命改変プログラム

ファーストなサイコロ

裸の拳



「絶……望?」


 どう見ても、その笑顔と言葉が合ってない。とろけそうな顔で言うこと何かじゃない。だけどシクラにとっては……そう言う事でしかないって事なんだろう。
 沢山の人と、大量の敵……そして与えられるプレッシャーに、生暖かな風が鬱陶しげに吹いていく。これだけの敵同士が揃ってて、この場はおかしな位に静かだ。


 多分、僕達が落ちてくるまでは死闘が、それこそそこかしこで起こってたんだろうに、今はそれがとても小さな一カ所のみ動きがあるだけ。
 それも丁度最前線。アルテミナス軍とモンスター共の間で僕達は、周りの状況に不気味さを感じながらも、見逃せない問題に立ち向かってる。


 長かった決着が付いたはずの三人……そこに横やり投げた奴のせいでさ、状況はおかしな方へと進んでる。悪魔の上で、満足気に真っ白になってる柊の髪に顔を埋めながらシクラはその言葉の真意を告げる。


「そう絶望☆ 人にはいろんな負の感情があるけど、それの最終到達地点でしょ? 必要なのよ、彼にはそれが。人の真っ黒な感情。
 押さえきれる筈もない深き業と、静まらない感情の果ての純然たる心。沢山探したけど、そこの駒が一番適任だったの。
 相性も良かったし☆ だからまずはこの国にしようって決めたんだけど……」


 歯切れ悪く最後は切れた。そしてその視線は、遠くに向いていたアルテミナスから、足下の僕らへと注がれる。いや、その視線はもっと明確な一人を捉えてる。
 それはアイリだ。アイリもそれを分かってる。だから彼女も息を吸って吐いて、上を見据えて言葉を放つ。


「絶望なんて……そんなもの、これ以上ガイエンには必要ない!! 私達がさせません!! そんな事は絶対に!!」


 強い口調で言い切るアイリ。それはアルテミナスの姫としてで、ガイエンの友人として、許せない事だから。アイリのその宣言で、シクラに呑まれ掛けてた空気が少し変わる。
 気持ちを強く持ち、セラ達も親衛隊もそのぞれの守りたい物でも思い出したみたいだった。まあ僕からしたら、親衛隊もセラ達も、そこに差異は余り無かったと思うけどな。


 親衛隊はガイエン何だろうけど、ガイエンはアルテミナスの事を思ってたみたいだし、やり方がアレだっただけで、それなら親衛隊も同じだろう。
 そしてセラ達は当然、アルテミナスを守りたい。アイリだって、そして今はアイリがそれを望むのなら、ガイエンだって守ろうとするだろう。


 そういう奴だよ。利害の一致とかいう奴で、この戦いが終われば実際親衛隊共がどうなるか何て僕には分からないけど、今だけは同じ物をみんなが見てる。その筈だ。
 強い眼差しでシクラを見上げる面々。だけど当のシクラはやっぱりいつもと変わらない。そんなみんなの気合いなんて、軽く受け流してる。


「ふふ、あはは☆ そう、別にそれでもいいよ。みんな目の色変えて私を見ちゃって……何だかゾクゾクしちゃうね☆」


 てな感じだ。コイツは本当にさ……何だか違うんだ。僕達が立ってる場所とシクラが居る場所はきっと違う。こいつは僕達の少し前で、少し上にいる。
 これはその余裕だろう。後ろからようやく追いかけてる僕達じゃ、シクラのこの余裕は崩せないのかも知れない。でも、それでも……走るのを止めたら、追いつくことは一生叶わなくなる。


「くっ! あの野郎!!」


 親衛隊の誰かが、武器を弓に持ち変えて矢を放つ。だけどそんな攻撃が当然、シクラに届く訳がない。小さな矢なんて、悪魔の一息でおしまいだ。


「なら、自分の魔法で!」


 そう言って杖を構えるのは僕と共に戦ってくれたヒーラーの彼だ。どうやら柊との一戦で奪われてた力も戻って、今は魔法も万全の状態なんだろう。
 ヒーラーだけど、決めの一撃の魔法は持ってる様だ。だけど僕はそれを制したよ。


「やめろ、どうせ届かない。それにただ倒すだけじゃ意味なんて無いだろ」


 シクラを倒すときは、全てを吐かせた後だ。まあ出来ればだけど。


「ぷっ! っははっはは☆ 倒すだけね。それってまるで私を確実に倒せるみたいな言いぐさだね☆ ヒイちゃんと戦った後で私にそんな事言えるなんて、よっぽど快勝したのかな?」


 この野郎……そんな事あり得ないと分かってる癖に言ってるな。まあ確かに、少しばかり自信過剰な言い方をしたのは事実だけど、あそこで「もしも倒せた~」とか言えるか。
 でも悔しそうに言うのは癪だから、なるべくこっちも余裕を見せて言ってやろう。


「別に、全然すっげー苦労した。実際勝てたのは奇跡みたいなもんだ。だけどな、僕は……いや、僕達はお前を倒してみせる!
 何でもかんでも思い通りに行くと思うなよシクラ」


 するとそこで、アギトが僕の肩に手を乗せて言葉を紡ぐ。


「はは……ああ、その通りだスオウ。俺達はまだ何も、諦めちゃいない!! テメエもその悪魔も、そして周りの雑魚共も! 全部ケチらして守りたい物も救いたい奴も、壊させたりしない!!」


 アギトの槍が炎を生み出す。暗い夜の中で、僕達が浮かび上がる様に照らされる。


「ふふ、粋がっちゃって。まあその方が私的にも面白いからいいけどね☆ だけど残念……これを聞いても、そんな口が叩けるのかな?
 私はねスオウ、ヒイちゃんの百倍強いよ」
「はっ?」


 ズガーンって衝撃がくるより早く、僕はそんな言葉を漏らしてた。てか百倍ってどうよ。何だかリアルさがねえ。息まいてるシクラに残念そうな視線を送ることで精一杯だ。
 シクラのその発言で驚嘆してるのは、僕と共に柊と戦った面々のみ。他は柊知らないからね。だけどあれ? リルレット達はちゃんと驚いてるってことは、僕の反応の方がおかしいのか?
 いやいや、でも百倍って……


「ちょっと! ほんとうだかんね! 私ってばスッゴく強いんだから☆ それにそもそも、ヒイちゃんはバックアップ……そっちで言う何だっけ? え~と後衛のポジションなんだからね!」
「何!?」


 その発言には流石にビックリだ。柊が後衛? アレでか? あれだけの攻撃のバリエーションを持ってて後衛ってどうなんだよ。
 まあ確かに思い返してみれば、柊は翼を生やしたりしたのに、あんまり動き回るとかはしなかったな。寧ろ分身を作ってそいつ等に攻撃させてた。


 あれは余裕の現れと思ってたけど、あそこが柊の定位置だったって事か。でもそれなら……確かに百倍(流石にそれはあり得ないだろうけど)が少しは想像出来る。
 基本、後衛と前衛じゃ武器がそもそも刃物とかと杖で違うし……攻撃力の差は歴然だ。強力な魔法は大層な武器で切り札にもなるけど、スタンダードに打ち続けれる物じゃない。


 少なくとも柊が後衛で、シクラが前衛なら、確かにシクラは強そうだ。てか柊で十分過ぎる位に強かったし……そもそも柊も、まだ全てを出してた訳じゃない……そんな気がするんだ。
 それを考えると、コイツ等はマジで化け物。


「うんうん、その顔だよスオウ☆ ヒイちゃんは私達を守って支える、いわば縁の下の力持ち的な存在なの。だから基本、あんまり動かない。
 人数が居たら、不利になるのは当然☆ だけどまあ、負ける何て思ってもなかったけど」


 愛おしそうに柊の髪に指を通すシクラ。美少女二人の絡み合いは、端から見てると結構艶めかしい。てか、純然な男子高校生にはいろいろとさ。
 だけどここはそんな敵の仕草にドギマギしてる場面じゃない。ついつい見入る位に美女な奴らだけど、その実反則だらけの最強の敵だからな。
 今のところは。


「じゃあシクラ……お前はどこの立ち位置何だよ?」


 僕は気を引き締めてそう聞いた。するとシクラは、僅かに妖しげな微笑みを称えて、その瞬間――僕らの視界から消え去った。


「「「!!」」」


 その場所を見つめてた誰もが目を見張った筈だ。それは本当に一瞬で、音も無く立ち上がりすらもしなかった。そして更にはさ、抱きしめてた柊もいない。
 そして不意に聞こえた声は、とても近かった。


「私はね、ヒイちゃんの様に重要でも、他の姉妹の様に特価した何かが有るわけでもないの☆ だけど、ううんだからこそ、私はどの姉妹よりも思考や理念、考え方が自由なの。
 私はどこにも定まらないこの自由を、立ち位置なんて物で計る気はないわ。でもどうしても気になるのなら、君が見定めてみる?」


 耳の奥、そして脳まで響く気がした。僕は直ぐに後ろを振り返る。だけどそこにシクラの姿は無かった。するとまた高い場所から、声が聞こえる。


「あははは☆ どうしたのみんな? まるで狸に化かされた様な顔をしてるよ?」
「っつ……」


 それは信じれない速さ。僕が完全雷化してる時と変わらぬ位だったかも知れない。でもそれをアイツは、涼しい顔でやってのけてしまってる。
 なんて事だ……もしもシクラ達姉妹が全員揃って戦う何て事が起きると、そこには勝率なんか見いだせそうにない。


 せめてこっちも、全てのバランス崩しを用意する位じゃなきゃだ。それでも勝てるかは五分五分もないかも知れないけど。
 自由か……柊とかは存在意義でセツリの為を言ってる感じが有るけど、シクラの場合は意志を感じたりする。自由な意志……コイツは自身の存在に縛られたりしてないのかも知れない。


 まあコイツ等がどういう存在なのかは、まだ決定的じゃ無いんだけど……でも、それでも大分見えてはきてる。後は確証だけ……ってあれ?
 暗い空に何かがある。星空が不自然にくり貫かれてる。そしてシクラは指をその何かに向けて突き刺す。


(何だ? 何なんだ……アレは……)


 僕達は必死に目を凝らす。その間にも、どうやらそれが指示だった様な悪魔は、上体を横に向けてメイスを構える。
 そしてそんな中、最初に声を出したのはアギトだ。


「アイリ? あれはアイリだ!!」


 炎が空に延びる。そして照らし出すのは、紛れもないアイリの姿。意識は有るみたいだけど、開く口からは声が出ていない。シクラの小細工か。
 だけど何で……というかあの一瞬で? ただ自分のスペックを見せつけただけじゃ無かったって事か。そういえば無駄に思える様で、無駄じゃない事をする奴だった。


 つまりは元からアイリを狙って一瞬だけ降りてきたのか。そしてどういう訳か、アイリを倒そうとしてる。悪魔を使って。


「言ったよね? だけど……って。最初は確かにこの国を滅ぼした姿を見せて覚醒させる気だったんだけど、どうやら進行は私が思ってたのよりも早いみたい☆
 それなら、その原因で代わりになるんじゃないかなって思ったの。人の心はまだよく分からないけど、こっちの方がダメージ大きそうじゃない?」
「きっさまあああああああああ!!!」


 怒号の様に叫ぶアギト。その声は大気を震わせる程の怒りが混じってた。そして同時に、炎を纏わせた槍を空に向かって投げる。それは丁度、アイリへと迫ってたメイスにぶつかり、爆発を起こす。
 爆煙で見えなくなるアイリ……どうなんだ? メイスはアレで防げたのか? そう思いつつ目を凝らしてると、煙から人影が飛び出した。それは間違いなくアイリだ。


「よし!」


 僕らはその落下地点を予測して動き出す。だけどその時、落ちるアイリを追う様に爆煙を払い、巨大な手が姿を現した。
 忌々しい程にまがまがしい悪魔の手。どうやっても逃がす気は無いようだ。シクラの野郎!! 僕達は急ぐ……だけど空中に居るアイリはどうしようもない。
 今からじゃ魔法も武器での攻撃も間に合わない。そして……悪魔の手が、アイリを覆い尽くしてく。


「きゃは☆ さあ、よく見える所で、ズタボロに引き裂いてあげる☆」
「くっそ……」


 捕えたアイリをもう一度高い所まで運んでいく悪魔。どうやらシクラの奴は、ギャラリーの前で公開処刑にしたいようだ。
 確かにあの話からすると、そうしないと意味は無いのかもしれないけど……そんな事、許せる筈がない!! だけど僕達は空を飛べない……打つ手がない。
 そんな時、轟く力強い声がもう一つ。


「何をやってる貴様等!! アレはアルテミナスの姫であり王だ!! 敵の好きな様にさせていいお方ではない!!」


 黒き長剣が、空にない三日月を描いた。その瞬間、悪魔の片足が切断される。そして掲げようとしてた腕ごと、悪魔は地面へと落ちてくる。
 地面に伝わる振動……そして舞い上がった土埃。その中から一人の騎士が現れる。捕らわれてたアイリをその腕に抱える人物は紛れもない……アギトとアイリが取り戻した絆……その人だ。


「ガイエン……お前」
「なさ……けない顔してるぞアギト。貴様が……私に言った言葉を思い出せ。そんな顔してる奴には……やはり……アイリは任せられんな」


 言葉が途切れ途切れになるガイエン。さっきまで頭を抱えて苦しんでたんだ。どうみたって無理してる。だけどそれでも、僕達が束に成っても出来なかった事をやりやがった。 
 流石と言うべきか……なんか初めて関心したよ。だけど直ぐにもう一度大きな振動が伝わった。そして大地を震わせる様な声と共に、不気味な二つの光が煙の向こうで輝いた。


 その瞬間、周囲に漂ってた土埃を突き抜けて大きなメイスが一直線にガイエンへと迫ってきた。悪魔の奴、自身の足の修復を待たずに攻撃して来た様だ。
 振り返り長剣を構えるガイエン。だけどその時、一瞬、足下がフラツいた。やっぱり得体の知れない何かのせいで回復出来なかったのが痛いんだ。


 てか、あの一撃を食らうとガイエンまでもやばいぞ。僕は走りだそうとした。だけどそこで肩を誰かに捕まれる。


「誰だ? このままじゃ!」


 振り返るとそこに居たのは、セラでもシルクちゃんでも無く、一緒に戦ったみんなでもない。それは鎧に身を包んだアルテミナス軍の一人だ。それなりに偉い奴なのかも知れない。
 でもだからこそ戸惑ったよ。だってこのままじゃ、アイリだって無事じゃすまないんだ。それはこいつらにとって死活問題だろ。だけど鎧に身を包んだ兵士は言う。
 前を見て爽やかな声でさ。


「あの方が、もう走ってます。大丈夫ですよ。あの二人が揃って、アイリ様を救えない訳がないんですから」


 その声は、とても慈愛に満ちてる様に感じた。顔は見えないのに、遠いいつかを馳せてる様な……そんな声。見続けた夢が……そこにはあるようだった。
 そして彼が言ったようにアギトが走ってる。たどり着いたガイエンの側でアイツは言う。


「何が任せられないだ! 無様な形しやがって、俺がまとめて面倒みてやろうか!?」
「ふっ――」


 迫るメイスは一直線に三人に向かう。だけどここで、強く地面を踏み込むガイエンとアギト。視線を交わし、その武器が互いに重なりあう。


「――ふざけるな!!」


 声で気迫を取り戻したガイエンと、アギトの攻撃はメイスの下側を突き上げる。それによって真っ直ぐに突進してたメイスは上方へと逸れていく。
 だけど強大な攻撃……巻き起こす風だけでも凄まじい。でも二度も攻撃を不発に終わらされた悪魔は怒り心頭の様子だ。
 大きく叫び、今度はその口に炎の固まりが収束しだす。


「おいおい、流石にアレには加勢した方がよくないか?」
「う~んそうですね。お二人とも熱くなると突進するタイプですからね~。アイリ様は声が出ない様ですし」


 気楽に言ってるけどあれはマジでやばいって。広範囲を燃え散らす炎の攻撃。ガイエンとアギトじゃ、防ぎようが無いだろう。


「シルク様!」


 見かねたセラがシルクちゃんに防御魔法を頼む。確かにそれがベストの選択。だけどその時、後ろから淡い光が大量に光りだした。
 そして僕の肩を掴む軍の奴が、自身の剣をアギト達に向けて言い放つ。


「アルテミナス式広範囲魔法障壁展開!! 我らが姫と初めての騎士……そして導いてくれたあの方を守り通せ!!
 我らアルテミナスの騎士の誇りに賭けてだ!!」


 ドン! ドン! ドン! そんな音が三回聞こえた。それはきっと、この場に集ってる軍の連中の応対だったのかも知れない。そして軍の後衛の人達が一斉に、多分そのアルテミナス式ってのを唱えてるんだろう。
 溢れる光は、地面に幾つもの魔法陣を描き出す。それは次第にガイエン達の所までもくまなく続く巨大な魔法陣へとなる。


 悪魔の口から放たれる火炎の固まり。だけどそれは、広範囲に展開された光の壁の前に阻まれる。地面を円をなぞる様に走る炎。
 だけど目の前に居る三人は全くの無事だ。ある意味拍子抜けした感じでこちらを振り返るアギトとガイエン。それに軍のその人は敬礼で応えてた。


 だけどまだ諦めきれない悪魔は、今度はその見栄えがする角で突進をかましてくる。それには流石の数十人での障壁も次第に歪みを出してくる。


「お二人とも早くこちらへ! 元々これはそう長くは持ちません!!」


 その言葉でアギトとガイエンは、アイリを抱えてこちらへ駆ける。だけど途中で異変が起きた。ドサッと音を立てて地面を落とされるアイリ。
 そしてそんなアイリにガイエンが震える腕で長剣を向ける。


「何……やってんだガイエン!!」


 叫ぶアギト。だけどアイツもわかってるだろう。それは多分、ガイエンの意志じゃない。このタイミングでまた……何かが表に出ようとしてるんだ。
 ガイエンの肌が見える部分から浮かぶ幾何学模様……それがこの魔法陣の光の中では良く分かる。


【邪魔するな!!】


 手を伸ばしたアギトを切りつけるガイエン。だけどその声は違ってた。やっぱりガイエンじゃない何かが出てきてる。


「っつ……誰だ!? お前は誰だ!!」


 槍をガイエンに向けて構えるアギト。でも奴は攻撃出来ないと知ってるからだろうか、変わらぬ声で返してくる。


【誰? 見てわからんか? 酷いじゃないか、私達はわかりあった仲の筈だろう? ガイエンだよ。お前達の仲間で友達のガイエン。
 どう見たってその筈だ】
「ガイエンは……アイリに剣を向けたりしない!! 貴様は誰かって聞いてんだ!!」


 たぎる炎がガイエンに向く。そして僕達もその周りを囲んだ。こいつをアギト一人で相手させる訳にはいかない。だけどそんな状況を見ても尚、ガイエンである何かは邪悪な笑みを浮かべて言い放つ。


【私が、この女に剣を向ける理由は有るはずだがな? 私はお前が憎い。お前を選んだこの女が憎い。何も思い通りに成らない世界が憎く、呪ってしまいたい!
 それが私の本音だよアギト!!】
「っつ!!」


 腐った事をそいつはしてた。そういう諸々を三人はようやく乗り越えた筈なのに……傷に塩を塗りたくるような事を言いやがった。
 それもこれ見よがしな邪悪な笑みで。突き刺さる何かがきっとアイリとアギトにはあったんだろう。表情が苦痛に歪んでる。
 だけどその何かの攻撃はまだまだ続く。


【私にはあるだろう!? なあアギト! なあアイリ! 二人で幸せにでも成ればいい!! その代わり私は、この世界の全てを憎み呪おう! 忘れるな、そうさせたのは貴様達だ!!
 だから貴様達がこの憎しみと呪いに呑まれることを、拒絶なんてしないよなぁ?】


 吐き気がする様な言葉。だけど二人は今にも折れそうな顔してる。何やってんだアギト!


「惑わされるな! そいつはガイエンじゃない! 分かりあえたんだろう? ぶつかり合ったんだろう? そして納得したから、もう一度お前達と戦えたんじゃ無いのかよ!!」


 僕の言葉にアギトは槍を投げ捨てた。その時、既に長剣がアイリへと迫ってる。だけど拳を握りしめたアギトの思いが、ガイエンの顔面を打ち抜いた。

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