命改変プログラム

ファーストなサイコロ

手繰り寄せる糸は陽炎の様に

「あ~き~と~君、遊びましょ~!」


 そんな日鞠の声がアスファルトを焼き出す前の太陽の下に響きわたる。古めかしいと言うか、僕と日鞠の家が有る側と違ってこっちは昔ながらの古株さん家が多くある、いわば地元密着下町側。
 面白い事にこの町は僕達が通う学校が丁度ある中心から東西に分かれて発展と衰退(?)してたりする。そのせいか、大人達の間は東西で勢力が出来てたりするらしい。
 僕はそんな郷土愛に溢れた奴じゃないからよく分からないけど、地域の至る所に根を張る日鞠が言うにはそうらしい。
 今時の近代的な町並みが形を潜めて、こちら側は築三十年位が平均らしい家々が軒を連ねている。別に決して古めかしいって意味じゃないよ。日本の風情有る町並みって事だよ。
 庭先には柿の木が有ったりさ、日曜の夕方六時位から流れる某アニメ二作品を思い出す景色だよ。まあそれでもこちら側も少しずつは様変わりしてるんだろうけどね。
 リフォームって奴かな? ここに来るまでに時々、浮いたような家を見かけたよ。だけどまだまだ、町の色が変わる程じゃなかった。
 そしてこちら側の繁華街(無理矢理ここら辺の奴が呼んでる)らしき一角に秋徒の家はある。クルクルクルクル、円柱形の回る物体がいつも目印。
 そう、秋徒の家は地元密着型の床屋さんなのだ。お得意様は大体、ご近所周辺のお年寄りって言う典型的なパターン。まあ、今の時代はお年寄りだらけだから案外儲かってるのかも知れないな。昔から変わらずあるからね。シャッターを閉める店も年々増える中、今のところその列に並んでそうではない。てか、今更だけど日鞠のさっきの呼びかけはちょっと一緒に並ぶ人として恥ずかしいぞ。
 今時、小学生でも言わない様な誘い文句を元気一杯でよく言ったなこいつ。背景の時代に合わせたのだろうか。日鞠は日差しが強まる事を見越してか麦わら帽子を被って、肩からは小さな赤いポーチを下げている。
 季節感バッチリな奴だ。それに麦わら帽子が良く似合う。今日の髪型は長い黒髪を二つに分けて肩に乗せる様に前方に投げ出して、胸の僅かな膨らみを嵩ましか誤魔化している様な感じだ。
 ついでに僕は重心が傾きそうな位のバスケットを右手左手と頻繁に持ち変えている。これが日鞠が用意したお弁当なのは間違いない。中身は拝見してないけど、かなり頑張った様なのはその重みから伺える。
 思い立ったが吉日を実行する日鞠だけど、でも何か今回は違和感ある気がするな。それも何となくだけど……幼なじみだけが感じるレベルのほんと些細な違和感。言葉には出来ないな。虫の知らせって奴かな? 
 それだと良くない事が起きそうだけど……って、日鞠が絡んで良いことがあった方が希だな。なんだ良く考えたらいつもの事じゃん。だからその違和感は頭の隅に追いやって、きっとここも築三十年は行ってるだろう木造建築の二階部分を見上げる。
 秋徒の部屋は見上げた正面にあるんだ。だけどそこはカーテンが閉まりきって居て、訪問お断りの文字が見えるみたいな感じがした。
 いつもなら僕達が店の前に居るのを見つけてカーテンばっ! 窓もばっ! と開け放って元気な姿を見せる奴なのに。それが無いだけで少し不安が増す気がした。
 そして日鞠の古風な誘い文句に促されて蝉の合唱の中に出てきたのは勿論秋徒では無かった。


「はむはむ、孫の友達かえ?」
「お爺ちゃん、おっはー!」
「おおう、日鞠ちゃんかえ。綺麗になって。儂があと五十歳若かったら狙っちょるのにのう」
「あはは、残念だけど私にはスオウが居るから無理だよ。諦めてお婆ちゃんを愛してて」
「あのシワクチャをかえ~。瑞々しい肌が爺は恋しいの~」


 このエロ爺は相変わらずだな。僕の事はいつも眼中に入らないらしい。日鞠を運んでくるコウノトリとでも勘違いしてるんじゃないだろうな。
 日鞠も基本お年寄りには優しいから図に乗るんだこの爺。二人で会話を弾ませるなか、ようやく爺の目線が僕にも注がれる。


「はて、そこの冴えないのはどちらの田村さんかえ?」
「冴えないでも、田村さんでもねーよ爺!」


 明らかにボケたなこの年寄りめ。そして年寄りであることを利用して日鞠にすり寄ろうとするな! 僕に突っ込ませたのはこれの為の口実か。
 僕は日鞠を年食った変態から守るために間に立つ。すると明らかに不満げに唇を尖らせる爺が一人。


「カァァ、結局日鞠ちゃんを独占したいのかえお前は。本当に年寄りがいの無い奴じゃ。こ~んな奴より、家の孫の方が男前じゃぞ日鞠ちゃん。
 乗り換えて家に入りなしゃい」
「その減らず口と共にさっさとお迎えの行列に並べ! 整理券はもう発行されてるぞきっと!」


 僕の口調は他人の爺に向ける口調じゃないだろう。どっかの教育熱心な人が今の言葉を聞いたら説教しに飛んできそうな位の物だったと自覚してる。
 だけどこの目の前の爺は僕の感情を逆撫でするのが上手いんだ。特に前半の部分。誰が何を独占したいって? この爺。すると意外と近くに居た常識外れの常識人が僕の頭を小突いた。


「スオウ、メッだよ。お年寄りは大切に。巡り巡った時にスオウの周りには意地悪な若者しかいなく成っちゃうよ」
「そんな何十年後なんか見据えて生きてないんだよ僕は。それより爺、秋徒は居ないのかよ?」


 日鞠の説教は華麗に流して本題へ。てか、最初にそう呼んだんだから本人連れて出て来いよと思わなくもない。完全に無駄な時間を費やした。
 来たときより少し日差しが高くなった感じがするよ。


「ごめんねお爺ちゃん。スオウは照れ屋さんで意地っ張りなの。私たち秋徒をお誘いに来たの。居ないのかな?」
「んにゃ~、日鞠ちゃん苦労するでぇ~。孫はそうやのう、朝からどっか行っちゃようや~」


 なんだか二人の間で僕の中傷が納得されてないか? それに結局秋徒は居ないらしいし。逃げたなアイツ。今から暑く成ってくるのに町中を探し回らなくちゃ行けないのか。だけど逃げるほどだし、ほっとけない。
 実際何があったのかはテッケンさんからメールが来てた。みんなの話をまとめて、集約された内容がパソコンに届いてたんだ。
 それは殆どあの目が点君からの情報でやっぱり重要な所は秋徒に聞くしかない思った。セツリの事も……最後に一緒に居たのはアイツらしいし。
 それに今度の軍の召集は三日後らしい。つまりはそれまでがリミットだ。ガイエンは自分の戴冠式に伯をつけたいらしくタゼホ解放をそれに掲げてるんだって。
 だからそれまではまだ秋徒にもチャンスが有るって事だろう。それまでにもう一度アイリを奪い返せばいい。それに三日は絶妙だと思った。
 それが自分的にも限界だ。浚われたセツリの救出はさ。秋徒の事と同じくらいセツリの事は心配なんだ。それ以上経つと、また遠くに行くような気がする。
 そうなったら次に見つけられる保証はないんだ。
 実際秋徒に文句……は言いたいけど言えないかな今は。それは見つけて決めることにしよう。日鞠も居るし、そこまで暗く成ることは無いだろうと思う。


「そっかありがとうお爺ちゃん。どうするスオウ? 秋徒どこ行ったと思う?」


 古めかしい床屋から離れながら日鞠が問いかけてくる。名残惜しそうな爺は日鞠が挨拶一つで片づけてくれたよ。さて、面倒な事に成ってきた。幾ら電話しても秋徒は出ないし、抜け殻みたいになってたからただブラブラしてるだけかも知れない。
 自転車の籠にバスケットを押し込んでサドルを蹴って固定を外す。日鞠は荷台の場所に青春映画バリに腰掛けて僕の腰に手を回した。
 その行為にいちいち胸を高鳴らせる自分にそろそろ慣れろと言いたいな。でも無理なんだ。自転車に二人乗り、それにそれが女子なら男子高校生として胸が躍らない訳がない。
 正常なんだけど悔しい。だって日鞠に踊らされてる感が有るから。


「あ~取りあえずゲーム屋とか回るか? ゲーセンとか? アイツそんな所に居そうだし。てかあんまりくっつくなよ暑苦しい」
「えへへ~嬉しいくせに」
「嬉しくない……」


 実は結構嬉しい自分が恥ずかしい。日鞠の臭いってなんだか安心するんだよね。母親代わりとでも脳が認識してるのかも知れない。


「まぁ取りあえず出発進行!」
「おおー」


 恥ずかしさを悟られないためにも無駄なノリに付き合ってやる。熱気を漂わせ出した空気が肌を通る頃にはそこまででも無くて、カラッとした天気に今日は成りそうだなと感じた。
 今度目指すは街側だ。同級生とか居そうだからこの姿を見られたくない……と一瞬思ったけどそれも今更かと諦めた。
 入道雲が空を一段と高く見せて、そこには違う世界が存在してもおかしくない様な気がする。入道雲は大きな鍵穴。あれを開けれたらそこには別世界が広がってる……なんて入道雲の中には空飛ぶお城が有ると信じる小学生並の事を思いながら僕はペダルを漕ぎ続ける。




 太陽が一段と高く上って漕ぎ続けたペダルの分だけ汗が増す。それでも何故か日鞠は嬉しそうに抱きついてるけど、こっちはそれを気に出来る状態では無くなっていた。


「ぜ~は~ぜ~は~」
「大丈夫スオウ? 昔から体力無かったし無理は禁物だよ。ゲームじゃないんだから息切れだけじゃ済まないよ」
「確かに……ちょっと休む」


 日鞠の提案を易々承諾。部活もやってない僕には限界だ! この季節は理不尽にも太陽を恨む機会が増えるの納得。きっと太陽さんも良い迷惑だろうね。だけどそうせずにはいられないんだ。
 自転車を止めて公園の木陰に倒れる様に根転がった。するとトテテと走り去った日鞠が缶ジュース片手に戻ってきて差し出してくれる。
 ついでに汗も濡らしたハンカチで吹いてくれて清閑スプレーもかけてくれた――ってなすがままにされたよ僕。うう……自分がダメ人間だと感じる瞬間。
 せめてもの抵抗で日鞠の分の缶ジュースのプルトップを男らしく(?)開けてやる。得意げになった自分に自己嫌悪だ。なんて小さいんだろう僕って。
 おかしいな、LROじゃもっと頼られるキャラの筈だった気がしたのにな。日鞠が居るとついつい甘えてしまうのだろうか? 僕は自立を目指してる筈なんだけど、この分じゃ苦労しそうだ。
 ああそうそう、結局秋徒は居なかった。本当にどこに行ったんだろうか。木々の葉の間に宝石の様な光の粒が輝いていて視界を奪う。
 見つめていると目が悪くなりそう……だけどパァーと眼前が白く成るのがちょっと病みつき。それが僕の頭の奥にあった何かを機上させて来る気がして、そして確かにそれが来た。
 僕はガバッと状態を起こす。缶ジュースの中身がちょっと飛び出したけど気にしない。


「どうしたのスオウ?」


 僕の突飛な行動に動じない日鞠は流石だね。休憩の筈なのに太陽光の下に居るし。そこでジュースを飲んでる姿がまたヤケに様に成っている。CMにでも使われそうだ。カッコカワイイを両立させてるのも珍しい。
 まあ、日鞠の場合はカワイイカッコの方がしっくり来るけどね。意味分からなく成ってるか。じゃあカワカッコイイで。うん、なんか違う。
 取りあえずそんな事考えてる事が恥ずかしく成って日鞠の麦わら帽子を傾かせて顔を隠す。これで少しは緩和されるな。


「思い出した。アイツが行きそうな所」
「ホント? じゃあ行こう!」


 麦わら帽子を元に戻した日鞠の笑顔が今の太陽に負けないくらいに輝く。なんだ、意外と怒ってないんだなと思った。無理矢理秋徒を組み込んだからご立腹かと思ってたんだけどそうじゃないみたいだな。


「当然だよ。私だって秋徒とは友達だしね。それに協力者居ないと色々と不便になるし……」
「おい、最後の不穏な部分はなんだ? この暑さの中で悪寒が走ったんだけど」


 僕のそんな追求に日鞠は「気にしな~い、気にしな~い」と笑顔ではぐらかす。納得出来ないけど早く秋徒を見つけたいからそれ以上追求せずに労働に戻る。ギコギコとペダル漕ぐ労働ね。
 今度こそ見つけてやるぞ秋徒!




 背中が見えた。大きくて……そして小さくなった背中が。いつも僕の前にあった筈の背中はちょっとみない間に随分と萎んだ物だと思った。


「秋徒……」


 僕がそう呼んだら一瞬体に電流走った様に震える。だけど返事はない。振り向きもしない。ただ眼前に広がる自分達の街を眺めるだけだ。本当にそこを見てるのかは定かじゃないけどね。
 僕達はどこにいて結局秋徒はどこに居たかと言うと、それはとあるビルの屋上だ。ここは僕達の秘密基地立ったんだよね。今時は屋上の施錠も厳しく成ってるけど、ここは変わらずあけっぱだった。
 下にはそれなりの人通りが有るのに、誰も僕達には気付かない。そんな所が秘密基地っぽくて良かったんだ。でもいつの間にか寄りつかなくなってた。それは成長したって事なのかな。
 久しぶりに来たここは昔よりもこじんまりとして見える。剥がれた塗装や、さび付いた鉄枠なんかが時間の流れを感じさせて無駄な焦燥にかられそうだ。
 目の前のアイツも昔にでも浸りに来たのだろうか? それかやっぱりただ単に行き着いたのがここだったとか。ある意味ここは世界に取り残された様な感じがしなくも無いから、秋徒は引かれたのかも知れないな。


「ああ~中学の時、時々居なくなると思ってたらここに来てたんだ。ズル~イ!」


 何となく僕まで昔に思いを馳せてたら後ろからそんな声が聞こえてきた。シリアスな雰囲気が一気に流れたな。流石日鞠だ。自分の空気にその場を染めあげる事が一瞬で出来る奴。
 後ろから出てきて秋徒発見すると指さし元気一杯にこう言った。


「あ! あ~き~と~くん、見~つ~けた!」


 隠れんぼでもしてたかのような軽いノリだ。だけどやっぱり振り向かない秋徒。するとボソッと日鞠は口を動かした。


「私を無視するなんて秋徒の分際で良い度胸……ふふ」


 背中に得も言われぬ悪寒が走った。こいつは本当に友達を心配してるのか? というか秋徒を友達と見てるのか怪しいな。子分じゃないかな? 分際なんて友達に使わない、明らかに下に見てるもん。
 秋徒、まだ間に合うから日鞠の機嫌を取っておくんだ! と、心で叫ぶけど流石に届かないか。向こうももう意地に成ってるのかな。すると日鞠はポーチから何かを取り出す。それは……
「水鉄砲?」


「あ、スオウ。シーだよ。シー!」


 それはまさしく、青透明な色した鉄砲の形の水鉄砲だった。しかも水は充電済みって、ポーチの中は大丈夫なのか? てか、化粧品が入ってる訳じゃないんだな。
 ある意味日鞠らしくて安心だけど、女子高校生としてそれはどうかとも思う。ポーチから水鉄砲って、今時の小学生でも持ってるか怪しいぞ。
 だけど日鞠は得意げだ。何がそんなに自慢なのかはこの際追求しないでおこう。きっと常人には理解できないだろうからね。
 立てた人差し指を唇に当てた動作を止めて日鞠は秋徒の後ろに立つ。そして水鉄砲を狙い定めて発射!


「食らえ秋徒!」
「うあ!? 冷た!」


 シャカシャカシャカシャカシャカとトリガーを引く度に水の軌跡が太陽光を受けてキラキラと光っている。水鉄砲ってこんなに綺麗何だ……て、端から見てる分には暢気に思える光景だ。
 だけど当事者はそうじゃない。いきなり背中や首筋、頭に冷水をぶっかけられた秋徒は事態が飲み込めず右往左往してる。そこに日鞠はケラケラと気持ち良い声を響かせて秋徒の後を追いかけながら正確に体を打ち抜いている。
 うん、仲の良いバカップルを見てる気がするな。何やってるんだアイツ等は……って感じだ。


「うぱっ……日鞠……ゴメンって……やめ……」
「きゃはははははは、楽しいね~秋徒」


 明らかに虐めだね。壁際に追いつめられた秋徒の顔に掛ける掛ける。小学生の時は女子の方が大きかったりしてこういう逆転が良く見られるけど、高校生の男女でこんな事が起こりうるのは希だ。
 希有な存在が今目の前に。秋徒の助けを求める視線がこちらに向くけど、分かってるだろ。ああなった日鞠には関わりたくない。
 大丈夫、もうすぐ水は切れるよ。そして案の定、小さな水鉄砲の水は程なく切れて空気を吐き出すだけになった。シャコシャコトリガー引きながら中身を太陽に翳す日鞠。まだ物足りなさそうだ。


「水入れてこよ~」


 そう言ってビルの中に消えていく日鞠。完全に目的見失ってないかアイツ? 絶対に水鉄砲が思いの外楽しかったんだな。
 日鞠がビルの中に消えると再び静寂が訪れる。少しの間は秋徒が空気を求める様にガボガボやってたけどそれも終わると、最初に逆戻りしたみたいだった。
 でもそれでも、やっぱりちょっと空気は緩く成った気がするな。濡れまくったアギトを見るとさっきまでの日鞠の楽しそうな声が脳で蘇って笑える。
 ある意味アイツはこの空気を作ってわざわざ僕らを二人きりにしたとか……いや無いな。日々を楽しく生きてるだけだし。
 ここは秋徒に近づいて気さくに挨拶でもしとくかな。


「よっ。探したぞ」
「……てめぇ、なんてモンスター引き連れて来るんだよ。反則だろう日鞠は……」


 おお、意外と普通に口を開きやがった。会話だけでももっと苦労するかと思ったけど、既に秋徒も日鞠のペースに呑まれた様だ。思わぬ所で役に立つ奴。
 まあ、モンスターって言う表現は同意するしね。だけどあの企画外のモンスターのご機嫌を損ねたのはお前なんだから自業自得だ。気が済むまで相手するしかない。
 そう言えばなんで日鞠はついて来たんだっけ? ああ、そうそう。


「遊園地に三人で行くんだってさ」
「はぁ?」


 素っ頓狂な声が秋徒の口から漏れる。友達が遊園地行こう言ってるのになんだその態度は。僕も仕方なく妥協したから納得はしてないけどね。てか、訳分からないし。


「しょうがないだろ。日鞠が弁当まで作って朝来たんだよ。そこに無理矢理ねじ込んでやったんだから感謝しろ。僕って友達思いだな~」
「嫌がらせにしか思えねーよ。なんで将来が決まったお前等の中に俺が入らなくちゃいけないんだ? 新婚気分で行ってこい」
「ふざけんなぁー! 僕はまだ墓場を受け入れたつもりはない!」


 秋徒の言葉は禁句だよ。結婚って人生の墓場って言うじゃないか。僕はもっと人生を謳歌したいんだ。少なくとも日鞠とそうなったら尻に敷かれるのが目に見えてる。
 てか、一生振り回される。心労で早死にする。そんなのゴメンだ!
 するとその時扉が開いて再び日鞠登場。宣言通り水鉄砲には水が満タン入ってる。「日鞠ちゃん再登場!」って自分で言ってるし。
 なんだか話の当人が登場すると途端に気恥ずかしく成るな。結婚とかさ、そんなの考えてた自分がイヤだ! だけどそんなの知らない日鞠はあくまでマイペース。
 水鉄砲を再び秋徒に向けて宣言する。


「よ~し、秋徒も見つけたしこれから三人で遊園地行こう! ね☆」


 水鉄砲なのに何故かジャキっていう重い音が聞こえた気がした。ここに拒否権は無い。だから僕も畳みかけよう。


「秋徒~僕達友達、いいや 親友だろ? 遠慮するなよ。旅は道ずれ、世は情けって言うじゃん」


 完全に僕まで私情が入ってた。ここまで来たら逃がすかよ! 僕のこれからの人生の為に。二人で行ったらハネムーンって言いふらしかねないだろ。


「たく……分かったよ」


 秋徒の渋々の了承の後、僕達は駅に向かい夢の国へ向かう。高まる気温の中で僕が一番気になるのはバスケットの中身。これ以上強い日差しは衛生上勘弁だ。

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