命改変プログラム

ファーストなサイコロ

昇る落雷、銀の剣と共に



 一体何がどうなってるのか分からない……これまで沢山のモンスターを相手にしてきた私だけどHPが尽きてまで生きていたモンスターなんて居なかった。


「あ~ホント……ムカつく」


 思わずこぼれるいつもの悪態。本当にそう思う。なんで私がこんな必死に戦ってるのよ。まあ、それはさ転移結晶壊されたし……やるしかないんだけど……ブツブツ。
 元々私は盾なんて役目は大嫌いなの。LROはそれなりに衝撃を再現するし、結構痛いから――だから私は剣や槍をみたいな物を持っての重装備なんて絶対イヤ。
 まず可愛くないし。こっちで位、可憐で女の子らしい格好してみた~い。だからメイドって、おかしいのかも知れないけど……今はそんなこといいよね。
 私は誰かが前で戦っている間に横や後ろから安全確実に敵を討つのが好きなの。何が起こったか分からず崩れさる敵の姿……そして敵が倒れたらその後ろに現れる私の姿。
 きゃーチョ~痺れる! てなわけで、そう言う戦闘は好き……だけど今はそんな余裕がこれっぽっちも無いから嫌い!
 私をこんな疲れさせる、状況に追い込んだ麒麟が憎い。
そしてついさっき吹っ飛ばされた奴も憎い。だって本当に、弱っこいのに無茶なことばかしようとする。
 すこしは自重しなさいよね。ううん、もっと自分をあのバカは知るべき。愚かなバカな奴って見てるだけで苛つくんだけど……


「なんで動くかな自分。 やってらんないのに!」 


 目の前から消えた麒麟。またいつもの雷の速さ。雷速電飛がうざくてこれまたイライラするのよ! 麒麟の姿が左方向から飛んでくる。スキルを帯びた小さな鏃二個で防げる筈もなく私の体は麒麟の一撃に吹き飛ばされる。


「きゃぁぁ――っく!」


 私は元々防御なんかする気なかった。元々防御は得意じゃない。この鏃だって抜いたのは攻撃の為。私は二つの鏃を吹き飛ばされながらも麒麟に投げつける。
 何の攻撃力も持たせて無い鏃。それを見抜いたのか麒麟は避けようともしない。そもそも麒麟に無くなるHPは無いか。でも攻撃力は無くてもスキルはスキルなのよ。鏃の一つが上手く奴に印を付けた。


「オート・フォーミング!」


 私は更に暗器を取り出して真上へ投げた。青い光が暗器を包み――次の瞬間、麒麟へ向かって飛来する。だけどそれは意図もたやすくかわされた。だけどこれで終わりじゃない!
 青い光を帯びた暗器達は自身の体を地面から抜いて、更に走り出す。逃げられる筈はないわよ。どこまでも追いかけてあげる。
 逃げられないと判断した麒麟は私に向かってくる。私は周囲に更に暗器を展開させる。


「蜂の巣にしてあげる」


 HPが尽きてる状況で効きはしないんだろうけど、吹き飛ばす位はしてみせる。私は負けた相手に背は向けない。そもそも負ける前に逃げる女だから。その事実を作らない。
 作った相手は後ろから刺す……それが信条。タイマンなんてガラじゃないんだけど、今は逃げ場も無くてやり場もない。
 はは……これだけ必死に成るなんていつぶりだろう。ううん、なんで私は必死にやってるんだろう。負けず嫌いはあるんだけど……あのバカが、あのバカが、あのバカが、あのバカが、あのバカが……あれ?
 大量の暗器と麒麟の衝突で周囲に衝撃と爆煙が広がった。だけど意にも介さず奴の放電が見て取れた。ダメなんだ……HPが尽きるのっていつ以来かな。そもそもHPが尽きたのに消えない奴と真面目に向かうのがバカすぎたのかも。
 理不尽な戦いに無理に付き合う事なんかない。でも……なんでだろう。私が諦めようとすると決まって同じ声がする。
 麒麟が迫る……私の暗器は出尽くした。これ以上何も出来ない。


「セラァァ!」


 叫びと共に麒麟側面から特攻を掛けたのはスオウだった。腕一本になった哀れな成りで何してるのよこのバカは。そんな攻撃効くわけもなくて意味もない。
 自分だけでも逃げる算段を立ててればいいのに、意気揚々と出て来ちゃって本物のバカなのあんた? 死んじゃうって事分かってないのかしら。
 私もコイツの手の状態や流れる血……そして周りの反応を見なければ信じられなかったけど、今は分かる。アンタの命がそのHP分だって。
 なら誰よりも先に逃げ出す権利がある。そうしたって誰も責めたりは絶対にしない。だから逃げなさいよ! 逃げようって……言ったのに。
 どうしてここまで出来るのか私には分からない。だって私にとってLROはあくまでゲームだもん。まだ自分が倒せない敵にあったりしたら諦めなきゃ行けないときもある。
 リベンジ誓って次に賭ける選択肢が絶対にある。でも、アンタにはないんだよね。だから必死に成るの? それは危うい事だよ。ううん、危なすぎる。
 震える事は無いの? 足が竦まないの? 片足棺桶に突っ込んでるのよアンタは! 


「大丈夫か?」


 麒麟に一太刀浴びせたスオウが私の方を向いて焦った顔で言った。そんな顔するな。苛つく顔を見せないで。そんな言葉いらないわよ。
 ああ、やっぱりイライラする。こみ上げてくる何かが私の足を支えた。


「何で……」
「うん?」


 私は顔を伏せて小さく声を出した。スオウはそんな私を心配してか覗きこもうとする。だけど私は丁度近づいたムカつき癇癪の原因に固く握った拳を突っ込んだ。


「何でこんな事に成ってんのよバカ!」
「ぶがぁぁぁ!」


 スオウは情けない声を出して吹っ飛んだ。まあ、パーティーならHP減らないから。てか、ずっとこの理不尽な状況を誰かにぶつけたかった。
 なんで私があんな雷の化け物に倒されなくちゃいけないのよ。それもこれも全部、目の前の奴のせいなんだからこの仕打ちは当然でしょう。


「つっぅ~、何すんだセラ!」


 文句言いながら立ち上がるスオウ。私は何も言う気ない。フン! だよフン! 本当に人の気も知らないで。なんだか私の価値観を妙な方向にズラしてくれて……わかんなく成るじゃない!
 その時、再び麒麟が迫る。やっぱりあの程度、足止めにも成らない。というかHPが無い時点で奴にダメージという概念は消えたみたいだ。
 スオウのHPは微々たる物……この攻撃が通れば彼は――死――私はやっぱり動き出す。だってもう、見える所で死んでほしく無いのも確かだもの。あの死は、スオウの意味する死とは違うけど……消えるという事では変わらない。
 そしてスオウの方はずっとずっと重い事だ。知ってしまって無視できる程、私はそこまで冷たい人間じゃない! それに何より――――


「丁度良い……」


 ――――え? 今度はスオウの口から小さな言葉が漏れた。 それはおかしな言葉。この状況で丁度良いなんて言葉が出てくる訳が無い。
 何が丁度いいのよ! 確かめる前に麒麟はスオウにその体をぶつける。


「があぁ! ――っく」


 だけどスオウはニーベルを盾にして透過されるのを防いで居た。それでも麒麟は大量の電撃を放っているからスオウにダメージを与え続けている。このままじゃ直ぐにアンタの命は無くなる。
 そこまで分からないバカじゃ無いでしょう? 何する気なのよ。するとスオウはダメージを食らいながら、なんと武器を手放した。


「ばっ!」


 ――か、だったんだ。そう確信した。どうしようも無いバカ。間違いない。アイツあの状況で少しだけ笑ってた。そして何をするかと思えば、手放した右手を麒麟に伸ばして飛んでいる。
 そして掴んだのは麒麟の額に輝く白銀の角。って、え? 掴めるのアレ? 確か今の麒麟は物体を透過出来る筈だけど。あの角だけ対象外って事? そしてそれをスオウは知っていた? いや、確かめたのかな? 
 スオウが奴の角を掴んだ瞬間、麒麟は前足を高く掲げて大きく吠えた。嫌がってるの? 麒麟はスオウをふりほどこうと首を激しく動かす。
 だけどスオウも離すまいと必死に食いついている。どういう事? ちょっと愉快な光景過ぎて思考が上手く働かない。その時、そんなスオウの声が私に届いた。


「セラ! 角を狙え!」


 訳が分からないけど……私はその指示従った。残りの暗器は太股に付けた左右の鏃十発だけ。それの二つを、スオウが踏ん張った一瞬に投げつけた。青いエフェクトを纏、鏃は角へ向かう。
 だけど鏃は何にもぶつからずその先の木に刺さった。


「え? 外した?」


 いや、そんなこと無い。自慢じゃないけど私の命中率は常に九十を越える。勿論、システムの補助があるんだけど……外れるのは当てる気が無いときだけ。それに今はそんなに離れてない。この距離を外す事はあり得ない。じゃあ、あれは……


「なるほど――なっ!」


 そう言ってスオウは麒麟の角に蹴りを入れて距離を取った。その時私には聞こえた。


「ピキ……パキ」


 と言う音が。それは麒麟の角から出てる音? でも蹴りなんて殆どLROじゃ攻撃力なんか無いのに。ううん、蹴られれば普通に痛いけど、モンスターをそれで破壊出来るかと言ったらそんな訳ない。
 でも確かにそんな音が聞こえていた。それに麒麟は今までで初めて苦しんでる様に見える。これはもしかして、活路?


「どう言うことか説明! 早く!」
「なんでそんな命令口調? ――まあいいけど」


 私は解放されたスオウに駆け寄り、足早に言った。だって、ここを抜けれる希望があるとしか考えられない行動だ。じゃなければ本当のバカ確定だけど……そこは信じて良いはず。
 これまでの見てきた事を鑑みればスオウはここ一番で頼りに見えるんだ。それを裏付ける事を何度もやってきた。最初なんてこの状態じゃ無いけど麒麟を一人で倒したんだから。
 それに聞いてきた今までのアンフィリティクエストの噂。どれもかしこも噂の域を出ないガセだと思ってたけど、自分が置かれたこの状況……真実味が俄然出てきたよ。
 それらを考えると、今のスオウはバカじゃない……筈だ。


「そもそもこのバトルはなんだか思い出せ」


 そうスオウに言われて頭の中を探って見ると出てくるのは一つの事だ。


「ウエポンアライアスでしょ?」
「だな。でも僕達はそれを考えて無かった様だ」


 肯定はされた、だけど謎は残る言い方。それを考えてなかった? それが麒麟が死なない事と関係あるの? そして角を掴める事とも。


「どういう事? ハッキリ言って!」


 いちいち注釈つけないでよね。また直ぐに麒麟はくるんだから。私には結論だけで良かった。それだけ分かれば良い。元々ここにこれ以上用なんか無いんだから……それに疲れたし。
 これ以上はもういらない。つまりはどうなのよ!


「つまり……ウエポンアライアスの目的と合致して今の僕達に必要な物……武器の願い……全ての鍵は多分、奴の額に輝く白銀の角だ!」


 私はスオウの視線を追って麒麟をみた。そこに確かに輝く白銀の角がある。確かにあれだけ異常だとはさっきのスオウの行動で分かった。
 だけど今の私達にはそれだけでもきつい事。動きを殆ど捕らえる事も出来ない麒麟の、まして一部分だけに攻撃を当てるなんて不可能に近い。それに今はみんな満身創痍だ。
 今からあの角を折るなんて事が私達に出来るだろうか?


「出来る」


 隣のスオウは力強くそう言い切った。私は言い返そうと思った。だけど何故か言葉が出てこない。なんでだろう……いつもはあんなに楽しく罵倒出来るのに。


「出来るよ、僕達なら……」


 それは余りにも夢物語な事だと分かってた。なんの根拠も無い綺麗事だ。だけど……彼にはそれを魅せる力が有る様に感じれた。
 少しだけ……出会ってまだほんの少しだけだけど……私はその片鱗を見ていると思う。感じてると思う。もしかしたら私が今こうして隣に立ってるのも……そんなスオウの力に感化されたからかも知れない。
 年を重ねる毎に人は夢物語を忘れていく。理想は現実という重くて絶対的な物に潰される。でもそんな理想を詰め込んだのがここLROじゃなかったの? 
 私達はそれに憧れて……取り戻す為にきっとここに来たのに、現実と言う壁を勝手に持ってきてるのかも知れない。
 それじゃあどこに行ったって同じだ。現実が立ちふさがる。これ以上をここまでにしてしまう。それじゃあ絶対に夢に……理想に届く筈ない。


「私にも?」


 私は思わず聞き返した口を手で塞いだ。なんて事、スオウに訪ねてるんだろう。普通に何気になったことがなんだか無性に恥ずかしい。


「当然だろ。入ってるよセラも」


 スオウはそう言うとウインドウを開いて何か操作しだした。この状況でよくそんな無駄な事が出来ると思う。そして次の瞬間、麒麟の叫びと同時に落雷が降り注いだ。
 私たちは思わず身を屈める。落雷は森の木を引き裂き燃やしている。そして何故か麒麟自身にも落雷は落ちていた。だけど苦しがってる様子は無い。ただじっとしていてまるで充電をしてるみたいだ。
 落雷の衝撃は凄まじく奴は動いてないのに攻撃が出来ないという状況。だけどそれも数回の落雷の後に終わりを告げる。
 奏でわたった麒麟の叫びはまるで、終局への合図の様に聞こえた。だけど丁度、スオウはウインドウを閉じる。と、同時に私だけに聞こえる音が鳴った。これはメールの受信? 


「終わらせようセラ。ウエポンアライアスの終局だ!」


 スオウが駆け出す。だから私も駆けだした。そしてずっと誰かが続いてく……きっとそうだと思える……そんな背中を私は見ていた。




「ピク!」


 そう叫ぶと桜色の小竜が僕とセラを包んで回ってくれた。これである程度HPを回復出来た僕達は一気に麒麟に迫る。
 だけど次の瞬間には凄まじい衝撃波とも呼べる風が僕とセラの間に吹き付けて飛ばされる。気付けば僕達が通っていた道の下には焼け焦げた後があった。
 気付かない間に麒麟は僕達を通り過ぎてたんだ。そしてその余波が僕達を吹き飛ばした。滅茶苦茶だ。回復してなかったら今のでやられてたかも知れない。
 余裕なんて無い……全員が疲労してるんだ。一気に決めないと全滅……それが目に見えている。


「シルクちゃん!」
「うん!」


 僕の声に呼応して魔法が発動される。それはさっきも使った『フル・キャンバス』だ。それによって麒麟の動きが何とかわかる様になる。だけど今度の麒麟は動き回って一気に色の粒を消していく。
 それに負けじとシルクちゃんは出来る限り早く魔法を発動し続ける。おかげで何とか防御出来る。残った体力も気力も残しておきたい、最後の一撃の為に。


「鍛冶屋!」
「良し!」


 大ダメージを食らった鍛冶屋だけどシルクちゃんの魔法で何とか回復できた様だ。いや、そもそも回復してくれなきゃ困るから助かった。この作戦の要は鍛冶屋だ。
 さっき僕はメールでこの作戦を伝えていた。この戦いを終わらせる……決着を付ける為の作戦だ。そしてそれは勿論セラにも……倒す必要は無いんだ。
 ただ奴の角を折ればいいだけ。出来るよ……絶対に出来る。
 鍛冶屋はフル・キャンバスが弾ける動きを捕らえて『鉱石操作』であの時の壁を作る。黒い鋼の壁だ。だけど一枚じゃない。弾け飛ぶ色……つまりは麒麟の道筋を読んで通路の様に連続した壁を作ってもらう。
 フィールドに黒い壁が立ちふさがり麒麟はそれに沿って
移動する事になる。これが狙いだ。幾ら速く動けても、その決まった道筋にそうだけならやりようはある!
 そして遂に僕の立つ所にまで幾重にも曲がりくねって居た道が最後に直線と成って出来上がった。


(ありがとう鍛冶屋。お前が居なければ無理だった)


 きっとアイツは倒れてるだろうからね。そして前方からは放電の音が聞こえてくる。狭く細い通路だ。フル・キャンバスも必要ない。辿る道は決まってる。
 後は確実に奴の角を狙う為に――――


「セラ!」
「見せてあげる。私の切り札! スキル『エンサーバー』発動!」


 残りの鏃八つが宙に舞う。そしてその形が変わった。只の鏃から顔くらいの機械的なフォルムにだ。最後まであれを取ってたのは切り札だったから。
 三角推みたいな形に成った鏃はセラの翳した腕の周りで大きく回り、何かを中心で収束させている。そして前に翳していた手の二本の指を突き出す。それが照射合図。
 大気を震わす凄まじい音と、麒麟にも負けない光量を発して放れた光。麒麟に逃げ場は無く、それを突き進むしかない。死なないのなら必ずそうするだろう。そしてそれが出来る。
 僕は思わず口元が綻んだ。だってまさかあんな隠し玉を持ってたなんて……セラに届けたメールはこうだ。


【最後に麒麟の動きを少しでも遅くしてほしい】


 他二人と違って具体的には言ってない。それはセラなら……と思ったからだし、自分では思いつかなかったら。でも本当にやってくれた。十分すぎる程にさ。
 ほら……奴の蹄の音が聞こえる。雷が剥がれ落ちてるみたいだ。奴はセラを飛び越えてこっちに向かってる。僕もニーベルを抜いて駆けだした。
 奴の体は再び雷に成ろうとしてる。そうはさせるか! だけど向かう僕に奴の雷とも布とも知れぬ攻撃が降り注ぐ。僕はそれを全部かわすしか無い。
 なぜなら今のニーベルはスキルを纏ってないんだ。只のニーベル。それじゃあ麒麟の攻撃は弾けないし防げない。だけど勿論それには意味がある。


 僕は確かめてたんだ。あの時、角を素手で掴んだあの時にどういう仕様なのか。そして判断した。あの角は身体とは逆だと。要はスキルの類を纏った攻撃は角には当たらない。
 だからこそ角は未だ折れてない。僕達の無数のスキル攻撃は全部当たってなんか無かったんだから。勿論その時は身体を攻撃してたから角なんて気にも止めてなかったけど、その角との仕様の差まで罠だったなんて意地汚い。
 HPとスキル攻撃しか受け付けない身体によって僕達は本当に大切な物を見落としてた訳だ。
 HPは分かりやすくてプレイヤーの戦闘心を上手く煽る。逐一見てしまうのは角なんて一部分よりHPという大きな物だ。
 狭い通路から麒麟の攻撃が迫る。どう切り抜けよう。よく考え得たら避けるスペースもあんまり無いぞ。自身でも付加スキルを使えたら良かったんだけど……生憎そんな便利な物は持ち合わせてない。
 なんて自分は爪が甘いんだ――と、思ったとき赤い炎がその攻撃を叩いてくれた。またまたナイスタイミングだピク! 勝利を呼び込む天使に見える。


「うおおおおおおお!」


 僕達を阻む物は無くなった。後はただ自身の武器を信じて振るうだけだ! だけどそこで更に麒麟は加速した。蹄の音は消え去る。変わりに聞こえるのは不気味な放電音。でもそれも数瞬遅くて……っ!! 
 僕は足を止めてニーベルを振るった。すると何かが砕ける音と衝撃――続いて腕から全身に伝わる重み……浮かび上がるは麒麟の姿。
 ニーベルは届いていた。確かにその白銀の角へと。けれど角は折れてない! じゃあ今――何が砕けた? あの音は……届いていたニーベルの物だったんだ!
 本当に一瞬の衝撃――だけどそれで麒麟は止まった。これもまた武器の意志の形だと思った。勝利に繋がる意志の形。それにまだ、ニーベルは死んでない! 元々双剣であるニーベルには共有する意志がもう一つあるんだ!


「バキッ」


 そんな音が耳に届いた。麒麟の角ももう限界――奴もそれを悟って口を開く。そこには青白い雷が集束していた。右手が動くのとそれの放出は殆ど同時。
 溢れだした光が森から空へと消えて行く。その光の中に白銀に輝く角が舞っている。

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