命改変プログラム
決戦の地 『タゼホ』
「本当にお前等っていつもいつもアホな事に巻き込まれてるよな。死ねばいいのに。てか、なんでまだ生きてんだ?」
「お前も相変わらず口悪いなエイル。少しはテッケンさんを見習えよちびっ子」
「なんだとー! あの人と一緒にするなぁ!」
『タゼホ』へ向か道中、急いでる割には緊張感無くそんな会話を繰り返してる僕とエイルである。今回も殆どモンスターを見かけない。三日前と同じだな。
もしかして元々配置されてたモンスターを除外する事でその容量まで一杯に奴らはモンスターを召還してるのかも知れない。だからこそあの桁違いの数が居るのだろう。
それかただ単に邪魔だとか? 道を阻む奴らが居ないのは幸いだけど、タゼホに一体どれだけの数のモンスターが現れてるか想像したくないな。
前の森は森だけにどれだけいるかなんて全貌は分からなかったけど、タゼホは小さな村らしいからな。もしかしてモンスターがすし詰め状態とかだったらイヤすぎる。
だけど敵の大部隊も『ジャハラ平原』だから、そこまで……という事は無いだろうと思うけど、どうだろうな。実際奴らがどれだけの数居るのかは具体的には分からないんだ。
アルテミナスを落とすためにその殆どを割いてるのか。それとも僕達の行動を読んでタゼホにも戦力を残してるのか……ぎりぎりまで見つけられなかった僕らには分からない。
「どうしたんだよ急に黙って? 死ぬところでも想像したか?」
うぐ……このちびっ子は本当に洒落に成らないことを連発するな。自殺願望でもあるんじゃないか?
「お前のその冗談、僕には冗談に成らないんだよ。自制しとけ」
「言ったくらいで死ぬ玉だったのかよお前」
ううん? なんだそれ? もしかしてエイルの「死ね死ね」言う口癖は気遣いの現れとか。なんて分かりにくいんだ。けど、実際そうかは分からないし……そうとはとても思えない。
言いくるめられてる? 視界の横をちょこちょこ走ってるもう一人のモブリは要注意だからな。
「死なないけど縁起は悪いだろ。僕達は負けるわけには行かないんだよ」
「俺らからみたら負けない事の方が不思議な位だけどな」
「じゃあなんで僕の話に乗ったんだよ。負けたらリスクしか無いのにさ」
まあそのリスクも、具体的な『死』なんて物じゃなくゲームでのデスペナルティだろうから気にしないでくれる人だって居る。
主にテッケンさんとか。どうやら彼は三日前の森でやっぱりやられてたらしいからな。そして復活地点に設定してたアルテミナスに戻ったとき、連続するかも知れないデスペナルティを恐れずにアギトを助ける為にアルテミナス軍に向かったんだ。
だから僕らはあの時合流できた。もしもアルテミナスの現状を知らなかった僕らがのこのこ戻ってたらどうなってたか分からない。
多分だけど楽しくない結果に成ってただろう。それもこれもテッケンさんのリスクを恐れない行動のおかげ。僕らの中では一番彼がヒーローかも知れないな。だから隣のエイルにも同じモブリという種族として、せめてテッケンさんの十分の一位の心意気を持ってほしい。
まあ、協力して貰ってるのはこっちなんだからそんなこと言えないけど。本当になら何で僕の話に乗ったんだろうかコイツ。
「それはだな……まあつまり……」
歯切り悪くエイルは呟いて後ろを振り返っている。僕もつられてその視線を追ってみた。そこにはリルレットの姿がある。
「ああ、なるほどな」
「なあ、アイツどうだと思う? リルの事どう思ってるのか知ってるか?」
「いや……まあ、それは知らないけどさ。僕達が誰を助けに行こうとしてると思ってんだよ」
エイルはいつも不機嫌そうにブスッとしてるけど、僕よりもアイツが居るとその顔は更に険しくなる。なかなか面白く無いように見えるみたいだ。
「はあ、あの子だろ? あの悪魔に囚われてた子。それが何だよ」
それが何だよとは言ってくれるな。まあエイルにとってはそれより重要な事がアレ……何だろうけどさ。乗り気じゃないのに付いてきたのはそもそもリルレットが協力するって言ったからか。
そう言えば最初にそう言ったのはリルレットだった。エイルは渋々付いてきただけ……と言うか心配事が僕らにはあったから。
そしてその心配事は的中した感じな訳だ。リルレットの横にはアギトが居る。それがイヤなんだなエイルはさ。リルレットはアギトを好いてる……てか、憧れてる感じだからな。
でもだからこそ、これから助けようとアギトがしてる人が重要な訳だよ。リルレットの心がどっちかは知らないけど、アギトの心は決まってると思う。
「だからセツリだけじゃないんだよ。今回はな。アギトもアギトで助けなきゃいけない人が居るんだ。だから安心しとけよ」
「ああ、つまりアイツはその人の事をって事か! なぁ~んだ」
僕の言葉を聞くとエイルは嬉しそうにその小さな体で跳ねていた。だけどその時直ぐ横からテンションを下げるような言葉が入った。
「幾ら喜んだところであの子があなたに振り向くとは思えないけど」
「ああん!?」
ぐるっと回ってきた顔が僕を睨む。確かに僕の方から聞こえたかも知れないが僕じゃないぞ。言ったのは僕の影に隠れてるセラだ。
「どう言うことだよ! ってか別に僕はそんなこと思っても……」
今更エイルは自身の気持ちを隠すような事を言うけど、それは遅すぎる。さっきの行動と発言でバレバレだ。それは初対面で有るはずのセラにもさ。
「まあ私には関係無いことで興味も無いからどうでもいいけど、あの子の視界に入りたいんなら一回告白でもしてみたら?」
「ぶっ!? はあぁ? 何言ってるんだよアンタ!」
エイルは仰天して転びそうになった。そして密かに僕も仰天してたよ。マジ何言ってるんだセラの奴。
「俺は視界に入りたいからずっと一緒に……それにそう言う対象に見られてないって知ってるし。けど一緒にいればいつかはとか、それだけで……」
「そんなのずっとそれが続いて終わりに決まってるじゃない」
ズガーン! と目に見えない何かが振り卸された気がした。そしてそれはエイルの精神に直撃してる。フラフラと蛇行してスピードも落ちて後ろの方へ。
そしてリルレット達がそんなエイルを発見した。
「ちょっと、エイルどうしたの? 具合悪い?」
「大丈夫かエイル?」
心配されたい人と心配されたくない人に同時に声を掛けられるエイル。有る意味あの光景も無様だな。リルレットはフラフラのエイルを抱き上げてこちらに近寄ってきた。
「一体どうしたの?」
「いや、何て言うかその……なあ」
本人には流石にいえない。それに僕はこういう恋愛沙汰には免疫がないんだ。だから原因の発端を作ったセラに助けを求めた。
「別に何でも無いですよ。ただちょっと恋の極意を教えてあげただけです」
「恋!? えっえ? そうなのエイル? 誰々? 私知ってるかな?」
瞳をキラキラ輝かせて抱き抱えるエイルに言葉を掛けるリルレット。流石女の子。こういう話は大好物らしい。だけどその言葉はエイルには可哀想だよ。
なるほどね。本当にリルレットはエイルに眼中無いみたいだ。自分には結びつかないんだな。エイルがリルレットと一緒に居る理由は分かったけど、じゃあリルレットは何でエイルと一緒に行動してるんだろう。
エイルがしつこいからとかだったら笑えるけど、リルレットはそういう子じゃないし……少しは脈有りそうな気もするけどな。
そして当のエイルは大好きな子の腕に包まれて幸せそうで辛そうな複雑な感情を表現してた。そして決め込んでるのは無視だ。まあそれしか出来ないだろう。
リルレットは何も言わないエイルから目を離して僕らに交互に視線を送る。
「僕はまあ……何ともいえないな」
「別に貴女が気にする事じゃないですよ。的確なアドバイスをしましたから。とっとと告白しろと」
ゲホ、ゴホっとエイルは噎せる。何当人に言ってるんだと非難の目が見て取れるが、セラはぬいぐるみ化してるエイルには視線を向けない。こっちも無視だ。
「こ……告白ですか?」
セラの言葉を聞いたリルレットは頬を染めてセラの言葉に聞き返してる。これが普通の女の子の反応かな?
「ええ、話を聞く限りその彼は彼女の視界にも入ってないので、まずは告白で強制的に視界に入る様にしなさいと言うことですよ。
告白されれば大なり小なり相手を意識してしまう物ですからね。だからフラれてもまずはいいんです。というかまずはフラれるでしょう。
けど始まってもいない勝負で負けたままでいるよりは良いじゃないですか。強制的にゴングを打ってそれからですよ」
「な、なるほど~。確かに告白されたらその人の事、意識しちゃいますよね」
セラの案はかなり強引だと思うけど、リルレットは頻りに感心してる。そしてリルレットの発言に腕の中のエイルは何か思案しているのを僕は見逃さなかった。
試してみようとか思ってそうだな。この戦いが終わって次に会った時、二人一緒に居なかったらきっとそれはセラのせいだろうな。
「そうそう、告白から始まる恋もありますよ」
「そうですね。自然と見る機会が増えたりしちゃいそうですもんね」
意外に二人は気が合うのか良い感じだ。まあ何故かセラがブラックな一面を隠してるからかも知れないけどさ。アイツはシルクちゃんにも対応良いし……もしかして女の子の方が好きとか!?
それは凄い事実に気付いてしまったかも知れない。
「ちょっとアンタ。何か変な事考えてない?」
超直感。女の感って怖え~と思った瞬間。僕はしどろもどろに言葉で誤魔化す。
「いや~別に、何でも無いよ。感心してただけだ。女の子って本当にそういう話好きだな~ってさ」
「まあ女子ですから」
何故かセラは鼻を高くしてそう言った。そしてリルレットも「うんうん」と頷く。まあこのことは僕の胸にしまっておこう。そう他言出来る事じゃないしな。
吹きすさぶ風が次第に重さを乗せていく様に感じる。それか重い空気を前から感じるとでも言うのか……そんな気がしてくる。
多分タゼホはもうそんな遠くない。それなりに距離は短縮してたからな。ノウイのスキル『ミラージュコロイド』とかでさ。でも流石にこの人数を連続して瞬間移動出来ないらしいから、こうして走ってもいる訳だ。
「おい、スオウ。なんでガイエンの奴はわざわざアイリを戦場に連れていく? アイツはもうカーテナを自由に使えるんだ。そんな必要ないだろう」
いつの間にか横に並んでいたアギトがそんな事を言う。それはもう一つのノウイからの情報だ。ガイエンがわざわざアイリともう一人を親衛隊の他に連れ立ったってさ。
まあアギトの疑問は分かるよ。けど……僕達は集めた情報で一つの可能性を考えている。
「そうでもないかも知れないんだろ。良く思い出せよアギト。ガイエンがカーテナを使ってる時、黒い影だっけ? カーテナの呪いって奴はガイエンじゃなくアイリに出てたんだろ?」
「そういえば……そうだったな」
アギトのあの日の事を思い出すように少し遠くを見るように空を仰いだ。そして自分の不甲斐無い姿も思い出したのか、少し唇を噛んでいた。
そんな様子を横目で僕は再び口を開く。
「つまり、まあもしかしたらだけどさ。奴がカーテナを使えるのには制約が有るんじゃないかって事だ。例えばアイリが一定距離以内に居ないとその力を使えないとかさ。
それは殆ど憶測だったけど……奴がアイリまで連れ出したとなると結構当たってるかも知れないな。ノウイが言ってた『リア・ファル』とか言うアイテム……あれがそもそもおかしいとかさ思わないかアギト」
「おかしい? 確かにあんなアイテム聞いたことも無かったが、LROは広大だ。誰にも知られてないアイテムが有ったって不思議じゃない」
それはまあ、そうかもな。アギトは僕より一年以上早くLROに来てるんだから、そう言われると僕にはなかなか返しようが無い気もする。
けどここで僕と同じ様な考えのセラが出てきてくれた。
「確かに……そのアイテムが正規のルートで出現した物という線も無くはないです。このLROは新アイテムが日々発見されるような世界ですからね。
しかしアギト様。何でも整い過ぎてたらそれは偶然では済まなくなる物ですよ」
「整い過ぎてる?」
セラの言葉に更に不信感を募らせたようなアギト。そしてこの会話には今ここに居るみんなが耳を澄ましてる様な気がするな。
「ええ、モンスターの大量出現にクーデター時の状況は色々と重なります。思い出してください。アギト様が一番それを直に感じてる筈です。
そしてその時感じた『なんで』『どうして』を繋げると一つの推測にたどり着きます……それは」
「ガイエンの奴がセツリを浚った奴と繋がってた?」
まさに肌で感じてたアギトは僅かな会話でそこへ思考を持っていった。まあ頭悪い奴じゃ無いし……ゲームの事になると特にだから、予想よりも早かった。
そしてそんなアギトの発言に驚いてるのは、周りのシルクちゃんテッケンさん鍛冶屋を抜いた面々だ。そう言えばここら辺は伝えてなかったよな。
僕は「ふえぇぇぇ」とか言ってるリルレットとかに視線投げて言ってあげる。
「まあそれも臆測だよ。確証はない。ただ、そうとも考えられるだけ」
「だけどその臆測の上でなら『リア・ファル』の存在を百歩譲って認める事が出来ます」
「どういう事だ?」
アギトは今度こそ首を捻ってる。そして周りのみんなは答えが欲しくてウズウズしてるのが効果音で聞こえてきそうだ。答えと呼べる程の事でもないんだけどね。
話さなかったのはそれが主な原因だ。確証が無い情報なんて無駄じゃん。しかし百歩譲ってって随分セラは譲った物だ。コイツの性格上それは希だろう。
「アギト様にはまだ話して無かったですが、私達は『復活の泉』で敵の情報を入手しました。それに寄るとどうやらモンスターを率いてる奴はシステムの裏側の存在らしいです」
「システムの裏側って何だよ?」
うん、まあそうなるよな。実際僕らもそこら辺はわからない。周りにも一杯ハテナが見える。
「厳密にはわかりませんけど、システムに介入出来るって事じゃないでしょうか? その力があれば誰も知り得ないアイテムの情報も……いいえ、もしかしたら創造だって出来るかも知れません」
「それでガイエンはあんな物を……でも待てよ。ガイエン側とモンスターが繋がってたのなら何で今潰し合おうとしてるんだよ?」
それは当然そこに行き当たる。僕もセラもそうだった。けどそれはガイエンの性格を知ってるアギトなら既に分かってると思うんだ。だから言ってやろう。
そろそろセラに取られた役を取り戻す為に。
「そんなの簡単だろアギト? それぞれが目的を達したからだよ。ガイエンは国を、敵の親玉はセツリを手に入れて目的は達成してる。
そしたら後はただ邪魔なだけだ。敵の方は知らないけどさ、ガイエンは自国の領土を占拠されてるのを我慢出来る質じゃないだろ?」
「確かに……そうだな。アイツはエルフに誰よりも強い誇りを持っている。だからそんな事許して置けるはずが最初からない」
「だろうな。元々仲間意識なんてない、ただの協力関係……いやそうでもないな。ただどっちも利用したに過ぎないんだろうさ」
だからこうして潰し合おうとしてるんだ。それぞれを利用して、用が済んだらポイッと捨てる事を初めから考えてたんだろう。
「ガイエンの奴……なんでそこまで……」
強く強く、アギトは拳を握っていた。確かに本当に、そう言いたくなる。僕はガイエンの事を殆ど知らないから「あのクソ野郎がぁ!!」て感情だけだけど、アギトはきっとそうじゃないんだろう。セラに少し聞いたけど、アギトとガイエンとアイリは三人でアルテミナスを変える為に立ち上がったとかどうとか。
いわば同士みたいな物だったんだろう。それなのに違ってしまったそれぞれの道。僕には分からないけど、端からみたらそう見える。
その時先頭を走るノウイが声を上げる。
「ここを抜ければ眼下にタゼホが見えるっす。いよいよっすよ。天国か地獄かっす」
ノウイが言う天国はモンスターが余り居ないって事だろうけど、残念ながらそんな期待はみんなしてないと思う。というか伝わってくる物をみんな肌で感じてる。
多分モンスターは居るだろう。多分だけど絶対という矛盾を抱えながら少なくとも僕はそう思っている。空気が震えてる気がする。重い風はそれだけ吹いてくる場所が通り難いからじゃないかと感じる。
そして僕らは遂に『タゼホ』を視界に捉えた。その村は本当に直ぐ下に広がっている様だ。どうやらタゼホは崖の下に作られた村みたいで、僕らはその崖の上に居る。
でもこの崖を下ることは出来そうにない。まさに断崖絶壁風に直角に切り立っていて落ちたらそれだけでHPは尽きそうだ。
タゼホの村は後ろを崖に、前を川に挟まれて自然の城壁を築いてる訳だ。進入するならあの川に有る正門からしかアプローチの手段は無い様に思えるな。普通は。
「良く見つけたなこんな場所。なんでここにはモンスター居ないんだよ」
「俺怖いのイヤっすから。それに逃げ続けてると自然とわかるんすよ、穴の開いたような空間が。後ここからじゃタゼホには進入ルートないっすからね。
だからここには奴らは居ないっす」
う~ん格好良いのか悪いのかよく分からない発言だ。素直に凄いとは思うんだけどね。眼下に有るタゼホの村を眺めるとやはりモンスターの姿が確認できる。でも思ったけどここ崖だから風ってあんまり関係なかったな。
僕の所に届いてた風は奴らの影響受けてねーよ。ただそうだな、一概に外れても無かったし良しとしよう。
「本当に村をモンスターが蹂躙してますね」
マジマジとタゼホを見ていたリルレットがそんな事を言った。それは信じられない様な物を見る声。確かに眼下に広がる光景は異常な物だ。
今夜は月が無く暗いからかモンスターどもは松明の火を掲げている。そこかしこから見えるそんな明かりのおかげでタゼホの全容を何とか知ることが出来る感じだけど、逆に言うとそれだけ満遍なくモンスターが居ると言うことだ。
その時轟音が響いて村の正門が砕かれた。一斉に松明の明かりがそちらへ移動を始める。
「な、何ですか?」
「ガイエン達だろ。アギト!」
僕の言葉にアギトが進み出る。眼下には白い鎧がチラホラ見え始め、そして巨大な力が次々に建物ごとモンスターを押しつぶし吹き飛ばす。あれがカーテナの力。
「ああ、あそこにアイリが居る。ノウイ頼む」
「ハイっす! ミラージュコロイドがここからの道を作るっす!」
宙に浮く鏡が直線に並ぶ。僕達がここに出たのは安全でそして道があったから。みんなを見渡すとそれぞれが頷いてくれる。ここまで来て怖じ気付く奴らじゃないな。
「行こうアギト。伸ばした手が届く所まで!」
「よし!」
アギトを筆頭に僕らは鏡へ一斉に飛び込んだ。月の無い空を僕達は一瞬で駆け抜ける。
飛び出したのは地面と空の中間。親衛隊とモンスター共の絡み合う頭上。突然現れた僕らにその場の全員が固まった。僕とアギトは武器を振るい、降り立つ空間を作る。
最後に出てきたノウイが何故か着地をミスったのは謎だが、その時既に二人は睨み合っていた。
「アギト……貴様今更何しに来た?」
「アイリを助ける為……そしてお前を止める為だガイエン!」
「お前も相変わらず口悪いなエイル。少しはテッケンさんを見習えよちびっ子」
「なんだとー! あの人と一緒にするなぁ!」
『タゼホ』へ向か道中、急いでる割には緊張感無くそんな会話を繰り返してる僕とエイルである。今回も殆どモンスターを見かけない。三日前と同じだな。
もしかして元々配置されてたモンスターを除外する事でその容量まで一杯に奴らはモンスターを召還してるのかも知れない。だからこそあの桁違いの数が居るのだろう。
それかただ単に邪魔だとか? 道を阻む奴らが居ないのは幸いだけど、タゼホに一体どれだけの数のモンスターが現れてるか想像したくないな。
前の森は森だけにどれだけいるかなんて全貌は分からなかったけど、タゼホは小さな村らしいからな。もしかしてモンスターがすし詰め状態とかだったらイヤすぎる。
だけど敵の大部隊も『ジャハラ平原』だから、そこまで……という事は無いだろうと思うけど、どうだろうな。実際奴らがどれだけの数居るのかは具体的には分からないんだ。
アルテミナスを落とすためにその殆どを割いてるのか。それとも僕達の行動を読んでタゼホにも戦力を残してるのか……ぎりぎりまで見つけられなかった僕らには分からない。
「どうしたんだよ急に黙って? 死ぬところでも想像したか?」
うぐ……このちびっ子は本当に洒落に成らないことを連発するな。自殺願望でもあるんじゃないか?
「お前のその冗談、僕には冗談に成らないんだよ。自制しとけ」
「言ったくらいで死ぬ玉だったのかよお前」
ううん? なんだそれ? もしかしてエイルの「死ね死ね」言う口癖は気遣いの現れとか。なんて分かりにくいんだ。けど、実際そうかは分からないし……そうとはとても思えない。
言いくるめられてる? 視界の横をちょこちょこ走ってるもう一人のモブリは要注意だからな。
「死なないけど縁起は悪いだろ。僕達は負けるわけには行かないんだよ」
「俺らからみたら負けない事の方が不思議な位だけどな」
「じゃあなんで僕の話に乗ったんだよ。負けたらリスクしか無いのにさ」
まあそのリスクも、具体的な『死』なんて物じゃなくゲームでのデスペナルティだろうから気にしないでくれる人だって居る。
主にテッケンさんとか。どうやら彼は三日前の森でやっぱりやられてたらしいからな。そして復活地点に設定してたアルテミナスに戻ったとき、連続するかも知れないデスペナルティを恐れずにアギトを助ける為にアルテミナス軍に向かったんだ。
だから僕らはあの時合流できた。もしもアルテミナスの現状を知らなかった僕らがのこのこ戻ってたらどうなってたか分からない。
多分だけど楽しくない結果に成ってただろう。それもこれもテッケンさんのリスクを恐れない行動のおかげ。僕らの中では一番彼がヒーローかも知れないな。だから隣のエイルにも同じモブリという種族として、せめてテッケンさんの十分の一位の心意気を持ってほしい。
まあ、協力して貰ってるのはこっちなんだからそんなこと言えないけど。本当になら何で僕の話に乗ったんだろうかコイツ。
「それはだな……まあつまり……」
歯切り悪くエイルは呟いて後ろを振り返っている。僕もつられてその視線を追ってみた。そこにはリルレットの姿がある。
「ああ、なるほどな」
「なあ、アイツどうだと思う? リルの事どう思ってるのか知ってるか?」
「いや……まあ、それは知らないけどさ。僕達が誰を助けに行こうとしてると思ってんだよ」
エイルはいつも不機嫌そうにブスッとしてるけど、僕よりもアイツが居るとその顔は更に険しくなる。なかなか面白く無いように見えるみたいだ。
「はあ、あの子だろ? あの悪魔に囚われてた子。それが何だよ」
それが何だよとは言ってくれるな。まあエイルにとってはそれより重要な事がアレ……何だろうけどさ。乗り気じゃないのに付いてきたのはそもそもリルレットが協力するって言ったからか。
そう言えば最初にそう言ったのはリルレットだった。エイルは渋々付いてきただけ……と言うか心配事が僕らにはあったから。
そしてその心配事は的中した感じな訳だ。リルレットの横にはアギトが居る。それがイヤなんだなエイルはさ。リルレットはアギトを好いてる……てか、憧れてる感じだからな。
でもだからこそ、これから助けようとアギトがしてる人が重要な訳だよ。リルレットの心がどっちかは知らないけど、アギトの心は決まってると思う。
「だからセツリだけじゃないんだよ。今回はな。アギトもアギトで助けなきゃいけない人が居るんだ。だから安心しとけよ」
「ああ、つまりアイツはその人の事をって事か! なぁ~んだ」
僕の言葉を聞くとエイルは嬉しそうにその小さな体で跳ねていた。だけどその時直ぐ横からテンションを下げるような言葉が入った。
「幾ら喜んだところであの子があなたに振り向くとは思えないけど」
「ああん!?」
ぐるっと回ってきた顔が僕を睨む。確かに僕の方から聞こえたかも知れないが僕じゃないぞ。言ったのは僕の影に隠れてるセラだ。
「どう言うことだよ! ってか別に僕はそんなこと思っても……」
今更エイルは自身の気持ちを隠すような事を言うけど、それは遅すぎる。さっきの行動と発言でバレバレだ。それは初対面で有るはずのセラにもさ。
「まあ私には関係無いことで興味も無いからどうでもいいけど、あの子の視界に入りたいんなら一回告白でもしてみたら?」
「ぶっ!? はあぁ? 何言ってるんだよアンタ!」
エイルは仰天して転びそうになった。そして密かに僕も仰天してたよ。マジ何言ってるんだセラの奴。
「俺は視界に入りたいからずっと一緒に……それにそう言う対象に見られてないって知ってるし。けど一緒にいればいつかはとか、それだけで……」
「そんなのずっとそれが続いて終わりに決まってるじゃない」
ズガーン! と目に見えない何かが振り卸された気がした。そしてそれはエイルの精神に直撃してる。フラフラと蛇行してスピードも落ちて後ろの方へ。
そしてリルレット達がそんなエイルを発見した。
「ちょっと、エイルどうしたの? 具合悪い?」
「大丈夫かエイル?」
心配されたい人と心配されたくない人に同時に声を掛けられるエイル。有る意味あの光景も無様だな。リルレットはフラフラのエイルを抱き上げてこちらに近寄ってきた。
「一体どうしたの?」
「いや、何て言うかその……なあ」
本人には流石にいえない。それに僕はこういう恋愛沙汰には免疫がないんだ。だから原因の発端を作ったセラに助けを求めた。
「別に何でも無いですよ。ただちょっと恋の極意を教えてあげただけです」
「恋!? えっえ? そうなのエイル? 誰々? 私知ってるかな?」
瞳をキラキラ輝かせて抱き抱えるエイルに言葉を掛けるリルレット。流石女の子。こういう話は大好物らしい。だけどその言葉はエイルには可哀想だよ。
なるほどね。本当にリルレットはエイルに眼中無いみたいだ。自分には結びつかないんだな。エイルがリルレットと一緒に居る理由は分かったけど、じゃあリルレットは何でエイルと一緒に行動してるんだろう。
エイルがしつこいからとかだったら笑えるけど、リルレットはそういう子じゃないし……少しは脈有りそうな気もするけどな。
そして当のエイルは大好きな子の腕に包まれて幸せそうで辛そうな複雑な感情を表現してた。そして決め込んでるのは無視だ。まあそれしか出来ないだろう。
リルレットは何も言わないエイルから目を離して僕らに交互に視線を送る。
「僕はまあ……何ともいえないな」
「別に貴女が気にする事じゃないですよ。的確なアドバイスをしましたから。とっとと告白しろと」
ゲホ、ゴホっとエイルは噎せる。何当人に言ってるんだと非難の目が見て取れるが、セラはぬいぐるみ化してるエイルには視線を向けない。こっちも無視だ。
「こ……告白ですか?」
セラの言葉を聞いたリルレットは頬を染めてセラの言葉に聞き返してる。これが普通の女の子の反応かな?
「ええ、話を聞く限りその彼は彼女の視界にも入ってないので、まずは告白で強制的に視界に入る様にしなさいと言うことですよ。
告白されれば大なり小なり相手を意識してしまう物ですからね。だからフラれてもまずはいいんです。というかまずはフラれるでしょう。
けど始まってもいない勝負で負けたままでいるよりは良いじゃないですか。強制的にゴングを打ってそれからですよ」
「な、なるほど~。確かに告白されたらその人の事、意識しちゃいますよね」
セラの案はかなり強引だと思うけど、リルレットは頻りに感心してる。そしてリルレットの発言に腕の中のエイルは何か思案しているのを僕は見逃さなかった。
試してみようとか思ってそうだな。この戦いが終わって次に会った時、二人一緒に居なかったらきっとそれはセラのせいだろうな。
「そうそう、告白から始まる恋もありますよ」
「そうですね。自然と見る機会が増えたりしちゃいそうですもんね」
意外に二人は気が合うのか良い感じだ。まあ何故かセラがブラックな一面を隠してるからかも知れないけどさ。アイツはシルクちゃんにも対応良いし……もしかして女の子の方が好きとか!?
それは凄い事実に気付いてしまったかも知れない。
「ちょっとアンタ。何か変な事考えてない?」
超直感。女の感って怖え~と思った瞬間。僕はしどろもどろに言葉で誤魔化す。
「いや~別に、何でも無いよ。感心してただけだ。女の子って本当にそういう話好きだな~ってさ」
「まあ女子ですから」
何故かセラは鼻を高くしてそう言った。そしてリルレットも「うんうん」と頷く。まあこのことは僕の胸にしまっておこう。そう他言出来る事じゃないしな。
吹きすさぶ風が次第に重さを乗せていく様に感じる。それか重い空気を前から感じるとでも言うのか……そんな気がしてくる。
多分タゼホはもうそんな遠くない。それなりに距離は短縮してたからな。ノウイのスキル『ミラージュコロイド』とかでさ。でも流石にこの人数を連続して瞬間移動出来ないらしいから、こうして走ってもいる訳だ。
「おい、スオウ。なんでガイエンの奴はわざわざアイリを戦場に連れていく? アイツはもうカーテナを自由に使えるんだ。そんな必要ないだろう」
いつの間にか横に並んでいたアギトがそんな事を言う。それはもう一つのノウイからの情報だ。ガイエンがわざわざアイリともう一人を親衛隊の他に連れ立ったってさ。
まあアギトの疑問は分かるよ。けど……僕達は集めた情報で一つの可能性を考えている。
「そうでもないかも知れないんだろ。良く思い出せよアギト。ガイエンがカーテナを使ってる時、黒い影だっけ? カーテナの呪いって奴はガイエンじゃなくアイリに出てたんだろ?」
「そういえば……そうだったな」
アギトのあの日の事を思い出すように少し遠くを見るように空を仰いだ。そして自分の不甲斐無い姿も思い出したのか、少し唇を噛んでいた。
そんな様子を横目で僕は再び口を開く。
「つまり、まあもしかしたらだけどさ。奴がカーテナを使えるのには制約が有るんじゃないかって事だ。例えばアイリが一定距離以内に居ないとその力を使えないとかさ。
それは殆ど憶測だったけど……奴がアイリまで連れ出したとなると結構当たってるかも知れないな。ノウイが言ってた『リア・ファル』とか言うアイテム……あれがそもそもおかしいとかさ思わないかアギト」
「おかしい? 確かにあんなアイテム聞いたことも無かったが、LROは広大だ。誰にも知られてないアイテムが有ったって不思議じゃない」
それはまあ、そうかもな。アギトは僕より一年以上早くLROに来てるんだから、そう言われると僕にはなかなか返しようが無い気もする。
けどここで僕と同じ様な考えのセラが出てきてくれた。
「確かに……そのアイテムが正規のルートで出現した物という線も無くはないです。このLROは新アイテムが日々発見されるような世界ですからね。
しかしアギト様。何でも整い過ぎてたらそれは偶然では済まなくなる物ですよ」
「整い過ぎてる?」
セラの言葉に更に不信感を募らせたようなアギト。そしてこの会話には今ここに居るみんなが耳を澄ましてる様な気がするな。
「ええ、モンスターの大量出現にクーデター時の状況は色々と重なります。思い出してください。アギト様が一番それを直に感じてる筈です。
そしてその時感じた『なんで』『どうして』を繋げると一つの推測にたどり着きます……それは」
「ガイエンの奴がセツリを浚った奴と繋がってた?」
まさに肌で感じてたアギトは僅かな会話でそこへ思考を持っていった。まあ頭悪い奴じゃ無いし……ゲームの事になると特にだから、予想よりも早かった。
そしてそんなアギトの発言に驚いてるのは、周りのシルクちゃんテッケンさん鍛冶屋を抜いた面々だ。そう言えばここら辺は伝えてなかったよな。
僕は「ふえぇぇぇ」とか言ってるリルレットとかに視線投げて言ってあげる。
「まあそれも臆測だよ。確証はない。ただ、そうとも考えられるだけ」
「だけどその臆測の上でなら『リア・ファル』の存在を百歩譲って認める事が出来ます」
「どういう事だ?」
アギトは今度こそ首を捻ってる。そして周りのみんなは答えが欲しくてウズウズしてるのが効果音で聞こえてきそうだ。答えと呼べる程の事でもないんだけどね。
話さなかったのはそれが主な原因だ。確証が無い情報なんて無駄じゃん。しかし百歩譲ってって随分セラは譲った物だ。コイツの性格上それは希だろう。
「アギト様にはまだ話して無かったですが、私達は『復活の泉』で敵の情報を入手しました。それに寄るとどうやらモンスターを率いてる奴はシステムの裏側の存在らしいです」
「システムの裏側って何だよ?」
うん、まあそうなるよな。実際僕らもそこら辺はわからない。周りにも一杯ハテナが見える。
「厳密にはわかりませんけど、システムに介入出来るって事じゃないでしょうか? その力があれば誰も知り得ないアイテムの情報も……いいえ、もしかしたら創造だって出来るかも知れません」
「それでガイエンはあんな物を……でも待てよ。ガイエン側とモンスターが繋がってたのなら何で今潰し合おうとしてるんだよ?」
それは当然そこに行き当たる。僕もセラもそうだった。けどそれはガイエンの性格を知ってるアギトなら既に分かってると思うんだ。だから言ってやろう。
そろそろセラに取られた役を取り戻す為に。
「そんなの簡単だろアギト? それぞれが目的を達したからだよ。ガイエンは国を、敵の親玉はセツリを手に入れて目的は達成してる。
そしたら後はただ邪魔なだけだ。敵の方は知らないけどさ、ガイエンは自国の領土を占拠されてるのを我慢出来る質じゃないだろ?」
「確かに……そうだな。アイツはエルフに誰よりも強い誇りを持っている。だからそんな事許して置けるはずが最初からない」
「だろうな。元々仲間意識なんてない、ただの協力関係……いやそうでもないな。ただどっちも利用したに過ぎないんだろうさ」
だからこうして潰し合おうとしてるんだ。それぞれを利用して、用が済んだらポイッと捨てる事を初めから考えてたんだろう。
「ガイエンの奴……なんでそこまで……」
強く強く、アギトは拳を握っていた。確かに本当に、そう言いたくなる。僕はガイエンの事を殆ど知らないから「あのクソ野郎がぁ!!」て感情だけだけど、アギトはきっとそうじゃないんだろう。セラに少し聞いたけど、アギトとガイエンとアイリは三人でアルテミナスを変える為に立ち上がったとかどうとか。
いわば同士みたいな物だったんだろう。それなのに違ってしまったそれぞれの道。僕には分からないけど、端からみたらそう見える。
その時先頭を走るノウイが声を上げる。
「ここを抜ければ眼下にタゼホが見えるっす。いよいよっすよ。天国か地獄かっす」
ノウイが言う天国はモンスターが余り居ないって事だろうけど、残念ながらそんな期待はみんなしてないと思う。というか伝わってくる物をみんな肌で感じてる。
多分モンスターは居るだろう。多分だけど絶対という矛盾を抱えながら少なくとも僕はそう思っている。空気が震えてる気がする。重い風はそれだけ吹いてくる場所が通り難いからじゃないかと感じる。
そして僕らは遂に『タゼホ』を視界に捉えた。その村は本当に直ぐ下に広がっている様だ。どうやらタゼホは崖の下に作られた村みたいで、僕らはその崖の上に居る。
でもこの崖を下ることは出来そうにない。まさに断崖絶壁風に直角に切り立っていて落ちたらそれだけでHPは尽きそうだ。
タゼホの村は後ろを崖に、前を川に挟まれて自然の城壁を築いてる訳だ。進入するならあの川に有る正門からしかアプローチの手段は無い様に思えるな。普通は。
「良く見つけたなこんな場所。なんでここにはモンスター居ないんだよ」
「俺怖いのイヤっすから。それに逃げ続けてると自然とわかるんすよ、穴の開いたような空間が。後ここからじゃタゼホには進入ルートないっすからね。
だからここには奴らは居ないっす」
う~ん格好良いのか悪いのかよく分からない発言だ。素直に凄いとは思うんだけどね。眼下に有るタゼホの村を眺めるとやはりモンスターの姿が確認できる。でも思ったけどここ崖だから風ってあんまり関係なかったな。
僕の所に届いてた風は奴らの影響受けてねーよ。ただそうだな、一概に外れても無かったし良しとしよう。
「本当に村をモンスターが蹂躙してますね」
マジマジとタゼホを見ていたリルレットがそんな事を言った。それは信じられない様な物を見る声。確かに眼下に広がる光景は異常な物だ。
今夜は月が無く暗いからかモンスターどもは松明の火を掲げている。そこかしこから見えるそんな明かりのおかげでタゼホの全容を何とか知ることが出来る感じだけど、逆に言うとそれだけ満遍なくモンスターが居ると言うことだ。
その時轟音が響いて村の正門が砕かれた。一斉に松明の明かりがそちらへ移動を始める。
「な、何ですか?」
「ガイエン達だろ。アギト!」
僕の言葉にアギトが進み出る。眼下には白い鎧がチラホラ見え始め、そして巨大な力が次々に建物ごとモンスターを押しつぶし吹き飛ばす。あれがカーテナの力。
「ああ、あそこにアイリが居る。ノウイ頼む」
「ハイっす! ミラージュコロイドがここからの道を作るっす!」
宙に浮く鏡が直線に並ぶ。僕達がここに出たのは安全でそして道があったから。みんなを見渡すとそれぞれが頷いてくれる。ここまで来て怖じ気付く奴らじゃないな。
「行こうアギト。伸ばした手が届く所まで!」
「よし!」
アギトを筆頭に僕らは鏡へ一斉に飛び込んだ。月の無い空を僕達は一瞬で駆け抜ける。
飛び出したのは地面と空の中間。親衛隊とモンスター共の絡み合う頭上。突然現れた僕らにその場の全員が固まった。僕とアギトは武器を振るい、降り立つ空間を作る。
最後に出てきたノウイが何故か着地をミスったのは謎だが、その時既に二人は睨み合っていた。
「アギト……貴様今更何しに来た?」
「アイリを助ける為……そしてお前を止める為だガイエン!」
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