命改変プログラム

ファーストなサイコロ

雷の咆哮



「やっぱり無理な様です。何で……治せないのかな」
 シルクちゃんの落胆する声が明るく切り取られた森の一空間に小さく響く。僕は取り出していた自分の腕をもう一度アイテム欄に戻した。
 元々この変なフィールドが形成された時に僕たちの蓄積していたダメージは回復してたんだ。だけど腕が治ることは無かった。
 だからきっと無理だろうとは薄々感じつつも一応試して見たわけだけど……シルクちゃんの強力な回復魔法でもやっぱり僕の腕が元の肘部分に戻る事は無かった。
 シルクちゃんは諦めきれずにもう一度、今度は違う魔法を詠唱に入るけど僕はそれを止めた。


「もう良いよシルクちゃん。ありがとう。元々自分の不注意だったわけだし、それにこれはこれで良いハンデになるだろ?」
「本当にハンデに成ると思ってる?」
「……」


 むしろこっちが貰いたい位ですハイ。ごめんなさい、精一杯の強がりでした。シルクちゃんの真っ直ぐな瞳には嘘は通じない。


「空元気なんて見せるくらいなら不安を漏らしていいんだよ。私はヒーラーなんだからパーティーみんなのどんな傷も癒せないといけないの。抱えなきゃダメなの。
 私は敵のHPを削ることは得意じゃないけど、みんなを守って、支える事が、私の大事な役目なんですよ!」


 シルクちゃんは武器である杖を力強く握ってそう言った。だけどその武器は僕たちの様に何かを傷つける為に向けられる物じゃないんだな。
 羨ましい……とかでは無いけど、それはなんだかとっても良いと思える。
 それに何時になく気合いの入ったシルクちゃんはなんだかかわいらしくて心が安らぐしね。てか、充電される感じだ。


「分かった、肝に銘じておくよ。なら少し……僕の不安を預けたい。これはきっと邪魔だから。いいかな?」


 僕はそう言って胸に手を当てて何かを掴む動作をして前に差し出す。するとシルクちゃんは自分の体に杖を預けて両手でその何かを受け入れる体勢を作ってくれた。


「勿論ですよ。言ったじゃないですか。私はそのために居るんです。不安は全部私が預かるから思いっきり戦って、そして敵を倒すのがスオウ君達の役目です」
「ああ……その通りだね」


 シルクちゃんの笑顔は優しくて暖かい。僕はその暖かな手のひらに自分で掴んだ何かを置いた。そしてそれを受け取って自身の口に持っていく。するとシルクちゃんは――――ゴクン、と食べた。


「食べるんだ……」


 結構キテレツな事するんだね。シルクちゃんも偶におかしな事する。それがこの場面じゃ無くても良いと思うけど。これも不安を取り除く為の行為だったのかな?


「食べるって行為はなんだか分かり安いと思うの。大丈夫、これでスオウ君の不安は私のお腹の中だよ」


 そう言ってシルクちゃんは自分のお腹を両手でサスサス撫でている。確かに分かり安かったかも……そこに収まった自分の不安が見えるようだよ。
 それに俺は貰ってもいた。シルクちゃんの腕に不安を渡した時、同時に少し彼女の元気や光と言う物を勝手に頂いた。だって必要だろ? 不安分の空白に埋める物がさ。そうしないと新たな不安が出てくる事になって意味がない。
 摘んだ元気の光は何気に真似して口へポイッと入れた。うん、シルクちゃんの味がする。甘く暖かなホットミルクの様な感じだね。
 首を捻って右前方に視線を向けるとそこでは僕達のやりとりと打って変わって激しい攻防が繰り広げられていた。セラも鍛冶屋も結構強いんだこれが。勿論相手は麒麟だ。
 それも完全雷化精霊バージョンだから僕が戦った時よりも更に強く成っているんだろう。それをたった二人で持たせるなんて二人ともデタラメだな。


 鍛冶屋の種族のスレイプルは生産の特殊スキルを覚えられる代償に普通のスキルには枷が付いてるって聞いたけど、普通以上に強い。
 そしてやっぱりセラはメイドじゃない。戦闘メイドってのがあるんならそれに分類してもいいけどそれは百歩譲ってだ。だけどこうやってみるとアイツは本物だよ。
 戦闘開始直前に特攻掛けたのもセラだった。無数の暗記を麒麟が動き出す前に暴風雨の様に降り注いで一気に大爆発が起こった。けれどそれでも追随の手をゆるめる事が無かったアイツこそ間違い無くバトルホリックだろう。
 ただ単に切れてる様にも見えたけど、まさかな。あのクラスの戦闘で怒りだけではあそこまでいけるなんてあり得ない。
 怒りは力をくれるけど冷静ではいられないんだ。麒麟の速さに対応するには冷静差が必要だ。それも反射の域の。認識してからじゃ今の奴には遅い。何てったって、奴は今雷その物と言っていいんだから。


 拮抗してる様に見える戦闘も、だけどよく見ればやっぱりセラと鍛冶屋は押されてる。二人のHPは既に半分に成ろうとしてるのに麒麟のHPは満タンから微量減っただけだ。それはきっとセラの最初の奇襲分。
 二人の攻撃は実は全てかすりもしていない。それでもちゃんと戦えているように見えるのは防御に力を入れてるからだろう。二人は実は互いのスキルで補助サポートをやっているんだ。
 まさに時間稼ぎ。セラ達は僕らの為の時間稼ぎをやってくれているんだ。腕を治して万全に成れるのならそれがよかったからね。
 だけどそれは叶わなかった。今の自分があそこで何が出来るか分からないけど、これ以上待たせる訳にはいかない。
 このフィールドの周りにたむろしてるモンスター共が変な感じに盛り上がってるのもムカつくな。
 まるでそれは僕達の負けを歌ってる様なんだ。だから見せてやろうと思う。こいつらにも僕達プレイヤーの力って奴をさ


「さあ行こう。サポート頼むよシルクちゃん」
「うん! そっちも頑張ってスオウ君」


 僕とシルクちゃんは前線へ急ぐために駆けだした。大丈夫、四人でならきっと勝てる。
 後少しで戦闘体勢に……そんな事を考えた時、連携が乱れたのかセラがこちら側に吹き飛ばされてくる。大きな悲鳴と大幅に減ったHP……大ピンチだ!
 そして直線上にたった鍛冶屋を麒麟は一蹴して放電と共に消えた。だけど僕は見たんだ。奴の体が消える寸前にセラの着地点だと予想出来る場所に誘導放電があったのを。
 僕は覚悟を決めて更に地面を強く蹴り加速した。そして腰にあるニーベルの一本を抜き去る。宙に舞うセラがどんどん近づいて……そして僕と交差した! その瞬間、僕はニーベルを斜め上に凪ぐ。


「うおおおおおおおお!」


 気合いの入った雄叫びの直後、それを途切れさせる衝撃が僕の腕に響く。それは肉を通り、骨を伝って来る衝撃。目の前には電撃と化した麒麟の姿が有った。僕の剣と麒麟の角が重なりあって拮抗してる。


「パキ……ピキ……」


 なんだこの音? 僕の耳には少し前から同じ様な音が聞こえていた。それを前はニーベルの耐久度の限界が来てると思ったけどそうじゃ無かったんだっけか? 
 ならこの音は一体……僕は必死に音の正体を探るために視線を這わす。だけどその時、後ろから体勢を立て直したんだろう、セラの声が届いてそれどころじゃなくなった。


「上出来よ、アンタにしてはね! そのままよ! そのまま! ぶったぎってあげる!」


 すると小太刀を握ったセラが青いエフェクトを武器に纏わせて飛び込んだ。そして左足から一気に胴を斬り裂く気合いの一太刀が炸裂した。
 そしてスキル効果か、麒麟の体その物の電気に氷が張り出してそれは見る見る広がっていく。それは下から斜め上へ飛んだセラが地面に再び足を付く頃には全身に広がり、麒麟の活動は止まっていた。
 でもこれはまだ攻撃の途中だった。
 地面に降り立ったセラが小太刀に付いた水滴を振るう様に凪いだと同時に呟いたその技名。


「アイガ・ストライク」


 その瞬間、氷は弾け飛び麒麟を大きく吹き飛ばした。なんて綺麗なスキルだ。飛び散った氷に麒麟の電撃が反射して虹色に輝いて見える。
 だけど体を半分に斬り裂き、氷で覆ったにも関わらず、そのHPは僅かばかりしか減っていない。


「こんなもんかよ……」
「文句言ってないでアンタも繋げる!」


 セラは既に次の攻撃の為に動き出していた。僕も急いでそれに続く。そうだ、前衛の一撃なんてあんな物なんだ。僕達の攻撃は攻撃を絶え間無く続けていってスキルチェーンとかして初めて大きなダメージに繋がるんだ。
 一回の攻撃に期待するんじゃなくみんなで大きな一撃を、だ! 
 体勢を立て直しきれてない麒麟に迫り、セラは続けざまのスキル攻撃を打ち込んだ。麒麟は今度は何とか踏ん張るも技をまともに食らって隙が出来てる。


(行ける!)


 僕はそう思ってニーベルを握る手に力を込めた。ここで押し切れるかも知れない。いや、押し切らなくちゃ行けない!
 このチャンスは奴が戦闘に参加してなかった僕を見落としてたから得られた物だ。それまでかすりもしなかった攻撃が連続で決まってる。ここで勝負をかけないと次の保証なんてどこにも無い!


「うらぁぁ!」


 僕は思いの限りを刃に乗せてニーベルを振る。銀色の切っ先は確実に麒麟の首を取っていた……だけど――
 スカ  (ニーベルがただ単に麒麟の体を通過した音)


「はっ!?」


 僕の攻撃は確かに当たった筈なのに、かすりもしなかった。矛盾してるけどそうなんだ。確かにニーベルは麒麟の体に届いていたし、その体を通ったのは間違いないんだ。
 だけどニーベルは何の抵抗も無く麒麟をすり抜けた……当然ダメージなんて微塵も無い。僕は勢いをつけて振りかぶったせいで体勢が崩れてしまっている。
 そこに麒麟の雷激と化した布が迫る。早い! けど……


「くっ!」


 僕は何とかその攻撃の盾に成るようにニーベルを動かす事が出来た。これで直撃は避けられる――――筈――――っ!!


「ぐああああ!」
「スオウ!」


 まただ……完璧……とまでは行かなくてもニーベルがかすりもしないなんて。どういう事だよ……さっきと同じ現象だ。まるでニーベルには攻撃判定がないみたいに透過される。
 麒麟の雷激に縛られた僕。絶え間なく続く拷問みたいな攻撃に僕のHPは急激に持って行かれる。その時横から数本のクナイが飛んできて爆発――――僕を縛っていた雷激を吹き飛ばしてくれた。


「アンタ、何やってんのよ! 死ぬ気!?」
「はぁはぁ、うるせえよ。こっちだってわかるか……まるでニーベルじゃ――――っ!!」


 爆煙の中、横から麒麟が飛び出してきた。雷の通過で一気に周りの煙が拡散して晴れ渡る。僕は再びニーベルを強く握りしめる。


「くっ……」


 当たるか? 当たらないか? 疑いや二度の攻撃で芽生えた新たな不安が迷いを生んだ。そして麒麟にはその一瞬で攻撃には十分だ。
 全てが軌跡と思える程の速さ――――音が届く頃には奴の攻撃は終わっている。奴の体はどうやらニーベルだけじゃなく人の体も透過するらしい。
 それが雷化した麒麟の特徴なのかも知れない。しかし奴の体も透過するからってニーベルと同じく、ダメージを与えられない訳じゃない。
 奴の体が通過する度に僕には落雷の様な衝撃が全身を襲った。


「ぐあぁぁぁぁあぁぁぁぁ!」


 自身の体の焼け焦げた部分から煙が上がってるのが見える。セラは僕を守る様に前に立ってくれたけど、一人じゃ麒麟の速さに付いていけない。
 意識が遠のきそうだ。雷クラスの衝撃は桁が違う。ゲームじゃなかったら死んでるぞ。
 いや、僕の場合ゲームでも死にそうなんだけど……麒麟は追随を止めない。まずは弱い所から攻める――それは戦闘の常識か。
 その時、僕の焼け焦げた体を何か暖かい物が包み込んだ。これは……セラか?


「何やって……んだよ、お前」


 このままじゃ二人一緒にやられる。それにセラにこんな事されるのは嬉しいというより怖いぞ。何企んでる。それでも僕は寄りかかるしか出来ないのが悔しい所だけど。
 さっきの麒麟の透過は三回位続けざまにやられた。だからかなりHPをもって行かれたんだ。電撃の痺れが節々に残っていて正直、セラが支えてくれてないと倒れる。


「雑魚は黙ってなさい。今更アンタだけ死なれちゃ、後味悪いのよ」
「雑魚って……相変わらず口わりぃメイドだな」


 本当にいつもいつも……だけど今は、少し違うような気もするけどね。前はただ気に入らない感じだったけど、今は……少しは仲間として見てくれてる感じがする。
 何か手があるのか――セラはふざけるようでかなり出来る奴だ。だからこの行動にもきっと意味があるんだろう。
 その時流れてきた誘導放電の音――来る。幾ら来る場所が分かっていても完全にかわすのは難しい。それに二人分――――どうやる?


「今! 凪いで!」


 唐突に聞こえたセラの叫びに驚いてとっさに指示通り腕が動く。すると良いタイミングだったのかニーベルが麒麟の首に衝突して互いに飛ばされた。
 ――――て、え? 当たった? 確かに今ニーベルは麒麟の体に触れた。


「どういう――」
「やっぱりね。アンタがバカだから気付けたかも。だって奴が速すぎて一撃に賭けるから私達はスキルでしか攻撃してなかった。だけど二刀流だけで他の攻撃スキルを持ってないアンタは武器だけで行った。
 ここが違うのよ。通らない攻撃はどっち? どうやらあの麒麟ってモンスターのあの状態は『スキル攻撃』以外無効化出来る!」


 セラは確信を得た顔で言い切った。なるほど、だからただの通常攻撃しか出来ない僕の攻撃は悉く透過したわけだ。だけどそれなら何で今のは――


「アンタの武器をよく見なさいよ」


 そう言われて僕はニーベルに視線を落とした。なんだかニーベルから紫のエフェクトが上がっているな。これって


「付加スキルって奴よ。どうやらスキルが発動してるなら当てる事は出来るみたいね。それで戦えるでしょ」
「――――ああ、助かる!」


 僕はニーベルを握り締めて前を見据えた。これでまともに戦える。スキル攻撃ってスキルを纏ってるなら何でも良いらしい。要するにセラは付加スキル――――武器や身体強化系のスキルを掛けてくれたようだ。
 これで攻撃が通ると思うと自然と体に力が戻る感じがする。出来る事とやれる事が見えれば人はもう一度ゼロからでも前を向くだろう。その心意気で踏ん張った。
 こんな所で僕が真っ先に倒れる訳には行かない。だってこれは僕のワガママに付き合わせてるんだから。
 攻撃が通ると確信があるなら迷うことはない。僕とセラは一気に麒麟に攻撃を仕掛ける。HPがなんだ。今度こそラッシュを掛ける時だ! セラが見つけてくれた活路とくれた力、無駄には出来ない。
 だけど麒麟は一歩早く動く。僕達が迫ったときその場から消えた。そして周りを駆け回ってるんだろう電気が放電する音が聞こえる。でもその音も既に数瞬遅いんだ。完全に僕らは出遅れた。これじゃあ後手に回るしか出来ない。
 だけどその時二つの声がフィールド内に轟いた。


「フル・キャンバス!」


 凛としたシルクちゃんの声と同時にフィールド全体に色とりどりの小さな玉が無数に出現した。そしてその玉は色を対象物につけて弾けていく。
 すると一つの足跡が浮かび出す。あれは麒麟の軌跡――――奴の通った道筋が見える。そして今も弾ける場所を見れば位置を予測出来る。


「メタル・コンソール!」


 続いたのは鍛冶屋の言葉。同時に今度は地面から何かが沸き上がり麒麟の予測位置に立ちふさがった。それは壁?
 そしてその壁がしなるように震え、何かの衝突音が響いた。それは紛れもなく麒麟だった。スキルで作られた壁は透過出来ない。
 麒麟は自身の衝撃をモロに受けて空中でしなっていた。


「「今だ!」」


 僕と鍛冶屋の声が重なった。瞬時にセラと共に駆け出す。役目を終えた壁は砂の用に消えて行っていた。きっとあれはスレイプル特有のスキルだろう。多分『鉱石操作』と言う奴だ。
 生産を生き甲斐にする彼らが独自に持つスキル。それは様々種類があるらしいけど、鍛冶屋は武器を専門にしてるから鉱石操作なんだろう。
 その鍛冶屋も武器を構えてこちらに向かう。シルクちゃんは既に別の魔法の詠唱に入っていた。そして一番に麒麟に攻撃を届かせたのはピクだった。今までどこに行ってたんだと思うけど、いつも妙にタイミングいいな。
 好機って奴を知ってるよピクは。
 真上から急降――そして炎を麒麟に浴びせる。僕たちはその炎の海に飛び込んで無数の刃を麒麟に浴びせだした。派手なエフェクトは殆どセラと鍛冶屋。
 僕はチェーンのつなぎ目をチマチマ通常攻撃で保ってた。動きを止められた麒麟は他のモンスターと変わりない。今度こそ行けると僕達は疑わなかった。




 だけどある程度、攻撃を続けていると麒麟の白銀の角が光を帯びていく。


「ピキピキ……パキパキ……」


 いつもの音が僕の耳には届いていたけどそれを気にするよりもチェーンを繋ぐ事が大事だった。けれど次の瞬間、角から全方位への落雷が炸裂した。


「「「うあああああああ!」」」


 全員の悲鳴がフィールドに響いた。それは完全に勢いを止められた事を意味してる。そして無くした勝機を確率させようと麒麟はしていた。
 後少し……後少しだったのに……僕達は地面に落ちた体を必死に持ち上げる。だけどその時、シルクちゃんがある事に気付いた。
「あれ? 麒麟のHP……無いよ。無くなってる!」
 僕達は一斉に麒麟を見つめた。すると本当に頭上のHPバーに残量は無かった。だけど……麒麟はそこに居る。消える気配はない。これはどう言うことだ?
 次の瞬間、鍛冶屋が凄まじい勢いで吹き飛ばされた。そして空中で更に弾かれて地面にめり込む。HPがやばい! 僕とセラは同時に駆け出す。だけど麒麟はその場から消えて横に移動、そして目の前に現れる。雷だから直線的にしか動けない様だけど反則だろこれは!


「ぐああああ!」


 今度は僕が後方に弾き飛ばされた。目前で爆発的な雷の放出――かわす事も防御も関係なんて無かった。追撃は無い? セラが直ぐに奴に向かったようだ。
「大丈夫ですか?」
 頭上に振り注ぐ声に顔を向けるとそこには泉の精が居た。どうやら達観してるこいつの側まで飛ばされたみたいだ。丁度良い。


「あれはどう言うことだよ! 麒麟のHPはどう見ても尽きてるぞ! なんで消えない、終わらない!」


 僕は文句を言った。言わざる得ないよ。HPが尽きてもピンピンしてるモンスターなんてあり得ないんだから。やっぱり麒麟もおかしくなったって事か?


「ふふふ、おかしくなんてないです。消えないのも、終わらないのも当たり前。だってこれは『ウエポンアライアス』なのですから。
 貴方達はその意味をよく考えてください。HPなんて飾りなんですよ」


 飾り……その言葉に心がおれそうだ。あんなに苦労して一つになって削りきったHPはただの飾りだなんて。
 『ウエポンアライアス』の意味って何だよ。その時、僕の瞳に入ったのは球体に入ったシルフィング……そう言えば、武器が願ったと言っていた。
 何を願ったんだシルフィング? いや、お前なら何を願う……もしそれが僕と同じなら……『元』なんかじゃない。
「ピキ……パキ……キ」
 頭に響くあの音、飾られたHP、シルフィングの願い。ウエポンアライアスと言うのはもしかして……


「何かに気付きました?」
「ああ……それに僕は言ってた」
「?」


 彼女の視線を背中に感じたまま、僕は立ち上がる。そう、言ってたんだ……僕はあの時……


「角が折れそうだ」ってさ。

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