命改変プログラム

ファーストなサイコロ

止まらない状況



「LROを人の手から解き放つ? それがお前達の目的で、それをやれば本気でセツリが幸せになれる……そう思ってるのか?」


 信じられない……というか、そんな事が出来るのか? LROではこれまで信じられない事、あり得ないと思う事がまあ幾度もあったけど、コレは根底の部分の話だ。
 人が作り出した物が、意志を持ってそれを選んだのなら、それはきっと凄いこと何だろう。だけど管理を離れた物って大抵、長くは持たない物じゃないか?


 それが繊細な最先端の技術なら尚更だ。だからこそPCとかだって定期的にアップデートとかやってるんだろ。それはLROだって同じだ。
 アップデートとかシステムの調整とかたまにはやってる。まあそれも根底の部分じゃなく表面部分らしいけど、綻びが出てきたらどうするんだ。そんな危うい状態、綱渡りの途中に立ち続ける様な物じゃないか。
 だけど柊は、そんな僕の不安なんて全然問題無いように言い退ける。


「ええ、勿論。当然です。あの子のリアルを、私達はここにしてみます。悪い夢も、怖い現実も、孤独な時間さえ、全てを遠い彼方へ追いやって、あの子と共に歩む世界を私達は想像するんですよ」


 その言葉は、沢山の光に溢れてる……様に聞こえる。実際、リルレット達は少しざわめいてた。


「自分の為の世界か……誰もが世界がそうであって欲しいって一度くらいは願うかも」
「確かに。何もかもが上手くいかない時とかは、そんな世界が欲しいって思うかもしれない」
「ああ、自分の為の世界があるんなら、行きたい位だな」


 確かに現実には理不尽がいっぱいで、誰もが幸せに生きているなんて、とてもじゃないけど言えないだろう。そんな現実だから、LROは大人気な訳だし。
 だけど、みんな絶対に戻るんだ。辛くて、苦しくても、あの場所に、あのリアルに……それは知ってるからだ。ここがどんな場所かを。
 だから僕はそれを伝えてやる。ここで生まれた存在に、僕達の認識を。


「そんな世界が造れるのなら、確かにセツリにとっては楽園に成るのかも知れないな」
「出来るわよ。真の命改変プログラムと私達には、それが出来るもの」
「そう……なのかもな。出来るんだろうお前達にはさ。けど……それはどこまで行っても『夢』なんだ」


 僕は雲の隙間から延びる天使の架け橋を見つめてそう言った。吐き出す息は白く成り、そよぐ風に飲まれて消えていく。それと同じように、空の架け橋も、雲の動きにあわせて消えてはまた別の場所から、光を覗かせてる。


「夢? 違うわ。あの子の為の世界は、あの子のリアルに成ってくれる」
「成らないよ」


 僕は視線を柊に戻して、首を振った。するとここで柊は苛立ちを表す様に、扇子をパチントと閉じた。


「何でそう言えるのかしら? フられた腹いせでもいい加減な事は言わない方がいいわよ。幸福な場所があの子の居場所。
 それが一番でしょう? 君だって」
「それは勿論。けどさ、自分の為の世界、自分の為の全ての幸せ……そんなのを味わえるのは夢だから。自分が味わってられるのはって意味でさ。
 夢に罪悪感なんて誰も覚えないからだよ」


 夢はどんな理不尽でも受け入れられる。だから幸福と呼べる。でも僕達は、どこかで夢を夢と分かってる節もある。


(ああ、これは夢何だ)ってさ。けど今すぐ醒めたいとはあまり思わない。そこが怖い物でも、怖いもの見たさが夢なら安心して倍増だ。
 大きく成っていくとさ。


「人は一人では幸せを享受出来ないとでも言いたいの?」


 一段と空気がヒンヤリとしてきた様な気がする。雲は厚さを増して、空から地上に伸びてた、光の架け橋は閉ざされる。


「別にそうじゃないけど……セツリは分かってると思うんだ。自分が向こうの世界で眠り続けてる限り、どんな幸福もそれは……夢でしか無いって事を」


 するとその時、目の前の花が落ちてきた。透明な氷の花だ。見覚えるがあるその花は、柊の服に添えられてるのと同じ形をしてる。
 クルクル回りながらがゆっくりと地面に落ちる……その瞬間。カッ! と目映い光が辺りを照らしたと思ったら、ドバン!! と大音響を鳴らして爆発した。


「くっ……」


 大量に放たれた白い煙から、僕は何とか脱出する。てか爆発は音ほど実は激しく無かったんだ。一番近くだった僕が無事なのがその証拠。
 でもじゃあ、さっきの攻撃は何が目的? 爆発よりも大量に噴出したこの煙が怪しいような……するとなんだか腕の先がパキパキする。


「これって……ま――ガハッゲッホ!?」


 いきなり胸が苦しくなった。てか、息が出来ない!? またじゃない……なんか強力に成ってる様だ。まさか、肺を凍らせられたのか?
 出てくるまでに何回か息をしたから? 冗談じゃない速攻性だ。しかも今までの様に外の自由も奪うのか、足と腕の先とか凍ってる。


 確か、そのための補助魔法を掛けて貰った筈だけど、それを抜いて来たって事か。視界を奪ってた煙が晴れていくとそこには白い冷気を纏った柊がこちらを向いている。


「舐めないでよ。中途半端な力で私達の攻撃を防げるだなんて思わない事ね」
「かっは……ちっ」


 幾ら外見は美少女だからってこいつを舐めた事なんか無い。得体の知れない力は、初めて見たときから垣間見せてたんだからな。
 周りをみると、あの爆発に巻き込まれたみんなも苦しそうにしてる。かなり広範囲だったから全員が巻き込まれたみたいだ。


 くそ……どれだけ技を持ってるんだよ。呼吸もまま成らず、凍った体の熱を取り戻す事が出来ない今の状況は、話し出す前よりヤバい感じだ。
 折角待ちかまえた筈なのに先手を取られた。何やってんだ自分と言いたい。


(けど……まだ!)


 僕は自身の胸にセラ・シルフィングの刀身を当てる。するとバチ、バチ、と空気中に放電が始まる。でもこの音……結構怖いな。
 でも、この状態じゃまともに動けもしないんだ!! 次の瞬間、僕の体を雷撃が貫いた。


「ぬああああああああああああああ!!」


 全身が燃えきる様な痛みだ。この痛みは僕だから何だろうな。LROに浸ってる僕だからこの痛みが再現される。けどだから、この痛みに意味が出来る。
 青い雷撃が止んだとき、体のあちこちから煙が上ってた。


「はぁはぁはぁ……」


 けど、おかげで呼吸を取り戻した。ついでに体の自由も。あの程度の凍結なら、この方法で解消出来る様だ。だが、安心なんて出来ない。


 これで戦える様に成っただけ、僕達は全然同じ土俵に立ってすらないんだ。柊の力はやっぱり反則的。そしてそんな柊は、開いた扇子を上方に向けて回してた。
 何をやってる? とかは実際は知りたくなかったけど、見てしまった僕は絶句する。


「なっ!?」


 淀んだ雲と白い冷気……その中央にクルクルクルクルとあの花が浮かんでる。それも大量に。木が無いから、さぞかし落としやすそうだ。


 みんなの方をちらりと見ると、まだ苦しそうにしてるけど、ヒーラーが何か対策を始めてる。荒療治は僕だけで済ませたいから、それを信じるしかない。
 だから僕が今やることはこれだと思うんだ。


「落とさせるかぁ!!」


 僕はセラ・シルフィングを握りしめて氷を蹴った。でもそれなりの距離だ。だからセラ・シルフィングを氷に刺して走りながらスキルを使う。


「雷放!!」


 氷を切り裂きながら振り抜いた剣から放たれる青い雷撃が一直線に柊に向かう。そして雷の放電する音と光と共に、柊に炸裂した。


(行ったか?)


 直撃……したように少なくとも見えた。歩みを止めることなく走り続ける中で、だけど立ち上った噴
煙の隙間から透明な何かが顔を出す。
 イヤな予感がそれを見ただけでした。そして案の定だろう。柊の声が何事も無かったかの様に、煙の向こうから聞こえてくる。 
 いや、違うな。確かに柊の声は聞こえてきた。だけどその言葉には怒りが入ってる。静かな怒りが。


「ねえスオウ。君は知ってるの? 一人の悲しさや、寂しさを。それに……誰にも求められなかった存在の意味のなさが分かる?
 はは……夢? 何よそれ……私たちの夢の世界には、だからアンタ達なんかいらないのよ」
「くっ――うおおおおおおおおお!!」


 僕は左腕の方も思わず振った。同じように放たれた雷撃は、まだ煙の中の柊へと向かう。だけど、気付いた。


(やっぱりだ)


 あの透明な氷の盾か壁に、雷撃は直前で周りに分散されてる。だけどそれでも、僕は左右の剣を振り続ける。一発二発で通らなかったからって諦める僕じゃない。
 だって二刀流は手数の多さが自慢なんだ。それに近づきながらなら、徐々に威力は増していく。けど……実際はそれだけじゃ無かった。


 怖かった。柊の怒りが。僕の知ったかぶった言葉にかなり反応してたらしい柊が、その感情をこちらに向けて放った事がだ。
 ゾクリと悪寒がした。この場所を支配する、冷気とはまた違った寒気が全身を震わせた。だから攻撃を続ける事で今、目の前の事にだけ集中したかった。




「うらあああああああ!!」


 バキ、ビキ……っと目の前の氷に亀裂が走っていく。浴びせた雷の数は数えてもいなかったけどようやくだ。これなら勢いを落とさずに突っ込める。
 けど、そしたら柊が待ちかまえてるんだろうな。きっとあの扇子をこっちに向けてるんじゃないかと思う。どうやってそれをかわして一撃入れるかとかは大事な事。


 だけどそれより先に頭をよぎるのは、あの言葉とあの怒り。自分でも分かってるけど、異様に反応してる。




(ああ、ややこしい!! 戦闘だ。その事だけを考えろ。それに奴らは人じゃない!)


 そう言い聞かせて、頭の中の余計な物は振り落とす。そして亀裂が入った氷の壁か盾に、二本の剣を同時に突き刺して雷撃を解放する。
 青い光が氷に反射されて、その光がより一層激しく見えた。広がっていく亀裂。僕の体はそんな中、前へ前へと氷を砕き進んでた。


「うおおおおおお、らあぁ!!」


 そして勢いのままに、僕は前に突き出してた剣を左右に凪いだ。それがキッカケで氷の壁はその役目を終え始める。それと同時に前に開いた穴から僕は壁を抜ける。その後ろでは崩れだした氷の音が鳴っていた。


 でも、それを振り返る余裕なんて僕には無い。だって案の定、柊の奴はご自慢の扇子をこちらに向けて待ちかまえて居たんだから。


「無駄なのよ。そろそろ理解しなさい」


「そんなの――」


 奴の扇子にターゲット指定されてる。扇子を回された直後、体がそれに併せて傾いていく。あらがえない力……それに今回は足を止めるのが目的じゃ無いみたいだ。


 流石、一段階バージョンアップさせた扇子だ。このままだと、突き出てる氷の氷柱に頭をぶっさす事に成る。ご丁寧に回転の直後にはそれが地面から生えていた。
 でも、これは二度目だ。それにこうなるんじゃ無いかと予想もしてた。だから初めて回された程の焦りもパニックも無い。だから僕は必死に首を回した。


 体が柊の扇子の力で操られるのはどうにも出来ない……けどそれが全体にまだ及んでる訳じゃない。眼球に迫る氷の切っ先。滴る水滴が自分の血に見えてしまいそうだ。
 そしてそんな錯覚は奇しくも実際に起きた。ヂッと頬を抉る鋭い痛みが走ったからだ。奴の予定とは随分違う程度の血が突き出た氷柱にはしたってる。
 そしてそこで僕は素早く、振り伸ばす。
「――分からないだろ!!」


「!」


 柊の動きが一瞬固まった。予想外の事だったからか、それとも元から近接戦闘が苦手だからか分からないけど、その一瞬で僕の伸ばしたセラ・シルフィングは奴の扇子に僅かだけど届いた。
 カン――と音と共に、柊の手から離れ行く扇子。その瞬間どうにも出来なかった力の支配が無くなった。


(ここだ!!)


 今しかない……そう思った。柊が見下して油断してたから不意に落ちてきたぼた餅だ。つまりは幸運でラッキー。だけどそれこそが千載一遇のチャンスに成り得る。
 もしも幸運で掴んだ勝利だって、戦闘に卑怯なんて有り得ない! だから僕は奴を見据えて飛び込んだ。回転の勢いを利用してセラ・シルフィングを振りかぶる。


 けれどその時だ。奴のその剥き出しの肌を捉えたと思ったまさにその瞬間――奴の氷のドレスに元から付いてた、花が僕の剣の前に飛び上がって来た。
 真っ二つに裂かれる花。けどこの花は、今頭上に浮かんでる花と同類だ。そしてその効果もきっと……裂かれた花はやはりと言うべきか、閃光と音を伴って白い冷気を大いにまき散らす。
 だけどそんな中、僕は攻めをやめなかった。急激に下がる周囲の温度。ダイヤモンドダストが覆う世界。キラキラの星々が空から落ちてきた様な光景。
 けど僕は動けてる。呼吸器官が麻痺する事も、体が凍り付く事も無い。代わりに全身の細胞を刺激するかの様な痛みが走ってるけど、その位の代償でこのチャンスを逃さないで済むのなら安い物だ。


 柊の瞳には僕の姿が映ってる。動けない筈の状況下でそれでも迫る僕の様。それは全身が青く放電してる姿だ。僕にとってはこの攻撃もある意味幸運だった。
 だって荒療治だけど一応の攻略法がある攻撃だったんだから。逆に無数の氷を出現させられるとかの方が厄介だった。


(でもそうか、あれは扇子があって……今の柊の武器はあのドレスの装飾のみ?)


 って事になるのかも知れない。


「くっ……」


 初めて眉間に皺を寄せた顔をする柊。もう分かってる。この距離ならあの花の防御も無駄だって事が。今の僕なら、一緒に叩き切れる!


「逃さない、このチャンス!! うおおおおおおおお!」


 最後の抵抗か、無駄だと分かっていても柊は両手を前に出して残りの花を舞わせた。けどその瞬間。青い雷線は軌跡を作って両の腕に走ってた。
 奴の白魚の様な腕が宙に弾け飛ぶ。けどまだまだだ! この程度じゃ全然安心なんか出来ない存在……それがこいつらだ。


 だから僕は腕を切り裂いた勢いを落とす事無く、連携に繋げていく。流れる様な剣線の軌道。生きも付かせぬ程の連続切り……それが二刀流の神髄だ。
 それに何故か柊はその場を動こうとはしない。これ以上無い的……だけどそれには不気味さもある。完全に守りの態勢。


 雷撃を纏ったセラ・シルフィングは攻撃力もあがってる筈なのに、奴の柔肌をなかなか削れない。
(つっ……こいつ自分を凍らせてるのか!?)


 今までの木や放出してきた氷柱程度の純度じゃない。柊の体に広がる氷は、ダイヤモンド並の輝きと強度を誇ってる。


「でも……それでも通す!!」


 ここでひよったら次はない……それくらいに思わないといけない。だから僕は攻撃を続けた。




 雷撃の線が僕の動きの軌跡を残してる。それは柊を囲む様に成ってた。そして僕はもう一つのスキルも発動してる。切りつけた部分の柊の体が発光してるんだ。
 とてつもない強度に守られた柊の体だ。攻撃を通すためにはスキルはいくつも必要だ。僕の数少ないスキルでもさ。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 切りつけた回数が多ければ多いほど解放したときの威力はあがる。なら、出来る限り、僕はこの細く華奢な体を傷つけよう。


 なんか最低な事をやってる気分に成りそうだけど、甘い事は言ってられない。少しづつだけど欠けて行く氷の鎧。するとその時、短くなった腕で頭部を守ってる柊の口が僅かに動いてるのに気づいた。
 何かを口ずさんでる様に見える。でもその口の動きは異常。少なくとも僕が知ってる言葉を紡ぐスピードじゃない。
 この光景、見たことがある。それはサクヤの高速詠唱に似てるんだ。


(って……高速詠唱!?)


 自分で気づいて自分で驚いた。だって、僕の予想は柊は後衛だ。それなら魔法が使えたっておかしくはない。今まで扇子にばかり気を取られていたけど……これはまさかそういう事か?
 でも攻撃をされつづけてる間に詠唱ってどうなんだ? 普通は止まるはず、けどこの防御でそれほどでもないなら、起こり得るのかも知れない。


(どうする? 今すぐにでも解放するか?)


 悩み所だ。解放しても通らなきゃ意味なんて無い。それには今まで位じゃダメなんだ。でも何かをやられてそれが封じられるのが一番怖い。
 無駄なんて空しいだけだからな。すると迷ってる間に柊の口の動きが止まった。そして今度の言葉は僕にも聞き取れる物だった。


「コード解放『尊厳』開始。あまねく向こう側の存在の侵略を私達は『防衛』する権利を有してる。先行してαとΣを選択――」


 それは今まで聞いていた柊の声の感じじゃなかった。もっとシステム的な……機械的な抑揚の無い声。そして攻撃を続ける僕にも分かる現象が起きた。


「――行動開始」


 その瞬間、氷に覆われた柊の体を何かが走ったのが見えた。そして唐突に上げた顔。その瞳の中には赤い円が回ってた。
 いや、それもよく見ると何かのコード。それはまっすぐに僕を見つめてる。そして一際強く瞳が光った瞬間、予想もしてない所から攻撃が来た。


「何!?」


 狙われたのは足だ。細い氷のトゲが、僕の足を貫いてた。そして驚いたのはそれだけじゃない。何がそんな攻撃をしてきたか……扇子が無い奴の武器は限られてた筈だ。
 だからこそ後ろなんて気にしてなかった。けどそれはあったんだ。柊の奴は切り落とされた自身の一部だった両腕……それを氷としてトゲを伸ばしてた。


「破壊対象壱。これを最も危険と判断して最優先で処理……してあげる」
「柊!!」


 機械口調だった言葉が唐突に消え、柊へと戻った。すると柊は無くした両腕を大きく開く。すると氷が手の形を再生していくじゃないか。
 しかもそれだけじゃない。今まで鎧として柊の体を守ってた氷達が背中の方へと移動して行ってる。そして背中から突き出た様に延びた六対の無骨なその氷は……羽、に見えなくも無い。


「どれだけ……反則なんだよおまえ等……」


 マジでもうそう言いたかった。次から次へと、沢山だ。一体この翼はどんな力を秘めてるのか……考えたくもないな。
 けど、無関係でも居られる分けない。


「コードの支配って、嫌いなのよね。だってそうでしょ? 私達は人間と決別したいのに、人間が作った反則プログラムにのっかるだけってイヤじゃない。
 だから私達はあらがう術を見つけたの。コードの支配なんてこの身に許さない……だけどその機能は貰える裏技。私達を本気で倒したいのなら、この反則さえも君の思いで越えてみてよ。
 でないと絶対にあの子は取り戻せない。だって私達姉妹は全員、専用コードを持ってるもの」


 それは絶望的な衝撃の宣告。だけど噛みしめる間もなく、氷の翼が異常な程に輝き出す。ヤバいと本能が告げる。


「くっ」


 僕は足下のトゲを切り裂いて後ろに……いや、前へ出た。するとそれを見た柊は、満足そうにこう言った。


「ここで逃げても後はない? 良い判断……けど間違いでもあるわ。私が立ち塞がった時から、君達に勝利なんて有り得ないのだから。
 ただの夢とバカにした世界で死になさい。君のコートは後の世界の役に立つから安心してね」
「ふざけるな!! 僕は死ぬ気なんてまだまだ全然ない! やりたい事も、やらなきゃいけない事も有りすぎる位なならな! その最優先事項がセツリなんだ!
 だからこんな場所で行き止まりに肩を落とす訳には行かないんだ!!  ライジング……バァァストオオオ!!」


 光の中に青の雷光が加わった。切りつけた軌跡は死んでなんか無い。これがその証拠。二つの力は、この空間を覆う程の光で全てを染める。

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