命改変プログラム

ファーストなサイコロ

白いベットの上で



 ドタドタドタドタ――――そんな音が聞こえる。ガタガタガタガタ――――そんな振動も伝わってた。そしてズキズキズキズキ、そんな痛みが全身を襲う今日この頃……僕はめでたく絶賛入院中です。




「――――て、全然めでたくね――――――――!!」




 しまった、つい自分の現状に自分自身で突っ込んでしまった。まあより現状を説明すると、ここは病院でありまして、僕は二日前位にここに緊急搬送された……らしいのです。
 らしいのですってのは、僕はその時の事を覚えてないので、人伝に聞いたところはそういう事らしいんです。てか二日前……とある事件(というか殆ど戦争)がやってた間に、僕は既に病院へ搬送されたらしいんですよこれが。


 なんとまあおっかなびっくりの事実です。自分的には、あの最後の瞬間……周りが勝利に沸き立つ中、ひっそりと落ちていった後にでも、自分でどうにかこうにかして、119をダイヤルしたと思ってたら、もっと前から病院だった?
 おいおい、じゃあ僕は緊急搬送される程の怪我のまま、あれだけの死闘を繰り広げてたって事か? まさに片足棺桶に突っ込んだ状態って奴だよ。


 全く自分が恐ろしい。マジで死に逝く五秒前じゃねーか。むしろ生きてる事の方が奇跡みたいな感じだよ。てか医者にさっきそう言われたし。
 僕が目を覚ましたのはほんの十分前位なんだ。そこであれやこれや伝えられて……それから「少し落ち着いたら話そう」などと佐々木さん達に言われたんだっけ? 


 なんせ二日寝た後の寝起きだったから靄がかかってる感じなんだよね。だけど……一つだけハッキリ覚えてる事がある。
 それは日鞠の事だ。あいつ僕が起きた直後に、泣きながら抱きついて来るものだからさ。しかもけが人を抱きしめる力が異常だった。


 怪我のせいで余計に強く感じたのかも知れないけど、それでも痛い位だった。でもその声が……香りが……僕がリアルに戻ってこれた事の証みたいに感じれた。
 安心したって言うのかな。僕は思わず「ごめん」と謝って、そして「ただいま」と日鞠に伝えた。すると日鞠は「おかえり」とだけ言ってくれた。


 やっぱり怒ってるのかも知れなかったな。あの時はきっと、喜びの方が上回ったから何にもなかったけどさ、落ち着いて戻ってくる来た時には、流石に説教がありそうだ。
「幾ら何でも無茶しすぎ!」とか「どうしてそ容量悪いの!?」とか、自分基準の事を言いそうだ。誰でがお前みたいな超人じゃないっつーの。


 まあだけど……なんだかそういう説教、実は楽しみにしてたりして。別にMに目覚めたとかじゃなく、もっともっとリアルを感じたい様なさ。
 僕にとってのここでの生活は、アイツがいないと始まらないし。おいおい……そう考えると、僕は主人を待ち続ける愛犬かと思えてくるな。
 どっちかっつーと、僕がもの凄く世話を焼かれてるんだけど……人間関係って複雑だ。


 カーテンが風に揺れてる。木漏れ日がもう暖かいな。後数時間もすれば、嫌気が指すほど太陽が頑張り出すんだ。今はそういう季節。
 空は低く、雲の中に天空の城があれは絶対にあるぜ! って思える程の入道雲がそびえてる。


(夢……)


 だったんじゃ無いかと、こんな静かな空間に一人居ると思ってしまう。体中を刺激する痛みが、そんなわけ無いと告げてくれてるんだけど、何となくそんな思いが沸いてくる。


 僕は窓から視線を外し、近くの棚に目を向ける。そこには僕達をLROへと誘うゲーム機が置いてある。頭にスッポリ被る形の機械的なヘルメットみたいな奴だ。
 まああんな形でも、意外と軽かったりするんだ。だから長時間の使用もOK。推奨はされてないけど……しかも元々横に成ってが前提だから、重量は結構どうでも言いような気もしなくはないな。


 そんなゲーム機を手に取ってみる。う……さっき結構軽いとか言ったけど、こうやってみると意外と重く感じるな。
 ズシッと腕に来るような……単に僕が弱ってるだけだからだろうか? 何とかベットの上に持ってきて太股位におく。


 なんだろうな……まだ買ってから一月も経ってない筈なのに、もっと前から持ってた様な気がするよ。まあそれだけ、ここ数週間はこいつに世話に成りっぱなしだったからな。
 でもまだまだ綺麗だ。数週間で傷だらけに成るわけも無いけどさ。ゲーム機の登頂部に手を置いてナデナデしてみる。なんだか褒めてあげたくなるじゃん。


 ほんと凄いんだからさ、LROは。それの扉を開いてくれるこいつは偉い。スッゲ~よ。ナデナデナデナデ……ナデナデナデナデ……
 たった一人の病室の中で、木漏れ日がゲーム機のメタリックなボディに反射して、僕は目を細める。そして手も止まる。


 なんとなく、本当に何気にだけどさ、それを被ろうと持ち上げた。だって気にならない訳が無いじゃないか。別にダイブしなくてもそれを知る術はある。
 その位は許されるだろう。
 でもその時、ガララとドアが開いた。そしてうるさい声が高らかに響く。


「あああああ~~~~!! スオウがスオウが私との約束破ろうとしてる!!」


 それは紛れも無く日鞠だ。自販機で買って来たんだろう缶ジュースを胸に抱いて、もう一方の腕を振り回しながら嘆いてた。


「別に、ダイブする訳じゃないよ。ただ単にサイトにアクセスするだけだ。それに約束って何だよ? そんなのした記憶ねーぞ」


 僕はため息付きながら、ゲーム機を被る。すると日鞠はスタスタと歩いてきて、缶ジュースを脳天にズバーンと振り下ろした。


「ってぇぇぇぇぇ!! 何すんだよ! 幾ら頑丈だからって壊れたらどうするんだ!! いや、そもそもこっちはけが人だ!!」


 なんて酷い事を躊躇わずにやる奴だ。二重の意味で最悪だ。ゲーム機を壊そうとしたことと、病人の怪我を増やそうとしたことな。
 本当に信じられない。躊躇というものが微塵も無かった。一瞬なにされたか分からなかったもん。


「酷いよスオウ。私の気持ちも考えないで……」


 少し震える様な声で日鞠はそういった。なんだか日鞠が急に汐らしくなるとズルいな。僕が悪く感じる。攻撃されたのに。
 でも確かに、浅はかだったかも知れないと思う。日鞠はこの二日間ずっと傍にいてくれたんだ。死にそうだった僕を僕よりも知ってる。
 心配だってずっとしてくれてたのは間違いない。「私の気持ちも考えないで……」確かにそうだ。


「ごめ――――」


 僕はしょうがないから素直に謝罪をしようと思った。だけどその言葉に、日鞠の言葉が重なった。


「一緒に成ろうって言った傍からゲームだなんて! せめてラブラブの新婚生活をエンジョイさせてよ!!」
「はぁ?」


 あれ? なに言ってんのこいつ? 近頃暑かったらしいから、頭に変な虫でも沸いてんじゃないか? 元々沸いてる様な奴だったけどさ、今のそれが僕を叩いた理由だとしたらそれは、怒って良い筈だ。


「あれ覚えてない? 大丈夫大丈夫! ちゃんと誓約書もほらここに!」


 そう言って日鞠はコピー用紙の様な紙を取り出した。そこにはパソコンで書かれた文章と、その下に赤い手形? が押してある。


「DNA調べれば、これがスオウの血だって分かるよ!」
「血判じゃねーか!! 人が血を吹き出して病院に運ばれてた時にお前は何やってたんだ!?」
「心配してたよ」


 キラーンとウインクをする日鞠。


「嘘付け!!」


 そんな決め顔をする奴の言葉なんて説得力ねーよ。せめて治療の後なら、納得は出来ないけど分かってやる。でもさ、そのべったりと付いた血……滴ってんじゃん!!
 絶対に危ない時に、それやったよな!?


「違うよスオウ。スオウの血は全然止まらなかったから、血判には事欠かなかっただけだよ。だって傷が塞がらなくて、増えてくんだもん」
「そんな状態の時に良くやったよそれ!!」


 何そそくさとそんな誓約書まで作ってんだ。頭痛い。目の前のこいつが恐ろしい。でも流石に僕の思いが伝わったのか、日鞠は急に拗ねる様にしてこう言った。


「もう、しょうがないからこれは冗談でもいいよじゃあ。だけどねスオウ。私がちゃんと心配してた事は本当だよ」
「どの口がそれを言ってんだ?」


 う~んなんだか、異様に腹が立つ様な……なんか寂しい様な気分に自分は成ってる。この気持ちをどっちに傾かせればいいのかわからん。
 僕は日鞠から顔を背けて、ゲーム機を操作する。すると目の前にデータを出力するための画面が降りてくる。するとガツンと再び缶ジュースで小突かれた。


「お前な!!」
「ほらほらスオウ、良く見てみてよ誓約書。どこかおかしな所があるよ」


 何でまだ瞳を輝かせて語ってんだコイツ。しかもどっからクイズ形式に成ったんだよ。てか……その誓約書、見たくもない――――ああ、あったやおかしな所。


「存在事態がおかしいなそれ」


 これは当たりだろうと、確信もって僕は言えた。うん、自信満々だ。見覚えがない誓約書は、存在事態がおかしい筈だ。犯罪の匂いがするぜ。
 だけどどうやら、日鞠にとってはそう言う事じゃないらしい。おもいっきり否定されたよ。


「違う違う全然ちが~~う!! これの存在は正当です!」


 さっき冗談って、コイツ自身が言わなかったっけ? まあ既に突っ込むのも面倒だから良いけどさ。すると勢い混んで、日鞠は誓約書を僕の鼻先近くに押しつける。
 いやいや、ここまで近づけたら逆に見えねーよ。


「この血判! この手形! なにかおかしいと思わないの?」
「何がって……」


 僕は必死に体を後ろに反って手形の血判を見る。う~んどこからどう見ても、グロテスクなんだけど。てかこの態勢きつい。痛い。
 けが人に対する扱いが酷い。今やもう、目覚めた直後のあの行為すら、やっぱり嫌がらせだったんじゃ無いかと思えてきた。


 最近、僕の扱いが酷くないかコイツ。あんまり家に来ないし(会わないだけだけど)。別に寂しい訳じゃないけど、毎日の図々しさが懐かしいって言うか……なんか存外に扱われてる気がする。


「何がだよ」


 僕はやっぱり存在しか思いつかないぞ。


「全く、スオウは私の事以外盲目だよね」
「なんだそのさりげなく放り込まれた物騒な言葉は!?」


 余りの自然さに、相槌を打ちかけたじゃねーか。顔色一つ変え無い所か、自信満々に言い切りやがったな。だけど日鞠は、僕の驚きを軽く流す。


「はいはい、私は分かってるかいいよスオウ。しょうがないから、答えを教えてあげる。ねえスオウ。この手形、スオウのにしては小さいと思わない?」
「……う~ん、まあ言われてみれば」


 手のひらだから解りにくかったのかも知れないけど、確かに小さいな。それに指が細くて長い。女子の手の判断って普段は手の甲側でやってるから気付かなかった。


 だって手のひらを見て、「綺麗な手をしてますね」って言わないもん。って事はこれは女子の手な訳だ。それもここでの女子は、目の前のコイツしかいない。


「お前の手って事は理解するけど、どう言うことだ?」
「つまりね、この手は私だけど、血は確かにスオウの血なの。これはまさに、私がどれだけスオウを心配したかの証。信愛の血判だよ!
 想像してみて」


 想像って……日鞠はあの日を思い浮かべる様に目を閉じる。その顔が異様に近くて、目のやり場に困ったから、僕も目を閉じた。
 すると日鞠の声に吸い込まれる様に、引っ張られる。映像が頭に浮かぶ。


「あの日、スオウは血塗れだったんだよ。そんなスオウの手を私は躊躇わず握った。握り続けた。どうやっても血が止まらない。
 傷は増えていくばかり。大量の輸血を続けて、何とか持ちこたえさせてた。でも、輸血する血も無くなるかも知れないって……そう言われたんだよ。
 医者にはどうにも出来なかった。でも私には握る事が出来たの。それが出来るの。信じて信じて、スオウは絶対に死んだりしないって思いを込めて、血が溢れ続ける手を握ってた。
 でも私もただの女の子だよ。自分の手に満遍なく付いたスオウの血を見て、その思いが一度くらい揺らがないなんて思う?
 ふと私はこの血が暖かい内に自分の夢を叶えたいっておもった。嘘でもいい。酷くったって構わない。私達の仲を表す証明が欲しかった。
 だから私は……鞄から誓約書を取り出して、震える手でそれに血判をつけたの。でもそしたら、嘘じゃいやだと思った。そしてこれが本当に成るように願いを込めて手を握ったよ。
 そしたらね……スオウは今日、目を覚ましてくれた」


 目を開くと、そこには優しく微笑む日鞠が見える。太陽の光がそんな彼女を照らして見えた。白い肌、頬は僅かに赤み掛かって、目は良く見たら赤いじゃないか。
 綺麗な黒髪を、今時珍しい三つ編みにしてて、その長い三つ編みがゆらゆら揺れてる。実際これは、日鞠には余り似合ってないと僕は思ってるんだけどな。


 日鞠は内気じゃないし、文学少女な訳でもない。出来ない事は無いんじゃ無いかと思わせる程の、アビリティを有するバグキャラだよ。僕から言わせれば。
 RPGで言うなら、「伝説の勇者」とか「英雄」的ポジション。そんなイメージの奴が、三つ編みってさ……だけど日鞠はそれを気に入ってる様なんだ。


 僕から見れば、必死に普通を装ってる部分が三つ編みだけって感じだけどな。周りには、その似合わなさのギャップでトレードマークに成ってる風もあるんだけど……まあ僕は、この三つ編みを解いた時のギャップの方が好きだから良いんだけどね。
 三つ編みをやめたら、それを感じれなく成ってしまう。


「どうしたの? 納得出来ない? う、嘘じゃないよ」


 目を開いたのに何も言わない僕に、日鞠が不安そうにそう訴える。うぬっ……またそう言うズルい顔を。僕は誓約書を奪い取って破り捨てながら言ってやる。


「信じるよ。お前は肝心な所では嘘なんて付かないからな。でもただし、こんな物は残しておけない」
「ええ~」


 残念がる声を出す日鞠。「額に入れて飾っとこうと思ったのに……」とか妙な言葉が漏れ聞こえてきた。なんて恐ろしい事を考えてやがったんだコイツ。
 せめて、誰にも見えない場所に大切に保管しとくんなら、かわい気もあるけどさ~それはどうよ。なんか痛いよ。


 僕はビリバリと誓約書を破き終えると手を止める。そして包帯だらけの自分の手を見つめて、顔を上げないように気をつけながら口を動かす。


「別に……こんなのいらないんだよ。ちゃんと居るからさ、帰ってくるから……心配するななんて言えないけど、誓ってやる。
 死なないよ……僕は、絶対に」
「……うん!」


 日鞠はようやく、いつものヒマワリみたいな笑顔で笑った。太陽を一身に浴びたようなその笑顔は、いつだって僕には眩しい。眩しすぎる位だ。僕はそう感じるのが、世界中の誰もと共感出来ると信じたい。
 だってそうじゃないと……自分の矮小さに死にたくなるじゃん。まあ取りあえずは、今は誰もがそう思ってくれてるみたいだけどな。


 プシュッ――――ジュワジュワジュワジュワワワ~と缶ジュースの中身が溢れでてる。日鞠が僕に気を使って、プルトップを開けたら、どうやらそうなったようだ。
 てか、炭酸をバンバンと僕の頭にぶつけてたのかよ。本当はそれも僕に開けさせる気だったんじゃないだろうか? でも思わず良い方向へ話しが言って、甲斐甲斐しさでもアピールしようと思ったら、自分の策に自分がはまったと……そう言う可能性も無くはない。


 まあでも普段、コイツって僕の事ばかり考えてるからな(決して自慢とか、自意識過剰とかじゃないよ)。嫌がらせも甲斐甲斐しさも、日鞠にしてみればどっちも本気なんだ。
 だからこそ、あの慌てようだ。


「わわったっちょ――――ぬばばぁぁぬばばぁぁ!!」


 なんだよ「ぬばばぁぁー」って。


「おい、こっちに向けるなよ! ベットが汚れるだろ!」
「飲んで飲んで! 勿体無いよ!」
「ああ――――ったく!」


 自分の後始末を僕にやらせるのかよ。僕は向けられた缶ジュースのシュワシュワやってる所に口を付けて吸いまくった。だけど――――


「ぐはっぐはっ! 流石に全部は無理だ。キツすぎる」


 それに、口の中まで傷があるのか知らないけど、かなり凍みた。これは当分、食事も辛そうだ。
 僕が缶ジュースから離れると、日鞠の目がマンガ表現みたくキラーンと光った気がした。そして今度は日鞠が缶ジュースを自分の口元に持っていく。


「よし! これで間接キスだよ!! 頂きます!!」
「狙いはそっちか!?」


 僕の読みは甘かった様だ。全然浅はかだった。くそ、いつだって僕の斜め上を行く奴だ。あざ笑ってんのか? 日鞠は炭酸にも関わらずにものの数秒で豪快にジュースを飲み干した様だった。
 どれだけ興奮してるんだよ。だけど流石に女の子だから、最後のプハァって奴はやらない。だけど炭酸だったのが災いしたのか、どうやら何かが上がってきた様だ。


 日鞠は喉を伸ばして、頬を膨らませ、口元を手で押さえる。必死にその現象にあらがってる。だけどまだ半分以上残ってたのを一気に飲んだんだ。
 それはいつもの比じゃ無いだろう。みるみる内に、目に涙が貯まってきてる。


「んー! ん――――!! ――――――――――っ!!!!」


 日鞠は限界を感じたらしく、猛然と病室から出ていった。どこまで走る気なんだあいつ? 見れば病室のドアの所には、日鞠が買ってきてたもう一本のジュースが落ちてる。それが病室のスライド式ドアが閉まるのを防いでた。
 そしてその隙間から誰か……というか多分通りすがりの看護士の人達の声が聞こえてきた。


「はあ、一体院長は何を考えてるのかしらね? そりゃあ、あの会社がこの病院に多額の援助をくれてるのはわかってるけど、正規のカルテにも書けない様な患者を次々引き取るだなんてね」
「そうですよね~。それに知ってます? 今回の二人も、あの特別病棟の二人と同じゲーム機付けて運ばれて来たんですよ。ヘルメットみたいな、頭にスッポリ被る奴。
 LROって言って今巷で大人気のゲームらしいんですよね~。しかもそのゲームを作ったのがあの会社らしいし、事故を隠してるんじゃないかって噂が……」
「ちょっと! 不祥事はごめんよ全く。いくら大変でも、職は失いたく無いわ。この年で再就職は難しいだから」
「結婚して寿退社はしないんですか先輩?」
「アンタ……殺されたいの?」
「ええ~イヤですよ。私死ぬなら、愛の修羅場で逝きたいと決めてますから!」
「アンタ、そんなんだからいつまで経っても新人なのよ。金持ちの男を漁りに病院に来てるの?」
「それ以外に何の楽しみが!?」
「アンタは今、全国の看護士を敵に回す発言をしたああああ!!」


 ぎゃあぎゅあぎゃあぎゃあ――――なんだか収集が付かなく成ってるな。重要な事を言ってたのに、どうでも良い方へ会話が流れて行ってしまった。
 たく、女の会話って唐突なんだよな。ズレていくっていうかさ……でも気になる部分はあった。どうやらここに運ばれて来たのは僕だけじゃない様だ。


 一体誰が? いや……予想は付く。あの戦いで、僕以上の傷を負い、同じく浸透率が高かった存在は一人しかいない。


「ぐっ……」


 胸がズキンと痛んだ。もしかしたら怖いのかも知れない。その光景は、この道の先の自分と重なるかも知れないから。
 それにそれを確かめる事は、自分が何も出来なかった事をもう一度突きつけられる様な気もする。


「でも……」


 見とかないと……そう思った。目を逸らす事は簡単だ。だけど受け止める事の方が大事だろ。僕は地面に足を付き、冷たい床を踏み出した。

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