命改変プログラム

ファーストなサイコロ

三つ巴の戦場

 潰されたモンスター共が持っていた松明が、同じく潰された建物に移って行く。瞬く間に暗かった周りをオレンジ色の炎が包んでいき、夜の空を染め出した。
 燃え盛る炎の影……だけど辺りに漂う熱量はその炎だけじゃないだろう。親衛隊にガイエンの部隊に、僕達に、そして周りで荒い息を吐き続けるモンスター共。
 それぞれから熱気が上がっている。いきなりの登場で止まった場だけど、何かのきっかげで爆発したように動き出すだろう。モンスター共にとっては僕らも親衛隊も同じプレイヤーに変わりはないんだからな。
 一番数的に少ない僕らは登場と同時にそれぞれ武器を抜き固まってモンスターと親衛隊を権勢している。そしてこの場で言葉を紡ぐのは中央で向かい合う二人だ。


「まさか、まだ夢物語を語るとはな。貴様がアイリ様の何を助ける? ナイトオブウォーカーを無くした貴様がカーテナを持つ私に勝てるとでも思ってるのか?
 遅いんだよ貴様は! 何もかもな!」


 ガイエンは小さな剣をこちらに向かって構えている。それは元来何も切れなさそうな印象の剣だ。だけどあれが『カーテナ』なんだろう。上から見てるだけでその力が絶大なのは分かった。
 その力が今こちらに向けられてると思うだけで緊張感が増すな。あれだけの威力なら固まってる僕らごと潰せそうな気がする。


「確かに……遅いと思ったさ。全部が手遅れだって、そう考えた。だけどそれでも『諦めるな』と言ってくれた友がいる! 待っててくれた仲間が居た! そして何より『信じてる』と俺に伝えてくれた奴が居る! 
 気付いたんだよ。諦めるには早すぎるって! ガイエン、アイリはどこだ!?」


 アギトの声に迷いは無く、滲み出るような決意が周りを少し退ける気さえした。だけどそこは流石と言うべきかガイエンは微動だにしない。


「アイリ様が何故ここに居ると思う? 戦場に彼女を連れてくる理由なんて無いだろう?」
「ふざけるなよガイエン。お前のそのリア・ファルがアイリなしでは使えない事くらい分かってる! だせよ。アイリをこの場に!」


 ヤバいな……僕らは肩を寄せあってモンスター共に武器を構えながらそう思っていた。奴ら今にも飛び込んで来そうだ。そうなったら一気に乱戦。
 数が少ない僕らは圧倒的に不利だ。それに目的はアイリだけじゃない。セツリの所に行くためにもそれなりの数は必要なんだ。
 それには親衛隊には僕らに目もくれずにモンスターの相手をしてくれてる方が得策。そしたらモンスターにとっては敵が倍になるわけだからな。
 けど、今は親衛隊まで僕らに剣を向けている。これは僕らの敵が二倍だよ。乱戦の中でもそれぞれがモンスターを相手して目的の相手とは一騎打ちが理想的だ。
 それにはきっとタイミングが重要。だけどまだピースがこの場に揃ってない。確認したい奴が居るんだ。そして印象的にはこういう勢揃いみたいな場所に来たがる奴と思ったんだけど、やはり一回喋った程度じゃ間違いだったかも知れないな。


「アイリアイリとうるさい奴だな。私のリア・ファルも別にアイリ様無しで使えない訳じゃない。それは首都限定だがな。首都以外では確かにアイリ様が必要だ。
 だがなこんな危険な所にわざわざ入れはしない。もっと安全な所に居て貰ってる」
「なるほどな。つまりはお前がここでカーテナを使えるギリギリの範囲に置いてるのか。フィールドにモンスターは居ないし確かにそれで安全かもな」
「ああ、私は優しいからな」


 不愉快……そんな思いが募ってくる。僕は初めからガイエンに良い印象なんて無かったけどさ。それが変わることは無さそうだ。何が優しいだ。
 ただ邪魔なだけだろうし、きっと何らかの方法で拘束してるんだろう。そんな奴を優しいなんて絶対に言わない。だけどアギトは何かを言い返すことはしなかった。ただ目を閉じて何かを感じてるみたいな様子。
 それが何かは僕には解らないが、数瞬の後にアギトは言い放った。


「なら、お前を倒してアイリを迎えに行くだけだ!」
「出来るか? 力をなくした貴様にそれが!」


 アギトは一気に飛び出して槍をガイエンに突き立てる。スキルを宿したその一撃をガイエンは動くことなく受け止めようとしてる。


「力ならあるさ! アイツと出会ったときから磨いてきた力が俺にはある!」


 アギトの槍とガイエンのカーテナがぶつかった。その瞬間に大きな衝撃波が辺りに巻き起こり、僕らはそれぞれ足を踏ん張った。


「ぐ……ぬぅぅアギト……」


 衝撃波が抜けた後に映った光景はアギトの槍がカーテナにピタリと止められた物だった。ガイエンは一歩も動いてない……いや――


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 ――アギトはまだ諦めていなかった。突き出した槍に更に力を込めている。だけど下がっているのはアギトの方に見える。


「無駄だアギト。ただの武器がカーテナに勝てると思ってるのか? 諦めろ、今度こそな」


 そう言うガイエンの言葉は反撃に転じる合図か。カーテナに黒い影が集まっている。だけどアギトは避ける気がない様で今だに叫んでいる。


「うおおおおおおおおお!! 諦めるかよ。ずっと待たせたんだ。これ以上、待たせられるかぁああああああ!」


 アギトの槍に再びスキルの光が灯った。赤と黄色の光が粒を伴って放出されている。そして、カチ……カチ……ガチガチガチガチと二つの武器のエネルギーが拮抗して震え出す。
 それはガイエンには予想外の事だ。


「何! カーテナを押し戻す!?」
「あああああああああああああああ!!」


 赤と黄色の光が直線の軌跡を描いた。ガイエンの叫びが続いて響き、その姿は近くの建物にぶつかった。そしてその光景は親衛隊にも衝撃を与える。
 信じられない様な物を見る目でガイエンの消えた建物を凝視していた。アギトはその場で荒く肩を揺らしている。
 しかしその時、ガイエンが消えた建物が一瞬で上下に割れた。そして轟音と共に宙に上がった建物が後方に落ちる。その衝撃が地面を揺らし、巻き起こった風が周りの炎から熱気をこちら側まで届けてくる。
 建物の中に見える人影の腕は掲げられ、その左手にある小さな剣が上空に黒い影を伸ばしていた。


「はぁはぁ、まぁこれからだな」


 そう呟いたアギトは再び槍を構え直す。左手を下ろして、建物の中から姿を現したガイエンに見た目上のダメージはほぼ無い。だけどHPは僅かに減少してる。それだけでも大金星何だろう。
 ガイエンは悔しそうに口を噛み、その目にはさっきまでの余裕は余り見て取れず、激しくアギトを睨んでる。


「アギト……これくらいでいい気になるなよ」
「それはこっちの台詞だろ。カーテナが有るからって余りいい気になるなよガイエン。所詮それはお前の力じゃないんだからさ」
「きっさまぁあああああ!!」


 そう言われた途端にガイエンは何かが切れた様にカーテンを構えた。左腕を右側まで回して溜を作るような格好だ。黒い影が地面に滴るように広がって行くのが見えている。
 そして今にも奴がそれを振りかぶろうとした時だ。その場に不釣り合いな程の楽しげな声が響いた。


「あははははははー☆ ガイエン君、そんなに興奮しちゃっておっかしい~」
「っつ!!」


 その声にガイエンはとっさにカーテナの攻撃対象を変えた。アギトからその声へとだ。僕らもそこへ一斉に振り返った。場所は建物の屋根。この村にしては比較的大きいその建物がカーテナの攻撃で一瞬で欠けた。
 木で出来た外壁と屋根がズバンと言う感じで剥がれて飛んでいったんだ。避ける暇なんて無かったと思う。こっちも姿を確認出来なかった。
 ガイエンの奴は思わず反射で攻撃対象を移した感じ。それは、カーテナと言う強大な力を有した今の奴でさえ、さっきの声の主に恐怖を抱いてると言う事かも知れない。
 カーテナを有するガイエンがそれほど恐れる相手・・それにさっきの口調……僕にも心当たりがある。これはやっとで揃い踏みしたのかも。
 僕は埃が上がる建物を見据えた。


(やられた……なんて事はないよな?)


 それは有る意味、とても良いことの様に思える。けどさ、それじゃあ拍子抜けだよ。それにまだセツリの場所も奴らの正体も確かめてない。それじゃあ困る。
 その時、一斉に周りのモンスターが吠えた。「グオオオオ!」やら「ガアアアアア!」などの叫びが伝染するように続いていく。
 それは自分達の親玉が攻撃された事への怒りであるようにも聞こえるし、悲しみの様にも聞こえなくはない。大量に配置されてるモンスターにそんな感情が設定されてるとは思えないんだけどな。
 これだけタイミングが重なるとそんな事を考える。こいつらを仕切ってる奴はNPCに自我を与える程の奴だ。これが本当の怒りや悲しみでもおかしく無いのかも知れない。


「うる……さい! 何なのよこれ?」


 セラは長い耳を押さえて悪態を付く。まあ流石にこれだけの数が一斉に吠え出したら少し怖い物があるな。するとこれが奴らのきっかけになったらしい。
 無い頭で考えてたモンスター共の思考が単純な物に統合された様に、その赤い目が一斉に光った気がした。そしてその統合された思考は奴らの次の行動をみれば至極単純。


【その目に映るプレイヤーの排除】


 それだけだろう。そもそもこいつらが僕らとガイエン達を見分ける必要なんてないんだからな。単純なモンスター共は決定すると早い。
 奴らはまるで雪崩の様にガイエン達との間を隔てる僕らに向かってくる。大地を揺らすような音が集合してる。こうなったらやるしかない。
 まだアギトとガイエンの邪魔をさせるわけには行かないんだ。


「スオウ!」
「お前は前の敵に集中しとけ。同時進行で行きたかったけど、こうなったら先行は譲ってやる」


 叫んだアギトに僕は余裕の笑みでそう返してやった。そして迫りくるモンスターを見据えて覚悟を決める様に武器を強く握りしめる。
 多分みんながそうしてるだろう。


「いやいや……多過ぎだろアレ」
「やるしかないよエイル。私が守ってあげるから、デカいので援護よろしくね」


 そんな隣の会話も聞こえてきた。既に逃げ腰の奴はまあ、リルレットがいれば大丈夫だろう。実際


「も、勿論だよ。リルを狙う敵は僕が魔法で消し去る!」


 とか言ってる。後衛組は詠唱を開始し、僕ら前衛はそれぞれの武器にスキルの光を纏わせ始める。だけど本当に多い。単発の技じゃそれが終わると同時に押しつぶされそうだ。
 せめてもう一回奴等の動きを止めなくちゃ、長くは僕らだけじゃ持たない。


(やるしかないか、イクシード)


 多分イクシード1だけでも奴等の勢いは削げる筈だ。そしてその間にそれぞれ対処法でも見つけてくれれば幸いだ。みんなの実力はきっと確かだろうから、勢いに飲まれない限り直ぐに戦闘不能なんて事は無いだろう。
 僕はシルフィングを前に突き出し、胸の前で二本を上下に配してその言葉を紡ぐ。


「イクシー」
「切り札見せるには~早過ぎじゃないのかな? 君の相手はそんな雑魚?」
「「「!!」」」


 突如届いた声に僕ら全員が振り返った。だってそれは異様に近くて……視線を向けた瞬間に更に僕らは仰天する。何故ならその声の主は僕らが背中を向け合って作った円の中に居たからだ。
 一瞬で僕には解った。こいつがセツリを浚い、僕にふざけたことを抜かしてきた奴だと。けど、いつの間に? 誰も気付かないなんてあり得るか? もしもこいつにその気があったら、僕らはやられてたかも知れない。
 やられはしなくても確実に数発の攻撃は受けていて体勢も崩されていただろう。けど、目の前の女……そう美女は武器も持たずにただ僕にその艶めかしい微笑みを見せているだけ。
 その顔、姿は声の印象と随分違うな。バカっぽい喋り方するからもっと幼いのかと思ったらそうじゃない。顔は端正で幼いよりも大人びてると言った感じだし、紅い瞳に月を映した様な長い髪はどこぞの天使か、それこそヴァンパイアの様に見えた。
 女神……そう表現した奴の気持ちも分からなくはない。
 体をすっぽりとローブの様な物で隠してるのもその要因かも知れない。僕らは誰もが声を出すことが出来なかった。男性陣は当然でも、女性陣まで言葉が喉に引っかかった様になっている。
 そしてそんなつっかえを取り除こうとみんなが止まってしまってる。後ろにはいきり立ったモンスター共が迫ってるのに、それさえも頭から抜け落ちた様だ。


「あれれ? どうしちゃったのかな? スオウ、何止まってるの? 殺しちゃうよ☆」


 トン……と奴の指が僕の胸を叩く。その瞬間、鼓動が一際大きく鳴った音が聞こえた。僕は必死に体の動かし方を思い出そうと力を込める。だけど動くのは指先位だ。
 後ろの方ももうヤバい。きっと直ぐそこだ。元々そんなに離れてないんだから、少し目を離せばそれが勝敗を分ける要因になったっておかしくない。
 だけど誰もがこいつから目が離せないんだ。モンスター共の叫びが更に大きくなった。目の前の奴を視認でもしたのかも知れない。ならこれは歓喜の叫びかな。
 けれどその思いは届かなかったらしい。何故なら目の前のこいつは次の瞬間言い放ったからだ。


「ちょっとー! うるさいのよアンタ達! 私の楽しい時間を邪魔する気? 少し離れてなさい!」


 そして一気に背中に迫っていた圧迫感が消えた……と言うより意気消沈した感じの空しさが伝わってくるようだった。「ボスボス」と地面を踏みしめる音に勢いがない。
 それから元の位置に戻ったのか目の前の奴が


「よしよし、私が『いい』と言うまでそこで大人しくしてなさい」


 と言った。何とも信じ難いチャンスを不意にした奴だ。僕ら的には助かった訳だから良いんだけど……こいつの目的は何だ? そんな思いが飛来する。
 その時、今度奴は勢いよく180度首を回してアギト達の方を向いた。そして同時に響きわたる何かが衝突するような音と空気の響き。僕らは全員、何が起こったのか分からず体だけが条件反射的にビクっとなった。
 顔を上げてみると腕を曲げて掲げる奴と、その頭上に何かシールドの様な物が僅かに見える。そしてそれは何かとせめぎ合ってる?


「本当に君はセッカチだね☆ 話を終えてからでも良いじゃない。さっきから不意打ちばっかでツッキー驚いちゃうぞ☆」


 頬を片側だけ膨らませて怒った風な表情を装う奴。だけどその仕草が別段気にしてないのを物語ってる。けど、それが気にならないレベルや次元とは考えたくないな。
 何故なら奴が受けてる攻撃はカーテナによる物だからだ。奴が向いている方を追うとそこにはガイエンが居る。そしてそのガイエンはカーテナを振り下ろしてるんだ。だからこれはカーテナの攻撃だろう。
 ガイエンの顔は奴に比べて晴れやかとはいえないけど、だけどそれほどショックを受けてるようにも見えない。ガイエンは奴がこの程度でやられないと予想してたのかも知れないな。


「ふん、片手でカーテナを防ぐような奴が良く言う。それにここは既に戦場。せっかちなど有りはしない」
「まっ、それもそっだね~☆」


 奴は腕を振ってカーテナの攻撃をかき消す。僕はその瞬間を狙って衝撃で回復していた体で二対の剣を振るって奴に迫る。この近さ、避けようも無いはずだ!
 冷静に無言で僕の剣は奴に吸い込まれていく。出した音は踏み出す時の一発のみ。しかしそれでも奴は感付いた様だった。
 けど、僕の取り柄は反射速度とスピードだ。どちらも乱舞で鍛えてきた切り札の足がかり。斬れる確信があった。別に奴はカーテナの攻撃から僕らを守ってくれた訳じゃないだろう。ただ自分が狙われてたから防いだだけ。
 それで僕らが間接的に助けられた形になっても借りなんて思わない。 
 完全に捉えた筈の奴の体……だけど斬れない。紙の様にその軌道をなぞるみたいに剣が食い込まないんだ。


「くそ!」


 だけど奴を遠ざける事には成功した。今の状況は僕達とガイエン達側、その両方の間に奴はいる。たった一人で……だけど奴に緊張の色はみえはしない。まさに化け物だな。
 けど緊張してない奴の周りの僕らやガイエン側は否応無くそんな締め付けに確実にあっていた。あのカーテナを防いだ事はそれだけ大きい。
 攻撃を初めて見た奴ばかりだろうけど、その噂はLRO中で轟く程の武器らしいからな。だからそんな武器の攻撃を片手で防ぎ、尚自分を狙ってる奴らの前に立ちこの余裕。その笑顔が僕らには不吉に見えるんだよ。


「きゃはー☆ いきなりスオウに拒絶されちゃった。私ショック」


 奴にはダメージにすらなってない。僕は今一度奴に向かって武器を向ける。 今一番奴の近くに居るのはアギトだから上手くやれば連携で追い込めるかも知れない。
 丁度アギトは僕の位置から元居たガイエンの場所まで突っ走ってそしてガイエンは吹っ飛んだから、僕が同じように吹っ飛ばした奴はアギトの直ぐ近くなんだ。
 けどガイエンの方も警戒してるアギトは逆に言えばどちらからも攻撃されるって事だ。だから硬直したまま動けない。
 だけど僕は見ていた。アギトのその向こうでガイエンが再びカーテナを構えるのを。そしてそれはアギトだって気づいてるだろう。あの位置ならガイエンは二人を巻き込める。躊躇いはしない。
 奴に通るまでカーテナを降り続けそうな気さえする。そうなったら奴はともかく、巻き込まれたアギトは耐えられない。
 そしてガイエンがカーテナを振ろうとする様が見て取れると、纏まらない頭でも体だけは動こうとした。しかしそれを響く声が征する。


「動くな!! まだ舞台は整って無いでしょう?」


 僕らは奴のその余りの変わりように動けない。冷たい何かが喉元に刃を突き立てた様な気さえした。


「舞台だと? ふざけた事抜かすなよ貴様。整える舞台はこの辺境の村で充分だ。アレをここへ持ってこい!」


 アレ? ガイエンに指示された親衛隊は道を開ける。なんだアレって? ここで出すって事は奴に対しての切り札的物なのかも。
 そう思い、僕は開かれた道から現れるだろう物に注視した。何かを親衛隊が担いでくる。その瞬間、テッケンさんの頭に居たクーが羽ばたき夜空へと舞った。
 そのクーの行動が僕に何かを予感させる。担がれてるのは何だ? 人の足が見える……その足には何かを書かれた黄色い紙が巻かれている。
 そして無造作にガイエンの直ぐ前に捨てられたそれに僕とアギト、シルクちゃんにテッケンさんは同時に声を上げた。


「「「サクヤ!!」」」
「サクヤちゃん!」


 目の前にどうしてサクヤが連れ出されたのか分からない。そんな中、クーがサクヤの傍らに降り立ち近ずくと全身にまで至っていた紙が何か紫色した煙を出し、それがサクヤの中に入っていく。
 そして苦しみ出すサクヤ。だけどそれが異常だ。なんだアレは? 毒なのか?


「こいつはNPCらしい。だから『呪い』と言うウイルスが良く効く様だ。こういう仕様では無い筈だがな」


 ガイエンの言葉が終わる前に僕らは走り出していた。だけど奴の横に来た時、突如何かに弾き返された。そして結局たどり着いたのはアギトだけ。
 そのアギトもカーテナで弾かれる。


「何故来ない? 貴様が求めてたもう一つの物だろう」
「ふふふ、あははっははははは☆ そんなの簡単。君を倒すのが私じゃないからよ。そう、言ったでしょ? 君の相手はほらソコに」


 その瞬間、再びアギトがガイエンとぶつかった。その直ぐ後ろではクーの声がサクヤの悲鳴に絶え間無く消されて行く。

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