命改変プログラム

ファーストなサイコロ

雷鳴の行方

「アギトオオオオオオ!!」


 そんな叫びが一本まっすぐに空に響く様だ。実際、ガイエンの奴がこんな風に必死に叫ぶのは初めてっぽいから無言を貫き通してる俺も、少しビクッとしたよ。
 ガイエンの奴はもっとクールを売りにしてるからな。だからこんな事は珍しい。考えてみればこいつがわざわざ直接出てきてる事自体希だ。


 ガイエンのやり方なら、周りに居る圧倒的な数を使って泥臭い事をせずに俺を押さえる事は出来るはずだ。幾らそれまでに何十人が吹っ飛ばされようとも、死んだ訳じゃないんだ。
 命令一つでみんな目の色を変えて襲ってこれたはず。そしたら幾ら俺でも、この数全部をさばききれる訳なんて無かったんだ。


 だから絶対にそっちの方がスマートだった筈。けどガイエンはそれをせずに、何故か我が身虚空で俺の前へやってきた。


「うおおおおおおおおおおお!!」


 ガイエンの長剣が一振りする度に、倍の剣劇をまき散らす。それは俺の体を僅かにかするが、決定打にはなり得ない攻撃。
 激しく打ちつける豪雨も止めることが出来ない位の攻撃じゃ、俺には届かないんだよ。それに折角の倍撃もこの雨で軌道が分かる。


 普通ならそんなの見れる分けないのかも知れないが、いかんせん俺には見えるんだ。絶え間なく降り続ける雨を受けてしまう残撃って奴が。
 俺達はもう……戦闘において、最も実力が近い訳じゃなくなってる様だ。それはきっとこのスキルの差ってだけじゃない。
 俺は常に前線に、そしてガイエンは常に後方に居たことによる差だ。久々に、本当に久々にガイエンの戦闘を見るけど、何だかぎこちないって言うか……切れがない。


 こんなもんじゃ無かった筈だこいつはさ。それとも本当に、いつの間にか俺が強く成りすぎてしまってたのか? 
 俺はガイエンが長剣を振るう度に出てくるスキルの残骸を一振りで弾き飛ばす。その衝撃は雨を弾丸に見立ててガイエンに届く。


「ぐっ……ああ!! くっそ、さっきから無言で人を見下した様な目で見やがって……何がそんなに気に入らないんだ!?
 言ってみろアギト!!」


 けれどガイエンは何か自身のキャラとは違う様な言動を取る。こんな奴だったかお前って感じだ。だけど今の俺にはありがたい事なのかも知れない。
 この空しさを無数の仲間に向けるより、ガイエン一人に向けてた方が気が楽だからな。けれどずっとこいつの相手をしてる訳にも行かない。


 もたもたしてたらゼブラ達にあの腐れ野郎が何するか分かったものじゃないからな。でもこのままじゃ、解放させる事が出来たとしても、何にも成らない事も確か……それを考えるとガイエンが感じた見下した様な目にも成る。


 だって俺にはいい方法なんて思い浮かばなくて、でもガイエンならって思う自分も居て、けれどこんなに弱いのにって感じる俺も居て・・実際訳が分からなく成った目なんだよ。
 けど「言って見ろ」と言うその言葉・・大剣を振るいながら俺はずっと考えた。何か今までに無いくらいに親切なガイエン……こいつになら素直に話す事が出来るかも。


「どうすればいい……どうすれば俺はいいんだガイエン!」


 振り上げた大剣が赤い閃光と共に地面を割って掛けていく。思わず力がこもってしまった。今までは何も考えずにやってたけど、言葉を紡ぐ事で気持ちが剣にまで乗ってしまった。
 けれどガイエンはそんな攻撃を何とかかわす。だがそのせいで後ろに居たエルフの面々が盛大に空に舞った。


「どうすればいいだと? なら事情を話せ! 貴様がこんなバカな事をする訳をな!!」


 確かにガイエンの言葉は尤もだ。みんなだって何も分かてない。それは全部俺のせい。けれど……俺は視線をあの監視役のウンディーネが居ると思われる方をちらりと見て思う。


(見られてるって事が話す事を躊躇わせるんだ。だって聞こえてたら? ゼブラ達が危なくなる)


 この雨で俺にはウンディーネは見えない。けれど奴は絶対に俺を見てるはずだ。だからと言ってこの雨の中、音まで正確に拾えるのかは分からない。
 だけどガイエンはめざとかった。


「そっちに誰か居るのか? そしてお前以外の部隊が戻ってない事……だがまだ生きてる事を考えれば自ずと貴様の状況は見えてくる。
 敵と接触したな? そして考えられる最低なことは人質か?」
「――っつ!!」


 流石に俺はビックリした。伊達にアイリの片腕として参謀をしてる訳じゃないなコイツ。戦闘が疎かに成った分、頭を使ってるって事か。
 それに気を聞かせてか、ガイエンは武器のぶつかり合いのタイミングでそれを言った。つまりはもしもの場合にも聞き取られない様にって事だろう。
 そして俺の反応でそれを確信したらしい。


「ビンゴか。貴様はバカか! これはゲームだぞ。幾ら何でもその力で全部を背負える何て思うな! 死ぬ訳じゃ無いんだ。貴様さえいれば戦闘はどうにでも出来る。
 アイリの為にも勝ちたいだろう。それなら大局を見謝るな!」
「……そんなの分かってる。けどな……苦しませられるんだ! ただ戦闘不能に成るだけなら俺だってこんな事しねえよ。
 だけど、苦しんで苦しんで殺されるってんなら話は別だ。見捨てられる訳ねぇよ!」


 思わず力を込めた攻撃がガイエンに直撃した。大きく吹き飛んだガイエンは群衆の中へ飲み込まれる。あれは流石に……やばいかも。
 ダメージは無いと言っても衝撃はもろに伝わる。だから俺の後ろの奴らは、そのまま昏倒してる奴だって居るんだ。


「ガイエン!」


 俺は思わずそう叫んだ。心配何て……見せちゃいけない。それに嫌いな筈のアイツに向かって。けど今は頼るしか無いんだよ。都合がいいけど、この袋小路は自分じゃどうにも出来ない。
 力だけじゃ破れない。けど、流石にここまでやった俺に周りは武器を構え出す。


「もう我慢出来ない!! あんたは最初の騎士で……仲間だと思ってたけど、これ以上の暴走は俺達全員でねじ伏せてやる!!」
「「「おおおおお!!」」」


 それは今この場に居るエルフの騎士、全員の総意みたいだ。当然と言えば当然。完全に俺が暴走してる訳だからな。みんなアイリの為に必死に成ってくれてるんだ。
 それはきっと正しい選択何だろう。
 だがその時、そんな騎士達の中から飛び出る影があった。


「ガイエン様!」


 そんな声が聞こえる間でもなく俺には分かった。青い髪を靡かせて奴は再び俺に向かってくる。そして武器と武器がぶつかった時に奴は再び口を開く。


「ふん、貴様が私を心配するとはな。この異常な雨はそのせいか? まあいい、取り合えず今の内に簡潔に説明しろ」


 その言葉に俺はこうなるまでの事を伝える。だけどレイアードの件は抜かして、雨の中で敵の本隊と遭遇したこと、そこでゼブラ達を人質に取られた事、そして少しのウンディーネの能力と、奴らの目的。
 するとガイエンは全てを聞き終わった後にぽつりと呟く。


「なるほど。なら奴らの本隊も既に近くにいるな。今の状況をどこからかウンディーネのその能力を使って伺ってる筈だ。
 そして攻めいるきっかけはおそらく私を吹き飛ばした後」
「なっ……それって……」


 俺は少し驚いたが、考えてもみれば直ぐに思いつく事。だって奴らは混乱した隙に襲撃すると言っていた。ならあの場所に止まってる訳がない。俺が先行したってだけで、本隊もその後に付いてきてた筈なんだ。
 そして奴らの総攻撃のタイミングはまさにガイエンが吹き飛んでからにきっと間違いない。その直後が当然一番混乱するはずだから……でも、それじゃあいつゼブラ達は解放される?


 こっちの本隊が全滅した後? それじゃ確かに意味なんて無いじゃないか。けどそれでも俺はきっと反撃なんて出来ないんだ。ゼブラ達が解放されるまでは。
 情けない……俺は何も見えてなかったんだ。あの底意地の悪そうな野郎の手のひらで踊ってただけ……このままじゃ確実にこの戦いはエルフの負けだ。


 このフィールドを取り返す何て出来ない。そんな事を考えてると初めてガイエンの攻撃が俺にまで届く。複数の残撃が体の各所に当たり後方へ後ずさった。
 そんな光景に沸き立つ騎士達。完全に俺は敵だな。当たり前だけど。けれどその時、ガイエンだけが違う目を俺に向けてる。
 それが本当に仲間に向けてる目とかは分からないが、ただ敵って訳じゃなさそうな……


「アギト、この責任は今直ぐ取って貰うぞ」
「責任なんて……今更取れるのかよ」


 ガイエンの言葉に俺は弱々しく返す。そりゃあ責任が取れるなら取りたい。それは当然だ。だってみんなには酷いことをしたんだ。
 それが仕方なかったとしても、俺はみんなの痛みとゼブラ達の痛みを天秤に掛けた訳だからな。そしてより傷つける選択をした。許して貰える方法があるのなら・・それを断る理由はない。


「取れるさ。更に言えば最高の形でだ。勿論貴様の部下も上手く行けば助けられるかも知れない。どうだこの全てを帳消しにする素晴らしい作戦は?」


 ガイエンの言ってることは荒唐無稽にも聞こえる。けれどこの自信。それに今の俺にはもうガイエンのこの言葉にすがるしかない。だから俺は言ってやる。悪魔に魂売る気分だけど、今だけは天使に見えるぜこの野郎!


「それが本当なら、何だってやってやる!」


 するとガイエンは空いてる手を掲げて俺に向ける。そして大声でこう言った。


「全員遠慮する事はない!! あのトチ狂った赤毛のエルフを締めあげろ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 その瞬間聞こえだした地響きは恐怖の象徴の様だった。ガイエンの言葉で遠慮というタガが外れた様だ。流石にこうなると、この数相手では一筋縄では行かないだろう。


「てか、何考えてんだあの野郎!!」


 俺のそんな叫びは雨に消される前に迫り来るエルフの大軍に欠き消される。そしてガイエンはその中に消えていったんだ。
 一体どうする気何だよ。




 雨と地面を踏みつけて、迫り来るエルフ達を俺は吹き飛ばさない訳には行かない。だからって今までの様に楽々とそう出来る訳じゃ無くなってるし、今度は俺の方へ戸惑いがある。
 ガイエンの奴は何かを企んでそうだった。だが、何も言わないからこっちは何も分からない。それを監視役のウンディーネに悟られる訳にも行かないから、俺は向かってくるみんなを飛ばし続ける。


 ドガンドガンズバンと続けざまに大剣を振る。でも遠慮が無くなった分、みんなは頑丈だった。加護でかなり能力がアップしてる訳だし、元々ダメージにならない攻撃で倒れる奴は居ない。
 そして押し寄せる波の様に迫る攻撃に、俺は徐々に押されていく。


「くっそ……このままじゃゼブラ達が……」


 俺が本隊に混乱を与えられないとゼブラ達がヤバいのはガイエンの奴も分かってるだろうに……何やってんだ。既に無数のエルフの波の中で、ガイエン一人を見つけるのなんて不可能。
 最善の可能性があるとか言ってたが、それが段々疑わしくなってきた。だけどそれがもしも本当に無かったら……訪れるこの先は敗北だ。


 何も残らない、そんな未来。だから俺は信じたい。例えあのガイエンが言ったことでも……アイツは案外、アルテミナス関連の事なら割と真剣だから、そこに賭けるしかないんだ。
 数パーセントでも、僅かな信頼位持ち合わせてるから。だから俺はもう一度アイツが姿を現すまで持ちこたえる!


「うらあああああ!!」


 俺は開き直って力を込めて大剣を振るう。するとその瞬間おかしな事が起きた。いや、実際おかしいのか判断に苦しむけど、ここまでの手応えだったか疑問だ。
 何だか、随分沢山の奴らが吹き飛んだ様な……加護があって勢いと共に持ちこたえてた筈じゃなかったか? 確かにさっきよりも力を込めたが、だからってこれは・・。


 そんな事を考えてると、様々な罵声と共に更に後ろのエルフ達が攻めてくる。けど何だろう? 勢いが言葉だけになってる気がする・・様な。攻撃も何だか当てようとはしてるけど、威力が強い物じゃない。
 それに吹き飛ばしたみんなが立ってこない。そんなわけ無いのにこれって……そう思って視線を巡らせると、アイツが見えた。


 最初よりも確実に少なくなったエルフ達の間を縫う様に青い髪が進んでる。多分どうやら、ガイエンの奴が何か指示してるみたいだな。
 そしてある程度そんな三文芝居が続くと、ようやく奴は俺の前に再び現れた。


「流石だなアギト。ナイト・オブ・ウォーカー、その力は伊達じゃない。けど、これ以上部下をやらせる訳には行かない!」


 そう言って長剣を俺に向けるガイエン。これはそのままぶつかりそうな流れ。でももう、俺は信じるしかない。何かやってくれるんだろう。
 なら俺は、今の俺の立場にふさわしい行動を取るだけだ。それがきっと正解だろう。俺は無言で大剣を構える。激しく雨が打ちつける中、赤と青の光が立ち上っていた。


「貴様はもう敵だアギト。私の手でその暴走、止めてやる。行くぞ!!」


 地面を激しく蹴って迫るガイエン。それはアホな位に真っ直ぐだ。俺はここできっと、コイツを吹き飛ばさなくちゃいけないんだろう。
 けど、やっぱりいざやるとなると多少の躊躇いがあるな。向かい打つだけできっとやれる。だけどだからこそ……するとそんな時、ガイエンの奴と目があった。その目はムカつく位に自信に満ち溢れてる。


(やれよ。出ないと斬るぞ)


 ってな事を目で訴えてやがる。上等だな。俺は構えた大剣を更に力を込めて握り、更に赤い光は大きくなった。


(望み通り……やってやるよ!!)


 俺は頭でそう叫んで、一気に大剣を振りかぶる。すると確かな感触と共に降り注ぐ雨が周囲に拡散して、雷鳴が鳴り響く空へと何かが飛んでいく。


(やった……)


 多分あれはガイエンだろう。確かにやったではあるけど、これほど喜べないやったも無い。剣の軌道を示すように延びていた、赤い光が消えていくと同時に、再び雨は頭上に舞い戻ってくる。
 そして空を仰ぎ見ることは叶わなくなった。


「「「ガイエン様アアアアアアアア!!」」」


 そんな叫びが立っているエルフ達からあがる。そしてもの凄い形相でこちらに剣を向ける。
(え? あれって演技だよな?)
 そう疑問に思うほどの迫力。スゴい逸材がいたもんだ。けどその時だ。どこからか灯った光が、俺を過ぎ去って残ってたエルフ達に降り注ぐ。


 しかもそれは爆発かしない。大量の水が溢れ出てくる物。それってつまりは……俺は後方を振り向くと必死に目を凝す。


「やっぱり……ウンディーネの奴らの攻撃か」


 更に続いて人間は雷系の魔法を放つ。この状況じゃそれは確かに良いコンビネーション。伝導率が高そうだ。とうとう敵さんが今が好機と言わんばかりに攻めだして来たって訳だ。
 まさにガイエンの読み通りだな。けどそのガイエンは今頃大ピンチじゃ無かろうか。きっとこの本隊とは離れた別動隊がアイツの首をねらってる。
 これからどうするんだと言いたいが、俺もどうやらうかうかしてられる状況じゃ無くなったみたいだ。真っ直ぐに俺に向かって走る水の柱。それを潰した直後に、更に複数の攻撃が俺を襲い出す。


「――っつ、お前等! 何で俺を攻撃する?」


 すると敵の中の比較的偉そうな奴がこう言った。


「何故? 命令は『混乱に落ちたエルフ共を戦滅しろ』だからだ。貴様もエルフである以上、命令から外れはしない!!」
「ちょっと待て! 俺はお前たちのボスと約束してる。本隊を混乱させたら人質を解放させるってな! そいつをだせ!」


 水と電気の複合攻撃が襲いかか手は止まらない。そしてその人間から発せられた言葉に俺は怒りが沸き立つ。


「人質? ああ~あのエルフ共なら、安心しろ。もうじき開始地点に戻るだろう。死体となってな」
「きっさまらああああああ!!」


 俺は遠慮も躊躇も無しに、力をありったけ込めた大剣を地面に叩きつけた。その瞬間、地面は爆発したように弾け飛び、敵の前線部分までも巻き込んで行く。
 でもそんなのじゃ全然たりねえ! 
 俺は一体……奴の何を信じてたんだ。いや、元から信じて何かなかった。こうなる事も有り得るって頭の隅では考えてたさ。でも、実際そうなるとアイツは俺を手のひらで踊らせるだけ踊らせて落とそうとする奴って事がわかった。


 ムカつくムカつくムカつき過ぎる! こうなったらただでやられてたまるかよ。奴がこの場に居ないって事は、多分ゼブラ達の苦しんでる姿でも楽しんでるんだろう。
 俺は人とウンディーネ共を凪払い凪払い、口を開いてた奴を地面に叩きつける。


「どこだ!? あのクソ野郎はどこにいる!! 五秒以内に答えろ。出ないとその頭を潰す」


 俺は精一杯に迫力を出して脅した。だけど誰もが知ってる。LROでは死ぬほど痛い事なんか早々無いって。特にプレイヤー同士の攻撃なら尚更。それこそ、ゼブラ達が受けてる状況が異常なんだ。
 だからコイツは笑いやがる。


「くはははは! 行けねえよ。お前はここでエルフ共と倒されるんだ。幾らお前が強くても、どうにも出来ない数の差とこの天候がそれを示してるのさ!!」


 その瞬間、雨が背中に突き刺さる。それは前に食らったウンディーネの攻撃。回避不可の雨の槍。これは不味い。ダメージに成ってないみんなにも当たる。
 するとその時、骸の山から見慣れた青い髪の奴が立ち上がって言い放つ。


「後衛全員で盾を展開しろ! 全軍に通達する。寝たフリは解禁だ。各、目の前の敵を戦滅しろ!!」


 その瞬間頭上に大きなシールドが展開されて雨の槍を防いだ。そして一斉に動き出した、地に伏せていた筈のエルフ達に敵軍はたじろいだ。


「貴様どうして!? 確かに飛ばされたのをウンディーネの目が確認したはずだ!!」


 いつの間にか俺の腕から逃れてた奴がそんな事をガイエンを指さして言った。まあそれは俺も聞きたいな。するとガイエンは得意気な笑みを浮かべて言い放つ。


「ああ、あれは人形だ。そちらが良い目を持つ隣人に助けを求めても、我らエルフは自身達でその上を行けるんだ。 スキルの一つさ、あんなのは。誘われたのは貴様等の方だ。格の違いを教えてやろう。ただの魚人と平凡な貴様等にな」


 混乱もしてない、指令官も居るのならそれは完全な正面対決。いや、向こうは余裕を無くした戦いを余儀なくされた訳だから、こちらに部がある。
 てか俺も騙されてた。分身ってあれは多分ガイエンのスキルじゃない。倒れてた誰かのスキルとタイミング良く入れ替わったんだろう。


「行けアギト! 何の為に皆協力したと思ってる? 貴様の為ではないぞ。同じ仲間と、一つの思いの為だ」


 そんなガイエンの言葉で、俺は周りを見渡す。誰もが必死に戦ってる。この戦いに勝つために。それを一度諦めたのは俺だけか。
 でもアイツ等を取り戻せばもう一度同じようにめざせる気がする。


「お前の印象が変わったよガイエン。今回ばかりはな。本当に助かった。後は俺の役目だな」
「その通りだ。貴様は騎士の代表。舐められるなアギト!」
「了解!!」


 俺は駆けだした。手近なウンディーネを一掴みして。それは丁度俺を案内した奴。なんて偶然で立場逆転。女だからって今更容赦する気更々ならない。
 目指すのはあのクソ野郎の場所。激しくぶつかり合う戦場を、俺は風の様に駆け抜ける。どちらにこの戦いが転ぶかは、きっとこの一戦に掛かってる。
 だけどまだ闇は完全には晴れてなんか無い。頭上で鳴り響く雷が嫌な音を奏でてた。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品