命改変プログラム

ファーストなサイコロ

立ち向かう時



「「「ぐあああああああああ!!」」」


 そんな声と共に立ち昇る白い煙。その中から僕達は吹き飛ばされる。僕の様に何とか防御が間に合った連中は、地面に倒れる事無く立ってるけど、直撃した奴らも少なからず居た。
 そいつらは氷の地面に倒れて滑っていく。するとその時、煙の中から再び枝が飛び出てくる。それは滑っていく奴らを追ってる?


「くっそ!」


 僕は走り出す。なんでかはわからないけど、この森プレイヤーを狙ってるみたいだ。またあんな蓑虫状態にされても困るし、それにさっきヒーラーの魔法が使えなかったことも気になる。
 さっきこの森に捕まってたこと……それが関係無いなんて思えないだろう。


(流石に追いつけないな……だが!)


 僕はただ真っ直ぐ滑り行く仲間を追うのをやめて、目指すは氷の枝だ。その伸びていく枝の間は変わらずにそこにあるんだから、追いつく必要なんてないんだ。


 枝が滑り行く彼らに追いつく寸前、僕はセラ・シルフィングを振り抜いた。両の剣が伸び行く枝を砕き、その先はその瞬間に空気中に霧散していく。


「スオウ! なんなのこれ? 森が……」


 追いついてきたリルレット達が周りを警戒しながらそんなことを言う。けど僕にもその答えは持ち合わせちゃ無い。


「元々この森は柊の奴が作った物だろ。何が起きたってそんなに驚きはしないけどな」
「まあそれはそうだけど……あいつ等の反則っぷりはもう散々だしね。けど、さっきのあのメッセージは?」


 リルレットが言ったことで場が重く成る感じ。それこそわからない事の筆頭だ。あんなメッセージ、きっと誰も心当たりなんか無いから。


「わからない……けど、どう考えても出た方が良いっては思う」
「うん、そうだね」


 みんなも僕の意見に同意してくれる。それなら善は急げだ。僕達は木の幹に当たって止まった直撃組の元へ。みんなそれなりにダメージ受けてるけど、誰一人戦闘不能には成っちゃいない。


「魔法が……どうして?」
「今はそれよりも脱出だ。出たときに表の奴にでも聞けばいいだろ」


 ショックを受けてるヒーラーの腕を取って半ば強引に立たせる。それに実際、僕が自分で言ったとおり、表の奴に聞くのがきっと一番だ。
 けどその時、再び森全体がざわついた。氷の葉が揺らめく音がカサカサと耳を付く。そして僕は見た。その葉全てに一粒の目玉がある様を。


「なっ!?」
「ひっ!?」


 どうやらそれを確認したのは僕だけじゃ無かったようだ。リルレットは口を押さえて息を飲んだし、周りのみんなもそれぞれの反応をしてた。そのどれもが恐怖に煽られた様な物ばかり。


 まあ無理もないけどね。僕も全身に鳥肌が立ったよ。少し前の強烈な視線……それはどうやらあれが原因みたいだ。
 そしてどこからともなく、聞こえてきた声が森に響く。


『どこにも逃げ場なんてない』


 それは間違いなく奴の声。じゃああの目は……そう思った時、抱えたヒーラーが苦痛の声を漏らした。


「ガッハ!!」
「おい!」


 視線を向けると、そこには細長い氷が彼の体から飛び出していた。一体どこから……そう思い視線を向けると幹から今度は僕めがけて鋭利な氷が伸びてきた。
 微かに飛んだ赤い滴。けど僕の視線は捕らえてた、氷の幹がうねるよう成りに次弾の準備をしてるのを。僕はヒーラーを引っ張ってとっさに木から距離を取る。


 その瞬間無数の氷が突出された。まさに間一髪。一瞬でも遅れてたら、体中串刺しにされる所だった。ザワザワザワザワ……不気味な音は常に頭上で響いてる。


「おい、大丈夫か?」
「ええ、このくらいは……直ぐに治せます」


 無理矢理引っ張ったから氷は抜けずに根本の方から折れた。けどそれでもこの氷の特性状問題は無かった。何故なら、本体から切り離された氷は霧散するからだ。
 けど「直ぐに治せる」そう言ったヒーラーは、だけど詠唱にどこか戸惑いがあるのか、なかなか言葉を紡げ無い。
 もしかしたら……きっとそんな思いが彼の中に生まれてる。でも戸惑ってる場合でも無い状況だった。


「スオウ!」


 そんなリルレットの叫びに顔を上げると、周りの木からも同様な事が起こってた。渦巻く幹から延びる氷の刃。奴の言葉の意味はこういう事か。
 だけど!


「うらああ!!」
「てえええい!!」


 砕かれた氷が儚くこの場に散っていく。直線的な単純な攻撃だ。決して落とせない事は無い。量は問題だけどな。前衛全員で協力しあえばまだいける!
 けど、このままやっていてもじり貧だ。体力的にやばいし、やっぱり森から出ることを考えるべき。


「おい、今は取りあえず走れ! 回復はもう一人に任せてろ!」
「くっ……済まない」


 ヒーラーは二人居るんだ。無理する必要何て無い。それに簡単なっていうか初歩的な回復呪文ならソーサラーだって使える。
 まあ元々、明確な区分がある訳じゃないしな。それでも自分の役割を全う出来ないと感じ彼は苦痛の面持ちだ。でも僕には慰めてやる言葉をかけられる状況じゃなかった。 しんがりを努めて、後ろから迫る氷を一手に引き受けてたから。後はそれぞれ前と左右に複数人を配置して真ん中に後衛組を入れてる。


 こうしなきゃ、まともに詠唱も出来ない。それどころか進めない。電撃がスパークして、炎が氷を蒸発させる。けど次第に、その間を縫って落とせない氷が出てきてた。
 氷から氷が派生する。それはどこまでだって続きやがるから、きりがない。それに今叩いてるのは一番端っこ。根本じゃないから、一気に全部が消えるって事がないんだ。


「くっそ……」


 次第に確実に追い込まれる。けどそれよりもおかしな事を感じてる。それはこの森ってこんなに広かったかって事だ。もうとっくに来た分の距離は超えた筈だ。
 なのに、周りには立派な氷の気が生い茂ってる。


「リルレット! 出口はまだか?」


 僕は耐えきれずに先頭に居るリルレットにそう呼びかける。すると聞きたく無かった応答が返ってきた。


「そんなの、私が聞きたい位!! どこをみたって同じ様な森しか見えないよ!」


 その瞬間、これまでとは違う攻撃が僕達を襲う。氷と化した湖に光の線が進む。その進んだ場所から大きな氷が突き出てくるんだ。
 ガガガガガガガと激しい音を奏でて地面から炸裂した攻撃に、僕達の反応は僅かばかり鈍くなる。今まで自分より高い場所の攻撃に気を張ってたから、それは全くの警戒外。


「ケホコホ……みんな無事か?」


 何とか僕は回避出来た。けど後のみんながどうなのかわからない。守る余裕すらなかったし、そもそもこういう攻撃の守り方なんてわからない。


 僕に出来るのは避ける事か叩き斬る事だけだから。視界に映るのは氷の山。二メートル位突き出したそれには、最悪な光景が映ってる。
 突き出た氷の中……そこに囚われた仲間の姿だ。氷漬け、まさにそんな言い方が最適。


「そんな……」
「おい! くっそ……おい!」


 周りで無事だったみんなが氷を砕こうと武器を振る。だけど二メートルもの厚い氷は今までの細い奴と強度が違う。
 それにここじゃ自然に溶ける事も無いだろうし、結局は助けるには砕くしかない。このくらいならスキルを使えば行けるはずだ。


「リルレット!」
「うん!」


 雷系統で一気に砕く。両方からの同時攻撃だ。そう思ったとき、僕達の攻撃よりも速く奴らは動いた。今まで僕達に向かって来てた氷の刃。それが僕達には見向きもしないで突き出た氷柱へと突き刺さった。しかも無数に。


 いや、突き刺さったとは違うかもしれない。まるで氷同士で同化してる様な……天上から垂れ下がった糸に絡まれた様な光景だ。


「――っつ!」


 でも上を見るとそんな神秘的な物じゃない。無数の目玉がギョロついてこちらを、いや繋がった氷を見てる? ザワザワと異様にざわめきだす木々たち。
 すると再びあの声が聞こえた。


『さあ、食事の時間』


 その瞬間、喚起に震える様に葉の一枚一枚が異様に震え出す。そして氷に囚われてる数人から何かが絞り出される。それらは繋がった氷を伝ってそれぞれの木々へ運ばれていく。
 これって……


「さっきと同じ状況。何だかわかんないけど、これ以上食事なんてさせるかよ!」
「うん!」


 僕達は前と後ろから、それぞれの剣を突き刺した。そしてそこから電撃を押し通す。青と黄色い雷撃が周囲をその色に照らし出す。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
「てやあああああああああああああ!!」


 叫びと共に、放ち続ける雷撃。互いの背中は仲間に任せて、僕達は更に剣を氷に食い込ませる。すると内側からバキンと言う音が聞こえて、中の氷の見え方が変わった。
 それはきっと氷が内部から割れたことで、光の屈折率に変化が起きたせい。後少しだ!


 雷撃は走る、どこまでも。いつしか周りの全てが自分達の放つ色で染まってる気がした。全てが同じ氷で繋がってるのなら、それもおかしくは無いのかも知れない。
 そして遂に、氷は内側から砕かれる。大粒の粒がゴトゴトと地面を叩いてた。そして解放された仲間は地面に膝と手を付き、大きくせき込んでいた。
 どうやら意識があったみたいだ。


「がは……こっは……はぁはぁ、何が? いや、どうなってたんだ?」
「大丈夫? みんな氷漬けにされちゃってたの。でも良かった、辛いかもだけどもう一度走れる?」


 リルレットは介抱しながら結構きつい事を言ってる。だけど確かに、ここにいたらまた同じ様な事になるかも知れない。
 けど……ダメージを負った仲間を連れてここを抜けれるか? このどこまで続いてるかもわからない森を……三百六十度、どこを見回しても変わらぬ森が続いてる。


 これはもう、拡大された……そう考えるのが妥当だ。柊の奴が僕達が森へ入った後、森をこの湖全体に広げたとしたら? それはもう抜ける事は厳しい。


(氷で簡単に生やせるんだ。無いことなんかない。じゃあ抜ける事が無理なら、他に出来ることは……)


 それを探さないと僕達はヤバい。今までずっと柊の奴の手のひらの上で踊ってる感覚があって、それは今も続いてる。
 あの葉の目が柊自身と連動してるとしたら、僕達が逃げる様子でも楽しげに見てるに違いないし、全部はあいつの予想通りって事だ。
 そんなのムカつくじゃんか。


「スオウ、何してるの? 止まってちゃダメだよ。早く抜けなきゃ!」
「抜けるってどっちにだよ。」
「それは……でも走らなきゃ出口は見えないじゃない!」


 氷漬けになってた一人に肩を貸してるリルレットが僕の言葉に、苛立った様にそう叫んだ。言い方が悪かったかな? 諦めた様にとらえられたかも。
 そうじゃなんだけどね。諦めるなんて今更出来る事でもないんだからさ。


「戦い続けて、いろんな事があってみんな疲れてる。そんな状態で出口が見えない道を走り続ける事が本当に得策かな?」
「じゃあどうするの? このままここで訳の分からない木々の食事にでもなってろって言うの?」
「そんなこと……僕の方こそごめんだな」


 諦めるなんて出来ないってさっきから言ってんじゃん。でもリルレットもみんなを守ろうと必死になってるからな。今一こう、伝わりにくいというかだ。


「だから!!」


 リルレットは髪を振り乱して、自分の思いを必死に語ろうとしてる。でもこのままじゃきっと埒があかない。だから僕は、僕の思いが伝わりやすい行動を取るしかない。


(それなら)


 僕は一番近くの氷の木に近づいた。


「――ってスオウ! 危ないよ!」


 これまでの経験上、危険は承知の上。怒ってた様子だったリルレットだけど、一変して心配する声を上げるなんて流石。とってもらしいよ。
 でも危ないなんてわかってるし、これも一つの思いを伝える手段だ。仲間に剣は向けられないからな。その必要もあるわけ無いし。


「危険でも何でも、これで伝えるよ。僕の考えをさ」
「え?」


 僕はそう言って二対の剣を木に向ける。青い電撃が刀身から僅かばかり放たれてる。そしてそんな攻撃色を感じ取ったのか、さっきまで僕とリルレットの攻撃で痺れていた筈の木々が防御の為か動き出す。


 氷の幹に蠢く、幾つかの渦。そこから放たれるのは氷の棘だろう。でもそれよりも速く僕は動く。まさにあっと言う間。踏み込んだ一足。その瞬間に両の剣を一回ずつ振るった。
 そして、緊張を解くような息を吐く。


「ふう」


 その瞬間に、斬り裂いた切り口からバシュっと青い電気が放たれる。そして幹はその場所から大きくズレて、倒れ出す。
 ガサガサガサ、ズドォォォンって感じに氷の木は地面に落ちた。すると程なくして攻撃の棘と同じように霧散していく。


「スオウ、これって……」
「もう、止めようと思う。逃げることを。けどそれは諦めたからじゃない。これ以上みんなに無理させ続けて、それでいざって時に誰も動けなくなったら、それこそダメだから。
 だからもう、そのいざを決めようって思ったんだ」


 僕の周りにリルレットを始めみんなが集まってきた。大きな氷の木の消滅の光を背に受けて、不安気な顔をするみんなに強い言葉を示す。


「みんな、ここで柊を向かい討とう!!」
「「「!!!」」」


 僕のそんな言葉に、マンガでならそれぞれのコマにみんなの顔がアップでドドドドン! って感じで描かれたであろう瞬間だ。


「ちょっと待ってよスオウ。それって……そもそも奴がここまで来るかな?」


 リルレットの尤もな意見。まあそれはある。ここには奴の代わりに攻撃する木があるわけだしな。でもだから、僕はさっきその木を倒せると証明したんだ。


「だから来させるんだよ。アイツはきっとあの無数の目で僕たちを監視してる。そして追いつめるのはこの木々共に丸投げだ。
 ようは高見の見物を決め込んでる訳だ。でも木々は倒せるし、もう一度生えることは無い。なら、逃げて安全地帯を探すよりも、この場所を安全地帯に出来るんじゃないか? 
 そうなったら、優雅に見物とはいかなくなるだろ」
「つまりは、ここらの木々を全部薙ぎ倒すって事?」
「流石に全部とは言わないな。五十から八十メートル四方でいい。それなら幾ら木々が枝を伸ばそうと避けられる」


 それだけ距離があれば僕だけじゃなく、きっと後衛組でも大丈夫だろう。詠唱だってかなりしやすくなる。時間もあまり掛けてられないんだ。
 どこまで行っても出られないかも知れないのなら、ここを出た後と同じ条件にしてしまえって事だ。


「だけど、それって言うほど簡単か? それに結局は柊の奴のフィールドに変わりはないぞ」
「今ここに、簡単に出来る事なんて何一つ無いよ。それにこの空間なら、どこに逃げたってアイツのフィールドだ。なら、ここで腹を決めるのも悪くないじゃん」


 元々この場所はシクラを追ってたどり着いた場所。てか誘い込まれた様な気がしなくも無い場所だ。元々LROには存在しないかも知れない所何だから、この場合どこにだって奴らの息が掛かってると思う。


 ならもう、自分達が決めた場所で戦うのも良いかなって事だ。僕のそんな言葉に言い返す言葉を見つけられないでいるみんな。
 だって誰もが気づいてる。どこまで行ったって柊の手のひらの上だって。それに他に良い案があるわけでも無い。


「まあ、みんなを巻き込んだ僕が一人で決めれる事じゃないし、どうかなってことなんだけど? 結論を急かすのは些かズルく感じるけど、そう待ってもいられない。
 僕とリルレットの雷撃の余波が残ってる内に動きたい」


 そう言うとみんなが上を仰いで唾を飲むのがわかった。今度攻撃されたら、また同じように助けれるかなんてわからないんだ。


 そして次は自分が凍り漬けになるかも知れない。そんな恐怖が沸き立ってるんだと思う。別段何がどうなってる訳でも無いけど、「何かされた」感は確実何だ。
 その得体の知れない事が、余計に恐怖をかき立てる。そして一番最初の被害者のヒーラーがこう言った。


「そうですね。それもいいかも。どこに逃げても同じなら、自分達で僅かばかりでも作った場所の方がいいのかも知れない」


 すると一人の賛同と共に、みんなが次々と頷いてくれた。


「よし、そうと決まれば一気に行くぞ! これは残りの前衛組でやる。後衛はフォローでさっき凍り漬けになってた奴には悪いけど、その場で護衛頼む」
「任せろ!」
「うん!」


 それぞれがそれぞれの役割を理解して行動を開始する。その行動を理解でもしてるかの様に木々も動き出すけど、まだ雷撃の影響は残ってる様で、動きが鈍い。だからこの間に少しでも多く倒しておこう。
 なるべく後衛組から離しておきたいからな。


 でも流石に、攻撃の元に向かう訳だからそう易々と近づける訳じゃなかった。鈍くなってると言っても量が量だ。僕はスピードも手数も二刀流なだけに自信があるから一人でも対応出来るけど、リルレットとかが心配だ。


 けどチラリと横目で見ると、リルレットはスキルを上手く活用してやっていた。あれなら僕の心配は杞憂だな。他のみんなは流石にベテランなだけあって対応力があるし、自分がやるべき事に集中する事が一番だな。
 延びてくる氷をかわしたり落としたりしながら、幹を次々と切りつけていく。だけど僕の場合はそれだけだ。決めの一撃は放たない。


 だけどそれは、それだけで十分だから。僕の場合、一本一本切り倒して行くのは逆に効率悪い。このスピードと手数の多さを最大限に生かすスキルがセラ・シルフィングにはあるんだ。
 風の速さで周りの木々に傷跡を刻んでいく僕。セラ・シルフィングが刻んだ場所は淡く光って存在感を出している。


 そしてある程度の木々に傷を付け終えると、僕は立ち止まった。そしてその時を待ってましたと言わんばかりに、氷が一斉に伸びてくる。
 けど遅い。仕込んだ種を芽吹かせる時は今この瞬間だ。


「ライジング・バースト!!」


 その言葉を放つと同時に、後方で光が一斉に瞬いた。それは付けていた傷から生じた雷撃の光だ。それが氷の幹を砕き斬り裂き、放たれていた。


 そして木々が倒れる重たい音と共に地面も少し揺れた。まああれだけの木が一斉に倒れるとね。けどまだまだ足りない。安全圏を作るには周りの木を一掃しなくちゃだ。
 だから僕は再び走り出す。戦場でより戦いやすい戦場の為に。






「はぁはぁはぁはぁ……」


 行き絶え絶えになりながらも周りは随分と開けて、見晴らしも随分良くなった。綺麗に円上に開けた空間の完成だ。
 周りの木々共もこの距離のせいで氷を伸ばしづらくなってるみたいで周囲でウネウネさせてるだけに止まってる。
まさに狙い通りだな。


 これで後は役者が来るのを待つだけだ。するとその時、突然湖の氷が輝きだした。それと同時に声が聞こえる。


「本当に、君って厄介。何の抵抗もせずに、全てを渡せば良い物を……そんなに絶望を知りたいの?」


 それはこれまでの天からの声じゃなく、普通に聞こえる声だ。それはつまり……遂に奴が来たって事。


「柊!」


 森の中から白い冷気と共に現れる柊は歩いてなんかいなかった。滑る様に勝手に進んでくる様が不気味な威圧感を放ってる。


 そして伸ばしたその細い腕・・すると突然、湖の光は波を打って収束し、僕たちの足下から何かが飛び出す。それは柊の腕へまっすぐに向かい、そして優雅に開かれる。
 これで奴の武器はその手に還った。一気に張りつめた空気がこの場に広がる。


「分かったわ人間。私がこの手で奪ってあげる。『真の命改変プログラム』その礎に成りなさい」
 

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