命改変プログラム
入道雲の空の下
あの遊園地から何も音沙汰が無く一日が過ぎていた。誰からも届かないメール……みんな意外と薄情な奴らだ。まあ、別にそれで良いんだけどさ。
けれど結局、スオウがあんな事を最後に言うから俺は今日と言う日までモンモンとなっている訳だ。もう、考えたくもない……その筈なのに、目が覚めて最初にしたのはメールのチェックで、LROの掲示板を眺めること。
習慣とは恐ろしい程に体を支配する。もう、やらなきゃ落ち着かないみたいなさ。真剣に取り組んでた名残。それだけLROは俺の生活の一部だった。
掲示板の今の専らの話題の的はやはりアルテミナス。そこには様々な情報が飛び交っていた。どうやら良い状況では無いようだ。
首都アルテミナス以外の領地が攻め落とされたとか……ガイエンは一体何を……って俺には関係無い事だ。もう、LROに入る気はない。
日鞠はこのまま逃げたら後悔すると言った。だけど違うんだよ。俺はもう、ずっと後悔していた。アルテミナスから最初に逃げ出した時からさ。
だから逃げるのも、後悔するのも、もう慣れっこだ。
スオウは信じてると言った。仲間の誰もが俺が戻ってくるのを信じてるって。俺にしかアイリは救えないって……だけどきっとそんな事ない。
アイリとセツリは違う。スオウならアイリも救えるさ。アイツはもうビギナーじゃない。命が掛かった場面を何度も何度も乗り越えて凄く強く成ってる。
それに俺なんかより頼りになる仲間がスオウの周りにはいるんだ。だからもう、良いだろうと思う。LROはゲームなんだ。出ていく時も自由でいいと思う。
誰も追って来なくていい……電源を切れば忘れられる世界であれば良かったんだ。
「ん?」
その時PCにメールが届いた。それはスオウからのメールだ。内容は考えたくないLROの事。アルテミナスの事だ。
【起きてるか? 今晩午後八時に集合だ! ガイエンも動く。モンスター共も今日必ずアルテミナスに侵攻する。だからさ待ってるよ】
待ってなくてもいい。そう返信したいけど……手が動かない。俺は本当はどうしたいんだろうか。こっちに逃げ帰ってきた時の俺なら迷わずそう打ち返せたのに。
スオウと日鞠に言われた事が頭を回る。小さな期待が胸に再び灯ってるのかも知れない。それでまた、踏み出せる物じゃないけど……指に抵抗する位は出来る、そんな程度の灯りの物が。
悟った筈で散々それを思い知ったのに、俺はまだ何に期待してる?
自身の部屋はカーテンを閉め切り灯りはパソコンと隙間から見える光だけ。エアコンが風を吐き出し、快適な空間を作りだしてくれて居るけど、何故か体は重いんだ。
だからこの天気にも関わらず、昨日も一歩も外には出なかった。勿論部屋から一歩もって意味だ。きっとカーテン開けたら目が焼けると思う。この時期の太陽光は殺人級だから。
それなら丁度良かったかな……なんてさ。暇に成ったし課題をやれば学生らしい行いかも知れない。う~ん、俺はこっちでの楽しみ方を大分忘れてる?
自分から課題を机にだすなんて重傷だ。毎年、休み終わりのギリギリにスオウの家に行って二人で日鞠に見せて貰うのが恒例行事だからな。
それまで課題なんて開かない……さもすれば連絡来なければ忘れるくらいだ。だけど今年はどうなんだろう。なんだか行きづらいよな。こうなったらさ。
あの時、スオウをLROに誘うんじゃなく俺が辞めとけば良かったのかも知れない。そしたらアイツも命を懸ける事なんて無かっただろう。俺ももっと早くに諦めがついてたのかも知れない。
でも、ただあの時はまだここまでじゃなかった。諦めなんてついて無かったから……いや、理由が欲しかっただけかもな。LROに留まる。だから強引にスオウを誘ったんだ。
そして始まってしまったアイツの冒険。命を懸けた戦い。あれは俺のせいの様な物だ。俺のワガママと身勝手と弱さにアイツを付き合わせてしまった事が原因。
だから俺だけは付き合おうと思っていた。少しでもアイツの力に……どこまでいっても一プレイヤーでしか無い俺にはそれしか出来なかったのにさ。
その俺が一抜けしたら、もうアイツに会わせる顔なんて無いだろう。この休みが終わって学校で顔を合わせてもその時は親友なんて事はない。
てか、アイツはこのままだと二学期に顔を出すのかも分からないじゃないか。どんどん混迷をますLROで有限の命で本物の冒険をしてるんだ。何が起きたって不思議じゃない。
責任……って奴が俺にはあるんだろう。アイリにもスオウにもさ。そんな事分かってるけど、自分にはもう何が出来るか分からない。それをずっと考えて……ボロ負けしたんだ。
役立たずと誰もがみてくれれば良かったのに……アイツ等は俺を過大評価し過ぎだ。画面に映るメールをボーと眺めてはため息を吐く。
そんな事を三回は繰り返してると、もう一通メールが届いてた事に気付いた。二通同時にアイツは出したって事か? なんでそんな面倒な事を?
取り合えず二通目も開いてみる。
【ああ~そうだ。お前家にいるよな? 最近もう暑くてたまらないけどさ、こう暑くちゃ家の前に行き倒れとかいるかも知れないな。至急確認したほうが良いぞ】
「…………」
明らかにおかしな文面だ。なんだ? スオウの奴、来てるのか? 遂に日鞠に見捨てられて飯にあり付けなく成ったとかで恵まれに来てるのかも知れない。
まあ、ここまでする奴じゃないけど。それにここを訪ねる理由にしても強引過ぎだろ。何だ行き倒れって? 今の時代にそんな希有な人種はこの国にいねーよ!
取り合えず確認してみる為にカーテンを隅に追いやり窓を開く。すると突き刺さる様な日差しと同時に、熱気を含んだ空気が部屋に進入してきた。流れ出る冷気がもったいないな。
別に窓まで開ける必要無かったのでは無いのかと思うが、開けて閉まったもの仕方ない。上半身を出すようにして家の前をみてみる。だけど別に誰も居ないな。
休暇中の学生の姿さえ見えない。若者は街側へ繰り出すからな。こっち側は人気ないんだ。それにしたって閑散とし過ぎだけど……って、おや?
なかなか素敵な女の子が我が家に向かって駆けて来る。手には買ったばかりの缶ジュースが握られている。彼女は我が家の通りの向こう側でプルトップを開けて二・三口飲む。何故か電信柱に隠れる様にしてるのは謎だ。
そして噎せた。「コホッケホッ」って上体が激しく揺られているのが見える。なんだか小動物みたいな子だ。行動原理さえ分かれば心が和めるんだけど……今の所理解出来ない。
ただの通りすがりの人かも知れないし……ってその割には怪しい動きを繰り返すんだよな。時折、電柱から顔を出しては周りを確認してるしさ。その前に通りすがりの人物は電柱に身を隠したりしないか。
なんだか彼女はジュースを飲み干すのに悪戦苦闘してるみたいだ。「なんで減らないの?」みたいに首を傾げて、中を覗き込んでいる。そしてしばし考える。
彼女はしゃがみ込んで排水行に缶ジュースを傾ける。どうやら飲みきれないと判断して中身を捨てる気の様だ。けれど彼女は缶を傾ききれない。頭を左右に振って葛藤。
そして勢い良く立ち上がると、風呂の後のコーヒー牛乳みたいに腰に手を当てて天を仰いで一気飲み。その姿は「ゴキュ、ゴキュ」と聞こえてきそうな程だ。だけど「ぷはぁ」とは成らずに塀に手を当ててお腹をさすってた。
そこまでして飲まなくても良いのに、律儀な子だ。
「ん? どっか行く?」
彼女は周りを見回して何かを探してる? そして来た道を戻っていった。何なんだ一体? やっぱり通りすがり? そう思ったけど、彼女は再び戻ってきた。そして俺も気付いた。
「ああ、空き缶を捨てに言ったのか」
彼女の手にはさっきまでのジュースの缶が無くなっている。凄いな、関心してしまう。誰にも言われずにそこまでするなんてさ。俺なら近くにゴミ箱が無かったら置いて行くだろう。
悪いと思うけどやってしまう。それが人間だろ。だって面倒じゃん。彼女はそのせいで余計に汗をかいてる筈だ。 そして彼女はお腹をさすりながらおもむろに我が家の方に前に立つ。俺は見つからない様にカーテンを引き寄せて身を隠した。
う~ん、俺も何をやってるんだか。てか、我が家に用があるのか? 髪を切りに……なんて事は無いよな。女の子は床屋なんて利用しないだろう。クラスメイトの女子とかは洒落た美容室を利用するし、彼女も例外では無いと思う。
茶色がかった髪は肩に僅かに触れる程度の長さで毛先にパーマでも当ててるのかクルフワっと成っている。家のじいちゃんは基本坊主か角刈り、スポーツ刈りしかしないから彼女がここを利用したら大変な事に成るだろう。
さて、実際どうしたら良いのか自分的にも困ってるんだけど、出ていった方が良いんだろうか? けど、知り合いでもないんだよな。どう考えても知らない顔だし。
そして彼女は携帯を確認後、本当に突飛な行動に出た。俺はずっこけて窓から転げ落ちるかと思ったよ。それは晴天の空に響き渡る。
「ああ~!」
ズデム……と彼女は熱せられた鉄板みたいなアスファルトの上に奇声と同時に倒れ込んだんだ。何? どこから突っ込めばいいんだ。てか、あれが行き倒れだろうか?
この炎天下の中良くやるな。スオウの差し金……何だろうけど、取り合えず拾った方が良いんだろうな。家の前で行き倒れとか嫌がらせとしか思えないけど。いくら人通りが無いと言っても誰かが見つけたら大変だ。
多分、きっと良い子の筈の彼女が可哀想だろう。自分的には女の子に優しさをアピールしたい時期なんだ。それがどんな子であろうとも……それが俺のモットーだ。
まあ、取り合えず迷惑だからな。騒ぎになっても面倒だ。この暑さだから行き倒れより日射病の方がリアリティがあったのに……という思いは心の奥に押しやって店のテレビに夢中の爺ちゃんを横切って流し戸を開けた。
「暑い~暑いよ~」
ボソボソとそんな声が聞こえてしまってこっちが固まる。なんだか愕然だ。意外と人が目の前に倒れてるのは大きなショックに成ると知った一夏の時。
実を言うとこれはLROで見慣れてる筈だけど、リアルではなかなかお目に掛かれない光景だ。
「あの……何やってるんですか?」
俺の声に一瞬反応した彼女は急に「う~う~」言いだした。お産? じゃなく、演技が始まったようだ。猿芝居という芝居がさ。
「う~う……動けない」
「…………」
ある意味斬新な言葉を言う彼女。動けない人が動けない言うだろうか? 行き倒れならもっと具体的な「み、水を~」とか言いそうだけど、彼女は「動けない」らしい。
「大丈夫ですか?」
取り合えずこれが正解だろう。
「あ~貴方は誰ですか?」
何故か質問が返ってきた。心遣いという言葉がこの暑さに溶かされて行くのが見える様だ。既に倒れ伏してる頭のを起こして、チラチラこっち見てるのに俺は気付いてるぞ。
「俺は秋徒だけど……この家の親父の息子。それが君がここに行き倒れてる理由と関係あるの?」
「いいえ……助けて頂く人の事を知りたかっただだだけです」
何か最後の所はしどろもどろだった。額まで地面に押しつけるようにして暑そうだ。そして小さく
「秋徒……アギ……秋徒」とか言ってる気がする。地面に向かって声が出てるから良く聞き取れない。
「え~とここは暑いですね」
「……でしょうね」
そんな態勢してたらさぞかし暑いだろう。なんだか話が進まないな。本当に何がしたいんだろう。俺も暑いから早く部屋に戻りたいんだけど。今の状況に俺の頭も湯上がりそうだ。
「取り合えず上がりますか? 行き倒れなんですよね?」
「ほえ……はい! ――じゃなくてここは……」
彼女は何か思い出すように声をしぼめた。そして何かゴソゴソしてる。
「そう言えば素敵なカフェがあっちに……」
「奢れと!?」
「いえ……ただ、あそこの紅茶とシフォンケーキじゃ無いと私の栄養にはなり得ないのです」
「どういう設定だソレ!? 随分な偏食家だな!」
あ~頭痛くなる。こんなに暑いのに怒鳴らせないで欲しい。それしか食って育った訳じゃ絶対に無いだろう。だけど萎んだ花の様に体を縮ませて怯える彼女を見ると怒鳴ったのは悪かったなと思ってしまう。
え? 何? 結局俺は見ず知らずの自称行き倒れに紅茶とケーキを奢る羽目に成るのか。
「はぁ~」
思わずでる溜息。きっと幸せが一気に流れ出たな。暑さのせいだけじゃなく疲れる。
「あの……ごめんなさい。変な事ばっかりい言って……」
そう言ってなんだか普通に体を起こす彼女。俺はそしてたじろいでしまう。だって申し訳なさそうにする彼女が上目遣いにこちらを見るんだ。
それは男なら誰でも狼狽えるものだと思う。
「いや、もういいけどさ。そこに行けば元気になれるんだよね?」
「はい、それは勿論」
既に見た目だけは元気に見える彼女にそれだけ奉仕する理由もみつけられないが、この上目遣いのお礼で納得しようと思う。
なかなか直視出来ないけど、取りあえず部屋に一端戻って財布を取って再び玄関に。するとまたガサゴソと彼女はやっていた。刺すような日差しの中ワンピース姿の彼女は良く映える。
こうしてると彼女が迎えに来てくれたみたいで照れる。な。そんな経験実はないんだけどさ。
「じゃあ、まあ、大丈夫?」
「ええ……へ平気です。ああ!」
不自然に彼女は俺の方へ倒れてくる。香水の香り? なのかどうかは分からないけど良い匂いが女の子はするものだ。それに異常に柔らかい物が同時に押しつけられてる様な……これはアレか? 女の子の胸部だろうか?
「えっと……ちょっと休んだほうがいいんじゃない?」
「だ、大丈夫です」
俺は何とか体を放そうと試みるけど、何故か彼女は服を握りしめてる。おかしい……絶対に何かがおかしい。大丈夫なら離れても大丈夫だろうと言いたい。
実際は離れるとガックリするだろうけど、でもこの状態で外を歩きたくない。だって恥ずかしい。体の外側じゃなく中から火が出そうだ。
「すみません……私を支えて行ってください」
「いや……それは……ちょ」
言葉とは裏腹に彼女が俺を引いてるのはどう言うことだ? 腕を取られて体重まで乗せられたら足は自然とそっちに行く。彼女は病人を装ってるから強く抵抗する事も出来ない。
それ以前に女の子って所も問題だけどな。こうなったら誰にも知り合いに会わない事を願うしか……ん? 俺を引っ張る彼女の足下に何かある。
白くて……レースが付いてて……女の子の豊かな部分を守る形のソレは……
「ブッハ!?」
ブラジャーにしか見えないんだけど! いやいやいやあり得ないだろ? え……何? 脱ぎたて? じゃない! てかそれじゃ今、腕に伝わってるこの感触って……生!
吹き出した俺の視線に気付いた彼女は既に赤面してた様な? 俺もテンパってるから見間違いと判断。流石にここまでしないだろう。
だがな、既に意図がわからん!
「キャアアア。どうしましょう……ブブブブラジャーが落ちてます」
自分の(多分)を拾い上げて何度か口をパクパクさせる彼女。何かを躊躇ってる様な感じが伝わってきて、俺にはそれが悪い事に繋がる気がして成らない。
端から見てる分にはきっと彼女の可愛らしさを微笑ましくみれるだろうけど、今は無理。当事者って大変だ。そして自分に何かを言い聞かせて彼女は今日一番の爆弾を投下する。
「あの……入りますか?」
「☆◆%#△♪★!」
お互い真っ赤だった。俺の言葉は既に日本語じゃなく、多分地球には無い言葉だったろう。自分でも何叫んだか解らない。
いや、だって……それは……ええ!? だぞ。狼狽えまくりだ。そして彼女は今まさに頭から湯気が出てる――様に見える。
LROじゃないよなここ? リアルでここまで茹で上がるなんて希有な例だよ。なんだか二人でスッゲー熱い。俺の頭はきっとおかしく成ったんだと思おう。多分聞き間違いだ。
だって、落ち立てのブラジャーを差し出す女の子なんて居るわけ無い! 断じるぞ俺は。自分の中の常識を守る為にも!
「えっとさ……ちょっと良く聞こえなかったんだ。 なんて言った?」
「スーハースーハー」
落ち着くためか深呼吸を繰り返す彼女。この間に一体俺は何度神様に祈っただろう。多分十回は祈ったな。けれど彼女の手にある白い物体は異様に輝いて見えるな。
あれをブラジャーと認識した瞬間から、変な想像が巡るのを押さえられない。だって目の前に女の子がつけてた物だぞ? 男子高校生に想像するなと言う方が無理だろう。
だって俺たちは夏服から透けるブラで興奮する生き物だ。遮る物がなくなったブラジャーって兵器に近い。油断したら俺まで「スーハースーハー」しそうだ。深呼吸じゃない意味のほうで。
息を整えて若干火照りも収まった彼女がブラジャー片手にもう一度口を開く。
「秋徒君はこういうの好きですよね?」
「誰がそんな事を言ったぁぁぁぁ!? スオウだろ? アイツに何吹き込まれたぁぁぁ!?」
自分のブラを両手で広げる彼女に怒鳴りちらす俺。理性が吹っ飛んだ。親友に初めて殺意を覚えた瞬間だ。何? アイツ俺をどうしたいわけだ?
彼女でも作らせようって事なんだろうか? それにしても強引過ぎだろ。そして何故この人もこんな事に付き合うんだろう。恥ずかしいだろうにさ。
さっきから体彼女は震えてるんだ。深呼吸は意味を成さなかった様。そして気付くと超至近距離まで詰め寄ってた。すると目の前には彼女とブラが大アップだ。目がグルグル回ってる彼女は混乱して俺にポフッとブラを押しつける。
するとその瞬間に鼻孔を擽る香りが伝わってきた。それは目の前の彼女の香り。それがブラからだと思うだけで脳がとろける様な感覚に陥る。それにブラが肌に擦れて、その部分が何故か熱い。
意外とスベスベなのに……痛い位に熱い。外と中からの同時の攻めで茹で上がった頭がグルグル回り出す。
(ブラ痛い……けど良い。なんかめっちゃ良い。けど痛い。でも良い。太陽熱ぃ~。ブラ良い。けど熱い。でもブラ、熱い、ブラ、熱い、ブラ熱ブラ熱ブラ熱ブラブラブラブラ……)
「ブラ大好きです!」
「ふぁい!? お粗末な物ですが、どどどうぞ!」
二人とも混乱の極みだった。この時期の暑さに脳内をやられた二人の痛い出来事。端から見たら女子から強引にブラジャーを奪う変態の完成だ。
いやさ、贈呈されたんだけどそれを誰が信じてくれるのか。目の前で広がってるブラジャーは既に我が手に……って違う!
「こんな筈じゃなかった!」
スパーンと投げ捨てたかったけど、流石に本人の前では出来ない。倒れ伏す俺。にじみ出る汗が額から鼻頭へ流れ、そしてアスファルトに小さなシミを作った。
「何……やってるんでしょうね私達」
「俺が知りてぇよ! 何なの君? 何が目的だ!?」
この僅かな時間で自分の常識が所々崩れさった気分だ。彼女は支えが無くなった部分を気にしながら、そして俺の手にある物を視界から外すように背を向けた。
「私、愛……『藤沢愛』です。私は貴方と、お友達に成りたいんです!」
愛と名乗った彼女は横顔を覗かせて赤ペンキを被った様な顔を見せて再び前を向く。彼女の姿を真夏の太陽が遠慮無く照らしその姿を霞ませている。
これが俺と藤沢愛の出会いだった。
けれど結局、スオウがあんな事を最後に言うから俺は今日と言う日までモンモンとなっている訳だ。もう、考えたくもない……その筈なのに、目が覚めて最初にしたのはメールのチェックで、LROの掲示板を眺めること。
習慣とは恐ろしい程に体を支配する。もう、やらなきゃ落ち着かないみたいなさ。真剣に取り組んでた名残。それだけLROは俺の生活の一部だった。
掲示板の今の専らの話題の的はやはりアルテミナス。そこには様々な情報が飛び交っていた。どうやら良い状況では無いようだ。
首都アルテミナス以外の領地が攻め落とされたとか……ガイエンは一体何を……って俺には関係無い事だ。もう、LROに入る気はない。
日鞠はこのまま逃げたら後悔すると言った。だけど違うんだよ。俺はもう、ずっと後悔していた。アルテミナスから最初に逃げ出した時からさ。
だから逃げるのも、後悔するのも、もう慣れっこだ。
スオウは信じてると言った。仲間の誰もが俺が戻ってくるのを信じてるって。俺にしかアイリは救えないって……だけどきっとそんな事ない。
アイリとセツリは違う。スオウならアイリも救えるさ。アイツはもうビギナーじゃない。命が掛かった場面を何度も何度も乗り越えて凄く強く成ってる。
それに俺なんかより頼りになる仲間がスオウの周りにはいるんだ。だからもう、良いだろうと思う。LROはゲームなんだ。出ていく時も自由でいいと思う。
誰も追って来なくていい……電源を切れば忘れられる世界であれば良かったんだ。
「ん?」
その時PCにメールが届いた。それはスオウからのメールだ。内容は考えたくないLROの事。アルテミナスの事だ。
【起きてるか? 今晩午後八時に集合だ! ガイエンも動く。モンスター共も今日必ずアルテミナスに侵攻する。だからさ待ってるよ】
待ってなくてもいい。そう返信したいけど……手が動かない。俺は本当はどうしたいんだろうか。こっちに逃げ帰ってきた時の俺なら迷わずそう打ち返せたのに。
スオウと日鞠に言われた事が頭を回る。小さな期待が胸に再び灯ってるのかも知れない。それでまた、踏み出せる物じゃないけど……指に抵抗する位は出来る、そんな程度の灯りの物が。
悟った筈で散々それを思い知ったのに、俺はまだ何に期待してる?
自身の部屋はカーテンを閉め切り灯りはパソコンと隙間から見える光だけ。エアコンが風を吐き出し、快適な空間を作りだしてくれて居るけど、何故か体は重いんだ。
だからこの天気にも関わらず、昨日も一歩も外には出なかった。勿論部屋から一歩もって意味だ。きっとカーテン開けたら目が焼けると思う。この時期の太陽光は殺人級だから。
それなら丁度良かったかな……なんてさ。暇に成ったし課題をやれば学生らしい行いかも知れない。う~ん、俺はこっちでの楽しみ方を大分忘れてる?
自分から課題を机にだすなんて重傷だ。毎年、休み終わりのギリギリにスオウの家に行って二人で日鞠に見せて貰うのが恒例行事だからな。
それまで課題なんて開かない……さもすれば連絡来なければ忘れるくらいだ。だけど今年はどうなんだろう。なんだか行きづらいよな。こうなったらさ。
あの時、スオウをLROに誘うんじゃなく俺が辞めとけば良かったのかも知れない。そしたらアイツも命を懸ける事なんて無かっただろう。俺ももっと早くに諦めがついてたのかも知れない。
でも、ただあの時はまだここまでじゃなかった。諦めなんてついて無かったから……いや、理由が欲しかっただけかもな。LROに留まる。だから強引にスオウを誘ったんだ。
そして始まってしまったアイツの冒険。命を懸けた戦い。あれは俺のせいの様な物だ。俺のワガママと身勝手と弱さにアイツを付き合わせてしまった事が原因。
だから俺だけは付き合おうと思っていた。少しでもアイツの力に……どこまでいっても一プレイヤーでしか無い俺にはそれしか出来なかったのにさ。
その俺が一抜けしたら、もうアイツに会わせる顔なんて無いだろう。この休みが終わって学校で顔を合わせてもその時は親友なんて事はない。
てか、アイツはこのままだと二学期に顔を出すのかも分からないじゃないか。どんどん混迷をますLROで有限の命で本物の冒険をしてるんだ。何が起きたって不思議じゃない。
責任……って奴が俺にはあるんだろう。アイリにもスオウにもさ。そんな事分かってるけど、自分にはもう何が出来るか分からない。それをずっと考えて……ボロ負けしたんだ。
役立たずと誰もがみてくれれば良かったのに……アイツ等は俺を過大評価し過ぎだ。画面に映るメールをボーと眺めてはため息を吐く。
そんな事を三回は繰り返してると、もう一通メールが届いてた事に気付いた。二通同時にアイツは出したって事か? なんでそんな面倒な事を?
取り合えず二通目も開いてみる。
【ああ~そうだ。お前家にいるよな? 最近もう暑くてたまらないけどさ、こう暑くちゃ家の前に行き倒れとかいるかも知れないな。至急確認したほうが良いぞ】
「…………」
明らかにおかしな文面だ。なんだ? スオウの奴、来てるのか? 遂に日鞠に見捨てられて飯にあり付けなく成ったとかで恵まれに来てるのかも知れない。
まあ、ここまでする奴じゃないけど。それにここを訪ねる理由にしても強引過ぎだろ。何だ行き倒れって? 今の時代にそんな希有な人種はこの国にいねーよ!
取り合えず確認してみる為にカーテンを隅に追いやり窓を開く。すると突き刺さる様な日差しと同時に、熱気を含んだ空気が部屋に進入してきた。流れ出る冷気がもったいないな。
別に窓まで開ける必要無かったのでは無いのかと思うが、開けて閉まったもの仕方ない。上半身を出すようにして家の前をみてみる。だけど別に誰も居ないな。
休暇中の学生の姿さえ見えない。若者は街側へ繰り出すからな。こっち側は人気ないんだ。それにしたって閑散とし過ぎだけど……って、おや?
なかなか素敵な女の子が我が家に向かって駆けて来る。手には買ったばかりの缶ジュースが握られている。彼女は我が家の通りの向こう側でプルトップを開けて二・三口飲む。何故か電信柱に隠れる様にしてるのは謎だ。
そして噎せた。「コホッケホッ」って上体が激しく揺られているのが見える。なんだか小動物みたいな子だ。行動原理さえ分かれば心が和めるんだけど……今の所理解出来ない。
ただの通りすがりの人かも知れないし……ってその割には怪しい動きを繰り返すんだよな。時折、電柱から顔を出しては周りを確認してるしさ。その前に通りすがりの人物は電柱に身を隠したりしないか。
なんだか彼女はジュースを飲み干すのに悪戦苦闘してるみたいだ。「なんで減らないの?」みたいに首を傾げて、中を覗き込んでいる。そしてしばし考える。
彼女はしゃがみ込んで排水行に缶ジュースを傾ける。どうやら飲みきれないと判断して中身を捨てる気の様だ。けれど彼女は缶を傾ききれない。頭を左右に振って葛藤。
そして勢い良く立ち上がると、風呂の後のコーヒー牛乳みたいに腰に手を当てて天を仰いで一気飲み。その姿は「ゴキュ、ゴキュ」と聞こえてきそうな程だ。だけど「ぷはぁ」とは成らずに塀に手を当ててお腹をさすってた。
そこまでして飲まなくても良いのに、律儀な子だ。
「ん? どっか行く?」
彼女は周りを見回して何かを探してる? そして来た道を戻っていった。何なんだ一体? やっぱり通りすがり? そう思ったけど、彼女は再び戻ってきた。そして俺も気付いた。
「ああ、空き缶を捨てに言ったのか」
彼女の手にはさっきまでのジュースの缶が無くなっている。凄いな、関心してしまう。誰にも言われずにそこまでするなんてさ。俺なら近くにゴミ箱が無かったら置いて行くだろう。
悪いと思うけどやってしまう。それが人間だろ。だって面倒じゃん。彼女はそのせいで余計に汗をかいてる筈だ。 そして彼女はお腹をさすりながらおもむろに我が家の方に前に立つ。俺は見つからない様にカーテンを引き寄せて身を隠した。
う~ん、俺も何をやってるんだか。てか、我が家に用があるのか? 髪を切りに……なんて事は無いよな。女の子は床屋なんて利用しないだろう。クラスメイトの女子とかは洒落た美容室を利用するし、彼女も例外では無いと思う。
茶色がかった髪は肩に僅かに触れる程度の長さで毛先にパーマでも当ててるのかクルフワっと成っている。家のじいちゃんは基本坊主か角刈り、スポーツ刈りしかしないから彼女がここを利用したら大変な事に成るだろう。
さて、実際どうしたら良いのか自分的にも困ってるんだけど、出ていった方が良いんだろうか? けど、知り合いでもないんだよな。どう考えても知らない顔だし。
そして彼女は携帯を確認後、本当に突飛な行動に出た。俺はずっこけて窓から転げ落ちるかと思ったよ。それは晴天の空に響き渡る。
「ああ~!」
ズデム……と彼女は熱せられた鉄板みたいなアスファルトの上に奇声と同時に倒れ込んだんだ。何? どこから突っ込めばいいんだ。てか、あれが行き倒れだろうか?
この炎天下の中良くやるな。スオウの差し金……何だろうけど、取り合えず拾った方が良いんだろうな。家の前で行き倒れとか嫌がらせとしか思えないけど。いくら人通りが無いと言っても誰かが見つけたら大変だ。
多分、きっと良い子の筈の彼女が可哀想だろう。自分的には女の子に優しさをアピールしたい時期なんだ。それがどんな子であろうとも……それが俺のモットーだ。
まあ、取り合えず迷惑だからな。騒ぎになっても面倒だ。この暑さだから行き倒れより日射病の方がリアリティがあったのに……という思いは心の奥に押しやって店のテレビに夢中の爺ちゃんを横切って流し戸を開けた。
「暑い~暑いよ~」
ボソボソとそんな声が聞こえてしまってこっちが固まる。なんだか愕然だ。意外と人が目の前に倒れてるのは大きなショックに成ると知った一夏の時。
実を言うとこれはLROで見慣れてる筈だけど、リアルではなかなかお目に掛かれない光景だ。
「あの……何やってるんですか?」
俺の声に一瞬反応した彼女は急に「う~う~」言いだした。お産? じゃなく、演技が始まったようだ。猿芝居という芝居がさ。
「う~う……動けない」
「…………」
ある意味斬新な言葉を言う彼女。動けない人が動けない言うだろうか? 行き倒れならもっと具体的な「み、水を~」とか言いそうだけど、彼女は「動けない」らしい。
「大丈夫ですか?」
取り合えずこれが正解だろう。
「あ~貴方は誰ですか?」
何故か質問が返ってきた。心遣いという言葉がこの暑さに溶かされて行くのが見える様だ。既に倒れ伏してる頭のを起こして、チラチラこっち見てるのに俺は気付いてるぞ。
「俺は秋徒だけど……この家の親父の息子。それが君がここに行き倒れてる理由と関係あるの?」
「いいえ……助けて頂く人の事を知りたかっただだだけです」
何か最後の所はしどろもどろだった。額まで地面に押しつけるようにして暑そうだ。そして小さく
「秋徒……アギ……秋徒」とか言ってる気がする。地面に向かって声が出てるから良く聞き取れない。
「え~とここは暑いですね」
「……でしょうね」
そんな態勢してたらさぞかし暑いだろう。なんだか話が進まないな。本当に何がしたいんだろう。俺も暑いから早く部屋に戻りたいんだけど。今の状況に俺の頭も湯上がりそうだ。
「取り合えず上がりますか? 行き倒れなんですよね?」
「ほえ……はい! ――じゃなくてここは……」
彼女は何か思い出すように声をしぼめた。そして何かゴソゴソしてる。
「そう言えば素敵なカフェがあっちに……」
「奢れと!?」
「いえ……ただ、あそこの紅茶とシフォンケーキじゃ無いと私の栄養にはなり得ないのです」
「どういう設定だソレ!? 随分な偏食家だな!」
あ~頭痛くなる。こんなに暑いのに怒鳴らせないで欲しい。それしか食って育った訳じゃ絶対に無いだろう。だけど萎んだ花の様に体を縮ませて怯える彼女を見ると怒鳴ったのは悪かったなと思ってしまう。
え? 何? 結局俺は見ず知らずの自称行き倒れに紅茶とケーキを奢る羽目に成るのか。
「はぁ~」
思わずでる溜息。きっと幸せが一気に流れ出たな。暑さのせいだけじゃなく疲れる。
「あの……ごめんなさい。変な事ばっかりい言って……」
そう言ってなんだか普通に体を起こす彼女。俺はそしてたじろいでしまう。だって申し訳なさそうにする彼女が上目遣いにこちらを見るんだ。
それは男なら誰でも狼狽えるものだと思う。
「いや、もういいけどさ。そこに行けば元気になれるんだよね?」
「はい、それは勿論」
既に見た目だけは元気に見える彼女にそれだけ奉仕する理由もみつけられないが、この上目遣いのお礼で納得しようと思う。
なかなか直視出来ないけど、取りあえず部屋に一端戻って財布を取って再び玄関に。するとまたガサゴソと彼女はやっていた。刺すような日差しの中ワンピース姿の彼女は良く映える。
こうしてると彼女が迎えに来てくれたみたいで照れる。な。そんな経験実はないんだけどさ。
「じゃあ、まあ、大丈夫?」
「ええ……へ平気です。ああ!」
不自然に彼女は俺の方へ倒れてくる。香水の香り? なのかどうかは分からないけど良い匂いが女の子はするものだ。それに異常に柔らかい物が同時に押しつけられてる様な……これはアレか? 女の子の胸部だろうか?
「えっと……ちょっと休んだほうがいいんじゃない?」
「だ、大丈夫です」
俺は何とか体を放そうと試みるけど、何故か彼女は服を握りしめてる。おかしい……絶対に何かがおかしい。大丈夫なら離れても大丈夫だろうと言いたい。
実際は離れるとガックリするだろうけど、でもこの状態で外を歩きたくない。だって恥ずかしい。体の外側じゃなく中から火が出そうだ。
「すみません……私を支えて行ってください」
「いや……それは……ちょ」
言葉とは裏腹に彼女が俺を引いてるのはどう言うことだ? 腕を取られて体重まで乗せられたら足は自然とそっちに行く。彼女は病人を装ってるから強く抵抗する事も出来ない。
それ以前に女の子って所も問題だけどな。こうなったら誰にも知り合いに会わない事を願うしか……ん? 俺を引っ張る彼女の足下に何かある。
白くて……レースが付いてて……女の子の豊かな部分を守る形のソレは……
「ブッハ!?」
ブラジャーにしか見えないんだけど! いやいやいやあり得ないだろ? え……何? 脱ぎたて? じゃない! てかそれじゃ今、腕に伝わってるこの感触って……生!
吹き出した俺の視線に気付いた彼女は既に赤面してた様な? 俺もテンパってるから見間違いと判断。流石にここまでしないだろう。
だがな、既に意図がわからん!
「キャアアア。どうしましょう……ブブブブラジャーが落ちてます」
自分の(多分)を拾い上げて何度か口をパクパクさせる彼女。何かを躊躇ってる様な感じが伝わってきて、俺にはそれが悪い事に繋がる気がして成らない。
端から見てる分にはきっと彼女の可愛らしさを微笑ましくみれるだろうけど、今は無理。当事者って大変だ。そして自分に何かを言い聞かせて彼女は今日一番の爆弾を投下する。
「あの……入りますか?」
「☆◆%#△♪★!」
お互い真っ赤だった。俺の言葉は既に日本語じゃなく、多分地球には無い言葉だったろう。自分でも何叫んだか解らない。
いや、だって……それは……ええ!? だぞ。狼狽えまくりだ。そして彼女は今まさに頭から湯気が出てる――様に見える。
LROじゃないよなここ? リアルでここまで茹で上がるなんて希有な例だよ。なんだか二人でスッゲー熱い。俺の頭はきっとおかしく成ったんだと思おう。多分聞き間違いだ。
だって、落ち立てのブラジャーを差し出す女の子なんて居るわけ無い! 断じるぞ俺は。自分の中の常識を守る為にも!
「えっとさ……ちょっと良く聞こえなかったんだ。 なんて言った?」
「スーハースーハー」
落ち着くためか深呼吸を繰り返す彼女。この間に一体俺は何度神様に祈っただろう。多分十回は祈ったな。けれど彼女の手にある白い物体は異様に輝いて見えるな。
あれをブラジャーと認識した瞬間から、変な想像が巡るのを押さえられない。だって目の前に女の子がつけてた物だぞ? 男子高校生に想像するなと言う方が無理だろう。
だって俺たちは夏服から透けるブラで興奮する生き物だ。遮る物がなくなったブラジャーって兵器に近い。油断したら俺まで「スーハースーハー」しそうだ。深呼吸じゃない意味のほうで。
息を整えて若干火照りも収まった彼女がブラジャー片手にもう一度口を開く。
「秋徒君はこういうの好きですよね?」
「誰がそんな事を言ったぁぁぁぁ!? スオウだろ? アイツに何吹き込まれたぁぁぁ!?」
自分のブラを両手で広げる彼女に怒鳴りちらす俺。理性が吹っ飛んだ。親友に初めて殺意を覚えた瞬間だ。何? アイツ俺をどうしたいわけだ?
彼女でも作らせようって事なんだろうか? それにしても強引過ぎだろ。そして何故この人もこんな事に付き合うんだろう。恥ずかしいだろうにさ。
さっきから体彼女は震えてるんだ。深呼吸は意味を成さなかった様。そして気付くと超至近距離まで詰め寄ってた。すると目の前には彼女とブラが大アップだ。目がグルグル回ってる彼女は混乱して俺にポフッとブラを押しつける。
するとその瞬間に鼻孔を擽る香りが伝わってきた。それは目の前の彼女の香り。それがブラからだと思うだけで脳がとろける様な感覚に陥る。それにブラが肌に擦れて、その部分が何故か熱い。
意外とスベスベなのに……痛い位に熱い。外と中からの同時の攻めで茹で上がった頭がグルグル回り出す。
(ブラ痛い……けど良い。なんかめっちゃ良い。けど痛い。でも良い。太陽熱ぃ~。ブラ良い。けど熱い。でもブラ、熱い、ブラ、熱い、ブラ熱ブラ熱ブラ熱ブラブラブラブラ……)
「ブラ大好きです!」
「ふぁい!? お粗末な物ですが、どどどうぞ!」
二人とも混乱の極みだった。この時期の暑さに脳内をやられた二人の痛い出来事。端から見たら女子から強引にブラジャーを奪う変態の完成だ。
いやさ、贈呈されたんだけどそれを誰が信じてくれるのか。目の前で広がってるブラジャーは既に我が手に……って違う!
「こんな筈じゃなかった!」
スパーンと投げ捨てたかったけど、流石に本人の前では出来ない。倒れ伏す俺。にじみ出る汗が額から鼻頭へ流れ、そしてアスファルトに小さなシミを作った。
「何……やってるんでしょうね私達」
「俺が知りてぇよ! 何なの君? 何が目的だ!?」
この僅かな時間で自分の常識が所々崩れさった気分だ。彼女は支えが無くなった部分を気にしながら、そして俺の手にある物を視界から外すように背を向けた。
「私、愛……『藤沢愛』です。私は貴方と、お友達に成りたいんです!」
愛と名乗った彼女は横顔を覗かせて赤ペンキを被った様な顔を見せて再び前を向く。彼女の姿を真夏の太陽が遠慮無く照らしその姿を霞ませている。
これが俺と藤沢愛の出会いだった。
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