命改変プログラム
メイズの月
村に入ると穏やかな調べが響いてた。どこかのプレイヤーかNPCが何か楽器を弾いているのかも知れない。穏やかなその調べはこの静かな村に染み入る様に流れてて、とても良く合っている。僕達はそんな調べに誘われるように村を歩きだす。
湖に隣接するように建てられてる家々は、なんだか縦穴式住居みたいに地面から離れて建てられてた。しかも小さい?
ミニチュアとまではいかないけどさ……何だろう、窓やドアが多分自分達のサイズに合わせてあるんだろうと思えるくらいに小さい。腰くらいまでしかないドアとかを見る限り、どうやら僕は既にモブリの国に来たようだな。
「わぁ~~~あっは! あれは何かな~?」
「おいクリエ。まずは仲間と合流するのが先――っていない!?」
村に入るなり妙にキョロキョロしてたクリエは、速攻で僕の元から離れてた。まあここなら安全だろうけど、あいつが居なくちゃある意味、意味無いんだよ。だから探さないと。
僕は村の奥の方へと足を進めた。まあ奥と言っても直ぐに湖にぶつかる様な小ささだったけどね。湖沿いに広がる様になってる村なのかな? 光る花が街灯代わに点在してるんだけど、それだけじゃなかなか光量として足らない。
でもここから見える限りでも、明かりがついた建物は五十位しかない。かなり小さな村だ。いや、この数は集落の方がいいのかな?
「たく、どこ行きやがったアイツ?」
僕はクリエを探して動き回る。別に適当に歩いてただけだけど、流石の小ささだから直ぐに見つかった。クリエはどっかの家をコンコンコンコンと、嫌がらせみたいに叩いてた。
「どうぞ~どうぞ~、どなたかいませんかぁ~!」
クリエの言葉はおかしいけど、だからなのかなんとガチャリとドアが開くじゃないか!! 出てきたのはちょっとふっくらとしたエプロン姿のモブリだった。
「はいはい、な~に?」
「あのあの! 私はクリエ、クリエって言うの! ちょっと旅の途中で事故に遭っちゃって、お兄ちゃん共々逃げて来たけどお腹はペコペコなの。
――――で、貴方は今幸せですか?」
「はい?」
困惑するエプロン姿のモブリ。すると怒濤の様に訳の分からない事を悲劇的に、時には陽気に語り出す。するとその途中でエプロン姿のモブリは扉を静かに閉めた。
いや、まあ当たり前だけど。せめて前後の言葉の内容は繋げようぜクリエ。僕は呆れ果てて後ろから近づき、既に誰もいない扉に向かってはなし続けてるクリエの頭をコツンと叩く。
「いた!」
「何やってんだお前は? もう誰も聞いてないぞ」
僕の言葉にようやく扉と話してたらしい事に気付いたクリエ。だけど全然気にしてない風に、僕へ向かって百パーセント無邪気な笑顔を見せてこういった。
「えへへ~一回トントンしてみたかったんだ! それに本で読んだんだよ~。ああ言ってる所!」
「お前それ、一つの本じゃないだろ? 最後いきなり幸せですかってどういう流れだ? どうせ本の台詞を引用するなら、せめて一つの本からにしなさい。
支離滅裂になっちゃうから」
だからこそあのエプロン姿のモブリも、これ以上関わると面倒だと思ったんだよ。最後の台詞をもっと普通の、あの流れに乗った奴にしとけば、パンの一個位は貰えたかも知れないのに……まあそこまで僕は金に困っちゃいないけどさ。
クリエは僕の言葉に素直に「は~~い!」と返事した。そして今度こそと思い、テッケンさん達との待ち合わせの宿屋を探す為に、クリエの手を取ろうとした。また居なくなって貰っても困るからね。
だけどクリエは、よっぽど感激してるのかクルクル回って僕の腕を避けて行く。
「ああ~~とっても空気がおいしく感じるよ。私は自由だってみんなが言ってくれてる! わぁ~あれは何かなお兄ちゃん!」
そう言うと再び走り出すクリエ。ああもう、なんでそんなにテンション高いんだよ。あと、今気付いたけどやっぱりその呼び方は恥ずかしい。
森では誰も聞いちゃいなかったから意識なんてしてなかったけど、ここは村。いくら小さくてもプレイヤーがチラホラと居るんだよ。
だから妙に気恥ずかしいんだ、その「お兄ちゃん」って言うのが。でも今更それを切り出すのも何だし……面倒臭くなりそうだし……取りあえず僕はクリエの後を追う。
そしてクリエが走って行った先にはタマネギみたいな生物が居た。
「何々~アナタはだぁれ?」
クリエのそんな言葉に、タマネギみたいなその生物は、いきなり頭の部分からキラキラした粉みたいな物を吹き出す。
「ケホッケホ……うう~泥棒と間違われちゃった」
「泥棒? お友達にはなれなかったのか?」
「拒否されちゃった~。でもしょうがないかな。あの子、自分にはご主人様がいるから良いんだって」
「ご主人様?」
僕がその言葉に首を捻ってると、そのタマネギみたいな生き物がグルグルと回ってた家の扉が開いて、クリエと同じ位のサイズのモブリが顔を覗かせた。
「ムッシュー家に入って寝よー」
するとタマネギの生き物は扉へ続く道を跳ねながら登り、モブリの子供と共消えていった。
「ペットだったのかあれ……」
なんだか似たようなモンスターが居たような気がするんだけど……大丈夫なのかあれ? だけどクリエが動く度に何かが起きるな。
だって普通はあんな風にNPCは反応しない。確かにLROのNPCはただの人形って気もしない位に良く出来てる訳だけど、基本は今までのRPGと同じだもん。
こっちが質問をすると、ある決まった言葉を返す。まあそれがLROだと膨大でもあるんだけど……言っちゃうと、そこに存在してるだけで、生活感(?)ってのはあんまりというか全く見えなかった訳だよ。
だけどそれがどうだ? さっきの二人なんて生きてるって気がしたよ。この世界でちゃんとNPCが生きてるってさ。
まあ僕達には見えない裏の設定では、LROに居るNPCはちゃんと生きててあんな生活をしてるんだろう。でもそんなの冒険には関係ないからね。そこまで見えないし、見せないんだ。
それにそこまで作り込んでたら、幾らLROが超ハイスペックだからって限界くるよ。だって世界にはかなりの数のNPCが居るわけで、それに全てあんな生活感を漂わせる事をやってたらね……無理だよ無理。
「もういいだろ――ってやっぱりいない!!」
僕がタマネギ生物から視線を戻すと、またしてもクリエは居なくなってた。。僕が色々と考察してる間に姿を消していた。だけどどこかからはアホっぽい声が聞こえる。
「うわっは~~~!!」
とかいう奴。僕は肩を落として、疲れた感じで走り出す。夜の村を照らす月明り、そして光花が道を照らしてる。そんな道を走って湖の側に来ると、どこかからパシャパシャと、水を蹴るような音が聞こえた。湖の方を向くと、そこには桟橋と大きな葉で出来たような笹舟が幾つかあるのが見える。
そしてその桟橋の先にクリエは居た。小さな背中が見える。
「おい、もう十分見て回っただろ。そろそろ待ち合わせの場所に行くぞ」
「ねぇねぇお兄ちゃん、水面に映る月が不思議だよ!」
「お前な……」
ダメだこいつ。人の話を聞いていない。それに何が不思議だよ。水面に映る月なんて、空と同じ決まってるじゃないか。
「ん?」
僕はクリエの隣まで行って水面の方の月を見たときに、おかしな声を出した。そして空の月と水面の月を見比べる。だけど見れば見るほど、首を傾げたくなるだけだった。
「なんか……丸いな……」
「うん~! 空のは半分なのに、水の中のお月様はまん丸なの!!」
まさに僕の目には、今クリエが言った言葉通りの物が映ってる。空には確かに半月があって……でも水面に映る月は、紛れもなく満月だ。怖いくらいに鮮明に満月が映ってる。
なにこれ? バグかなんか? それとも設定ミスとか? 天才も流石にこんな小さな所にまで気が回らなかったって事かも。
「不思議だね~」
「不思議だな」
僕達は水面に映る月を見つめて声を出す。これ……こうやって見てるとなんだかこの月に吸い込まれそうな気がして来る。
しかも良く考えたら空の果てにある月が映ってるにしては、この月……大きくないだろうか? 満月なだけじゃない、大きさだって十分に不自然だ。
するとクリエが良いことを思いついたかの様に飛び跳ねてこう言う。
「届きそう! この月になら、私行ける気がする!!」
そう言えば山でも月に行かなきゃとか言ってたな。まあ確かにこんな近くに月があるのなら、子供は夢を見るだろうな。
僕とかにはただ水面に映った月は、それだけでしかないんだけど……でも確かにこの月は少し違うかも知れない。
それにここはLROだし……何が起きても不思議じゃない。元々月へ行くなんて……って思ってたわけだし。でもそれが何かの別の意味を持った比喩なら、これが違うとは言えない気がする。
「行かなきゃいけないんだっけ? そんな気がするんだよな?」
「うん!!」
元気一杯に頷くクリエ。そしてトテテと走り出すと、桟橋に括られてる笹舟に飛び乗った。
「まあ、お前の気持ちも分かるんだけどさ、月は逃げないんだし、みんな合流してからでもいいじゃん?」
いや、何となくだけど何かが起きる気がする。だから一人じゃ心細い。テッケンさん達は直ぐそこに居るはずだし、心の余裕の為にもなんとかその提案をしてみたんだけど……
「無理だよ~。月がクリエを呼んでるもん!」
「お前、それは完全に感覚だよな? お友達とかじゃないよな?」
まあでも、そう言うだろうとは思ってた。だってクリエが僕の言うことに妥協した事まだ無いもん。いつだってこっちが振り回される羽目になる。
放って置く事なんか出来ないから、結局はこっちが負けるしな。それに一人にするなんて尚更出来ないし……僕は結局、テッケンさん達にメールを出して、笹舟へ。
実際僕が乗っても大丈夫か不安だったけど、案外丈夫に出来てる様だ。モブリサイズだから狭いけどね。
「ゴー! だよお兄ちゃん!」
「お~、と言いたいけど、取りあえず月の中心にでも行けばいいのか?」
「うん! ほら、中心に何かあるよ!」
何か? その言葉に僕は目を細めて水面を見つめる。すると確かに何かが見えた。何だろうかあれは? 嫌な予感しかしねーぞ。
「早く早くお兄ちゃん!」
「ああ~もう、膝の上で暴れるな。所でオールは無いのかこの笹舟?」
「横についてたよ」
「横?」
その言葉を受けて僕は自分の体の横あたりを見る。だけど何も無いぞ。
「違うよ。外側だよ」
そう言ってクリエは身を乗り出し始めた。何とも危なっかしい光景だ。
「はい! ほらあった」
なんとか落ちずに戻ってきたクリエが差し出したのは、こちらも葉っぱを重ねて作ったかの様なオールだった。なんでわざわざ外側に取り付けてるのは謎だけど、まあ取りあえずこれで漕ぎ出せるな。
「サンキュ」
僕はそう言いながらオールを受け取って、もう片方も逆側から取り出す。これで準備OKだ。オールを使って鏡の様な水面を切る。そしてゆっくりと笹舟は進み出した。
「って、この湖にはモンスターとかいないよな? この船ひっくり返されたら、僕達一巻の終わりだぞ」
なんてたって僕はLROじゃまともに泳げないからな。まあ一人ならひっくり返された程度で溺れる訳もないけど、クリエを抱えて泳ぐのはきっと無理だ。
なんとは無しに出航したけど、水って一番怖いんだぞ。だけどクリエは、そんな不安なんて全く感じてないようだ。
「大丈夫だよお兄ちゃん。ここスッゴく透き通ってる。邪悪な者なんていないよ~」
クリエは片腕で水に触りながらそう言った。それもお友達に聞いた事なのかな? まあ程々に警戒しつつ、僕は笹舟を漕ぎ続ける。
すると段々と水面に映る満月の中心の場所が見えてきた。あれは……
「鳥居?」
多分、そうと思えるシルエットが見える。鳥居は日本人には馴染み深いから間違えるなんてしない。確かにあれは鳥居だろう。
「何があるかドキドキだね~!」
「だから鳥居って言ってるだろ」
クリエにだってその存在はもう見えてる筈なのに、なに言ってんだこいつ。それとも意味が違うとか? 何があるか……それは何が起きるかって事か?
「チャンチャンチャララ~チャンラ~~」
いきなりおかしな前奏と共に、膝の上に戻ったクリエが目を閉じて歌い出す。
『幾億の星が~流れ落ちるその時~私はその星の一つに~なれているのだろうか。一人で輝く星になんて~成りたくはな~いよ~』
子供の歌声だ。お世辞にも上手いとは言えない。だけど、その歌詞はその声に反してなんだか悲しいな。クリエはノリノリで歌ってるけど、思わずこんな夜空を見上げてしまう歌詞だよ。
「お前……その歌……」
「えへへ~私が一番好きな歌だよ!」
そう言って続きに戻るクリエ。月が映る水面の上で、クリエの拙い歌が静かに響く。するとどこからともなく、クリエの歌に合わせてシャンシャンと言う音が聞こえてくる……様な気がした。
「なんだ?」
「みんなが一緒に歌ってくれるって!」
クリエは立ち上がり、歌を歌い続ける。すると今度は僕にもはっきり聞こえた。しかもシャンシャンだけじゃない。他にもいろんな音色と共に、歌に合わせた様な声も聞こえる。
なんの声……かは直ぐにわかった。湖の中から次々に淡い光が滑るように出てきてる。そしてそれが水面に映る月を囲んで踊りだしてるんだ。
「これって……妖精?」
光は次第に羽を生やした人型に見えて来る。それは前に一度見た事のある姿だ。僕はこいつらを知ってる。そう、確かサクヤと初めてあったあの湖でもこんな奴らが出てきたぞ。
なんだかもう、結構前の様な気がするけど、日数的にはほんの数週間前なんだよな。あれはあれで不思議な光景だったけど、今目の前で起こってる事も相当不思議な光景だ。
てか……何で踊ってるんだ? お友達……確かにそれは居たようだけど……まさか妖精かよって感じ。妖精達もクリエも楽しそうだ。
歌い続けるクリエに、その歌に合わせての満月に沿ってのダンス。するといつの間にか、ガヤガヤと岸の方が騒がしいのに気付いた。
すると明かりを携えた人達が集まってるのに気付く。それはもう、この村の住人全員が居るんじゃないの? 的な数だ。
そして桟橋の先ではテッケンさんやシルクちゃん、鍛冶屋が何やら叫んでる様に見えるけど……ここまでは届かない。
「ねぇねぇ、みんながこっちだよって言ってるよ!」
「ええ? それって大丈夫……って既に漕がなくても進んでるじゃねーか!」
妖精達は僕たちを誘う様に手を伸ばしてる。そして笹舟が近づくと、道を作る様に横に避けて、僕たちを月の中へと入れるんだ。
するとどうだろう、月の輝きが変わった?
「なんか下から光ってないか?」
「綺麗だね~」
相変わらず脳天気だなクリエは。明らかに光輝いてるぞ、この水面に映った満月。しかもただ光ってるだけじゃない……妖精が回ってるせいなのかどうかは分からないけど、この光……真っ直ぐに上を目指してるような……
「もしかして、月まで届くのかな?」
「そうだよきっと! クリエ達は月にいけるの!」
喜ばしそうにそう言うクリエ。思わず僕はそんな事口に出したけどさ、「まさか」とはまだ思ってるよ。でもただ光は、空の半月に向かって確かに伸びてる様に見える。
多分それは、僕たちよりも周りで見てる人達の方が分かるんじゃないかな。
でも……これからどうなるのだろう。いきなり笹舟が浮きだして、空に上がるって事は今の所無いけど、これからも無いとは限らない。
妖精さんが連れていってくれるかもだし……いかんな、クリエの影響を僕を受けてる。
「うわぁ何かあるよお兄ちゃん!」
「だから鳥居だって……」
何度言わせるんだ――っていつの間にか中心部分にまで来てたみたいだな。近くで見ると結構ボロボロの鳥居だ。傾いてるしな。年月って奴を感じる。
笹舟はその鳥居の前でピタリと止まる。明らかにここに何かあるって感じだ。周りはもう光しか見えない状態。そして妖精達の音楽が聞こえるだけの世界に成ってる。
「どうしろって事なんだろうなコレ?」
「取りあえず~ご挨拶はどうかな? こんばんはー!」
鳥居に向かって元気に腕を掲げるクリエ。だけど鳥居が挨拶を返してくれる訳もなかった。いやー良かった。もしかして鳥居がお辞儀したらどうしようって思ってたんだ。
だってクリエが取るおかしな行動……その先にはおかしな結果があるから、もしかしてってね。でも鳥居はやっぱり鳥居らしい。
「む~やっぱり挨拶してくれない」
「だろうな」
膨れっ面になるクリエ。いやいや、それが普通だから。てか挨拶しちゃったらどうする気だったんだよ。まあこいつの事だから「お願いがあるの! 私を月まで連れてって!」とか言いそうだけどさ。
「な~んか妙に古めかしいよな……ん?」
なんだか良く見たらこれ……この汚れみたいな物って模様じゃないか? しかも最近僕はこれと同じ物を良く見てるような――てか腕に浸食してきてる模様に、どことなく似てるような……
「どうしたの?」
「いや……まさかな」
僕はそう言いつつも、浸食の進む右手を伸ばす。そして鳥居に触れて見た。するとなんと反応するじゃないか。鳥居の模様と僕の腕の模様が共鳴してるみたいだ。
「っつ……なんだ?」
何かが……何かが頭の中に流れ込んで来る。脳を浸食するかの様な真っ白な光。それが僕の瞳に謎の光景を映し出す。
見覚えがある……と思えるような部屋だった。いや病室? そしてそこで白衣を着た医師が何かを告げている。だけどそれは僕の耳には届かない。でもその言葉を受け取ったであろう人が大仰な機械に横たわる誰かの元に崩れてしまう。、そして大きく口を開けて、人目も憚らずに泣き出した。
それは見てるだけで、胸が締め付けられる様な……そんな痛い姿。
うるさい位に蝉の鳴き声が響いてる。それはその人の悲しみの声さえも、打ち消すようにヒドく騒々しく、そして酷く不快だった。
「お兄ちゃん!!」
「ぐっはあぁ!?」
顔面に痛烈な衝撃が走り、僕の意識は強引に元の場所に戻された。
「おおお前、今何した!? 頭突きか? 頭突きだろ!」
「お兄ちゃんがクリエを置いてけぼりにしようとするのが行けないんだよ。ズルはダメー!!」
「ズルってお前……」
だからって頭突きは女の子の手段としてどうよと思わざる得ない。てか……今の光景は一体?
「今度はクリエの番だからねー!」
そう言ってクリエが鳥居へと手を伸ばそうとする。だけどその時、僕は自分でも分からないけど、その手を掴んで寸前の所でクリエを止める。
「やめろ!」
「ええ~何するのお兄ちゃん? 自分だけなんてズルいよ!」
「ズルくてもダメな物はダメだ。よく分からないけど、お前は触らない方がいい……そんな気がする」
「それこそ良くわからないよー」
頬を膨らませてプリプリするクリエ。でも何故かそう思うんだから仕方ないじゃん。自分でも理由は分からない。今の光景が何かも理解できないし……けど、なんとなくだけどダメな様な気がしたんだ。
けどその時、クリエは唐突に反対側の手を伸ばした。
「えい!!」
「このクソガキ――――っつ!」
思わず本音が出ちゃったじゃないか! だけど遅かった。クリエの小さな手は何とか鳥居に届いてしまう。すると僕の時とは明らかに違う反応が起きた。
それはクリエの首に下げられてるネックレス。それが今度は共鳴しだした。青い光を放ちだしてクリエごと浮き出した。
「クリエ!」
「あわっわっわわ!」
僕はクリエの体を抱き抱えてそれを防ごうとする。けど浮上は止まらない。するとピシッと宝石に亀裂が入る。それを見たクリエは唐突にそれを押さえてこう言った。
「ダメ! これはダメなの!!」
その瞬間光が弾ける様に収まり笹舟へと僕達は降りれた。
「クリエ……?」
僕の言葉は震える小さな存在に向けられてる。
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