命改変プログラム

ファーストなサイコロ

鏡の戦士



(おらぁ何をやってるんだぁぁぁ!)


 まず最初に思ったのはそんな事。自分のやったことの重大さは自分が一番よく分かってるわけすよ。今、自分は国という大きな物を敵に回しちゃったっす。
 いやいや、その前にここLROでの家、自分に取ったら本当に第二の故郷的なこのアルテミナスから追放されかねない事を自分してるっす。
 でもそれくらいもう我慢が出来なかった訳で……あの人のあんな姿はみたくなんかなかったっす。自分の目の前に倒れ伏したあの人。
 赤い髪に巨大な剣と盾を有したその雄々しき姿は自分が憧れた物でしたっす。いいや、それは違うっすね。きっとこの人に憧れて軍への参加を希望した人はもっともっと沢山いたはずっす。
 それだけ『ナイト・オブ・ウォーカーのアギト』と言ったらエルフという種族の中では凄いものっす。軽く伝説的な位。




 エルフは元々何故か我が強い人が一杯なんす。なんでそうなのかは分かりかねるっすけど、とにかくそんな訳で前は国として種族としLRO内で最強では無かったっす。
 エルフって言う人気な種族で人間に続く数を誇っているのに自分達には我が強いためか連帯感がんなかったんす。自分を強く……っていうか、自分だけを先んじる感じで、みんなで大きな事を助け合ってやろうなんて奴はいなかったす。
 それは劣等種の人間のやることで自分達は違うと大多数のエルフが思ってたっす。それはここLROだけでは『人』と格別しようとした結果なのかも知れなかったんすけど、それじゃあ国が発展するなんて事はあり得ないんすよね。
 気付いたときに『人間』『モブリ』『エルフ』という三角から崩れ落ちそうだったんす。元々、数で保ってきただけのその牙城はいわば砂上の楼閣でしかなく、下には突き上げる種族がまだいたんすよ。
 LROでは国の開発もプレイヤー次第だけど俺達はそんな事やってなかったっすからね。他の種族がそれをやっている間に俺達エルフはそれぞれ個々の最強でも追っていたわけっす。


 だけどLROのサービス開始から半年以上たった頃に、国の領土を広げられるシステムが導入されたんす。するとあら不思議、そこで国の力の差を俺達エルフは突きつけられた訳っす。
 次々に領土を広げていく多種族に対して戦いを挑んでも勝てる事はなかったんす。向こうは組織でこちらは個。それは象の群に蟻が飛び込むが如しだったっす。
 元々有してたエリアまで次第に毟り取られて行くとアルテミナスは小さくなったっす。まあ、けどそれでも俺達はバラバラでしたっすけど。
 別にこの国だけに入れない訳じゃないっすからね。ただここが故郷ってだけっす。それも架空の……だからそんな強い物で結ばれる訳はないんすよ。その頃は。
 そしてきっとそんな気持ちが明暗を分けていたんすね。俺達はもう領土を守るなんて事してなかったっす。最低限に残ったのはこの首都アルテミナスだけっした。
 だけどそんな折りに、立ち上がったのがあの方々っす。そういえばあの頃から光明の塔に光が灯ったんす。それまではただのオブジェでしたっすから。
 最初はそれでもみんな乗り気じゃ無かったっす。この国を守って取り戻そうとするあの方々を笑う奴多数っした。けれどもあの方々が頑張って訪れた初めての勝利でアルテミナス国内、そしてエルフが少しづつ纏まり出していったっす。




 それだけじゃないけど目の前で倒れてるあの方はその中心で輝いていた人でしたっす。それが……それが……こんなの自分は認めたくなんかないっすよ!
 何が自分に出来るかなんかわかんないっす。逃げることしか出来ない自分っす。だけど後から沸いてきた軍に紛れて遠目から見てたけどイライラするんすよ!
 なんでアンタがそんな無様に倒れてるんすか? なんでアイリ様を助けてやらないんすか!? 


「何なんだよお前……」


 そんな消え入りそうな声が僅かに耳に届いたっす。沈んだ瞳には光の欠片も無く、いきなり殴られた事への怒りも見て取れないっす。それが当たり前で、当然の仕打ちというようにしてるっす。
 重心が取れてない様に上半身を揺らして体を起こしたその姿はまるで体を通っていた芯を無くしたか、折られた様なそんな印象を与えるっす。
 もうどうして……そこにかつての彼を重ねる事は出来ないす。でもきっとだからなんすね。俺は大胆不敵な事を言えるっす。てか言ったっす。


「俺はヒーローっす! すっげー可愛いフワフワ髪のお姫様が認めてくれたっす! 一緒に逃げる事しか出来なかった自分をそれでもヒーローって!
 だからアンタも逃がしてやるっす! ここでアンタは死なせない!」


 頭に浮かんだのはあの子の背中と隊長の言葉でしたっす。思いを託してくれた隊長達……そして、自分をヒーローだと言ってくれたあの子。
 あの子はアイリ様の為に行ったんすよ! それでアイリ様は助かると思って、アンタなら助けれると思って自分を犠牲にしたんす。
 それなのにアンタがそんな事でどうするんすか? このままじゃ俺さえもあの子に……隊長達にあわせる顔が無いっす! 自分じゃ何も出来ない俺っすよ。
 きっと一人じゃ、やっぱり震えるだけだったと思うっす。だけど……


「助けはありがたい、けど君はそれでいいのかい?」


 その人は小さな小さなモブリと呼ばれる種族の人っす。基本人より背が高い俺たちエルフから見たら、その姿は矮小その物。
 けれどこの人が飛び出して行ってくれたおかげで俺も輪の中から飛び出せたっす。そのおかげで俺はあの子の言葉に応える事が出来そうっす。


「はい、いいんす。もう俺の覚悟は決まってるっすから!」
「よし! 君を信じよう!」


 俺達はきっと、多分、いや絶対、初対面す。だけど目の前のモブリの人は意図も簡単に俺の事を信じてくれたっす。エルフという敵で有るはずの自分をたった一言の言葉で信じるなんて俺には出来ない事でちょっとびっくりしたっす。
 LROは有る意味、人の黒い部分もリアルより強く出てる事が有るっすから。自分が逆の立場ならこんな絶対的に不利な状況で加勢に来た奴は信じられないっすよ。
 だってしかも俺は軍の鎧着てるっすから尚更っす。騙し討ちが目的か!? 位思うものっす。けどこの人は、なんて真っ直ぐに人を信じる人なんすか!?
 そんな目で見られたら……そんなはっきりと信じられたら、例え騙し討ちに来た卑怯な奴でもそれを躊躇ってしまうっすよ。


「なっ、君は僕を騙してるのかい?」
「いえいえ、違うっす! 例えば。た~と~え~ば~っす!」


 親衛隊の剣を弾いたモブリの人は小さな拳を握って間の抜けた事で言ったっす。
 でも、やっぱり少しは疑った方がいいと思うっす。それで本当に騙されたら惨めなだけっすよ。だから状況を考えもせずに俺は聞いてしまったっす。
「どうして、信じるっすか?」って。そしたらモブリの彼は後ろから再び迫った親衛隊二人の攻めをかわして弾いて、スキルを使って吹き飛ばす。
 浮いた小さな体がまた地面に戻った時に彼は言うっす。


「君は信じれると思った。アギトに言った言葉は心に響いたからね。済まないけど、そこの腑抜けを逃がすのを手伝ってくれ!」


 俺は頷いたっす。周りに目を向けると数十人の親衛隊の奴らが武器を抜いてるのが見えたっす。そしてそこにはついさっきあいまみえた奴らも居て敵意満々なのが伝わるっす。
 それにあいつらには攻撃は効かなくて、おまけに親玉まで居ると来てる……状況はすこぶる不利。この三百六十度を囲まれた状態から人一人抱えて抜け出すなんて、不可能に思える事っす。
 だけど俺には逃げしかない訳で、ここでやれなきゃ自分の存在意義なんて無いほどっす。これが自分の役目なんじゃないか、とか思うっす。
 モブリの人もあの人を諦めて無いように、きっと俺もあの人を諦め切れないんすよ。もう一度と思って、その僅かな身勝手な希望に縋ってるっす。繋げたいと思うっす。それが例えあの人にとって苦痛でも、俺じゃ二人を助ける事は出来ないんす。


「どうやって逃げるっすか?」


 取り合えず見る影も無くなったあの人に肩を貸して起こすっす。意外とすんなり受け入れてくれたけど、その表情にここを切り抜けたいなんて意は全くないみたいっす。
 だからっすかね? 力がない肉体は異様に重いっす。心も体もボロボロになったのがよく分かるみたいに。


「そうだね――つっ!! 取り合えず君は逃げるの得意かい?」
「それしか取り柄ないっすから! 大得意っす!」


 モブリの人は一手に親衛隊の攻撃を引き受けてるっす。そんな人に「逃げるのだけは大得意」って言うのも気が引ける感じっすけど、今だけは許される気がしたっす。
 今必要なのはその一点だけっすからね。案の上、モブリの彼は笑ってくれたっす。


「ははは。そっか、それは大助かり――うあぁ!」
「ああ!」


 小さな彼の体は親衛隊のスイッチ攻撃に寄って吹き飛ばされたっす。それでも今まで凌いでたのが凄いんすけど、その時、眼前には既に一人の親衛隊が迫ってたっす。


「二度も逃げ仰せると思うなよ。この恥晒しが!」
「――しまっ――――逃げるんだ!」


 顔見知りな親衛隊の奴がその剣を横に凪いでるっす。俺ごとこの人も切り捨てる気っすね。さっき俺に逃げられた事を逆恨みしてるっぽいし、その剣には執念みたいなのが込められてそうっす。
 そして聞こえたモブリの人の声。吹き飛ばされた様だけどそんなにダメージは無く、上手く地面に着地出来たみたいす。彼は小さな体を鉄砲玉みたいにして駆けて来てくれてるっすけど間に合いそうもない。
 だけど、大丈夫っす。特技が「逃げる事」なんて堂々と言う俺は伊達じゃないっすよ。


「悪いけど、今回も逃げさせて貰うっす!」
「貴様あああああああああああ!」


 親衛隊の剣が俺の胴体にその鋭い刃を食い込ませた――っすけど、その俺は振り切った時には霧散したっす。そして当の俺はその親衛隊の背後っす。だけどホッとしたのもつかの間。
 まるでそれを予想してたみたいに他の親衛隊が続けざまに俺を狙って連続攻撃を仕掛けるっす。


「奇妙な技を! 騎士の国に生まれたのならその剣を抜いてみろ! ――ぬあ!?」
「ちょこまかと逃げてばかり! 煩わしいのよ――って、え?」
「「「「とったあああああ!! ――っつ!?」」」


 親衛隊の面々が次々に驚愕の表情を作っていくっす。それは俺に攻撃が当たらないからっす。いや、当たったはずなのにその感触は無いから、頭が混乱するのかもしれないっす。
 次第に動きを止めていく、親衛隊の奴ら。だけどそんな中、執拗に俺を追う奴が居るっす。それは一番始めに俺に一太刀入れようとした奴っす。


「動きを止めるな! それこそこいつの思うつぼだぞ! 攻撃を浴びせ続けろ! そしてこのおかしな技の正体を見破った時こそ終わりだ!
 その恐怖を与え続けるんだ! 逃がさんぞぉ。逃がしてたまるかぁぁぁぁ!!」


 四方八方から留まることのない剣の嵐が俺に浴びせられるっす。声を出した親衛隊の奴は、目が血走っててヤバい感じっす。
 執念や憎しみをそのままぶつけて来るような剣激には黒いエフェクトが見えるようっす。黒のエフェクトは設定上プレイヤーに適応される事は無いから、それは見間違いの筈っすけど、背筋には嫌な汗が出てたっす。
 あり得ない事が起こる恐怖って奴を、俺は今夜でイヤという程見てきたっすからその思いも否定出来ないんす。


「何故だ? 何故貴様は逃げ続ける!!」


 親衛隊の奴の怒りに満ちた声が俺の耳に届くっす。幾ら切っても、幾ら剣を振っても逃げていく俺の陰にその言葉は向けられてたっす。
 だけど無駄っす。俺はヘナチョコっすから。これだけしか自分には出来ない事を知ってるっす。だから俺は何を言われようと逃げ続けるだけっすよ。俺にアンタ等の攻撃は届かないっす!


「離れろ貴様等!」


 その声は一瞬にして冷静さを失ってた親衛隊の頭に浸透して剣を引かせたっす。俺はやっとで止まった攻撃に少し安堵して息を吐いた所でしたっす。その声を発したのを誰かも確認せずに。
 だからモブリの人の叫び声が聞こえたときには「しまった!」と心の底から思ったっすよ。


「止まるな! カーテナが来る!!」


 開いた親衛隊の間から見えるのは黒い霧に包まれようとしてるアイリ様を抱いたガイエン! その掲げられた左腕には確かにカーテナの姿が有ったっす。
 自分は一瞬だけ足を止めて……だけどカーテナにはその一瞬で十分だったんす。上から下にただ重力のせいで落としたよう腕が振られるっす。


「煩わしい奴だ。剣も抜けぬ癖に、私達と同じエルフとはな。恥はカーテナによって断罪してやるわ!」
「避けろぉぉぉぉ!」


 カーテナの攻撃が届く一瞬前に、モブリの人が俺達を助ける様に飛んで来たっす。だけど、ごめんっす。俺はそこには居ないんす!
 モブリの人は俺の体をすり抜る……だけどその体をあらぬ所から出てきた腕が引っ張って強引に小さな体の向きを変えたんす。
 そして直後、カーテナの力は振るわれたっす。何かが割れる音と共に、地面を砕く衝撃が周囲に広がり、一番近くにいた親衛隊までその被害を被ったっす。
 だったら一番近く……というか俺達に向けて放たれて落ちてきた衝撃の真下に居た筈の俺達はと言うとっすね。ガイエンと親衛隊から二十メートルは離れた位置に居るっす。
 力が直撃して陥没した中心には陰も形も無く、決まった筈のカーテナから逃げ仰せてる俺達に周囲の軍からはザワメキが起きてるっす。


(はぁはぁはぁはぁ……カーテナ、本当に滅茶苦茶っすね。見てるのと向けられるのじゃ恐怖に差が有りすぎるっすよ)


 それでも何とか間に合ったっす。俺の『逃げ』を支えるスキルを犠牲にしたのは辛いっすけどね。でもあの場面じゃ仕方なかったっす。肩にのっかってるだけの人は決闘終わりでHPヤバいっすからね。
 それに今まで見てきたカーテナの攻撃には極力、イヤ絶対に当たりたくないっすから。あの攻撃で軍のどれだけの人間が戦意喪失したか……それも今の持ち主はガイエンで、今度はちゃんとHPも削るっす。
 あれだけの攻撃力……数回当たるだけで心と体を持って行かれる筈っす。


「鏡? ――あっ。それにいつの間に?」


 モブリの人のそんな声が聞こえて首を後ろに向けると、周囲に同化して立っていた鏡が砕け散ったっす。そしてその破片は自分がさっきまで居た所やカーテナの影響を受けた場所なんかでも月明かりを受けて煌めいて居るっす。
 でも綺麗……なんて言える状況じゃ無くなったっす。


「くはははは! まさかカーテナからも逃げ仰せるとはな。そのスキル、賞賛に値するぞ。どうだ貴様? まだ間に合う、同じ種族なのだから手を取り合おうではないか。
 その担いでる奴をこちらに引き渡せば全て不問にしよう。地位も約束してやろう。貴様のその力、使いようによってはアルテミナスの大きな武器になろう!」


 ガイエンの言葉で周囲はさらに大きなザワメキに沸き立つっす。自分に地位? 実感がわかない言葉っすね。親衛隊の連中が何か言ってるのが見えるっすけど周囲の声で聞こえないっす。大方「なんであんな奴を」とか言ってると思うすけど。


「これは君のスキルかい?」


 そんな中、周囲に聞こえない小声でそんな事をモブリの人が聞いてきたっす。この人に隠す事でもないし、一緒に逃げる事を目指すなら知っておいて貰った方がいいっすね。俺は頷いて同じように小声で囁くっす。


「ええ、まあ。スキル『ミラージュコロイド』っす。自身に纏う光を屈折する粒子と周囲に展開する七個の鏡がこのスキルの特徴っす。
 鏡は見えないように周囲と同化して、そして自由に操れるっす。その鏡に光をあてたり、合わせ鏡の要領で自身を写すと、纏う粒子の影響で残像よりももっと鮮明な影を作れるっす。
 いわば分身っすね。そして最大の特徴は鏡間を瞬時に移動出来る事っす。だから常に一枚は放した場所に置いてて、そのおかげでなんとか逃げれたっす。自分が臆病者でよかったっすよ」


 なんとか陽気に言ってみたものの、流石に辛い事は感じられたっすかね。その肝心の『ミラージュコロイド』は破られたわけっすから、隠しようのない不安は悟られたかもしれないっす。
 だけどモブリの人は俺の話を聞いて何かを確信したように前に歩きだしたっす。まるで覚悟を決めたようなその背中はなんだか小さいのに大きく見えたっす。


「成る程。いや、君は臆病者なんかじゃないさ。アギトを殴ってくれたしね。それにそのスキルは、ここを切り抜ける切り札になる。
 勿論それは、君が今のガイエンの話に乗らないのだとすればだけどね」


 今の言葉……俺は更に前方に目を向けるっす。そこには優雅ほどにゆっくり歩いてくるガイエンの姿が有るっす。そして苦しむ顔が僅かに見えるアイリ様。ボロボロになったアギト様は肩に居るっす。
 どちらも奴にとっては盟友の筈なのに……それをこんなにして笑ってる奴の言葉の何を信じろと言うんすか! それに俺が欲しいのはそんな物じゃ無いんす。もう一度見たいだけっす。本当の騎士って奴の姿を……そしてアイリ様の笑顔を!


「どうだ? 心は決まったか?」


 そんなガイエンの言葉にモブリの人は剣を抜くっす。そして俺は立ち上がりその隣に並んで周囲を見渡す。そこにはざわめく軍の人々多数見えるっす。なんでみんなそんな顔ができるっすか? 
 みんな見えてないんすか、アイリ様の苦しむ顔が? 俺だけじゃなくもっと沢山の人がそれを願って居た筈なのに、どうして誰も奴に刃向かわないんすか?
 怒りはガイエンだけじゃなく周りの奴ら全員に向いてたっす。だから俺が示すっす。最初に俺がその意志を見せつけてやるっすよ!


「ふざけんじゃねぇぇぇぇ! 誰がアンタの言葉を信じるっすか! みんなもちゃんと目を開いて良く見るんすよ! アイリ様は苦しんでるじゃないっすか! みんなが憧れたアギト様が犯罪者な訳ないっすよ! この国をあんな奴に渡しちゃダメっすよ!」


 静まり返る場の空気が伝わるっす。それは届いて無い訳じゃないと信じたい。だけど賛同する声はなくて、代わりに聞こえてきたのは不快な声っす。


「ふははははははは! それが答えか? 実に面白いな。何を今更な事を……この国は既に私の物なのだよ! 来なくてもいいわぁ! 貴様のスキルの秘密は殺してから聞くとしよう。
 もう逃げられんだろうからな!」


 カーテナがこちらに向けられるっす。また来る……あの攻撃が。その時、前のモブリの人がもう片手にロッドを握って言ったっす。


「ごめん、そしてありがとう。大丈夫だよ、君の言葉はきっと届いた。だけど直ぐに行動には移せないさ。
だからその為の時間を稼ぐんだ。彼らが立ち上がれる時間の為に、僕らはここでやられる訳にいかない! 
 テッケン――それが僕の名だ」


 名前、それは認めてくれた証の様に思えたっす。テッケンさんは本当に格好いい人っす。不安が消えて生きる気力が沸くっすよ。


「ありがとうはこっちの台詞っす。ノウイが俺の名前っす。テッケンさん」
「ノウイ君だね。それじゃあ切り札再発動までのタイムは?」


 テッケンさんが気にする時間は即ち俺達の凌がなきゃいけない時間っす。数十人と、カーテナの攻撃を凌ぎ続けなければいけない時間。それは――


「――後五分っす」


 それが『ミラージュコロイド』再発動リミット。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品