命改変プログラム

ファーストなサイコロ

奇跡と少しの知恵と



「HPが減ってる……」


 柊の言葉で気付いたそれは、まさに命のタイムリミット。どうやら毎秒一桁づつHPがこの雷に食われてる。確かに柊が言うように、何もしなくてもこのままじゃあ僕は終わってしまうんだろう。
 それが奇跡の代償……でも、だからって……


「スオウ! 駄目……このままじゃ駄目だよ! 早くその状態を解いて!」


 抱えたリルレットの叫びが耳に届く。実際、発動の仕方は分からないけど、この状態の解き方なら何となく感覚で分かってた。
 きっと、諦めればいいんだ。そしたら奇跡は、手のひらからこぼれ落ちていくんだろう。だけどそれは……全てを諦めてしまう選択じゃないか! 
 僕は首を振ってリルレットに言葉を返す。


「出来ないよ……それだけは出来ない。これ以外に、どうやってアイツを倒せるって言うんだ!」
「倒せないよ! まともに進む事も出来ない癖にどうやって戦うの!? 頑張るから! 私達ももっと頑張る! でもスオウ君が無理して倒れたら駄目なの!!」


 背中から激しく腕に力が込められる。今の自分は全然痛くないけど、その思いは締め付けるみたいに心に伝わった。
 だけどその時、そのリルレットの言葉を聞いて柊が真っ先に口を開いた。


「そうなんだ。どうりでさっきから読めない動きしてると思ったけど……制御出来てないのね。あははは、とんだ奇跡ね。
 それじゃあ役になんて立たないじゃない。その子の言うとおり、早く解かないと死ぬわよ」


 ありがたい忠告を敵の筈の僕にしてくれる柊。でもそれは余裕があるから言える事だ。アイツはこの事実を知って更に僕を下に見てる。
 てか気付かれちゃいけない事だったよな。まともに移動出来ない何て舐められて当然だ。そしてそれを役に立たない……そう思うことも当然。


 誰もがきっと言うだろう、早く解いた方がいいと。でも僕には……それは出来ない。それに柊にこう言われちゃ、何としても一死報いたい。


「はは……ご忠告どうも。だけど心配するなよ柊。この雷……ちゃんとお前に届かせてやるよ」
「スオウ!!」
「そう? じゃあ早くしないと手遅れに成るわよ。私に殺されるか、自身の雷に命を吸われ尽くすかしてね」


 背に居るリルレットは再び叫び、言葉を紡いだ柊はその翼をまたも大きく展開する。六対の内の半数を直接攻撃に、後の半数は遠距離から攻めてくる。


「――っつ!」


 僕は一歩を踏み出してその場を離脱する。バチッと弾ける音と共に姿を消して、次に現れたのはヒーラーの所だ。こいつは珍しい、雷属性の杖を持ってるから引かれたんだろう。


「うお! って本当に一瞬だね。でも今ここに来てくれた事は丁度良い!」


 一瞬僕の出現に驚いた様だけど、ヒーラーはすぐさま回復魔法を詠唱する。どうやら周りで、みんなはそれぞれ僕達の会話を聞いてくれてたみたいだな。
 まあでも確かにこのタイミングで二人居るヒーラーを引き当てられたのはラッキーだ。これで無くした分のHPを回復すれば何の問題も無いじゃないか。


「スオウ前見て!」


 背中のリルレットの言葉で前を見ると、柊の奴が用意してた氷柱を一斉にこちらに放ってた。しかもそれらの氷柱が今までと何か違う。
 ただ翼から放たれて真っ直ぐに向かってきてた今までの動きじゃない。必然的にかわす必要も無い奴とかが今までは有ったのに、今度は全てが操られたように半円を描くようにして向かってきてる。
 それはつまり――柊の奴が操作してるって事だろう。


「そこね。もう逃がしてあげないわ。ランダムなら私はこの目を最大限に使うだけ。言ったでしょう? ここは私のフィールドだって」
「くっそ……また天扇か!」


 そして僕の予想は当たってた。迫り来る氷柱の波の向こうから、天扇を操る奴が見える。どうやらその力は自分自身にも有効らしい。
 天扇は指した対象をその支配下に置ける武器……だと今までの経験上思う。それで翼が生み出した全ての氷柱を支配下に置いたって事か。


 今までは一度に一つの物しか操れないと思ってたけど、それは間違いかも知れないな。今は無数の氷柱を操ってる訳だし。
 迫り来る氷柱の波は三方向に分かれて向かってくる。上と左右……大量の氷柱が半円を描いて向かってくる様は、氷の竜が襲い来る様にも見える。


 だけど邪魔される訳にはいかない! 回復魔法は生命線だ! だから僕は完全雷化してる両腕のセラ・シルフィングを胸の前で構えて勢い良く左右に広げた。


「うおぉらあああああああ!!」 


 気合いの叫びと同時に、振るった武器から大量の青い放電が辺りに放たれる。それらは三方向から向かってた氷柱を全て砕き落とした。
 雷によって一瞬で蒸発とかさせられた氷柱の冷気が肌を撫でるように流れてく。その先では、些か驚いた様な柊が見えていた。
 そして背中に居るリルレットもそれは同様だったらしい。


「凄い……あれだけの数を一撃でなんて……」
「やっぱり手放す何て出来ないな。それはきっと簡単に出来るけど、次はもう無いと思う。みんなが頑張ってくれる事を疑う訳じゃないんだ。
 今のこの力……この奇跡は……もう既に、みんなの頑張りのおかげなんだよ。だから僕は手放したく何か無い。HPが続く限りはさ」


 僕の言葉に、リルレットは無言で腕に力を込めた。それがどういう事かは分からないけど、次の瞬間にはそこに有ったはずの重さと温もりが離れる間隔があった。


「本当に、スオウは変だよね。自分が一番危ないのに、何で真っ先に危険を請け負おうとするのかな? もっと自分を大切にしたほうが良いよ」


 振り返ると地面に足を付いたリルレットの姿があった。あの砲撃も消えたから、急激な体温低下はもう無いみたいだ。それにもしかしたら、雷化してる自分が背負ってたのも案外効果が有ったのかも知れない。


「そうかな? 誰かがやらなきゃ行けないことで、原因が自分にあってみんなを巻き込んだのなら……それを背負うのは自分自身の役目だと思うんだけど?
 それにさ、今の状況じゃ誰もが同じ条件でやってるよ。誰もここではLROをただのゲームだなんて思ってないだろ。
 みんなも覚悟を決めてる。エイルがあんな事になった時から、次は自分かも知れないと思ってる。だから今はもう、僕だけが特別なんかじゃないんだ」
「それは……そうかもだけど……」


 リルレットは胸の前で握った拳を胸に押しつけてる。何かを言いたいんだろうけど、僕から顔を背けて息を吐くだけだった。それはリルレットだって例外じゃないから。


「よし、では回復魔法行きます!」
「頼む」
「ええ、自分はヒーラー。そんな全員の命を預かる身ですから。大丈夫、誰も死なせません!」


 そう言って振るわれる杖。自身の足下から浮かぶ魔法陣は、淡い光を上昇させる。これで時間は延びる筈……そう思った。
 だけどその時……バチッと足下から雷撃が放たれる。そしてそれは自身の足下の魔法陣を打ち消した。


「なっ!?」
「い一体何するんだ君は!!」
「違う! 僕じゃなく勝手に……ってまさか」


 その時思い至った考えは実際最悪な物。だけど……これはそうとしか考えられないのも事実。僕はヒーラーとリルレット、双方と顔を見合わせる。
 すると二人の顔も何だかよくない事を考えてた顔だって今の僕には分かる。てか何だか、波長っていうものが感じれる気がするんだ。
 微弱な電波の違いみたいな? テンションとかでそれは微妙に伝わり方が違う。それはこの状態だからだろう。だけどその特殊過ぎる態勢がきっと、外からの干渉を受け付けない様にしてる。


「回復出来ないって事?」


 震える声でリルレットが僕が思ってたことを口にする。そんな言葉に僕は頷く事しか出来ない。


「なんだそれは!! それじゃあ自分の存在意義は何なんだ! く……それじゃあダメだ! 回復を受け付けないのなら、今すぐその力は手放すべきだ!!」


 ヒーラーが食いかかる様に僕に詰め寄る。確かに回復出来ないのなら、リスクが高すぎるかも知れない。そしてそれにリルレットも加わってきた。


「そうだよ! ダメ……回復出来ないのならやっぱり容認出来ない! それがなくてもきっと何とかなる! だから止めて、お願い!!」


 二人の心配する思いは、この状態の特性で痛いほど伝わってくる。けど……何とかなる? そうは思えない。だって――その瞬間僕は後方に剣を向けた。そして放たれる雷撃が、再び向かって来てた氷柱を砕いた。大量の冷気が一斉に弾ける。


 けど同時に変な臭いもした。強力な電撃だから、酸素がオゾンにでもなったのかも知れないな。するとその行動に二人は目を見張ってた。
 どうやら二人は、この力の事に夢中で気付いて無かったらしい。


「うそ……さっき完全に死角だったよね?」
「見えるはずのない攻撃をどうやって感知した?」


 二人して同じ様な質問だ。だけどこれで少しでも理解してくれるのなら……そう思って僕は口を開く。


「別に……全ては電磁波とか電界の影響かな? この状態では常に周囲にそれらを放ってたりするわけだよ。だから見なくても感じる。
 そこに触れたり、ある一定の領域に入るとさ。これはもうそういう感覚としか言いようが無いけど……つまりはそういう事だ」


 実際は自分でも不思議な感覚なんだよね。自分がレーダーとかに成った気分を多分味わってる。それか今まで第六感として何となく感じてた領域が、より広がったって感じでもいいかも知れない。
 まあそれよりもずっと正確な訳だけど。でもこればっかりは成ってみなきゃわからない感覚だ。だから信じて貰えるか心配ではあったけど……二人は意外にあっさりしてた。


「そっか、雷だもんね。そういう事が起こってもおかしくないかも……それにスオウだし」
「確かに……君ならだからそういう事もあり得るかも知れないな」


 何だか二人の僕を見る目が非常に気になる言葉何だけど……二人して何で「僕だから」で納得するんだよ!


「おい、その見解ってすっげ~不満何だけど」


 僕はジトーとした目で二人を見据える。でも二人はそんな視線はあっさりとかわすして言葉を続ける。


「だってイクシードも実際そうだけど、驚く事をするのは柊達だけじゃないよ。私たちにとってはスオウだって十分規格外なんだから。
 でもそれは無理してるって事だよね。セツリちゃんを助ける事が絶対なのはわかるけど、それでスオウ自身が倒れちゃったら意味ないんだからね」
「ああ、その通りだよ。君も確かに規格外な所があるけど、奴らとは違う。生きてるんだ。その影響は計り知れないだろう。
 万が一があったら、沢山悲しむ人がいるんじゃないか!?」
「悲しむ人……」


 そう言えば、そういうの今まで考えた事無かったかも知れない。それは自分が死ぬなんて、実はそう考えて無いわけで……でも一度あったな。それを身近に感じたこと。
 もしも、本当に自分が死ぬなんて事が有ったとしたら、真っ先に思い浮かぶのは日鞠の顔だ。アイツはきっと泣くだろう。それにアギトだって……悲しんではくれると思う。


 それに意外と生真面目だからな……僕がこのLROで命を落としたら、きっと責任を感じるだろう。最悪な想像……それはもう戻らない日常になるのだろうか。
 瞳の裏に映る大切な幼なじみの顔。いつだって傍に居てくれて、それはこれからも変わらないと勝手に思ってたけど、僕はもしかしたら勝手にそれを終わらせようとしてるのかも知れない。


(そうなったら……怒られるかな?)


 何となくそう思う……だけど、その声は違うことを言ってる気がする。自分の中の日鞠はきっとこういう奴だってさ。




『スオウは決めたんでしょ!? あの子を助けたいんでしょ! ここで諦めたら誰があの子を救うの!? 後悔しない生き方を選ぶ! 私たちの約束だよ!
 だからきっと大丈夫! 私がいつだって祈ってる。だから安心して、でも全力全快で道を開こう』




 耳元で聞こえるそんな言葉。日鞠は多分、僕が死ぬことも怒るだろうけど、セツリをここで諦めた事もきっと怒るだろう。
 それにやっぱり何を言われたって辞める気は無い。心配してくれる心だけはありがたく受け取るだけにしとくよ。僕は詰め寄る二人に視線を向けて口を開く。


「確かに、悲しんでくれる人は僕にも居る。だけここで諦めたらきっとそいつにも怒られるよ。そう言う奴で、僕はそいつにはだけは嫌われたくないんだよ」


 僕の言葉がこの寒い空間に染みていく。するとリルレットはブルブル震えてこう叫んだ。


「バカァ! バカァバカァバカァ!!」


 それは僕も隣のヒーラーもビックリするほどの勢い。だけど大きく肩を揺らす仕草が収まっていくと、その熱がスーと引いていくのを感じた。


「リルレット……ごめん。でもセツリだけじゃない。僕はエイルだって助けたい! それにはこの力は絶対に必要だ。
 僕を心配してくれる心は受け取るよ。とってもありがたい。大丈夫、命が尽きる前に決めればいいだけだろ」
「やっぱり……類は友を呼ぶって本当何だね。スオウもそうだけどアギトもそう……それにリアルのその人も……みんなバカばっかりだよ。
 もう……あんな思いはしたくないのに。エイルは助けたいけど、もう誰ももしもになんか呑まれないで欲しい。だってとっても苦しいもん! 
 幾ら心を強く保とうとしても、とっても重い不安がいつまでも拭えない……それがとっても苦しい」


 胸を押さえて、逸らした瞳に僅かに浮かぶ涙が見える。そうだよな……リルレットはずっと無理してた筈だ。だってエイルはリルレットの相棒だ。
 リルレットも無理してない訳がない。本当は誰よりも柊を倒したいと願ってる筈だ。けど、だけど……それよりも僕の身を案じてくれてる。


 それにもう一度それが……いやそれ以上の事が起きるのが怖いのもわかる。僕だって死ぬのはイヤだし。だけどだからこそ、見せなきゃいけない事があると思う。
 今ここで立ち止まったら、全部がこぼれ落ちる。まあ、エイルは実は大丈夫なのかも知れないけど、それでもこういう時にこれから、リルレットが立ち止まる事しか出来なく成ったら……それはきっと駄目なんだ。


 その時、リルレットの言葉を聞いていたのか、後ろから唐突に柊が入ってきた。僕がこれから言葉を掛けようと思ってたのにだ。
 この開いた口をどうしてくれるんだあの野郎。


「人は苦しみや痛みを抱えて生きる。それってとっても不幸な事だと思うわ。苦しいのなら、そんなの捨てちゃえばいいじゃない。
 それが出来ないのなら、忘れちゃえばいいのよ。いつか変わったり終わったりする関係なんて辛いだけ。それならもういっそ、何も求めなければいいじゃない。
 厄介なリアルでは何一つ、上手くいくことなんてないんだから」


 氷柱は効かないと悟った柊が、次の攻撃に移ろうとしてる。何をする気かはわかないが、取り合えず今の言葉は訂正しておこうじゃないか。
 何が捨てちゃえばとか忘れればいいだ。それはやっぱり柊が人じゃないから言える事で……理解してないから投げれる言葉だ。
 そこには何の重さも責任も無い。僕は柊の方へ僅かに顔を向けて言葉を紡ぐ。


「お前は……やっぱり何も分かってない。いや、そもそも理解する気が無いんだから当然かも知れないけど、僕達の中の出会いや時間は、ただ頭のメモリに刻まれる訳じゃないんだ」
「おかしな事ね。人に脳以外の記憶媒体が有ったの?」


 そう言いつつ、柊は六対の翼それぞれを任意の位置へと突き刺して行ってる。そして僅かずつだけど、翼が振動を始めた様に見える。
 一体何が目的だ? 頭で柊の狙いを考えつつ、続きを紡ぐ。


「あるさ。僕達人は、心にも刻むんだ。忘れたくない大切な事を。そしてそんな大切な事は、忘れようとしたって忘れられない……それにさ、苦しかったこと辛かった事だって時間が経てば掛け替えの無い物に成ったりするものだ。
 確かにお前が言うように上手く行くことなんてリアルじゃそうそう有るものじゃない。向こうには理不尽が溢れてるんだろう。特にセツリとかにとったらさ。
 でもだから、お前達はここをセツリの理想郷にでもする気かよ」
「そう、その通り。この世界から人間を追い出して、自我を持ったNPCだけがあの子に無償の愛を与え続ける。誰も何も、あの子を苦しめない世界・・それが私たちの目的で、命改変プログラムの真の使い道よ」


 今までよりもっと明確で簡潔にされた奴らの目的。徐々に激しくなる翼の振動が、次第にこの湖全体の氷に広がっていく様だ。
 いやな予感がする……今の自分のイヤな予感はなかなか無視できない訳だから、どうにかしたほうが良さそうだ。だけどどうやって? まだ準備が整ってない。
 取りあえずは、その瞬間を引き延ばし奴の考えに少しでも違う物を残せれば……


「真ってのは違うだろ。もう一つ……それが正しいんじゃ無いか? それに誰も何も苦しめない? だからこそ、お前達のその目的は夢なんだ!
 誰も苦しめないのは、誰も本気でソイツの事を考えてないから……何も苦しめないのは、全てが一線を置いてるからだろ。
 そんな世界で本当にセツリは生きてるのかよ? 苦しみや辛さ……その痛さは何も暗いばかりじゃない。少なくともリルレットの苦しみはや辛さは、誰かを思う優しさだ!
 それも分からないお前達に、セツリが幸福であれる世界を作れるなんて思えないな」
「言うじゃない。頼りに成らない奇跡でも態度は大きく成れるのね。でも……それもここまで! ブランド・ゼル発壊」


 その言葉の直後、足下の氷が大きく崩れ出す。そしてどうやら崩れるだけじゃない様だ。せり上がったり、地割れの様に成ったり、いきなり陥没仕出したり……これじゃあまるで地形そのものを変えてる様だ。


「うあああああああ!!」
「つっ――頼む!!」


 地割れに落ち行くヒーラー。僕は祈りつつ、氷を踏み込む。だけど駄目だ……でも諦めずに、青い雷光を二・三度光らせた。するとようやくたどり着いて、何とか救出。
 もう一度飛ぶと、そこは再びリルレットの傍らだった。


「助かった……やっぱり必要だなソレ。しかし自分は回復以外何も……」
「別にお前他の魔法だって使えただろ?」
「使えないんだ! きっと氷に取り込まれた時、持っていかれた。他の奴らもそうだろう。だから動きづらいんだ……だから自分にはもう回復しかなかったのに……」


 まさか……そこまで深刻に成ってたとは知らなかった。柊の奴は僕達をLROから追い出す為にスキルを奪ってるんだろうか?
 僕は目の前で嘆くヒーラーに視線を落とす。


「そんなに落ち込む事ないさ。だってまだやれることは有る。この力を振るうために、力を貸してくれ」
「スオウ……」
「もう……本当に、死なないでよ!」


 僕は二人に頷く。周りは凸凹になりかなり視界が悪くなってる。そして柊はどうやらせり上がった氷の頂上に行るようだ。


「さあ、これでその力、ますます使いづらく成ったわね」


 確かにその通りかも知れない。でも……


「安心しろよ柊。必ず届かせてやるよ。そのためにも今は――」


 僕はその場から移動した。それは大切なことをやるためだ。それに僕が居たら、リルレット達も攻撃に巻き込まれるからな。
 雷光が氷の峡谷に走り続ける。だけどその位置はバラバラだ。目的が有るなんて思えない動きだろう。だけど有るんだ! 


(必ず……)


 全員の元へたどり着けるかは分からない。けどこれは僕の掴んだ、最後の賭だ。

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