命改変プログラム

ファーストなサイコロ

哀れで不幸な主人公



「あれは……飛空挺」


 僕の目が幻覚とかを映してないのだとしたら、それは紛れも無く飛空挺だ。空に浮かんだ大きな船。それが僕達に向けられてた魔法を打ち砕いてくれた。
 悠然と空に浮かぶその姿は、今の僕達にとっては救世主に見えるな。


「ぬぐぐぐ……アンダーソンめ、計ったな」


 そんな事を漏らすのは村長だ。現れた飛空挺を見上げて、悔しそうに歯ぎしりをしてる。計ったか……確かにそうみたいだな。
 だって確か明朝だった筈だろ、来るのって。でも今飛空挺はここにいる。随分早いご到着だ。まあ、どういう事かわからないけどさ、助かったよ。
 マジで危機一髪だったし。


 飛空挺は僕達の上空を通り抜けて、滑るように湖へ降りた。そして桟橋へつけて、そこから数人の小さな影と、見覚えのある姿が見えた。


「お~いっす!!」
「あれは……ノウイ? それにセラも居るし……どういう事だ?」


 なんだか上手く状況が飲み込めないんだけど……でも不思議だな。セラとかでもさ、こんな状況で見つけると、なんだか安心するもん。
 まあ僕達の心情とは裏腹に、この村の連中はイヤ~な視線をミセス・アンダーソン達に向けてるけどね。まさに邪魔者がやってきたくらいな感じでだ。


 こちらに向かってくるミセス・アンダーソン達の道を、いやいや作る村人達。そして僕達を間に挟んで、二人が対面した。
 てか、どうでも良いけど、早くこの重さをどうにかしてほしい。マジで辛いんだよこっちは。けれど村長はまだ僕達を殺す気満々だ。


「お早い到着じゃな、ミセス・アンダーソン。一体何用じゃ? 今は大事な儀式の最中じゃよ。出来れば邪魔はしてほしくないのじゃが?」
「あらら、それはごめんなさい。ですけど、その儀式とやらは何なのかしら? 確か明朝での話し合いで色々と決める筈だったのではないの?
 ちょっと事態が早急じゃないこれ?」


 二人は穏やかに言葉を交わしてる様に聞こえるけど、その背後にはスゴい威圧感を放ってるよ。どうやらどっちも譲れない……みたいな。


「儀式は儀式じゃよ。お前さんも知っておろう。我らはここで『道』を守護する勤めを長年果たしてきた。それに準じてるだけじゃ。
 湖に映る月が輝きそれを示した……そこの二人は災いをもたらす存在じゃ。殺さねばならぬ。これが何の為かは、お前さんもわかっておろう」


 何がわかっておろうだ。そんな古い言い伝え一つで殺されちゃたまったものじゃないっつーの。僕はミセス・アンダーソンを全面的に応援するぜ。
 言ってやってくれ!


「シスカ教の為……ですか? ですがこれも伝えましたよね? そこにいらっしゃるクリューエル様は、貴方達が思うよりも、言ってしまえば、その掟よりも大切な方ですよ。
 なので返して貰いましょう。異論は勿論ないですよね」


 にっこりと微笑むミセス・アンダーソン。よし、なんだかいけそうだ。ここの村人だって、総本山の意志には逆らえないだろう。
 元々ここまで急いで殺そうとしてたのだって、中央からの介入がこない間にって事だったんだろうから、それが駄目になった今、僕達を殺す事は出来なくなった……筈だ。


「ふん、ここまで急いで中央が動くとはな……それともお前さんの独断か? ミセス・アンダーソン。
 じょがこやつらは、逃亡を計った罪人でもある。我らに剣を向けた邪教徒じゃよ。この有様が見えない訳では無かろうよ。
 そこまで中央の目は腐ってもいまい。こやつらを裁く権利は我らにもある」


 腕を広げてそんな風に演説する村長。こいつ、どうやっても僕達を殺したいらしいな。しかもなんだって? この有様? お前達が仕込んで罠に、村人連中がドカスカ打った魔法のせいの惨状じゃねーかよこれは!
 勝手に押しつけるんじゃねー。でもミセス・アンダーソンは譲らない。


「貴方こそ、わかってない訳じゃないでしょう? ここまで私が出向く意味。これは協会の総意です。なんと言おうと、ここでの勝手な判断は謹んで貰います。
 後の事は中央で決めさせて貰いますよ。異論があるなら、後で抗議の文章でも、中央宛に送ってなさい」


 そう言ってミセス・アンダーソンは腕を前に出した。すると周りに居た、僧兵か何かだろう人たちがこちらに来てくれる。その中には何故かノウイとセラも居る。
 二人も話が終わるまで待ってたようだな。


「随分な格好ね」
「うっせぇ、てか何で? どういう事だよ。あの村長も言ってたけど、明朝じゃなかったのかよ」


 しかもセラ達も来るなんて聞いてない。まあ助かったからいいんだけど……するとセラの後ろから顔を出すノウイが陽気に事の顛末を教えてくれた。


「いやーこっちも大変だったんすよ。街に着くなり、ドタバタで、すぐに捜索隊が組まれて燃料補給後に再び飛び立つとか何とかで、自分達もそこにどうにかって頑張ってたんすけど……流石にそこには入れなくて。
 するとなんだか事態がいつのかに変わってすっね。まあメール貰ってたからどういう事かは分かったんすけど、そこで直談判っすよ。
 セラ様が『アイツが絡んで最悪の事態に成らないなんてないわ!』って言って、ミセス・アンダーソンの所に乗り込んだんっす」


 アイツって僕の事だよな? 何、こいつは人の事を疫病神かなんかだと思ってるわけ? でも何も言い返せないな。だってその予想は見事に当たってる訳だし。
 くっ……だけど言い訳すると、僕のせいって訳でもないんだ。勝手に事態は進んでいくんだよ。


「するとそこでちょっとしたイベントが入ってっすね。ミセス・アンダーソンも悠長に明朝を待ってる気は無いとわかったんす。
 だから彼女を説得して、自分達も一緒に船に乗せて貰った訳っす」
「なるほど……そっちも色々大変だったわけだ」
「そりゃあもう。けどあの時、自分がみんなを掴めていればこんな事には成らなかったわけっすからね。無念っす」


 そう言って頭を下げるノウイ。別にあれがノウイのせいだとは思わないけどね。寧ろノウイのおかげで、誰も犠牲を出さずに済んだと言える。
 あれはほら、しょうがない……僕達は無事だったんだから気にする事はない。


 僧兵の人達が僕達の周りに集まって、その杖を掲げる。一斉の呪文詠唱。緑色の魔法陣が地面に現れて、僕達の周囲を包み込んでくれる。
 すると体が楽に成って来るじゃないか。なんだかようやく一息つける感じだ。


「そいつを生かしておいたら、災いになるぞ。それもシスカ教を揺るがす程のじゃ! 分かっておるのかミセス・アンダーソン」


 光の向こうで、こちらを見据えて村長がそんな事を言う。たく、往生際が悪い爺だ。するとクリエが僕の服を摘んでちょっと震えてた。
 どれだけ楽天的でもクリエは子供だからな。悪魔とか災いとか言われたら、そりゃ傷つくよな。僕は自由に動くように成った手で、その小さな手を包んでやる。


「分かってるわ。何も私達も、ここの伝承を無碍にする気は無くってよ。それは肝に置いておきましょう。でもその子を殺すのは、早急過ぎると言うこと。
 世界はバランスで成り立ってるのよ」


 そう答えたミセス・アンダーソンはトコトコとこちらに歩いてくる。するとクリエはどっちに行けばいいのか分からない様で、僕の周りをくるくるしだす。そう言えば、どっちからも逃げてたんだもんな。
 今の状態は将棋で言うところの詰みだなまさに。でも、これはどうにも出来ない。どっちかを選択するなら、間違いなくミセス・アンダーソンだろうし……殺されたくはないしな。
 だけどクリエは僕の肩まで登ってきて耳元でこう言った。


「お兄ちゃん、もう動けるんだよね? 逃げよう。出来るよお兄ちゃんなら!!」
「お前な……流石の僕も限界だっての。それに送る気ではあったしな。いつまでも家出って訳にもいかないだろ」


 すると僕の耳をおもいっきり引っ張るクリエ。こいつは容赦って言葉を知らないな。


「イテテテテ!! 何するんだよ!」
「お兄ちゃんの嘘つき! クリエを月に連れってってくれるって言ったのに!」
「連れていってやりたいのは本心だよ。だけどお前自分の事も分かってないだろ。ちゃんと自分の事、知る必要があると思わないか?
 その為には家出をずっとしとく訳にはいかないだろ」


 クリエには何かある……それはもう確信で、それがきっと重要なんだと思う。だからこそ、逃げ続けたって意味ないと思う。ミセス・アンダーソンはそこら辺知ってそうだし、ある意味丁度いいんだ。
 僕の言葉に、何かを飲み込むクリエ。そしてポツリとこう言った。


「お兄ちゃんは分かってない。どうせまた私は元の場所に連れて行かれるだけだよ。体のいい監禁だよ。結構自由だったけど、私はずっとあそこに居るのはイヤなの!」
「そんなの……分かってるよ。安心しろって、必要な事聞いて、ちゃんと話して、それでも駄目なら、今度は僕がお前を迎えに行ってやる。
 だから安心しな」


 ポンポンと頭を撫でる僕。まあ既に放って置く事なんか出来ないからな。するとクリエは小指を出してきた。


「約束……約束だよ」
「おう!」


 僕はその小さな小指に、自分の小指を絡ませる。そして定番の言葉を二人で口ずさんで、最後には指を放した。するとそこでミセス・アンダーソンが声をかける。


「クリューエル様、ご無事で何よりです。爆発の時は肝を冷やしましたが、優秀な冒険者に守って貰った様ですね」


 おお、優秀だってよ。そんな事初めて言われた。なかなかいい人じゃないかこのおばさん。


「お兄ちゃんは、もうクリエのお兄ちゃんのなの! ただの冒険者じゃないんだからね。厚い歓迎を要求するんだから!」
「お兄ちゃん? まあいいですよ。元からそのつもりです。貴方をここまで守ってくれたのですからね。礼を尽くさないと私達の神の名折れですよ。
 そんな事、私がするとでも?」
「そ、それならクリエの自由も保証してよ……」
「それは無理ですね」


 クリエの精一杯の要求は笑顔で拒否された。たぶん頑張って言ったのだろうに……でも、なんでそんなにクリエを外に出したくないんだろうか?
 聞いても教えてくれなさそうだけど、まあ言うだけ言ってみた。


「あの……クリエには一体何があるんですか?」


 僕の言葉にミセス・アンダーソンは明らかに一瞬、反応したよ。意味深に僕を見てるし……でも、直ぐに外用の声で言葉を返してくれた。


「それは、貴方達が知ることではなくってよ。取りあえず、迎えさせてくれるかしら?」


 そう言うミセス・アンダーソンは、僕達に背を向けて歩き出す。それはついてらっしゃいと言うことか? すると僕達の周りに、その僧兵みたいな奴らがやってきて、なんだか威圧するんだ。護衛……じだよね?
 まだ村人たちは殺気立ってるし、きっとそうだよな。でもある意味退路を断ってるような……僕は知ってるぞ、あのおばさんは自分を使い分けてる。さっきの言葉は、明らかに大衆に見せる様だ。僕は強制イベントの時に、あのおばさんの内の顔も見てるからな、それくらい分かる。


「なんだか、まだ厄介ごとが続く気がする……」
「うん? 何か言ったお兄ちゃん?」


 限りなく小さな声で呟いた筈だけど、クリエは反応した。まあ完全に聞こえてた訳じゃなさそうだけど……目敏い奴だ。いや、この場合耳敏いとでも言うのかな?
 てかこいつ、いつまで僕に張り付いとく気だ? さっきから顔が妙に近いぞ。するとミセス・アンダーソンがトコトコ歩いてるのを確認しながら、クリエはこんな事を言う。


「ねえ、それよりもやっぱり逃げようよ。あのおばさんは信用しちゃいけないの!」


 僕の服をギュッと握りしめるクリエ。まあ信じる信じないの問題の前に、僕はこのイヤな予感から逃れたいんだけどね。
 だからついつい、それもいいかも知れない……とかちょっとだけ思う。あのおばさんは、確かに真剣にクリエを助けようとしてたけどさ……閉じこめてた奴らの一人であることも変わらないんだよな。
「信用」って物を与えるには、まだ早すぎるよな。僕は自分よりもずっと小さなその背中を見つめて、結局は気を引き締める事する。
 でもそれじゃあ、さっきの約束の意味もない様な……するといつまでも動かない僕にセラがヒドい事を言ってくる。


「どうしたのアンタ? さっさと立って歩きなさいよ。それとも何、実はここで殺されたかったとか? なら置いて言ってあげるわよ」


 長いスカートを翻しながらそう言うセラは、なんだか生き生きしてるように見えた。イヤマジで……こいつ本当に僕を虐めるのが好きだよな。
 どこまでSっ気たっぷり何だよ。


「たく、お前は本当にうるさいな。殺されたい訳ないだろ。僕はもう、自分からは死のうなんて思わないと決めてるんだ」
「何それ?」


 むっ、ついつい余計な事を口走ってしまったかも知れない。だけど別に、セラの奴は僕の言うことなんかまともに聞いちゃいないから、直ぐに次の行動に移った。
 しかも意外な行動に。


「たく、しょうがないわね。さっさと立ちなさいよ――――ほら」
 そう言って差し出されてきたのはセラの手だ。見るからに華奢で細長い、女の子の手。こんな事されたら、間違いなくときめいちゃう筈の男子高校生であるはずの僕。
 だけど何故だろう……僕の体はさっきの重たい時よりも過度に動こうとしない。本能が警告してるんだと思う。


『これは罠だ!!』


 って。


「な……なんの真似だよセラ……お前」


 僕の声は意図せずに震えてる。あり得ない……こいつが僕に手を差し伸べるなんて、もしかしてLROのシステムに致命的な欠陥でも起きたのでは無いだろうか?
 僕は今までの経験から、セラの行動には裏を考えずには居られない。


「何って、分かるでしょ? 立ち上がらせてやるって言ってるのよ。なに、それとも私の好意が受け取れないの?」


 妙に楽しそうにそんなことを言うセラ。絶対に罠だ。僕は確信したね。


「は、はは……そう言って、僕が手を伸ばしたらかわすんだろ? お前の考えなんてお見通しだね! 誰が騙されるもんか!」


 僕は強くそう言った。何度も何度も遊ばれて来たんだ。もうそんな自分からは卒業するんだ。お兄ちゃんって慕ってくれる奴も今は居るし、格好悪い所なんて見せられないからな。
 でも、僕の言葉を受けたセラは、思ってたのと違う反応を返してきた。怒るとかキレるとかを想像して、また心を抉るような言葉が続くのかと覚悟を決めてたのに、セラは意外にも顔をうつむかせたんだ。


「そう……まあ当然よね……」


 なんだか急に元気がなくなったような声が届いた。俯いたセラの表情は伺う事が出来ないけどさ……ええ? 何キャラだよこいつ。


「しょうがない……私がからかい過ぎたのもいけないんだし……でも、今だけは純粋……だったんだけどな」


 いやいやいやいやいやいやいや、駄目だ自分。騙されるな! なにちょっとだけ悪い気がしてくるんだよ。どんだけ女の子の甘いんだよ。
 だけど心はそうやって否定してても、体は勝手に動いてた。まだ震えてるけど、それでも俯いて寂しそうに出されたままのセラの手に僕の手は向かってる。


 くっそう……どんだけ僕を混乱させるんだこの野郎。絶対に芝居だと思う……思ってるんだけど、もしかしたらって気持ちがあって、そこが突かれるとズキズキ痛む。
 だから手を伸ばさずにはいられない。だけどその時だった。第三者の手が入ったのはさ。


「誰よアンタ! クリエ以外にお兄ちゃんを虐める奴をクリエは許さないから! 変な芝居やめてよおばさん!」


 そんな事を言って、スパーーーン! とクリエがセラの手を弾いた。そんな音と大声に、周りの注目が一斉に集まるのが分かったよ。
 だけどそれよりも、手を弾かれて罵倒されたセラの方が危ないか……なんてたってオバサンはないよ。そんな暴言にセラが直ぐに反撃しない事が恐ろしい……と言うか、弾かれた態勢のまま、微動打にしないのが恐ろしい。


「オバ……サン?」
「そうよ! 何なのさっきから楽しそうにお兄ちゃんを虐めてくれちゃってさ。悪口とかでしか、誰かに見てもらえない事は、悲しい事だってシスターが言ってたよ。
 オバサン友達いないの? ぷぷぷ、カワイソ~~」


 完全に馬鹿にしたような笑い方で挑発してるクリエ。ああ、もうやめてくれ。こっちが震え止まらなくなるよ。次の瞬間、セラならクリエの首をはねてもおかしくないんだぞ。
 しかも友達いないのお前の方だろ。あれでセラには慕う奴が結構居るんだ。まあ僕だって信じられないけど……一応見てるからな。
 するとずっと動かなかったセラが、不意に動き出したかと思うと、クリエの頭にポンと手を置いた。


「ふえ?」


 やばい、次の瞬間には体は前を向いたまま、頭が僕の方へ向いてるって言うホラー映像に成るに違いない。別段警戒してないクリエは、煩わしそうにしてるだけだけど、今の内に謝った方がいい。絶対に。


「ねえクソガキ」


 ほらキターーーーー!! 第一声がクソガキって完璧にキレてるよ。普通思ってても言わないもん。それを常々言ってしまいそうなのがセラだけども、常識ってもんは一応持ってるんだぜアイツ。
 でもクソガキ……終わったな。だけどクリエは睨むように上を見据えて言い返す。語気を強めて。


「何よオバサン!」
「だめだクリエ! それ以上は死ぬぞ!!」


 いや、確実に既に処刑コースだろうけど、ゲームでも子供が殺される所なんて見たくない。だから僕は、クリエの後ろから庇うようにして身を乗り出す。


「ちょっとお兄ちゃん! 悪口言われたままで良いわけ? クリエ的にはすっごい許せないの! このオバはぐぅ――うぅ、うぅ!!」
 僕はうるさいクリエの口を塞ぐ。もう無駄かも知れないけどさ、そのワードはやばいんだってマジで。


「はは……はは」


 僕は静かにたたずむセラへと向いて、乾いた笑い声を漏らす。セラは僕がクリエを庇った時に、自分の手が弾かれた。それを気にするように、その部分をさすってた。


「いや……ほら、子供の言った事だしさ。それにクリエはきっと重要人物だぞ。ここはもっと大人に成ってだなセラ……いや、でも大人って言っても、クリエが言ってたオバサンとかじゃなく、大人の女性のって意味の大人で――」
「……責任よね?」


 ん? 僕がしどろもどろに成って何かを言ってると、不意にセラが何かを発したような。心なしか体が震えてるし……僕はどこかでミスをしたかな?


「そうよね……子供の仕付は保護者の責任よね? ……フフフ」


 やばい……目が笑ってない。怒りの矛先が完全にこっちを向いてるし……そして思いの丈を叫んでセラは飛ぶ。


「私のどこが! オバサンだ!!!」
「ほげっ!!??」
 同時に、セラのスカートが大きく翻る。見えたのは純白のパンツにエロいガーターベルト。けど次の瞬間には頬に刺さる鋭い衝撃と共に、世界が回った。
 体が一回二回と跳ねて、冷たい水を感じた。どうやら湖まで蹴り飛ばされたみたいだ。僕の体は、満月へと向かって進んでく。


 ああ……なるほど。この月の向こうに、何があるのか今の僕には分かる。それはきっとクリエが思い描いてる物とは違うと思う。
 そこはきっと沢山の御花畑があって、いつか別れた人達が居るようなそんな場所だ。そう……そこはきっと「天国」では無かろうか。


 理不尽な不幸になんだかもう疲れて、僕はただただ、大きな水面を漂った。生きるって、辛いことの連続だな。するといきなり、水面が大きな波を立てだした。


「あぶっ! ぶぶぶっ!?」


 思わず溺れかける僕。あれ? これって飛空挺飛ぼうとしてない? 僕を置いてく気か! 動き出した飛空挺を必死に追いかける僕は哀れとしか言いようがなかった。

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