命改変プログラム

ファーストなサイコロ

大宝邂逅



 正しい言葉を正しく受け取り、それでも僕は剣を握り前を向く。そこには山の様な大きさの巨人が、汚らしく涎を垂らして僕達を高見から見下ろしてる。
 鼻息だけで木々を揺らし、その一歩は地震と成るほどの体躯。どこまで通じるかわからないけど、僕はやっぱり自分だけ逃げ仰せるなんて出来そうもない。


「何やってるのよアンタ?」
「いやなに、倒せないって決まった訳じゃないしな。でくの坊かも知れないじゃん」


 僕はセラの呆れる様な声にそう言ってやった。まあ実際、この体躯ででくの坊とかあり得そうも無いけどさ。この存在だけで、戦局を左右しかねない大きさだよ。
 でもその位言わないとな……セラに蹴り飛ばされるよ。


「な、何やってるんですか!? 逃げましょう。折角セラさんが引きつけてくれるって言ってくれてるのに。良いじゃないですか、彼女は本当に死ぬ訳じゃない!」


 後方から叫ばれる言葉。それはスズリさんだ。まあ彼は逃げたいよな。こんなのに勝てるだなんて思ってないだろうし……


「そうですね。じゃあ僕もここで証明して見せますよ。別に僕だって死なないって事を。スズリさん知りたがってましたよね?」
「それはそうですけど……僕は自分が死ぬのはイヤだ! 怖いじゃないか!!」


 おいおい、目一杯断言したな。まあ初心者は大体最初そうだけどさ。最初の死の時は、本当に無事でいられるのかドギマギするものだ。視界が暗転してく中でこう思ったりする。


(このまま死んだりしないよな?)


 ってさ。でも彼は自分が死ぬのはイヤだって……本心漏れてるな。僕は剣を軽く振りながら、スズリさんに視線を向ける。


「まあ僕だって死ぬ気はありませんよ。最悪の場合、貴方が知りたかった事がわかるってだけです。倒しに行きますよ。なあセラ」
「まあ、やるだけやるけど死んでも恨まないでね」
「何でやる気無くなってんだ!?」


 もっと熱かった筈だろ。セラは決める所は決める奴じゃん。普段は毒舌はた迷惑な奴だけど、戦闘では頼りに成る奴のはずじゃん!
 それに色々言ってるけど、僕が死ぬことはイヤなはずだと思ってたんだけど。まあそれは僕が死んだことでアギトとかが傷つくとかだろうけども。


「ん?」


 その時、僕達の頭上に陰が落ちた。元から暗いけどさ、暗さが落ちてきてるような……それは巨大な巨人の足? 地震を生み出すその衝撃が迫ってる。


「うあああああああああああああああああああ!!」


 スズリさんが頭上を見上げて叫びと共に地面にへたりこむ。だけどそれが許されるのは彼だけだ。僕とセラは、へたり込む場合じゃない。


「セラ、彼を頼む!」
「わかってるわよ!」


 僕はイクシードを発動させて、風のうねりでその足を受け止める。数秒で良い……その間にセラが聖典を発動。聖典の一つが強引にスズリさんを掴んで移動させて、それに併せてセラも足の範囲外へ逃れる。


「よし!」


 それを確認した僕は、片方のうねりを地面側へ向けた。狭い範囲で風が交錯する。流石に片手だけじゃこの巨大な足を支えきれない。でも、もう支える事なんてないんだ。
 僕は双方のうねりをググッと貯めて、一気に解放。うねりをバネの様に使って、体を足の外側へ飛ばした。その瞬間、後ろでズズンと言う音と、それに伴って地面がめくれあがる様に割れてしまった。


 なんて事だ……寒気がするよあんなの! だけどもうやってしまったんだ。賽は投げられた……引くことは出来ない――ってか、僕達が引いても逃げれない。
 今更ながら、ちょっと後悔してしまうかも。


「逃げた方が良かったんじゃないの?」


 するとそんな思いを見透かしたかの様なセラの言葉が掛けられた。セラの周りには数機の聖典が飛んでいる。結構投げやりな感じでスズリさんを放ってるし……でも、こんな奴でも、僕はもう仲間意識をしてるんだ。


「んな訳ねーだろ」


 僕は心の声を振り払ってそう答えた。そして振り返り、山の様な巨人に見上げて剣を向ける。


「それに、一矢報いたいじゃん。僕達はここにきてまだ一度も勝ててないんだぞ。これだけデカいと流石に引くけど、ある意味ワクワクするじゃん」
「アンタって、そんなんだから……」
「うん?」


 セラの続きの言葉は出てこない。なんだ「そんなんだから……」の後は何なんだ? 気になるじゃないか。けどセラは紡ぐ気が無いのか、僅かに口元を綻ばせたまま隣へ並ぶ。
 そして右腕を斜め上前方へ向けると、それと同時に聖典が一斉に動き出した。四機の聖典が巨大な敵へと向かいゆく。


 先端から放たれる桜色の光線が巨人へ放たれる。だけどそれは蚊と同じなのか、巨人は別段気にせずにこちらに腕を向けてくる。


「ちょちょっこっちに来ますよ!」


 木の幹に背中をつけて怯えてるスズリさんが、下がりたくてもさがれない感じでそう叫ぶ。僕はその向かってくる巨大な手に向かって、風のうねりをぶつける。
 だけど貫通もしなければ、抑えている事も結構きつい。風のうねりは、その巨大で分厚い手のひらに拡散されてしまう。


「くっそ、デカいだけあって頑丈だな」


 腕の進行は止まらない……こっちはかなり踏ん張ってるんだけど、あの体格で体重を乗せられたら止めようがない。
 すると横からセラが叫ぶ。


「もうちょっと踏ん張ってなさい。アンタに良いこと教えてあげるわよ。戦いってのは、何も正面からぶつかるだけじゃないってね!」


 そう言ってセラは、更に四機の聖典を発動させる。計八機になった聖典は迫る腕の横で、円を描いて回転を始める。


「アレは……」


 僕は踏ん張りながらその光を見つめる。桜色の光が八機の聖典で収束されてる。アレは確か、聖典の収束砲撃だ。別に中心にセラが居なくても出来るんだって感じだ。
 まあそっちの方が応用効きそうだけど。でも発射の合図はセラ自身が下す様だ。セラは二本指を立てて、再びその腕を巨人へ向けた。


「ブレイク!!」


 空中で一際大きく、桜色の光が瞬いた。その瞬間、巨人の腕へ向かって収束された光の柱が放たれる。


「がぁががあああ!!」


 巨人のそんな叫びで、この攻撃が効いてることが分かった。そして収束砲撃は迫っていた腕を横にずらしてくれる。僅かに逸れて地面へと落ちた巨人の腕は、周りの木々を軒並み押し倒していく。
 まさに存在するだけで、僕達にも世界にも迷惑な奴だ。


「うあうああああうああああ!?」


 自分たちの数センチ横を掠めて行った巨人の腕に、ビビりまくるスズリさん。急いでここから離れようとするけど、上手く足が動かない様で、その場でジタバタしてるよ。
 だけどそれを「何やってんだ?」とか言って笑ってる場合じゃない。彼を守る立場に居るのは、今は僕達なんだ。「大丈夫」と言った。その責任が僕にはある。巻き込んだんだし、大変だったけど、スゴい冒険をしたと思わせてやると言ったんだ。


 上体を地面に近づけた格好に成ってる巨人は、もう片方の腕を地面に押しつけて、顔を上げた。そして巨人の顔が空を一面覆い尽くす。
 やっぱりデカいな。きたない涎がその口からはボタボタと……あれ? それは涎じゃないかもしれない。


「泣いてないアレ?」
「ああ……」


 セラの言葉は、僕の思ったことを代弁してくれた。確かに見える範囲に来た巨人は泣いてる様に見える。ボタボタと涎も落ちてるけど、涙もそれ以上に落ちていた。
 それもと飛び出してる目がただ閉じれないだけとかかな? そのせいで常時涙を流してる状態なのかも知れない。ある意味そっちの方がやりやすい。
 敵でもさ、泣いてる奴を相手にするのはやりづらいし……とか考えてるとセラが聖典を操作して、その顔を狙い打ちした。


「えい!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおお!!」


 顔は弱いのか、聖典の通常攻撃で絶叫する巨人。でも何となく「やった」とは思えないぞ。


「ひっどいなお前。泣きっ面に蜂だぞそれ」


 血も涙もないとはこいつの事だろう。お茶目な声で「えい!」とか言ったけどさ、こいつは同じ声で僕をぶつよきっと。


「アンタは普通とは違う感じでLROに浸ってるわ。あれはシステムでプログラム。心なんてないの。泣いてるように見えるだけ――よ」


 更に攻撃を続けながらそう呟くセラ。確かに僕は、普通とは違う感じでLROに浸ってるのかも知れない。余計に感情移入し過ぎなのかも……ここはどこまでも良くできてて、全てが生きてる様に見えてしまう。
 そして実際、僕は始めてから直ぐにただのプログラムじゃない存在に触れあって来たんだ。


「敵の事を思いはかってたら、いつか足下すくわれるわよ」


 確かに大半の敵は心なんて無い。その位知ってる。分かってる。頭では理解してるさ。心があれば、プレイヤーを襲うのを良しと出来る訳でもない。
 結局の所、戦わないといけない事に変わりなんて無いんだ。このタイプの奴らはシクラとかとは違う。本能で、望むままにそうしてるんだ。
 だからその涙に意味なんてない……その筈だ。


「効いてますよ! きっと顔が弱点なんです! 倒すなら、今がチャンスでしょ? 何やってるんですか!」


 後ろでスズリさんが必死にそう叫ぶ。確かにチャンスだな。普通に立たれたら、顔まで攻撃は届かなくなる。まあだからこそ、顔の防御は弱いのかも知れない。
 僕は両腕に力を込めて走り出す。風のウネリが届く範囲まで近づかないといけない。でもその時、されるがままだった巨人が、山さえ崩す様な叫びと共に動き出す。


「ぐがごあああああああああああああああああ!!!!」


 僕達を逸れた筈の腕、それを横に振るとセラとスズリさんがその腕に巻き込まれた。僕は丁度、前に出てたからぽっかりと空いた空間にいたようだ。でも二人は、舞い上がった木々と一緒に空を飛んでいる。


「セラ! スズリさん!!」
「くっ、やってくれるじゃない!」


 案外元気そうなセラ。だけどスズリさんの方は反応が無いぞ。すると、セラは聖典を一機呼び戻して、それを掴んで宙を舞う。
 ついでにスズリさんも助けてくれた。


「大丈夫よ、ちょっと驚いてるだけ」
「ちょちょちょちょっとじゃないですよ!! 腕が……巨大な腕が迫って来たんですよ! しかも木々をなぎ倒しながら!
 し、死ぬかと思いました……」


 地面に足がつくなり、安心したのか言葉が次々に出てくる。まあでも、こっちも元気そうでよかった。あの一撃で終わったかと思ったよ。
 案外、HPはもって行かれて無いみたいだな。


「直撃って訳じゃ無かったから。私達は巻き込まれたって感じよ」


 なるほどね。でも巻き込まれただけでああなるのは驚異だよ。


「た、倒せる訳無いですよ……流石にこれは……」


 震える声で彼はそう言う。さっきの一撃が、彼に恐怖を植え付けた様だ。でもそれは今更だろ。もう僕たちは引けないんだ。


「それでも、倒さないとここで終わりですよ」


 上体を起こした巨人は、その両腕を高く掲げてた。膝を折って地面につけてる筈なのに、その腕は雲を掴みそうだ。


 そしてそれが力強く振り下ろされた。僕たちを狙ったものじゃない。でも、その衝撃はここまで伝わってきた。凄まじい衝撃は地面を割り、立ってられない程の揺れを生んだ。
 僕たちは地面にへばりつく様にするしかできない。


「あの巨人、なんか怒ってないか?」
「だからアンタは……そんなの気のせいよ。それよりも次はこっちに来るかも知れないんだから、どうにかしなさい!」
「どうにかって……」


 足場がこんなに揺れてたんじゃどうにも出来ない。てか、さっきから同じようにドスンドスンと巨人はやってる。その姿が、なんだか拗ねてる様にも見えるんだ。


「うう……気持ち悪い……」


 大地に居るはずなのに、吐き気を催してるスズリさん。でもこの揺れは、ちょっと荒れた波よりも質が悪い。確かに吐きたくなってもおかしくないかも。


「さっきから同じ所ばっかり攻撃して……何あいつ、この世界を割ったりしたいわけ?」


 セラの言葉はなかなか笑えないぞ。あの大きさなら、それをやってのけてもおかしくなさそうだ。この地震も大地の悲鳴みたいじゃないか。
 どうにか出来ないか? すると宙に浮いてるアレが目に付いたよ。


「そうだ。セラ、聖典を頼む!」
「揺れのせいで集中出来ないから一機だけよ」
「十分だ!」


 セラが自身を助ける為に使った聖典が一機、直ぐ近くにあった。それが僕の近くに来る。なんとかバランスを保ち、タイミングをあわせて聖典の下部を掴む。
 そして後はセラの操縦に任せて巨人の顔を目指す。今の所そこしか攻撃が効く所が分からないからな。上昇を続けてたどり着いた巨人の頭上。
 僕はそこで聖典から手を放し、巨人の顔めがけて突っ込んだ。


「うぉらあああああああああああああ!!」


 風のウネリを勢い良く顔にぶつける。すると更なる雄叫びと共に、小さな僕はその腕によって振り払われた。地面に勢い良くぶつかって、数度跳ねる。それでも落ちない勢いのまま、森を進んだ。


「う……がっはっ!」


 意識があるのが不思議な位だった。体中から血が溢れてる。かなり飛ばされたのか、木々の隙間から見える巨人が曖昧だ。
 いや、これは僕の視角の問題かも……取りあえず揺れは止まった様だけど、これじゃあ今度は自分で立つことも難しい。


(くっそ……惜しんでる場合じゃないよな)


 僕はそう思って、震える腕を何とか動かした。でも一回じゃ上手く行かない。システムがちゃんと認識してくれない様だ。
 一回でも辛いのに……それでも三回目でやっとウインドウが現れた。それを操作して道具の中から、回復薬を指定する。


 すると目の前に瓶に入った薄い青色の液体が現れた。念の為に用意しといて良かったよ。いつもならシルクちゃん頼みだから、こんなの使わないんだけど……今は彼女は居ないんだ。
 僕はその瓶を口で挟んで固定する。後は首を上げれば……その時「ぐがあああ」とか言う声がすぐ近くで聞こえた様な……目だけを動かすと木々の隙間からのぞき込む瞳がギョロついてるのが見えた。


 霞んでた瞳のせいで、奴がどこを向いてたのかまで分からなかったんだ。あの野郎は、払った僕の行く先を追ってたのか。荒々しい鼻息で木が大きくしなった。
 そして何よりも臭い鼻息だ。これだけで武器に成りそうな程……ヤバい、そんな警報が頭に響く。けど何故か襲ってこない? 僕は刺激しないようにゆっくりと頭を傾けて回復薬を喉に流していく。
 炭酸の刺激が喉に痛い。でもこれが効いてる証だろう。HPは少しずつ回復してる。


(後少し……もう少し……)


 回復薬はもう残り僅かだ。このままいけるかって思ったとき、何かが木々を押しつぶす様に地面に落ちた。涙? 涎? いや違う……それはもっと赤く汚い物だ。


「ああぁぁぁああぁぁあぁぁ……」


 漏れ聞こえるのは何かを訴える様な声だった。押し倒された木々から見えたのは、きっと僕のせい傷ついた顔。そこから溢れてる赤黒い血。
 どうしてこいつから血が出てるのか? とか当たり前の疑問は吹っ飛んだ。だってこいつは訴えてる――そう感じた。その声は……目は……「どうして?」とか「なんで?」とか言ってるよ。


 自分が傷つけられるいわれは無いと……そう伝えようとしてる様な。僕は思わず瓶を落とした。口からこぼれた瓶は、その液体を地面にこぼす。シュワシュワと黒い地面で炭酸が踊ってる。


「お前……やっぱり泣いてるのか?」


 僕は思わずそう聞いた。だけど巨人が答える分けない。てかこの行為事態がおかしい事だ。セラが見てたらやっぱり呆れる事だろう。
 でも……感じた気がするんだ。この巨人の心って奴を。


「あっがっ……ぐあ……がごああああああああ!!」


 苦しむ様な素振りを見せた巨人。だけど最後には本能が勝ったようだ。巨人はその巨大な手をこちらに向けてくる。
 でもその手は僅かにずれて地面にめり込んだ。だけどそれで終わらない。何回も何回も、巨人は僕の周りの地面を打ちつけてく。


 激しい振動が体に伝わる。実際もの凄く冷や汗ものだ。危なすぎて逆に動けない。どうすれば……僕は何をすれば良いのだろうか? 分からなくなる。
 こいつは意図的に外してる。だってそうだろ。この距離をこう何回も外すわけない。このまま武器を向けて良いのだろうか?
 何を求めてる?


「ぐふっ……」


 振動が体に染みる。完全回復したわけじゃないから、口からはまだ血の味がする。


(はは、やっぱり戦っても勝てそうもないかもな)


 こんな状態なら尚更かも知れない。それでも僕は、こんな場所でやられる訳にはいかない。だから考えるんだ。必死にこの行動の意味を考える。
 そして……セラ・シルフィングから風のうねりを消しさった。これでもう、後十分はイクシードは使えない。だからって、この天変地異みたいな奴をこのまま相手にするのも、同じくらいのギャンブルだろ。


 そう思う。だから僕はイクシードを納めるよ。セラには自殺行為だと言われるだろう……けどこれもきっと選択肢なんだよ。
 チンと鳴り、二つの剣を鞘へと帰す。そして僕は巨人と向き合った。かなり強引にだけど、それを見せないように立ち上がる。


 揺れる大地に立つのはかなり難しい。でも何でもない風にしないとな。気にするだろ……このデカブツがさ。放たれた腕が滅茶苦茶に成ってる地面を更に打つ。
 それを引く際の一瞬、動きが止まったその瞬間に、僕はその腕に自身の手を重ねた。その瞬間、巨人の荒々しかった行動がピタリと止まる。
 そしてギョロつくその瞳がこちらを捉えた。ちゃんと見てる……今までの様に、四方八方をさまよってる訳じゃない。僕は唾を一呑みしてその視線と向き合った。


「通じてるか分からないけど……悪かった、傷つけて」


 僕はそう言うと頭を下げた。視線を外した瞬間に、叩き潰されるんじゃ無いかとヒヤヒヤだけど、僕は僕の感性を信じるしかない。
 もう武器を抜いたって、切り札は使えないんだ。


「…………」


 どうやら、攻撃が来ることは無かったようだ。


「あ……が……う……」


 巨人は何かを言ってるのかも知れないけど、それは人である僕には聞き取れない。でも不思議なことに、触れた箇所からそれが分かる様な気がした。その腕が震えてたしね。
 だから僕は、きっとこう言えたんだろう。


「傷つけない……これ以上傷つけないよ。僕は、お前みたいな奴が居ても良いと思うから」


 その瞬間、巨人の涙が更に溢れだしてきた。海でも作りそうな程の水量。不思議な事に、涙が溢れる程に巨人の存在が薄まって行ってた。
 まるで幻が消えるかの様なその光景……一体どうなってるんだ? これが巨人に対する、正しい対処の仕方だったのだろうか?


 消えていく巨人の中から、一筋の光が見えた。それは七色に光る不思議な瓶? それが巨人が流した涙を全て吸い取っていく。
 そして蓋をしたら、僕の手の中に落ちてきた。アイテム名『金魂水』それがどれほどのアイテムか、この時の僕は知る由も無かった。
 僕は取りあえず、アイテムをしまおうとした――その時だ。


「奴は逝ったか。救われる事が消える条件とは、何とも情けない奴だ。だが……そのアイテムの出現は待ち望んでいたよ」


 どこからともなく現れたソイツは、有無を言わさず僕へと襲いかかって来る。そしてその力は、圧倒的と言える物だった。
 全ては一瞬……一瞬で奪われた。僕は問う「誰なんだ?」と、すると奴はこう答えた。


『テトラ』


 たった一言そう言った。

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