命改変プログラム

ファーストなサイコロ

雨と雷と俺達と



 数本の雷が続けざまにクリスタルへと落ちた。するとその一角の雨が、雷によって弾かれた様に円の形に不思議な空間を作り上げていた。
 そして雷を受けたクリスタルは淡く輝き、そんな光が現れた人影を照らしてる。雨の中浮かび上がったその影は、数人なんてもんじゃない……数十人はいそうな雰囲気だ。
 ぞろぞろぞろぞろと出てくる奴らは、どう感じても援軍とかじゃない様だ。


「何なんだよこれは? どういう事だ! てか、本隊はどこだよ!?」
「あはははは! めでたいなアギト。本当にいつからそんな口の効き方するようになったんだ? いや、考えれば前からお前はそんなんだったな。
 初めてアジトに来たときから、お前は物怖じせずに生意気だった」


 初めてアジトにって……何言ってるんだこいつら? てか現れたのはエルフじゃんか。てことはこいつらも侵略参加者。
 でも明らかに目的は俺達とは違いそうだな。それにここまで俺達を引っ張ってきた捜索隊だと言ったアイツ……完全に口調変わってるし。
 そしてそんな捜索隊の言葉に周りの奴らも「そうだったな」とか言いながら笑ってる。何だか不愉快。


「つまりお前達は俺に用があるんだよな? 何のつもりかは知らないけど、今は侵略中なんだよ。お前達もエルフなら、この戦いの方へ集中してろ」
「ははは、俺達はちゃんと集中してるよ。それに何のつもりか知らないとは良く言えた物だ。まさかまだ分かってないのか?
 初めての騎士がそれじゃあ、やはり我らの恥だな。教えといてやるよアギト。エルフだってな、全員が貴様等を支持してる訳じゃない。
 それに会ったんだろ? グラウド様に。そこから気付よ」
「――っつ!? お前等……」


 俺は前の奴らを見据える。だけど幾ら雨足が強いからって、知ってる顔は一人もいない。だからこそ気付けなかったってのもあるが……こいつらの言うことを真っ向から受け取るのなら、答えは見えてくる。
 最初に言ったアジトやこいつらの言動……そして最大のキーワードはグラウド。それらが結びつける物は一つしかない。
 確かに全員が俺達を支持してるなんて思っちゃいない。だけどこんな行動を取る奴らなんて『レイアード』しかいないじゃないか。
 グラウドは昨日、俺の前に現れた。だけどその姿は俺の見知った姿じゃ無かったんだ。アレはサブ……だとしたらこいつらも全員、その原理か。


「サブキャラまで使って、今更何の様なんだよレイアード! お前達の役目はとっくに終わってるぞ」
「レ、レイアード!? それってアギト様達がリーダーを潰して、そのままなし崩し的に消えていった危ない奴らじゃないですか!
 でも何でここに……はっ!! まさか復讐か!?」


 ゼブラの言ったことはあながち間違いでもない雰囲気。復讐・・それは自分でも考えてた事だ。まあ俺達が潰したのはあくまでグラウド一人であって、レイアードまで潰した覚えは無いけどな。
 こいつらはいつの間にか居なくなってただけだ。この激しい雨の中・・復讐って言葉は余計に重く感じるな。


「ふん、ようやく察したか。それに後ろの奴の感もなかなかだ。そうだな俺達は復讐したいんだよ。そして手にしたいんだ。この国を!」
「まだそんなこと……」


 俺は自身の力で出した剣を握りしめる。だってそうだろ? 何で今更そんな事やる必要があるんだ? 大多数のエルフは今で纏まってるんだ。
 そこにアイリが居るから出来てる事だと思う。そしてこいつらが願ってた強い国にも成りつつある。少なくとも、グラウドの野郎が無理矢理引っ張ってた時よりも、数段この国は強くなった。
 それが分からないこいつらじゃ無いだろう。なのにまだやる気なのかよ。全然ちっともかわってないな。


「何でそんな事やるんだよ? この国は強くなった。それはお前達が望んだことだろ!? 本当はただ俺達が気に食わないだけ何じゃないのか?
 別にそれでもいいけどな……それならもっと別の場所で直接こいよ! そしたらちゃんと相手してやるよ」
「はっ、強いだと? この国が? 脆弱だ……どんどん温く成って行ってるのが我らには分かる。グラウド様も嘆いてた。
 だから再び立ったんだよ。それにな、復讐は復讐でも、俺達はそんな生ぬるい事をやる気はない。お前にきっちり、どん底を味あわせてやるよ!」


 すると俺達を取り囲む様にレイアード連中は動く。だけど実際、俺達は今の段階では設定上味方だ。侵略中にそのエリアに居る同種族同士は全員そうなる。
 なら俺達に奴らの攻撃が通る訳なんて無い。何やる気だこいつら?


「どん底? どうやってだよ。それに今更、お前達レイアードが何やったって入る隙間何て無いんだよ。それよりも一緒にアルテミナスを取り戻そうぜ。
 その方がアイリも喜ぶ。アンタ等だって肩身の狭い暮らしは嫌だろ? 俺達だって、実を言うと気にして無かった訳じゃないし……どうだよ? 
 過去の事はお互いに水にながしてさ」
「ふざけるな! そんなだから、エルフの誇りが汚されるんだ! こんなグラウド様から横取りした力で作られた場所になど入る気はないな!
 それにな、我らはその隙間を作りにきたんだ。人なんて、簡単に疑念も不満も募らせる生き物だ。我らはそこにつけ込んでひっくり返してやるよ」


 向こうが剣を抜いていてこちらが抜かない訳には行かない。俺達は円形に成ってそれぞれ武器を構えてレイアードと対峙する。
 幾らダメージに成らないからって黙っていたぶられる気は無いからな。


「んな事、出来ると思うなよ。てかどうしようってんだ? たったそれだけの人数でさ。それにサブじゃどうしたって役不足だろ? アイリどころか、俺にもその剣は届ねえよ」
「ふん……確かにな。今のお前を倒すなんて、骨が折れる様な事だ。めんどくさい事この上ない。だからこうやって取り囲んでるんだよ。
 分からないか? 言っただろ、人は簡単に疑念も不満も持つってな。それを生み出すんだよ。まず手始めにこの侵略戦、負けて貰う」
「は!?」


 レイアードの唐突な言葉に思わず間抜けな声を出してしまう。負けて貰うってそれがどういう事か分かってるのかこいつ? てか分かって無いはずないか。
 むしろこいつらが言う疑念や不満ってそういう事だろう。


「だから負けて貰うんだよ。簡単だろ? そして俺達はこの国の弱さを示してやる。すると必ず、俺達の言葉に共感する者も現れる。俺達はやがて再び、強大なうねりに成り得る。
 国を飲み込む程のな。そしたら引き吊り下ろしてやる。お前達全員な!」


 なるほど……それがこいつらの計画か・・だけどそれってかなりの長丁場な事じゃないか? 俺的に考えるとグラウドの野郎がそんなまどろっこしい事をやるとは考えにくい。
 俺はだから確かめる。


「そして俺達から地位も名誉も取り上げようって寸法か。だけど何だか随分まどろっこしいくないか? 過激なレイアードのやり方はどこにいったんだ?」
「ふん、我らだって敵はちゃんと見極める。国となった貴様等が相手だからな。だがいつまでもそこにいれるとは思わないことだ。
 努々、首を洗って待っていろ!!」


 こいつらにも相手の強さを計る事ぐらいは出来たようだ。さっきから取り囲んだだけで、距離を詰めようともしないのは足止め目的だからか。
 こいつらの狙いは俺という戦力の無力化。確かにそれによってエルフ側はそれなりに戦力ダウンする事になると思う。
 それに今のこの状況……一人でも戦力が欠けるのが痛いくらいだ。だけどもう十分か。こいつらの目的もわかった事だし、これ以上ここで足止め食ってる訳にも行かない。
 だから俺は一歩前に出て大剣を横に凪いだ。


「はっ……どこにもいかせんわ! 貴様等はここで仲間の悲鳴でも耳を澄ませて聞いていろ!!」


 そんなレイアードの言葉に耳を澄ませてみると……聞こえる。雨がうるさいが、確かにいくつかの叫びが聞こえてくる。
 それはそうだ。だって戦いはとうに始まってるんだからな。俺はこんな所で一応の仲間内で揉めてる場合じゃない。
 だから防がれた大剣に更に力を込めて降り抜いた。


「ぐあああああああ!!」
「邪魔なんだよ。やる気がないんなら、お前達の方こそ大人しくしてろよな。俺は必ず、この戦いに勝ってみせる。
 あんな事聞いたら尚更な。それでも上手く行くとは思えねーけど……万が一だって、俺はアイリの為に傷害は全部潰してやる!!」


 吹き飛ばされたレイアードはクリスタルにぶつかってそのまま地面にズルズルと落ちていく。ダメージには成らないが、衝撃は伝わる。なら、邪魔な障害物は吹き飛ばせばいいだけじゃん。
 だがその時、地面に吸いきれない水を蹴って向かう足音が聞こえてた。


「初めての騎士だか知らんが、調子にのるなよ!!」


 そして再び、迫る剣。だけど俺は微動打にせずに一気に振り向きざまに大剣を振りかぶる。威力もスピードもこちらが上だったようで、レイアードがまた一人飛んでいく。
 その光景を見た残りのレイアード共は流石に萎縮気味。するとゼブラが後ろから声を掛けてきた。


「アギト様。こいつら全員相手にしてても無駄ですよ。どうせ倒せないんだし。それよりも早く本隊と合流しましょう。
 この事をガイエン様に知らせないとですし、一番不味いのはこの状況で本当の敵に出くわす事です」
「ああ、まあそうだな……だけど本隊の位置が分からないから困ってる訳で……」


 そう呟きながら俺は周りのレイアード共に視線を向ける。すると良いこと思いついた。


「なあお前等。本隊の位置、知ってるだろ? 別に隠したければ隠して良いけどな……どうせ死なないんだ。何回だって痛い目にあわせてやるよ!」


 そう言って俺は手直にいた二人を続けざまに地面に叩きつけた。まさに圧倒的だな。こいつらも加護は受けてる筈なのに、ナイト・オブ・ウォーカーは格が違う。


「どうしんだよ。さっきまでの勢いは!? そんな腕で俺を止めようとか、腹が痛いくらいに間抜けだなお前等」


 次々とレイアードをねじ伏せていく。数十人居たレイアードは余すことなく地を這いずる姿に変貌だ。何だか良く似合ってるじゃないか。
 俺は更に追撃しようと大剣を振りあげる。するとその時声が上がった。


「お前……随分楽しそうにしてるな。そんな奴だったんだな」


 そんな言葉に俺はピクッと反応する。どんな奴だって?


「力は楽しいだろ? なあアギト」
「言ってろ!!」


 俺は思わず大剣を振りあげてソイツを飛ばした。だってどいつもこいつも人の顔を見る度に同じ様な事言いやがって……不愉快なんだよ!


「ぐあっ……がっは! ……はぁはぁ」


 地面を転がって行ったソイツの所に歩み寄って俺は見下す。泥と土で汚れた姿が良くお似合いだ。


「いい加減聞き飽きた台詞だな。楽しい? ……ああ、そうだな。この力でアイリと共に行けるのなら、これ以上楽しい物はねぇよ!!」
「「アギト様!」」


 今までの否定じゃなく、違う解釈での肯定をした。そんな俺の言葉の後に続いたのはゼブラ達だ。何だかおもいっきりテンション上がってる様に見える様な。


「流石アイリ様への愛を感じました! 俺達もあの方とこの国を支えれる一つに成れる様に精進します!」
「は……はあ!?」


 何? 何言っちゃってんだこいつ!? 愛ってそんな物……込めてないとは言わないけどな、口にする事じゃないだろ。しかも恥ずかし気もなくなんて。
 こいつら俺の言うことなら何でも肯定しそうである意味怖いぞ。


「ははっはは! 貴様等が支えるべき国なんてひ弱過ぎて我らは願い下げだな! だからそんなひ弱な国はあの方が変えてくれる。
 もっと強固でもっと強靱な国へとな! それこそがエルフの国の在るべき姿だとおもわないか?」


 俺に吹っ飛ばされたソイツが地面にへばりつきながらそんな事を言う。あの方ってグラウドの事だよな? って待てよ……グラウドはどうしてここにいない? 何やってんだ?


「別に俺達はそんな事思わない。あんた達レイアードの身勝手な考えなんてごく少数! それを真実みたいに押し売りするのはやめて欲しいな。
 俺達は今のアルテミナスが好きなんだ!」


 うんうん、ゼブラの言葉に続いて頷くみんな。なかなか良いこと言ってくれるじゃないか。自分が必死に言い聞かせてた何度何百の言葉よりも、誰かから言われるそんな言葉はなんか違う。
 思いたいが、思ってくれてるに変わったって事が、そうスゴくうれしい事なんだ。重みが違うというか、支えが違う。
 信じようと思うことを自分だけで信じるのは難しい。だけどそれが報われる様な事を聞くと自信になるな。


「だ、そうだ。こいつらも今のアルテミナスで良いってよ。そして多分、今こうして協力してくれてる人達はきっと同じだぜ」


 俺は良いことを言ってくれたゼブラの後から、更に言葉を続ける。それは自信の現れか……元々侵略に困らない人数が毎回毎回、直ぐに集まる事自体がスゴいこと。
 それが示してるじゃんか。アイリがやってきた事は間違いなんかじゃなかったって。


 だけどどうやら、それでも奴らは変わらないらしい。まあ他人の考えや価値観が直ぐに変わるわけもないんだろうけど……というか、こいつらはそれを分かった上で、こんな事をやろうとしてるのか。
 頑固なのか、ただ諦め悪いだけか……こいつらのやろうとしてることは強引な押し売りと変わらない。そんなの誰が望んでる? 誰も望んでなんか無いんだ。


「それがどうした? ぬるま湯につかり続けてるから脆弱な考えに誰もが捕らわれてるんだ。今は誰もが毒気に当てられてるような物なんだよ。
 あのアイリとか言う女の毒気にな。だから我らが覚ましてやる。あの方が必ずや、在るべきエルフの姿を貴様等全員に思い出させる事をしてくれる!
 あの方ならそれが出来るんだ! そして知るが良い……我らエルフの本当の姿をな!」


 倒れたまま笑う声が一つ二つと増えていってる。どうやら、俺がぶっ飛ばした奴らがこぞって笑いだした様だ。激しい雨の音にも負けない笑いの合唱……それは何だか唾を飲み込むほど不気味な状況だった。
 それにやっぱりグラウドも動いてるらしい。だけどここにはいない……その意味が気になる所だ。


「うわわ、アギト様……何ですかねこれは? ちょっと不気味って言うかこいつら恐い位ですよ」


 ゼブラのそんな弱気な発言も最もだな。こいつらの思いは、いつだって引くくらいに強いんだ。だから弾き者にされる。
 でもその溢れる思いをぶつけるのと共有するのとじゃ全くの別物に変わると思う。こいつらはいつだってぶつけるだけ。
 自分達の事を絶対的に正しいと思ってるから質が更に悪い。自分らしさと自己中を一緒くたにしてるんだ。ただぶつけるだけの思いは痛いだけ。


 それを知って、周りにも目を向けろ。まあ無理だろうけど。信じる者を間違えるとさ、人はそれ以外を目に入れないし、聞く耳何て持たない。
 絶対何て事が確立された一人の存在がこいつらの中では一番何だ。さすが狂信者。でも諦めて貰うしかこれは出来ない事。


 だって今のアルテミナスは、アイリの自由と覚悟で建てたんだ。それをみすみす壊させる訳には行かない。アイリは自分の溢れる思いをこの国のみんなと共有して出来なかった事をやったんだ。
 それでこそ良いと俺は思う。


「毒気何て……誰もが笑えるそんな毒気なら、払う何てしなくていいな。それにグラウドの野郎が何だって? 何をアイツはしてる?」


 俺のそんな言葉を……だけど奴らは笑って答えようとはしない。まさにおかしく成った状態だな。いつもどこかおかしい連中だったけど、こうなると危ない連中だと再認識させられる。
 よくこんな奴らと同じ場所に一時居れたよ。今考えると信じられない。こいつらは笑いで誤魔化して、グラウドの事は言いたくないって事らしい。


 それはやっぱりアイツが何かをやってるって事だろう。気になる……だがこいつらはこれ以上口を割りそうもない。
 雨に溺れながら、狂った様に笑いまくりやがってるからな。


「くそ!」


 俺は悪態をついて左右と前後ろ、全部に目を向ける。だけどやっぱり本隊が見える訳でもない。結局、同じ仲間って事に一応されてるからこれ以上の事は出来ないし……本当に言いたくない事は言わせられないか。
 だけどその時、急に奴らの笑い声が止んで、地面を激しく打ちつける雨の音で世界が満たされていく。急にどういう事だ? 一体どうした? そんな風に思ってると前で転がってる奴がボソリと言った。


「足音が……はは……足音が聞こえるぞ」
「足音?」


 それってつまり誰かがあるいは誰か達がこっちに向かって来てるって事か。問題なのはそれが敵か味方かって事。でもこいつらのこの表情。余裕を見せるような笑い。


(味方じゃない?)


 そんな風に感じれる。だって味方だと、こいつらには都合が悪い筈だからな。それにこいつらがここに俺を誘導してきた訳……それはこっちには味方がいないからじゃないか?
 だからこそ、来るのは敵しかいない筈との余裕。


「確かに聞こえるような……アギト様どうしますか?」


 ゼブラは一抹の期待を考えてるからこそ迷ってるんだろう。だけど俺は確信してる。今来てるのは敵だと。


「どうするも、こいつらのこの余裕……来てるのは敵だ!
 取りあえずこの場から離れるぞ!」
「「はい!」」


 無駄な戦闘は今の状況だと避けたい。俺達は反転して雨の中を駆けだした。レイアード共を放って置くのはどうかと思うが、こうなったら奴らより先に本隊に合流するまで。
 それか敵に倒される事を望むな。それなら足止めとして使えるし、何より気分がいい。まあ最高なのは俺自身で冥途に送ってやることだがな。






 しばらく進むと、後方から激しい爆発音と閃光が伝わってきた。それはレイアード共と戦闘をしてるって事だろうか? まあ位置的にもそう考えるな。
 実は少しだけ、レイアードは敵側と通じてるんじゃ無いかと思ったが、奴らは他の種族を毛嫌いしてるからな。それはしないだろう。だって奴らは誇りとかを大事にしてる。
 でもこれでまた同じ状況に立ち返った訳だ。すると前から雨を割って何かが出てきた。それは――


「う……ウンディーネ!? 敵か!」


 ――ウンディーネに率いられた二個小隊だ。そして間髪入れずに襲ってくるのは奴らお得意の水系のスキル。俺は盾でそれらを防いで、勢い良く大剣を振りかぶって地面を抉る。
 スキルも同時に纏わせていたから、一瞬で蒸発した水が周りを白に染めていく。


「ちっ……今は引くぞ!」


 流石にバックアップも無い今の状況で二個小隊相手に立ち回るのは厳しい。俺一人ならまだしも、ゼブラ達の誰かが犠牲になるかも知れない。
 俺は水蒸気の中方向転換して走り続ける。どこに向かってるのかも分からずに。だけど直ぐに別の敵小隊にぶつかった。だけどそれも交わして……と思ったらまた別の敵小隊と遭遇する羽目に。
 これはどう言うことだ? 幾ら何でもこんな狭い範囲で次々に敵に会うなんてまるで敵の本隊が近いみたいじゃなか。
 そしてついにはヤケクソ気味でこう言った。


「鬱陶しい、やるぞ! 俺が出来るだけ引きつけるからお前達は一体一体確実に行け!!」


 俺達は逃げるのをやめて向かってくる敵に立ち向かう。
 勝算が会った訳じゃ無い。だけどやれると思った。そして何とか俺達は勝った……けれど、絶望の中に俺達は既に入ってた。

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