその存在を私達は寛大な心で許しています。
けど、公には出来ない。絶対にです。あの存在は、この世界の創世歴を覆します」
「何……言って……」
創世歴……そんなの何千年も前の事だろう。そんなの十歳にも満たない様なクリエに何の関係があるって言うんだ。
するとミセス・アンダーソンはそれを言い終わると、おもむろに手を僕の方へ向けます。その手には魔法陣が紡がれて行く。
「ちょっとお喋りが過ぎましたね。そろそろ、眠ってください」
「――っつ」
抵抗なんて出来なかった。僕の腕は封じられてる。セラ・シルフィングを振るう事も叶わない。重くなる瞼。視界がぼやけて行く。意識も遠ざかる様な感覚の中、足下だけが見えるミセス・アンダーソンが、小さく呟く言葉が最後に聞こえた。
「この選択以外にどうしろと……貴方なら、違う物を見つけられた? いいえ、そんな事はあり得ない。これで……これで良いのです」
「う、う~ん」
「ピク~ピク~」
なんだか頬の辺りがこそばゆい……ゆっくりと目を開けた先で僕が見たのは、傍らに寄り添って嬉しそうに頬を舐めてるピクの姿だった。
てか、舐めすぎだこのドラゴン。僕の顔面をベチャベチャにする気か?
「こらピク、そんなに舐めるからスオウ君の顔がベチャベチャだよ」
遅かったか。どうやら僕の顔面は既にベチャベチャの様だ――ってあれ?
「シルクちゃん……」
「あ、スオウ君目が覚めて良かった。ちょっと待ってください。今顔を拭きますから」
そう言ってシルクちゃんはおしぼりで僕の顔を拭き拭きしてくれる。なんだか照れちゃうな。って、そうじゃないや。
僕は拭かれながらシルクちゃんに聞いてみた。
「ここは? てか、あれだけの事しといて牢屋じゃない事がビックリなんだけど……」
当然目が覚めたら牢屋に入ってると思ってた。だから意外なんだよこの状況。ピクに舐められて起きて、傍にはシルクちゃんまで……天国かと一瞬思っちゃったじゃないか。
僕の言葉に、シルクちゃんは拭き終わったおしぼりを畳んで置き、椅子に腰掛けて説明してくれる。
「それはですね。ミセス・アンダーソンさんのおかげです。あの方が不問にしてくださいました」
「ええ? あのオバサンが?」
何で? 結構酷い事したぞ僕。それに敵の筈の僕を牢屋に閉じこめないなんて何考えてるんだ? シルクちゃんは僕の驚愕する顔を見て、少し笑ってた。
これがセラなら苛つく所だけど、口に手を添えて可愛らしく笑うシルクちゃんだと、そうは成らない。逆に癒される。
「ふふふ、私達もビックリです。だけど事実ですよ。現にここは彼女の自宅みたいな所ですしね」
「へえ~~」
なんだか宿屋にしては広くて豪華だと思った。色々と小さくはあるけど、一応他の種族も使えるようにはなってるみたいだ。
客室って所かなここは。ベットは二つに、ソファとかもこの部屋にはある。ここだけでも十分くつろげる作りに成ってる様だ。
本棚には意図的かどうか知らないけど、客人にまで宗教本を読ませたいみたいだな――ん? 待てよ。
「ねえシルクちゃん。ごめんだけどそこの本取ってくれない? 分かりやすそうなのが良いな」
「これで良いですか?」
僕はお礼を言って本を受け取る。そしてパラパラとページをめくって行く。キーワードは創世歴だ。そこら辺を重点的に……と思ってたら、扉が開いて気まずい奴が入ってきた。
「シルク様、どうですか? スオウは目覚め………」
「よっ」
僕が挨拶すると、バタンと扉を閉めやがった。何セラの奴? 酷くないか。だけどしばらくすると「コホンコホン」と咳をしながら入ってきた。
「アンタが本を読む姿って……似合わないわね」
「うるさい、大切な事なんだよ」
何こいつバカにしにきたの?
「大事な事なら私もあるわよ。箱庭の場所、知りたくない?」
セラの言葉が波打つ様に頭に響く。今なんて言った?
「アンタが突っ走った時、聖典を一機飛ばしてたの。それでね」
自信気な笑み。だけどありがたい。おかげてまだ道は続いてる。
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