命改変プログラム

ファーストなサイコロ

雷体の心技

「まあ、何でもいいわ。何をやろうと、私は君を潰すだけだもの。あの子がもう、悩まなくて良いよう……泣かなくて良いように」


 そう言って柊は、他に回していた翼も一斉にこちらに向けた。輝く羽が、大きく開いてその刃を突きつけようとする。
 だけどその瞬間、僕の視界がブレる。すると向かってきた筈の翼の側面を眺められる位置に僕は居た。


「ん?」


 何が起こったか実際まだ自分でも分からない。一瞬体重を片側の膝に掛けた……んだけど、すると何かに引っ張られる様な感覚に襲われた様な気がする。
 そして気付くと移動してる。これは信じれない速さだ。イクシードでもここまではどうだろうか。それに体がやけに曖昧な様な……光が痛いくらい目を打つんだ。
 すると直ぐ近くから聞きなれた声がした。


「え? あ!? スオウ? どうやって……って何かバチバチ言ってるよ」
「リルレット? うん、確かに何かスパークしてるな」


 視線をリルレット同じ所に向けると、そこでは青白い光がバチバチ鳴ってた。それは僕の体とリルレットの剣の間で起こってる。
 それはまるで引き合ってでも居るようにも見えなくない。一体何が? すると隣のリルレットが僕を見つめて、震える声を出す。


「ねえスオウ……その体はスキルを発動してるからだよね?」
「体……」


 そう言われて僕は自身の体に目を落とす。すると初めて気付いた。自分の体が雷放の雷撃を纏ってるって事に。いや、違うのかな。
 僕の体がどうやら、雷放に呑まれてる? もっと言えば、その雷撃と解け合ってる感覚だ。青い光を纏い、その光その物に体も成ってる……それなら、この一瞬の移動も頷けるかも。


 イクシードはこの身に風を纏えるけど、風その物に成る訳じゃない。それに風と雷なら雷の方が早いだろう。だけど……どうしてって思いは消えない。
 だって僕にこんなスキルは無かったはずだ。それにこれがスキルとしてあるのなら、イクシードと対等クラスなのは間違いない。


 イクシードは風を……これはセラが付いてから加わった雷をメインに据えた物。いや、イクシードは雷も加えれたしその分を考えれば、これは完全雷化とかそんな感じだ。
 スキルにも無いことがこの身に起こってる……これはまさに奇跡って奴なのかな?


「シルフィング……」


 そう言って両の腕を見ると、そこにセラ・シルフィングとしての形は無くて、ただその形に雷が成ってる。そしてその部分が一番激しく弾けてる場所の様だ。
 それにどうやら、一番近かった腕の部分はセラ・シルフィングと同じ状態にまで成ってる。二の腕の先から形は見えなくて、ただそこに拳を感じるだけだ。


「まぐれ……じゃないみたいね。あの無茶な行いは、天扇からの解放が目的じゃ無かったって事かしら? その姿……まるで雷にでも成ったみたいね」


 こちらに向き直った柊が、その背に翼を戻してそう言った。何だかもう理解したって顔してるなアイツ。こっちはまだまだ全然状況が飲み込めないってのに、何なんだよ全く。
 言っときたいけど、こんな事に成るなんて予想外だ。青天の霹靂なんだよ。まさに僕は天扇からの解放に賭けてたんだからな。


 「雷にでも成ったみたいね」――それはその通りでしかないよ。本当にどこまで、この体は雷になってしまってるんだろう。
 一体どこまで、この仮初めの体はまともなのか……だって、常に雷に包まれていて、それと同じ様に成ってるって、自分がどういう風に認識されてるのか不安だ。


 僕はスオウのままで居られてるよな? 本当はもう雷の塊の存在とかにされてたらショックだったりする。僕はだけど取りあえず、敵に焦ってる所を見せる訳にはいかないし、勝手に思惑通りと思ってくれるのなら、それで良いと思いのっかった。


「はは……どうやらさ柊。今僕は奇跡を掴んでるみたいだよ。それも降って沸いた奴じゃない、自分自身で手繰り寄せたこれからに繋がる奇跡って奴だよ!!」


 実際よく分からない状況を自信満々に言ってみた。まあ何一つ嘘は言っちゃいないがな。この今の姿は、僕が必死に手繰り寄せた奇跡以外の何物でもないだろう。
 僅かな可能性に賭けて自分を傷つけて、開いたのはあったけど気付かなかった扉なんだ。それがこの力……そう思う。


 さっきから妙に冴え渡る意識の中さ……これだけは間違いなく思ってた事がある。この姿に不安も感じたり、戸惑ったりもするけど、今こうやって感じる力の沸き立つような感覚。
 自分自身が雷と言う膨大なエネルギーを内包した存在であること……それが紛れもない自信を生んでたりする。感じるんだ。
 今なら、柊と渡り合えると。あの理不尽で埋め尽くされた存在と肩を並べられると思えてしまう。


「奇跡……そんな物、ほんの一瞬に過ぎない瞬間でしかないわ。奇跡程度でたぐれるこれからがどれほど短いか、その体に教えてあげる。
 私を……ううん私達を奇跡程度で越えられるなんて思わない事よ」
「随分と奇跡を軽く言うじゃんか柊。僕だってただの偶然を奇跡と履き違う事なんかしない。そこにはさ、価値の違いがあるんだよ。
 奇跡ってのは、奇跡足り得るだけの現象ってのが起こるもんだ。今、この瞬間の僕自身とかさ……偶然で起こる事じゃきっとない。
 それにただ縋ったんじゃないから、これは起きたんだ。今のこの奇跡がどの程度かは、その身自身で確かめて見ろよ!!」


 取りあえずやるしかない……そう思った。もうこの起こってしまった現象が奇跡であると信じてさ。それに沸き上がる自信とかは偽りでもハッタリでもない。
 今しかない……そう体中が叫んでる。


「言われなくても、ちゃんと潰してあげるわよ」


 その瞬間、大きく開いた羽から無数の氷がこっちに向かう。それに今回は天扇も使って向かってくる間に、冷気を通らせて氷が巨大化させやがった。
 それぞれの氷が人一人分はある位に成長してる。でもそれでも今の僕なら……


「スオウ!」
「大丈夫……の様な気がする。だから行ってくる!!」


 驚愕するリルレットの声に、僕は自信を乗せた声を返す。そして僅かに地面を踏みしめて蹴ってみた。
 その瞬間、閃光の様に体が流れる感覚に陥った。体が軽い……それはまるで感じれない程にだ。向かってきてた氷と僕は刹那の瞬間に交わった。


 でもあまりのスピードにまだ馴れない僕は何も出来ない。でも十分だった。雷速は空気を擦り、更に雷を周りに作る。それらが周囲に放たれて、僕が通った後には一瞬のスパークと、氷が砕け散る音が響いてた。


(イケる!!)


 確かにそう思えた。だけどそれを思ったのは仲間の傍らでだ。確かに真っ直ぐに柊を目指した筈何だけど……もしかしたらと、薄々思ってた事が脳裏をよぎる。
 もしもそれが僕の考え通りなら……さっきの考えは浅はかとも言えるかもしれない。てか撤回の余地ありだ。


「はぁはぁはぁ、あれ? お前いつの間に……ってまあいいや。なんだかスゲー事だけは分かるからな。勝てるよなスオウ?」


 雷を纏った僕を見て、理解じゃなく感覚で話してくれる仲間。説明のしようもないし、それは助かる事……だけど、紡でくれた言葉に声がつまる。
 勝てるか……いや、僕だって勝ちたい……と言うか負けるわけには行かないんだ。何の為に、誰のためにここまでやってる? 諦めきれないから、僕は奇跡までもその手に掴んだんだろ。


 なら思い切って言ってやろう。今なら僕はその自信を見せれるから。この奇跡に、問題はありそうだ……けど、だけど、柊を追いつめれる力はこれ以外にきっと今はない。
 だからそれを使う僕が弱気を見せちゃいけない。奇跡ってのは儚い物だからな。手からコボレない様に、しっかりと心を強く保たなきゃだ。
 自分に言い聞かせる意味でも、僕は仲間に言葉を返す。


「ああ、必ず勝つ! それは絶対だ!」


 すると安心したように一度大きく息を吐く仲間。気付くと僕の体と、今度はこいつの斧がバチバチ鳴ってる。僕は形の消えたセラ・シルフィングを構えて再び飛び出した。
 雷が尾を引いたように見える一瞬……衝撃波と共に僕の体が消え去る。そして今度は何も無く、誰もいないぽっかりと空いた場所に僕は到達していた。


 そこは僕が目指した柊の居る場所とは全然違う。これはもう確定的だ。取りあえず、先に確かめる事が先決だとは思ったけど、これはやっぱりって感じだ。
 向けた体も、飛び出す先も関係ない……この状態はどうやら――


(着地点が定まらない)


 ――らしい。それはもの凄く雷らしい事ではある。今の僕はどうやら、どこに落ちるか分からない……予測も完璧には出来ない……落雷と同じ状態なんだ。自分自身でもそれを把握することは出来なくて……今まで仲間の場所に行けてたのは、きっと流れ易い武器を持ってたから。
 電気は流れやすい方へ向かう傾向があるから、リルレットやみんなの武器にこの体は引き寄せられたんだ。バチバチと体が反応してたのがその証拠だろう。


 そしてたまに何も無い所にだって雷は落ちる……それが僕が今ここに居る訳だ。柊の所に向かってもなかなか行けなかったのは、アイツは氷で、武器も扇で、鉄を含んだ物を持ってないから何だ。
 だからこそ、周りにある鉄の武器にこの体は引き寄せられる。でもこれじゃあ、全然まともに攻撃出来ない。全く持って大問題だ。


 威力もスピードも申し分ない……これまでで最高クラスなのは間違いない。柊ときっと対等にやれる力……でもそれも矛先を向けられないんじゃ意味がない。


「おい! どこ行ってんだ!」


 そんな言葉が背中に刺さる。こっちも好きでこんな所を目指した訳じゃないっつ~の。


「向かってこないの? それで私に何を見せてくれるのかしら? 何もやらないのなら……ここで静かに眠りなさい」


 そう言って柊はその翼を自身の前に延ばしてる。それは今までとは違う事をやろうとしてることだと分かった。湖の氷が光を放ちそれらが柊へと集まって行ってる。
 そして六対の翼が作り上げるのは真っ白な雪の様な光の玉だ。優雅にして微細なその光球の周りには、自身の放つ光で周囲までもがキラキラと見える。


 あの光球事態が冷気でも放ってるのか、多分だけどあれはダイヤモンドダスト……その現象だと思う。プラスをマイナスにとことん変換する奴だ。
 そしてどうやらそれを落とす事に限界なんて柊は無い。天扇とそのコードがある限りは……多分。臨界点に到達した光球はその姿を崩しては再生を繰り返す様に瞬いてる。


 崩れさる部分は雪と成って大気に舞っていく。見取れる程に美しい……そう思わずには居られない光景だ。だけど暢気に見取れてたらやられるのは道理。
 あれはもういつ撃たれてもおかしくない状態だ。柊の髪が冷気の中で靡いてる。そしてトリガーのように天扇がこちらへ向けられた。


(来る!!)


 その瞬間、光球は十字に割れた様に見えた。でも認識出来たのはそこまで。僕は雷の速度でその場を離脱する。どこに行くか分からない移動……だけど避ける事は確実に出来るだろう。
 そこだけはお墨付きだ。




「スオウウウウウ!!」
「何? リルレット」
「うわあぁ!? って、うわぁあああだよ!!」


 何か二度同じ様なリアクションで驚くリルレット。まあ無理もないけどね。だってさっきまで僕が居た場所は例の光球によってものスゴい光の渦に包まれている。


 そして当然、リルレット達はそこに僕が巻き込まれてる物だと思ってただろうからね。その当人が気づかぬ内に隣に居たとなると、そりゃ驚くよ。
 何か幽霊を見た感じの驚き方だったしな。


「え? え? いつの間に……ってそのスキルの賜何だよね?」
「さあ、実際これがスキルかどうかも分からない。けど、問題は一つ分かってるんだ。どうやらさ……この状態だと落雷と同じみたいでさ、自分じゃ進路を決めれないみたいだ」
「えぇ!? 何それ?」


 更に驚愕するリルレット。僕もビックリの衝撃の告白だよ。まあ、この段階で再びリルレットの場所に来れたのはラッキーだった。
 もしかしたら自分の電位と、リルレットの波長は合うのかも知れないな。


「何だかそんな格好良く成ってるのに……何かガッカリ」
「ガッカリとか言うな!!」


 カッガリなのはこっちだよ! 奇跡を掴んだと思った。だけどそうだったんだ。このLROの神様は、とことん僕を虐めたいんだった。
 それを忘れちゃいけない。自分が知ってる……思い描いてる奇跡をくれる訳がない! 


「随分楽しそうじゃない」


 そんな声が聞こえて、僕達二人は同じ方向を振り返る。するとこちらを向いてる柊が居た。そして二人同時にきっと悪寒を感じたはずだ。
 まさか二発目でも撃つのか? そう思った。だけどそな面倒な事はしないらしい。もっと単純で、そして簡単な事をやりやがった。


「え!? それこそ嘘だよね? あれだけの砲撃を動かすの!?」
「今更だリルレット! 柊に自分達の理屈を当てはめたって意味なんて無い!」


 地響きと共に迫る砲撃。だけどそれはもう、砲撃と言うより横から迫り来るから壁の様だ。柊の奴は意図も簡単に砲撃をそのままこちらに移動させて来やがる。
 逃げる……その選択肢しか無いけど、それじゃみんなを巻き込む事に成る。もしもあのエネルギーが切れる事がない……なんて成ったらその内絶対に捕まってしまう。


 そうなって一体何人が耐えれる? いや違うな……もう誰も、犠牲になんてしないと思った筈だ。負けたくないから、僕は今……こうなってる。


(考えろ! なんの為の雷化だ。攻撃を当てるにはどうすればいい? 着地点が定まらない……それが原因。でもこうやってリルレットの所には二度も来れてる。
 武器……鉄……そして僕は電気。定まらないのなら示せばいいのかも知れない!)


 体の全てが電気と化してるからか、思考の巡りが恐ろしく早い。電気信号が神経を伝うんじゃない、電気そのものが全部を伝えてくれる。
 迫る光の壁に、僕達の影は小さくて、そして酷成ってる。光と闇は表裏一体なんて言うけど、この光は全てを飲み込めそうだ。


「スオウ逃げよう!! このままじゃ直撃し……う……」
「どうしたリルレット?」


 いきなり言葉が途切れた……と言うか呂律が回らなくなった感じに見える。それに肩を押さえて震えてる? そして唇も見る見る青くなってる様な。


「寒い……」


 僕はその言葉で察した。そうだったんだ。この砲撃はダイヤモンドダストを起こす程に冷えた空間を作り出してもいた。
 それは今も変わってないんだ。だからこの砲撃の周囲は身も凍る様な冷気が渦を巻いててもおかしくない。それにリルレットは当てられたんだ。


(くそ、どうやらこの状態なら僕には冷気は関係無いみたいなのか。実際これは相当良いけど、そのせいで気づけなかった。
 僕はこの目で見てた筈なのに!)


 寒さなんて本当に何一つ感じない。てか全身が雷と成ってる事でむしろ常に痛い位だ。バチバチと体が弾ける感じが常にある。


 でもそれでも無警戒過ぎた。リルレットには何だか霜が降りてるし、これじゃあここから離れる事も難しそうだ。けど光の壁は容赦なく向かってくるし、自分はどこに移動できるか分かった物じゃない体……ある意味絶対絶命のピンチでは無いだろうか。
 けれどそれでも迷う時間さえも惜しい。どのみちこれもやるしかない事だ!!


「リルレットしっかりしろ! ほら背中に乗れ」


 僕はそう言ってあっと言う間に動けなくなったリルレットに背中を貸す。どうやら声は聞こえてる様。だけど意志に体が付いて行ってない状態だった。
 それでも何とか首に腕を回したリルレットも背に担ぎ、そしてついでにその剣も借りる。今は腕が腕として機能しない状態だから、セラ・シルフィングで地面に落ちてた、細身の剣を叩き上げる。


「ちょっとだけ借りるぞリルレット」
「……うん」


 弱々しいリルレットの声だった。けどそれでも了承は貰えた。リルレットの剣は、きっと正しく僕の道を示してくれる筈だ。
 跳ね上げた剣が空中で弧を描いてその刀身を妖しく光らせてる。そして描く軌跡を途中で僕は阻む。雷と化したセラ・シルフィングでリルレットの剣をある方向へ向けて軌道を変えたんだ。


 そしてそのある方向ってのは当然、柊の佇む方向だ。この制御の効かない体では、こうするのがきっと一番だろうと思う。
 この体の為の道を作ってやる……それしかない。柊に向かって横回転する剣。それに柊も気づいてる筈だけど、奴はその余裕を乱すことはない。


 必ずどこか、僕達より一段高い場所から見下ろしてる感覚……今からそこから引きずり卸してやろう。バケバキベキと砲撃の影響で崩れる氷の地面。
 その影響で一瞬体がぐらついた。落ちそうになるリルレット……それをくい止める為にも僕はどこにでもない方向へ地面を蹴った。


(多分……これでも行けるはずだ!!)


 すると次の瞬間、僕はリルレットの剣の横にその姿を現してた。そしてそれは天扇を構えてる柊の正面だ。


「――っつ! スオウ……」


 一瞬開かれた瞳孔。そして急いだ様に腕を動かすけど遅い。ここまで近づければ、もう消える必要なんて無いんだ!


「くっ――らええぇぇぇぇえええ!!」


 雷と化してるシルフィングが吠える。今までの風とは違う、今度は雷の轟きだ。青い光が線を引く……そして次々にスパークを繰り返す。
 けどそれは柊自身の体までは届いてない。何故なら柊はとっさに天扇を畳んで、制御を外したからだ。するとそれまで真っ直ぐに進んでた砲撃が、急に形を崩しだして氷の地面にめり込んでいった。


 そしてその影響は近くを走ってた僕達にも来たわけで、だから僕が斬ったのはどうやら砲撃の様だ。使い手を失った攻撃は次第に細く小さく成っていく。
 だけど、その余波は大きく……それを無くす事で使える駒も柊には増えていた。いやな迫力を伝える六対の翼がそこにはある。


「このまま何もしなくても君は死ぬんだろうけど……それじゃあ、余りにもよね?」
「何の事――だっ!」


 静かに口を開いたから会話でもやるのかと思ったら、いきなり羽で攻撃された。吹き飛ぶ僕とリルレット。だけど僅かに付いた足を踏ん張って向きを変えると、僕は再びリルレットの剣の側に来ていた。
 今度は背中に回ってるけど好都合。リルレットの剣が柊を通り過ぎてたのが原因か。でもそれは完全なる死角――の筈なのに、柊は僕の攻撃を翼で受ける。


「何!?」
「甘いわねスオウ。ここは私の領域。見えない物なんて無いわ。幾ら君が早く動こうともね。それに良いこと……ううん、君にとっては悪いこと、私にとっては良いことに気付いたわ」


 六対の翼の攻撃をその場で落としながら、僕は柊の言葉が気になった。なんだって? 一体何に気付いたって言うんだ?


 イヤな感じがした。だから僕は後ろに飛ぶ。すると案の定、役目を終えていたリルレットの剣の所にまた飛んだ。滑ってたんだろうな、丁度良い距離が空いてるよ。
 僕は柊を見据えてその言葉の真意を問いただす。


「どういう事だ!? 悪い事、良いこと? もっとハッキリ言えよ」


 僕の言葉に、柊は横顔に氷の微笑を覗かせる。そして冷え込む空気の中それは耳に届いた。


「気付いてないのね。その奇跡……決してタダじゃないようよ。この意味が分かる? つまりその力……君の命を食べてるわ」


 その時、目に映る僕の命の残量は、赤い領域にまで踏み込んでた。まさかこれが奇跡の代償……

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