命改変プログラム

ファーストなサイコロ

強さの形



「俺の夢は今、叶ってるっす~~!」


 月光の下、夜を貫く様な叫びがアルテミナスの地に轟いた。流れる景色はいささか高く、私たちは建物の屋根を駆けている。
 私たちと言っても駆けてるいるのは一人。黒甲冑に緑を写した様な髪を揺らし、両の耳には今の夜にピッタリはまった星形のピアスが流れ星の如く瞬く軍の人。
 私はそんな人にお姫様抱っこをされて夜の風を優雅に切っていた。これだけ聞くと、純粋無垢な乙女はナイトに守られたお姫様を想像してしまいそうだね。
 だけど残念な事にそんな気分と雰囲気では全然ないの。そんな素敵シュチュエースションで何故? って声が聞こえてくるから応えてあげよう。
 それは彼……『ノウイ』のあの目が原因だろうと思う。あれだけの素敵パーツを揃えてるのに、たった一つでそれらを打ち消す最強のあの目が原因です!
 何故ならノウイの目は……黒ゴマサイズのつぶらすぎる瞳だから! それでも少しは赤くなれるよ。だって格好良かったもん。
 親衛隊相手に啖呵を切ったあの瞬間はドキってしちゃったよ。その後のノウイの手際は本当に見事で天晴れだった。流石は軍一の逃げ足。隊長さんが言ったことは本当だったよ。
 だけどね、引き戻されるんだ。あの目を見るために、夢見心地な気分は晴らされる。まあ、でもそんな事はどうでも良いことだね。
 親衛隊は上手く捲けたし、本当に感謝してるよノウイ。だけど今の叫びは何? 


「夢ってどう言うこと?」
「いや~それはほら……こうやって可愛い子を颯爽と助け出しす事っすよ。いつかこんな日が来ること
を俺はずっと願い続けてきたっす。
 現実じゃおきえないけど、ここLROじゃそんな場面に俺も出会えるかも知れない。そのためだけに鍛え続けて来た逃げ足っすよ!」


 自信満々でノウイはそう言い切った。これだけの為に彼はここでの時間を費やしてきたのだろうか。まあ、生き方なんて人それぞれだし、他人がとやかく言うこともないと解ってる。だけどノウイは何故に逃げ足を選択したのだろうか?
 私は良く知らないけど、ここLROというゲームではほぼ出来ない事は無いらしいし、逃げ足より格好良いやり方は幾らでもあるだろう。
 実際、彼だって剣をその腰に挿してるし……ノウイの選択はある意味的外れな感じだよ。女の子は一緒に逃げてくれる人には感謝するけど、やっぱりポイントとしては守ってくれる背中に憧れるよ。
 勿論、全員がそうじゃないだろうけど。だから私は尋ねる。至極当然に。


「なんで逃げ足なんですか?」
「そんなの簡単すよ。俺って強くないっすから。強くなろうとはしましたけどね~。だけど無理っぽかったす。ここの戦闘って本当に恐いじゃないすか~。向き不向きがありますよ」


 軽快に、本当に軽い調子でノウイはそう言った。でも、それしか選べなかったなんて悔しかったんだじゃ無いのかな? だってここLROは何にでも成れるのに……よりによって、逃げ足しか自分にはないだなんて。
 それに強くなろうとしたって事はきっと憧れてた物があったんじゃないのかな? それを向き不向きで本当に諦めきれるの? 
「優しいっすね。そんな顔しないでくださいっす。俺は確かに憧れてた物あります。それは本当に格好良い人なんすよ。お姫様を守る王子様でした。
 だけど俺はその人の様には成れないって直ぐに気づきました。でも……今の自分を情けないとか格好悪いとかは思ってないっす。
 寧ろこの逃げ足極めたらその人とも対等っすよ! そう、思える様になったんすよ。そう思わせてくれる人が居たんすよ」
 月明かりに照らされて恥ずかしげにノウイはそう言った。最後の部分はなんだかハニカミながら……嬉しそうだった。


「そっか……それってとっても格好良いですね」


 そんな笑顔を見たら自然とそう口から言葉がコボレた。私は失礼な事を思ったのかも知れないな。彼は自分に誇りを持ってる。それも一本筋が通った真っ直ぐな物だ。
 さっきの親衛隊やガイエンなんかとは違う。少しの中傷や、周りの勘違いなんか意にも介さないで笑える……そんな真っ直ぐな誇りだ。
 だからこの言葉が出たのは当然だね。うん、格好良い。格好良いよノウイは。目が点なんて打ち消せるねこれで。


「はは、本当っすか? そう言って貰えると嬉しいっす。力がみなぎってくるっすよ! 急ぎましょう……もう直ぐそこっす!」


 ノウイは光明の塔を見据えて力強くそう言った。そして屋根を蹴る足に力を込める――その時だ。


「うあああああ!」
「きゃああああ!」


 私達の悲鳴はこだました。それは迫った光明の塔から伝わってきた衝撃波だ。木々や建物を吹き飛ばし、大きな音を伝えてきたそれに私達はぶつかった。
 足場も崩れさり、私達はその場に落ちる。そこには瓦礫に混じって沢山の黒い物が見えた。


「え? ……何?」


 街灯や明かりを称えるクリスタルも無くなった空間には暗闇が満ちて良く見えない。
 だけどおかしくなっていた耳が元に戻りだすと、そこに蠢く声が聞こえだした。沢山の……痛みや恐怖を乗せた、言葉にもならない声。背筋から何かが這い上がってくる。それはきっと畏れだ。私は目の前の物を見たくない。
 そう思いながらも、何故か目が離せないでいた。


(いや……いや……いや)


 畏れは全身を痺れさせている。それにタイミングが良いのか悪いのか……雲が掛かっていた月がその姿を晒しだした。
 月光がゆっくりと闇に落ち線を面にしていく。そして私の目に映し出されたのは戦争の様な爪痕……沢山の軍の人達の死に際の様な光景。


「――っひ!? ……きゃああああああ!」


 思わず出た叫び。それに反応してか、一斉にこちらに向く目が見える。それがまた恐くて……まるで私もそちら側に引きずり込もうとしてるみたい。
 這いつくばるように、何人かが不気味に甲冑の音を擦り合わせて迫る音も聞こえる。


「あ……ああ……ああああ」


 ろれつが回らない口から漏れるのは人とは思えない程のぞんざいな音。肺が苦しい……なんなのこれ? どうして……こんな事に成ってるの?
 死者の群が私に迫って来るような錯覚に囚われる。本当はほんの二・三人しか動けて無いのに、その音は十や二十では足らない。空気が肺から出ていくだけで、入ってこなくて……上手く働かない脳は、ますます混乱していくんだ。
 私は震える足を必死に動かして地面を蹴る。下がらなきゃ……追いつかれちゃ行けない。そんな事を考えて……でも出来るのは数センチ程お尻を擦る事だけだった。
 何故なら私の後ろにも黒甲冑を着た人物が居たからだ。ヒンヤリとした鉄の感触が、触れたお尻や背中から伝わってくる。そしてそれは脳で恐怖に変換されるんだ。


「いやぁあぁぁぁぁ!」


 私は大声と共に、体に命令を送って立ち上がろうとした。だけど体は全然言うこと聞いてくれなくて……向こうの私みたいに心を縛り付けるだけの入れ物に成ったようだった。
 それでも私は必死に動こうとした。足を叩きつけて感覚を取り戻そうとする。だけどその時……後ろの甲冑から腕が伸びてきてそんな私を抱きしめた。
 私は捕まったと思った。死者の国に送られるんだ。そう思うと叫ばずにはいられない。


(イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ!)


 心でそれを連呼しながら空気の足りない肺から絞りだした声で抵抗し続ける。けれど腕が離れる気配は無くて、直ぐに空気を失い、せき込んでしまう。
 するとそこを見計らった様に声が聞こえた。死者の呻きのような声じゃなく、ちゃんとした人の声。それも知ってる声だ。


「落ち着くっす! 大丈夫! 何も恐い物なんてないっすから!」
「ケホッ……ゴホッ……はぁはぁ……ノウイさん?」


 そうそれはノウイの声だ。じゃあこの腕も背中やお尻に伝わる冷たい感触もノウイの物? 頭がなんだか一気に冷めていく。だけど混乱が収まった訳じゃない。
 ただ単に安心感が訪れただけだ。彼は必死に暴れる私を押さえつけてくれてたんだろう……かなりの力で腕が私の体に食い込んでる。
 そしてそれに気がついたノウイは顔を赤らめて腕を外してくれた。


「ごごごごめんっす! その……痛くないっすか?」
「ううん……大丈夫。ありがとうノウイさん」


 大きく息を吸って吐く。肺一杯に空気を満たせば頭もようやく冷静さを取り戻して来た。良かった……ちゃんと今度はお礼を言えたよ。
 照れくさそうに笑うノウイには迷惑を掛けっぱなしだ。乱れた髪を整えながら私は改めて周りを見る。月明かりに照らされたそこにはやっぱり沢山の軍の人達が倒れている。
 だけど今度は、ちゃんと見据えれる。恐怖に取り付かれたりしない。今、私は一人じゃない事を知ってるもの。こんな時、初めてノウイの目が点で良かったと思った。
 なんだか小動物を見てるようで落ち着く。これも貴重な心の支え。私を今まで守ってくれてたスオウやサクヤから離れて初めての安らぎかも知れない。
 結局一人では何にも出来ないんだけどね。それがイヤなんだけど……今は受け入れて、寄りかかろう。認める事も必要だよね。
 そしたらまた、いつか同じような事があったときには逆の立場に成ってみせる。
 その為にも今をしっかり見据えるんだ。


「みんな……大丈夫っすか? 一体に何があったんすか?」


 そう言ってノウイは私を放して動けてた人に近寄った。だけどここで私は異常に気付いた。まあ、元々この光景事態が異常何だけど・・・そこに加えての異常だ。


「ノウイさん……この人達、HPが減ってないですよ」
「え?」


 それはオカシいような、オカシくないような事。私には戦闘不能なんて許されてないらしいから解らないけど、彼らは明らかに戦闘不能状態に見えてた。
 だけど実際にはHPがちゃんと存在してる。ううん、それどころか減ってなんかないんだ。


「どういう事っすかこれ? なんでみんなHPがあるのにこんな状態なんすか!?」


 ノウイの乱れただした声が辺りに響いた。当然だよね。この人達はみんなノウイの同僚で仲間も同然だ。私だってスオウ達の誰かがこんな状態なら、どこからともなく訳の分からない感情がこみ上げてくる筈だよ。
 HPが存在してる以上、この人達が動けるのは当然……だけど、誰もが立ち上がれないほどの傷を負っている。それは私達にはどうする事も出来ない事を意味してる。
 いや、そうじゃないかも知れない。ここLROのどんな魔法でも決してこの人達を回復する事は出来ないんだ。だってHPは減ってないんだから。
 その時、ノウイが駆け寄った軍の人が途切れ途切れの声を発した。それは必死に仲間に現状を報告しようとする軍人の意地だったのかも知れない。


「カーテナ……あの方が……けれど……あの方じゃない。カーテナ……これが……王の剣」


 本当に断片的な事だ。キーワードは『カーテナ』ということしか解らない。そしてそれを聞いたノウイは私なんかよりもよっぽど何かを理解してる様子だった。


「カーテナ……ってアイリ様がこんな? いや待てっす自分……アイリ様じゃ無いとも言ったっす。でも……こんな事が出来るのはやっぱり……」


 ブツブツと聞こえる言葉に私は耳を傾ける。私だって状況を理解したい。だけどなんだか、ノウイはもの凄い勢いで考えにフケったから声を掛けづらいんだよ。
 だけどその時、その軍の人が最期の力を振り絞る様な動作である方向を指さした。考えるより行け、という感じだ。百聞は一見にしかずなのかも知れない。
 私とノウイはその指の先を同時に追った。そして更に信じられない光景を目撃する。


「――なっ……なんっすかアレはぁぁぁぁぁ!?」


 ノウイの大絶叫が瓦礫と化した建物に響く。思わず立ち上がった彼の行動はエルフなら仕方無いのかも知れない。だってアレは……この国の象徴みたいな物だったはずだ。
 それが……その塔が……光を発する超巨大なクリスタルが……


「光明の塔が傾いてるっすぅぅぅぅぅぅ!!!」


 まさにノウイの二回目の大絶叫の通りに傾いていた。あんな超巨大な物がだ。日本人にとっては東京タワーが崩れさる瞬間を見てしまう様な感じだよきっと。
 それだけの衝撃がノウイの声を通して伝わってきたんだ。一体あそこでは何が起こってるんだろう……アギトは無事なんだろうか? 不安が募るのは私も一緒だ。確かめなくちゃ行けない。何が起こってるのか。
 あそこに行けば解るんだ。そう軍の人が教えてくれた。


「行こう、ノウイさん! 確かめるんです! その目で!」


 私はノウイの前に回ってそう言った。ここでこれ以上私達には何も出来ない。それよりも、この事態を解決する事がきっとこの人達を助ける事に繋がる筈だ。


「行く……のはいいすけど・・何か出来る気は……しないっす。俺……弱いんすよ。ヒーローには成れなかった男っすから」


 弱々しい、ノウイの声。それでもいつもの調子を必死に保とうとしてるのが分かった。それが彼なりの心の保ち方なのかも知れない。
 もしかしたらこの周りに倒れ伏してうめき声を上げる所に加わりに行くような事かも知れないから……幾ら逃げ足に自信があるノウイでも逃れられない物はあるのかも知れない。
 それでも私はノウイの手を引く。そうしなきゃ行けない気がした。示したのは軍の人なんだ。きっと彼に何かを望んでの事だと思う。けれど何も出来なくってもいいんだ。
 私が思ったように、向かい合うことが大事で見るだけでいい。そしたらきっといつか……ノウイも代われるかも知れないよ。だから――


「いいよ。それでいい。いつでも逃げていいから・・行こう。何もしなくて良いから……見てて」
「何かする気なんすか? ダメっす! 必要以上になんか近づいたらどうなるか分からないっすよ!」


 それは分かってる事だよ。だけど何が出来なくても、行かなきゃ私はいけない。だってそれがサクヤとの約束で、私をここまで導いてくれた隊長さん達の願いだよ。
 だから私は不適でも不自然でも笑顔を作って、元気を見せて、畏れを隠して進むよ。それにそれだけじゃない。この道は元が私が選んだんだ。
 何が出来るか知りたくて……一人で歩いてみたかった。だけど全然、理想とは違って……一人でなんて早すぎたと分かった。私には一人で出来る事なんか何もない。
 だけどここまでこれたのはサクヤの力……隊長さん達の力……そしてノウイの力のお陰だよ。自分から始めた事で、沢山の人達に助けて貰った……今更リタイヤなんて選択肢は無い。


「行けるところまで、私は行きたいんだよ。だってこれは私が望んで始めた事だもん。ゴールテープは……自分で切らなきゃね」


 どこにあるかも分からないそのテープを私は目指す。その決意に迷いは無い。一杯この数時間で教えられたから。私はこの言葉に思いを乗せた。ノウイには伝わったかな?
 すると私を見つめる黒ごまの様な目が細められて、息を吐く。ため息みたいな……諦めの息。


「強いっすね。俺は何も出来ないっすけど……逃げる時には役立つっすよ」
「うん!」


 それだけで十分だよ。逃げ出す気なんて無いけど、アイリを助けた後にはどうなるか分からない。そもそも助けられるかも分からないけど……確実にあの場所には行るんだろう。そしてアギトも絶対にあそこにいる。
 それからもしかしたら、戦ってるのは私が聞いた謎の声の奴かも知れない。それなら全ての目的はあの場所だ。傾き光も弱々しくなった光明の塔……その場所! 中枢に行こう。事件のただ中へ。




 私達は走り出す。もう大丈夫だよ……今の私は走れるんだからね。隣を見ると、私のスピードに合わせて走ってるノウイの顔色はやっぱり芳しくなかった。後悔してるのかもね。だけど言ってしまった手前引けない感じ。
 最近そんな感じの奴を見てた気がするよ。そうそう、思い出した。


「大丈夫、アギトもあそこに居る筈だよ。もしかしたら、さっきの衝撃はそれかも知れないし」
「おお! 成る程! そうっすね、それなら既にあそこに危険はないっすね。流石アギト様っす!」


 私のもの凄く楽観的考えを安易に鵜呑みにするノウイ。まあ、本当に鵜呑みにしてるわけじゃなく、これ以上暗い考えにハマらないようにそう振る舞ってるだけ……だと思う。きっと、多分、絶対に。
 ノウイの豆粒サイズの瞳は感情を読みとりにくいからよく分からない。でも仮にも軍人だからね。仮想空間だから更に仮の仮、位だろうけど……今までの状況がそれを許す筈がない。
 だから私も自分が始めたこの他愛も無い話を広げよう。あと少しでもう着いちゃうから、初めてこの国に来たときからの疑問を解消だ。


「ねえ、どうしてこの国の人達はアギトに様付けするの?」


 実はずっと違和感があったんだ。それを聞く度に体が身震いするような変な感じ。なんでアギト様なの~って考えが巡らない時はないんだもん。
 だからこの短い間で聞いておこうと思った。すっきりしときたい。この向こうには何が広がってるか分からないから。ノウイは私の質問に鼻高々な感じで教えてくれる。


「それは簡単な事っすよ。みんなアギト様を尊敬してるんす。なんてたってあの方はこの国の最初の騎士で、アイリ様から『ナイト・オブ・ウォーカー』の力を賜ったお人ですからね。
 騎士の憧れっすよ」


 ほえ~そんなにアギトって凄かったんだ。よく分からない単語もあったけど、取り合えずアギトに様付けする理由は分かった。愛されてるんだねアギトは……でも、その国をアギトは捨てた……それはどうして何だろう?


「それは……俺も良く分からないっす。本当にあの二人はそう成るんだろうなって誰もが祝福してたのに……それは余りにも突然って感じだったっすから。
 末端の自分たちからはそうだっただけかも知れないっすけどね。でも……本当に悔しくて、残念でした」


 ノウイの顔に再び陰が戻ってしまった。そしてそのまま私達は遂に光明の塔へとたどり着く。そこで私達が見たものは絶望……そういう類の物だった。




 荒れ果てた……嫌違う……もっと凄惨に砕け散った地面がそこには広がっていた。元々は綺麗な場所だったんだろうと予想できる場所は既にその有様を変えていた。
 この地殻変動とも言えるレベルの破壊で光明の塔は傾いたんだ。そしてその中心部分では凄まじい音と大気の弾ける衝撃が繰り広げられている。
 ローブで確認できないけど女が笑って何かを振って……そしてアギトは為す術なく打たれ続けてた。終わったときには、アギトはその場に倒れ込んで動かない。HPはある。あの軍の人達と同じだ。


「カーテナ……」


 隣からそんな声が聞こえて見るとノウイは震えてた。私もきっと震えてる。それだけ一方的で……怖い物を見た感覚があったんだ。
 だけどその時、奴はアギトに止めを刺そうとしてると分かった。何か言ってる。今、行かないとアギトが! 私は隣のノウイに告げる。


「逃げてノウイさん。貴方は自信ない様だけど、私はあの時……確かにヒーローに感じたよ」


 ありがとうは心の中で言った。私は駆けだす。その様子を止められない彼が最後に見えた。本当にヒーローだった。紛れもない事実だよ。少しは心の支えに成れたかな?
 そうならいい、そうでなくてもいい。私は飛来する……二人の間に――その瞬間、見えたのは微笑む奴の口元だ。

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