命改変プログラム

ファーストなサイコロ

集いし聖地



 迫る地面に吹きすさぶ風、いきがってみたのはいいものの、このままじゃ地面に叩きつけられる事は確実だ。僕にもアギトにも、この状況をどうにか出来るスキルはありそうにないからな。
 少し生暖かく感じる風は、僕がさっきまで冷たい冷気を浴び続けて来てた影響なのか、それとも下のせいなのかな。
 きっと下は戦ってるんだ。というかここまで落ちてきてようやく気付いたけど、ここは・・


「おいスオウ! どうすんだよ!?」


 折角重要な事を言おうとしたら、至近距離に野郎の顔が……スッゲーげんなりするよ。必死なのは分かるけど、もう少し離れて欲しい。
 アギトってただでさえ暑苦しいんだ。炎使って、デカくて赤いからだと思う。


「あ~もう! ウザったいなお前!! 僕やお前にはどうにも出来ないだろ。ああ、良い案あるや。取り合えずお前僕のクッションになれよ」
「し・ん・ゆ・う!! そうだったよな俺達!?」


 もの凄い勢いで首を揺さぶられる僕。この状況で何やってくれるのコイツ。少し涙目になってるのは見ない事にしとこう……気持ち悪いから。
 てか実際、遊んでる場合じゃない。何度も言うけど、このまま落ちたら終わりだ。だけど余り緊迫感が自分的に不足してるのか……だからこんな無駄なやり取りをしてしまうんだと思う。
 つまりはそこにありそうなんだよね。この状況を打破する策が。


「おいスオウ! 何か言えよ!!」


 何でアギトの奴はこんなに必死なのか……てか考えの邪魔をしないで欲しい。お前だってここで死ぬわけには行かないんだろう。


「あーもう! 何でお前がそんな情けなく成ってるんだよ? ここでは僕に背中を見せ続けるんじゃ無かったのか? そうじゃないアギトなら本気で……」


 言葉が途中で止まる。本気で・・何だ? いや、それよりも僕は気付いたかも知れない。緊迫感が余り沸いてこない訳。


「おい、本気で何だよ? そんなの認めねーぞ!!」


 何か目の前でアギトが言ってるけど、やっぱりそうかも知れない。コイツと僕は、今もしかして同じ位置にいるかも。
 それが原因じゃないか? 何だかさ、ここまで来たんだ。そう思えるじゃないか。だって僕がLROを始めてから、こいつはずっと前に居たわけで……それと同じ所にまで来た感じがすれば、成長の証みたいな。


 でももっと単純な物にも気付いたよ。単にアギトが居るからってだけもあるかも知れない。無事な姿を見たら安心したし、コイツとなら……そう無条件で思えるからな。
 口には絶対に出さないけど。他の誰にも無い、特殊な信頼感……多分そんなのがあるよ。そしてさ、今ここには二人での出会いが集まってる訳だ。


 僕は上の方を見る。そこにはテッケンさんもシルクちゃんも、セラもリルレットもそしてアイリも居るよ。僕とアギトの方、それぞれで助けてくれたみんなが居る。てか、親衛隊の姿まで見える。
 その繋がりって奴がさ、僕の危機感を和らげてると思う。流石にアギトだけとは物理的に限界近かったけど、いつの間にかこれだけの仲間……そう呼べるみんなが居るんだ。


 限界? そんなもの、みんなで橋を架ければ渡れそうじゃん。僕は上を見つめたままでアギトに言ってやったよ。


「本気で親友辞めるから、取り合えずそれが嫌なら上を見てみろよ」
「上?」


 そう言って上を仰ぐアギト。すると今始めて気付いた様な顔をしやがった。まあ、ガイエンの事で一杯一杯だったんだろう。
 落ちていく中で、いろんな事が頭からも落ちてたって訳だ。みんなの存在忘れてるなんてさ。僕も余りアギトの事は言えないけど……みんなも何だかそれぞれにパニクってるし、全員同罪か。


 流石にLROでもこういうシチュエーションは希なのかも知れない。みんな普通に強大なモンスターには挑めるのに、揃いも揃って空の上でビビるんだからさ。


「そうか……アイリ達も一緒に来てたんだよな」


 そんな事を今更言うアギト。これで少しはいつものアギトに戻るだろう。何てたってアイリには情けない姿は見せたくないだろうから。


「って! 余計ダメだろ!! どうにかしないと全員がペシャンコだ!」


 全然冷静に成ってないアギト。まあもしかしたら僕も、凄く取り乱してたアギトがいたからこんなに冷静で居られてるのかもしれないんだけど。
 誰かが取り乱してるのを見たら、こっちは落ち着くと言う妙な原理ね。それも至近距離だったからかな。でもここで暴れられたらかなわん訳だ。


「落ち着けアギト! お前を落ち着かせる為に、みんなの存在を思い出させてやったんだぞ! てか何でその反応に成るんだよ。
 僕が期待してたのは、頼もしい仲間達の存在を思い出して、大丈夫!! そう思う事だったんだ!」
「大丈夫か?」


 疑問系で返すアギトに確実に僕はイラッと来たね。


「お前、仲間の何を信頼してんの? てか親友のどこを信頼してんの?」
「うっ……」


 口を紡ぐアギト。そして再びみんなを見上げる。それぞれの恐怖と戦ってるみんな。今は個々だけど、それが集った時の力は、僕よりもコイツの方が分かってる筈だろ。
 何てったってLROでは先輩なんだからさ。


「これだけの信頼できる仲間が集って、俺たちは死ぬと思うか?」


 そんな言葉をアギトに投げかける。すると堅く強ばらせてた頬を緩めて、僅かに口元が上へあがるのが見えた。そしてアギトは言葉を紡ぐ。欲しかった言葉をだ。


「いいや、それはないな」


 そう言ったアギトの目はブレてなんか無かった。取り乱してた最中のどこを見てるか分からないソレじゃない。今はちゃんとした目で仲間達を見れてる。


「仲間がいる……確かにそうだな。誰もが信頼出来るし、何でも出来る。そんな気がしてくる」
「なら。さっさと伝えよう。流石にヤバいぞ」


 僕はアギトと共に、息を大きく吸った。大声を届かせなくちゃいけないからな。この風がうるさい中でも誰もに届く大声を!


「みんなああ!! 落ち着いて周りを見てろよおお!! 僕たちがあ!! 仲間達が居るはずだろ!! 怖がる事がどこにある!?
 僕達にとってこんなのおお! 窮地でも何でもない筈だろ!!?」


 届いただろうか? 精一杯叫んで僕は酸欠気味だよ。だけどそこかしこから上がってた悲鳴や叫びは消えた。みんなが周りを認識出来たからだろう。
 最初から僕達は心細くなんて無かったんだ。それが分かれば、勇気だってわいてくる。そして次にアギトが叫ぶ。


「シルク!! いや、魔法が使える奴らは防御系の魔法でも何でも良いから詠唱を頼む!! 魔法が使えない俺達はは成るべく近くに寄るんだ!!」


 アギトの声は間近で聞くと大砲の様に感じたよ。これならみんなに届いただろう。最初にシルクちゃんを指定したのは、回復・補助系なら彼女が一番だとアギトは思ってるって事だろう。
 それはまあ納得だな。シルクちゃんはさっきまでピクを胸に抱いて震えてたけど、勇気を振り絞って杖を構えてくれてる。


 というか、今気付いたけどさ。シルクちゃん一人だけなら、ピクがどうにか出来そうだよな。抱えるんじゃなく、脚でも掴んで飛ばせばいいのに。
 だけど彼女はそんな考えには至らない。胸に抱いたピクに勇気を貰う様に詠唱を始めてる。そして他のヒーラー・ソーサラーも全員がそれを始めた。


 間に合うかは実際分からない。だけど驚いた事に、親衛隊の中の奴らまで詠唱を始めてくれてるみたいだ。僕達、魔法がカラッキシの組は、神秘の力を操る彼らを信じるしかない。
 そしてその最大の補助を実行しなくてはだ。


 魔法には効果範囲があるからな。こんなにバラバラに落ちてたんじゃ、誰かが漏れるかも知れない。どういう風な魔法をしてくれるのかは分からないけど、少しでも負担を減らすなら、やっぱり僕達は成るべく固まった方がいいんだ。


「スオウ!」
「おう」


 アギトの声で僕達は両手を合わせてスカイダイビングっぽくなる。すると空気抵抗が大きく成って、普通に落ちてるみんなが追いついて来てくれる様に成るはずだ。
 すると予想通り、重い奴らが追いついてきた。だけど位置だけはどうにも出来ないな。僕達は精一杯手を伸ばす位しか出来なくて、落ちてくる方は、必死に泳ぐ。バカみたいだけどさ、こっちは至って真剣だ。


 そうやって何グループかが円に成って出来上がる。そして魔法の詠唱をしてる人達は、その円の上に居る形だ。下に行る僕達は踏まれてる。
 だけどこれがベストだろう。ついでに言うと僕の上にはシルクちゃんが立ってる。もう後数十メートル位しかないかも知れない。


 詠唱の間違いは出来ない。するとその時、変な現象が起こってた。詠唱してるシルクちゃん達の体が光ってる。そっしてその光は僕達にまで伝わってきた。
 下から見てる人達には、空に三つの円が浮かび上がってる様に見えただろう。こういう魔法なのか? とも思ったけど、誰が何の魔法を使うかも分からないのに同じ現象が三つの円で起きる何ておかしい。
 だけど今はそれを考えてる場合でもない。


(頼む!! みんな!!)


 そんな風に祈った。目の前に迫る地面がほんの数メートル……そんな時、詠唱を終えた魔法使い達は視線を交わした。
 そしてそれぞれの魔法を叫ぶ。複数の声が入り交じって何て言ったのかはよく分からない。だけどその瞬間、地面に光が集う。そしてみんなの懇親の魔法が発動された。


 まずは幾重にも重なった網目状の魔法が出てきた。だけどそれを僕達は突き破ってしまう。勢いがありすぎる様だ。次は雲の様な物が視界に現れた。
 勢いも少しは削れた筈だし、これで止まるれと僕達は願う。だけどどうやら、想像以上にこの人数を受け止めるんは難しい様だ。


 僕達は複数あった雲を突き抜けて地面へと真っ逆様だ。その様子を見た地面の人もモンスターも、空間をぽっかりと開けた様にしてる。


「てか次は!?」


 これで終わりなんて訳ないよね? そう願いたいのは山々だけど、考えてみればさっきのネットも雲も複数出てた。あれを一人一個しか出せなかったとしたら……それだけで終わりそうじゃないか?
 最悪の考え。否定の為に、信じて魔法を待つけどない。てか地面は目の前だ。今更遅い!!


「「「うああああああああああああああああああ」」」


 地面に向かってきっと全員がそう叫んだだろう。どうにも成らない事がこんな所で起ころうとはだ。地面にぶつかる刹那の瞬間。
 僕の目には世界がスローモーションに見えていた。それこそ今なら、この瞬間の誰もの表情を目に焼き付けれただろう。それだけ世界は遅かった。
 そして――


「「「ぶっはっ!!???」」」


 みんなが地面に一瞬埋まって、弾き出された。全員が理解不能でもう一度空へ飛び出した筈だ。そして再び、みんなが地面へと落ちる。


 するとやっぱり地面が妙に柔らかい。ボニョニョン、ボニョンボニョンとトランポリンと言うより、プリンに近いかも知れない。
 そんな奇妙な地面に僕達はどうやら救われた様だ。


「えっと……これって?」


 まさかこの地面だけがこんな柔らかかった・・なんて訳ないだろう。つまりこれも魔法? 一体誰の? その時、僕の近くで声が聞こえたよ。


「ふう~よかったねピク。上手くいって」
「ピクゥ~!」


 そんな一人と一匹の会話。柔らかな地面を押し込んで顔を上げると、バサバサと翼を広げて飛び立つピクと、見取れる程の笑顔のシルクちゃんの姿があった。
 てかヤバいよこの演出。命の危機から救われた直後と相成って、スッゲー輝いて見える。ピクのピンク色の羽が舞い落ちるのも凄く良い効果を発揮してた。


「これって貴女が?」


 僕が聞こうとしてた事をアイリにとられた。みんなもシルクちゃんに注目してる。すると恥ずかしそうにだけど、にっこり微笑んで答えてくれた。


「はい、勢いが凄かったから普通のじゃダメかも知れなかったので、地面自体をどうにか出来ればどうかなって……上手く言ってよかったです」


 うう~ん大人しそうに見えてやっぱりシルクちゃんは侮れない子だ。まさか地面自体に細工が出来るなんて。他のヒーラー・ソーサラーの面々まで驚いてるじゃん。
 よく見ると、地面に光る線が走ってる。あれでこの魔法の範囲を決めてるみたいだ。本当にブニュブニュ。確かに地面ならそれ以下はないからな。


「だけどみなさんのおかげで勢いが弱まってたのも良かったんだと思います」


 他の人への気遣いも忘れない優しさ。ヤバいねこの子。やっぱり男なら誰でも一度は惚れそうだ。


「何嫌らしい目でシルク様を見てるのよ!」
「ゲフッ!!」


 ドガッと脳天にエルボーを決められた。だけど救いは地面は柔らかくて痛くなかった事だな。脳天はスゲー痛いけど、板挟みにされずにすんだ。てか誰が嫌らしい目で見てるだ!
 んな訳ないね!


「セラお前な! いきなり何かましてくれるんだ!! こっちだってズタボロ何だよ。それにお前には無い癒しがシルクちゃんにはあるんだ。
 それは決して嫌らしくない!! 誰だって惹かれるんだよ!!」


 この暴力毒舌女め。常々思うけど本当にメイドかよ。メイドの服着た暗殺者だったっけ? くっそアサシンの方がよっぽど似合ってると思うな。


「!……スオウ君」
「ふふふ……スオウ、言いたいことはそれだけかしら?」


 あれ? 何だか二人の反応がおかしいぞ。シルクちゃんは照れた様に顔を赤らめて、セラは額に青筋が浮かんでるような……そう言えば恥ずかしいことも気に障る事も言ったかもな。
 それでもセラに怒られる筋合いは無いんだけど。全面対決・・それを覚悟してると、いきなり雄叫びが響く。それも尋常じゃない響きだ。
 地面が揺れる様な……そんな地を震わせる叫びがとても長く続きやがる。


「何!?」
「なんだこれ?」


 どうやら、一触即発の事態は僕とセラだけじゃ無かったようだ。周りに視線を巡らせてそれがわかった。てか今まで気付かない方がどうかしてた。空中で地上の様子は見てた筈なのにさ……地面に生きて降りれた事で忘れてたよ。
 この場所が戦いの場だったって事を。


 頭を叩かれる様な叫びの嵐。耳を塞いでみても効果は無い。その音の発生源は直ぐ周りにとても沢山いるようだ。赤い光が夜の闇に無数に光ってやがる。
 それは信じられない位の量。


「ここってやっぱりそうだよな?」
「そうみたいね。あの女、とんでもない所へ招待してくれるじゃない」


 地面は元の堅さを取り戻し、強固な足場を踏みしめて僕達は奴らを見据える。目が慣れてくると、その姿も鮮明に見えてくる。
 間違いない……この叫びと無数の赤い光の正体は、大量のオーク共だ。普通のモンスターとは違い、知能をある程度持ち、集団戦なんかしてくる厄介な奴ら。
 それがこれだけ大量に居るとなれば、もう周りの誰もがここがどこなのか気付くはずだ。


「俺達は、アルテミナス側のフィールドに送られたのか」
「て、事はここはアルテミナス軍とモンスター達の戦闘地帯って事ですか?」


 アギトとシルクちゃんの言葉に応えたのは、僕達の誰でも無かった。じゃあ軍の中の誰か? まあ確かにそうなんだけど、それは僕でも聞き覚えのある声だった。


「その通りっす! ここはアルテミナス門前のフィールドっすよ! ほら向こうに見えてるっす」


 そう言ってそいつが指し示す方をみるとそこには確かに見覚えのある門構えがあった。てかその更に中から突き出てるクリスタル……あれが決定的だ。光明の塔、それはアルテミナスの象徴の巨大なクリスタルだからだ。


 あれがあるならここはアルテミナス……間違いない。いや、この状況で納得できる。僕達がタゼホへと向かいだした時、同時にモンスター共の侵攻は、ここ首都アルテミナスへと始まった筈だからだ。だけど確か、もう少し離れた場所で開戦される筈だったんじゃ?


「ノウイ君! 良かった……ちゃんと無事で……ううん無事じゃ無かったんだよね。だけど……ありがとう。貴女のおかげで私達は戻って来れました」
「いや……そんな。それなら良かったっすアイリ様。言ったじゃないっすか。アイリ様の力に成れたなら本望っすよ」


 駆け寄ってきたアイリが鏡から現れたノウイへと頭を下げた。困った顔しながらも、ノウイは照れくさそう。ゴマみたいな目を糸こんにゃくみたいにしてる。


「みなさん、ご無事で何よりっす!!」


 それから僕達を一通り見渡してそう言った。すると周りからポツポツとこんな声が聞こえてくる。


「アイリ様?」「本当に?」「おい、あれはアギト様じゃないのか?」「お二人が戻って来てくださったのか?」


 何だか周りの軍の皆さんが大層騒ぎ始めたぞ。まだ確信は持ってないみたいだけど、そうか……二人の存在は軍の起爆材に成れるかも知れないな。
 そんな中、ノウイへ詰め寄ったのはセラだ。結構必死な顔して言葉を紡ぐ。


「ちょっとノウイ、ここって最終防衛ラインでしょ? まさかもうここまで侵攻されたって事?」


 間近に迫るセラの顔……ノウイは心なしか嬉しそうに見える。だけど聞かれてる事は至って深刻だ。ニヤケそうな顔を必死に整えてノウイも答える。


「えっとっすね。もう自分が戦闘不能でここのゲートクリスタルに戻された時には第二防衛ラインまで突破されてたんす。
 敵の数は想像以上で……それに指揮系統もガイエン様がいないと無茶苦茶っす。もっと痛いのは、集まりが悪いんす。どうやらガイエン様の行動に反発してる人達はこの召集に応じてないんす!!
 ただでさえ向こうが多いのに……これでもみんな頑張ってるんすよ!!」


 ノウイの必死な叫びが夜空に響く。周りをみると、本当に軍のみんなは酷い有様だった。僕達が落ちた場所は丁度最前線か。赤い瞳と黒い鎧で左右が分かれてる。
 でもその勢いは一目瞭然だ。見れば劣性なのは本当に直ぐわかる。誰もがボロボロ……でもその顔には僅かな生気が少し戻ってるそんな気もする。
 それはもしかしたらアイリの存在かな。


「あれ? そう言えば親衛隊は居るのにガイエン様はいないっすね?」
「「!!」」


 何気ないノウイの一言に、ガイエンの知り合い達は歯を食いしばって下を向いた。その様子に不味いことを聞いた事を直ぐにノウイは気づいたんだろう。
 困った顔をテッケンさんに投げかけてる。


「ノウイ君……彼は……」


 テッケンさんも流石に言いにくそう。全部説明する時間は無いし、だけど掻い摘んだら「ざまあみろ」に成りかねない。
 事情は僕もよくわからないけど、そうじゃないんだよな。それはアギトを見てて思ったよ。だからこそ、テッケンさんも詰まってる。
 だけどその時、妙に耳に残る声がこの場を支配した。


「お探し物は、これか~な☆」


 その瞬間、ゾッとするような悪寒が頭上から降り注ぐ様だった。空間を飲み込むそんな雰囲気はどうやら、敵にだけ影響する物じゃないみたい。
 さっきまで吠えまくってたオーク共が、忠犬の様に成ってるよ。そして暗い夜空から、何かが僕達とオーク共の間に、鈍い音を響かせて落ちてきた。
 それは……


「「ガイエン!!」」


 真っ先にそう叫んで駆け寄るのはアギトとアイリの二人。それに続いて親衛隊が走る。ガイエンはどうやら、辛うじて息がある状態。


 僕は真っ先に落ちてきた空を見つめた。そこには星の光を遮る何かが居る。大きな何かが確かにだ。震える様な恐怖の感覚……僕はこいつを知っている。
 それは……この悪魔は……忘れる筈もない!! 闇夜に浮かぶ最初の敵と僕は再び向き合ってる。

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