命改変プログラム

ファーストなサイコロ

成せない選択



「ふう~何とかやれましたね。流石アギト様です! 大半を一人で倒してしまうんですから!」
「はは、まあこれ位の相手ならな」
「おお~一生付いて行きます!」


 倒れてるウンディーネと人の中でそんな会話をしてる。誉められてつい、調子に乗った発言してしまったな。だけど確かに、俺が敵の大半を倒せた。
 ゼブラ達も決して弱い訳じゃない筈だけど……最近は特にこの力に慣れて来た感があるんだよな。多分そのおかげで、力を今までよりも効率よく使えてる気がする。
 天候を味方に付けてたウンディーネもそれほどじゃなかったな。でもおかげで自分達がどこに居るのかさえよく分からなくなった。


「所で、どうしましょうかアギト様。完全に迷子ですよ」
「それを言うなよ。それを」


 さっきからそればっかり考えてるんだからさ。ここまで雨が強くなければ風景とかで本隊があった方向位なら何となく分かるんだけど……今の状況じゃそれは無理。
 てか何だかイヤな感じなんだよな。続けざまに敵と三回も出会した。これってまさか、敵本隊の方へ近づいてるってこと何じゃないか?
 一回だけなら、運悪く向こうの捜索隊と出会したーーって感じで済むが、三回でそれもあんな近い場所。それって捜索って感じより……まるで周辺警備? 警戒? みたいな。


「――ん?」
「どうしたんですかアギト様?」
「いや……何か雨の向こう側が動いてるような……」


 俺のその言葉でみんなが土砂降りの中目を凝らす。だけどよく分からない。常に雨が目に入ってくるのもウザいからな。


「気のせいか?」
「そうですよ。これ以上ビビらせないでください。アギト様は良くても自分達はきついですよ。あんな不利な状況の戦闘は」


 周りのみんなもうんうん頷く。別に俺だって確実に勝てるって踏んで立ち向かった訳じゃないんだけどな。その証拠に最初は逃げてた訳だし。
 だけどいい加減しつこかったんだよなこいつら。この悪い視界の中、まるで鮮明に俺達が見えてでも居るような……


(いや、見えていたとしたら?)


 その考えに至った瞬間、背筋に寒気が降ってきた。そしていきなり、ただの土砂降りだった雨が鋭い水の槍となって俺達に降り注いだ。


「「「づあああああああ!!」」」


 それはかわすなんて不可能な量。雨をかわせないのと同様で、しかも完全なる不意打ち。辺りに響く断末魔の叫び声が頭に刻まれる様だった。
 水の槍がいつの間にか、再びただの雨に変わった時、その場に立てていたのは俺だけ……俺は一番近くで倒れてるゼブラに駆け寄った。


「おい、大丈夫か!?」
「はは……流石アギト様。不意打ち何て意味ないですね」
「そんな事言ってる場合かよ」


 俺の事じゃなく、自分の事を考えろよな。膝を付いて立ち上がろうとするゼブラ。HPは半分位減ってるな。他のみんなも取り合えずやられた奴はいない様だ。
 必死に立ち上がろうとしてる。でもそれより早く立ち上がる奴らが俺達の直ぐ側にいた。それは何と、倒したはずの人とウンディーネ。奴らには降り注いでるこの光……


「蘇生魔法か……くっそ」


 こっちはダメージをおって、倒したはずの敵が蘇る。それって最悪なパターンだろ。それにこれらの事は一体どこから? 
 すると復活した敵が俺達に何もせずに前へと歩いていく。それを目で追って気づいた。


「なんてこった……やっぱり動いてたのか。でもそれがわかりづらかったのは少数じゃ無かったから。雨の向こう側の風景に成ってたから……つまりは周りを多い尽くすだけの人数」
「まさか!? アギト様それって……」


 ゼブラは俺の言いたいことを理解してくれた様だ。そして勿論、周りのみんなも。


「それだけの大人数……本隊何だろうな。俺達はどうやら敵の本隊に向かってたらしいぞ」


 笑えない冗談だ。まさに今目の前に無数の敵が居る事実から目を逸らしたい程に。だけどそうは問屋が卸さないものだよな。
 次第に雨の向こうに見えていた広い影が姿を現す。それはやっぱり想像通り、数え切れない程の敵が既に俺達を取り囲んでる状態だった。


 こっちは気付かなかったのに、向こうは気付いてた。それってやっぱり、ウンディーネにはこの雨の中でも関係無い視界が確保されてるって事なのか? 


「案外、間抜けなのだな。エルフ最強の騎士と言うのも」
「ああ? 誰が間抜けだって?」


 進み出てきたのは多分偉いんであろうウンディーネだ。ウンディーネは薄着でヒラヒラした物を靡かせてる奴が多いって聞いたが、こいつはちょっと違うな。
 なんだかウンディーネの中でも戦士って感じ? 余り肌を露出してないし。その分、堅そうな防具で体を覆ってる。女なのに残念な奴だ。
 そんな奴に俺は指さされる。


「君だよ君。君だろ? アギトってのは?」


 ちょっと小馬鹿にされてる言い方だな。すると唐突に勢いよくゼブラが声を上げた。


「そうだよ! この方こそ、アイリ様から選ばれし最初の騎士! アギト様だ!! 貴様の様なウンディーネ風情が気安く指させる方じゃないんだよ! 後呼び捨てもな!」


 何か口調変わってないかゼブラの奴? てかそこまで言わなくていいって言うか……何か否定したい位だったんだけどな。
 言われる方の身にも成ってほしい。そんなに俺って偉かったっけって自分で思う。


「ふ~ん、それは済まない。一人にでも尊敬されてるのならそれだけの人物なのだろう。まあもしも……立場を利用して、そう洗脳してるのなら傑作だがね」


 上品そうに喋る癖に言うことは何だかムカつくな。ウンディーネへの印象が一気に急降下だ。俺の中のウンディーネのイメージがこいつで固定されそうな程に。
 そして今回もやっぱりゼブラの奴がプルプル震えて再び口を開けかける。でも今回は俺がそれを止めて、前へ出た。なんせ奴のあの言葉と、あの言いぐさは少しばかり感に障る。


「はっ、なら確かめてみるか? 俺がそんな小さい事をする奴かどうかってな?」
「いいとも、面白そうだ。今度食らえば君以外はきっと助からない。見殺しにしたくないなら守ってみたまえ」


 そう言って奴は腕を空へと掲げる。すると周りに控えてるウンディーネ達も同様の格好に。奴のあの言葉の意味……そしてあの行動を・・まさか!?
 上を見ると雨じゃな鋭利な切っ先が落ちてきてるのが見えた。さっきと同じ魔法。つまりあの攻撃はこいつらが仕掛けた物って事だ。


 そして奴が言ったように、また同じだけHPが削られるとしたら、今度こそ本当に生きてるのは俺だけに成るかもしれない。そんなことさせてたまるかよ!!
 俺は大剣を握りしめて声を張る。


「うらああああああ!!」


 その声に併せて腕を斜め上に一線。その瞬間、雨の槍は何かにぶつかったように弾け飛ぶ。弾けた槍はただの雨。ダメージ何か与える事は出来ない。これでみんなは無傷。この間に少しでも回復魔法を行き渡らせないとな。
 俺は大剣をウンディーネの奴に向けて言ってやる。


「どうだ? 守りきって見せたぞ」


 するとウンディーネはクスクス何だか笑ってる。そして俺に向かって言い放った。


「守りきった? たった一度防いだだけで随分な言い草だな。ほら、油断してると危ないぞ」


 その瞬間シュッと何かが頬を掠る感触があった。視線を地面に向けるとそこには水の槍が刺さっていて、そして流れて消えていった。


「ぐあ!」「きゃあ!」


 そんな声が後方から再び聞こえる。俺はまた、大剣を宙に向かって振った。弾ける水の槍……だけどその先からまだまだ大量に槍は降り注ぐ。
 まるでこの雨の量だけ槍があるみたいに。


「――っち……くっそ!」


 弾けども弾けども現れる水の槍。剣が一本じゃ足りない。あまりの量に押され気味だ。水もこれだけ集まると相当な重さだし、それを何回も相殺するのはきつい。
 だけどまたあんな風に成るのはイヤだ。俺以外のみんなが地面に倒れ伏してるのは、いやな夢でも見てる感じだった。


「もうそろそろ限界かな? このままじゃ全員串刺しに成ってしまうよ」


 そんなウンディーネの声に闘志が何か燃え上がる。いや、やっぱりこいつの口調が俺の勘に障るんだと思う。そうだ思い出した。
 このウンディーネの丁寧なのにムカつく喋り方って、最初の頃のガイエンを彷彿とさせるのか。だからこんなにムカつくんだな。
 なら尚更こんな奴に……アイツに似てるこんなウンディーネに負けられない!!
 俺は盾の方も剣と同じように振り出す。これで手数は実質二倍だ!!


「うらああああああああああああ!!」
「なっ!? 盾まで使うとは……はは、その必死さ加減は嫌いじゃないよ」


 こんな奴に好かれたくも無いが今はそれを言える状況じゃない。降り注ぐ雨の槍は一瞬でも気を抜けば俺達全員に降り注ぐ事確実だからだ。
 でも救いはこの雨の槍が脆いって事だった。雨だけに風圧か何かで弾け飛ぶし、弾け飛んだ雨粒にぶつかっただけで形を崩す。
 でなければ流石に剣と盾、両方使ってるからと言ってさばける量じゃ絶対にないんだ。これが普通に矢とかだったから何人かは確実に串刺しに成ってるだろう。


 少しづつ確実に手応えが変わってる。少しづつ軽く成ってきてるような……押し返せてる? そう思った時、雨の槍を弾いた俺のスキルがそのまま雷雲へと飲み込まれていった。
 するとそこからイヤな光がバチバチ言ってる。そして視界を一瞬で奪う閃光が世界を白に変えた。ズガアアアン!! と直ぐ横でそんな音と衝撃が肌に伝わる。
 考えたくない……考えたくないが……この雨の中でも分かる焦げ臭い匂いってまさか? 視界が戻ると俺の数センチ横に穴が空いてた。


 まさしく雷が落ちたようなそんな穴がな。危なすぎる。もしかしたらこの雷でやられてたかも知れないと思うと、間抜け過ぎるだろ。
 でも絶対にさっきまでの雨の槍より、この一発の方が恐怖感が凄いんだ。心臓の高鳴りがハンパない。


「あっぶねえ!」
「まさか自身に向かって雷を落とすとはね。恐れ入ったよ。洗脳と言ったのは取り消そう。君には人を引きつける何かがありそうだ」


 ……実際そんな事、既にどうでも良くなってた。よく考えたらピンチなのに変わりないし。とにかく雷は超恐ろしいって事だ。
 てか人を引き付ける何か……ね。俺は実際、引き付けられる側の人間だと思ってるんだが。どっちかって言うと周りがそのタイプなんだよな。
 だから俺は自然と集まった中の一人って感じ。アイリともそうだし、リアルの友達二人ともそうだ。だからもしもその何かがあるとしたら、それは与えられたこの力何じゃないかって思うな。


「その通り! アギト様をなめるなよ! そして敬え!」
「うわ……あのちょ……やめて貰えるかそれ」


 自分が一人で己の考察をしてる時に何言ってくれてんだよこいつは。それに敵はどう考えても敬わないだろ。俺の結論はゼブラが言う敬う側何だよ。
 おまえ達と一緒。するとウンディーネ+人の混成連合である敵側から何だか笑いが漏れてる。そして例のウンディーネもこの雨の中、それを忘れる位に爽快に笑い声をあげた。


「あははははははは!! いいね、君達。この状況でそこまで言えるだなんて面白い。最高だよ」


 う~ん、これは誉められてるのか? どちらかと言うとバカにされてる気がするんだけど……どうなんだろう。雨に濡れてる鮮やかなサファイヤブルーの髪を垂らして大爆笑。
 これはやっぱりバカにされてるな。だけどこの人数で本隊とやりあう何て出来るわけがない。どうにかして退路か逃走ルートを確保しなければ、俺達はここで全滅だ。


 俺は気付かれない様に、周りに目を這わす。だけどやっぱり雨が邪魔で、表面部分しか把握できないんだよな。一番敵の少ない場所を突破したいところだけど、見える所しか見えないんだ。
 言い方がおかしいかこれじゃあ? 見えるところが極端に少なくて、前列部分しか状況が分からない。だから後ろにどれだけの敵が居るのかが把握できないんだ。


 まあ本隊だけにどの方向もびっちり埋まってるとも考えられるんだけど……それはもう最悪だ。そうなったら幾らナイト・オブ・ウォーカーでも突破出来るかは分からない。
 そもそもみすみす逃がす気なんて無いんだろうし・・さっきからあのウンディーネ、笑いながらもしっかり警戒してやがる。
 やり手の様な気がするし、隙なんて作ってるわけないか。俺はちょっとした交渉をしてみることに。


「なあ、そんな愉快な俺達に免じて帰してくれない? 沢山笑いあってこの後剣を交えるのも無粋だろ?」
「いや……私は寧ろ君に興味が出てきたよアギト様。それに、それとこれとは話が別だ」


 だろうと思った。言ってみただけさ。そしてウンディーネの奴は腰に掛けて居た何かを取って俺に向ける。


「生憎、これは戦争で国と国の威信を懸けた戦い。個人の意志で降りる事なんて叶わないだろ?」
「まあ、確かにな」


 この戦争、参加は基本自由だけどさ。参加した以上は俺たち全員、それぞれの国を背負ってる訳だ。分かりやすく言えば、参加者全員がその国の代表みたいな物。
 だからこそ俺たちは既に個じゃなく隊であって、それが勝つために必要な事だった。だから隊である以上勝手は出来ない……まあ俺には結構その勝手が許されてるけどな。


「だから敵は、倒せる時に倒しておく事が重要。それが絶対に揺るがぬ勝利の時なら、逃す手なんてない。そしてそれが敵側の切り札なら尚の事。
 退路何てありはしない。だから全力で見せてほしい物だな。最強の騎士の力と言う物を」


 その言葉の中で、俺に向けられてた奴が手に持った何か。それに水が集まって行ってた。そして出来上がったのは水の剣。どうやら、奴が持ってたのは剣の柄の部分だけみたいだ。
 何か前にアイリが見せてくれた剣と武器のユニゾンした形に似てるけど、あれは武器そのものを魔法側に変えてたから違うのか。
 奴が手にしてるのは、元からその為の武器って感じだしな。そこに水を集めて凝縮する使用に成ってる柄って事か。


 これも何ともウンディーネらしい武器だ。そしてこいつらしいと何となく思ってしまう言い分。確かにみすみす本隊にまで迷い込んだバカを逃す手はない。
 これが逆の立場なら「飛んで火にいる夏の虫だな」って俺は言うだろう。俺たちは今戦争してる、それもゲームと冠付いた戦争だ。
 容赦なんていらないだろ。そこら辺は誰もが分かってること。だけどある意味、退路なんて無いとはっきり言われたら逆に作りたく成るじゃんか。


 挑発なのは分かってる。けれどどの道、ここを切り抜けるにはそれしかない。だけどナイト・オブ・ウォーカーを使ったとしても、この戦力差はどうにも出来ないかも知れない……というか出来ない確率の方が大きいだろう。


「おまえ達、やっぱ俺何かに付いてくるかこうなるんだよ。今度ばかりはお前達を守る余裕は無さそうだ」


 俺は周りを囲む人とウンディーネを見つめながらそうぼやいた。まあ愚痴って言ってもいい。だってこいつらがいなけれ、こんな思いをしなくても良かったんだ。
 俺一人なら、全部俺だけで済んだ物なのにさ。余計な気を持つから、悪いと思う事になる。
 だけどそんな俺に対して、返ってきた言葉は明るかった。


「そんなの入りませんよアギト様。俺たちは貴方に守られる為にこの部隊を志願したんじゃありません。貴方と共に戦って、貴方の役に立ちたかったんですよ。
 だから守ってくれなくて結構です。寧ろ、俺たち全員を犠牲にしてもアギト様が逃げれる退路を造って見せます!」
「お前等……」


 全員の顔を見ると何だか満足そうに頷きやがる。そういうもんなのか? って俺は思うけど、こいつらのこの雰囲気に言葉は別にいらなそうだった。
 それに結局、俺は誰一人欠かす事何てしたくないんだし、俺を助けると思うことでこいつらがいつもよりも力を発揮できるならそれでいいだろう。だからこれだけ……


「頼むぞ!」
「「「はい!!」」」


 そして無謀な戦いに俺たちは身を投じる。これしかここを脱する方法は無くて、手段もこれだけならやるしかない。


「アルテミナスの最強の騎士の力、見せてやるよ!! 後悔しても遅いぞうらああああああ!!!」


 特大に膨れ上がった剣で挨拶代わりの一発を敵陣へと舞散らせる。その剣に弾かれて奴らが飛ぶ飛ぶ。だけどその時、俺の剣が誰かに受け止められた。
 そしてそれは言うまでも無く、あのウンディーネ。奴の水の剣が、俺の剣を串刺しにしてる。どれだけの切れ味誇ってるんだと言いたい所だ。


「後悔か……私にそれを感じさせる事が出来るのならやってみるんだな」


 そんな奴の言葉と共に、俺の剣に亀裂が入っていく。だけど


「はっ、このまま俺の剣を砕こうとか思ってるんだろうがな。この力と共に現れたその剣は、んな柔じゃないぜ!」


 その瞬間言葉とは裏腹に俺の剣は砕け散る。でも俺は既に走り出してた。奴にむかってな。そして手にはちゃんと盾と一緒に大剣もある。
 何故なら、砕けたのは剣の膨張した部分だけだから。本体であるこの大剣は無傷だ。そして一気に詰め寄って大検を今度こそ奴に振り卸す。


 だけどクルリと回って交わされた。けどまだ追撃してる盾がある。二段構えの攻撃。ここでようやく、俺の攻撃が奴の体を捕らえた。


「ぐっ!?」


 だけど奴もただでは吹き飛ばない。水で出来てるから、奴は吹き飛びながら、その刀身だけを俺めがけて分離しやがった。そしてそんな刀身は勢い良く俺に向かって肩口を僅かに掠っていった。


「ふふふ、流石だ。最強の騎士を名乗るだけの事はある」
「そっちも、俺を挑発するだけの実力は持ってそうだな」


 俺達は再びぶつかり合う。奴の空っぽだった筈の柄には再び水の刀身が出来ていた。やっかいだな。それに俺は決してこいつだけを相手してればいいだけじゃない。
 周りから次々迫ってくる奴らだって無視は出来ないんだ。数の圧倒的差は、そう時間が掛からずに如実に戦闘に現れて来る。
 それは幾ら攻撃を当てても倒せる敵が居なかったり、それどころか少しづつ反撃の芽さえ無くなっていく。元々針の穴を通すように凌いでた戦闘。
 だけど今や、その僅かな穴さえも無数の人とウンディーネに寄って埋まろうとしてる。


「ちっくしょおおおおお!!」


 ズガアアアンと雨と地面を吹き飛ばす程の攻撃で何とかその穴を死守できてるのが今や俺だけ。ゼブラ達は防戦一方だ。
 けれどこんな終わりの無い戦いに俺も限界を感じてた。今やあのウンディーネ所じゃない。


「力が! もっと力があれば!!」


 そう声にだした所で何かが変わる訳じゃない。その時、周りで魔法の光が見えた。するとゼブラ達が水の膜に包まれて敵側に奪われていく。そして俺にもその膜は張られた。


「何するんだてめえら! くっそ……こんなも! がっはっ!?」


 いきなり肺が圧迫されるような変な感じ。空気が漏れて、それにこの中じゃ息も出来ない。つまりは俺達は囚われたって事。そんな中、人混みの中から一人の人間が現れた。そしてそいつはこう言うんだ。


「今から言うことを天秤に掛けてみろ。部下を助ける為に仲間を襲うか、部下を見捨てて自身も死ぬか、好きな方を選ばせてやる。
 いっとくがな、水圧の変化は人体にはきついらしいぞ」


 それはここでも拷問が出来るとでも言いたいのか? それなら捕らえる価値はあるのか。止まない雨の中、俺に突きつけられた選択はどちらも最悪だ。

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