命改変プログラム

ファーストなサイコロ

自立しだした夢



 森に一陣の風が凪いだ。それはその場の空気が変わった事を示していたのかも知れない。みんなが……この森自体が恐々と震えていた。麒麟のあの姿・・・そして自立行動を取った泉の精に……。一体何が起こったんだ? いや、それはもしかしたら始まる前から起こっていた事なのかも知れない。
 僕がその場に戻ってきたとき、確かな恐怖や絶望を称えてそこには再び立った麒麟がいた。白かった体さえ今は輪郭がハッキリしない。
 更に強烈な光を放ちながらもそこに存在を表す電気の固まり……プラズマみたく麒麟はなっていた。希薄な様で強烈なその姿に僕は目が離せなくなりそうだ。
 そしてその傍らに立つ泉の精。自身の背丈よりも長い緑の髪の毛を垂らして身に纏うは背中と胸元が大胆に空いたタイプのロングドレス。
 どうしてNPCであるはずの彼女がこんな場所に? NPCは決められた範囲しか移動できないはずだ。それに泉の精みたいなタイプのNPCはその出現場所だけが存在領域であって、そこから出るなんて事……聞いたことも無い。
 泉の精の場合はあの小さな泉だけがその存在を持たせられる範囲でこうやって地面に立つ事事態おかしい。それは何度もみてきた『異常』に僕の中で分類される。


「ふふふ……ふふふふふ」


 黒い霧と淡い光が混じり合う様なこの森の中にそんな声が響いた。発信源は勿論、目の前の泉の精だ。不気味な声……奇妙な声だと思った。
 まるで音が重なり合ってるような……いや、誰かが同じように笑ってるみたいな? 辺りを見回しても誰もおらずやっぱりその声は泉の精だけからしか出てはいないようだ。


「何が……そんなにおかしいんだよ」


 誰も口を開かなかったから一番遠くの僕が口を開いた。それで一斉にみんなは僕に気付く。雷化とでも言うのか? 取り合えずそんな状態になった麒麟に対してみんなは膠着状態だったんだ。
 特にセラと鍛冶屋は目の前の状況に処置落ちしかけてたと思う。シルクちゃんはサクヤの時からで耐性も少しは出来てたみたいだ。
 それに彼女の肩にはピクがいるしね。誰もが動かなかったからそうしてただけだ。


「スオウ君……」


 その証拠に一番に僕の名前を呼んだよ。か細い声だったけど、その目には確かな炎も見えた。こんな異常な事は自分達の出番だよね、みたいな。
 シルクちゃんは真面目だから変な責任感みたいな物もアンフィリティクエストに協力すると誓った時にしてたのかも知れない。


「ふふっふふふふ……おかしい……ふふふ」


 泉の精は僕の質問に答える気配はない。何故か狂った様に笑い続けるだけだ。すると麒麟が一歩を踏み出した。その瞬間、電気が地面を伝った様な光が流れ周囲で弾ける様な音が聞こえた。
 だけどその音のおかげでみんなは動く事が出来る様になる。一斉に武器を構えて背中を向けずに後退する。みんな分かってる。この状況で背中を敵に晒すことは愚の骨頂だと。
 だけどそんな僕らを見て、ようやく泉の精はまともな言葉を発した。だけどそれは絶望を促す言葉。


「ふふ、あ~れ~? 腕拾ったんだ。どうだった? モンスター達戻ってきてたでしょ?」
「「「!!」」」


 みんなの視線が再び僕に向く。まあ、元々それを伝えに来たんだけど……こんな状況でそれを伝えたら心が落ち込む他はない。
 だから黙ってた……と言う事にしておきたいけど、実はただ単にタイミングを逃しただけだ。だってこんな事になってるなんて思わなかったんだもん。


「それ……本当なの?」


 セラの声に僕は頷く。


「確かにモンスターは戻ってきてた。でもまだ数体だ。コイツ等を倒して脱出する時間が無い……訳じゃない……と思う」
「脱出する」


 セラは僕の言葉の途中から既にウインドウを操作して何かを取り出していた。それは黄色い手のひらサイズのクリスタル。なんだっけこれ?


「転移結晶……こんな高級なものまで用意してくれてたんですか?」
「アイリ様がね。これは国を賭けてるんだからこの位は普通でしょ」


 セラの言葉に二人は感嘆する。え? 何? そんなに凄い物なのか?


「移動系のアイテムと言うのは特に高い。取り合えず高いんだ。別に移動が不便だからと言っても走れば良いだけだし、目的地にパパッと飛べるアイテムは無いしな。
 だからそのアイテムは保険だ。別に無くてもいいがあったらいざという時に助かる。その程度の物だ。戦闘に行くなら持ってはいたいが必ずしもそうでなくてもいい。
 だから需要もそれなりで、だが供給は困難を極めるアイテム。だから高くなる。普通は大規模なパーティーを組んだ時に全員でお金を出し合って買う位だな。
 それをわざわざ一個持たせてくれたのなら太っ腹だ。さすが国を納めるお姫様と言ったところか」


 なるほどね。鍛冶屋がこんなに喋るだなんて珍しいからそれにもびっくりだけど、要するにこのアイテムはこの森から脱出出来るアイテムって訳か。って、ちょっと待てよ。


「それじゃあシルフィングはどうなる? まだ元に戻してないぞ。それにあの異常な奴らは放置かよ?」
「異常だなんて失礼しちゃうわ……どうして、貴方達人間はそうやって私達を縛ろうとするのかしら……」


 僕の声が聞こえてたらしい泉の精が会話に割り込んで来やがった。それに縛ろうとする? それはNPCとしての役目とかいう事だろうか。
 再び一歩近づく麒麟に対して僕らは一歩後退する。牽制してるのかコイツ等? 


「後がないわ、ここは一端引くべきよ。これの発動にだって数秒は掛かる。大群が押し寄せてからじゃ遅いのよ!」


 今までよりも小声で喋るセラ。確かにここは引くべき場面かも知れない。それは分かる……分かるけど、NPCとして自我が目覚めたらしい泉の精が次来たときまでシルフィングを取っておくのか疑問だし。
 それにこのウエポンアライアス事態がどうなっているか分からない。今、ここが最後のチャンスなんじゃないかと思えるんだ。そう考えると逃げるなんて……出来な――


「ふざけないで! 私達はアンタのワガママに付き合ってる訳じゃないのよ! そんなに戦って死にたいなら一人で死になさい……こんな場所で死にたいのならだけど!」


 セラが僕の胸倉掴んで言った言葉は確かに正論だ。ここに残って戦いたいのも、シルフィングを直したいのもすべて僕のワガママだ。
 必要な物は手に入れた。もしもここで戦闘不能になってそれまで失ったら元も子もない。そうセラは言っている。自分の国の問題なんだ。セラも必死なんだろう。
 いつもはフザケた態度しか取らないけど、セラはいつでもやることはブーブー文句言いながらもやっていた。メイドのプライドかどうかは知らないけど……仕事に関しては徹底したやつだ。


「セラちゃん……それは言い過ぎだよ」
「そうですか? シルク様は甘すぎます。こんなバトルホリック(戦闘中毒者)に付き合ってたら損するだけですよ」


 バトルホリックって……仕事以外に興味が無く家庭崩壊を招くワーカーホリックな父親みたいに言うなよな。そんなに年くってねーよ。
 それにバトルホリックって危ない奴みたいでイヤだ。てか今更だけどなんでシルクちゃんの事をそんなに敬ってんだよこいつ。僕やテッケンさんや鍛冶屋と態度が随分違うぞ。
 それに僕は別段戦闘が好きな訳じゃないんだけど……それを言う前にセラは僕を突き飛ばす。うっ。


「ほんっと~に! こっちでも自分の命が有限だって言ったのはアンタでしょ!? それ分かってんの? アンタは自分の命をどうしようと勝手と思ってるんでしょうけどね。
 それを見てる私や、アンタの仲間をもっと思いなさいよ!」
「もしかしてセラ……心配してくれてる?」


 それはあり得ないことだとずっと否定してたけど、さっきの言い様はそうとしか―――


「うっさい、バカ、死ね。あんたの枕元に三文置いといて上げるからさっさといきなさいよ」
「通行料か!? 三途の川の渡し船の通行料だな三文って! いるかそんなもん!」


 心配なんて幻想だ。こいつは僕が死ぬこと前提で話してやがる。三文なんてLROじゃ無いし、既にリアルにもそんな通貨ねーよ。
 それに蹴られた。ゲシって感じで前に蹴り出された。


「いって~な、何すんだよ!」
「残るんでしょ? どうぞご勝手にスオウ様。貴方の武勇伝は忘れません。きっと語り草になることでしょう。良かったですね」


 スッゴい冷たい目立った。それに今までの雑な言葉が暖かく感じれる程の突き放した口調。やめて……マジで……心が抉られるように痛い。
 メイドが使うには正しい言葉の筈なんだけど……それが自分に向けられた瞬間、妙にセラが遠くに行った感じがした。それほど近くでも無かった筈なんだけど……不思議な感覚だ。
 それに武勇伝って……やっぱり僕はここで死ぬの決まりなんだ。


「ダメだよセラちゃん。みんな一緒に行こう。ほら、スオウ君! 手を取って」


 そう言って伸ばされるシルクちゃんの綺麗な手。この手を取ることが今出来ること。次がないなんて分からないし、ここで出来る事はもう無いのかも知れない。


「急げスオウ! もう奴らそんなに待ってはくれないぞ!」


 鍛冶屋の声で前を見ると泉の精が首を傾げてた。爛々に輝いていた目に陰が入る。


「どこ行くの? もっと遊びましょうよ……そっかこの剣、どうなってもいいんだ」


 そう言って現れたのは刃が折れたシルフィング。こいつ、シルフィングをどうする気だ?


「惑わされないで! 幾ら大事でもあれは物よ! アンタは命と物を天秤に掛ける気!? あれは存在なんてしないのよ!」


 セラの怒鳴り声が後ろから聞こえた。確かにあれはあそこには本当は無いのかもしれない。この世界は元々存在なんてしない。でもこんな事言う人だっている。


『認識出来ない世界は存在しない物でも、認識できたその瞬間からそれは世界であり、世界の一部である』


 僕達はここLROを認識して、そして存在してる。それならここは全部本当の世界とも言える。僕達は異世界人としてここを旅してるんだ。そう考える事だって出来る。
 データだから、システムだから……そう言って区切れないほどここLROは濃い。僕の魂を引っ張る程に。だからとらわれのシルフィングは存在してる。
 僕の中に……魂や心……脳にだってちゃんと焼き付いてる。僕にとってそれじゃ、リアルってなんだ? そんな頭が痛く成ることを考えてた。


「そうね……存在なんてしない。私達は貴方達からしてみればただの夢で幻想。仮想の中のただの玩具……何でしょう。
 だけど……貴方はそうなのかしら? ウエポンアライアスに次はない。そしてウエポンアライアスの発動条件はその武器が使用者の願いに応えたいと願うこと……戦いの中で生まれた絆と言うところかしらね。
 貴方はシステムに呑まれてる……けどだから私達をキチンと見てる……だからそれにこの子も応えたいと願ったのでしょうにね」
「なっ……に?」


 泉の精の言葉が理解出来なかったぞ。なんて言った? それに口調が……なんだか落ち着いてきてる。武器がそれを望んだ・・願った? そんな事が……あるのか? シルフィング……僕は奴の手にあるその剣を見た。青い刀身が無惨に折られた二対の剣。
 ずっと僕の無茶を叶え続けてくれた相棒。一言も喋らなくても互いに通じあってた気はするよ。僕のバカな行動で折れてしまった。
 幾ら謝っても、責める事も出来ない相棒。もうこんなヘッポコは嫌なんじゃないかと思ってた。でもそうじゃ無いって事か? まだ僕に……その力を貸してくれるのかシルフィング。
 だけど物言えぬ剣が喋るはずもない。ただ向かい合うだけだ。でも……


「フザケないで! 剣の願いが発動条件なんてあるわけない! 適当な事言って惑わすつもりよ! アンタも呆けてない!」
「スオウ君!」


 女の子二人の叫びが耳に届くけど……僕は既に逃げる気はなくなっていたのかも知れない。握り締める拳に力を込めた。
 そして忘れてた物に気づく。握っていたのは僕の腕だ。あの麒麟に引きちぎられた僕の片腕。傷は塞がらないし固まらないのか、まだ血が循環してる。
 これってアイテム欄に収納出来るのかな? ウインドウを呼び出してやってみる。……出来た。アイテム欄には『スオウの片腕』と成っている。なんてこった。
 僕は向き直る……その方向はシルフィングを目指す。


「八百万……と言う神々の考え方を当てはめてください。それが日本でしょう。それならどんな物にでも神様……つまり魂があります。
 とても素敵な考え方」
「そんなの屁理屈でしょう。存在もしてない物に魂も神様も宿る訳がない!」


 泉の精の言葉をセラは打った切る。だけど向こうも引かない。それは自分の存在が掛かっているからか。自我を持ったシステムやプログラムは存在の証明を求めてるみたいだ。


「では貴女は自身が使う武器に気持ちを込めたりしませんか? 手入れをするときにありがとうと声を掛けた事は無いですか? そんなことでいいんです。
 そんなとき……誰もが私達を知ってくれています。それは貴女達が私達を存在として認識してるからしてしまう無意識なんですよ。そしてそんな思いは伝わるものです」


 人の無意識……僕達は自然とこの世界を肯定してるって事か。セラもその言葉を聞いた時、自身の武器を見つめただろう。
シルクちゃんも自身の杖を……鍛冶屋ならこれまで作ってきたあらゆる物を思ったはずだ。そう……ここに存在してない物なんてない。
 思いを込めずに使える物なんてないんだ。だって僕達はこの地に降りたって歩いてるんだから。触れた感触も、重みも、質感も……臭いだって感じれる。
 モンスターに対するとき、自分の武器を信じない奴はいないだろう。それに武器が応えてくれて勝利に繋がる。だけど普通は一つの武器に込める思いはそんなに長くない。
 だってLROは様々な武器を使える所がいいことで、そうしないとスキルは蓄積しない。スキルが少ないのは圧倒的に戦闘では不利だしね。
 だからこのウエポンアライアスの存在が知られなかったのは当然といえる。一つの武器を長く使うなんて人は、既にトッププレイヤーだろうし。その武器が折れるなんて事はそうそう無いのだろう。
 それにこの泉の存在は知られたのは最近らしいしね。


「もしも……あのNPCが言ってる事が全部真実でも! 今は逃げるの! そうしよう……ううん、そうして!」


 結局セラは全員で戻る事を諦めないわけだ。こいつらしくも無いけど……嬉しいことだ。初めて僕に対して頭げたしね。
 セラの嘆願は聞き入れたいよ……でも……


「ごめん……シルフィングは相棒なんだ」
「そうだな。鍛冶屋としてあんな話聞いてひきさがれん」


 僕の言葉の後に鍛冶屋まで続いてきた。確かに武器に対する思い入れは僕よりあるだろう。あの話は嬉しい物だったろうしね。
 僕らは歩みでる。互いに武器を取り前を見据え。


「嬉しいな。やっぱり貴方は聞いてた通り楽しい子。もっともっと楽しませて……そして証明してね」


 麒麟が重心を前に傾けた――――来る!


「このっ……バカ! シルク様そっち頼みます!」
「――うん! 任せて!」


 苛立ちを乗せたセラの声。その瞬間、僕らの背中に同時に柔らかい物が当たった。てか後ろから抱きつかれた状態だ。僕にはセラが、鍛冶屋にはシルクちゃんが抱きつき僕らの動きを止めていた。
 そしてその場に固まった僕らを包むように地面に魔法陣が展開する。それはセラが手に持った転移結晶の陣だ。


「お前!」
「逃げるのよ! でないと死ぬわよアンタ! 腕だけじゃ済まないんだから! 誰ももう……私の前で消えないでよ!」


 光が僕らを包んでいく。泣いている様なセラにこれ以上何が言える? 言えないよ。今なら分かる。今までの残酷なまでの言葉も……時に言う励ましの言葉も全部、僕の為か。
 僕を死なせない為に……時には逃がすために、心を折るような事言ってたのか? もう完全に転移結晶は発動してる。ここまでだ。


(ごめん……シルフィング。もう一度、お前と共に進みたかったんだけどな。でも……ここで出て行くなんて僕には出来ないよ)


 背中に伝わる短い息づかいの音とか震える体の感触とかがセラの思いで……それを振り解こうとは思えない。なんだかこれでここでの戦いが終わったかと思うと力が急に抜けていく。
 張りつめていた糸が切れたみたいにさ。だけどその時、シルフィングを掲げていた腕を泉の精が下ろしたのが見えた。そして聞こえた言葉で僕は意識無理矢理引っ張り上げた。


「……逃がさない。麒麟、お願い」


 目の前……と言うか腰の辺りがバチッとなった。それは放電? そこにあるのは僕の腰に回したセラの腕で手の中には転移結晶が輝きを放っている。
 まさかさっきのは誘導放電……やばい!


「セラ! 転移結晶を放せ!」
「え? 何よ今さ――きゃあ!」


 それは間一髪だった。雷にでも成ったかの様な麒麟が僕らの居た場所を焦がすのは本当に一瞬の出来事。あと刹那でも遅れてたら転移結晶もろとも僕らも消し炭に成っていただろう。
 凄まじい余波でシルクちゃん達まで吹き飛ばされていた。麒麟の巻いていた布が今は長い雷の様に尾を引いている。それも一本じゃない……体も実体化出来てるのか無いのか・・雷だからかブレている様な感じだ。


「つうぅ~、何なのよあれ。あれじゃあもう……精霊じゃない。それも雷の最上級クラス……」


 まさしくセラが言ったとおりだと思った。あれはもう精霊だ。生き物と言う定義に当てはまらないんだからな。雷の塊……マジで化け物だ。前も相当だったけどこうなったら普通の攻撃が効くかも分からない。
 それに唯一の脱出法も潰された。これでもう奴等と対峙するしか無いわけだ。


「大丈夫かみんな?」
「こほっこほっ……大丈夫だよ」
「俺も傷はない」


 良かったみんな無事みたいだ。さっきの攻撃は転移結晶を狙った物だったからだろう。でもあの早さで動き回られちゃ攻撃の当てようも無い。
 雷の早さは銃弾とかとは比較にも成らないんだ。


「わ、私も大丈夫だから早く退いてよ!」
「ああ、ごめん」


 勢いでセラを押し倒た様な格好に成っていた。なんて危ないことを僕はしてるんだ。それにしても一体何度のピンチを越えたら安心して笑えるんだよ。


「ねえ……周りもしかして……」
「ああ気づいた?」


 セラの声が震えている。当然だろう。僕達に逃げ場は無くなっていた。何故なら既に大量の獣人に囲まれてたからだ。奴等は獲物を見つけて興奮してる。その数は……数得るのも億劫になるほど。
 奴等は大群で行進してくる。地鳴りの様な音が響く中、動いたのは麒麟だった。目にも止まらぬ速さで麒麟は駆けた。摘まれるのは奴等の頭。周囲に大量の首なしの死体の山が一瞬で築かれる。
 その凄惨な光景にシルクちゃんは口を押さえて目を反す。
 ある程度の距離まで開けたら麒麟が吠えた。すると雷の柱が僕らと麒麟達のフィールドを包み込んだ。つまりこの中が邪魔者無しの戦いの場。本当に試練みたいだな。


「始めましょう。ウエポンアライアスの最後の戦いを」


 響きわたった声。僕達は覚悟を決める。これがきっとこの森での最後の戦いだ。雷の光は激しすぎる。僕はこの後、優しいランプの明かりでも眺めて帰ろうと誓った。

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