命改変プログラム

ファーストなサイコロ

信念でさよなら



 もう流石に剣を抜かないで逃げることだけを考える・・なんて事は出来なくなったっす。再び『ミラージュコロイド』を発動するまでの後五分、俺は絶対的な回避方法を失った訳っすからね。


(さて……どうっすっすか、後五分は長いっす)


 心の中で舌打ちしながらウインドウを表示させて、予備スキルでの逃走構造を頭に思い浮かべてるっす。もしもの時の為にショートッカットに別のスキルを当てるのは、誰しもがやってることっす。
 幾ら自信があるスキルの組み合わせでも、全ての局面にそれが当てはまる事はないんす。
 だからある程度スキルが貯まったら、何通りものスキルを試し、組み合わせて、最低でも三つのスキル構造を作る物っす。
 ABCと定義したそれのAには尤も信頼するスキルを中核に組み込んだ物にしてメインとして使うっす。俺の場合はそれこそ『ミラージュコロイド』がそれに当たるっす。
 そしてBとCにはそれぞれ中核を別のスキルに置き換えた物を組むっす。大抵窮地に陥った状況では、その信頼したスキルが使えなく成ってるからBCへって事っすからね。
 だけど俺は特殊っす。元々戦闘時の交戦を余り視野に入れてないっすからね。俺のスキル欄は如何に逃げきって生き残るか……それに徳化した作りにしてるっす。
 だから同じスキルが基本重なる様な事は無いっす。再使用時間が短い物なら別っすけどね。
 逃げきる……この状況で限りなくゼロに近いそれを可能に出来るとしたら『ミラージュコロイド』しか無いっすよ。だから後五分を繋げる事が出来る方を選ばなくちゃいけないっす。それはBかCか……


「何を算段してるかしらんが諦めろ! カーテナから逃げる事など不可能なのだからな!」
「取り合えず回避だノウイ君!」


 ガイエンの言葉の後に続いて響いた、テッケンさんの声に体が勝手に反応して動いたっす。アギト様に肩を貸したままその場から飛びすさった直後、ドバン! と言う音と音に見合っただけの衝撃が俺の体を転がしたっす。


「うああっあああああっあ……っつう」


 跳ね転がった先にも親衛隊と言う敵が居るっす。奴らの一人が待ってましたといわんばかりに剣を振りかぶって来るっす。


「ようやく貴様を切れるわ!!」
「またアンタっすか!」


 親衛隊の顔を確認すると、毎回俺を執拗に狙う奴っした。態勢も悪く、回避するタイミングを完全に逃した俺は握った剣を体の間に滑り込ませて奴の剣を受けるっす。
 剣と剣がぶつかった音が焦燥の夜空に甲高く響く。だけど直ぐに片手と不慣れな事での差が明確に出始めていたっす。


「ははははは! 何度でも何度でも、貴様をこの手で斬るまで表れるわ! その軟弱な剣ごと叩き斬ってくれる!」
「ぐ……ぬああああああああ……」


 奴の剣が一層力を増して俺の剣を押してきているっす。押し返せる道理は無く、こく一刻と刻まれるのは目の前の奴の歪んだ顔っす。
 やっとで我慢し続けた大好物に箸を伸ばせた子供の様な顔。だけどそれをマジで大人がやるとこんな歪んだものになるって知ったっす。
 そこにはただ純粋なだけの理由を大人は持ち合わせないっすね。いや、この人が思う俺を斬りたいって思う気持ちは真っ直ぐで純粋なのかも。
 でもその中には「気に入らない」とか「ムカつく」とか横に逸れた感情がペタペタとくっついてトゲトゲの様になってるっすか。
 様はそんな横に逸れまくった感情の矛先が俺に向かってるって事がバレバレっす。
 隠す気があるとも思えないっすけど。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇえええええええ!」


 奴の呪詛めいた声が歓喜の歌に乗せられて耳にひたすら届くっす。それは不快なんて安い物じゃ無いっすよ。恐怖と悪寒の相乗効果を知ったっす。人が持つ黒い感情をそのままぶつけて来られるとたまった物じゃ無いっすよ。
 パキっと握る剣に亀裂が入り出した音が耳に届くっす。その時、地を蹴る複数の足音が聞こえたっす。きっと今がチャンスとばかりに止めを刺しに来てるんすね。


「ノウイ君! クッソ……」


 周りに視線を走らせると剣を顔等辺で構えて、取り囲む様に向かってきている親衛隊五人位が見えたっす。その向こう側では剣を必要最低限混ぜ合わせて時間稼ぎの為に色々小細工やってるテッケンさんが見えるっす。
 向こうも同じ位の人数を相手にしてるから、そこを抜け出すなんて出来そうもないっす。いいや、それよりこの状況は俺もテッケンさんも、どっちも切羽詰まってる訳っすから五分を生き延びる為にも構わない方がいいっす。
 『五分後に双方が生きている事を信じる』それ位じゃないと無理っす。自分以外に意識を向けたときにやられそうっすからね。
 ヘナチャコやら卑怯やら言われてる自分っすけど、逃げる事だけに関しては誇りを持って前向きに考える様にしてるっす。
 だから俺は逃げることだけは諦めない様にしてるっす。派手な戦闘やら、誰かに喜んで貰える職人とかじゃなく、これが俺が選んだ道っすから。
 最後の取り柄まで自分から捨てたら、もう何も残らないっすからね。だからテッケンさんは俺の事は五分間忘れて目の前の奴らをやり過ごしてくださいっす。俺もまだまだやられはしないっすから!
 複数の切っ先が寸前まで来た時に、ついに俺の剣はポキっと逝ってしまった訳っす。その瞬間見せた、奴の歓喜と至福を思い描いた様な表情には流石にゾッとした訳っすけど、それは皮算用過ぎるっすよ。
 それか早合点。どっちでもいいけど、だから俺はアンタにやられはしないっす。


「終わったあああああ!」
「いいや、まだ逃げさせて貰うっす!」


 鼓膜を地味に腐らせる様な奴の言葉をはっきりと返してやったっす。そして同時に折れた筈の剣が赤く光って丸い玉に凝縮されたっす。そしてその現象は当然、親衛隊の奴らにも見えた様でしたっす。


「総員回避しろ!」


 いち早く気づいた奴がそんな声を出したっす。けどそれも遅いっす。もっと早くに気づくべきだったんすね。取り出したばかりの剣が、そうそう折れるなんてあり得ないって事に。
 幾ら何でも一太刀で折れる剣なんてLROに存在はしないっすよ。それがあるとすれば、それは剣では無いものっす!
 凝縮された赤い玉が弾けて、巻き起こった爆発に親衛隊が包まれたっす。そして奴らの剣は届く事無く、俺から離れたっすよ。


「「「「うあああああああああ」」」」


 そんな悲鳴が大合唱されて吹き飛ぶ白服達。だけどダメージを受け付けないその仕様に意味なんて無いのかもしれないっす。
 だけど……だからこそ、この罠には二重の仕掛けがあったっすよ。


「なん……だこれ? 動けない……」
「くっそ! どこまでも……卑怯な真似を!」


 何人かは上手く掛かったようっす。奴ら爆発に巻き込まれた親衛隊の何人かには、光鎖の様な物が体を縛っている。
 あの派手な爆発も実はこれの為の伏線であり目眩ましっす。倒す事が元々得意でない俺っすから攻撃に見せかけるのは全部逃げるための算段っす。
 倒せないから動きを封じるーー逃げれないから動きを封じる。それはどちらも『逃げ』にとって有効な手段っす。追いかけてくる奴は一人でも少ない方がいいっすからね。
 俺は距離が開いた親衛隊共に言ってやるっす。


「言ったっすよ俺は。逃げることしか出来ないって」


 これだけが自分の出来る事だって。奴らは見失ってたんすよ。散々さらけ出していたのに俺って言う生き物の行動理念をね。だから今、アンタ達はそこに這い蹲ってるっす!


「なら、逃げ続けてみろ。この私からな。いつまで続くか見せてくれよ目が点君」


 不意に聞こえたそんな言葉は、見なくても誰が発したかわかったっす。身体強化系のスキルでスピードを出来る限り上げることを俺は選ぶっす。
 結局、ミラージュコロイドなんて特殊なスキル以外で逃げる事に徳化するなんてのはスピードを追い続けるしかないっすよ。
 巨大なハンマーが振りおろされた衝撃が再び俺の鼻先をかすったっす。それは紛れもないカーテナの力。さっきまで使わなかったのは側に親衛隊が居たからっすか。
 カーテナは威力もその範囲も、どうやったって周りを巻き込まずにはいられない代物のようっすね。それか、今はまだガイエンも完璧には扱えていないのかも知れないっすけど……それを確かめる事は俺には出来ないっす。
 やる意味もないっすからね。取り合えず問題なのは、俺に向かってあの剣が向いているって事っす。


「ほらほら、潰されない様にしっかり逃げて見せろ」


 今度は連続してカーテナが振られるっす。連続して響く大きな音と地面を揺らす衝撃は凄まじいものっす。だけど俺はそれをかいくぐるっす。今まで逃げ続けてきた事で、逃げ道を見つける嗅覚が自分には備わったのかも知れないっす。
 だけどガイエンはまだ上下にしかカーテナを振ってない事実があるっす。確実に遊んでる。そう感じるっす。けれどそれでも、それだけでもやっぱり驚異っす。
 次第に感覚が縮められていき、確実に俺は追いつめられてるっす。逃げ道を嗅ぎ分ける嗅覚も叫びを俺に届けてるっす。


(このままじゃヤバい、マズい)


 一瞬でも良いっす。どうにかガイエンの動きを止められたら儲けもんす。再び武器を握り(今度は短剣)逃げまどう中、それをガイエンに向かって投げつけるっす。
 だけどそれはあっけなく阻まれるっす。奴を守る様に張られている光の壁みたいなのがその原因っす。ガイエンに届くことなくその光の壁に阻まれた短剣っすけど、その瞬間不自然に折れてさっきの親衛隊にかました攻撃と同じ現象が起きるっす。
 爆炎の中に呑まれたガイエン。一瞬だけど確実に止まったカーテナの攻撃を逃さずに体勢を整えるっす。そして手には再び別の武器を握るっす。
 あれが効いてるなんて思ってないっすからね。


「良い心がけだ。こんな小細工、私には何の意味も成さないぞ」


 立ち上る煙の中かからそんな声は聞こえたっす。そしてその煙をなぞるように何かが水平に移動するのが俺には見えたっす。


「――がっはっ!?」


 ゆっくりな奇蹟を描いたその動きを注視したのが良くなかったっす。直ぐに分かったはずなのに、心のどこかでは油断や渇望をしてたみたいっす。
 「もしかしたら……」という淡い望み。そんな物を見えない煙の向こうに期待した結果、俺の体はくの字折れ曲がり地面に埋まるかと思う程の衝撃で叩きつけられたっす。


「なんだ? まさか避けないとはな。当たると思ってなかったから少々投げやりだったのだが、良く効いてそうだな」


 晴れて行く煙の中から、無造作にカーテナを振り回しながらガイエンが出てきたっす。なんとか体を起こしてその体を改めて見ると、傷一つどころか爆発の影響も微塵も受けてない様っす。
 自分の攻撃力の無さは知ってるっすけど、硝煙位かぶっとけって言いたくなるっすね。それに投げやりなんて感じで放たれた攻撃がここまで効くのも予想外っす。


「確かに良く効いたっすけど……まだまだっす」


 HPは一撃食らっただけで三分の一は減ら去れたっす。単純に考えると後二回食らえば俺のHPは終わってしまうっす。たった三回の攻撃でやられるなんて、敵であるボスクラスのモンスターでも聞いた事ないっすよ。
 立ち上がると何故か片側が軽く感じたっす。そして武器を握ってない方の腕が宙を掻くっす。スカスカ……スカスカ……恐る恐る目を向けるとそこにはアギト様が居ないっす! どうやらさっき吹っ飛ばされて時に手を離したみたいっす。


(どこに……)


 そう思って視線を走らせると、こちらに向かって来ていたガイエンが地面に転がる何かに手を伸ばしたっす。そして胸倉を捕まれて晒されたのは紛れもなくアギト様っす。


「クククク、やはり貴様は、この私が潰さんとな!」


 そう言ってガイエンはカーテナを構えるっす。アギト様は相変わらず死んだ魚の様な目でただそれを眺めるだけ。ダメなんすよ。アンタはここでやられちゃダメっす!


「うおおおおおおおおっす!」


 俺は何も策がないけど走り出してたっす。せめて至近距離で爆発させて目くらましにでもなれば幸いっす。だけどそこであの親衛隊の奴が飛び出して来たっす。


「やっとでやる気になったか? けど諦めろ、過去はもう我々には必要ないんだ。明日の発展の為にあの方は奴らと決別しなさる!」
「またアンタっすか……どけっす!」


 俺は手に持った武器(今度は片手斧)を投げるっす。ブーメランの様に回転して目の前の親衛隊に飛んでいく武器。だけど奴はいとも簡単にそれを叩くっす。
 だけどそれが狙いで、思惑通り行ったっす。こんな奴に構ってる暇なんてないんすよ。叩かれた武器はまたも不自然に砕けて爆発をするっす。
 最初の時は複数人いたから奴は縛られなかったっすけど、今度は一人。確実に奴の身動きは封じられた筈っす。爆煙に包まれた奴の横を通ってガイエンを目指す。けれどその時、黒い煙の中から声が聞こえたっす。


「温いな貴様。我に同じ手が二度通じると思うか!」
「――っつ!?」


 奴は縛られていなかった。剣を突き出して煙の中から現れたっす。そして黄色いエフェクトを帯びた剣が、俺の腕を貫いた瞬間、体が横に吹っ飛んだっす。
 けれどその途中に小さな影が俺の横を猛スピード駆け抜けたっす。あれはテッケンさん!


「任せてくれ!」


 そう言って二人に分裂したテッケンさんが奴を攪乱して一気に抜き去ったっす。そしてガイエンに迫る段階で更に八人に成ったっす。全包囲からの一斉攻撃で一時的にガイエンの動きを止めたっす。スゴいっすテッケンさん! 
 俺の様な騙し騙しの攻めじゃ無い、あれが本当の戦闘っすか。だけどあれも僅かな均衡が針の上でバランスを取ってる様な物っす。
 僅かな介入で一気に崩れさるかも知れない……そしてさっきまでテッケンさんが相手していた親衛隊と、俺を吹き飛ばした奴が援護に向かおうとしてるっす。
 ここで行かせたらダメっす! 俺は直ぐ様立ち上がり、両手に武器を構えるっす。今度は片手昆二本っす。


「行かせるかっす!」


 それをまずは後ろから来ていた親衛隊の奴らに二本とも同時に投げつけるっす。そしてその特性を奴らは見てないから無造作に武器で払い爆発。これで数人は行動出来なく成ったはずっす。
 だけどこの機会を逃がす手も無いっす。テッケンさん側だったこいつらは爆煙に隠れて状況を分かってない。なら一気に全員を行動不能に、と思い続けざまに武器を投げてやったっす。
 ドガン! バガン! と武器が弾けて煙を巻き上げる。だけど何人が行動不能に成ったかまでは確認しないっす。そんな余裕はないっすから。テッケンさんにあの異常に執拗な奴が迫ってるっす。
 奴を行かせちゃいけない。確かに戦闘では劣る俺っすけど、スピードはこっちが上っす! 


「うあああああ! 止まれっす!」
「貴様! そうこなくてはな!」


 驚いた顔はせずに何故か奴は歓喜に満ちた顔で剣を重ねたっす。二つの武器がせめぎあう。ちなみに今の自分の武器は両手昆っす。無理せずに俺は直ぐに身を引くっす。そして再び武器は爆発。だけどやはり奴は鎖に縛られない。


「ふん、何度やっても貴様の卑怯な手など効かんわ!」


 卑怯なんてHPを減らさない奴に言われたくもないっす。確かにこれを分かってる奴をハメるのは用意じゃないけど、俺には武器らしい武器はこれしかないっす。そして今の状況で唯一有効なのも事実。
 必ず喰らわせる! 一個でダメなら二個。二個でダメなら三個。それでもダメなら持ってけドロボーっすよ!


「アンタはここで絶対に止める!」


 出し得るだけの武器を奴に向かって放つっす。だけどそれは奴の剣撃に寄って全て叩かれて爆発していくっす。それは俺の思惑通りなのに奴はやはり止まりはしないっす。地面を蹴り勝利を目前にした奴の顔が迫るっす。
 自分に残った武器は腰の長剣のみ。奴はそれを確認して更に不適な笑みを作ったっす。


「終わりだ! それは軍に支給されるただの剣だからな! 勝利は我が手が掴む! 貴様は結局ただの負け犬よ!」


 剣と剣がぶつかり合うっす。確かに鞘から抜いた剣は今までと違い、ぶつかった位じゃ刃こぼれ一つしない立派な武器。だけどこれを最後まで取ってたのには意味が有るっすよ!


「確かに俺はアンタから見たら負け犬かも知れないっす。けどこんな俺にも期待してくれる人達はいるんすよ! それに自分の国を救いたいと思うのは負け犬にだってある権利っす!」


 片手に持ち直した剣。空いた片手は再び腰の鞘に向かい、柄を握ったっす。空だった筈の鞘に現れた剣……それを見て奴は驚愕したっす。


「貴様! それはまさか!?」
「このスキルの制約は順番とストックっす! 思い出して見るんすね。投げていた順番を! 最後は勿論長剣っすよ!」


 抜き去った剣を奴の腹に突き立てる。すると刺さりもせずに折れたっす。


「きっさまぁぁああああああああ!!」


 奴の声は直後に起こった爆発に呑み込まれたっす。爆発の中奴に光る鎖が巻き付くっす。そしてこの瞬間軍配は俺に上がったっす。


「騙し討ちとはこの卑怯物があああ!」


 そんな事を叫んでる奴が足下に転がったっすけど、気にしてる余裕は無いっす。勝負に勝っても試合に負けたら意味がないんすよ!
 試合とは勿論ここの局面を切り抜ける事を指すっす。前に視線を向けて走り出す。本当の敵はこいつじゃないんす! 


「テッケンさん!」


 俺の声に反応した八人のテッケンさんと目を合わせて頷き合う。ちょっと物怖しそうになったけどそんな事気にしてられないんだ。


「頼む! ノウイ君!」
「はい! 『ミラージュコロイド』発動っす!」


 見えない鏡を操作してガイエンの視点をずらす。そして八人のテッケンさん。状況は一気に有利に成ったように見えた。だけどカーテナの一振りは大抵の物を凪ぎ払うっす。


「小賢しい……小賢しいわ貴様等あああああ!!」


 一気にテッケンさんの分身が消え去った。だけど本体は俺と一緒にガイエンの背後に鏡を使って移動してたっす。
 テッケンさんの攻撃が奴の守りを打ち破ったっす。だけど体はかわされた。けど体勢は崩れたっす。それで十分。俺はアギト様の腕を掴んで引っ張るっす。だけどガイエンは胸倉を放してない!


「ふふ……はははははは! 逃がすわけない! 集ったな貴様等。終わりだあああ!」


 振りおろされるカーテナ。ここで回避したらアギト様がやられるっす。逃げの選択は出来ない……けど武器はただの剣しか無いっす。
 逃げない状況なんて自分には分からない。けどその時アギト様の服から何かが飛び出したっす。それは白いフクロウ?


「クー!」


 そう叫んだテッケンさんが腕にクチバシを突き刺したフクロウに加勢するように飛んできたっす。そして今度こそアギト様をその攻撃で解放したっす。これで全ての条件が満たされたっす。


「今だ! 頼むノウイ君!」
「はいっす!」


 腕を掲げ展開していた鏡を空に向けて一直線に並べるっす。向かうは月。月光の道を切り開くっす! テッケンさんはクーを、俺は彼とアギト様を引っ張って後ろに出した鏡に飛び込むっす。


「逃がすかあああ!」


 突き出されたカーテナが空に並んだ鏡を次々と砕いた。だけどそこに俺たちはもう居ないっす。飛び出たのは月が限りなく大きな空。遙か遠くにアルテミナスの光。
 俺達は遂にやり遂げたっす!

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