命改変プログラム
引けない刃
今現在、LROで専ら噂されているのはもうじき実装される予定の領土争い――言う成れば『侵略システム』成るものだ。
もうテストも終わって実装間近。だけど俺達エルフは他の種族と違い、これには余り意欲的じゃない。と言うか実装さえ反対の奴等だって居るくらい。
まあテスト開始、最初の方は「面白そうだ」とか言ってたんだが、相次ぐ連敗の末にエルフでこのシステムの実装を心待ちにしてる者は少なくなった。
何てたって領土を侵略されれば色々と不都合。町や村でその地域で取れる物が高く成ったりするし、国としての力も弱まるだろう。
まあだけど、エルフで国をどれだけの奴が意識してるのかって事なんだけどな。ここLROはそれぞれの種族にそれぞれの国が在るけど、基本そこにいけない訳じゃない。町中でPKされる事もいきなりはシステム上無いし、だから常にそれぞれの種族がいろんな国に結構居る訳だ。
だから自分の国が小さく成ったところでそんなに今の暮らしが変わる訳じゃない。ただ他国のフィールド内なら何時PKされたって文句は言えないけどさ。
だけど、だからこそこのシステムはいらないんじゃないか! とエルフは声高々に叫んでる。別に何が変わるわけでもない……イベント程度の仕様ならいらないだろってのが言い分だ。
エルフである奴等は何故かプライドが高い。だから国はどうでも良いけど、自身が下の位置に見られるのはイヤなんだ。
侵略システムが実装されれば数じゃない、本当の国としての力で優劣がハッキリするだろう。すると多分、このエルフの国『アルテミナス』の地位は陥落しかねない。
今まで数で三強に入ってたがそれすらも危ういとみんなが思ってる。今まで「はっスレイプルかよ」とか数が少ない奴等を見下してたのが、もしかしたら「数だけのエルフが居るぜ」とか言われかねない。
プライドだけはみんな高いエルフはそんな小馬鹿にされるのは許せないんだ。それなら全員で協力すれば良いのに……そう安易に考えてはいけない。
プライドが高いってのはつまりは自己中な奴等が多いって事と同位。自分が一番であって自分達が一番な訳じゃないんだ。だからこそ他の種族に比べチームワークが無い。連携が個人技になってしまう等の数々の問題の露呈により、俺達エルフは団体戦が苦手と判明。
そしてテストではそのせいで連敗……と言うか全敗だったんだ。まあどれだけ酷かったのかは俺は参加してないから知らないけど、想像は付くな。普通の狩りのパーティーでもエルフは二人までが基本と言うか鉄則に成っている位だし。
五人の中の二人なら少数だからがその理由。少数なら制御が効くからな。普通のパーティーにエルフを三人以上入れると効率が悪いと言われている。
他人を生かす事をしないから。在る程度はやるけど、同じ感じの奴等が集まったら止められなくなるのと同じだ。はまれば強いんだがな。
でもなかなかはまらない。てかそれには強力なリーダーシップが在る奴が必要だ。それも侵略に打ち勝つにはエルフでだ。だけどエルフは余り集団に成りたがらないからな・・でも人の上に立ちたそうな奴等は結構いる気もする。
最近会ったあのムカつく蒼髪野郎……名前は確か『ガイエン』だっけ? アイツは口調が命令形でまさに上から目線の奴だったから多分そうだと思う。
アイツの様に野望とか言う物をエルフの人達は多分結構持ってる人多い。でもそれぞれが我が強すぎてぶつかり合いにしか成らないのが問題だ。
「はぁ~」
思わずため息が出てしまった。カフェテラスでウインドウを開いて情報を眺めて考察してるとどうしてもな。最近は特にだけど……みんなそんなに気にしてないけど、本当にこのままじゃやばいと思うんだよな。
「でも、俺も自分から率先する方じゃないし」
まず俺は人の上には立ちたくない。めんどいじゃんか。色々と指示を出すよりも一人こっそりと戦績を上げていくタイプなんだよ。
責任とかさ……恐ろしいし。俺は自分がそう言う器じゃないと知っている。だから達観してるしかない。俺は絶対にアイツの様には成れないとわかってるんだ。
リアルの知り合いの妙なカリスマ。アイツと知り合ってから自分は遣われる側と悟ったさ。本当にさ、上にはああいう奴が立って欲しいよ。
でなきゃやる気なんて出ないな。どうもエルフでって言うか全般に言える事だが、上を目指してる奴って偉そうなんだ。
まあそれが目指す奴と、たどり着く奴の違いなのかな。そう言う訳で未だ俺は侵略システムの合戦には参加予定はない。今のエルフの現状で勝てるとも思えないしな。
昼下がりの日差しが木々の隙間から適度に暖かさをくれる中、アルテミナスは今日も変わらず活気に満ちている。遠くに見える光明の塔と呼ばれる巨大なクリスタルはその名ばかりの姿で黒ずんでるから景観が悪く見えるけど、それ以外はとても綺麗で整備された街なんだ。
アルテミナス城を中心に広がった城下町。整った石畳みにそこかしこから顔を出すクリスタルはいちいち目を奪う。朝昼夜と光を変えるのが憎い奴だ。
そんないつもの光景の中で突然周りが何事かと騒ぎだしていた。その方向へ目を向けるとなにやら集団が集まっている。そして立てているのは蛇を食う獅子の図がプリントされた旗。あれは……
「レイアードか」
そう呟いて、目の前のグラスを傾ける。冷たい飲料が喉に爽やかに染みてくる。種族至上主義のレイアード。最近アイツ等の活動が活発に成ってきてるんだ。
多分それは例の侵略システムと関連してるんだろうな。だってアイツ等は自分達の種族こそが一番優秀と証明したい筈だ。なら他種族の領土を奪える侵略はそれを証明するには絶好のシステムだ。
だからそれぞれの種族のレイアードは最近活性化してるんだろう。ああやって勧誘をしてる所をよく見るな。エルフのレイアードが一体何人居るかは知らないが、そのリーダーは結構有名だ。
確か『グライド』とかいう槍使いだった筈。結構過激な奴でアルテミナスに入る他種族を相手に勝手に検問とかしてた記憶があるな。
そして基本エルフ以外は入れないんだ。フィールドではエルフ以外のプレイヤーを狙った狩りをしてるとも聞くし、なるべくかかわり合いになりたくない奴だ。
だからいつもはこうして遠目でしか見ないんだが……何だろう、凄く見覚えのある奴がそこへ近づいてるのが見える。
「アイリの奴、何やってんだ」
そうそれは間違いなくアイリだ。アイツはつい最近までレイアードを知らなかったから、あれも何かのイベントか何かだと勘違いしてるのかも知れないな。
LROでは管理者側からのサプライズ的なイベントとは別にいろんな集団が日々何かしらやってるんだ。それは野外ライブとか、大道芸とか様々だけど、きっとそれらと同じとアイリは思ってる。
俺はイスから立ち上がり、アイリへと向かう事にする。別に放って置いてもしばらくすればこっちに来ると思うが、なんと言うかアイツって……
「不幸体質? いや、巻き込まれ体質……う~ん」
どうもしっくり来ないが、取りあえずは何かしらが良くアイツの周りでは起こる。それも良くない事が。だからだろう、妙に心配になったんだ。
万一に目を付けられて勧誘でもされたらやっかいだ。アイリって攻められると弱そうだし、軽く頷きそうな気がする。
「このままで良いと思ってるのか皆は!? 俺はそうはおもえん! エルフは人から更に神へと近くなった種なのだ。そんな俺達こそがこの世界を手にするにふさわしい!
他の種族など侵略システムが実装された暁には世界の端へと追いやり、全領土をアルテミナスとしよう! そのためにも皆の力を貸してくれ!
テストでは一勝も出来なかった事は気にするな。あんなのは遊びでしかない。奴等を油断させる作戦よ! 俺達上位種のエルフが他種族に遅れを取るなどありえん事だ!」
力強い声が大きく響く。それに併せて周りの部下か何かが煽るように声を出す。俺はこんな演説で人が集まるか毎回疑問だ。けど実際、近頃は人が増えてるとも聞くし案外効果はあるのかも知れないな。
けどレイアードはテストの方にも参加してたのか。ワザとって……明らかに負け惜しみのような気がするぞ。だけどそんな言葉を真に受ける素直な奴が俺の知り合いに居た様だ。
「そっか、ワザとは優しさだね」
「んな訳無いだろ。明らかに負け惜しみだ」
そんな言葉を後ろから掛けると、アイリはパアっと花咲く様な笑顔で振り返る。
「あっ! アギトお待たせしました」
「……ああ、って何で真っ直ぐに来ないんだよ」
何だかアイリを直視出来ない。顔が赤くなってる気がする。このLROでは本当に真っ赤っかに成るからさ、隠す何て出来ないんだけど、抵抗は試みるさ。
取りあえず不自然に顔を反らすとかな。空をこよなく愛する男子を演じるんだ。
「大道芸でもやってるのかと思ったの。けど何だか違うみたいだね。ねぇアギトはこれが何かわかる?」
俺の不自然さは気にも止めないアイリ。在る意味助かったけど、ちょっと心が寂しい気持ちに成るのは何でだろう。
「この前話しただろ。奴等がエルフ種の中のレイアードだよ。もうすぐ実装される侵略システムへ向けて勧誘を行ってるみたいだぞ」
「成る程、あの人達が種族至上主義……つまりはエルフがどの種族よりも上って思ってるって事ですね」
「まあ、そうなるな」
チラッと言葉の終わりにアイリを見ると何だか厳しい目をして今まさにエルフの優秀さを語ってるグライドを見つめていた。そしてポツリと言葉をこぼす。
「くだらない」
俺はその言葉に些か驚いた。何がってアイリがそういう言葉を口にした事が驚きだ。いつも一生懸命で、いつも自分を犠牲にするような事を平気でするアイリが、誰かを見てそう言うなんて初のこと。
それに驚くほど冷たい声だった気がした。
「アイリ?」
俺は恐々とそう声を掛けてみる。
「アギト……ううん、何でも無いんです。悪口は行けませんね。誰にだってそれぞれの考え方があるんですから」
こちらを向いたアイリはいつものアイリだった。最近はずっと一緒にいるけど、結局俺が知ってるのはLROの中だけのアイリというプレイヤー何だよな……ちょっとだけそんな事を思った。
俺達は本当の顔も名前も知らないんだ。だから俺にはアイリのあの瞳の訳を知ることは出来ない。きっと色々あるんだろうな――って位しか思えない。
それで良いと思ってたし、それがここでのマナー。けれど何だろうな、アイリの事は少しは知りたいと……そう考えてしまう。
だけど決して口にはしない。やっぱりそれがマナーだからな。LROではリアルの詮索は御法度だ。まあそれでも隣には居れるよな。
「そうか? 俺も上とか下とか結構下らないと思ってるけどな。どうしてここまで来てそんな事を気にしなきゃ行けないんだよってさ」
「そうですね。中身はみんな人間なのに皮が変わればそれに染まるんでしょうか」
「はは……上手いこと言うなお前」
在る意味残酷な事をサラッと。確かにそれぞれの種族で特徴があったりするように成ってきてると思う。エルフが自我が強いように人は協調性が特徴、モブリは団結とか友愛とかかな?
小さくか弱いモブリはとにかく社交的な奴らが多い気がする。そして職人が多いスレイプルは職人肌の頑固者とかさ。確かに皮に寄って俺達は変わるのかも知れない。
それに誰だってここにはそんな感じで来てるわけだし、それは別に悪い事なんかじゃないんだよな。リアルとは違う自分を……後は元々変わりたいとか、そんな事を誰もが思ってここに居る。
LROにはそんな思いが溢れてる。
「でも、俺達もそうじゃないのか? 染まるって言うか、俺達は人の皮から抜け出したかった感じだろ? 人を選ぶ人はもう一度やり直したいのかもしれないし、俺達はきっと変わりたかった。
そんな感じじゃないか?」
「そう……かも知れないですね。結局私はまだ、皮を破れない感じなのかな? そしてあそこで演説してる人は本当にエルフって感じなのかも知れないですね。リアルの皮なんて感じさせない」
そう言って再び壇上のグライドをみやるアイリ。だけど今度の瞳はきつい感じじゃない。それは少しだけ……そこに自分の憧れがあるような。そんな感じに思えた。
それはちょっと寂しさの様な・・だから俺はそんな寂しさを吹き飛ばすように笑ってやろう。
「本当のエルフってあんなに偉そうなのか? なら俺としては降りたい所だぞ。それに俺にとっては今のアイリがアイリだと思うけど。ああは成って欲しくないぞ」
「私だってあの人の言ってる事を肯定してる訳じゃありません。でもただ……」
不意に途切れる言葉。不自然な間は周りの喧噪に飲み込まれてる。
「でもただ……何だよ?」
するとアイリはそのストロベリーブロンドの髪を揺らして弾ける笑顔を俺に向ける。何かをはぐらかせる位の眩しい笑顔。
「ただ、私もああ成りたい訳じゃないって事ですよ」
「……あっそ。それなら良かった」
視線を反らして頬をポリポリ掻く。結局は俺はアイリに弱いからな。所在無さ気に視線を動かしてると演説を終わらせた奴と視線がぶつかった……気がする。
「どうだ? そこの赤い髪の奴。なかなか見所ありそうだ」
いきな壇上からピンポイントで投げかけられた声に思わず体を反対へ向ける。どうやら目があったのは気のせいじゃ無かった様だ。レイアードとは関わりたくないのに――無視はあの気が短そうな奴には不味そうだから一応は背中越しにでも反応してやろう。
「それはきっと勘違いですよ。俺に見込みなんて無いんで忘れてください」
そしてアイリの手を引いて早々にこの場から離れる事を試みた。だけどその時、目の前に空から何かが降ってきたんだ。
その背中には機会仕掛けの複雑な槍が携えられている。
「ふはは、そう連れない事を言うな。貴様のような奴は見込みがあるぞ」
マイクで拡張されなくても野太い声が響きわたった。間違いないこの声はさっきまで壇上から聞こえていた声だ。ならこいつはグライド・・エルフ族のレイアードのリーダー。
危ない過激派で遠いところに居て欲しい存在なのにどうしてこんな目の前に。それに何を見て俺に見所があるとか思ったんだ? 訳が分からない。
「買ってくれるのは嬉しいですけど、俺達はそこに連れる気ないんで。なっアイリ」
「う、うん」
こうなった以上曖昧な表現はややこしく成るからキッパリと言い切った。なるべく早く立ち去りたいからな。だけど何故か更に大笑いをするグライドは言う。
「良いぞ、ますます気に入った! 俺を前にして変わらん態度がデカいな。共にエルフを導こうではないか」
こちら側を向いたグライドは精悍な顔に男気溢れるような笑顔を張り付けてこちらに手を差し伸ばす。なんて面倒な状況に成ったんだ・・基本同族に手を出す奴とは聞かないが他の種族にやってることを考えると、交渉が決裂すると荒っぽく成りそうな気がする。
アイリも居るのにそれだけは避けたいところだけど……その時そのアイリが俺の後ろから進み出た。
「ふざけないでください! アギトは貴方達とは違います。私たちは他の種族の人達とだって普通に接したいんですから!」
セツリは大勢のレイアードも居る中でそう啖呵を切った。まあ、だけど有る意味スッキリだな。俺やアイリや、それに大多数のエルフは多分そうなんだろうし。自分達がこの国をかき乱してると知れ。
「軟弱だな。俺達エルフがどうして他の奴らと同列で無くては成らない? 設定上でもエルフは神の御子なんだよ。よってこの世界を統べるのは俺達エルフが一番妥当だろう」
「そんなの、ただの設定じゃ無いですか。実際は私達も他の種族も何も変わりません」
確かにアイリの言うとおりそんな設定は有って無い様な物だ。俺達が神から生まれた訳じゃ当然無いし、みんな同じにシステムから作られた姿だろ。
まあでもこういう浸る奴は本当にLROの設定を鵜呑みにしてたりする。それかただの言い訳か。そして言われたグライドは食ってかかるかと思うほどの勢いで言い切った。
「設定だと? 素人だなお前は。俺はエルフ何だよ。見ろこの姿、エルフ以外の何者でもない。人なんて安い体じゃない強靱な肉体、溢れる力! 比べるべくもない。
エルフで有る限り誰もがしばらくするとこう思う。我らは『違う』とな。そうだろ? アギト」
グライドの目がアイリから突如俺の方へ向いた。なんで俺の名前を……ってさっきアイリが言ってたからか。それに俺はアイリより長くやってるのを見抜いてるっぽいな。 流石リーダーただの暴力バカって訳でもなさそうだ。思想は偏ってるけどな。
「知らないな。残念だが俺はそんな事思ったこともない。俺は全面的にアイリ派なんだよおっさん」
「ふは、おっさんか。姿は二十代の筈だがな。だがそうか、この女が原因か……惜しいな、本当に惜しい。お前もきっと感じる筈なのに、こんな軟弱な女のせいで思いを共有出来ないとは……許せない事だ」
グライドはアイリを鬼気とした目つきで睨んでる。何でそこまで俺にこだわるのかは知らないがこのままじゃ本当にアイリに何かしそうだ。
こっちに意識を向けさせないと。
「別にアイリのせいって訳じゃない。本当に俺はおっさん達に共感出来ないだけだ。そもそもレイアードって嫌いなんだよ」
そう言いきって俺はグライドを真っ直ぐに見つめる。すると口元を引き上げたグラウドの顔が崩れた笑いを見せていた。
「はっはー、それなら俺達エルフの本能の部分に訴えてやろう。お前はこんな軟弱な女と居るべきじゃないとな!」
その瞬間奴の腕がアイリに襲いかかる。何をする気……とかどうでも良かった。ただ俺は直ぐに前に出てグラウドの腕をつかみ取った。
「ふざけるなよ、アイリに何かする気なら許さねえ!」
「ふん、良い目をしている。やぱり俺の目に狂いはない。自分がどれだけ哀れかもわかってないとはな。目を覚まさせてやる。俺はお前に決闘を申し込む!」
そう言って即届いたのは果たし状。つまりは決闘を受けるか否かのメッセージ。どうしてわざわざこんな物受けなきゃ行けないのかわからない――が、いつの間にか周りに集っていたギャラリーが沸いている。
決闘ってのは町中でやると必ず見せ物の成るし、それに有名な奴がやるとなれば尚更だ。グラウドは名が通ってるからその発言に沸き立つのは無理ないとは思うが俺は受けたくない。だけど……
「逃げるなよ。俺達はしつこいぞ。何度でも何度でもお前を・・いいやその女を狙おう。だが決闘で勝ったならキッパリと諦める。その代わり負ければお前も仲間に成って貰うがな。
さあどうする?」
「くっそ、卑怯な真似を!」
「アギト……ダメ。挑発だよ!」
アイリの忠告はわかってる。グラウドが強いことだって」。こいつは自分が負けるなんて思っちゃいない。そしてここで俺が受けなければ確実にアイリを狙うだろう。
そんな奴だ。確信できる。アイリを危険に晒したくなんかない。ようやく楽しく成ってきた所なのに……こんなクソみたいな連中に邪魔されてたまるかよ!
俺は背中から槍を抜き去って答えてやる。
「いいぜ! 受けてやるよ!」
「アギト!」
「お前は必ずそう言うと思っていた!」
グラウドも槍を抜く。機会仕掛けの槍は不気味な音を奏でて獲物を前に舌なめずりしている。
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