命改変プログラム

ファーストなサイコロ

関係性の問題



 彼女『天道 夜々』が放った言葉……それは望んでいた言葉だったけど、本当は聞きたくは無かった言葉だったかも知れない。
 ガイエン……彼女が嘘偽りを言う必要が無いことは明白で、ならばこそその言葉は重たい。見たかった確かめたかった……だけどいざ、その可能性が確信へと変わると、なんだかそう思う。


「ガイエンか……やっぱり。なんでそれを知ってるんですか? 秘密なんでしょ?」


 僕は当然の疑問を口にする。友達だから……じゃこれは説明出来ないだろ。なるべくは、誰にも伝わらない方がいいんだ。
 でも彼女はそれを知ってる。それはどうして。天道さんは、置いてた花束をもってそれを見つめた。


「私の両親が当夜の頭脳を高く買ってたって言ったよね。まあ危ない時もあったんだけど、今はLRO……と言うかフルダイブシステムの出資企業の一つなの。
 だからそのツテでね。私達にとってもこれは痛い事だもの。こんな事が起こり得るのなら、今どんどん展開してるこの技術の行き先が無くなってしまうわ」


 天道さんの言葉は真剣な物だった。それもそうだろう。あれだけのシステムだ。莫大なお金がきっとつぎ込まれてるのだろう。


 企業は利益が出ると思って出資してくれてるんだ。それが外れたら、そのお金はそのまま損害に成るだけ……だからいろんな企業が、この事実を隠そうとするわけだ。
 病棟丸ごと隔離してるなんてさ、無茶事やってると思ってたけど、複数の企業が手を取り合ってるのなら納得だ。そして天道さんは企業側の人間で、聞いた限りでは社長令嬢のようだから、その情報が入ってきたって事か。


「でもまさか、この目で見るまでは信じれなかった。何でまたって思ったわ。後悔したもの、当夜の事。だからモノミーの事もそう。
 なんでこうなっちゃうのかなって……そんな訳無いって思ったんだけど」


 彼女は、花の茎が折れそうな程に腕に力を込めてる。天道さんはもう確認してるんだな。多分二日前位に。


「ごめんなさい……僕達がもっと強かったら」


 僕はそう言うことしか出来ない。そして実際、そう思う。僕にもっと力があれば。シクラ達を物ともしない力。セツリを離さないで居られた力。ガイエンを……救えた力。
 それがあれば……だけど幾ら求めても、あの時はもう戻ってはこない。


「どうしてスオウ君が謝るの? 私はある程度、この二日で調べたんだよ。まあLROの事は個人的に良くチェックしてるんだけどね。
 君達は良くやった側だよ。感謝こそすれ、誰も責めたりしないよ。だけど……あまり詳しく分かるわけでも無いんだ。それに当事者じゃないと分からない事は多いよね。
 ねえスオウ君。モノミーは何をしようとしてたのかな?」


 何をしようと……もしかして天道さんは、ガイエンをただの被害者とは思ってない? そんな考えが浮かぶ。だってある程度は知ってたんだよな。
 ならガイエンだって、アイリ達と同じ様に扱われてたっておかしくない。だってクーデターは外には発表されて無かった事実だ。


 ガイエンがその玉座を狙ってた事は、確かにその当事者しか知らない事で、外から見たらアイリが戻るまで良く頑張ったと言われてもおかしくない事の筈。
 ただの被害者であることに、疑問なんて無くても良さそうな物何だ。だけど彼女はこう言った。


『何をしようとしてたのかな?』


 それは外が知ってるだけの情報じゃ出てこないだろ。いや、二日経ってればいろんな話が出ててもおかしくはないかも知れない。
 僕の情報は古いのか。実際、アイリの代わりをガイエンが勤めてた期間、その指示に従わなかった奴らだって居たんだし……いろんな疑問に、自分勝手な解釈を加えた奴らがいてもおかしくない。
 ネットってそういうもんだ。


「どうしてそんな事聞くんですか? ただの被害者で、ただ心配してやるだけじゃダメなんですか?」 
 僕はもしかしたら意地悪な事を言ったのかも知れない。天道さんがどこまで知ってるかは分からないけど、真実って甘くはない。年下の僕が言うのもおかいしいけどさ。
 友達……何だよな。それなら尚更って思うんだ。


「ただの被害者でなんて済ませれないよ。私の友達だもん。それにね、調査はどうやったってするよ。私の意志じゃなく、もっと大人な人達が。
 それでも……どこまで分かるかなんて分からない。でも、君なら知ってるよね? 私はね……二人を取り戻したい。
 ネットの言葉だけじゃ、真実の判断なんて出来ない。言っちゃうとね、色々酷い事も書かれてる。でも……どこまでが本当かは知りたい。
 実を言うと、卒業後はよく分からないから、それを知ることでもうちょっとモノミーに近づけるかなって。何も分からずに心配するより、ちゃんとそれまでの事を理解したい。それからだって心配し続けられるよ。だって私達は友達だもん。
 私にはあるよね? 知る権利」


 天道さんの瞳は強かった。知りたいって意志がバシバシ直撃するよ。なんて言うか、こうやって打ち解けて来ると、案外大人じゃないかも――――と思ったりする。
 なんて言うかこの人、感情が直情なんだ。普段は必死にそれを隠してるっぽいけど、こうなってみると凄く真っ直ぐに突き進んでくるのが分かる。


 それはとても、子供っぽいって事でもありそうな。まあ僕も言えた義理じゃないとは思うけどさ。知る権利か……確かに彼女にはそれがあるだろう。
 そもそも僕に、言わない権利があるかどうか怪しい。天道さんは変わらずガイエンを心配し続けるって事だし、友達の少なそうなガイエンの貴重な友人を、減らす事にも成らないだろう。
 まあ僕的には、そこまで気遣う理由なんて無いんだけどな。でもこのままで良いと思うわけでもない。


「そうですね。変な情報を真に受けるよりはずっと良いかも知れない。でも……僕も確かめたい事があるんです。
 いや違うかな。確かめるのは天道さんの言葉で十分だった。ここにガイエンはいる。僕はそれをこの眼で見ておきたいんです」


 ようやく最初の目的を遂げれそう。僕が病室から抜け出したのはそのためだ。別に取引って訳じゃない。ついでだよ。ついで。


「見てどうするの? 君はきっと辛くなるだけだよ。もう十分過ぎる程の物を背負ってるんでしょう? それにさっき私も背負わせた。当夜をお願いって」
「それは今更な感じですよ。当夜さんは最初から助け出す気です。僕はあの二人をちゃんと連れ戻したいんですから。
 それに良いんですか? 友達なんでしょう? 一人だけ贔屓したら怒られますよ。きっと僕は、ガイエンを連れ戻せる一番近い所にいると思います」


 LROの三百万を越すプレイヤーで、僕がその道をきっと先頭で走ってる。それは自負できると思う。先頭って言うか、周りを見ても誰も居ないだけの様な気もするけど。
 まあでも、この発言は間違っちゃいないよきっと。てかなんだかデカい言葉が口を突いて出てるな。それは多分、僕も不安で一杯だから。


 もしかしたら追いつめられた方が良いとか思ってるのかも。セツリは僕の元から乗り換えて行ったし、何が出来るのか……よく分からないんだ。
 今ここで僕は、きっと止まってる。走り出す理由がほしいのかも知れない。これだけの傷を負ってさ……まだ走り出そうって言うんだから自分がおかしい。


 だけどどこかで、踏み出せない。心は決まってるのにスタートの音が響かない。それはやっぱり僕がどこかで怖がってたりするからなんだと思う。
 この痛さが……この辛さが……心を知らず知らずに蝕んでるんだ。見つめる先の包帯が……その中の傷が、これ以上進むなって言ってる様な感じ。


「いいの? 本当に? そこまでする事はきっとないと思うよ。それは本当なら、大人な私達がすることだもの」


 天道さんの言葉が、静かな空間に転がっていく。それこそ、静かな大人の言葉だった。だけど本当は違うって分かる。
 友達だもん……どっちかだけなんて願える筈がない。そんな訳無いじゃないか。だから僕は言葉を紡ぐ。彼女が大人だからこそ気を使ってくれてる所を、分かってるからさ。


「ええ、勿論。LROで誰も犠牲になんてしたくない。アイツの道が、誰かを犠牲にしてしまったらもうきっと戻れないだろうから……僕はみんなを助けて見せます」
「……そっか、それは頼もしい限りだね。うんお願い。お願いします。君なら出来る……私はそう信じるからね」


 そう言って天道さんは立ち上がる。バックを肩に掛け、花束を抱えて、そして僕に手を差し伸べた。


「君がそこまでしてくれるのなら、会わせない訳には行かないよね。病室から抜け出して来てるんでしょ? なら急がなくちゃ」
「う……分かってたんですか?」
「それは当然でしょ。だって辛そうだし、倒れたし。その状態で歩き回らせる医者はいないでしょ?」


 なるほど、言われなくてもその通りだ。僕は天道さんの手に自分の手を重ねて、引っ張って貰った。勢い良く状態が起きあがり、僕は綺麗なお姉さんと密着状態に。
 てか、彼女が僕の片手をそのまま肩の方へ回して支える態勢に成ってるから自然とね。顔を横には向けれないな。


「さて手早く済ませましょうか」
「え~と、よろしくお願いします」


 なんだか世話に成ってばっかりだし、このくらいは言わないとね。僕はそれなりに礼儀を重んじる人間だから。天道さんが支えてくれてるから、手すりよりも進みやすい。まあ当然だけど、それよりも女の人に肩を貸される日が来るとはね。


 こんな情けない自分に、誰かを救える事なんか実際出来るのかな? とか思えてくる。だけどちらりと見た、彼女の横顔は真っ直ぐだった。真っ直ぐに前を見据えてた。


 僕の方が大きいんだし、かなり体重を掛けてる様に成ってて大変だろうに、そんな言葉を漏らさない。彼女は今、僕をガイエンの所まで届ける事だけを考えてくれてる。
 出来る、出来ないかじゃない。やるかやらないかでも無い。出来る気でやるか、出来る無い気でやるかの違いだな。天道さんはきっと、自分を信じれる人なんだろう。それはとても羨ましい事だ。




 長い通路をしばらく進む。あいも変わらない代わり映えのしない光景に辟易するな。もう少し遊び心がほしいよ、この病棟には。
 まあ多分、ほとんど人がいないからこうなんだろうと思うけど……生活間って言うか、人が生きずいてるって感じがない。確かにあの二人は生きずいてるって感じじゃないけど、ここはやたらとヒンヤリとしてるんだよな。


 きっとこの病棟だけなんだろうな、この感じ。誰も居ない……誰もいない……そんな事を考えて歩いてたら、唐突に後ろから声がした。


「ああ――――! スオウ発見! って誰々それ誰!? 近い近い! 近すぎるよ!」


 超人間味を放つ奴が来た。居るだけで周りを明るくさせるような奴、日鞠の登場だ。天道さんは乗っけからの日鞠のテンションにちょっと驚いてた。僕はため息吐くしかない。
 そんな僕達の間に、日鞠はズカズカと歩み寄る。


「スオウ!」
「何だよ?」


 怒られるかな~って思った。だけど日鞠は僕の片側の腕を取ると、自分の肩に回してきた。


「フフ……これで条件は同じだね!」


 こいつが何をやってるのか理解に苦しむ。天道さんも日鞠の決め顔に困惑必死だ。


「何やってんのお前?」
「当然、逃げ出したスオウを捕縛しに来たの。そして今から連れ戻します」


 グイっと腕を引っ張って、逆側に歩き出す日鞠。


「イテテテテテ! ちょっとまてオイ!!」


 僕は思わず叫んだよ。すると日鞠は無言で更に力を込めて引っ張りだした。僕の痛がり様に、天道さんは踏ん張るのを止めて、日鞠に合わせる様にしてくれた。
 でもこれは……相当怒ってるなコイツ。元から捕縛って言ってたし、拒否権は撤廃されてる様だ。だけど僕はあらがうよ。
 そんな横暴は認めない!


「ちょっと待てよ日鞠! ゲップはもう吐き終わったのか?」


 その言葉でピタリと勢いが止まった。


「な、何の事かなスオウ? 女の子は綺麗な物しか体から出さないんだよ。ゲップなんてするわけ無いよ。女の子はいわば、全身空気清浄機みたいな物だよ」
「んな訳あるか」


 何を必死に守ろうとしてるんだコイツ。幾ら何でも、人の体はそこまで高性能じゃない。綺麗さを保つために、余計で余分な余り物やいらない物を外に出す。
 それは必要不可欠な事だ。そこまで取り繕う事じゃない。だけど日鞠は、僕を見てこう言った。


「でもスオウは、女の子はそうであって欲しいって願ってるでしょ? ゲップもそうだけど、オナラとか……あり得ないでしょ?」
「別にそれは……分かってはいるよ。ただ目の前でやられるのはどうかと思うだけだ」


 別に空気清浄機であって欲しいとは思わない。まあこれも十分に女性幻想なのかも知れないけどさ。でもそれだと、日鞠は僕の為にそう言ってる訳?


「その瞬間、幻滅なんてされたくないの。私は日々、体にビフィズス菌を宿す努力をしてるからね!」
「だからって排出物が無くなったりしないからな!」


 お腹の調子は良くなるだろうけど、決して体内で全てのエネルギーに物質を変換させたり出来ねーよ。ビフィズス菌はそれだけのポテンシャル有してない。
 てか、その努力って毎日ヨーグルト食べるだけだろ。そう言えばコイツが便秘に成ったところなんて見たこと無い。女の子はそう言うのに成りやすいって聞くけどな。
 いや、言わないだけか? 僕の為に。


「とにかく、スオウはけが人なんだから、病室で大人しくしてなさい!」
「本当にけが人と思ってるのなら、もう少し丁寧に扱え!」


 さっきから僕への扱いが明らかにずさんだろコイツ。けが人を力ずくってどうよ!? 痛がってたの無視してたし。
 すると僕達のやりとりを見てた天道さんが、クスクスと笑い声を漏らしてた。それに気付いた日鞠は、明らかに見えてた筈の天道さんを今気付いた様な体で見つめる。


「所で、そちらの方はスオウの背後霊じゃ無いですよね? どなたですか?」
「おいおいお前な、背後霊ってそれは無くない?」


 スッゲー失礼だろ。誰からも好かれる筈のアビリティを有する日鞠が、自分から嫌われに行くなんて珍し過ぎる。だけどそんな日鞠にも、天道さんは大人的に狭量の深さを見せてくれた。


「ううん、全然いいの。背後霊じゃ無いよ、私はれっきとした人間で『天道 夜々』って言うの。私もね、関係者なんだよ。
 貴女は、スオウ君の彼女かな?」
「ブッ!!?」


 思わず吹いた。てか足下から崩れ落ちそうになった。


「私は日鞠って言います。今の質問の答えとしてはそうですね~。無きにしも有らずです」
「ねーよ! まだ何にも無いだろ! 何意味ありげな感じで言ってんだ! 幼なじみ! 単なる幼なじみですから!」


 なんか急に機嫌が良くなったな日鞠の奴。彼女に見られたのが相当嬉しかったみたいだ。そして必死に弁解する僕もなんだか滑稽だ。


「あははは。本当に二人は仲が良いんだね。幼なじみなんだ~二人もう、結婚しちゃえばいいのに」
「何ですかその発言!?」


 天道さんまで何言っちゃってんの? すると片側から強烈な光が照りつけて来るような……これは太陽の光じゃないよな。


「そう思ってくれますか!?」


 光を放つ主は日鞠だった。そう言って、眼をキラキラさせてやがる。あの発言は日鞠の心に深く届いた様だ。


「ええ、二人はとってもお似合いだと思うわ」
「お姉さまって呼ばせてください!」
「はは……やっぱりどこか似てるよね二人とも」


 確かに天道さんの言うとおり何かデジャブ感があるな。ようやく終わった事を、日鞠の奴がほじくり返すなよ。


「あれでも、二人はその……イチャイチャしてたんじゃ無いんですか? お姉さまには悪いですけど、スオウは私の物ですよ」
「お前の物じゃねーよ」


 そして何を見てたら、あれがイチャイチャに見えるんだ。機嫌が悪かったのはそのせいかよ。たく……なんでコイツは、いつもそうなんだよ。
 最近気付いたけどさ、僕に女友達が少ないのって、日鞠のせいじゃないか? クラスメイトの女子達も、僕にはなんだか一線置いてる感じだし……その発言を至る所でやってる訳じゃないだろうな?
 いや、それなら僕はどっかの誰かから刺されてもおかしくはないか。日鞠の奴は人気者だからな。


「大丈夫だよ。別に私は彼をどうこうしようなんて思ってないからね。安心して。私たちは今からちょっと行くところが……」


 天道さんの言葉が途中で濁る。そして視線が僕へと向いてた。ああそっか、ガイエンの事はなるべく秘密にしておきたいこと。
 言っても良いものか、日鞠が口堅いかその判断は彼女には出来ない。日鞠は天道さんと僕を交互に見つめて、最終的には僕に圧力を掛けるんだから止めて欲しい。
 頬を膨らませて何を無言で訴えてるんだコイツ。


「大丈夫ですよ。日鞠はお喋りだけど、口は堅いから。人の秘密は絶対に漏らしたりしませんよ」
「そっか……ふふ、信じあってるのね」


 う……その言葉は余計だけど、面倒だから否定するのは止めた。一人だけ取り残されてる日鞠は信じあってるの部分にだけ、反応してた。


「で、秘密って何? スオウが病室から抜け出した理由だよね?」
「日鞠さん。実は二日前にもう一人、ここに運ばれて来た人が居るんです。その人を彼を確かめたかった……それだけ何ですよ」
「ああ、それって佐々木さん達が入ってった部屋の事ですか?」


 結構空気を落として話した筈なのに、日鞠の言葉であっさりとその空気が壊された。


「知ってるのかよ!」
「うん、だってまずは探検するでしょ? そしたら名前が書いてあった病室があったもの」


 探検って……そう言うのは小学生で卒業しとけよな。高校生にまで成ってまでそれはどうかと思うぞ。だけど天道さんの言葉を聞いた日鞠は、流石に察しが良かった様だ。


「じゃあ、もしかしてその人もLROのせいで? スオウの知り合いって事?」
「知り合いって程なのか……僕は微妙だけどさ。アギト……じゃなかった秋徒の友達だよ。あの戦いで助けれなかったんだ」


 僕の言葉に、日鞠はやや思案顔をして、それから言葉を発する。


「そうなんだ。秋徒のね。じゃあまさか愛さんとも?」
「ああ、そうだな。LROじゃその三人が、こっちの僕らみたいな物だったんじゃないかな」


 想像だけどね。だけど多分間違っちゃ居ないだろう。愛さんってのはアイリがこっちで僕達に伝えた名前だ。ちなみにね。


「そっか、じゃあその人の事なんだね。秋徒が戻って来てから何かを必死に調べてたよ」
「アイツが……」


 いやそれは当然か。どうにかして、ガイエンがどうなったのか知りたかったんだろう。だけどその時には、既にここに運ばれてたのか? 
 流石に僕の知り合いだからって、そこまで報せる義理は佐々木さん達には無かったって事か。


「ねえスオウ。今は戻ろうよ。これは秋徒達も呼んで・・それが正しいんじゃ無いかな?」
「確かに……そうかも知れないけどさ」


 それだけの人数にそれを見せる事を大人な人達が許すだろうか? いや、それくらいはさせなきゃいけないのか。


「そうだね。それが正しい。大丈夫よ、君は私たちに必要だから大抵はどうにか成るわ。でも……忘れないでね。失望するかも知れないけど、大人はね仲間でも味方でも無いって事を忘れないで」


 天道さんのその言葉はイヤな位に頭に残った。その日は結局、病室に戻ったよ。そして数日後、アギト達と共に僕はそれを見据える事になる。

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