命改変プログラム

ファーストなサイコロ

精一杯大きな声で



 赤と金色が混じったような炎がその場に長く尾を引いた。余韻と言う物を既に残しつつあるこの攻撃だが、まだ終わった訳じゃない。
 俺は砕かないといけない……「負ける気はない」そう言ったガイエンを負かさないといけない……それにはこの攻撃で確実にリア・ファルを狙うべきで、そうしてる。


 ガイエンが振り卸す腕の先にそれはある。何度その力が頭上から襲いかかろうが、それから目を離す事はしない。黒い腕の中でその銀色の外枠と、中央の不思議な色を放つあの石を無関心で無視できる訳がない。
 この僅かな瞬間に、幾度と無く落ちたカーテナの力。実際それらが俺に直撃してないのはおかしな事。それはこの金色の炎の効果も有るのかも知れないが、だけど今まではその既存を打ち破って来たのがカーテナじゃ無かったか?


 だけど今、俺はまだ倒れずにガイエンへと迎えてる。さっきの一撃で足が持って行かれそうに成ったが、バランスを崩してもそれでも俺は執念で前へ飛んだ。
 カーテナの受けてる異常が、ガイエンまでもその毒牙に掛けてる筈……だけど俺は、進めてしまってる。そうでなければ勿論困るんだが、これはきっと最後のこの炎だけの力じゃないと思うんだ。


 セラ達が繋いでくれたこの命……今日この日まで信じてくれたアイリ……そして闇に呑まれつつもこれはきっとガイエンの思いがカーテナを僅かにズラしてる……そう思う。
 自分でも気づいて無いのかも知れない……アイツは自分の事には途端に鈍感に成る奴だから。だけどもうさ……良いんだ。もうそろそろ素直に成っても。


 認めたくない事も、ため込む事も体に悪い。この世界の体が幻なら、きっと心に悪い。それに今はそれだけじゃない筈だ。
 アイリと言う受け皿を設けて、使ってた筈のカーテナという力。ガイエンが使ってるその黒い部分の力は、別の場所へ流した方が良かった筈の部分だろ。


 それか一人では足りなかったから……ガイエンは言ってた。アイリはカーテナを使うための触媒でも有ると。それはアイリが受け皿に成ってたからだろう。
 だけど今、アイリはその呪いからアルテミナスという力で守られてる。つまりはもう黒い部分は受け入れてないんだ。
 なのにガイエンは、前と変わらずカーテナの力を振るってる。


(どうやって……)


 そんなのは決まってる。アイツ自身がその呪いの全てを請け負ってるからだろう。そうでないと納得出来ないし、アイツから立ち上ってる黒い影、あの説明も出来ない。
 あれはアイリに流せなくなったカーテナの呪い……ここに来て、アイツがおかしく成ってきた……そう思えるのはこれも原因なのかも知れない。


(だから、これ以上使っちゃダメなんだ!!)


 これ以上、この力を振るわせちゃいけない。全部をこの呪いに飲み込まれたとき、どうなるのかは分からないが、取り合えずマトモな事には成らない気はする。
 倒れない俺の前に、今度は足下から影の攻撃が迫ってきた。幾百もの影の攻撃、だが俺は臆す事なく前へ行く。槍を振るい、叩き斬りながら前へ……だけどその数の多さに、落とせなかった影が体に少しづつ届いてくる。頬に腹に太股に……その鋭利な影が痛みを伝える。


「っつ――うざってぇ!!」


 更に増えようとする影へ対して、俺は地面へと槍を突き立てた。すると赤と金色の混じる炎は、黒い影を焼くように地面へと広がる。
 それによって迫ってた鋭利な影も、空中で霧散して行く。流石はガイエンに対抗する為だけの炎だ。これで俺達の距離を阻む物はもうない!!


 霧散していく影の向こうのガイエンを見据えて、俺は更に一歩前へ詰める。地面から槍を抜き去り、見据える場所はただ一点。リア・ファルと呼ばれる王の選定石だ!


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「アギト!! お前に阻ませはせん!!」


 ガイエンはそう言って俺の攻撃を、カーテナの力が宿る両腕で受け止める。するとその場で、炎と闇が亀甲する。槍が纏ってる赤と金色の炎と、ガイエンの腕から立ち上る黒い闇……それが合わさる場所で激しく周囲に散っていく。


「信じられん……認めんぞ!! お前の様な死にぞこないに私と拮抗出来る力があるなど!! カーテナに及ぶ力があるなど!!」


 二つの力が拮抗する事が許せなくて信じられないガイエンが、怒りの形相でそう叫ぶ。アイツがいろんな物を犠牲にして手に入れた力が、俺に並ばれるなんて屈辱以外の何者でもないんだろう。
 だけどこっちだって、ここに来るまで苦しんで、悩んで立ち止まって……いろんな事を越えてきたんだ。一朝一夕なんかじゃ決してない。


 このスキル『白炎《纏》』をここまで完璧な形で使えたのも、俺だけの力じゃない。そして仲間達だけでも無くて、それはガイエン……お前がある意味、これが発動する間待っててくれたおかげだろう。
 その気に成れば、幾らだって俺を潰す機会はあったはずだ。いちいち喋りに付き合う事も無かった。自分が絶対に正しい道を進んでるんだって、お前が本当に信じてるのなら、貸す耳なんて無かったはずだ。


 だけどお前は俺達に付き合った。自分が正しいと言ってたけど、本当はそう言い聞かせてただけで、嘘とは言わないがどこかに本当は矛盾を抱えてたんじゃないのかよ。
 俺が今、こうしてお前の前には立ち塞がってるのは、お前の願いだったんじゃないか? そう思える自分がいる。どこまで狂っても、結局はアイリには手を出さなかった。最後の攻撃の前に、影でアイリを捕らえたのはその為だろ。


 大切だから、傷つけたくないから……お前は本当におかしい!! こんな事をやって、そんな姿に成ってまで、本当に欲しかった物は何なんだ!!
 激しく燃え盛る炎の中で、俺はその瞳に滴を溜めてガイエンを見据える。赤い瞳が、血の様な涙をアイツも流してる。


「だから言ってんだろ!! こんな力、カーテナじゃないって!! 本物の力に俺が並べる訳ない!! だからこそ、お前の振るうこの力はカーテナなんかじゃないんだ!!
 こんな力はただの……黒く卑しく、欲望ばかりで裏で画策ばかりする、お前の心その物をぶつけてるだけだろうが!!」
「何をバカな事を!!」


 ガイエンは怒りを激しくして、その闇を大きく広げた。勢いも増して、炎を消してしまおうとしてる。だけど俺は踏ん張る。ここで押し負ける訳には行かない!!
 バカなこと? 確かに俺が言ったのはバカな事かも知れない。形だけならガイエンの攻撃はカーテナその物だし、根拠なんてアイリの言葉しかない。最後のなんて、言っちまえばただのお前に対する悪口だし。


 でもな、そんなバカな事をこっちはまじめに言ったんだ。アイリの言葉を信じない訳ないし、悪口なんて俺達の間じゃ日常だろガイエン。
 幾ら罵りあったって、俺達は一緒に居れたはずだ。友達で居れた筈だ。


「消えろ……消えろ!! 消えてしまえアギト!! お前の存在が私の計画を狂わせる!! お前だけが! 私に正面からぶつかってくる!!
 いい加減に離れろよ!!」
「はっ、何言ってんだよガイエン! 最初に生意気に俺達にぶつかって来たのはお前だろ!! そんな腐れ縁を作ったのはお前なんだから、責任取ってつき合えよ!!
 計画とかなんとか、そんなのしらねえ!! 友達なら、んなの抜きで遊ぼうぜ!!」


 きっかけがどうあれ、最初は確かにガイエンからだった。それは間違いない。こいつが俺達を選んだんだ。なら、しっかりと責任は取って貰う。
 そして共有した時間が後悔で終わらない様に、今俺はここいるんだ。だけどガイエンは俺のそんな言葉に、更に怒りを増していた。


「まだそんな事言うかアギト!! 友だと? 遊びだと? そんなんだからお前は上へ立つことは出来ないんだ!!遊び感覚で、偽りの関係に満足する……そんな曖昧な物、私は作った覚えはない!!
 私が必要とするのは、ただ使い勝手の良い駒だけだ!! それで言うと、お前もアイリも失敗だったさ!!」
「ぐ! ……づあああああ」


 更に大きく広がったガイエンの闇。だけどそれに伴って、ガイエンには腕から全身へと広がる亀裂な様な物が入ってる。そしてそこから大量の闇が漏れだしてるんだ。
 このままじゃガイエンがどうなってしまうのか分からない。一刻も早くリア・ファルを砕きたいが、広がった闇は俺の炎を飲み込もうとしてる。


 じわりじわりと、闇に触れた部分から炎がかき消されていく様だ。闇の部分を刺激したのは正直不味かったかも知れない。だけど気づいて欲しかった。俺だってまだ、何も見捨ててないって事をだ!
 決めたんだよ、過去を見つめて。沢山の自分と相談して決めたんだ。俺はお前も助けるって。必要としてなくても、そうしようって。


 間違ってるのなら、ぶん殴ってでも止めるのが友達の役目だろ。俺は消させない……幾ら周りの炎を消したって、この槍自体の炎は絶対に!
 この炎がある限り、俺は折れない心で居れるんだ!


「おかしな事を言うのはお前だろガイエン!! お前にとってLROって何だよ。気持ちが偽りだとかバカにする癖に、ここで手に入れる世界には価値があるのかよ!?
 誰も心を持たないNPCだけの世界になんてお前だって夢はみないだろ! ここに居るのが人だから……そこにはお前が目指すべき価値が生まれてる。そうじゃないのか?
 でもな言っといてやるよ! お前が否定する曖昧で目に見えない物で人は絶対に繋がってて、それが世界に成ってんだ!!
 お前と俺……そしてアイリは間違いなく繋がってる!!それは否定しようもなくな!!」


 そして俺はスオウやテツなんかとも繋がってて、そしてスオウはセツリやエイル、テツはシルクやもっと他の誰かと繋がってるだろう。
 目に見えない繋がり……それが否定しようもない『世界』の形。だけどあくまでもガイエンはそんな世界を否定する。


「はははは!! そんなくだらない物に染まった世界なんてリアルだけで十分だ!! そしてもしもLROまでもがそんな物で絡め取られようとしてるのなら、私が断ち切ろう。
 世界はもっと分かりやすい支配制度でやっていける。友や仲間などいらない。上司と部下、くくれる物は仲間などでは無く、完全に律された軍が理想的だ。
 私ならそれを実現して見せる!! くだらない繋がりが遙かな時代から絡まったリアルは無理でも、一年と少ししか経ってないここなら!!
 LROなら、まだまだ変われる!! 我らプレイヤーはそれを目指してる筈だろうアギト!!」


 ガイエンの目指す世界は、全ての人を階級で分ける様なものなのか? 大昔のカースト制度かよ。そんな廃れたやり方での支配なんて、誰が望む。というか、大前提に支配なんてされたくない。
 本当に、どんどんどんどん言うことが過激に成ってないかガイエンの奴。最初は王に成りたいだけじゃ無かったか?


 それが今や、恐怖の支配者を目指してやがる。ヒトラーにでも成るつもりか。自分が支配する世界ってのは、本当に居心地が良いもの何だろうか。
 まあ、そんなのわかりもしないが、少なくともガイエンが成る王とやらは、多分きっと苦しいだけなんじゃ無いだろうか。恐怖政治の間違いないなんか腐るほどあるだろう。


 それをコイツが知らない訳ない。でもそんな王をガイエンが目指す訳……それはただ夢だからじゃないだろう。そんな世界征服なんて考える奴は大抵、そうでもしないといけない訳でもあるか、今の世界に自分が合ってないとでも感じてるか。


 それか認めさせたいか、そこまでしないと手に入らない物でもあるのか……ガイエンは言葉の節々にリアルを軽蔑するような事を言っている。
 それに人間関係も結構辛辣だ。コイツはここに……この世界に本当は何を求めて来てるんだ? アイリの事をきっと気にしてる……それを認めさせて、野望を砕く……真っ正面からぶつかった結果で、分かりあえるかも知れないシナリオは何かが足りない気がする。


 だけど、ゴチャゴチャ考えてるだけじゃこの闇に飲み込まれてしまう。この炎は正真正銘、俺の最後の切り札なんだ。失うわけには行かない。
 ここで決めなきゃ、もう絶対に次はない。誰もが満身創痍なんだ。アイリもセラもシルクも……そして仲間達全員……俺だって、次立ち上がれる自信はない。


 本当に元気なのは、ガイエン位だろ。この黒い闇の中身までは分からないが、この饒舌さ……相当乗ってる。でもどう考えたって、その考えには乗れないな。
 今の時代は誰もが好きな民主の時代なんだよ。王は居ても良いが、それはアイリの様な王であればこそ。支配を強要する奴に、誰が本当に頭を下げるのか。


「そんな……古くさい支配なんて……」


 俺はガイエンの言葉に、やっぱり対抗する言葉しか返せない。いや、それしかないだろう。否定して否定して、コイツのもっと奥の言葉が欲しいんだ。ある意味、今のガイエンはそれを発しやすく成ってると思う。
 だけどこの闇の影響で言うことの、どことどれをくみ取るかが難しい。ガイエンは今一体、どこまで正気なんだ?


 次第に多くなっていく漏れ出す闇……その影響はあって、そして今現在も、力を使って拮抗してるから、アイリに流せない呪いは全てガイエンが請け負ってる筈だ。
 この力をこれ以上使わせちゃいけないのに、ここまでやっても俺はまだ届かない。ガイエンの闇も欲望も、本当に無限の様に黒く深く広がり続けてる。


 目の前で拮抗してると感じる。魂まで吸い尽くそうとしてるこの闇を。赤と金色の炎が俺自身を守ってくれてる筈なのに、滴り出す冷や汗は止まらない。


「人は誰しもが、支配される事を望んでる生き物何だよアギト。先頭に立って走るのは怖く辛い所行だ。そして進む道も分からないのは可哀想な事。
 そして一番楽なのが誰かの後に付いていく事だ。そんな大多数が支配される側の人間なのだよ。お前もそうだろアギト?
 アイリという先陣を切って走る一人の後を追う支配を望む者。お前ではダメなんだよ!! そんなお前がアイリの隣に居て良いはずがない!!
 同じ場所に立つ覚悟も無いお前には!!」


 アイリの隣には居られない……そんな自問自答はもう何回とやったさ。前に一度、同じ場所に居たいと思って頑張ったけどそれは失敗した。
 でも今は、そんな頃とは違う覚悟を俺はしてる。深く考えすぎない、もっと簡潔で単純な覚悟だ。


「確かに前の時は挫折した。それをお前のとかのせいだなんて言わない。あの頃はきっと気負い過ぎてただけなんだ。
 なあガイエン、俺はもうそこに居なくちゃいけないとは思わない。それよりももっと始めにやることがあったんだ!」
「やる事だと? そんなのは逃げ出した奴の遠吠えで言い訳でしかないんじゃないか? 資格の問題なんだよアギト。お前はそれを放ったんだ!」


 広がる闇に反比例するように縮小していく炎。気のせいか、あの闇の圧力と言うか何かが強まってる気がする。でも、言い切ってやる! 
 余計な事にばっかり気を回しすぎるコイツにな! 俺は痺れてきた腕に再び力を込めて、僅かでもガイエンの闇を押し返す。


「だから、そんなもんより先にする覚悟があるだろうが!! 自分の気持ちを認める覚悟!! お前はそれからずっと目を逸らしてるだろうが!
 そんなんで、お前が言う資格は持てるのかよ! 俺は自分自身と見つめて決めた! 単純な事だけに、向き合うとすっげ~恥ずかしいけどな、だけどこの覚悟は絶対に必要だ!」


 金色の炎がキラキラと俺を照らしてる。赤い炎が、自分の火照った顔を少しでも隠してるくれるのを期待したい。スゴく恥ずかしい……本人も居るし……だけど、俺はこれを言うと決めた。
 本当は全部が終わってからだと思ってたし、雰囲気とかを考えて候補は三つ位絞ってた。その中でもこれは最悪。でもこのバカには、ある意味殴るよりも効くんじゃないかって思うんだ。
 感謝しろとは言わないけどな、度肝位は抜いておけ!!




「俺は……俺は!! アイリの事が大好きだって自分に認めさせる覚悟を決めたんだ!!」




 その瞬間、俺の耳には炎がたぎる音だけしか聞こえなかった。気のせいか、一瞬闇までその揺らめきを止めてた様に見えた。
 そしてグンと、持ち直す事も出来て、一瞬いけるとまで思える程だった。けどガイエンは動揺しながらも闇に力を送ってそれを防いだ。


「アギ……トッ……」


 どこからか聞こえてくる裏声った声の主を俺はみることは出来ない。顔から火がでそうとはこの事だ。


「アギト……それが何だと?」
「別に、俺は俺の思いを覚悟を持って吐露しただけだ。それに王とか民とか関係なくったって、思いを持つ事も、伝える事も、そして思い合う事だって出来るさ。
 近くに居られればそれは安心だけど、そうじゃ無くったってダメなことなんか無いだろ。大事なのは気持ちだろ!!」


 ガイエンはきっと揺れてる。平常心を保ってる様な様子だけど、確実に闇の浸食は止まってる。何かが心に突き刺さったんだろう。
 多分自分でも分からない何か……


「……戯れ言だ」


 するとかすかにそんな言葉が聞こえた。そして何だかジワジワと染みでる様に闇がコボレてきてる。どういう事だろうコレは。
 取りあえず、気持ちを締め直してガイエンを見据えた。


「ガキ過ぎる戯れ言だなアギト!! 気持ちや心程、曖昧で不確かな物はない! 手に入れたと思うこと事態が間違いで、通じ合えると信じる事が愚かな事だ!!
 人は誰とも本当に分かり合えはしない。お前が言う友情も愛情も全てが慰み……LROと同じ幻想よ。『大好き』など、幻想の中の更なる虚像でしかない。
 そんなもの……」


 その時、俺は信じられない物を見た。それは涙だ。今までの赤い涙じゃない、透明な水の滴。


「お前……」


 ガイエンは自分で気づいてないのか、俺の反応が分かってない様だ。だけど言葉の続きは出てこない。ガイエンの心は、何かをきっと感じ取ったんだ。
 そう信じたい。その時、俺達を少し離れた場所から見てるアイリの声が挙がる。


「そんなものなんて言わないで!! 幻想だなんて思わないでよ!! ガイエンだって本当はそんな事思ってないでしょ? その涙が証拠だよ!!
 人は、通じ合えなくったって、分かり合えなくたってそれでも好きに成れる!! だってそれは知ろうとする事なんだもの! 
 分かり合えないから頑張って、通じ合えないから努力する。そんな人だから、愛おしく思えるの!! 諦めないでよガイエン……私達との今までを!!
 嬉しかったよアギト。 アイリ・アルテミナスが願います。お願い……少しで良いんです。心強き者に、この力を!!」


 その瞬間、アイリと俺の間の地面が光の柱をあげた。そして届いたのはきっとアルテミナスの力だ。


「どこまで行っても私を認めぬかアルテミナス!!」


 燃え盛る炎を見て声を上げるガイエン。そしてその闇は更に濃く広くなる。自身の防御に回してた筈の力を分け与えたアイリは、その肌が黒い闇に飲まれて行ってる。
 グズグズしてなんかいられない。全身が燃える様……だけど不思議と熱くない。アイリの暖かさに包まれてる。炎が闇を食い始めて、ガイエンの腕にも走っていく。それはお前を食らう炎、逃れる術はない。


「うおおおおおおおおおおおおお!!」
「ぬおおおおお!! わた……し……は……」


 影も闇も燃えつくす。そして一瞬、甲高い子供の叫びと共に、その石は砕け散る。赤と金色の炎は、夜空に高く渦を巻いて立ち昇ってた。

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