命改変プログラム

ファーストなサイコロ

想いという風



 みんなから問われた。


「やっぱりこんな俺達、私たちじゃダメなのか?」


 と。僕とは絶対的に違う思いだけど、それじゃやっぱり仲間とは認められないかとみんなは言った。それはみんなは僕の事を許してくれてるって事なんだろうか? 
 あんな身勝手言って、飛び出したこんな僕をさ。最初から分かってた事に文句を付けたんだ。一方的に僕がみんなに失望したに過ぎなかった事。
 でも……みんなにとってはそれすら謂われなんて無かった筈だ。怒るのも無理はない……そしてたがった筈。じゃあ、なんでみんなはここに来たのだろう。それが僕には信じられない事で、だからみんなからの問いを片隅に置いた言葉が口から出ていた。


「どうして……」


 僕はみんなの顔が見れないよ。申し訳なくて…大口叩いたけどこんな情けない格好でさ。そして安心した自分が居た事をまだ悟られたくなくて……だから顔は必死に伏せた。
 その時、トコトコと後ろから小さな姿が出てくるのが見える。それは良く知った奴で僕にみんなを信じれなくさせた奴。


「あーそんなの決まってる。あの人だよ。テッケンさんがお前の暴言にフォローを入れてくれたんだ。出なきゃ誰がお前を助けに何か来るかよ」


 頭を背けてフンッと鼻息を荒く吐き出すエイル。すると真っ先に駆けつけてくれたリルレットがそんなエイルをポカンと小突いた。


「もうーエイルはまだ言ってるのそんな事。エイルだって本当は悪い事言ったと思ってる癖に。もっと素直に成らなきゃダメだよ!」
「だ、誰がこんな奴の事! リルが言い出さなきゃ俺は絶対に反対だったよ! だから勘違いするなよな! 俺はリルを守るために一緒に来ただけで、お前を許して助けに来た訳じゃないんだぞ!」


 リルレットの言葉に動揺してるのかエイルはやけに口早に成っている。それに顔もなんだか赤いし。本当に素直じゃない奴だ。まあそれは僕も言えないだろうけど。
 その時、魔法で吹き飛ばされた巨神兵が再びこちらに向かって来てる。前方では集結したみんなが色々と攻撃を加えているが不意打ちじゃないからか、奴の態勢を崩すまではいかない。
 それに巨神兵はみんなを攻撃していない……ただ何かを目指すように腕を伸ばしている。そしてそれは真っ直ぐに僕へと向かってる。いや違うか。
 巨神兵は僕じゃなくこの盾を取ろうとしてるんじゃないか? そう思うと同時に案の定、巨神兵の腕は盾を突き刺さった柱から引き抜いた。そして僕も解放されて地面へと落ちる。


「――っつ!」


 そんなに高くは無かったけど、ダメージが蓄積された体にはキツい物があった。傷や外傷はヒーラーの人の魔法で粗方直ってたけど、鈍い痛みの様なのが僕の場合しばらく続く。


「大丈夫?」


 そう言ってくれたのはリルレットだ。僕はそんな彼女に「ああ、平気だよ」と返した。なんだかさっきのエイルの口調からだとここまでみんなを引っ張ってくれたのはリルレットみたいだし……これ以上迷惑掛けるのも何だしね。
 それに平気なのは本当だ。回復魔法の有り難みに痛みいるね。MPが入らないLROでは本当に魔法は便利なものだ。使いたい放題だし。
 だけど何故かちゃんと自分で立ち上がった僕をリルレットはジッと見つめてる。何だか辛そうな視線だ。そんなに弱々しく見えるだろうか? 
 するとリルレットはか弱い声を出した。


「その肌や、服に残った跡は血……なんだよね?」
「え? ああ、まあ」


 突然のそんな質問に僕は素直に頷いた。って、余り広めいない様に心掛けてたのに何やってんだ僕は。でもリルレットが普通に指摘するから……と言うか、みんながテッケンさんから聞いた事ってもしかして――


「やっぱり本当なんだ。どうして……最初から言ってくれなかったの? いつから……あの時の悪魔の時からそうだったの? 
 私的にはこっちの事の方が怒るよ!」
「リルレット」


 ――やっぱりそうだと確信した。テッケンさんはこの事を言ったんだろう。それでもこんな事、信じれる筈無い物だけど……みんなはそれを信じたって事なのか。
 だから「お前からみたらどこまで行っても遊びで、覚悟も足らない」か、確かに僕はあの時そう思った。エイルから突きつけられた周りの見る目なんかを知ったときに、「遊び」だとそう思った。
 それが何だか許せなく成ったんだ。でもそれが何だったんだろうと今は少しずつ思える気がする。だってその後に続いた「遊びでも俺たちはそれを真剣にやってる」に嘘なんてきっとない。
 みんなこのLROに真剣なんだ。有る意味、その遊びに命を懸けてる奴だっているかも知れない。同じように真剣じゃなくて……いろんな自分の目指すべき物の為に真剣。それで良いのかも知れない。
 その道の途中でかかわり合えたら、それで仲間と呼んでも良いんじゃないかな。同じ方向を決して見てないかも知れない。歩く早さだってきっとバラバラだ。
 でも変わらない物が僕とみんなには有ったんだ。みんながこの世界を好きで、そしてみんなが真剣にそれぞれこの世界を楽しんでる。
 辛いことだって勿論みんなにだって有ったはずだ。自分だけじゃない……それの大小なんて関係ない。自分とって大切な事は人それぞれなんだからさ。


「ありがとう心配してくれて」
「うん? 何でそんなに嬉しそうなの?」


 何だかいろんな事に気付いたような感覚のせいだよそれは。今なら素直に……リルレットの頭を撫でれる。


「何するの! 私子供じゃないよ!」


 怒られた。でも何だか楽しいじゃん。「仲間」だからな僕達はさ。


「リルに何してんだ! 殺すぞ!」
「うっせーチビ。そんなに大切ならさっさと告白でもしてろ」


 その瞬間、エイルの頭からボフっと湯気があがった。そして告白というワードを口にしながら変な動きをしだす。


「エイル大丈夫? もう、変な事言わないでよスオウ。私達はそんなんじゃ無いんだからね。私達は友達! 天地神明に誓ってもそれ以上じゃないんだから」
「!!」


 自信満々にそう言い切ったリルレット。彼女からは見えてないだろうけど、今後ろで一つの尊い命が失われ掛けてるよ。
 きっとエイルにとってはどんな強大なモンスターの一撃より効いただろう。天地神明って脈は無いのだろうか。まあ、エイルの色恋何て僕にはどうでも良いけどね。
 そもそも何でアイツモブリ何だよって始めに突っ込みたいし。どう考えてもLROじゃペット位にしか思われてないよ。せめて同じ人間タイプにしとけばもっと意識して貰えただろうに。


「そんなことより、私の質問に答えてくれてないよスオウ! 私達へ隠し事してたでしょ!」


 そんなこと発言でさらにエイルに攻撃が加わった様だ。なんか流石に可哀想に成ってきたから話題をズラす為にもプンプンしてるリルレットに乗っておこう。それにそろそろ巨神兵も待ってはくれなさそうだし。
 盾を再び手にした奴にはみんなの攻撃が殆ど通ってない。せめて缶詰状態が精一杯。


「まあ確かにね。テッケンさんから多分聞いたのはこれだろ? 僕の体は段々とこのLROに浸透してる。そろそろ本当にこのHPが僕の命の残量に成るかも知れない」
「……うん。言いたくないのは分かるけど、言ってくれれば私達だってもっと力に成るのに。それにああ言ったのだってもっとちゃんと理解できたよ」


 再び僕に残る血の後に声のトーンを落とすリルレット。リルレットも大概優しいな。


「そうかも知れない。でもさ、この事で余計な気なんて使わせたく何て無かったし、LROがゲームのままであれるのならその方が良いじゃん。
 そうであって欲しいよ」
「それは、確かにそうだよ。LROは私達にとってはゲームが良いよ! だけど、ゲーム感覚の私達にだって知ってればゲームだからこそ! 一杯一杯出来る事が有るんだよ! 
 私達はここがゲームだから、スオウに付いて来れるんだから! 助けれられる。一緒に戦える。私達にとってはゲームなんだから、それでも仲間と思ってくれるなら、これ以上ない冒険に私達はいつだって行くよ!」


 白い光に照らされるリルレットの笑顔はとても暖かい。今は素直にそう思えるよ。だってゲームでも、みんなは真剣に協力してくれてるんだから。
 そしてリルレットはみんなに同意を求めるように後ろへ振り返り「ねえ、みんな!」と叫んだ。すると次々に上がる声に僕は思わず顔を下に向けるしかない。


「あったり前だあ! こんな面白そうな戦いならいつだってどこだって駆けつけてやるさ!」
「おう! 俺は回復薬を持ちまくってお前が死なない様にスタンバっててやるよ!」
「一声だけで十分だ! そしたら駆けつけて、お姫様への道は俺達が空けてやる! それくらいのナイト精神はこっちでなら有るんだ! それはやっぱり俺達にとってはゲームだからなんだよ。命まで賭けるお前はバカだと思う!」
「でも、そんなバカに手を貸すと勇者の一行に成れた様な気がするゲームバカなんだ俺達は!」


 そして攻撃を続けながら笑い声とか罵声とかいろんな声が飛び交うのが聞こえる。本当に楽しそうに、目の前の強敵に向かってる。
 そう言えば……まだ最初の答えを言ってなかったな。「俺達、私達じゃダメなのか?」とみんなは言ったその問いかけへの僕の答え。
 握る剣の柄に力を込めて答えよう。


「仲間……だよ。みんなを仲間ともう一度僕は思いたい。ダメなんかじゃない。僕がそう願う。こんな僕を許してくれるか?」


 すると空気を震わす様に全員の言葉が一致した。


「「「当然!!」」」


 その瞬間一陣の風が吹いた気がした。そして強く握ったセラ・シルフィングがそんな風を掴む。今ならきっと……アレが使える。そう感じた。
 二対の剣を前に出し僕は叫ぶ。自身の新しい切り札の名を。


「イクシード! 発動!!」


 その瞬間、前に居たみんなが巨神兵の白刃の剣によって弾かれた。そして開いた道に僕は突っ込む。まさに風の様に雷の様にその場を駆け抜ける。
「うあ!」「きゃあ!」という叫びが後ろの方から聞こえる。きっとイクシードの余波だろう。自身を包む風が、今までに無いくらいに大きく成っているのを感じるんだ。
 迫る僕に巨神兵はその鉄壁の盾を構える。あの盾の防御力は知っている。だけど止まる気なんて無かった。多分きっと、このイクシードはみんなから貰った物だ。
 何で一人で戦ってた時に発動しなかったのか……最初は洞窟だとか、風がないとか言い訳したけどそれは違うと今なら分かる。
 あの時はきっと僕が自分で萎んでたんだ。一人で不安や苛立ち、そういう物を一杯抱えていた。風を感じる余裕も手段も忘れてた。
 だけど今は違う。解放された様な心はいろんな物を感じれる。イクシードが掴む風はそんな暖かい物なんだ。仲間から貰う勇気や元気。溢れ出す優しさや楽しさ。見いだす希望・・そんな周りに溢れる光を風に変えて、イクシードは僕に力をくれる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!! それらを内包したこの風を受け止められるかあああああ!!」


 振りかぶったシルフィングの切っ先から風の渦が線を成して一直線に奴の盾へとぶつかった。だが巨神兵は下がりはするが倒れも盾が砕けたりもしない。
 だが


「まだまだあああああ!!」


 もう片方のシルフィングを僕は振る。二つの風のうねりはぶつかり、そして合わさり有った風は威力と大きさを増していく。それは盾の不思議な壁を飲み込むまでにだ。
 ベキバキ!! そんな破砕音が聞こえ出すと同時に盾に表示されてるHPが減少し出す。それは遂にシルフィングの纏う風が奴の盾に届いた証。
 そして無数の風の刃は一気に巨神兵の盾を砕き割る。盾を無くした奴はただの的だ。動きも速い方じゃない。後ろに居たみんなも一斉に攻撃に移り、スキルと魔法の光が巨神兵に舞落ちる。
 洞窟内だから音が反響して、声を発しない筈の巨神兵の叫びの様に聞こえ出す気がした。だけどまだまだだ。奴はその膨大なHPを生かして守りになんか入らない。
 奴の背中の円形のオブジェが更に光と振動を増すと、そこから白い炎が沸き上がった。そしてその炎は腕を伝い、奴の白刃の剣へと宿る。
 白い炎を纏った白い刃。それは何ともまがまがしい光景だ。美しいと一歩間違えれば言えそうだが、今の僕達にあの炎を纏った刃を美しいと思う余裕はない。
 そしてそんな刃を掲げる巨神兵。すると白い炎から飛び火がそこかしこに舞落ちてきた。それはこの空間の白さとも相まって何とも見えにくい。そのせいでその炎を何人かが被った。


「うわわ! あっつー……くない? 何かダルいけど、熱くはないな」


 被った奴がそう言った。白い炎は無くならずにそいつの肩に灯ったままだ。


(攻撃じゃないのか?)


 とも思ったけど、モンスターが行う行動に意味がない訳がない。ましてや誰も見たことがない白い炎なんて物まで出して、ただの演出だなんて思えない。
 そして案の上、その効果は直ぐに分かった。


「まあいいや。HPの減りは微弱だし、この分ならこいつを倒すのが早い! 畳みかけようぜみんな! ……て、あれ?」


 一人をきっかけに白い炎を被った面々から次々と同じように困惑の声が上がりだす。


「スキルが発動しないぞ?」
「魔法も使えない!」
「アイテムも使用不可になってる!!」


 聞こえてくるそんな声に僕は上を見た。この白い炎……かなりやっかいだ。このままじゃまずい!


「全員集まれ!」


 そうみんなに指示を出し、僕はシルフィングを振る。そして付いてくる風の唸りが白い炎をかき消していった。だけど既にプレイヤーに取り付いたのは消せないみたいだ。
 落ちてくる炎を消された巨神兵は無駄と判断したか、それとも充分と判断したのか分からないが、今度は直接攻撃に移ってきた。
 振り卸される白刃の炎の刃。それに対して僕もシルフィングを振り被る。シルフィングの纏う風のうねりが巨大な白刃の刃とぶつかりどちらも弾かれた。


「――くっ……」


 だが体格と言うか質量の違いか、巨神兵は大地に根を張るようにその場に踏みとどまったのに対して、僕の体は後方へと押された。
 そしてその時、みんなから悲鳴の様な声が上がった。


(なんだ?)


 そう思い顔を上げると白い炎を必死に避けるみんなが居た。まさかこれって……さっきシルフィングと奴の武器がぶつかった時に飛散したって事か? というかそうとしか考えられない。
 すると集まってる中からリルレットがこちらに寄ってきた。


「大丈夫?」
「ああ、僕は全然。だけど周りは……どうなってる?」
「それがもう、超大変だよ!」


 リルレットは手と足バタバタしながらそう言った。だけどリルレットの言い方とその情けないけど愛らしいような表情だと緊迫感に欠ける気もする。だが本人は至って真剣だ。


「気付いてると思うけど、白い炎に当たると微弱なHP減少とスキル魔法アイテム全部もろもろ使用不可! しかも今のでまた一人当たっちゃったしでこれで半分は何も出来ない状態だよ。
 火力もだけど、一番は後衛の回復役が後一人なの。これじゃ回復が追いつかなくて攻撃もまともに出来ないよ!」
「確かにそれはヤバそうだ」


 こういう誰かと繋がって戦う戦闘において一番重要なのは回復役だ。回復してくれる人がいるから前衛の僕らは全力で敵にぶつかれる。
 てか、基本僕達プレイヤーよりモンスターは強い訳で、一回ずつ交互に攻撃を当てていったとしてもプレイヤーが先にやられる。
 そこを対等にするためにスキルや魔法や様々なアイテムが用意されてる訳だけど、制限が無い魔法での回復は一番重要。LROではMPなんてないからね。
 だからパーティーに一人でヒーラーは充分だけど、逆を言えば一人もヒーラーが居ないと狩りは成立しない。それに危ない場面になって一番生き残って欲しいのはヒーラーだ。
 彼らが居れば何度だってやり直しがその場で効く……とアギトが言っていた。それだけヒーラーは重要な位置にいる。


 こっちに付いてきたヒーラーは三人だった筈だから二人があの炎を被った事になる。残り一人で回せるかは実際、自分がやったこと無いから分からない。
 けど、被ってないのは僕も入れて四人程度なんだから……って別に炎を被った奴らが攻撃出来なくなった訳じゃないんだ。それに微弱だけどHPは確実に減っている。
 今は大丈夫でもアイテムも使えないんじゃ、いずれは一人のヒーラーに頼らざる得ない状況になるのは間違いないのか。これは本当にマジでヤバいな。
 長引かせると不利に成る一方だ。


「イクシードの制限時間も見えてきたし、ここで決めよう」
「でもどうやって? あの剣に触れたら不味いよ」
「だから本体を狙うさ。やむ終えずに飛び散った炎は既に炎を受けてる奴を盾にする!」
「……スオウって以外に酷いね」
「これしかないだろ!」


 だってスキルも魔法もアイテムも使えない奴等をぶつける訳にも行かないし。そもそもそれじゃ蚊ほどもダメージは通らないだろう。
 今この場で巨神兵を倒せるだけの威力のスキルを保持してるのは僕だけだ。イクシードならやれる。
 僕は走り出し、同時にシルフィングを振るった。狙うは剣じゃなく本体。それぞれにHPが設定してあるんだ。本体だけ倒すことも可能だろう。
 使い手が居なくなれば剣なんてただの置物だ!


「うおおおおお!!」


 風のうねりが素早く巨神兵の肩に食い込んでいく。だけど流石に堅い。その時再びこちらに白刃が卸されてきて、それをもう片方のシルフィングで弾く。
 それしかなかった。だけどやはり弾いた瞬間に白い炎が周囲に飛散する。巨神兵を相手にしてる間は守れない。だけどここはみんなを信じるさ。
 振り返るより僕は前を向いてなくちゃいけない。みんなを守る為にもだ。そして豪快な音と共にちぎれた腕が大理石の床を無惨にも破壊する。
 だがあの剣を握るのは右腕。僕が切り落としたの左腕だ。けどそれでも充分に大きくHPは削れた。続けざまに更に深く懐に僕は飛び込もうとする。だがそれを阻む様に白の炎の白刃が迫る。
 だがそれを二つ同時に動かしたシルフィングで勢い良く上へ弾き、態勢を崩させる。そして弾き飛ぶ白い炎。その一つが真っ直ぐに僕へ向かってる。


(これが当たったらどうなるんだっけ? イクシードが消えるのか? それはダメだ! 避けないと避けないと避けないと)


 だけど態勢が白刃を弾いた衝撃で……後数瞬なのに、その刹那が間に合わない。スローモーションに見えていた。無数に流れる白い炎の一つが僕に向かってる。当たると確信出来る。
 けれどその時、小さな影がその炎に飛び込んだ。


「これは謝罪の代わりだからな! さっさとそのデカぶつ打っ倒せ!!」


 白い炎に頭から突っ込んだ奴はエイルだった。いつも僕に死ね死ね言って来るアイツが僕を守って飛び出した。それならもう……やらない訳には行かない! 
 僕は見据えた巨神兵の懐に跳んでセラ・シルフィングを振るった。再び手にした仲間の為に、奴のHPが尽きるその瞬間まで絶え間無く。


 唸る風の音はファンファーレかレクイエムか、きっとどちらもはらんでいたんだろう。ただの石になって崩れさる巨神兵は何だか空しくて、だけどその後にみんなから褒められたのはこそばゆくて……それはきっと絶対に一人では味わえない物だと思った。
 白く美しいこの空間で、僕は大切な物を見つけた気がしたよ。

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