命改変プログラム

ファーストなサイコロ

吸穴衝動

 黒い川沿いに走る僕ら。だけどどこかで向こう側にいかなくちゃいけない。あの空にぽっかりと開いた渦巻く穴は、いつなくなるとも限らない。
 でもこの川……いや川としては当たり前だろうけど、下るに従って川幅が広がって来てる。橋でも無い限り向こう側にわたるのは難しいかも知れない。


 けれど、こんな文明の欠片も無い場所で橋って……期待出来ないな。でもその時、先頭を行くセラが何かを発見したのか、声を出した。


「あれ! 使えるわ。渡るわよ!」
「あれってあの岩か?」


 セラが指さした場所には、川に突き刺さるかの様に岩が点在してた。それも微妙な距離感覚でだ。確かに渡れそうも無くないけど……落ちたら一巻の終わりだな。
 ここの流れかなり急だし、ちゃんとした泳ぎのスキルを持ってない僕やスズリさんは落ちたら上がって来れないだろう。


「あの~大丈夫ですしょうか?」


 不安そうにそう言うスズリさん。その気持ちはよくわかるよ。でも、そんな言葉をセラは一蹴する。


「大丈夫かどうかなんて二の次よ! やるかやらないか。帰りたいか、帰りたくないかよ! どっちのなの!?」


 みるみる内に近づいてくる岩。迷ってる暇さえもなさそうだ。


「まあしょうがないよな」
「ええ!?」


 僕の言葉にスズリさんは驚いた。多分彼は、あの岩を渡る自信がないんだろう。確かに結構遠い箇所もあるけど、確かにこれはさ、セラが言うとおりやるかやらないかなんだ。
 だから僕はスズリさんに言ってやるよ。


「やるしかないですよ。次がある保証なんて無いし、大丈夫こっちの体はリアルよりも身軽ですよきっと」
「ほ、本当だね?」


 そう言いながら後を付けて来る彼共々、大きく左側に旋回して、川を真っ直ぐに見つめてダッシュ。セラが先に軽々と最初の岩へと飛び移った所で、僕達もすぐさま後に続く。


「まあ多分ですけど!!」


 そう言って飛び出す僕。


「えええええええええええええ!?」


 とか叫びながらも既に飛んだせいで何も出来ないスズリさん。僕は華麗に岩へと着地し、横ではスズリさんがゴロゴロと転がって……


「何やってんの!?」
「ぐふっ……」


 僕はとっさに手を伸ばして彼の襟元を掴んだ。首が締まったようだけど、落ちなかったんだから良しとしてほしい。


「ちょっと、モタモタしてないでさっさと来なさいよ」


 そういうセラは、自分だけとっとと先へ行ってる。まあアイツは迷いが無いことが凄いよ。僕でもそれなりに怖いけどねこれ。
 少し下は急流の黒い川……まるで黄泉へと誘ってる様じゃないか。ゾクっとするよ。


「大丈夫ですかスズリさん?」
「ああ、ありがとう」


 なんとか立ち上がって彼は前を見据える。さっきよりも難しいか? 助走もつけらんないから、遠くに感じるのかも。
 でもセラは行ったし、いけるだろう。僕は先に飛び出た。そして振り返りスズリさんに向かって言う。


「楽勝楽勝、このくらいの距離、屁でもないですよ」
「う……うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 スズリさんは躊躇を振り払うかの様に、叫びながら飛んで来た。叫ばずには居られないかも知れないな。でもそれで飛べるのなら、うるさくてもいいよ。


「ん? あっ」


 短い言葉が漏れる。だって彼は止まらずに次の岩へと飛び移ろうとしてる。上げたテンションで一気に駆け抜ける気らしい。
 まあそっちの方が、面倒じゃなくて良いけどね。僕もその後に続いて走り出そう――とした時、一瞬岩が動いたような?


「んん?」


 もしかしたらこの流れで、岩が流されそうに成ってるとか? とにかく急いだ方がいいようだ。タンタンと岩を飛んで後一歩で向こう岸。
 その時、先に岸までたどり着いてたセラが、後ろを指さしてなにやら叫んできた。


「ちょっと! 急いだ方が良いわよ! 後ろに来てるから!」


 何言ってんだアイツ? 後ろに何が……僕達はそう思って後ろを振り返る。するとそこには、黒い川の底から岩を背負った巨大な亀が、こちらに首を伸ばして来てた。


「グロ!!」
「うああっあああああ!!」


 僕達は急いで走り出した。だけどその時、僕達が居る岩も動き出した。グラグラグラグラ、足下が揺れる。この岩自体がモンスターだったのか。


「わっわ……」


 テンパってるスズリさんは今にも腰を下ろしてしまいそうなへっぴり腰。このままじゃ振り落とされるか、亀の餌食に成ってしまう。


「くっそ!」


 僕は強引にスズリさんの腕を取って走り出す。そのまま岩の端まで連れていき、勢いそのままにセラの方へぶん投げた。


「うわうわわあああああ!!」


 ズシャ――と地面に削られるスズリさん。なんでセラの奴、受け止めないんだよ。僕はそれを期待してたからおもいっきり投げたんだ。
 まあでも、ちゃんと向こう岸にいけたから良いか。問題は僕だな。


「よっと!」


 この亀はどうやらかなり長く首を伸ばせる様だ。後ろから迫った攻撃を狭い岩場の中でかわしていく。でもこれまで渡った岩場の数だけ居る首は結構厄介。
 実際、亀かろくろ首かわかったもんじゃない。僕は剣を抜き去り応戦を始めた。でも、こいつらにかまってる暇は……


「って、なんか岸が遠くなってる!」
「スオウ! 何やってるのよアンタ。このままじゃこっち来れなく成るわよ!」


 セラが向こう岸から叫ぶ。けど、そんな事自分が一番分かってる。でも……狭い岩場で縦横無尽に迫り来る首を交わし続けるだけで結構精一杯なんだよ。


 セラ・シルフィングでは傷つけられるけど、反撃にまで回れないのが現状だ。だけどこのまま、川の中央部分まで戻されたら、それこそ不味い。
 意識が戦闘になかなか集中出来なくて、チラチラと岸の方へ目が行ってしまう。そのせいでどっちつかずの行動が、僕自身を追いつめる。


「っつ……」


 ガラっと欠けた岩が黒い川へと落ちていく。追いつめられた。岩の端っこにいつの間にか追いやられてる。これじゃあ、避ける事もまま成らない。
 てか落ちそうだ。でも僕を囲んでる数本の亀の頭は追いこんだまま動かない? いや違う。よく見たらその亀の口から何か漏れてる……赤く、メラメラしたものが。


「おいおい、マジかよ……」


 本当にイヤな予感がする。っていうか見えてるから既に予感じゃないんだろう。ようはこれからイヤな事が起こるんだってマジで分かる。てかこいつら亀だよな?
 そんな事を思った瞬間、ガバッと開いた口から、赤々とした炎が吐かれる。逃げ場なんてどこにもない。


「くっそおおおお!」


 僕はもう、一か八か岩から飛び出した。炎はこれで避けれたけど、全然岸には届かない。このまま川に落ちたら、それできっとジ・エンドだ。
 だけどその時、川からもう一体の亀が首を伸ばしてきた。それは多分、僕が飛び出した岩の亀だろう。待ってましたと言わんばかりに首が伸びてくる。
 でもこれは使える……そう思ったよ。


「うおらあ!!」


 僕は亀の開いた口に剣をぶっさした。その瞬間、亀は凄く暴れ出す。死にはしなかった分だけ、亀に痛みが襲ったんだろう。
 僕は必死に剣にしがみつき、タイミングを見定める。運良く亀は、その首を長く長く上へと延ばし出す。これだと思ったね。


 僕は亀の首が伸びきると、剣を抜き去って地面へ向かって飛び出した。他の亀の首が炎を吐いてるけど、無視して着地のタイミングを計る。思ったよりも高い……けどこの程度!
 ダン!! っと言う激しい音と共に、僕は地面を転がった。


「いててて……」
「スオウ!」
「大丈夫ですか?」


 地面に倒れ伏した僕の元へ、セラとスズリさんが駆け寄ってくる。何とか無事に向こう岸に来れたって感じだな。するとセラ達の後ろに亀の頭が一つ見えた。そいつは今まさに、炎を吐こうとしてるじゃないか!
 二人は気づいてない。僕は痛くなった体を強引に上げて、二人の手を同時に取って走り出した。


「え? ちょ……何よ一体?」
「良いから走れ!」


 僕は有無を言わさず二人を引っ張って再び森の中へ。後ろでは亀の激しい炎が、僕達がいた場所で息巻いてただろう。




 枝や葉を押し退けて、僕達は不気味な森を走ってる。目指すべき場所は、空に開いた穴の真下。だから空を見ながら僕達は目的の場所を目指してる。
 けど流石に、森の中じゃ木が邪魔して見にくいな。それに周囲の警戒を怠る訳にもいかない。なるべくモンスターに出会わない様にしないと。


「間に合うでしょうか?」


 スズリさんが不安そうにそんな事を呟く。実際それは考えないようにしてた事なんだけど……間に合わない事を考えるよりも、間に合わせる事だけを考える。そう思っとかないとダメだろ。


「間に合わせる為に走ってるんですよ」


 一刻も早いここからの脱出。それは僕らの共通認識なんだからね。でもそこで先頭を行くセラが、手を出してストップの合図。


「どうした?」
「シッ……前にいるわ。強そうなのがウヨウヨと」


 モンスターか……ここまで来て足止めだなんて最悪だ。


「迂回していけないのか? なんだかあの穴、小さくなって行ってる気がするぞ」


 空の穴は明らかに萎んでる。このままじゃもうすぐ消えちゃいそうだ。もう、そんなに遠くないのに、このままそれを指をくわえて見てるだけなんて出来ないよ。


「迂回ね……でも、あんまり遠くへ回ってる場合でも無いじゃない。ここは一気に駆け抜けるわよ」
「そそそんな事出来るわけ無いですよ! 見つかったらどうするんですか?」


 セラの言葉に、スズリさんが勢い込んで反論した。僕達はその口を急いで押さえつける。危ない危ない。LROのモンスターは視覚や聴覚、嗅覚まで使ってプレイヤーを見つけたりするんだぞ。
 こんな最上級のモンスターのたまり場で、見たこともない奴等なら、どれを使ってくるか分からない。だから何事も慎重にだ。
 まあ、スズリさんの意見は最もだけどね。するとセラは落ちてた石を数個手に納める。


「他に注意を逸らした隙に一気に行くわ。原始的だけど、結構効果あるんだから」


 得意気にそう語るセラに、「本当かよ」と言いたかった。だって小石を遠くへ投げて、その音に気付いたモンスターの共の背後を通る作戦だろこれって……マジで原始的過ぎなんだけど。
 不安でならない……けど、有無を言わさずにセラは行動を開始する。


「まあ、見てなさいよ」


 腕を素早く振って、手の中の小石を飛ばしたセラ。小石は葉っぱを擦ったりしながら、まあそれなりの音を出してくれた。そしてその音に確かにモンスター共は反応した様だ。
 でもさ、それで彷徨いてる奴らが全員行くかってなったら……そうじゃなくね? それに駆け抜けるとなると、僕達もそれなりの音が出そうな気がする。 


 極力静かに走れってことだろうか? どう考えてもあんまり成功する確率が高くない様な……でも、セラは相変わらず自信満々な笑みを浮かべてる。
 こいつにはどうやら、確固たる物があるんだろうな。僕やスズリさんとは違う、ここでの積み重ねとか経験といった物なんだろう。


「「「ギャギャギャギャグワラビィィィィィィ!!!」」」
「な、なんだ!?」


 その時、変な叫びがこの森の中に響きわたった。そして一斉に、てか、我先にとセラが投げはなった石の方へ駆け出すモンスター達。
 なんで獲物を確認もしてないのに、あれだけ興奮出きるんだ? てかきっと、さっきの叫びはあいつ等の叫びが混じりあってあんな風に聞こえたんだろうな。
 訳が分からなかったもん。僕とスズリさんが呆れ帰ってると、セラが得意気にこう言った。


「どう? 私の言ったとおりでしょ。アンタはこれまで、ボスクラスしか相手にしてこなかったから知らなかったでしょうけど、普通のモンスターのオツムなんてあんな物よ。
 餌、獲物の可能性があれば何にだって群がるわ」
「なるほどね……」


 哀れな奴ら……そこら辺は作られた程度の存在って事か。そう言えば言われるまであんまり意識してなかったけど、普通のモンスターか……確かに僕ってそんなに相手してないかも。
 この前の大量オーク共だって、間接的に操られた様な奴らだったし、普通の人が少しずつ積むはずの経験を、僕は何段か飛ばしてるよね。


 まあ、何ヶ月も掛ける時間が無かったし、事態は次々に進んでいったからな。必死に走ってたら、こうなったんだ。


「まあ、だからこそ、一度見つかったら厄介なんだけどね。どこまでだってあいつ等追いかけて来るわ。LROは空間に区切りがないから、最悪街にたどり着くまで追いかけれる事だってあるわ。
 あのしつこさは女子には恐怖そのものよ」


 何かを思い出してるのか、手を左右の二の腕の所へ持っていきなにやらブルブルしてる。まあ、女子じゃなくたってあんなのに追いかけられたら怖いと思うけどね。
 でもセラに恐怖を抱かせるなんて……こいつって何にでも動じない様な気がするけど、それも経験って事だろうか?


 セラは二の腕から手を離し、更にもう二つくらい、小石を飛ばした。今度はもっと遠くへ、更にモンスターがこの場所から離れる様にし向けてる。


「まだ行かないんですか?」


 いきがってた割には、かなり慎重をきっするセラに、スズリさんがそう呟いた。確かに考えて見れば、セラの癖にやけに慎重じゃないか。
 実は石を目指してるモンスターの背後から、一体ずつやっていってもおかしくないのがセラなのに……確かに堅実な事やってる。
 てか、流石に急がないと穴が消えるまでに間に合わないんじゃないんだろうか? 


「おいセラ」
「言ったでしょ。しつこいのよあいつ等は。これはタイミングが重要なの。ここであの数をトレインしたら、確実に死ぬわよ。
 実感したでしょ。頭の中身は同じでも、それ以外は別格なのよ」
「う……」


 セラの言葉は実感こもってる。てか、僕達がその体で実感したことだ。なるほど……慎重に成るのも当然か。あの数をまとめて相手になんか出来ない。
 だって僕達はここじゃ逃げてばかり、まともに勝ててない場所のモンスターに気づかれるのは、死を意味する訳だ。


 目の前に、目指すべき場所があるからこそ、慌てず冷静にって事なんだろう。セラは更に、もう一つ石を投げる。
 もう狙いなんて無く、おもいっきり投げてた。そしてそれにモンスターが反応した瞬間を狙って動いた。


「ここよ! 付いてきて。音はなるべく出さないでよ。でも素早くね!」


 そう言った瞬間、セラは忍者の様に駆けて行く。どうやってんだアイツ!?


「ちょっ……くそ!」


 どうやるのかわからないけど、一応僕達も後へ続く。僕とスズリさんはただ、気づかれない事を願って精一杯走る事しか出来なかった。




 そんな願いが届いたのか、後ろに迫る凶暴な気配は無い。僕達は再び森をひた走り、空に開いた穴を目指してる。
 そしてとうとう、僕達はその真下へとたどり着く。そこは森の一部が開けた様な場所で、これまで以上にはっきりとその穴を確認できた。


「これが穴……」
「なんだか天変地異の前触れみたいな光景ですね」


 確かにスズリさんの気持ちわかるよ。世界が終わるときに、現れそうな穴だもん。


「これって、間に合ったって事なの? でも何も起きないわよ」


 セラの言葉通り、穴の真下に居る僕達は、体が浮いて吸い込まれそうになんか成ってない。地面にしっかりと足が着いてる。


「最初よりも小さくなってるし……遅かったとか?」


 そうじゃないなら、最悪やっぱり何らかの条件が必要って事に……でもそれを見つけるのはこのメンバーじゃ厳しい。
 回復薬だって数に限りがあるし、どう考えたってここを冒険するには、準備が足りない。


「あれ? ……あれは何でしょうか?」


 その時、スズリさんが何かに気づいた様だ。彼が見つめる先……そこに視線を凝らしてみる。


「んん?」


 目を凝らしてもよく見えないぞ。てか小さい。それは物じゃなく、ゲーム上の記号の様な物? 僕達は取り合えずその何かを目指してみる。


「これって……0?」
「ああ、0だな」
「0ですね」


 セラの言葉に、僕とスズリさんが続く。0って言うか、0が数個連なってる状態……つまりは、ストップウォッチの様な0が、赤い文字として浮かんでる。
 上を見上げて見ると、ここは丁度穴の中心の様だ。この時間を刻んだような0と空の穴……何か関係があるんだろうか?
 いや、状況から見てあるんだろう。でも……どう言うことだ?


「ねえちょっと足下見てよ」
「うん?」


 セラの言葉に促されて、足下に目をやる。するとそこにはウジャウジャとミミズらしく生き物や、変な骨なんかが転がってるじゃないか! 
 きったね! 虫はいるのに土は死んでるぞ。こんな所に倒れたり転がったりしてたのかと思うと、体が痒く成ってくる。


「ちょっと、青ざめてないでここ見なさいよ」
「足跡……か?」


 セラが見つけたのはどうやら足跡……それもちゃんとしたプレイヤーの物の様だ。靴の形してるへこみが、この数字の0の周りにいくつかある。


「これは数人分はありますね。パァーティーでここに乗り込んできてた人達でしょうか? でも……どうして……ここに……って、あ!」


 スズリさんは何かに気づいた様だ。まあ僕も何となくはわかるよ。多分これって……


「あの穴は、この人達を今しがた外に出したって事か」
「多分そうね。それに足跡は五人分。スズリさんの言うとおり、一編成のパーティーって線が強いわね。攻略組かしら? 
 それともレアなアイテム狙いのハンターズギルド? どちらにしても、これは重要なファクターね」
「どういう事ですか?」


 セラの確信めいた言葉に、首を傾げるスズリさん。そんな言葉に応えるべく、セラは再び立ち上がる。


「ここには、ちゃんと出方を知ってるプレイヤーもやっぱり居るって事です。それとこの穴が、ここからの脱出に使う物だって確信出来たでしょう。
 まあこの目で、ここに居た人たちの吸い込まれる様でも見れればもっと良かったんだろうけど、十分でしょう。これでまた一つ、私の言ったことの正しさが証明されたわ」


 とことん自分が否定されるのがイヤなんだなセラの奴。別にコイツが持ってきたあのデータで、結構信じてたけどな。


(ん? データ?)


 何かが引っかかった。あれ? 僕確か、何かを言おうとしてなかったっけ? ここに来るのに夢中で忘れたかも。


「ちょちょっと待ってください。確かに良いことも分かりましたけど、それってやっぱり僕達だけじゃどうしようもないって事じゃないですか?」
「ある意味、そう言うわね」


 何がある意味だ。そうとしかいわねーよ。ほら、スズリさんが落胆してるよ。彼はここに、僕達の中でも一番大きな希望を抱いて居たはずだ。
 それなのに、こんな慎ましい情報だけじゃ、やりきれないんだろう。


「そんな……」
「もう、そんなに落ち込まなくても、私たちはちゃんと前へ進んでるわよ。急がば回れ、次に出るのは私たちよ」


 どっからその自信は出てくるのやら。無意味に自信満々な所とか、やっぱり日鞠と似てるなコイツ。


「なあ、さっきのモンスターって、もしかして今消えた人達が引っ張ってたんじゃないか? いきなりあんなに現れるなんておかしいじゃん」
「確かに、それもそうね。モンスターは標的を失ったから、ここら辺でウロウロしてのかも。それが何?」


 何と言われると困るな。何だろう? 


「えーと……」


 考えがまとまらない。ポリポリと頬を掻いて、僕は宙に浮かぶ0の点滅を見続けた。

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