命改変プログラム

ファーストなサイコロ

手にした力



「カーテナ……その……光を……力を……寄こせぇぇ!!」


 風前の灯火のグラウドが、アイリが放つその光に触発されたように動き出した。奴の槍は歯車が欠けた時計の様にガクガクで、もう上手く動いて何か無い。
 だけどそれでもグラウドは求める。あの力を。無理に回転させようとする余りに響く音は明らかに不協和音でしか無く、スキルを纏わせる事も出来なく成ってる。
 だがグラウドは迫る。その顔を羅刹の様にして。それはもう執念とかの域を越えてる表情だ。何がこいつにここまでさせる。どうしてここまで力を求める? 


 ゲームだからって、いろんな所で折り合いをつける人が多い中、こいつはこのLROに何を賭けてるんだよ。まあある意味、ここまで入れ込んでると天晴れだけどな。
 けれどカーテナを渡すわけには行かない。俺もガイエンも動こうとする。人外に落ちそうな位の表情を浮かべて迫るグラウドは怖すぎて、アイリは思わずカーテナを振ってこう叫んだ。


「こ……来ないで!!」
「ごっは!?」


 俺達は握っていた武器を落としそうに成った。だってそれはまさに一瞬の出来事。てか何が起きたのか理解できない。
 さっきまでこっちに向かって勢い込んで走り込んで来てた筈のグラウドが目の前から消えた。無様な悲鳴の様な叫びだけを残して。そして同時に凄い衝撃音と衝撃波も伝わって来て、何が何だかさっぱりだ。


 アイリも目を丸くしている。拡散していく煙から見えてきたのは、クレーターの様に抉れた床と、その中心で色褪せたグラウドの姿。あれは戦闘不能状態。
 つまりはHP0って事だ。そしてただでさえ限界だった奴の武器は、みるも無惨にペシャンコだ。火花が悲しく散って、それが最後の火の様だった。


「え? え? 何が……え?」


 アイリは混乱してあたふたしてる。そして視線が俺とガイエンに交互に注がれるが、生憎答えを俺達も持ち合わせちゃいない。
 何が起きたのか、こっちが聞きたい位だ。だって俺達もまだ何もしてないんだぜ。それなのにグラウドは攻撃を確かに受けて倒されてる。


 でも一体誰に? アイリが俺達を見るのも無理はない。今ここには俺達三人しかいないんだからな。だけど俺も、ましてやガイエンも何も出来て何か無かったと確実に言える。
 だってガイエンもアイリを挟んだ向こう側で驚愕の顔してた。こいつが目を丸くしてる所なんか貴重だったから、残したくない記憶に残ってた。
 そしてそんなガイエンが一つの可能性を提示する。


「もしかして、今のがカーテナの力……何じゃないか?」
「え?」
「は?」


 俺とアイリはガイエンの言葉で同時にその光剣に目を向ける。するとさっきまで光輝くシルエットだったその剣は次第にその姿を現してきた。
 だけどやっぱりちっちゃいな。綺麗な装飾がされていなければただの玩具にしか見えないかも知れない。だからだろうか? 何だかこれがカーテナとは受け入れ難い。


「本当にこれがカーテナのかよ? 何というか……陳腐過ぎじゃないか?」
「それなら確かめれば良いだけの事だ。アイリ」
「う……うん」


 まあガイエンの言うことはもっともだった。だからアイリも素直に自身が掴むそのカーテナと思われる武器に手を伸ばす。
 そしてチョンと触れると横に画面が表示される。武器の名称やパラメーターとかが出てくるように成っている……筈、なんだがそこに表示される画面は真っ暗だった。


「あれ? どう言うことなんだろ?」


 そうアイリが呟くのは無理もない。俺が今まで見てきた中でもこんな事は一度だって無かったからな。もの凄く特別な物だからって事なのか? それともただのバグ?
 でもLROは超が三つ程付くほど高性能だ。今まで処理待ち何かあった事がない。つまりはバグでこうなってるだ何て、余り考えられないな。


 するとその時、その黒い画面に青い線が中央に入って、そのまま上へと画面から飛び出てきた。そして驚く俺達を無視して、システムは淡々と作業をこなしていく。
 青い線は次第に多く成り、形作りは人の形。そして現れたのは等身大の女性のエルフ……って言うかこの人何だか見たことがある気がするな。
 つい最近、ついそこら辺でさ。


「この方は……アルテミナスの初代女王。なるほど、ここら辺はイベントか」


 まさにガイエンが言ったとおり、ホログラムされて現れたのはあの彫像と、絵にあった女王様だ。そして確かにこれは強制インベントっぽい。
 この武器を手にした奴にだけ起こる限定のイベント。それなら超貴重な体験を俺達は目撃してる事になるな。現れた王女様はやっぱり綺麗な人だ。


 それも戦乙女って感じ。まあそれでも服装はロングスカートとか何だが、鎧とマッチするように作ら
れてるんだろうそれは、やっぱりあの絵の中心で力強く剣を掲げてた人だと分かる。
 ヴァルキリーっていう言葉が似合いそうな人だ。
 そして完全に浮かび上がると、彼女はそっとその瞳を開いた。長いまつげの中から現れた瞳はまっすぐにアイリを見つめてる。


「えっと……あの……」


 たじろぎながらも声を掛けようと試みるアイリ。会話が出来るのだろうか? 実際ここまで出したのなら出来そうな気もするが、こういう歴史と繋がりがあるイベントやミッション系ってその場で物語を体験する……みたいな感じだから、NPCが勝手に話すのを聞いてるだけなんだよな。
 だからこの彼女はどうなんだろう? そう思っていると王女様はその色づいた唇を優しく開く。


【カーテナの出現は想いの証。私の次は貴女ね。頑張りなさい】
「え? ええ? あの……」


 何だかいまいち応答してくれたか分からない王女様にアイリは再度アタックだ。すると今度は優しく微笑んで「うん?」と問い返してくれた。
 どうやらちゃんと会話が出来る様だ。


「これはカーテナ何ですよね? でも……何で私に?」
【言ったでしょ? それは想いよ。アルテミナスの事、エルフの民の事、それらを一番大切に思える心がカーテナを生むの。
 エルフであれば誰しもが心にカーテナを持ってるわ。けれどそれを形にするにはアルテミナスに認められなきゃ駄目なのよ。
 試しの迷宮で試す試練はそんな想い。そしてアルテミナスに認められた私たち王家の者は、カーテナの器を贈らる。
 カーテナという心を形に移して、アルテミナスの力を振るえるのが私達王家の者よ。まあ最初に私がそうであっただけで、以後は一度もカーテナは出なかったんだけどね】


 そう言って王女様はクルクルと回ってニコッと笑う。何だか無邪気な人だ。体を実感してる様に無駄に動いてる。
 まあ確かにアルテミナスの史実にもカーテナの事はこの人の時代にしか記されてない事だからな。アイリはLROという世界の中で凄いことをやったことになる。
 カーテナを手にする可能性はみんなにあった・・だけどそれを手にしたのがアイリってのは何だか、運命の様な必然の様な感じだ。
 俺は知ってるからな。アイリが誰よりもこの国を……そして俺達を思ってくれてたこと。この周りを照らす光はやっぱりアイリへ向けられた、アルテミナスの心みたいなものなのか知れない。


 そして胸を貫いた光はアイリの想いを器に移してたって事? だからアイリから出てきた様に見えたのか。けどあのカーテナがアイリの心から出来てるのなら、それもあながち間違いじゃないな。


「じゃあ責任重大何ですね」
【そうね。潰れちゃう位、重い物がのし掛かるかもしれないわ】


 俺がこの凄さを端からポケーと見てるとアイリは少し強ばった声でそう言って、そして王女様も少し瞳を伏せてそう言った。
 けれど直ぐに王女様は顔を上げてアイリに近寄る。その顔に微笑みを乗せて、高貴な雰囲気で包み込む。


【でも大丈夫。恐れないで、その力を。そして正しく使いなさい。この国を照らす輝きは、今この瞬間から貴女に成ったのだから】
「え?」


 キョトンとした顔をして王女様を見つめるアイリ。俺達もよくわからなかったな。比喩表現か? カーテナを持ったアイリがこの国を導くであろうから、それを例えたとか。
 でもそんな抽象的な事じゃなくて、王女様が言ったのはどうやらそのままの意味だったらしい。俺達の後ろで輝くクリスタルを指さしてそう言った。


【この国が息吹きを繰り返してる。この輝きは今やアルテミナス中に届いてるわ。光明の塔はね、カーテナを持つ者と通じあってるの。
 だから貴女の光が失われない限り、光明の塔はこの国にその輝きを見せ続けてくれるわ】
「光明の塔って……黒かったですよ」
【もう光ってるでしょ?】


 そう言われて俺達はようやく気付いた。まさかこの彫像が彫られてた巨大なクリスタル……これ自体がアルテミナスにそびえ立ってた光明の塔その物か!! 
 確かにこれだけデカいのと成るとそれ以外ないと今ならわかる。天井を突き破ってるのも、地上部分が光明の塔と呼ばれてる部分って訳だ。


 でもまさか……だろ? 塔とか言いながらあれがクリスタルって事は知ってたが、あんな景観を損ねるだけの物、誰も注目なんてしてなかったから気付かなかった。
 それに最初から微妙に光ってたしな。ちゃんと役割があったんだな光明の塔ってさ。
 でも話を聞いてる限り、かなり強力に光ってそうだな。アルテミナス中を照らすってさ。外の人達は一体何が起こってるのか分からないだろう。


「あ……あの! 私は何をすれば良いんですか?」


 アイリのそんな質問に、ホログラムの筈の王女様はギュッと抱き締めた。そして耳元で囁く。


【それはもう貴女は知ってるでしょう? ううん、決めてるでしょう。それをやり遂げなさい。自分を信じて、付いて来てくれる者を信じなさい。
 それで、きっといいのよ】


 それを聞いてアイリは俺とガイエン、双方に目を向ける。その瞳が少し潤んでる様にも見えたけど……どうだろうな。
 アイリは王女様に向き直ると、「はい」と優しく告げた。するととの返事に満足したのか、王女様は淡い光に拡散して消えていくんだ。
 そしてその時にもう一言。それが王女様の役目だったのか、謎に包まれてるカーテナの機能の一つの開示を示す。


【ああそうだ。今の貴女には騎士を選び力を与える事が出きるわ。だからまずは選んでみてはどうかしら? 貴女が信じ、頼れる貴女だけの騎士を。
 その騎士はきっと特別よ】
「え?」


 王女様の腕が僅かにアイリの髪を引いて、最後に消えていった。その瞬間持ち上がってた髪が空気をかき分ける様にゆっくりと落ちていく。
 だけど光の粒子に成った王女様はなんだかまだそこに居る感じ。アイリの上に集まってるからかな、その光が。けれどその光は直ぐに一つの場所に向かって行く。
 優しい風を吹かせて王女様の光が向かったのは輝くクリスタル。そしてその中に入ると一際強い光を放つ。それは何だか「さよなら」と言われてる様な気がしたのは俺だけか。


 そしてそのまま王女様は光を放ち、中心へと進み一気に上へ昇っていった。天国までの片道切符はロケット噴射並の速さみたいだ。
 あれなら月のない夜空までひとっ飛びでいけそうだ。このクリスタルが光明の塔なら……あの人はきっと、愛したこの国に見送られて逝ける筈だ。
 そして沢山の同胞にも見送られてな。






 LROは不思議だ。さっきの王女様はプレイヤーじゃない。ただのプログラム。言わばNPCの筈なのに、少しだけ知ってる昔の事(これも作り物だけど)が、彼女の事を感慨深くさせるんだ。
 それにやっぱり目の前で見れて、感じれるのが大きい。『生きてたんだ』そう思える。彼女はそれを疑って何かいなくて、彼女にとっては本当にこれが最後の時だったんだ。それを思うとどうしても、いくらゲームでもやっぱり何かがこみ上げてくる。


 ここには画面と静態してた時には伝わらない物で溢れてる。日差しの暑さや風の運ぶ緑の匂い。雨の奏でるメロディーに、水の冷たさ。
 そして耳から伝わる言葉の重みや、目の前に現れる敵のプレッシャーなんか……それらは家の中でコントローラーを握ってピコピコやってる時には決して感じ得ない『リアル』何だ。
 仮想であるLROでリアルってのも変な気がするが、そうなんだよな。俺達もここに居る間は、ここで生きてる気がする。
 それだけLROは“世界”を造ってるんだ。


「よし、これでここでの用は終わったな。取り合えず外に出るぞ」
「ガイエン……お前な」


 何だか一気にこの空気をぶち壊してくれたな。どうやらこいつは、あの王女様の最後に何も感じて無かったようだ。まあ、こいつはそう言う奴なんだけど。
 ゲームはゲームとしか見てないからな。


「なんだアギト? 私にお前達と同じように感慨へ浸れとでも言う気か? それは無理な相談だな。逆に分からんよ。
 あれは魂も何もNPC。それに引きずられるお前達がな。お人好しが過ぎる。アイリはそれが当然だが、お前も相当だアギト」
「う……別にそんな訳じゃ……それに今更お前に、んな事求めるなんて事しねーよ。ただ興が削がれるから、少しぐらい言い方考えろ。
 俺は良いけど、アイリは直ぐに何とでも通じるんだよ。そんな事分かってるだろ」


 そう言ってアイリの方を見ると、アイリはまだ光が昇ったクリスタルを見てた。そんな様子をガイエンも見て肩を竦める。
 ガイエンの奴は何かとアイリには甘く成ってるから、少し言い直す気でも出てきたのかも知れないな。だけどそう思った矢先に、アイリが先に口を開いた。


「いいんですよガイエン。私なら気にしてないですから。そうですね……行きましょう。約束したから、信じる事をやるって――」


 そう言って振り返ったアイリは笑ってた。そして俺達に近づいて来て真っ直ぐにカーテナを握ったままの拳を突き出した。


「――ねっ☆」


 その瞬間だ。シャンと空気を切ったカーテナが猛威を振るったのは。


「ぶがああああ!?」
「ぼべえええええ!?」


 それは驚愕するしかない衝撃だった。まるで見えない巨大なハンマーで打っ叩かれた様な……大型トラックとかと衝突したら、きっとこんな感じ何だろうって思う程の衝撃が真っ正面から俺とガイエンにぶつかったんだ。
 そして俺達が進んできた直線のかなり先の方まで飛ばされた。地面に付いてからもギャグみたいに滑りまくった。


「っつうぅぅ……何だ今の?」
「ぐ……どう考えたってカーテナの攻撃だろう」
「そんなの分かってるよ! 何で粋なりそんな物騒なもんを食らわせられるのかって聞いてんだ」
「貴様の面がムカついたんじゃないか? たく、とんだとばっちりだな。地面に頭を擦り付けて謝れアギト」
「あっ? バカ言ってんなよテメー。お前の言動に実はムカついてたんだよ。こっちが被害者だ! 別に頭を下げろとかは言わないから、俺の穴で踏んだこの石でも美味しそうに食ってみろ」


 俺達の間に一瞬で険悪なムードが漂う。もしもパーティーに成ってなかったら一撃でやられてたかも知れない攻撃だったな。
 だけど俺達がにらみ合うは横に居る被害者同士。どうしてもアイリの方へ詰め寄らないのは俺達らしいが、これは何か引っ込みが付かなく成りそうな感じだ。
 てかあんな痛いところに、あんな事をこのガイエンが言いやがるのがそもそもの原因。やっぱムカつくとまた再々再確認したな。こいつとは拳以外で語れそうもない。


 ガイエンは俺が差し出した瓦礫をたたき落とすと、ゆっくりと自身の武器に手を伸ばし始める。だから俺も自然と槍へと手が伸びる。
「この私に石を食えだと? しかも貴様がその汚いケツで踏んだ石を? やはり貴様にはどっちが上かはっきりとさせて置いた方が言いようだな」


「上等だな。いい加減に分からせてやるよ。俺にはお前に下げる頭は持ち合わせてないってな」


 ゴゴゴゴゴ……と俺達の間の空気が振るえる。するとその時、追いかけて来てたらしいアイリの声が聞こえた。


「えっと……あのね……どうしよう!! ごめんね二人とも! でも制御出来ないの~」


 責任感じてたアイリは既に泣き顔だった。まあ粋なり仲間を吹き飛ばせば泣きたくも成ると思うが、それがいかにもアイリらしくて一気に雰囲気を持ってかれた。
 まあつまりはガイエンと一戦交える気が失せたって事だ。そしてそれはガイエンも同じ様で、手を添え掛けてた長刀を抜くことはしなかった。
 そして近づいてくるアイリに慎重に言葉を投げかける。


「そうか……まあ気にするなアイリ! だからまずはそこで一端止まっておけ」
「え? 本当に許してくれる?」


 俺達から十メートル位離れて立ち止まったアイリはちょっと信じれない様に聞いてくる。確かにアイリに幾ら甘いガイエンでもそれは……と思ってるんだろう。
 だけど俺も今回ばかりはガイエンの感じた危機に賛同だ。


「当然だろ! HPも減らないし、別に気にする事じゃないさアイリ。だからとにかく、一度冷静に成れよ」
「うん……ありがとう」


 俺達は必死だった。何故ならアイリが腕を振り回して来た跡がとっても悲惨な事になってたからだ。それはまるでついさっきの自分達を見てるようなんだ。
 何か全身が今の痛みを思い出す感じがぶり返して寒気がさ……破壊不可の筈のダンジョンで、ガイエンのあの攻撃でさえ完全に破壊は出来なかったのに何だよあれ。
 ボロッボロだ。壊れた部分が多すぎてプログラムコードが走ってるのが見えてるぞ。まあ取り合えずアイリは離れた所で止まってくれたが、これは実際大丈夫なのか分からない。
 カーテナの攻撃範囲はまだ未定だ。把握できてない。俺達の言葉で落ち着いてきたアイリだが、安心は出来ないな。


「力が溢れて来る感じが止められないよ……」
「暴走とかしてるのか? それか力を受け止める為の物が無いとか……そうか! 鞘が必要なんじゃないのか?」


 そのガイエンの発言には俺も納得だ。そういえば彫像も絵もカーテナは鞘に入ってた。それに鞘って意外と重要な感じで物語って描かれてるし、カーテナほど特殊な武器ならそれも考えられる。
 だけど……


「鞘なんてどこにもないよガイエン。彫像のは取れる訳も無かったし……このままじゃ腕振れない!」
「まあ確かに無かったよな。じゃあアイテム欄に戻すとか?」


 俺がそういうと早速実行。だけど次の瞬間にはポンッとカーテナはアイテム欄から出てきた。八方塞がりだ。涙顔のアイリには悪いが今はどうする事も出来ない。
 取り合えず離れて、腕を動かさないようにしながら俺達は出口を目指した。そして流石に光が届かなくなった暗い道を進んで階段を上がる。
 出口を出ると俺達は目を覆った。だってそこは眩しく光ってたから。夜を昼と見間違ってしまいそうな輝く光。それは正しく、光明の塔から発せられてる。


「綺麗……」


 そう呟いたのは最後に出てきたアイリだ。これを自分がやったなんて信じられないだろうな。だけどそれが事実。それを証明する証をアイリは握ってる。
 カーテナというこの世界でただ一つの剣を。そしてこの国を真に照らすのはきっとアイリというプレイヤーの役目何だろう。


 そして俺は、そんなアイリを支えて行きたいと思う。これからもずっと。この華奢な体で抱えたとてつもなく大きな物を、少しでも一緒に支えて上げれたら……俺はきっと嬉しいはずだ。
 アルテミナスを照らす光はアイリの様に暖かくて、そしてどこまでも広がってた。きっと今夜は、この国に居る誰もがこの明かりに照らされた空を見上げた筈だ。
 新たな光が昇った空を。

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