命改変プログラム

ファーストなサイコロ

原因究明



「あががががががががががあああああ!!」


 黒い空の下で、そんな断末魔の叫びが上がる。地面からわき出た青白い稲妻が二つの頭を持つ、巨大なゴリラの体を襲ってる。
 僕はそんな様子を木の枝に掴まって、空中で眺めてた。いくらあのゴリラが刃物に強くても、雷撃まではその体毛じゃ防げないだろう。


 てか、そうであってほしい。見る限りでは効いてそうだけど……激しくスパークを散らす雷撃は、次第にその光を小さくして行く。
 そして辺りに静けさが戻ったとき、ゴリラはまだたったままだった。


(これでも……)


 そう思ったとき、ゴリラの赤かった毛が元の状態へと戻っていくのが見えた。そしてドスンと片膝を付いたと思ったら、そのままバシャンと地面に倒れ伏す。
 体からは僅かだけど煙が上がってる。どうやら雷撃は効果的だったらしい。


「やったの?」
 そういって木の陰から出てくるセラ。僕も掴んでた木の枝を放して地面へと降り立つ。


「こんなの倒すだなんて凄いですよ!!」


 そう言って駆け寄って来たのは、セラと同じ場所に隠れてた初心者プレイヤーだ。さっきまでビクビクしてたのに、ゴリラが倒れた瞬間に元気になったじゃないか。
 それにその眼差しはなんだか痒いな。しかも彼はちょっと勘違いしてるようだし……僕はセラ・シルフィングを鞘に納めながらこう言った。


「倒してないよ」
「え? だってゴリラはこの通り……」
「HP見てみればわかる。まだ大分ある。多分雷撃のショックで昏倒しただけじゃないかな?」


 すると彼は再び、その顔を青ざめて後ずさる。


「た、確かに……HP沢山残ってますね。今の内に止めを刺しましょう!!」


 拳を握り締めてそう訴える彼。だけどそこでセラが溜息一つこう言った。


「馬鹿なこと言わないでよ。攻撃なんかしたら一発で起きちゃうわよ。それに私たちは今、決め手を欠いてるの。一撃で確実に決められもしないのに、こんな千載一遇のチャンスを逃せる訳ないでしょ?」
「ああ、セラの言う通りだな」


 僕はセラの言葉に珍しく納得だな。でも彼は、僕たちが何を言ってるのかわかってないらしい。


「ええ? チャンスだから倒すんじゃないんですか?」
「チャンスの吐き違いだよそれは。ここは千載一遇の逃げのチャンスだ!!」
「そう言う事よ!」


 てな訳で、僕とセラは困惑してる彼の腕をそれぞれ掴んで走り出す。期待してくれてた彼には悪いけど、あんなの倒せるか!!
 いや、万全なら倒してみせる自信はあるよ。後ちゃんとしたパーティーならやりようも有るだろう。だけど、今はこれが最善の選択だ。
 だから昏倒したこの瞬間を逃したら全滅必死。もう一度目が覚めるなんて、怖くて仕方ないっての。
 だから今の内に出来るだけ遠くに。これは戦略的撤退だ。僕たちは走る。黒く不気味な森を必死にさ。




「はぁはぁはぁはぁ!」


 森を抜けてたどり着いたのはデカい滝が三段階的に落ちてる場所だった。かなり下の方へ見下ろすんじゃなく、かなり見上げる形でその滝は存在してる。
 つまり僕達は三段階目の三段目にいるんだ。やっぱり暗黒大陸の水は黒いのか、流れ落ちてる水は黒かった。そして辺りに広がる黒い川は、きっとこの滝が作ったんだろう光景だと思える。


 辺りを警戒しながらたどり着いたこの場所は、水があるにもかかわらず、モンスターがいないおかしな場所だ。LROのモンスターはちゃんと食べるし飲むとかの行動を組み込まれてるから、居てもおかしくは無いんだけど……やっぱり黒い水は飲めないのだろうか?
 まあ飲む気には成らないけどさ。ともかくモンスターがいないここで一時休憩と言うわけだ。


「大丈夫?」
「お前は……だから何で息切れしないんだよ」


 ここは自動走行使えない筈だろ。なのにケロッとしやがって、まだ僕に教えてないズルが有るんじゃないだろうか?
 だけどセラは、考え込む様な動作と共にこう言った。


「アンタってもしかして、体力とかもリアルから引っ張って来てるんじゃないの? だって普通は、息切れしてもそこまでには成らないわよ」
「へ?」


 セラの発言が脳に染み込むまで五秒くらいかかる。酸素が足りないんだ。でも染み込んで来ると、その言葉はちょっと信じたく無いんだけどって感じだ。
 でも周りを見たらさ、初心者の筈の彼でさえ僕ほどは息切れしてないよ。まあ引っ張って来られたからってのも有るだろうけど、彼はズルなんて知るはずなのよな。


「そんな……体力までリアル通りなんて、戦闘不利すぎるだろ? 怖いこと言うなよ」
「でも、異常じゃないアンタ」
「異常なのは元からだ」


 僕は変な方向に強がって見せた。でもまあ、認めたくはないね。だって、いろんな物をリアルから引っ張ってきてさ……これじゃあその内、僕の中でどっちがリアル? とかなりそうじゃん。
 それにやっぱり、体力はいろんな物の元になる力だよ。それがリアルと残量一緒じゃ、激しいバトルなんて繰り広げれなく成るよ。
 それは死活問題だ。


「まあ、確かにアンタは元からどっかおかしいけどさ」
「どっかおかしいなんて変な捉え方するなよ! 異常なのは人間性じゃないからな!」


 人を危ない奴みたく言ってんじゃない。心外だよそれは。


「はいはい、どうでもいいわよそんな事」


 どうでも良い言われちゃったよ! ちょっとは聞いてほしいな僕の嘆き。でも、息が上がってるから上手く反論出来ない。
 さっきまででかなり空気を使っちゃったよ。それにここ暗黒大陸の空気は……いっちゃ悪いけど臭い。ゲロみたいな臭いが充満してる。


 何だろこれ……土が腐ってるのかな? とにかく、深呼吸なんて出来る物じゃない。こまめに息をしないとこっちが吐き気を催しそうなんだ。
 だから一度息が上がると大変。セラもそこら辺わかってるんだろうな。今の言葉も有る意味、セラから引いたようなもんだった。


 こいつにしては珍しい事だろ。でもらしくはあった。引いたけど毒は吐いたし、僕の空気も奪っていったんだ。そして自分には負担はない。
 ゴリラから逃げれたのは誰のおかげだと思ってるんだ。


「大変ね、直ぐに息が上がる人は」
「…………」


 嫌みにももう応えてやらねえ。こっちはこまめに息を吐いて吸っても、あんまり変わらないんだ。相手してたらマジ死ぬよ。
 するとそこへ、不安そうな顔の彼が歩み寄ってきた。


「大丈夫ですか? 僕を助けてくれたから……」
「別に……そういう訳じゃないですよ。普通の事です」


 助け合いはLROでは当たり前だ。それに結局は自分の為でもあったしね。


「普通でも、それで僕達は助かったんだ。君はそんな辛そうなのに……なんだか心苦しいよ」


 眉を深く下げて、ションボリとする彼。成人男性姿でそうやっても、別に悪いとしか思えないな。


「この異臭がなければ……」
「確かにこの異臭はきついわね。臭い付いて無いかしら?」


 僕の事を心配してくれてる彼とは違い、セラは自分の事を気にしてやがる。いや、そういう奴だってわかってるから、別にムカつきなんてしないけど……
 するとそんなセラを見て、彼はポンと手を叩いてとんでもない事を言いやがった。


「ああ! 思いつきました。口と口で直接空気を送りあえば、この臭いも気にならないかも知れません!」
「は?」
「ちょっ、何言ってるんですか貴方? それってつまり……」


 セラが文句を綴る前に、彼はまたも言い放つ。


「さあ、セラさん! 彼に綺麗な空気を上げてください!」
「ええええええええ!? なんで私が!?」
「いえ、男の僕とは流石にイヤでしょ? その分セラさんは可愛く綺麗だし、お二人は中も良いようなので、このさいこれをきっかけに出来ればと……」
「うにゃあああああああああああああああ!?」


 奇声を上げて、彼の言葉を遮るセラ。こればかりはセラに賞賛を送りたい。マジで良くやった。なんておぞましい事を言うんだ彼は!


 あのまま聞いてたら、それだけで吐き気が上がってくるわ! そりゃあ、セラは美人だろう……てかLROで美人か可愛いの部類に入らない方が珍しいけど……だけどそれでもセラなんだよ。
 考えれないな。いや、例え僕が土下座してお願いしても、セラならそんな僕の頭を踏みつけると言い切れるね! 勘違いするなよ。僕達の関係はそんなもんだ!!


「……グス」
「ほら、涙を流す程に苦しんでます!」
「いや、違うから!」


 自分で思っておいてなんだけど、思わず泣けて来たんだ。土下座して頭踏まれる自分が可愛そう過ぎた。しかもそれに甘んじてるし!


「ゲホッゴホ……」


 再び叫んだから、肺が苦しくなった。うう、貴重な酸素が飛び出した。するとせき込む僕の前にセラが立った。


「そんなに……苦しいの?」
「見て……わかんないのかよ?」


 なんだコイツ、苦しむ僕を見下して笑いに来たのか? 最低だな。


「そ、そうなんだ。ご愁傷様って感じだけど、一応聞いてあげる。私でもいいの?」
「あ?」


 せき込む口を押さえて、僕は上を見上げた。何言ってるのか理解できなかったからだ。するとセラは、視線を移ろわせて、キョロキョロしてる。耳が真っ赤に成ってるのが見えた。


「いや……え? 今なんて?」


 一応聞き返す僕。するとセラは、膝を折って姿勢を低くし、僕の目線にあわせてきた。うお、こうやって見たら、なんだか火照ってるってレベルじゃないぞ。
 なんか熱いし。


「だから、空気よ! 苦しいんでしょ? まあこんなのマウス・トゥ・マウス、救助だと思ってやってあげない事も無いって言ってるの!」
「いや、お前……でも、顔赤……」


 それ以上先は言葉が続かなかった。何故なら、セラは少しずつ顔を近づけて来てたからだ。どんどんどんどん、セラの青い瞳が迫る。
 吐息が掛かる距離までも近づくと、その瞳も閉じられて、意外とマツゲが長い事に気づいた。


(って違うだろ! いいの? これってどうなんだ? なんでセラがそこまで? ああ、生きる為か……そうだよな、こんな場所に初心者と取り残されるのはイヤだから……あああああ)


 頭の中がおかしく成りそうだ。だって今までこんな完全に意識してるキスなんてしたことない。セツリの時は事故だったし、日鞠の時は不意をつかれた感じだったもん。
 でもこれはどうだ? 瞳を優しく閉じた女の子の顔が目の前に……っていうか、視界いっぱいに広がってる。僅かに開いた口から漏れる空気は、この場所のそれとは比べ物に成らない程に香しい。


 僅かにセラの温もりも感じるし、蕾の様な唇は瑞々しく潤ってる。ゴクリ……と大きく喉を鳴らす。これってやっちゃっていいのか?
 もう直ぐそこだ、このままじゃあと三秒もすれば……マウス・トゥ・マウスに成っちゃう。


「はっは……」
「はっはっはっはっは……」
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっは……かっ」


 息が止まった。緊張のあまり小刻みに息を吐きすぎて、残量尽きた。目の前が黒く沈んでいき、世界が斜めに成っていく。そして右肩に衝撃が伝わると、セラの足しか見えなくなった。


「たたた大変だ!!」


 そんな彼の声が聞こえて、続いてセラの悲鳴が上がった。その後、僕にはセラの足が振り上げられた様に見えたけど、真実は意識と共に消え去った。




「死ぬんじゃない!!」
「あがっ!?」


 腹に入った衝撃が、僕の鼓動を無理矢理戻す。もうめっちゃ無理矢理だよ。地面を這い回ってゲホゴホ息を吐いて吸いまくる。
 こうなったらさ、臭い空気とか関係ねえよ! 


「お前な!!」
「勝手に死のうとするから悪いんでしょ?」
「凄い理屈を放り込んできやがった!?」


 別に勝手に死のうとしたわけじゃ無いっての。あれはセラが異常な事をするから……おおお、思い出したら顔が赤くなるな。
 それにセラの顔もまともに見れないってか……


「もう、いいよ別に。助かりました。ありがとうございます!」
「何勝手にお礼言ってるのよ?」
「頭下げてるのに不満がられた!」


 訳が分からないっての。こっちの気恥ずかしい気持ちを察しろよ少しは! 大量の水が落ちる音が辺りに響き、高い所から落ちてるせいか、水が僅かばかり霧上に辺りに舞っている。
 火照った頬にそんな霧が当たって、少しは火照りを抑えてくれる。すると流石に、ここでアホらしい争いをしてる場合じゃないと思えるよ。


「ああーもうどうでもいいよ。所でどうするんだこれから?」
「そ、それは僕も知りたいです!」


 僕の言葉に、ハラハラと遠巻きに僕達をみてた彼が参加してくる。てか今更だけどさ……


「そう言えば自己紹介まだでしたよね」
「まああの時は、直ぐに分かれましたからね。それにこんな事になるなんて思っても無かったですし……いやー息を吹き返して良かったですよ」


 流石大人な応対です。どっかの凶悪暴言メイドにも見習ってほしいよな。するとザッザと歩いてきたセラが、僕の背中を蹴りつける。


「なんか失礼な事を言われた気がした」
「心の声を読むなよてめえ」


 そして曖昧な証拠で人の背中を蹴りつけるなっての。本当に僕を傷つける事を躊躇わない奴だ。


「あ、あの……」
「ああ、ごめんなさい。あの時はごめんなさい。私はセラです。こっちの頭悪そうなのはスオウっていうの」
「おい、どこの誰だ? その頭悪そうな奴ってのは?」


 僕はセラを見上げてそう返す。だって何言っちゃってんだよセラの奴。勝手に株を下げる様な自己紹介するなっての。
 僕を見下ろすセラは、視線だけでアンタの事よって言ってるよ。


「えっと、僕はスズリです。よろしくお願いします」


 ご丁寧にお辞儀をしてくれるスズリさん。彼の丁寧なその態度に、僕達は改めて頭を下げる。


「どうも、よろしくです」
「ご丁寧に」


 なんだか変な雰囲気だな。こんな場所で改まって自己紹介がなんとなくおかしい。


「スオウ君にセラさんですね。やっぱり薄々そうじゃないかと思ってたんです!」
「どう言うことっすか?」


 スズリさんは変に興奮してる様に見える。それに薄々そうじゃないかって……そんなに僕ら有名なのって感じなんだけど。


「お二人とも有名じゃないですか! セラさんは大国アルテミナスのお庭番と聞いてますし、スオウ君は今現在話題沸騰中のクエスト挑戦者!
 最近のアルテミナス異変にも関わっていたとか!」


 アルテミナス異変ってあの戦いの事だよな? てかこの人、興奮し過ぎじゃね? やっぱ有名だったのって感じだ。お庭番なんだなセラって。コイツも変な二つ名持ってるよなぁ。
 お庭番って忍者じゃね? まあ忍者みたいな奴だけど……セラは一応メイドだぜ。


「冥土に送るメイドとして有名だよ」
「ああ、なるほどね」


 それなら納得。セラの奴にはそっちの方が似合ってる。メイドのフリしてる悪魔だからな。かしづくよりも、想像つくよ。


「そんな事どうでもいいわよ。それよりも、これからどうするかって事じゃなかった?」
「まあ、自己紹介も終わったしな。てか、そうだよ。トラップモンスターとか何とか言ってたよなお前?」


 何となく前に言ってた事を思い出した。色々と、聞きたい事が沢山ある。


「暗黒大陸は地続きだけど封印の地でしょ? だからここに入るには特殊な方法しか無い訳よ。その一つがトラップモンスター。
 まあトラップモンスターは邪道だけどね」


 邪道? そういえば案内人がどうとか言ってたな。普通ならそれで行くのが王道って訳か。だけどさ。


「トラップモンスターってそんなどこにでも居る訳なのか? こんな所に強制的に送るモンスターがそこら中に居るなんて考えたく無いんだけど」


 そんな訳ないと思うんだけどな。だってあんな雑魚、少し小慣れて来たプレイヤーだったら倒せてしまう。そうなると誰でも罠に掛かるぞ。


「勿論、どこにでもわいないわ。それに出現率も低いしね。そうそう出くわす事なんか無いわよ」
「じゃあ、何で僕達はこんな事に成ってんだよ? 運が悪いのか運が?」


 それなら泣きそうなんだけど……どれだけこんな事が起こりうるんだって事でさ。だけどそんな僕に、セラはまだわからないのって感じで口を開く。


「まあアンタの運は大抵悪いけど……原因はあるわ」
「原因?」


 僕がそう訪ねると同時に、近くのスズリさんがこう言った。


「それってまさか、アルテミナス事変ですか?」
「あの戦いの影響って事か?」
「まあそうね。そんな所」


 そういうとセラは、指を一本立てて説明をしてくれる。


「アンタが居たあの町、人がごった返してたじゃない。あれもそうなのよ。思い出してみなさい。あの戦いの時、何が起こった?
 アンタも体験したはずの筈のことで、後にまで影響されそうな事」


 影響ね……あの戦いは大概影響でそうだったけどな。だって国の首都まるごど吹き飛ばされてたし……後に影響でない訳がないだろう。
 僕が間抜けな顔で考察してると、セラはため息混じりにこう言った。


「モンスターよモンスター! あの時大量のオークが召還されたでしょ? そしてそれに伴って、ここら一体のモンスターはどうなってた?
 止まってたのよ、その出現がね!」
「ああ……確かにそうだったかも」


 あの町からタゼホへ向かう途中、そういえばモンスターに一度も会わなかったんだ。その影響だって言いたいのか?


「あの大量のオークがあそこに居れたのは、多分元のモンスターの存在を奪ってたからよ。でも戦いが終わって、それがあるべき様に戻された。
 でも今、奪ってた分まで一気にモンスターが出現してるの。だからこそ、レアな奴も出現しやすく成ってて、それを狙って沢山のプレイヤーが集まってるの」
「つまりそのトラップモンスターも出やすく成ってたって事か」


 そのせいでスズリさんが追われて、僕たちが倒して、こうなったと。なら元を正せば、シクラのせいじゃねーか!
 あの野郎、どこまでも人をおちょくるのが好きらしい。この状況とか、どっかで見てて笑ってんじゃねーか? すると「あの~」と小さく手を挙げるスズリさん。


「これまでの事はわかりました。僕たちがこうなったのはあの戦いが原因だって。でも……そんな事よりこれからですよ!
 あんな化け物級のモンスターがいるこんな場所、一刻も早く出ないと危ないですよ!」


 そう叫んだスズリさん。まあそれは僕も賛成なんだけどさ。ここに来たとき、最初にセラは言った。
「ここからの出方はわからない」って。


「これからね……どうすれば良いんだろう?」
「さあね。それがわかれば苦労しないわよ」
「ちょっと二人とも! もう少し真剣にですね!」


 僕達が余りにも軽く言うから、スズリさんは怒ってた。でも別に、軽く言った訳じゃない。どうするか頭で候補を考えてたんだ。


「って待てよ。やられれば良かったんじゃないか? 僕はともかくさ、スズリさんやセラはそれでゲートクリスタルへ戻される筈じゃん!」


 僕はなんて事に気づいてしまったんだ。これはLROの絶対的な法則だ。これは妙案。


「そ、そっか、そうですよね……やられれば……」


 そういうスズリさんは足が震えてた。この人をこれ以上巻き込まない為には、一度の死を覚悟して貰わないといけない。
 僕はそれが出来ないけどさ……二人が助かるなら、まあいいんじゃないかな。自分の事は自分どうにかするさ。
 そんな決意を胸に秘めてると、そこでセラが口を開く。僕のそんな提案を打ち崩す言葉をだ。


「それは無理……死んでもここからは出れないの」

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