命改変プログラム

ファーストなサイコロ

輝ける国

 周りが炎で包まれる。凄まじい熱気と熱量。触れなくても、これじゃあ息さえも危うい状況だ。でも……あの涙が目に焼き付いてる。


(違うだろ……)


 そう思わざる得ない。サクヤは……こんな事望んでない。お前は……もうそんなサクヤの顔まで見ることを止めたのかセツリ。
 それを考えると苛立たしくて、怒りがこみ上げる。サクヤは誰よりも望んでた。いつだってセツリの一番の味方だった。


 それを……無くしたくないからって何やらせてんだ? どれだけお前は甘くて、わがまま何だよ。本当に、お前が望む世界はそんな物なのかよ。
 自分にとって都合の良い世界ってのは、誰も自分を否定しなくて、誰もが自分の思い通りに動く世界なのか? 誰も裏切らず、誰もが大切にしてくれる……そんな世界が良かったのかよ。
 見たくない物は排除して、聞きたくない事には蓋をする。そして逆らう奴は、心を取り上げるのか。


「それがお前の望んだ世界なら……」


 お前が大切な奴の涙も盲目する最低野郎に成り下がったのなら……僕がその目を覚ましてやる。自分だけが幸せな世界……そんなのありはしないとわからせてやる。
 戦わなきゃいけないんだ。どんなに辛くても、それが人生なんだから。きっとどこかに救いはある。その筈なんだ。
 だからリアルはまだ、まともに回ってるんだ。諦めなければきっとセツリにだって……それを誰よりもサクヤが望んでた。
 「生きてほしい」とアイツは願ってた。お前が幾らリアルに絶望しようと、幾ら僕が嫌われようと、僕はあの泣いてる奴の意志を継ぐ。


 不幸も憤りも絶望も知ったことか。いい加減、逃げてばかりは止めろよセツリ。そろそろ向き合う時だ。自分自身と言う名の存在と!!


「僕はそれをぶっ壊す。そんな甘い夢は、甘いだけの夢は、これ以上もってちゃいけない。捨て時なんだよセツリ!!」


 夢を見るななんて言わない。だけどそれが楽して手には入るなんて思ってちゃいけないんだ。そんなのは幼いときにだけ見る、その時だけの夢なんだ。
 なんだって出来る気がした。なんにだって成れる気がした……そんな頃の儚い夢。でもいつからか気付く。夢はただ思い描くだけじゃ手に入らないって。


 リアルは望んだ物を、望んだだけ与えてくれる程甘くはないけど、道を残してくれる位に優しくはある。だから僕達は見れるんだ。夢って奴を。
 頑張れるんだ。本当にそれが欲しいのなら、それだけの努力をして手に入れろってさ。それだけして初めて、夢の価値ってのはわかるんじゃないのか。


 確かに与えられた物だけを腕一杯に納められたら、どれだけ楽で幸せで居られるのか、僕にはわからない。でも人は、誰もが次第に自分で掴みたい物が出来るんだ。それはきっと誰も与えられないもの。
 だからその腕一杯の宝物を放り投げてでも、新たなそれを掴むために……自分自身で掴むために手を伸ばす。足を使って進んでく。体を張って目指してく。


 それはきっと茨の道だ。辛いことが一杯で、刺さり続けるトゲに足を止める事もあるだろう。振り返って後悔する事だってきっとある。
 そしていつだって、リタイアする事が出来るから人の夢は儚いと書くんだ。でもそれでも僕達は進まなかった事にだって後悔する。何が掴めたのか、ずっと手のひらを見つめ続ける。


 だから言い訳してでも、どんなに小さくても収まりが良い物を掴もうとするのかも知れない。それは褒められないかも知れない、結局夢は掴めなかったのかも知れない。
 でもそれもまた人生で、誰かが野次出来る事じゃないんだろう。夢は掴まなければ意味はない? そうかも知れない。確かに掴めた方が勿論良いし。努力した甲斐も、進んできた意味も、きっと感じれる筈だ。


 だけど泣いて喚いて、進もうともしない奴にそれを言う資格なんて無い。セツリは傲慢でわがままで、そして欲張りだ。
 もう本当は腕一杯に宝物を持ってる。今まで生きれて、愛してくれる人が居る。それでも足りなかったのかも知れないし、セツリは幼い時に無くしすぎたのかも知れない。


 でもそれでも、明日を諦める事が許される訳じゃない。ずっと怠けてて言い訳じゃない。アイツはちゃんと見るべきだ。自分がどれだけ大切に、そして愛されていたかを。
 だから、こんな所で終わらせない。僕は……僕はセツリと当夜さんをもう一度、ちゃんと会わせたいんだ。




 周りを埋め尽くす炎が勢いを増してる様に思える。元々風は炎をたぎらせる役目があるからか。このままじゃこの風に守られた体まで到達しそうだ。
 そうなったら、僕の思いも半端なままだな。だけどそんな事はさせない。炎をも飲み込む風があるって事を、見せてやろう。掲げる二対の剣にありったけの思いを乗せてこう叫ぶ。


「イクシード――――――――3!!!」


 炎の海が開かれる。円を描いて、僕の周りを避けるように炎が消える。


「へえ、まだ上があったんだ。それが限界? どうやら、スオウを殺さないと進ませて貰えないみたいだね☆」


 炎の海の向こうから聞こえてくるシクラの声。ようやくこちら側に向いてくれたようだ。イクシード3には興味を注ぐだけの物があると感じられたらしい。
 それは良かった。アイリの為の時間稼ぎは出来そうだ。僕はシクラから目を逸らし、上空のサクヤを見る。やっぱり泣いてるよ。そしてそんな主人の悲しみをクーも感じてる。


 でもアイツはアイツで何も出来ないんだろう。不憫な奴だ。セツリの奴はその背中に居るはずだけど姿を見せない。でもまあ良いか。
 僕はそのまま口を開く。


「おいセツリ! そのままで良いから聞いてろよ。お前は傷つけてる。大切な物を自分から傷つけてる。全部都合良ければそれが幸せか!?
 ならお前は、どれだけ身勝手でわがままかって事だ!! 誰もお前を叱らなかっただろう。誰もお前を怒らなかったんだろう。でも僕は怒ってる! 同情もあったけど今はもう、それよりも激情が勝ってる!
 お前が幾ら逃げようとも、僕は必ず追いついて、そしてお前の頬を叩いてやる!! 打っ叩いてやるから覚悟しとけよセツリ!!」


 僕はうねりが消えたセラ・シルフィングを向けてそう叫んだ。届いただろうか? これであそこにセツリがいなかったら笑いぐさだけど、そんな事はきっと無いだろう。
 ちゃんと打っ叩いてやるから覚悟しとけ……それは叱る側の宣言だ。ちゃんと怒ってやるは、ちゃんと見てるからの裏返し。
 目を背けるんじゃなく、僕はちゃんと見てるから、アイツを打っ叩くんだ。それが友達としての役目で、目覚めさせた責任だろ。


「残酷だよねスオウって。まだあの子に辛い思いをさせるの? それはどうなんだろう☆」


 シクラが1足でこちらに向かってそう言った。月と同じ輝きを放つ長い髪を攻撃に使ってくる。堅くて強力な武器であるその髪は、防御も攻撃も厄介な性質を持ってる。
 けど……だからって逃げる選択肢は今の僕には無い。炎が燃え盛る中、僕はイクシード3状態のセラ・シルフィングをその髪に向ける。


 うねりが消えて、刀身が剥き出しになったその刃をだ。だけどその身に宿ってる流星が浮き出て周りを回ってるのが特徴的。白く煌めく物を流れ出してる。そして風のうねりは別に無くなった訳じゃない。


 それは僕の背中から生え出てる様に延びてる。しかも四本。それはさながら風の翼だ。けれどイクシード3の一番の特徴なのか欠点なのか……それは力から雷が形を潜めてる事。
 力は完全に風に偏ってる。でもおかげでこれは風系の力としては最高クラスかも知れない。月光色の向かい来る髪に、振りかぶる二対の剣を交差させる。
 今まではどうやっても斬れなかったその髪。だけど今度は違う!


「言ったよなシクラ! 自分が辛いからって可哀想だからって、誰かをその代わりにしていい訳じゃない!! それは絶対にアイツが背負わなきゃいけない物だ!!」


 その瞬間、背中の風の翼が大きく膨らんでうねった。力が風の様に肉体を流れてくる。それも大量に。体が自然と押される。そして勢いのままに僕はシクラの髪を切断して前へと進んだ。


「うおっ! とっとっとと……」


 勢いが押さえきれない。だけどその月光色の髪がキラキラと風に舞っていく様を見て「いける」そう思った。だけどシクラの奴は驚きはしたものの、まだ余裕を崩さない。


「あれれ? 斬られちゃった。自慢の髪だったのにスオウは酷いね。女の子の髪は宝物の様に扱わなきゃ☆」
「何が宝物だ。自分をぶっさしに来る髪をどうやってんな風に扱うんだよ」


 どうせなら丸坊主にしてやりたい位だ。まあそれは流石に可哀想かなとはちょっと思うけど。だが、やっぱりそれほどの余裕はねーよ。


「それさえ受け止めるのが愛って物だよ。まだまだスオウはお子ちゃまだね。お姉さんが色々教えてあげよっか? こっち側に来るのなら手取り足取り、体の隅々まで私頑張っちゃうよ☆」
「ばっ――――バカ言ってんじゃねえ!!」


 風の翼が大きく動く。それに伴い、体を貫く衝撃を無視して僕の体は進んだ。シクラの奴がアホな事を言うから思わずな感じで飛び出した。


 でもシクラの奴は今度は避けた。大きく右上方へ飛ぶ。でも逃がさない。僕は翼を強引に地面へ突き刺して、更に残った翼を動かして方向転換。
 弾ける空気の圧力で骨や内蔵までも押し砕かれそうな感覚。だけどでも、そんなのこの力は考えちゃいない。そして流星の光が弧を描いて光った。


「ふっ……はは」


 変な笑いがシクラから漏れる。そしてその瞬間、シクラの肩から血が吹き出した。通った! これは完全にだ。


「スゴいねその風。私のシールドの隙間を縫うなんて、流星の風は伊達じゃないみたい☆」
「流星の風?」


 初めて聞くワードだな。今この瞬間にシクラが作った感じだ。でもなかなかしっくり来るじゃないか。流星の剣にふさわしい力の名前だ。


「ええ、格好良いでしょ☆ でも……調子に乗らない方がいいよ」


 その瞬間、再びシクラは僕の背後をとる。これはスピードなのか? いくら何でも速すぎる様な……今の僕の胴体視力でも追いきれないなんて。
 いや途中までは見えるんだ。それが突然消える様な。だけど今の僕は背中側にも武器がある。四本の風の翼が。僕は風の翼を動かして、体をアクロバットに操る。


 シクラのパンチをかわして、その体に連続した攻撃を叩き込む。もうサクヤのお札なんか気にせずとも良いから、シクラに集中出来るよ。
 さっきからお札は襲って来てるけど、僕の周りを覆う風は今や、炎をたぎらせない。


「これで!!」


 連続攻撃のフニッシュ。これで終わりにしたい。そういう願いを思わず口にしてしまう。どれだけ効いてるかは実際わかんないし、口に出したって良い筈だろ。
 シクラは意図的にかどうだか分からないけど、HPを見えなくしてるんだ。そしてこいつも奴同様、見た目じゃ判断しにくい。


 僕の攻撃は確かに当たってた。手応えを感じた。でも、どこかに不安がある。目の前のシクラは服も髪も乱れてボロボロだ。
 今までを考えればそれはとてつもない進歩。でも……消えないんだ。このまとわり付くような不快感が。


 そしてそれはいやな形で当たった様だ。二対の剣は確実にシクラを切断出来た。でも……その前に僕の体が止まった。
 何かをされた訳じゃない。シクラは僕の連続攻撃を受けた態勢で背中側から地面に落ちようとしてるだけ。短くなった髪も動いてない。
 じゃあ……一体何で……どうして……こんな事に。


「うっ――がっは!!」


 大量の吐血だった。そして体の至る所に鋭利な傷が開いてく。体中から吹き出す血……目の前が真っ赤になった。


「う……うあああああああああああああああああ!!」


 叫んだ。叫ばずにはいられない。傷の上から傷が開くこの感覚。拷問でも受けてる様だ。


「だから言ったのに。調子に乗るなって☆」
「シクラ……お前、何を……」


 地面に膝が付く、だけど倒れてない事を褒めて欲しい位だ。シクラは見た目ボロボロだけど、割と平気そうな顔で僕の方へ手を伸ばしてきた。
 分かりきってる筈の答えを、ご丁寧に語りながら。


「私は何にもしてないよ。分かってるよねスオウだって。何でもかんでも私のせいにしないでよ。
 それだけの力にも関わらず、イクシードが何で効率化なんてのを最初に掲げちゃったのか。それは今のスオウがそうなっちゃうからでしょ?
 あはは、でも予想以上、想像以上だよ。そのコード、見てみたいな☆」


 伸びてくる手が変な光を放ってる様に見える。あの光がコードって奴を掴むのかも知れない。僕はきっと、シクラに言われる間でもなく、その可能性は考えてた。
 イクシードは、イクシードのままできっと完成してる。じゃあ何でその先があるのか? それは……それは――――


「やっ――――だね!!」


 伸ばされた腕を僕はその一言を込めた剣で払う。同時に血も飛んだ。思わずクラッと貧血起きかけた。でも僕はもう一度、顔を上げる。体を上げる。


「やだね?」
「ああ……やだね! お前は何だってそうやって無理矢理に強制的に探る! そこがイヤなんだよ!! プライバシーの侵害も良いとこだ!!
 そんな裏技じゃなくて、もっと向き合えよ。もっとよく見ろよ! それなら……好きなだけ僕を教えてやる!!」


 体がガクガクで、血はダラダラと乾く前に開く傷で流れ続ける。でも僕は剣を向けた。眼差しを向けた。真剣に真っ直ぐに。


「ふ~ん、ちょっと今のはドキっと来ちゃったかも☆ いいよ、そんなに言うならスオウは特別だから付き合ってあげる。
 でも、死なないでね。ううん、死んでも私を恨まないでね☆」


 そう言ってシクラは、僕との距離を取る。


「コード『アルトナ』――――発動」
「上等だ。こっちはまだまだ、付き合って貰わなきゃ……いけないんだ!」


 足取りが重い。だけどシクラが消えたのが見えた。じゃあ動かないと……本当に僕は死んでしまう。






「はぁはぁ」


 ようやくたどり着いた城。本当にこれしかなかった。綺麗だった町並みも、活気づいてた広場も、沢山の思い出の場所がもうここには無い。
 悲しいけど、嘆いてる暇なんて無い。私を信じて戦ってくれてる人達がいる。何も保証なんて無いのに、送り出してくれた人達がいる。
 私はもう……何も無くしたくない。


「アイリ様、中に入れませんよ。シールドが邪魔してる」
「うん、分かってる。でも入り方も分かってるから」


 私はセラからネクタルを受け取る。その神酒を僅か一口口に含む。アルコールは飲んだこと無いけど、これがそうだったら、一生私はお酒を飲みたくない程の味。
 でも飲み込んだ。そして次に、カーテナを取り出し、その刀身にネクタルをかける。そして残った分は、容器ごと城の方へ投げる。そして一気にカーテナの力を城とネクタルへぶつける。


 手加減無し、目一杯の力でだ。ガラス瓶は砕かれ、城が大きく揺れる。するとカーテナと城が同じ光で同調しだす。


「これは……」
「ルベルナ様に教えて貰ったの。でもここからは私次第。本当は一人で行くべきなのかも知れない。でも私は弱くて、情けなくて、意気地なし。こんな大変な時なのに、もうダメダメで……
 でも、それが私です。飾らないアイリ・アルテミナスの本性です。そんなの見せれるのはセラしか居なくて……ずっとずっと傍に居てくれたセラには見て欲しい」


 あれ? 何だか早すぎる涙が溢れてくる。


「私の大一番……今度こそちゃんと飛ぶから……もう大丈夫だよって見せる。アイリ・アルテミナスは、貴女が思い描いてくれた通りの王女に成れる!!」


 セラは何も言わない。私だけがボロボロと涙をコボしてる。でもそれを必死に拭って、私はセラに手を差し伸べる。それを彼女は取ってくれる。
 それだけで心が安らぐ。でもまた泣きそうになる。必死に堪えてると城の門が重々しく開いた。そしてウインドウが開き、ある文字を表示させてた。


【王家クエスト、第四の試練 アルテミナスの名の乙女】


 私はだけどそこまで呼んでウインドウを閉じた。分かってるから。この先に何が待ってるか私は知ってる。それを越えた時、私は真のカーテナの所有者に成る事だろう。






 一体、どれだけの仲間が倒れて行っただろうか。そして自分もいつ、そこに加わる事に成るか。はっきりいって苦戦してる。
 目の前のガイエンの仇。こいつだけは……そう思ってたのに予想以上に厄介な能力を持ってやがる。


「かはは、なあ赤髪。もっと食わせろよ。お前の存在、もっとくれ!!」
「ふっざけんな!!」


 俺の槍から炎が出ない。何度やってもスキルは発動しない。最初はあんなに弱ってたのに、俺に傷を負わせる毎に奴は強くなってた。
 そしておそらくだが、奴の黒い血はスキル封じだ。攻撃も防御も駄目……どうやってこんな奴!!


 迫ってくる奴に、とりあえずの突き。でもこんなのじゃあ……そう思ってたら、どっかのバカが奴にぶつかった。


「どこのどいつだ!! 俺様の食事の邪魔するやつああ!」
「「邪魔はお前(君)だ!!」」


 二つの声が重なって聞こえたと思ったら、奴が吹き飛んだ。そして現れたのはスオウとシクラ。どっちもまともな状態じゃない。
 スオウは血塗れで風が変な所から出てるし、シクラのあの状態は何だよ。そして競り負けたのはスオウだ。


「おい!! お前……一体」
「はは、随分苦戦してるみたいじゃん。同情する前に仕事しろ。僕たちを信じてるアイリの為にも死ねないだろ」


 そう言ってスオウは血を吐いて、さらには垂らして起きあがる。その状態には流石に、何でと思わざる得ない。いや、俺は知ってる。こいつはこういう奴だ。


「もう諦めた方が良いよスオウ。幾ら頑張っても、体が追いついてないもん☆」


 そう言いながらシクラはスオウに襲いかかる。確かにシクラの言うとおり、俺たちは風前の灯火だった。HPの見えない敵に押されてる。仲間は次々と倒れてく。でもバカは言いやがる。


「そんなの関係ない! それなら僕がお前以外も倒すだけだ!!」
「無茶ばっかり☆」
「無茶なんて最初から誰もがわかってる。でもな、その無茶を誰もが通そうとしてんだよ!!」


 言葉が胸に突き刺さる気がした。あのバカはいつだって、自分の信じる事を正しくしやがる。そうだ……その通りだろ。スキルの火が封じられたからって、心の火まで無くしてどうする。
 無茶を通すんだ!! 俺達は!! 


「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
「かっはは!! 火も起こせないそんな槍が通ると――――」


 吹き飛ばされてまで余裕をぶっこいてた奴に、俺は槍をたたき込む。気合い一発、それは今までで一番深く突き刺さる。
 黒い血が全体に付くが、そんなの関係無いんだ!


「――――無駄だ。こんな傷じゃ俺様は殺せない。そしてこれで、お前のスキルは完全に打ち止めだ」


 胸に槍を突き刺されても奴は不気味に微笑んだ。けれど俺は、更に捻る様に槍を押し込んだ。


「舐めるなよ。この槍はただの槍じゃない。カーテナに次ぐ力で創造されたスキルそのものなんだよ!!」


 その瞬間槍が消えて、再び引いた手に槍が戻る。その状態は新品同様だ。熱くたぎる炎を生みだし、俺は奴の体を再び貫く。
 炎が奴の体を焼き、熱が爆発的な推進力を生む。それでもどうにかして逃げようとする奴に、今度はもう片方の盾を向ける。すると巨大な盾は、何個化に分裂して、奴の体に装備された。
 それもとてつもない重量でだ。


「なっが!?」
「燃え尽きろおおおおおおおおおおお!!」


 奴の黒い血さえも瞬時に蒸発させる炎。スキル封じも封じた。逃げる術も無いだろう。俺達は空を駆けあがる。奴を灰にするまで、止まる気なんか無かった。だけどその時、平行して飛んでる何かに俺は気付いた。空に付いてこれるモンスターなんか居なかった筈だけど?
 でも奴等は来てた。羽を生やした何か。それもとてもいびつで、透明度が高い羽……あれは氷?


「くっ!」


 邪魔されてたまるか。あと一息、多分その位で倒せる。俺は更に炎をたぎらせた。LROの空がどこまで続いてるのか知らないが、こうなればいける所まで行くまでだ。
 最悪宇宙に出たとしても、こいつは必ずここで倒さないといけない!!


 雲を突き抜けて、夜空へと迫る。だけど勢いが落ちて来てるのがわかる。そしてあることに気付いた。あの付いてきてるモンスターっぽいのが、炎を次第に凍らせてる。
 ぐるぐる二体で周りを回るだけで何もしてこないと思ったら、そうじゃなかった訳だ。こいつらはちゃんと目的があってそうしてた。


 このままじゃ凍らされる。しかも高度は限界だ。盾の特殊な重さが腕に来る。けどその重さである考えが浮かんだ。
 上手く行けば、こいつは確実に倒せる筈だ。ここまで来ても上が駄目なら……それならここまで来たからこそ下を目指すべきなんだ!!
 最悪、地面にダイブしてやるよ。


「はは、良い眺めだな全く! よくも……よくもこんなに全部、吹き飛ばしたもんだよお前達は!!」


 なんにも無くなったアルテミナスの地を見て俺はそう言った。俺は体を入れ替えて、一気に地上を目指し出す。その行動に氷の奴等は付いてこれなかった様だ。そもそも重量の桁が違ってるから、追いつけない事は必至だな。
 ゴゴゴゴゴという空気の音が耳に響く。何も無くなった地面がみるみる迫る。奴は既に、抵抗する力を失った様だった。でもこの肉体を残しておくことさえしたくない。
 だってそうだろ? これはガイエンから搾取した物だ。返して貰おう……何もかも!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 止まることはもう出来ない……というか、最初から考えてない。突っ込む事だけだ。それでいい……これでいい……そう唱えながら、地面が迫る――――その時だ。
 俺の体が急に止まった。当然地面に突っ込む事無く。でもそれはおかしな事。あの勢いはどうやったって止めれる物じゃない。


 頭が混乱して、声すら出ない。今こうして空中に浮いてる事自体がおかしいんだ。止まるときだって、衝撃も何もなかった。
 どんな力が働いたって言うんだ!? まるで自分とこの周りの空間ごと掴まれた様な……そんな感覚がおぞましい。


「はあ、ほんとうにそういうの止めてくれない? 我が身を犠牲にしてもって奴。別に私に関係無い所でやってくれるんならどうだって良いんだけど、そこの汚いのはまだ、やらせる訳にはいかないの」


 そんな言葉が頭上から降り注ぐ。俺は首を必至にひねってそこに視線を向ける。するとそこにヒイちゃんとか呼ばれてた奴がいた。
 五対の氷の翼をその背に生やして空中に浮いている。あの羽はそうか……さっきの変なモンスターはこいつの差し金。でも一体何が俺を捕らえてるのかわからない。


 アイツが向けてるのは扇くらいしか無いぞ。粉雪を舞い散らせるその扇……あれがアイツの武器なのか? 
 わからない……けど、アイツが扇を畳むと同時に、体の自由は戻った。でもただ地面に何の傷も出来ない程度の高さから落ちただけだ。当然奴はまだ生きてる。
 俺の槍の先に存在してる。


(ならもう一度だ!!)


 俺はすぐさま、再び炎を出そうとした。地面に叩きつけて終わらる事は出来なかったが、まだこいつは俺の手の内にいる。 幸い再びその存在が儚くなって来てる様だし、それはきっともう少しって事だろう。幾ら邪魔されたからって、このチャンスだけは逃せない。


 だけどその瞬間、俺の両側に二つの人形が舞い降りた。氷の翼を生やした、ヒイちゃんにどこと無く似てるニ体の敵。そして一体が俺に蹴りを放って来て、それを防いでる間にもう一体が奴を槍から引き抜いてた。


「しまっ!」


 と思ったけど、奴を救出した敵は飛び立とうとしてるけど飛べない様だ。奴に装備させた盾の重さが思わぬ所で役にたった。
 今ならまだ取り返せる。俺は蹴りを放って来た奴を槍であしらって走り出す。いや、正確には走りだそうとした。でもそれは、凍った地面に阻止される。


 見れば人形の翼が地面に刺さり、俺の所までの地面をピンポイントで凍らせてやがる。そして続けざまに空から降り注ぐ氷柱の数々。
 周りが一瞬で白い冷気に包まれた。


「――――っつ、くそったれ」


 氷柱が体に数カ所刺さってる。俺には流れ出る血こそ無いが、その痛みは結構な物だった。それにHPはかなり削られた。
 空に目を向けると、氷の翼を大きく広げたあの女が気だるそうにしてる。ほんの一手間で自分なんて殺せると言うように。
 あの氷の翼からさっきの氷柱の雨は降らされたんだろう。しかも、このニ体の敵も厄介だ。


「そろそろ幕引きと行きましょう。私だってもう、帰ってお風呂に入って休みたいの」


 翼から幾本もの氷柱が姿を現す。もう一度あれを打つ気か。確かにあの回避不能とも思える数の攻撃は驚異だ。でもまだ俺には救いがあるように思える。
 氷は古から炎との相性が悪い。そう言う救い。俺は槍を空に向ける。立ち上がってくる熱気が次第に地面の氷を溶かす。


「まだだ……もう少し付き合って貰う!!」


 天に昇る炎の柱。それらが放たれた氷柱を溶かしてく。体に刺さってた氷柱も溶けて、体も幾分か増しになる。


「うっわ暑苦しい……私の嫌いなタイプね」
「別に好かれようなんておもわねぇよ!!」


 失礼な事を言う女だ全く。幼く見えるのにその視線はかなり厳しく冷たいぞ。だけどこいつに構ってられない。頑張って低空飛行で奴を運んでる分身に追いつかないと。
 俺は炎がたぎる槍をまっすぐ向けて、そして炎を推進力に変えて突っ込んだ。ロケットのようなスタートで一気に加速する。
 でもその時、同時に何かがくっついて来やがった。それはもう一人の分身。氷の体のくせに、そんなのお構いなし俺にしがみついてる。


「離れろ!! この!」


 分身のせいでフラフラ揺れる。どうせこのままでも溶けるんだろうが、一秒だって今は惜しいんだ! でもこれが使命で天命みたく分身はしがみついて離さない。
 すると空からあの女がうすら笑って言ってきた。


「ふふふ、ねえ教えてあげようか? 炎に溶かされない氷もあるって事を」


 すると分身の身体が、炎を浸食するように広がりだした。我が身を削って、分身は俺の生み出す炎を凍らせてきてる。
 信じれない。マジで炎を凍らせるだなんて。パキパキパキと言う音が耳元まで迫り来る。するとその冷たい手に頬を掴まれた様な――――後ろを向くとそこには凍った炎から胴体を出す分身が居た。


 だけどもその姿も直ぐに崩れていく。だがそれと引き替えに、氷の浸食が進み出す。今までのパキパキなんて非じゃない。
 氷が生え出すように出現して、俺の身体は……いや、俺自身が氷の牢獄へ閉じこめられた。


(こんな所で……結局俺は……何も……何一つ守れない。守り通せないのか?)


 やりきれない思いがあふれ出す。すると頭に義務的なメッセージが流れてきた。


【貴方の状態は氷結化です。周りに頼れるプレイヤーが居ないのであれば、戦闘不能状態とみなしてのゲートクリスタル帰還が出来ますがどうしますか?
 帰還を希望をしない場合は、三十分間その状態が維持されます】


 帰還……それは負けを認めて逃げ出すって事か。いや、俺のゲートクリスタルの設定はアルテミナス……じゃないな。
 なら易々と帰還なんて……でもこの状態じゃ何も出来ない。ただみんなの戦いを眺める事しか……俺は大切な時に、肝心な時に今度こそアイツを支えれる男に成りたかったのに……こんなの!


 本当にデタラメだアイツ等。シクラもそうだがあの氷の翼の奴だって十分……炎まで凍らせるなんて、どうやってんだ。あんなのに勝ったんだなスオウは。
 そして今も、命削って同じクラスの敵と戦ってる。それなのに俺は……これ以上誰かの負担に成っていいのか? そんな訳無いだろ。


 だけど今の状態じゃ誰も頼れない。いいや、そもそも頼っちゃいけない。まだ俺は死んじゃいない。まだこの手には力が残ってるんだ。
 このままじゃあの女はシクラの加勢に行ってしまうかもしれない。それでスオウが倒れたら、俺は何て日鞠に謝れば良いんだよ!


「ふう、まあ良く頑張ったんじゃない人間? でもね、そろそろ潮時よ」


 近くまで降りてきたあの女が、見下した風にいいやがる。意識があると分かってて言ってるんだ。近くには分身の生き残りと担がれる奴の姿。
 そこにはまだ俺の盾が分解してのし掛かってる。


(これだ!)


 と思った。俺は動かない体で強く念じる。


(戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ)


 だけどなかなか反応しない。けど、身体は次第に熱くなってる気がしてた。強く……もっと強く俺は思いを込める。


(戻れええええええええええええええええええええええええええ!!)


 その瞬間、盾は奴の身体を離れて元の姿に戻る。そして俺の凍る場所へ真っ直ぐに向かって来た。


「きゃっ!?」


 いきなり傍を大きな盾が通ったから驚く女。当たらなかったのが残念だ。だけどこれで止められる間は無くなった筈だ。
 バキィィィィン!! と大きな音を立てて、氷に亀裂が入る。だけど壊れるまでには至らない。


(くそ……後一息なのに!)
「ふふ、ちょっとびっくりしちゃった。だけどどうやら威力が足りなかったみたいね。最後の希望が不発だった気分はどうかしら?」


 この失敗を満足そうに笑うあの女が憎たらしい。だけどこれ以上の手なんか俺には無い。夜空を流れる流星に願いたい「どうかこの氷の檻を壊してくれ!」と。
 流れ星が願いを叶えてくれるなんて迷信だと分かってても、俺はもう願わずには居られない。だって立ってないといけなんだ。まっ先にリタイヤなんて出来ない。


 そうしないとアイリの奴に大見得切った意味がない。するとその時、小さな丸い何かが空から降ってきて俺の盾に当たった。
 多分それがキッカケだろう。元々入ってたヒビが広がっていくそして――――氷の檻が砕け散る。


「いってー!! 何だよここは? 何故に空中から? アルテミナスのゲートクリスタルはどうなったんじゃああ!」


 地面に降り立った俺は、そんな事を叫ぶ小さなモブリを見つめた。そして思わず口にする。知り合いの名前を。


「お前……エイルか? どうして?」


 その言葉にエイルは俺を見上げる。そして周りを見回してブツブツと「まあでもここで良さそうだな」とか何とか言って、杖を握り空を指す。そこには沢山の星が流れ出してる。


「どうしても何も、そんなのリルレットのピンチだからに決まってんじゃん! ついでにさ、あんた等にも協力してやるよ。引き続き。
 随分劣勢みたいだけどさ、大丈夫だよ。だってあの流れ星全部がアルテミナスに集うプレイヤーなんだから」


 流れてくる星々は流星群なんて物じゃ表現出来ない程に多い。あれが全部プレイヤーだって?
 それはまるで夜空が落ちてきそうな程の光景だ。だけどなんだか、いろんな事がありすぎたせいか、なんと無くだけど受け入れた。


「はは、あれが全部プレイヤーか。助かるな本当に」
「外のLRO掲示板じゃかなり騒がれてるぞ。それに画像もアップされてた。立ち上がる姫君に、しぶんでたエルフの大半が立ち上がったみたいだな」
「そうか……」


 アイリは愛されてる。誰もが認める王になれる。俺でもガイエンでも無く、どうしてカーテナがアイリを選んだのか……この光を見れば誰でも分かるだろう。
 アイツが居たから、この国は帰りたいと思える故郷になって、守りたいと思える国に成ったんだと俺は思う。アイツがみんなの心を繋げたから、まだ俺達には光が見えるんだ。


「ホント……スオウもだったけど、人って諦め悪すぎじゃない?」
「諦めれるかよ……ここは俺達の故郷なんだよ!!」


 空を見上げてそんな事を言うヒイちゃんとか呼ばれてた奴。落ちてくる流れ星の中、俺は槍と盾を構え、再びその炎をたぎらせる。たぎる炎は、希望と言う尽きない燃料を手にした。






「「「「シルクちゃん!」」」
「はっはい!」


 一斉に名前を呼ばれてオタオタする私。だってだって、私はいつもは陰を薄くして地味~にみんなの回復とサポートをやるのが役目だもの。
 こんなに名指しで頼られる事ってなかなか無い。しかも立たされるのは矢面だよ。それもこれもこのモンスター軍団がアンデット特性を身につけちゃったせいだ。


 目が回る忙しさってのは経験してるけど、今の私の状況は今までとは違う。かなり違う! 攻撃の要として使われる筈の無かった私……でも今は私が……ううん私達ヒーラーがとても重要な位置を担ってる。


 アンデット化したモンスターには通常の攻撃は効かない。魔法も通るのは光属性だけ。スキルも同じ。前衛だった人達が、誰も光属性の攻撃スキルを持ってない訳じゃないけど、この分野に置いて、その威力が私達ヒーラーに勝る者は居ないでしょう。
 何故なら私達は頻繁にそれを使う。てか使わないとヒーラーとは呼ばれない。回復系魔法は全て光り属性ですから。よってスキルの伸びも光がダントツに高くなってるのがヒーラーです。


 下手な攻撃よりも、回復魔法で敵が倒せるレベルです。よって私達は押しも押されぬフル稼働状態。だけど……


「ぐああああ!」「きゃああ!!」


 断末魔の叫びが辺りで止むことが止められない。幾ら、私達が回復魔法で応戦しても、敵は圧倒的に多いんです。そして私達が攻撃に回ると言うことは、回復を担う者が居なくなると言うこと。
 いつもならそこら辺のバランスを考えるけど、今はそうも言ってられない。


「エリアヒール3!!」


 魔法陣内にいる敵をこれで一掃。LROは視線と思いを汲んで判断してくれるから便利です。砂になって消えていくモンスター。だけどその後ろから次々と来ます。
 終わりが見えない……助けれなかった人達が周りで次々に倒れてく……本当は助けれた人達。私は「ごめんなさい」としか言えません。


「シルクちゃん! 君が今、要なんだ! ごめんと頭を下げるより、この場を守りきってアイリ君の為の時間を作る。その方が彼らは喜んでくれる。
 そしてそれを出来るのは君しかいない!!」
「テッケンさん……はい!」


 私はテッケンさんのそんな激で前を見る。沸き立ってるかの様なモンスターがそこら中……私がやらないと、ここに誰も守れない。そして私の頭上にピンク色の小さな子竜がいる。この子の存在こそが、私が他のヒーラー達より求められる理由です。


「ピク、ストック魔法NO7~11リリース!」
「ピ~~~!!」


 私の言葉でピクがその翼を目一杯開く。そして落ちて来る羽の四枚が、魔法陣を浮かべて私側へ。その一枚を指で掴んで「解放!!」と叫ぶ。
 するとそれだけで魔法が発動されます。光がモンスター達に降り注ぐ。更に続けざまに二枚の羽を掴んで解放。魔法が終わらない内に私は詠唱開始。


 ストックを切らせる訳には行きません。流石に減り続ける事を完全に止める事は出来ないけど、少しずつでもその瞬間は減らさないと。
 詠唱完了と同時に、私は四つ目の羽を手に取り発動させます。そしてこの間に「リノケイト」を宣言。下から埋まっていくから、この魔法は三番目に入った筈です。


 でもこのままじゃダメ。プラス一じゃ、直ぐに枯渇です。これまではなんとか、周りの人達のサポートでやってきたけど、その人数も少なくなりました。
 どっち道、回復魔法は回復に使わないと自分の首を絞める事に繋がります。でも今はどうしようも無くて……ジレンマが私を襲う。
 私じゃ役不足なんです。どうやったって私はヒーローには成れない。ましてやヒロインでもない。


「でも……支えたかった。そんな人達と私でも同じ場所に入れるこの力が、私は好きです! だけど今は悔しい!
 私だって……守りたいのに!!」


 迫り来るモンスターが多すぎる。どれだけ魔法を重ねても重ねたりない。だけどその時、落ちてくる流星が私達の盾に成った。


「泣かないでくれよ。ありがとう俺達の国を守ってくれて」
「えっ−−あ?」


 訳が分からない……何で空からエルフの人達が降ってくるの? それも一人二人じゃない……数え切れない星が落ちてくる。


「大丈夫だよ。まだまだ来る。俺達は決して、この国を諦めたりしないさ。出来ないよ……エルフでもない君達がこんなに頑張ってる。
 それに……俺達のお姫様が立ち上がったんだ。その光に乗り遅れたい奴なんていない!!
 絶対勝つ……勝てるさこの戦い」


 そう言った彼は剣を抜き、モンスターへと向かってく。彼だけじゃない、星となって降りてきた誰もが、モンスターに挑んでく。
 今ここに、確かな光が私には見える。






 流星が地上に落ちて来てる。まるで早回しの様な星空から無数の星がだ。でもそれはどうやらプレイヤーらしい。盛り返す空気が伝わってくる。
 そしてこの景色は、セラ・シルフィングにとてもあってるよ。流星の剣であるセラ・シルフィングにさ。だけど……


「はぁはぁ……がっはっ!!」


 血が止まらない。もう一体何リットルの血液を垂れ流しただろうか。シクラの奴は見た目ボロボロだけど、息は切らしてないし。
 ここまでやっても、どこかに僕とシクラには決定的な差がある。自分にとっての奇跡を、日に二度も願うのは図々しいんだろうな。


 いや元々、あれじゃダメだ。あの完全雷化は諸刃の剣。今の僕じゃ発動した瞬間に死ぬよ。イクシード3は見た目こんなだけど、HPを削りはしてない。だから僕はまだここにいる。


(まだなのか……)


 勢いは少しだけこちらに傾いて来てるのかも知れない。でもこいつが居る限り、それが覆される可能性は高い。こいつは僕とやり合って無くちゃいけない。そうしないと……


「あ~あ、雑魚が一杯降ってくるよ。ゲートクリスタル壊したから逆に憎い演出になっちゃったな。ねえスオウ、ちょっと安心した?
 そんなことで気を抜いたら死んじゃうぞ☆」


 シクラの羽が空間に広がる。そしてこちらに飛ぼうとしたとき、待ちに待った瞬間が訪れる。地響きと共に現れたそれは、城から浮かぶように君臨してる。
 その余りの光景に誰もが城へ目を向ける。そして地面から光明の塔の残骸が姿を現し、その現れた巨大な戦乙女とも呼べるそれの手の中へと収まっていく。


 金色の髪に、背中からは四本の白い羽。顔も体もすっぽり覆う鎧。乙女とわかるのは、彼女がその体型をしてるからだ。
 そしてそんな彼女の主だろうアイリが、カーテナを引っ提げて戦場へと舞い戻る。ただ真っ直ぐに、こちら側に歩いてくるよ。その体は夜の闇に浮かぶように輝いてる。


「ごめんなさい皆さん。待たせてしまって。でも……これで終わりです」


 その言葉は力強く、そして暖かい希望をはらんでる。偽りじゃないと、誰もがそれを感じただろう。


「終わり――――ね☆」


 だけどそこで、面白がる様な声を出したのがシクラだ。アイツはアイリに飛びかかる気満々だ。


「ええ、終わりです」


 だけど動いたのはアイリの方が速かった。その言い切った言葉と同時にカーテナを顔の後ろへ持ってくる。すると後ろの戦乙女も同様の構えを取る。
 そして斜め下に振り抜いた。戦乙女が振り抜くのは光明の塔だったそれ。光が残滓として残る。たった一瞬。何が起きたか僕たちはわからなかった。


 けどそれはどうやら起こってたらしい。シクラの姿が見えない。そして周りのモンスター共が消えていく。それも大量に。
 さっきの攻撃範囲に居た奴らが全部だ。でも、僕たちは何ともない。まるで力が敵だけを滅した様な状況だ。


「これが本来のカーテナの威力で、力です。全ての魔を滅する光明の光。それがカーテナの属性。そしてあの子が持ってるあれこそが、本当のカーテナです。
 私のこれはいわばデバイスで、操縦管なんですよ」


 アイリが自分の力を述べてくれる。誰もがハテナな顔をしてたからだろう。あれがカーテナの本当の姿。あれがカーテナの真の力というわけだ。
 封印の解放には成功したんだな。どうりで輝いてるよ。眩しい位にさ。あの戦乙女の光は、まんまアイリの光だろう。とても強い……でも優しい。そんな光だ。


 アイリは続けざまに二度カーテナを振るう。相性も良かったんだろうけど、それだけであれだけ苦戦してたモンスター共をあらかた一掃してしまう。
 だけどその顔はまだ浮かない。アイリは本当の敵を見据える。


「凄いよ、本当に凄い。それだけの力……ふふ、コードが見てみたい☆」


 シクラの奴は消えたんじゃなく、逃げてた様だ。とっさにやばさを感じ取ったんだろう。いつの間にかクーへと乗ってる。


「そんな事が言えるのは今だけです。貴女達だけは許しません!! 絶対に!!」


 その宣言と共に、アイリはクーへ向かってカーテナを振るう。「ダメだ!!」と思わず言いかけたけど、それよりもアイリは速かった。光が夜空に走る。
 あそこにはきっとセツリも居たはずだ。あれだけの攻撃……死んでもおかしくない。でもこんな事思うのは間違ってる。けれど思わずにはいられなかった。


 今のアイツ等はみんなにとっての敵。それは最早、セツリだってそうなんだ。むしろ親玉みたいな感じだし……同情なんて出来ないよなアイリにとっては。けど僕は、どうしてもアイツの事を思わずにはいられない。
 だけどその時、光から何かが飛び出した。それはアイリのわき腹を貫通する。


「つっ!?」
「アイリ!!」


 攻撃を受けたアイリに駆けようとするアギトをアイリは制す。こんなの何とも無いと言わんばかりに。


「随分とひ弱な攻撃ですね。こんなのアルテミナスの痛みに比べたらどうでもない!」


 アイリは再びカーテナを振るう態勢になる。確かに今のアイリにはそれだけの力があるだろう。終わらせられると思う。あんな中途半端な攻撃、シクラらしくもない。見えないけどさ、きっと効いてるんだ。
 いや寧ろ、これで効いてない方が怖い。その時、別方向から違う叫びが上がる。


「セツリ様……シクラ……に、人間風情が調子に乗らないでよ!!」


 それは柊だ。柊が分身と共に、黒い奴を抱えてそこにいた。そして見たこと無いくらいに切れてる。クールさが売りだと思ってた柊が、完全に頭に血が上ってる。
 そして今は五対になってる氷の翼を大きく開く。すると空にも地上にも、幾重もの魔法陣が現れ出す。何かやばい事をしようとしてる……それだけはわかる。


「人間風情……ならばその人間風情に負けるんですよ貴女達は!!」


 アイリはカーテナを横に振るう。すると光明の塔の光は二本に分かれて、それぞれ空と地上の魔法陣を潰した。なんてデタラメな……


「なっに?」


 流石の柊もこれには驚いた。たぶんとっておきだったんだろうそれが潰されたんだ。当然かも知れない。そしてそんな呆けてる柊に、アイリは今度こそ肉体を狙ってカーテナを向ける。


「この地でこれ以上何もさせない! 貴女達はやりすぎた!!」


 戦乙女の剣が、真っ直ぐに柊へ延びる。だけどそれを、シクラが体を張って止めた。自身の羽を使って柊を覆い隠して守ったんだ。
 だけど流石のシクラも、完全に守れなかった様で、後ろへ押し返された。
 シクラの空間に描かれた様な羽が消えていく。それと同時に、天使の輪も消えて通常状態に戻ったように見えた。


「あ~あ、ヒイちゃん無茶しすぎだよ。でも嬉しかったよありがとう☆」
「シクラ……セツリ様は?」
「大丈夫、私を誰だと思ってるの? ヒイちゃんのお姉ちゃんだよ。今の私でも二回は防げたから、上出来でしょ☆」


 その言葉を聞いてホッと胸をなで下ろす柊。僕も実際、ホッとしてた。でもあいつ等がやったことはやっぱりどうしても許して良い事じゃないから、複雑だ。
 セツリは逃げ出す事で罪を犯してる。自分がしてないにしろ、それを望んであっち側に行ったセツリに罪がない訳がない。
 もうただじゃ戻れない……僕たちだけの問題で済ませれる領域は越えてしまった。


「安心なんて早いよね? 言ったでしょ……私は許さないって!!」


 アイリはカーテナを大きく振るう。これは全てを終わらせる一撃だ。この長い戦いの終演を告げる事になる攻撃――――だった。




「やめて!!」




 そんな言葉と共に、セツリが二人の前に出てこなければ。アイリは思わずカーテナを止める。まさに寸止め。戦乙女の剣は、セツリの首筋で止まってる。
 ハラリとその栗色の髪が僅かに、風に浚われていく。だけどセツリは強く強く、アイリを見据えてた。


「退きなさい。これはケジメです。これだけの事を犯したその存在を、このまま放置するわけには行きません。私はこの国と民を守るために、その二人をここで殺します!」


 ハッキリとしたアイリの言葉。そこにはもう迷いなんてないんだろう。あいつは背負ってる。この国と民全部を。その肩にだ。
 そしてその言葉は、恐ろしく正しい事だと思う。確かに放置なんて出来ないだろう。シクラと柊の力は強大だ。そんなのを見逃す事なんて誰だってしないだろう。
 アイリの決意は正しい。そしてそんなアイリに対して、セツリの言葉はとても身勝手な物だった。


「いやいやいやいやいや!! 絶対にいや!! そんな事させない! 絶対にダメなの! 二人は私の為に動いてくれたんだもん! 二人は悪くない!!」
「なら悪いのは貴女です!! 代わりに死ぬと言うんですか!? さっきまでなら二人を滅して終われたのに……この世界は、LROは貴女のワガママの為にあるんじゃない!!」


 アイリのきつい言葉に、セツリの目からはポロポロと大粒の涙が落ちてくる。でも、何を言えるんだろう。アイリの言葉は最もなんだ。僕だって同じ様な事を言った気がする。
 だけどセツリは引かなかった。自分勝手でワガママで、そんな自分のまま叫び通す。


「私の為の世界だもん!! LROは私の為にお兄ちゃんが作ってくれた世界! 変な理屈なんて持ち込まないでよ!!
 私はただ幸せでいたい……普通で居たい。それの何がいけないって言うの!!」
「――――っつ!! こっの分からず屋あああああ!!」


 耐えきれなかったアイリが力を込めてカーテナを振るう。セツリの甘ったれた言葉にカチンと来たのかも知れない。実際僕はカチンときた。向き合ってるのがアイリじゃなかったら横から割って入る所だ。けどその思いをどうやら僕は実行してた。まさに思わず体は動いてたんだ。
 イクシード3の力を使って一気にセツリの所まで跳ね上がる。体中から血が溢れ出てきてその事実に気づいた。


「あれ~? 何やってるんだろう僕」


 そう思わずにはいられないな。でも良かったとも思えるかも。


「なっ!? スオウっ君!」
「あのバカ、アイリは手加減くらいしてるってのに!」


 テッケンさんとアギトの呆れる声が聞こえた。だけど手加減? バカ言ってんなアギト。セツリがどれだけ吹かれ弱いか知ってんのか? デコピン一発できっと折れるぞこいつ。
 そんなこいつがあんな強大な力をくらって、ただですむわけ無い。手加減にだって限界はあるだろ。その限界の遙か下なんだよセツリは。
 でもだからって、助けに行った訳じゃ僕は無かった様だ。自分でも驚いたけど、僕は拳を堅く握ってる。


「いい加減届かせろよセツリ!! 打っ叩いてやるって約束したろ!!」
「スオウっ――――きゃ!」
 僕はその思いを込めて拳を振るう。思わずセラ・シルフィングを投げ捨てたじゃねーか。
 それだけしてもの“今”だった。まだ今日と言う日に取り返せると思ってた。これは最後のチャンスだった。だけどそれは、突如開いた空の門から飛来した白い柱のシールドに阻まれる。


 五本の柱が狙いすました様な位置に刺さったんだ。それはセツリ達を囲む場所。そしてその瞬間、僕の腕もカーテナの攻撃も弾かれた。真っ白で、光が走る様なこの柱を僕は知ってる。
 これは……まさか……


「ありがとうスオウ。君のおかげで僅かにカーテナの動きが鈍って助かったよ☆ そしてちょっと遅刻気味のみんなに私は怒ってるんだけど~。
 せっちゃんがとっても危なかったんだからね!!」
「な……に?」


 シクラの言葉が理解できない。まさか、セツリは時間稼ぎの為に出て来たのか? それにみんなって……僕は地面に何とか着地して上を見る。
 するとその柱にはそれぞれに人影らしき物が見えた。流石にこの距離だと、顔までは見えないけど居る。そしてそいつ等の声が聞こえてきた。


「はは、座標にちょっと戸惑ってな。なにせ私たちはまだこっちに来るのに馴れてない。許せシクラ。それにセツリ様も申し訳ありません」
「ほんと、まったく肉だるまに任せたのが行けなかったのよ。それにそこの脳天気が大見得切った割には苦戦してるじゃない? 
 面白くって一瞬だけ、ほんの一瞬だけ行くかどうか迷ったわ。ああ勿論。セツリ様の事は万全に考えていましたわ。お間違えなく。どうでもいいのはそこのアホですから」
「ふふふ~やっぱ外の空気は違うね~。なんか臭いけど、それが外なら私は受け入れちゃうね! あはっは~人間ってほんとゴミの様だぜ!」
「あ~もう何なの? 隣うるさい。私生きたく無いのに、こんな所まで引っ張ってきた奴…………みんなみんな死んじゃえばいいんだ。あれ? 私が死ねばいいのかな?」
「こらこら、一人で勝手に自殺をしようとしない。私たちは姉妹なんですよ。その絆は海より深く、天よりも気高いものの筈です。
 悩みがあるなら共に悩み考えましょう。それこそ美しき姉妹愛……いいえ百合です!」


 なんだか、聞いてるだけで疲れてくる言葉だな。どんどんセツリ達を心配する気配無くなってたし。最後の奴なんか、なんで残念な方に言い直した?
 その時、アイリが再びカーテナを振るう。光の剣が白い柱を両断した……様に見えたけど、中身には何も影響無かったようだ。


「無駄だよアイリ。この柱の空間内は私たちの領域。ここは今、アルテミナスじゃないの☆」


 まさかそんな事まで出来るとは……今更驚きもしないけど。でもカーテナの絶大な力がアルテミナスに起因してるのなら、確かにあれには効かないのかも知れない。


「シクラ……どうするの?」


 そんなセツリの言葉に、誰もが息を呑むのが聞こえた。無理もない。だって同じ存在があれだけ揃ったんだ。次の言葉はアルテミナスの運命を左右しかねない。


「アルテミナスは……必ず守ります!!」


 そう宣言して、アイリはセツリ達を強く見上げる。だけどシクラの言葉は意外な程、拍子抜けする物だった。


「そんなに怖い顔しなくてもいいのに。せっちゃん、私たちも帰ろっか?」
「いいの?」
「うん、大丈夫☆ 取り合えず一番重要な目的は果たしたし。それに……潰そうと思えばいつだって潰せるもの、こんな国」


 その言葉に、アイリがカーテナを動かした。だけどその突きは、決して向こう側に行けない。光が周りに溢れ出すだけだ。


「痛み分けって事にしといてあげる。今日の所はね。だけど次は、もっと強く成ってるかもしれないよ☆」
「痛み分けなんて!」


 ギリっとアイリは強く唇を噛んだ。ガイエンの事を痛み分けなんて事で済まそうとしてるシクラが許せないんだろう。
 実際こっちには痛みしかない。街も友も失ったんだ。それを痛み分けなんて言葉で済まされたら堪らない。僕もこのままセツリを行かせる訳には行かないんだ。
 だからもう一度……そう思った時、血が口から溢れ出る。


「がふっ! がぁっ! ――づあっ!」


 イクシードが消えていく。時間か……それとも限界? 


「そうそうスオウ。勝負は預けておくからね。またやろうね。だからそれまでイクシード3は使わない方が良いよ。これは本当の優しさからの忠告☆
 それは命を削る力だよ」
「くそっ……たれ」


 そんな忠告、聞けるかよ。それに言われるまでも無いことだ。やばい事くらい分かってた。だけど目的があって、それを貫く為には力が必要なんだよ。
 そもそもお前等が余計な事しなきゃ……セツリだって……セツリだって……


(本当に……シクラ達のせい……か?)


 セツリの言葉が沢山流れてくる。もしかしたら、いずれこうなってたのかもしれないと思えるかも。だけどまだ、向き合ってはいたんだ。
 あんなに情けない奴じゃなかった……どうして……


(ああ……僕のせいでもあったんだっけ)


 僕が諦めたからセツリも諦めた。それだけの事。でもあいつが諦め続けるのは……それだけじゃないだろう。あれはきっかけに過ぎなかった。
 でもそこに自分に優しいあいつ等が現れたんだ。そしてそれを許された。楽な道を選ぶななんて僕は言えない。けどな……間違った道を選ぶなとは言えるつもりだ。
 僕は必死に顔を上げて言葉を紡いだ。


「セツリ! お前がこれからやること……やらせること……それがどういう事か分かってんのか!?」
「分かってるよ。私は私の為の世界をシイちゃん達に作って貰う。だから折角だから言っておこうか? 奪われたくない……傷つきたくない人達はLROから出ていって。
 ここは私の……私の為の世界なんだから!!」


 セツリの奴は言うように成ってた。僕から言わせれば、変な自信がついたって事だけどな。本当に……どれだけ世話の焼ける奴だよ。生かしたい、それすら難しい。


「スオウ……私は勘違いしてたみたい。私はスオウを王子様って思ってた。だけどスオウは違ったんだよ。スオウは私を幸せにしてくれる王子様なんかじゃなくて……本当は私を虐めたいいじめっ子なんだよ。
 だから……二度と私の前に現れないで、このいじめっ子。殴ろうとしたこと、私は忘れない」
「はは……」


 いじめっ子か……なんだか自分が何でセツリの為にって思ってやってる事が無駄に思えてくる。いや、違うか、セツリの為になんて……おこがましい事だ。そうじゃない。
 僕はただ……自分の意志であいつに生きて欲しいと願ってるんだ。こんなにお前の為に……なんて言わない。僕が勝手にお前を助けたいだけだ。


 そう考えると邪険にされても目じゃないな。好き勝手にやってるんだ、なんと思われようが良いじゃないか。だからまだ言える……まだ言うことが僕にはある。


「そう……か、まあなら、僕はいじめっ子らしくお前に社会の厳しさを教えてやるよ。子供はさセツリ……いつまでも子供のままじゃ居られない。
 成長は……止められない。それに逆らったって……苦しいだけだぞ」


 僕は力無くその場に倒れ込んだ。本当に限界だ。これはマジ……やばいかも。死……そんな言葉が脳裏を掠めた時、かすかな声が僕には聞こえた。


「死んでよ……もう、本当に」


 すると不思議な事に「絶対に死ぬか」そう思えて来る。口元が僅かに上がった。きっと僕は、まだ笑ってるんだろう。


 光が消えていく。セツリ達が去って、アイリも戦闘状態を解いたんだろう。勝利……とは言えないかも知れないけど、僕たちはこの日守りきったんだ……アルテミナスと言う国を。
 空は僅かに色を変えて、今日という夜に終わりを告げる。 

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