命改変プログラム

ファーストなサイコロ

この手の剣



 何者にも犯されそうのない二つの光が激しくぶつかり合った。一つはこの大地その物に根を張る様な、巨大で大きな……全容さえ僕達にはまだ分からない力だ。
 万華鏡の様に姿を自在に変え、恐ろしいけどどこか心にその姿の綺麗さが残ってく。見る角度によって映す姿も、返す光も変わるんだ。


 そしてもう一方は青い蒼竜を思わせる雷撃の光。荒れくれた空の主の如く光臨するその姿は、自分で言うのも何だけど脅えながらも目を開けて見たくなる何かがあったりする。
 曇天を貫く一筋の光……だけど今は逆に下から上へ昇るような状態。力強く蒼竜は天を目指してた筈だった。




 二つのそんな大きな光のぶつかりで満たされていったこの空間。耳をつんざく様な激しい音も豪快に聞こえていて手応えは確かにあったんだ。
 青と白……その二つの光は絡み合い浸食しあってた。吹き飛ばされないように足を踏ん張って、みんながみんな「これでどうにか……」そんな事を思ってた筈だ。


 それだけの規模を思わせる攻撃だったんだから。だけど唐突に僕は感じた。攻めぎ合ってた筈の二つの力……その勢いが一方に傾いた事が分かる。
 いや、違う。どちらかと言うと、勢いを持って行かれた……そんな感じがしたような? 異変を感じ取ってる合間にもこの空間を覆ってた光諸とも収束していく。


 取り戻されて行くのはつい先ほどまでの光景。白い冷気漂う森の切り抜かれ空間。曇天に染まる空。そんな淡泊な色が瞳に映し出されていく。


「くそ……」


 そんな言葉を思わず吐きたくも成る。今や僕の攻撃は、柊の背中から生えてる氷の表面でバチバチ弾ける程度にまで落ちていた。
 もうあれは雷なんて呼べない……静電気よりは強力そうだけど、始めの大地さえも砕き貫きそうだった勢いは見る影もない。


 やっぱり早計だったのかも知れない。何かが来ると思った。得体の知れない翼から放たれる光に驚いて、思わず折角の積み重ねを使い切るなんて……イクシードがまだ使えない今、今の攻撃は断言出来る程に、僕の最大の攻撃だっった。


 それでも柊自身に傷一つ無く終わった事が後悔で一杯だ。もしかしたら、僕達がまだ生きてられてる方が柊にとっては奇跡の様な事であれば、ライジング・バーストを使った価値もあるんだろうけど。
 生憎あの野郎は、別段表情を変えていない。瞳の内に赤いコードを回らせながら、こっちを見――ていたけど、おもむろに後ろを振り返った。


「…………」


 何を言うでも無く見つめる先には、まだ僕の攻撃の名残りが脈を打ってた。けどそれも、竜の形に見えた最後の青い光が砕け散ると同時に消え去って行く。


(何も残らなかったな)


 そう思って、僕も柊が見つめる場所を見つめてた。けどおかしな事に、奴はまだそこを注視してる。 何がそんなに気になるのか……それとも実は違う所を見つめてるのか分からない柊だったけど、僕には見えた。


「あっ」


 そんな感じに口が開いた瞬間が。すると背中から左右に六対の翼の内一つが、その透明度を失っていく。白の乳白色に染まってく。
 そして次の瞬間、大量のガラスを落とした時の様な激しく耳障りな音と共に、その翼が粉々に砕け散る。イビツな羽の一本が消え去り、更に何だか無骨に見える。


「通ってたのか?」


 そんな言葉を思わず口にする僕。てかそうで有って欲しい位だ。あれだけ威力を上げたライジングバーストは早々出来る物じゃないんだからな。
 どれだけの代物かまだ分からないけど、あの翼の一つでも取れたのが大きい事であればライジング・バーストも役得だろう。
 まあそれは、多分直ぐにでも分かる気はするけどね。


「スオウ!」
「おい大丈夫か!?」


 向けられた言葉に振り返ると、ようやく陰湿な攻撃から逃れたリルレット達が駆けつけて来てくれた。これで何とか戦力は整った事になる……のかな? 
 問題は氷に取り込まれた連中がどれだけスキルを封じられてるのか。重要なのがなければ良いんだけど……それによっては役割を果たせなくなる……なんて事になるのは痛い。
 まあでも今は――


「みんな無事みたいだな。よかった」


 ――安心の方が強い。やっぱり一人の時ととは、安心感が違う。けど何だかリルレットにはドスッと腹に正拳を貰った。何故?


「もう、本当にスオウは一人で突っ走り過ぎ! ねえもしかしてスオウって自分の重要性とかを分かってなくない? アンタが倒れたら、全部おじゃんなんだから一番慎重に行動してよね!」
「う……そんな事言ったって……無茶って時には必要だろ?」


 僕の無茶が無かったら今頃、全員全滅しててもおかしくは無い。やられるってわかってて何もしないなんて僕には出来ないことだ。
 それに柊にだけはこれ以上、仲間を倒させる訳にはいかない。それはリルレットもわかってる筈だ。なんてたってアイツはエイルを柱に変えた奴なんだから。


 もしまたそういう事が起きて欲しくない。それに柊自身言ってて、そしてみんなだって気づいてる事だろ。今この瞬間、僕たちはその無茶に立ち向かってるんだってさ。


「スオウの場合は進んで無茶しに行ってる様に見える時がある。私たちの為に、やらなきゃいけなかった事は分かってるけど、先には死ぬような無茶はやめてよ」


 リルレットはそう言って少し肩を震わせてる。心配……かけちゃったな。僕は俯いたリルレットの頭をポフポフしながら自分の決意を伝える。


「死なないよ。僕は必ずセツリの場所までもう一度たどり着いてみせる。だから死なない。まあ急ぎ過ぎてる所があるのかも知れないけど……そこはどおしても譲れない。
 けど僕は大丈夫だから、みんなが支えてくれれば折れないよ」


 冷たい風がそよぐ中、こんなやりとりに温もりとかを感じる今日この頃。けれど何故か僕の腹には二度目の正拳が打ち込まれてた。


「なぜ……」


 思わずその場に倒れ込む僕、するとリルレットの声が聞こえてきた。


「分かってない! 全然ね! ……けど、もういいわよ。ちゃんと絶対に私達が支えてあげる。スオウはいつだって走ってる人だもんね。
 初めて会ったときからそうだった。私達はいつだってその背中を追うだけよ。それに今回は自分たちから来たわけだし、協力はちゃんとしてあげる。
 だからちゃんと生きてよね」


 なんかよく分からないが、僕は少し目尻を赤くしたリルレットを見上げて「おう」と応えた。結局こうなるのなら、殴らないで欲しかったよ。
 LROでも僕は普通に痛いんだぞ。そんなやりとりをやってると横の方から、重たい声が聞こえてきた。


「おいスオウ。で、アレは何なんだよ。どうみても更におっかなく成ってる様に見えるんだがな……」
「ん? ああ、あれね。僕にもわかんないよまだ。アレが何で、どういう意味で出してきたのかなんてさ。でも、アイツは言った。
 あの力を越えられなきゃ、この先には行けないらしい。なら、どうやっても越えるしかないじゃん。何が何でも、やるしかない事に変わりはしないよ」
「つまり、とんでもなくヤバい力って事じゃねーか!!」
「まあ、そうとも言うな」


 てかそう言ってるだろ。でもそれも今更だけどな。そろそろ驚くのも疲れる頃合い何だけど、こいつは元気だな。そもそもこれまでの柊の力でヤバくない物が無かったろ。


「何でこれ以上増えた力の前で冷静何だよおまえ!」
「別に冷静な訳じゃない。さっきも今の僕の最大級の攻撃で翼一本だからな。まあそれが高いか安かはまだ分からない訳だけどさ……まあでも変わらないじゃん」
「変わらない?」


 隣の奴は首を傾げて僕をみる。僕は立ち上がり前方の柊を見据えて続きを紡ぐ。


「ああ、結局何も変わらないんだよ。奴が幾ら力を見せつけようと、僕はただこの二本の剣を信じて押し通るしかないんだからな。
 ただ、それだけ……それだけは変わらない。絶対に。
 まあ、僕だけじゃ絶対に勝ち目なんて無いんだけど……だからみんなに頼るのもいつも通りさ」


 僕は言い終えると、みんなを見てニカッと笑った。一人じゃ絶対にどうしようも無いからさ、そこに意地を張ったってどうしようもない。
 でも実際は、いろん感情を混ぜた笑顔だ。そうするしかないのも分かってるし、けどそうしなきゃいけない事に納得は出来ない。
 もしも全部が一人で出来るのなら、誰も巻き込まず行けるのなら……このたった二対の剣がどれほど強くても、けどそれだけじゃ何も乗り越えられない事も分かってて、僕はみんなに頼ってる。


 巻き込まないといられないだなんて……でもそれがMMORPGの大前提でもあるんだろうけど、ちょっとは心苦しいぞ。
 普通に冒険を楽しむ感覚じゃいられないだ。差し出す物も理不尽も、今となっては最大級に跳ね上がってるしね。でもここで「ごめん」なんて言うのは違うと思った。


 だからまあ「いろんな諸々がしょうがないじゃん」みたいな感じの笑顔。そういつも通り思って、そしていつも通り、みんな笑顔で勝利を掴む……それしかない。
 一人じゃ今頃、柊の奴の馬鹿げた力に圧倒されてそうだけど、まだ大丈夫。強引に勇気をさ……みんながいるから捻り出せる。
 なっさけないけどな。


 すると隣まで出てた奴が、頭を猛烈に掻きだした。流石のLROも頭まで痒くなる物何だろうか? するとおもむろに伸びて来た腕が、僕の背中を勢いよく叩く。
 思わずせき込む僕。すると更に自分の頭をバリボリ掻いて「あ~もう」とか呟いて、照れ恥ずかしい様な顔を一変、真剣な面もちに変えて声を出す。


「とんだ迷惑野郎だなお前。だけど、俺達だって死にたくは無いわけだし、お前がいなきゃどうしようもない訳なんだよ。
 一番経験も無く、あぶなっかし過ぎるお前だけど、結局今やってるこの戦いでは俺達はお供の一行にしか成れない。しかもその他大勢のさ。
 でもな、そのくらいで良いって俺達は思ってる。LROはゲームのままで良いってさ。だからそれを越えてるこんな戦いはこれ限り!!
 ヒーローはお前だ。だからいつも通りなら、ひたすら真っ直ぐに進めよ大将! そこにしか俺達の出口は無いんだしな」


 そんな力強い言葉は、せき込む僕の胸に染みてくる感じ。許されてる? そんな気がしたよ。後ろをチラリと見ると、リルレットやみんなが頷いてくれる。
 みんな手に取った武器を力強く握りしめてさ。「やったろーじゃない!」みたいな気迫が見える様だよ。今の言葉にみんな感化されてる?


 でも……悪い事じゃない。結構はずかしかったけどね。僕は冷たい空気を肺に二・三度送り息を整える。


「ああ、じゃあ遠慮なく行かせて貰う」


 そんな言葉と共にみんなで視線を交わし、見つめる先は勿論ただ一つ。白い冷気を纏い、危ない位の肌の露出に、今や氷の羽まで加わった柊という存在。
 誰かがゴクリ――と思わず喉を鳴らす音が聞こえた。見つめるだけで、何かが重くのし掛かってくる感覚。きっとアイツは何もしてないんだろうけど、今まで見せつけられたその力……そして今も底を感じさせない事が無意識に僕たちを圧迫してる。


 こいつと対峙すると、自分が暗闇の中に居て、延々と底に落ち続ける罪人の様な感じがする。それは落ちてしまわない事が恐怖そのもので、延々と近づく『死』に怯え続けなくちゃ行けない事が罰なんだ。
 でも……今度こそ、そんな穴に光を通して見ようじゃないか。みんなにそれだけの覚悟がある。




「私の羽……腕もだけど……本当に君って……」


 僕が羽を砕いてからずっとその一点を見つめていた柊がようやくそんな声を発した。結構ショックを受けてる様な言葉の途切れ方。
 それなりにダメージに成ってるって事なんだろうか? それなら、あの勢い任せの攻撃も意味が有ったって事で良いんだけど……なんか良からぬ空気が柊の周りで増大してる様な感じがする。


 心なしか気温が再び下がったようなさ。そして見上げてた羽から視線を外して、煌めく白い破片の中、僕の方を向き直す。


「ちょっとは侮れないのかもね。けど、一本位じゃ止まらないよ」
「だろうな、あれで倒せたなんて思っちゃいない」
「うん、それは良かった。でも調子に乗った所を叩き潰すのも悪くないかなって思ったりもしたんだけど……蟻までワラワラ沸いちゃってるわね」
 何だろう……柊の言葉が異様に静かな感じがする。言ってる事はトゲ満点だけどさ……今までとちょっと違う様な。
 柊はシクラみたいに万年テンションが高そうなキャラと違うし、何がどう違うかは今日会ったばかりの僕には詳しく言えない……けど、僅かな中での空気の違いってのが最近は分かる様に成ってきた。


 今までは冷気を伴ってヒンヤリとしてただけだった。遊んでるって言うか、柊の性格上何かを確かめる様になぶってた感じ。
 だけど今はヒンヤリじゃ無く、この冷気に痛みを感じるというか……突き刺さる鋭利な寒さと言うべきの状態に成ってる。勝手に出てるっぽいこの冷気が柊の感情にリンクしてるのならだけど。


 だけど無関係って感じもしないんだよな。アイツが気付いてるかは別にして。でもどっちにしても僕たちは引く気何かない。
 僕以外は蟻って……


「あんまり人間舐めるなよ柊。みんなと共に、お前を必ず倒して見せる!」
「ふふ、蟻が幾ら集まってもね・・変わることなんて何も無いわ。まあでも、やっぱりこれ以上はもう、ほんとイヤ。
 ねえ、これ以上私、汚されたく無いの」
「うん?」


 何だそれ? てかその言い方じゃ、まるで僕が柊の事を嫌らしい意味で汚した風に聞こえないか? 僕がまるで女の子を追いつめてる最低野郎に思えなくない? 
 攻撃の手段変えてきたのかこいつ。なんて恐ろしい精神攻撃!


「僕は断じてお前を汚して何か! 大丈夫、見とれる位に綺麗だぞ――って敵に何言ってんだ僕は!?」


 何かテンパって訳分からない事を口走ってる。だって一度も異性と付き合ってもいない内に、そんなレッテルは迷惑何だよ。


「スオウ……年下も行けるんだね。セツリちゃん一筋だと思ってたけど意外かな」
「リルレット?」


 何だか背中に悪寒が……声は普通なのに、圧迫感が違うぞおい。怖くて振り替えれない。てか、セツリ一筋ってその解釈もどうかと……


「そもそも、僕とセツリはそんなんじゃ――」
「ああ、まだ付き合っても居ないから、誰に目移りしても良いんだ。うん、そうだよね。ごめんスオウ」
「――いや……だから、そもそも僕らは……えっとあの……」


 何故か声が萎んでいく。てか前と後ろで両方怖いんだけど。何この状況? いつのまに敵が増えた訳だ? すると粋なり伸びてきた腕が僕の耳を後ろに引っ張る。


「イテテテテテ、何すんだ! いや、何でございますか?」


 それがリルレットだと分かると途端に言い直した僕。だけどリルレットは耳を放してはくれない。そのまま耳打ちするようにぼそっと話す。


「まだ、そんな事言ってるの? 気付いて無いわけ無いでしょう、スオウだって。そんなんじゃセツリちゃんはスオウの所に戻ってこないよ」


 リルレットの言葉が重く心にのし掛かる気がした。それってつまり、セツリが僕の事をとかって事だろう。でも……それはには中途半端な答えなんて出せない。
 だからこそ、迷ってるんだ。そこまで考えてなんて無かった。でもずっと病室で一人きりだったセツリには、それだけの相手が居ないと、リアルになんて戻れない……って事でもあったんだ。


 一生とかをセツリは見てて、僕はそれに答えられなかったから今の状況が出来てる。セツリは誰かが側に居てほしいんだ。
 だけど実際、まだ僕は『助ける』その事以外考えて無かった訳だよ。あの時、離しかけた過ちは、強引とかが足りなかったせいでもあるって自分で勝手に解釈してたけど……やっぱりそれが必要なのかな。


 でも早すぎると思うんだ。セツリは知らない。もっと一杯世界には男が居るってさ。たまたま助ける役が僕に回って来ただけで、それだけで結構ズルかったって思うんだ。 シンデレラ効果とかあり得そうだし……リアルに戻って、もっと色々見てからでも遅くない……けどそれじゃリルレットは戻らないと思ってる。


「だからって嘘とか付くわけにはいかないだろ。てか、そうじゃないんだよ」
「そうじゃないって何が? 本当は気になる子が他に居るって事?」
「ああもう、良いだろ今は! あいつを前に、んな会話ダラダラとやってられるか!」


 僕は強引にリルレットの手から逃れて前を向いた。だけど頭にはリルレットの言葉が残ってた。気になる子……そのフレーズで頭に浮かんだ一人の女は居たから。
 そしてそれはセツリじゃないんだ。




「何か、図星を突かれたような顔してる」
「……気のせいだろ」


 粋なり柊が放った一言に心臓が高鳴る。てかこいつ、聞こえてたのか? でも流石にそれはないと思うけど……地獄耳みたいなスキルがデフォルトであるのか?


「あの子の事……それともあの子意外の子の事? 頭に浮かぶ顔はどっちなの?」
(こいつ……)


 マジで聞いてたろって言いたい。けど、それを聞くとややこしくなりそうだから聞かない。すると何も言わない僕に手を向けて他の話題に切り替わった。
 けどそれも、楽じゃない事。てか本題だな。あの手……氷で出来た手を向けて柊は口を開く。


「まあそれは近い内に聞けるからいいわ。それよりも私はね……今の自分の姿を嘆きたいわ。わかるわよねこの腕。君がこんな風にしたわ。
 それでも私綺麗かな?」


 氷で出来た透明な腕が開いたり閉じたりしてる。それはちゃんとした腕に見えるし、LROの中なら別段おかしくも無い様な気はする。
 それに柊の場合、この位に成ってた方が迫力出るし……でもなんと答えればいいのかは難しいな。でも怒らせるのもどうかと思う。
 今の僕らの状態で怒りで暴走した柊は相手にしたくない。だから、こう言った。


「綺麗だろ。さっきも思わず言ったけど、口を突いて出た言葉何だから本心だよ」
「そっか……でもね、女の子に傷を付けるって事がどういう事か……その重さ、教えてあげる」


 余計なフォロー、と言うか元から聞く耳なんて持っていなかったらしい柊は、唐突にその背中の翼(?)を大きく広げた。
 そして放たれるのは、十センチ大の氷柱の雨だ。


「くっそ……数が多すぎる」


 流石に捌き切れない。限界が有るとも思えないし、これはヤバい。すると今度は不意に頭上が暗くなった。雲の暗さじゃない。何かが僅かな光さえ遮ってる。
 上を向くとそこに伸びてたのは奴の羽。そしてそれは勢いよく僕らに落ちてくる。


「「「うああああ!!」」」


 氷上に大きな亀裂が入った。だけど直撃はしなかった。みんな上手くかわした……と言うか直前で少しズレた様な? 
 すると持ち上がって行く翼の先端に何かが見えた。あれは……


「天扇!」


 そうだ、奴の手から離れた天扇……それが狙いだったのか。あれを奴の手に返す訳には行かない。


「ちょっと顔面借りるぞ!」
「は? ――ぶっはぁ!!」


 僕は走り、丁度良い位置に居た仲間の顔面を踏み台に持ち上がった翼を追いかける。そして先端にくっついてる扇をその僅かな氷ごと斬って奪う。


「こんな危ない物。そう易々と返せないな」
「今度は汚い手で天扇にまで……私をこんなに汚すだけじゃ飽きたらず、私物にまで手を出すなんて、呆れた変態ね。
 ほんと虫酸が走る!」


 何か正当な理由で攻撃されてるっぽいけど、断じて僕は反論したい。けど言葉は、次弾の衝撃に呑まれ行く。

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