命改変プログラム

ファーストなサイコロ

力と恐怖



「無理よ。間に合わない。確かに私達は一杯食わされたけど、アイツを甘くみない方がいいわよ」


 俺の腕の中でそんな事を言うウンディーネの案内人。拉致したソイツを抱えて戦場と化したこの場を走っている物の、こいつは何故か俺の心配でもしてるのか?
 それかやっぱりその場所は教えたくないって事かも。でも生憎、今の俺は優しさなんて持ち合わせちゃいない。


「何だよソレ。余計な事は口にするなよ。お前はただ目指すべき道のりさえ発してればいいんだ」
「む……あ~あ~折角の忠告なのに。私もアイツの事は嫌いだから言ってあげたってのになによ。ならアンタも死ね! あのクソな奴と相打ちにでもなってね!」


 バタバタバタバタと腕で暴れるウンディーネ。何てウザい奴だ。グサッと行くぞグザッと。けれどそこは我慢して進み続ける。戦場の中心から端へ、そしてその先に少し行く。
 ドデカいクリスタルの岩が数本密集してる場所。そんなに離れてないけどこの雨だとやっぱり見つけるのは難しかったはずだ。


 幸いなのは奴らが俺達を取り囲む様に攻めてきてたって事だ。まあそのせいで敵の本陣がどこかはわかりづらかったけど、本陣の方まで同じ厚さだったから突破は用意だった。
 後はこいつがちゃんと真実を言ってくれた事だな。奴の事が嫌いってのは多分事実何だろう。あのクリスタルが密集してる中に奴ときっとゼブラ達も居るんだろう。
 その証拠に何小隊かが周りに配置されてる。でもいずれも人のみで構成された部隊だな。連合ってのもそう単純な物じゃないって事か。


 でもそれはそれで都合がいい。実際ウンディーネが一人でも居たらこの隠れ方に意味があるのか怪しいからな。単純に茂みに身を潜めるって……しかもかなりの近距離。
 それでも気付かれないのはこの雨のおかげだし、ウンディーネがいたらそうは行かないだろう。


「悪いけど、もうしばらく付き合って貰うぞ。今放して、叫ばれでもしたら意味ないからな」
「別に……戦闘中にそんな情けない声は出しませんよ。それに貴方なら私が叫ぶ前に倒せるでしょう。いいですよ、せいぜい存分に殺しあってくれればこっちは愉快痛快だから」


 抱えられた腕の中でニシシと笑うウンディーネの少女。実際どうするか厄介だったから、そう言われると楽になる
。でもこいつわかってるのか?


「あそこにはお前の上司だって居るんじゃないか? いるならきっと戦闘は避けられない。俺はもう、容赦も加減もしないぞ」
「それってスズラ様の事? なら大丈夫、あそこには居ないもの。貴方達のトップを取りに行く役目、それがあの方だったから今頃ハズレを引いちゃってる頃よ。
 だからいいのよ。丁度ね」


 今度の笑みは妖しい子悪魔的な顔をしてる。それにしても今の話からすると、スズラがいたら絶対に案内しなかったよなこいつ。
 でも貴重な情報だったことは確か。あのおっかない武士が居ないなら、かなり楽になる。俺は大剣握りしめて勢い良く飛び出した。


 やるならまさに今がベスト。一つ一つの雨粒が肌を打って落ちていくこの瞬間でもきっとスズラは戻ってきてるだろう。
 ならアイツが戻ってきたときには全てを終わらせておいてやろう。






「邪魔……するなあああああ!!」


 横に振り抜いた大剣が小隊二つ分を一気に凪ぎ払う。立ち上がろうとする奴も片っ端から潰して、邪魔者も居なくなったところで奥へと進む。
 するとそこには間違いない奴が居る。そしてその後ろに浮かぶ水泡。


「やってくれる。本当に胸くそ悪い姿だなお前達は。まさかあの状況で示し合わせるとは、流石はここまでアルテミナスを支えてきた両雄と言った所か?」
「はっ、そんな事今までは認めたくも無かったけどな。でもそんな所だ。さあ、チェックメイトだ。言っとくがな、お前はどうあってもここで潰す!」


 こいつは危険だ。本能がそう伝えてる。LROがゲームだからってやりすぎだ。俺は連れてきてたウンディーネを放して剣を構える。
 周りの奴らもぶっ倒したし、今更必要ないからな。


「殺さないでくれるんだ。敵なのに」
「うるせえよ。今はただ、お前に向ける剣が無いだけだ。わかったらとっとと消えろ」


 今はただ目の前の奴をぶっ殺す事してゼブラ達を救い出すことが最優先。それに力の差は見せつけてる。こいつ一人でここで向かってくることは無いだろう。
 だから逃がしても問題なし。だからとっとと消えれば良い物を……何でクリスタルの影に隠れるだけなんだよ。


「ふん、随分あっさりとここまでこられたら思ったら、裏切り者がいたわけか。これだから魚は飼うには向いてない。
 捕まえたのなら食べるのは一番。そうだろ?」


 奴はそんな事を良いながら何故か俺に同意を求めてくる。でもそれに答えたのは俺じゃない。


「別に裏切った訳じゃないわよ! 私はそいつに拉致されたの! 勘違いしないでよね! それとだれが魚か! 言っとくけど、私たちを食べられる何て思わない事ね!」
「魚は礼儀も知らないようだな。それと立場の違いも。釣り上げられる側であれば良いも――うお!?」


 さっきからこいつは何をベチャクチャ喋ってるんだ? 得意そうな話術で自分のペースにでも引き込むつもりなのか知らないが、こっちはそんな会話に付き合う気はねーんだよ。


「さっさとゼブラ達を解放しやがれ!」


 不意を付いた一撃を避が避けられた。けどそれはただの偶然だろう。こいつはどうみても直接戦闘を得意とするタイプじゃない。
 次で決めれる。HPが尽きるまで叩き込み続けてやる。弱みなんてもうないんだ。こいつのムカつく顔を一分一秒でも見てるのがイヤだから、どうでも良い会話になんか付き合ってられない。


「ゼブラ? ああ、それはこいつだったかな?」


 そう言って俺の盾が届く前に奴は後ろにあった水泡を移動させた。それは目の前、眼前だ。そしてそこには苦しみ悶えるゼブラの姿が有った。


「――っつ!!」


 止まれと、その瞬間俺は心で叫んだ。だけど遅かった。ナイト・オブ・ウォーカーと加護で強化された俺の一撃は速い。
 その勢いはちょっとやそっとじゃ自分でも押さえきれない。だからその勢いそのままに俺の盾は水泡に到達した。突起が水膜を破り、その瞬間に一気に水が弾けた。


 まるで水風船が割れた時みたいな感じ。そして辺りに水をばらまく中で、止まらない盾は苦しんでいたゼブラにまで深く届くんだ。


「ふぎっ!?」


 その瞬間、この腕に伝わる感触がこれほど気持ち悪いと思った事は無かった。でも、それでも結局俺は振りきるまで止まらなかった。
 俺の攻撃を受けたゼブラはクリスタルにぶつかって地面に崩れる。それがダメージに成ることは無いってわかってても、衝撃はきっとハンパない。
 助けようとした相手を、結局は傷つけてる。


「ははははは! 容赦がないね君は。流石は騎士だ。役立たずな部下には鉄拳制だね。でも苦しみからは解放された訳だし、それもやさしさ……だよ」


 優しさの言葉の後のわずかな溜。そこで微かにイヤらしく微笑んだ奴の口元を俺は見逃しはしなかった。いや、それもワザとか。見せるようにきっと笑ったに違いない。
 振り払った奴の楔。だけど今でも僅かに捕まれたそれを利用されてる。


「ア……ギト様……」


 その時雨の中から聞こえた弱々しい声。それはさっき吹き飛ばしたゼブラだ。俺の攻撃はダメージに成らないが、それでも残ってるHPは僅か。
 相当奴にジワジワといたぶられてたみたいだ。そこで俺の止めに実際なら成ってるはずのあの一撃……けどゼブラは、そんなボロボロの状態でこう言った。


「助けて……くれて、ありがとうございます」


 ゼブラのそんな感謝の言葉……だけど俺の心はそれを受け止めきれないでいる。


(違う……助けれてなんかない。俺は何も出来なかったんだ。それなのにまた傷つける事でしか苦しみから解放出来ないなんて……そんなの)


 俺はゼブラの顔を見れない。あれは絶対に助けたなんて言えないから。でも何も言わないわけにも行かない。だから俺は下を向いてこう答えた。


「ああ、ちょっと待ってろ。直ぐに全員解放して、この戦いを終わらせる!」


 自分のふがいなさは、それを利用する奴にぶつけよう。この苛立ちと怒りも、それがきっと正しい向けるべき相手だ。
 何だか重いんだよ。「ありがとう」のその言葉が。感謝の言葉で有るはずのそれが、何故か俺の胸には突き刺さってる。


「ふふふ、仲間の傷など大局の為ならば致しかたないか。流石流石。まあ私は君とやり合っても何の特も無いんだし、その調子で行ってみようか!」


 奴がそう言って指を鳴らした直後、水泡の中の泡の数が倍増した。そしてそこでのもがき方も激しさを増す。HPの減りも今までの比じゃない。


「きっさまああああああ!!」


 俺はそう叫ぶと同時に駆けだした。けどその時、奴は残り三つの水泡をそれぞれ三方向に移動させた。それぞれがこの空間でもっとも離れた場所へとだ。


「いいのかい? このままじゃ直ぐにでも大事な仲間が苦しみの果てに死ぬことになる。助けたかったんじゃないのかな?


 まあただし、あの水泡は生半可な攻撃じゃ潰せない。でもコツはわかってるだろう? さっき壊した時と同じ勢いで叩けばいいんだから」


「くっそ!!」


 俺は方向転換してまずは一番近い所へ向かう。何で……こんな時の顔はやたらとはっきり見えるんだろう。苦しんで……泣いて……手を伸ばす……そんな姿が俺に向いている。
 さっきと同じ。でもそれじゃまた吹き飛ばす事に成る。それはまさに追い打ちで止めを刺す気分だ。でも見る見る減っていくHPは待ってはくれない。
 死なせないのが最優先! それだけを頭に置いて俺は剣を振りかぶった。


 パンッという音と共に、雨とは違う水が顔に掛かる。そしてその時には既に、俺の剣の下に助けるべき仲間が倒れてる。
 けどそれでも……弱々しく言ってくれるんだ。


「ありがとう……ございます」


 そして再び俺の胸の同じ部分にその言葉が刺さってしまう。この光景を見てた等さ……自分が何を助けたかったのか分からなくなる。
 けどそんな思いをそのままに、俺は残り二人も水泡ごと吹き飛ばした。「そうするしかなかった」がまた言い訳だ。


 そして二人も等しく「ありがとう」をくれた。どう受け取っていいのか分からないそのありがとう。本当に何が最初の騎士だ。
 こんなんで俺は……一体何を守れるのだろう。いいや、守ってた気になってたんだろう。数発同時に空から降り注いだ雷がここのクリスタルに直撃した。
 雷の力で僅かに輝いたクリスタルがきっと痛々しい俺の姿を映してる。そして気付くと、そこに奴の姿はもう無かった。


(逃げられた)


 そう言えば「特なんて無い」って言ってたっけ。奴にとっては俺を利用する事なんかちょっとした思いつき。だから別に慌てて何か無かったし、未練も何も感じて何か無かった。
 ちょっと予定を修正するだけ何だろう。ここで本当は奴を倒すべきだったのかも知れない。そしたら少なくとも、俺たちに負けは無かったんじゃないか?
 さっきは本当に、勝利を拾える一歩手前まで来てたのかも……でも俺が選んだのは、受け取り方が分からない、ふがいないゲームでの生だ。


「すみません……俺達のせいで奴には逃げられましたね」


 回復用アイテムでHPを回復させたゼブラがふらつきながら横に来た。HPが戻ったからって精神まで回復する訳じゃない。
 あの苦しみはまだ心の内側に効いていそうだ。


(あの野郎……)


 そう思って俺は拳を握り締める。何でこうなったか・・それは奴の悪意の糸に絡まれたのが原因だ。おちょくる様に人を利用しやがって、奴は逃がしてはいけない敵だ。
 今ならまだ、やれるんじゃないか? そんな思いが脳裏をよぎる。その時、どこかからパシャッと水を踏む音が俺には微かに聞こえた。


(アレは……)


 俺は少し口元を綻ばせるとそちらへ一気に加速する。きっとアレは頼りになる目だ。


「ぷぎゃ!!」


 そんな声を出して地面に叩きつけたのはまた同じウンディーネだ。つくづく縁があるってか、まだ逃げて無かったのかよ。


「アギト様! そいつはウンデェーネじゃないですか。倒しときましょう!」


 そう言ってふらつく足で武器を構えようとする面々。だけど俺はそれを制した。


「いや、その必要はない。丁度良いんだよ。コイツはな」
「というと?」


 ゼブラ達は訳が分からないという風な顔で互いを見合う。だけど次の言葉を紡ぐといたく驚き、反対された。


「俺はコイツの目を使って“奴”を追う。今なら一人だろうし、俺なら追いつける。多少敵が居ようが関係ない。
 だから……お前達は本隊に戻ってろ。直ぐそこだ。戦闘中だけど、まあ優勢だろうから無理はしなくて良いはずだ。
 少し休んでろ」
「な!? 何言ってるんですかアギト様! 危険過ぎます。それに一番大変だったのはアギト様でしょう! 貴方がそこまでやらなくても、一度本隊と合流してからでも良いじゃないですか!」


 ゼブラのそんな言葉に周りのみんなが「うんうん」と頷く。まあ確かに、ガイエンへの印象も少しアップしたし、それも悪くない……けど、そうしたらきっとガイエンは俺を単身で行かせるわけ無い。
 戦友とかじゃなく、一戦力としてそれを許さないだろう。けどこのチャンスは今しかない。


「今行かないと、追いつけない。態勢を立て直されたら、この戦い長引くぞ。そうなるとこっちは不利だ。何てたって向こうは、俺達にはない目を持ってるんだからな」


 そう言って俺は捕まえてるウンディーネへ目を向ける。すると何かを懇願するような目を向けてパチパチしてる。だけど生憎、俺達はアイコンタクトが出来るほどの関係は築いてない。


「いつまで押し倒してんじゃって事よコラアアアアア!」
「「「うお!!」」」


 姿に似合わない暴言を吐くウンディーネ。泥水の中に押しつけてたのが余程感に障った様だな。俺は取りあえず、ウンディーネを持ち上げる事にした。
 今度は肩に背負う感じ。腕だけで支えるのは正直きついからな。
 そんなこんなでちょっと崩れた空気感。けど立て直すようにゼブラは言う。


「確かにそれは有りますけど……なら自分達も連れていってください! 今度こそお役に立ちます! あんなヘマは二度としません」


 すると他の三人もやる気な瞳を輝かせる。まあコイツ等ならそう言うと思ってたけど……でも。


「ダメだ。それにHPは戻っても苦しんだ疲れが残ってるだろ。そんな状態のお前達が居ても邪魔なだけ」
「そんな……」


 降り続く雨が一層冷たく感じるのは気のせいか? いや、きっと気のせいじゃない。一気に下がったゼブラ達の空気が雨にまで染みて伝わって来てるんだ。
 でも、もうあんな事にだけは万に一つも成ってはいけない。だから俺は離すんだ。


「今のお前達は足手まといなんだ。だから絶対に付いてくるな」


 俺はそう言うと本隊同士がぶつかり合ってるのとは逆方向へ走り出す。多分きっとこっちだと思うからな。奴が戦闘に参加するとはなかなか思えないし、それにこの状況なら一時撤退が定石。
 後ろは見ない……けど、寂しそうにしてる顔が浮かぶのは何故だろう。アイツ等とはそんなに時間を共有した訳じゃないんだけどな。






「ま、別に教える分にはいいけど……後悔しても知らないよ」
「後悔なんて、さっきまででもう何十回としたさ。それで選んだ道だ。俺が奴をぶっ倒す!」


 ゼブラ達と分かれて、やけにあっさりと奴の道のりを教えてくれるウンディーネの案内で俺はこの地を独走してた。


「それって復讐? でも十分それならやったと私は思うけど。奴の悪巧みも潰して、あれだけ追い込んだ。それじゃダメな訳?」
「ダメだな。元が敵だし……それに復讐だけじゃない。奴はどのみち生かしておけない。アルテミナスの為にもな」


 それにぶつけたい……この怒りと自分のふがいなさをさ。それをやれればどうにか成る気がする。でもそう考えると随分、ワガママな事だな。
 けどそれをやらないと、俺はこの突き刺さった「ありがとう」をどうする事も出来ない。それじゃ自分が情けなさ過ぎるだろう。
 アルテミナスの為とか言っといて自分で笑える。結局俺は敗北の二文字を消したいだけじゃないのか? 


(まあそれでも、奴は潰すがな)


 心の中でそれを結論に俺は走る。雨が遮るカーテンをかき分けて、きっと前へと。






「うおおおおおおお!!」


 振りかぶった大剣が雨を切り割いた。けど奴には当たってない。奴のあの回避……最初は偶然だと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。
 攻撃・防御は除いての回避スキルを優先して組み込んでるのか? やたら避け方が上手い。


 ようやく追いついた奴に、俺は間髪入れずに攻撃を仕掛けた。周りに数人居た護衛は諸ともせずになぎ倒して、向かうがなかなか以てしぶとい。
 けどこっちも逃げ続けられる様な柔なスキルじゃ決してないんだ。


「アンタは絶対に俺がこの手で葬ってやる! あの辛さをその身に刻んでな! だから、鬼ごっこはもおう十分だ!」


 スピードもパワーもこちらが上だ。それに実践もそうだろう。ならやりようは幾らだってあるんだよ。徐々に掠る具合が深く成るのが感覚で分かる。
 あ、ちなみにウンディーネは奴の姿が見えた瞬間捨てた。
 大剣と盾を組み合わせた追い込み攻撃。そしてついには大量の雨粒に打ちつけられた所を俺の大剣が捕らえた。


「ぐはっ!!」


 そんな声と共に斜め前方に吹き飛びそうになる奴。けどそんな一発で気が済むわけもない。俺はその勢いを全て盾で叩き弾いて、再び大剣を打ちつける。
 それは自身一人でチェーンを繋げる程の攻撃速度。再び俺の周りの空間だけ、雨が落ちてなかった。
 そしてチェーンの光とスキルの光が重なりあって爆発する。奴は自信から煙を上げながら塗れた地面を転がっていく。


「どうだ痛いだろ? けどアイツ等はこれの何十倍も苦しんだんだ。だからお前も苦しみながら逝け」


 打ちつける雨が、地面に貯まった水たまりがそんな俺の姿を映す。けど僅かに残ったHPで奴は笑ってた。


「くくく……はは。なんだいそれは? 自身に対する言い訳かい? それか責任転嫁。私に負けた君が悪い。何も出来なかった君のせい……そうだろ?
 餓鬼が、責任という意味も知らずに持った力で奢るなよ!」
「――っつ!?」


 何だコイツ……死にかけの癖に変な威圧感がある。大丈夫落ち着け。奴に何が出来る訳はないんだ。ただ最後に得意な話術でこの場を逃れようとしてるだけ。


「くく、良い顔だ。君は結局何も守れないし救えないと気付いたかな? 分かってるんだろう……だから君は一人なんだよ。
 それだけの力が有っても何も守れる気がないから、君は仲間を置いてきた。怖くて仕方ないんだよねぇ、この私が!」


 奴の言葉がねっとりと絡み付いてくるような感覚。大きな蛇が足先から這いあがって来てる様。何で……何でこいつは簡単に他人の心を抉る。それも的確に。
 怖くて自信が無くて、見れないから全部をコイツにぶつけたかった。元凶を断ちに来たはずだ。けどコイツは、まだ笑ってる。


(何で何で何で何で何で……どうしてだよ!)


 殺せ殺せ殺せ、そんな言葉が呪詛の様に頭を回る。危険なんだコイツは……だから!


「うああああああああああ!!」


 その瞬間、地面に深く大剣は突き刺さる……そんな衝撃がこの場に静かに伝わってた。

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