命改変プログラム

ファーストなサイコロ

野生の咆哮

「うがっがっがうがっがっががうあががうがが!!」


 目の前の二首ゴリラはおかしな奇声をあげている。威嚇なのかもしれないその叫び。するとゴリラは、巨大な体を玉の様に萎めたと思ったら、一気にこちらへと飛んできた。


「なっ!?」


 そんな声を漏らした時には、ゴリラの巨大な腕が地面へと振り卸されていた。突き抜ける衝撃が、地面の黒い水を大きく押し上げる。
 足下を濡らす程度の水が、勢いを与えられて僕達の体を浚う。


「「うああああああ!」」
「きゃああああああ!」


 不気味な森に、そんな三人の叫びが木霊した。地面に突っ伏す僕ら。そんなに浚われた訳じゃない、数歩分位は水に流されたけど、僕達はそう変わらぬ位置に居るはずだ。


(っつ……なんていう早さ、あれが野生か? 頭から濡らされた)


 全身ビチョビチョ、だけどそんな事言ってられないか。あのゴリラ、次は何をするのか予想が付かない。てか、情報が少なすぎる。


「あ……が……」
「あ……が? ががががががががががが!!」


 変な音が聞こえると思った。僕はすぐさま、そこを見る。すると僕と同じように突っ伏す彼の目の前に、二つの頭をもったゴリラが迫ってた。
 いや、正確には彼をまるでのぞき込む様にしてるような……珍しい物でも見るみたいにだ。でも、そんな事をされる彼はたまった物じゃない。


 そこら辺のモンスターをも怖がる彼なのに、目の前に居るのは三メートルを超える巨大なゴリラ。ゴリラなだけに恐怖感もイヤにリアルに感じてるのかもしれない。
 目も閉じれず、口も開いたまま……乾いた目からは涙が溢れ、声に鳴らない声が漏れる口からは涎が垂れていた。そしてそんな彼を観察して、ゴリラは多分真似してる。その巨大な頭を傾げて、がががががやってるのは多分そういう事だ。


 だけど次第にその声に野生の猛りが混じってる様な気がしてきた。それにどんどん顔を近づけてるし……開いた口から覗く牙が彼を狙ってるような……いや、狙ってるよアレは!!
 あのゴリラかぶりつく気だ! 


「させるか!!」


 僕はセラ・シルフィングを抜き去り駆け出す。今更声を掛けたってあの人は動けないだろう。それに機動力も圧倒的に勝られてる彼は、どの道逃げる事は出来ない。
 ならやるしかないだろ。頭を切断する気合いで僕は腕を振るう。そして実際、出来ると思ってた……けど――


「何!?」


 ――セラ、シルフィングはゴリラの剛毛に阻まれてた。分厚い野生の毛が、セラシルフィングの刃を絡めとってる。


「ガア?」


 今気づいたかの様にこちらを向くゴリラ。目があった瞬間に、奴は楽しそうに吠えやがった。そして衝撃一線――


「ぐはっ!?」


 ――僕は地面を跳ねて転がった。腹にある鈍い痛み……だけど何をされたのかわからなかった。興味を彼から僕に移したゴリラが、こちらに向いている間に僕は痛みを堪えて観察する。
 腕じゃないだろう……さっきの攻撃があの屈強な腕からの物なら、こんな物じゃすまない筈だ。骨が数本と内臓破裂とかあってもおかしくない。


 直接系じゃないスキルって訳でも無いだろう、だってあのゴリラは明らかにゴリラだ。じゃあ何が僕を攻撃した?
 思い当たったのは、奴の尻から延びる鳥居に巻かれてる縄の様な尻尾。多分アレだろう。超強そうだぜあれ。今も地面にドスンドスンめり込んでるし。
 ある意味これだけのダメージで済んだのが救いだったと思える光景だ。


「ウガウガウガウガウガウガウガウガアア!!」


 吠えまくるゴリラ。そしてゴリラ特有の胸を叩く動作もしだした。テンション上がりまくりだ。何が一体楽しいんだか……ああ、プレイヤーを痛めつける事が、か。


「ふざけやがって……」


 僕はセラ・シルフィングを地面に突き立てて立ち上がる。こんな辺鄙な場所でやられる訳にはいかない。僕にはやることがあるんだよ。
 こんなゴリラに手こずってどうするよ。僕は呼吸を整える事に集中して、前を見据える。すると異変が起こってた。ゴリラの茶色かった毛が、今はどんどん赤く成って行ってる。


 あれか? あの行為が、スキルその物って訳なのか。見るからにパワーがアップしてそうだ。そしてゴリラは、地面を爆発させて迫ってくる。
 突き出すだけで衝撃波を生み出すパンチを紙一重でかわして剣を凪ぐ。だけど奴の毛は更に強度を増してるようだった。


 切れない……てか、皮膚にまで届かない。ゴリラのHPは一ミリも減ってないって事は、ダメージ認定されてないんだ。
 まさか、セラ・シルフィングに切れない物があるなんてビックリだ。なんだって切れちゃいそうな気がしてたんだけどな。


「うお!!」


 元気一杯に食い掛かってくるゴリラ。僕はそれに反撃するも、やっぱり刃は通らない。それでも、今ならなんとか互角位には見えるかも知れない。
 僕もまだゴリラの攻撃は食らってないからな。でも、それも時間の問題。幾らバカでもそろそろ気づく。僕の攻撃が無意味だってさ。


 そしたら勢いが更に増すだろう。交わし続けるのも限界だ。それに、防戦一方じゃやっぱり勝てない。どうにかして活路を見いださないと……黒い水を踏みつけながら、僕とゴリラは優劣がありすぎる戦いをしてた。


「くっそ!!」


 僕は毛が無い所も狙って攻撃するけど、そこら辺ではまさに野生的な感で攻撃をかわされる。八方塞がりだ。その時、ゴリラの後ろに迫る姿が僕には見えた。
 それはセラ、アイツは今まで何やってたんだよ。てか、直ぐに加勢しろよな。けどそんな僕の思いなんて関係無しに、セラの奴は一方的な視線を送ってくる。
 こう言う時だけに限って伝わるアイコンタクトで「引きつけといて」って僕は受けとったよ。


 何する気かは知らないけど、こうなったらセラが今まで動かなかった事を信じて任せるしかない。ゴリラの野生の感が、余計な箇所に働かない様にしないと。


「踏ん張り所だな。うおおりゃああああああ!!」


 僕は一気にラッシュを掛ける。体はデカけりゃ良いってもんじゃないんだよ。デカすぎるのも困るけどさ、こいつの大きさ位はある意味丁度いいよ。
 刃は通らなくても、滅多打ちには出来るぞ! 回転回転、また回転。ゴリラの攻撃をかわす回転。剣を打ち込み、次に繋げる回転。竜巻の如く、僕はゴリラをその風の中へと巻き込んでいく。


 イクシードを発動させてる訳じゃない……だけどいまここには、確かに僕の風が生まれてる。二対の剣を同時に腹に叩き込む。
 やっぱり切れはしない。けど――


「がぎっ!!」


 ――僅かに体を浮かせるゴリラ。体もくの字に曲がって、顔も僅かに強ばった。そしてその瞬間にセラも動く。手元で組み替えられる黄金の物体。それは大きなハサミへと化した。
 そしてそんなハサミを手に、セラが狙うのはどうやら尻尾の様だ。


「とりゃあああああ!」


 尻尾を挟んで、「うーうー」唸るセラ。いやいや、切れないだろそれは! セラ・シルフィングでも無理だったんだぞ。
 尻尾なんて毛の固まりだっての。


「てか、何で尻尾なんだよ?」
「え? 力の源でしょ?」


 おい、こいつ日本を代表する漫画と混同してないか。なんかあっけらかんと言った様がなかなか可愛いじゃないか。
 でも僕は厳しく言うぞ。


「どこの星の猿だよそれは!?」
「そ、そんなの知らないわよ!」


 有名だからこそ、何となくそこを狙ってみたって事かよ。セラの奴、それの元ネタ知らないだろ? 浅い知識を披露しないでほしいな。頼むからLROの知識と知恵を披露してほしかった。
 僕たちがそんな言い合いをしてる間にゴリラは動く。尻尾の剛毛に阻まれたセラの武器を振り払って、ターゲットをセラへと移して拳を繰り出す。


「セラ!!」


 僕はとっさにセラを庇う形で拳を受けた。セラ・シルフィングを交差させて正面で受け止める。いや、止め切れはしない。
 体は押されてる。


「うがあああ!!」


 そんな声で気合い一発。僕達はゴリラの腕力に逆らえずに吹き飛んだ。


「ぐあっ……があ!」
「きゃあ……つぁ……くっ!」


 地面を跳ねて、草に突っ込み、木にぶつかったりした。一応パンチを直接食らった訳じゃない筈なんだけど……桁違いのパワーだった。
 あんなの無理に踏ん張ってたら、押しつぶされてたかもしれない。


「大丈夫かよセラ?」


 僕は近くで同じように吹き飛んだセラに声を掛ける。


「大丈夫よ。別に、アンタが防いでくれなくても、一発位私なら耐えられたわよ」
「はは、文句言えるなら大丈夫だな。てか、本当にアレを一撃でも食らってよかったのかよ?」
「うぐ……」


 僕の言葉に、その情景を想像してかセラが微妙ね声を漏らした。まあ、想像するだけで嫌だよな。僕は絶対にまともには受けたくないね。
 セラ達普通のプレイヤーならまだ良いけど、僕とか血しぶきあげて粉々にされそうだ。それか、下半身と上半身が別れるとか考えられる。


 最悪だな。すこしずつ、草や木々で遮られた向こう側から、大きな足音が伝わって来てた。一気に追いつめに来ないのは、絶対的に自分の方が強いって確信でも持ってるのか? 
 それか、逃がす心配もしてないとか? どちらにせよ、確かに僕達の状況は絶対絶命だ。するとセラが手に別の暗器を持ってこう言った。


「てかアンタ、いつまで余裕でいる気? 全然攻撃聞いてないわよ。さっさとイクシード出しなさいよ」
「イクシードね」


 僕はセラのそんな言葉に、苦虫を噛み潰した様な顔と声で応えた。そして反論するようにこう言ってやる。


「お前こそ、聖典仕えよ。かなり……いや、滅茶苦茶強いぞあのゴリラ」


 あれが普通にフィールドを歩き回ってるモンスターだとは思いたくない。多分きっと、ポップ率が少ないレアモンスターなんだ。
 それだと僕達が運がいいのか悪いのかよくわからなく成るけど、そう思わなきゃやってられないだろ。これからを考えた等さ、このクラスの敵がフィールドを闊歩してるだなんて思いたくないんだ。


 そんな思いはセラだって同じ筈で、僕の言い分だってわかるだろう。今回ばかりはセラだって協力してくれると思うんだけど……だって自分の命かかってるし。
 でも聞こえてきたのは僕と同じ様な言葉だ。


「聖典ね」


 あれ? なんだか嫌な予感しかしねーぞ。自分の太股の辺りをサワサワして、「はは……」と力無く苦笑する辺りが、今の僕とダブってるっての。
 そしてセラも同じ印象を僕に持ってたみたいで、二人の視線が交差して、言葉が被る。


「お前まさか……」
「アンタまさか……」


 いぶかしむ目が向けられて向き返す。僕達は同じ結論に達してる。でも、それを口にするのって、なんか終わりの確認みたいじゃないか?
 近づく音はどんどんとは大きく成っていて、黒い水には荒々しい波紋が伝わってた。時間はない……ちょっと絶望しそうだけど、戦力の確認って大事だと思う。
 だから僕達は互いに口を開く。


「聖典使えないのか?」
「イクシード使えないわけ?」
「「…………」」


 図星な所を突かれて、お互いに沈黙する僕とセラ。いや、まあそれを言われるとは思ってたよ互いに。でも、それを自分じゃない奴が言うと、ズーンとくるわけだ。
 すると重い空気をぶち破って、先にセラが動いた。腕を激しく振りながら、僕を指さして言う。


「だだだだだって、アンタのせいじゃない! アンタのせいで、聖典一度使っちゃってまだ数分インターバルおかないと発動出来ないのよ!
 どうしてくれる訳!?」
「は、はあ!?」


 なんて女だ。また一方的に僕のせいか? んな訳無いだろ! それならこっちにだって反論材料は山ほどあるわ! 僕は立ち上がって食いかかる。


「ふざけるなよ! こっちだってな、あの訳の分からない戦いのせいでイクシード使っちゃったんだろうが!! そのせいで大ピンチだよ!
 イクシードさえあればあんなゴリラ二秒で切り刻めたのにな!」
「訳の分からない? あっそ! 聖典なら一秒で灰に出来たわよ!」


 どこに切れたのか知らないけど、セラも立ち上がって食いかかってくる。お互いに妙に熱くなってる僕らは止まらない。


「ならイクシードは刹那の瞬間には終わってるね!」
「聖典は光の速さに届くわよ!!」


 小学生の様な言い合いを繰り広げる僕ら。互いの切り札は、こんな自分達のせいで奪われたんだ。まさに自分達で掘った穴にハマってます。
 そしてそんな無意味な争いを繰り広げてると、一際大きな音と共に、波の様な波紋が広がる。すると頭上から何やらバキバキと枝でも折るような音が聞こえる――


「上から来るぞ! どけ!」
「アンタこそどけ!!」


 僕らは互いに突き飛ばしあってその場を離れる。その瞬間、バッシャ――――ンと二メートル位の水柱があがった。その余りの衝撃に再び転がる様になる僕。
 見えないけど多分セラも同じように成ってるだろう。まあ押しつぶされてなきゃだけど……言っとくけど、自分だけ助かろうとした分けじゃないよ。
 幾らムカついたからって、女の子を見捨てるなんて真似は――


「このクソゴリラ! 大事な服をどれだけ汚せば気が済むわけ!!」


 ――見えないけど、元気な声が聞こえてきて一安心。でも、さっきの言い合いの勢いそのままに食いかかってるけど、大丈夫かアイツ? 
 聖典使えないんだろ。そして案の定、ゴリラは必死に吠えてるセラの方を向いた。おいおいやばいぞこれ、セラの奴もよく探せば僕と同じように倒れたままじゃん。
 このままじゃろくに回避行動も取れないぞ。


「あのバカ――ん?」


 助けに行こうと思ったのに、何故か立ち上がれない。足が何か絡められてる。くそ、水が黒いせいでどうなってるのかわからない。
 僕が必死に足を引き抜こうとしてる間に、ゴリラは何かおかしな行動を度ってた。セラに顔を近づけて、その臭いをガフガフ嗅いでる。何をしたいんだあのゴリラは?


「ちょ! デリカシーの欠片も無いわねこのゴリラ……」


 少し引き気味でそんな事を言うセラ。まあでも、あんまり刺激しないようにはしてるみたいだ。そのまま時間を稼いでおけよ。
 僕は足を絡めるツタか何かと格闘中だ。でも直ぐに行くさ! だからそれまで……するとゴリラは、今度はセラに何かを差し出してきた。


 それはドロドロとした……ドロドロとした……いや、まあ地面の泥その物だった。そしてそれをベチャッとセラの顔に塗りたくる。
 その瞬間、セラの何かが切れた。


「乙女に何してくれるんじゃああああああああああああ!!」


 ドガン!! というもの凄い音の膝蹴りがゴリラの片方の顔の顎に炸裂した。そしてもう片方の顔には、目にも止まらぬ回転蹴りを叩き込む。
 ゴリラはこちら側に頭を埋めてぶっ飛んできた。


「お前、スゲーな」


 火事場の馬鹿力って奴か? 黒い水に沈んだゴリラからはボコボコと空気が出てる。このまま頭を押さえつけたら、窒息死してくれるだろうか?


「はぁはぁ、女子の顔になんて物をつけてくれるのよ」


 顔を腕で拭いながらセラはそんな事を言う。お前こそ、女子にあるまじき行動と形相だったと思うけどな。
 けど、もの凄い威力に見えたけど、やっぱりダメージとしては余り効いてない。無理もないか、結局はただの蹴りだからね。


 あれがちゃんとした脚用の特殊な武器を装備した状態でならかなり効いただろうけど、ただの蹴りなんてこんなもんだ。
 それでも、吹き飛ばしたのが信じれない事だけどな。てか、ゴリラの奴起きないな。マジで頭を押さえつけようか?


 もしかしてさっきの蹴りで昏倒してるのかも。威力はともかく、クリーンヒットな感じで入ってたもん。僕は恐る恐る手を伸ばす……だけどその時、ゴリラは勢いよく水から出てきた。


「ううおおおおおお!?」


 そしてそれに巻き込まれる僕。一瞬で天地が逆さまに見えるぞ。一体何が起きたんだ? 


「何やってるのよアンタ?」
「僕自身が知りたいわ!」


 呆れた様な目で見るんじゃない。せめて心配する感じで見ろよな。そこら辺が、セラは女子として成ってないよな。
 て、余計な事に頭を使ってる場合じゃない。何でこうなったのか、現状把握が最優先。そして見つけた。


「げげ……」


 視線を僕の足に持っていくと、さっき水の中で絡まったと思われるツタがあった。そしてそれを伝って更に上に行くと、ゴツいゴリラの腕が見える。
 つまり、水中から起きあがるとき、あのゴリラは思わず僕を絡め取ってたツタを掴んで起きあがった訳だ。だから逆さまに僕は吊されてる状態なんだ。現状把握完了だ。


 最悪だな。何なんだよこの状況! ゴリラは馬鹿力だからまだ気付いてないっぽいけど、気付かれたらおしまいじゃねコレ?
 そうこう思ってる間に、ゴリラは再びセラの前に陣取る。でも、流石に今は怒ってるのか歯がガチガチ鳴ってる。そしてその腕を振り被って、僕も一緒に振られた時、どこから勇敢な声が聞こえた。


「まま待ちなさい!! 僕が相手になってやりますよ!!」


 それは一人置き去りにされた筈の彼だった。僕達が嘘を付いてしまった初心者冒険者。そんな彼が、なんの変哲も無い剣を握りしめて、セラとゴリラの間に割り込んで来たんだ。


「君……」
「だだだ大丈夫ですよ……僕だってやるときは……ややります」


 セラの呟きに、男らしく返そうとして返せてない。でも、それが凄い事だと僕達はわかる。こんな凶悪なモンスターの前に飛び出すだけで、彼にとっては相当な勇気だよ。
 体は小刻みに震えてるし、今にも泣きそうだけど、その勇気はちゃんと伝わった。初心者の彼がここまでやってるのに、僕達がやらない訳にはいかないだろう。


 おかしな奇声と共に、まずは彼を潰しにかかるゴリラ。だけどその攻撃を僕が死角からの一撃で叩き落とす。その間にセラが、彼の腕を引いて大きな木の後ろへ行った。
 ムカついたのか、木々が震える程の声量で叫ぶゴリラ。全身がビリビリする……けどそれはビビった訳じゃない。火がついたって感じだ。


「調子にのってんなよクソゴリラ。人間の知恵と戦術は野生を越えるって事を教えてやるよ」


 そうでなきゃ、人間は生きていけないからな。でもどうやって? 格好良く、剣を向けてみたけど、残念ながらノープランだ。
 でもその時、パシャンと踏みしめた水が僕にある事を閃きさせてくれた。


(水のせいでぬかるんだ地面……セラ・シルフィングには風ともう一つの属性が宿ってる……これを使えば)


 僕は前を向いて走り出す。


「行けるの!?」


 木の後ろから顔だけ出したセラの言葉に、僕は意味有り気な笑顔を返す。そして強力な腕を振り回すゴリラとぶつかった。
 相変わらず刃は通らない。一回でもまともに当たったらヤバい攻撃の嵐。だけどそれを捌いてかわしつつ、僕は有ることを呟きやっていた。


 傷を付けられないと、このスキルの対象には成らない。けど、逆に傷を付けられるのであれば、それ発動してくれると拡大解釈というか、期待して僕はゴリラと対峙する。 怒濤の連続攻撃は、ゴリラに通りもしなく、地面を斬る始末。でも僕は止まらない。勢いまでも向こうに持って行かれたら、やられるからだ。


(そろそろ行けるか?)


 僕はそう思い、視線をちらりと下に向ける。すると黒い水の下で青白い線が光ってるのが見えた。僕は口元僅かに上げて、次のゴリラの攻撃を受ける振りをして、大きく空へと上がる。
 そして僕はこの言葉を叫ぶ。


「サンダーブレイク!!」


 青白い雷撃が、黒い水の中から溢れ出す。

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