命改変プログラム

ファーストなサイコロ

白銀の試練

 気付けば僕は両膝で地面を叩き、そのまま前のめりに倒れそうに成っていた。


「きゃああぁぁぁぁぁ!」


 それは一体どちらの悲鳴か……でも、セラがあんな女らしい悲鳴を上げるのも気持ち悪いからこれはシルクちゃんだろう。
 もしかしたら二人の悲鳴なのかもしれないけど、そこまで頭は回らない。流れ出る血は僕の思考力を奪い去るかの様だ。
 残った右手を地面に付き、なんとか体を支えたけど近づいた消えた左手がイヤに視界に入ってくる。血が地面に染み込んだり、頬に付いたり……それだけで悪夢みたいだ。


「おい……スオウ……」


 震える声を絞り出した鍛冶屋の顔は蒼白だった。目の前で起きてることが信じられない……そんな感じ。そう言えばこんな常識外れな事に直面するのは初めてだったかな?
 悪魔戦の時はまだ血なんて出なかったから……。


「大丈夫……大丈夫だ」


 励ましの声は周りにあてた物じゃない。僕はきっと自分に言い聞かせてる。気が動転しそうに成るのをこの言葉で必死に押さえつけた。


(大丈夫……大丈夫……僕はまだ……大丈夫だ)


 何度も何度も心の中で繰り返し続ける。これ以上落ちないようにしなくちゃいけない。変な汗が出て、痛みを完璧に再現しないはずのLROで何故か異様にその場所が痛かった。
 だからか、その痛みを和らげようと頭が茹だったみたいに機能を遅らせてボオッとしてしまう。でもそれじゃいけない。さっきからずっと頭に響くんだ……僕の腕をちぎった奴が奏でる足音が。


「ちょっと……アンタ本当におかしい! その血……やっぱりどう考えたってあり――死ぬんじゃない!」


 パンッ! ――と乾いた音が辺りに響く。僕の体に新たな痛みが増えた。


「あぁ……セラ……サンキューな」


 僕は自分を殴った相手に礼を述べた。だって危なかったんだ。必死に頭を動かそうとしても、暗い泉に引きずり込まれる様な感覚から逃げれない。
 気付いたときには目を閉じてたみたいだ。目の前のセラの顔も複雑な表情に成っている。こいつのこんな顔は珍しいからシャターチャンスなんだけど、生憎と今はスクリーンショット取る元気もない。
 ここLROはゲームだから別にカメラが無くても写真が撮れる。スクリーンショットって言う機能なんだけど……この話は別の機会にしよう。
 今はそれ所じゃない。謎の生物の登場で何故か周りには小さな淡い光の玉が地面から浮いては消えていく。だからかさっきよりも森の中を照らしていた。


「スオウ君……腕……取り合えず魔法で……」


 流れ出る血を見て青ざめた顔したシルクちゃんが、それでも近づいて来てそう言ってくれた。ありがたい……けど、ピンポイントで腕を元に戻す魔法なんてあるのかな。


「それは……でも血を止める位なら……出来る筈です」


 苦しい顔でそんな言葉を紡ぐシルクちゃん。意地悪な事を言ってしまった。これは全て敵地で油断した僕の責任なのに。どうしても辛気臭くなってしまう。
 体を持ち上げて傷口をシルクちゃんの方へ向ける。せめて血ぐらい止めないと気が滅入りそうだ。
 だけどその時……シルクちゃんが恐る恐る傷口に手を翳して魔法を発動しようとしたまさにその時、僕の血はあり得ない方へと流れた。そして僕はそれを見逃さなかった。
 それはシルクちゃんとセラの間。今まで規則的に聞こえていた足音が弾けた瞬間でもあった。


「ごめん!」
「あっ――――――きゃあぁ!」


 僕はシルクちゃんの魔法を避けて二人の間に割って入った。それと同時に残った右手で片側だけのニーベルを抜き去る。
 突き刺さる重量は紛れもない敵の姿を映し出す。白光を讃えたその姿……額には白銀の一角……黄色い瞳は雷を宿した様に感じた。
 形は馬……だけどもっとシャープで、その体を覆うように透けた純白の布が長く宙に浮いていた。


「ぐっ……くっそ」


 片手じゃどうしても押し返す事が出来ない。みんなはその神々しいとも言える姿に動くことを忘れてる。僕もこんな傷を負ってなければその姿に魅了されてたかも知れない。
 だけど左腕から伝わる痛みがそれを許してはくれない。もう既に血は流れ落ちていなくて奴の口元を汚す僕のちぎられた手へと求める様に伝っていた。そうまるで求める様にだ。


「幻獣……」


 角に押されながらぽつりと聞こえたその言葉が気になった。それはセラの口から出た言葉……何か知ってるのか?


「なんだよ……その……幻獣って……」
「幻獣『麒麟』この森で一度だけ目撃されたって聞いた事があった幻のモンスターよ。でもそれから何度も麒麟目当てのプレイヤーがこの森に張り込んだけどとうとう見つけられなかったって。
 だから幻の獣、幻獣って呼ばれる様に……まさかあのウエポンアライアスが出現条件?」


 麒麟と呼ばれるモンスターの光に当てられてるのか、言い終わったセラはとんでもない事をしようとした。それはそのモンスターに手を伸ばすこと……つまりは触れようとした。
普段のモンスターならそんな事絶対にあり得ないけど、麒麟の美しさはそんな概念を吹き飛ばしたんだろう。元からセラは大胆な奴と言うこともあるかも知れないけど。
 とにかくセラの手が麒麟に触れ欠けたとき、辺りに麒麟の雄叫びが響いた。それは明確な拒絶の表れか、その瞬間体中から電撃が周囲に放たれた。


「「うああ!」」
「「きゃあ!」」


 それぞれの声が木霊して僕達は吹き飛ばされる。自身の周りを球体状で囲む電撃……それはセラだけじゃなく全員が対象だった。
 痺れが残る体を強引に動かして僕はせめて受け身をとろうとする。だけどその時、僕の視界に微かに白い何かが写り、体を鞭の様な感じで叩かれ、更に吹き飛んだ。


「がっ……はっ……」
「スオ……ウ!」


 僕は木の幹に叩きつけられてようやく止まった。そしてそのまま地面に落ちる。たった三回の攻撃で僕のHPは既に半分のラインを過ぎて黄色を示していた。
 遠くなった声の主は鍛冶屋……その周りにはシルクちゃんもセラも居るけど三人とも何故か起きあがれないで居る。多分それはさっきから手先に少し残る痺れが原因何だろう。
 さっきの攻撃には『麻痺』の効果があったんだ。こんな場面で麻痺なんて……みんなからの救援は期待できないって事か。とことん絶望的な状況になっていく。


「なんなんだよ……お前……一体どうすれば……良いって言うんだ!」


 僕はニーベルを地面に突き立て、なんとか立ち上がる。僕は麻痺の効果に掛かってなかったんだ。ああいう付加効果は基本発生はランダムだから僕は免れたらしい。
 だけどそれを喜ぶべきなのかどうかはわからない。だってここで立っても勝てる可能性なんて万に一つもない。片手を失い、既に二刀流を失った僕はただの初心者プレイヤーだ。
 あれこそが僕のアドバンテージだった。それに二刀流が出来てもこのクラスは一人で勝てる相手じゃないだろう。でもそれでも諦めない事は出来たのかも知れないけど。




 僕の言葉に麒麟が応える筈もなくゆっくりと満身創痍の僕に足を向けてくる。普通の地面なのに何故か麒麟はひずめの音を響かせて……その音が言いしれない恐怖をかき立てながら。
 頭に響くその音は僕の命を刻んでる様な気さえしてくる。


「くそったれが……」


 物言わぬその顔が……光輝くその姿が……腹立たしい。それに何より、こんな情けない自分が一番腹立たしい。いつだって何度だって、僕は情けないままなんだ。それすらも変わらないか。
 その時、麒麟の体を包む布が僕に巻き付いてきた。そして浴びせられるのは電流だ。


「ぐがぁっががががが!」


 僕の体までもその電流で光ってるんじゃないかと思うほどの苦痛だ。昔のアニメで良くある、体が透けて骨が見えてるよきっと。


「うがぁぁぁ!」
「スオウォーー!」
「……スオウ……君」


 生きる気力が削がれ落ちて行ってるみたいだ。電気に乗せて地面に流れて溶けていく。絶対に離さない様に持っていたニーベルまでもが手から滑り落ちそうだ。
 きっとこれを離したら終わりだろう。そう感じながらもあらがえない……棺桶に招かれてると分かってるのに、弱さが先行してしまう。
 守るべき相手がここにはいない……そしていつも僕を引っ張りあげてくれる奴もここにはいない。だから僕はどんどん弱く成っていく。
 心を強くつなぎ止める為に……何が必要なんだろう。幾ら考えても分からない。答えにたどり着く前に流れる電流が僕の思考を焼き切るんだ。
 HPは遂に赤く染まって警告を発する。体は更に重くなり残った腕に伝える力は最早微弱だ。


(乱舞を使えばまだ……生きれるかな? だけど……二刀じゃない今、上手く発動するか?)


 心に浮かんだ唯一の脱出方だ。だけど思った通りに一抹の不安もある。乱舞は二刀流のスキルなんだ。二刀流の装備状態で無い今、果たして発動するのか?
 心に蔓延する黒い陰が次第に深く成っていく。もう本当にダメなのか? その時、僕の目には麒麟の後ろで動かない体を必死に動かそうとしてる二人の姿が見えた。


「だめ……だよスオウ君。今……助けるから……もう少し……頑張って……」
「貴様……ふざけるなよ。まだニーベルが……一度も、輝いて……いない。振りあげろ……そして良く見ろ……ニーベルの光は・・そんな幻獣などに負けてはない!」


 二人の声が僕の耳に届いた。あらがえる筈もないシステムという壁に対抗しながら二人は体を起こそうとしてる。何度も何度も崩れては震える体に再び力を込めている。
 その姿を捉えた瞬間、電流に邪魔されていた心を強くつなぎ止める方法が浮かび上がった。それはとっても簡単なことだ。
 僕はまだ残った手にある一本のニーベルを見た。それは本当に綺麗な銀の剣……確かに負けてなんていない。
 あの時、僕は自分が麻痺しなかった事を良かった事か分からないと言った。だけどそんなの良かったに決まってる。あの時、僕まで麻痺になったら何も出来ずに殺されていただろう。
 だけどそう成らなかったおかげで僕には万に一つの可能性が残ったはずだ。小さいけどそれは燃えだした火と変わらない可能性。
 消すか、たぎらせるかは自分次第。小さいのなら頑張って頑張って大きくするだけだ。それは今までと変わらない事だと気づいた。
 小さな可能性にしがみついて今までやってきたんだ。腕が一本無いくらいで残った可能性を捨てるわけにはいかない。
 これで二刀流が出来ないと考えるんじゃない。腕が一本残ってる……だから僕はまだ戦えると考えるんだ!


「二人とも良くやるね。どうせシステムには勝てないんだから後三分位はこのままよ。大人しく見守って居ましょうよ。疲れるだけなんだし」


 いきなり興が削がれる事を言ったのは勿論セラだ。踏み出しかけた一歩を止めること言うなよな。


「そんな……セラちゃんヒドいよ! スオウ君は……スオウ君はね……本当に死んじゃうかも知れないんだよ!」


 シルクちゃんはとうとう言ってしまった。でもあれはしょうがない。優しい彼女の事だからね。それに少し心に暖かな物がやってきたような気がしたよ。


「ふ~ん、やっぱりそれがアンフィリティクエストを進める代償なんだ」
「ふえ? 驚かないの?」


 確かにシルクちゃんの反応が正しいよ。普通は信じられないだろ。やっぱりなんて出て来る言葉じゃ
ない。


「だってさっきからそれっぽいこと言ってたわよ。特にあの小さい人とかね。だから予想はしてたの」


 ああ、そう言うことか。確かに僕らはそれっぽい事言ってたな。それにしてもテッケンさんはセラの中じゃ小さい人なのかよ。モブリ全般どう区別してるんだ?


「じゃあ、それが分かってるなら……何かしないとって思うでしょ?」
「思わないわ」


 はっきりと言いやがった。ゴメン、誰かそいつをまずは退場させてくれ。僕の心が再び闇にのまれそうだ。シルクちゃんはセラの言葉が信じられないというように声を震え出す。


「何でですか? どうして? 私たちは――」
「仲間なんかじゃないわ。少なくとも私は違う。アレ、実は邪魔だし」


 アレ呼ばわりか……やっぱり僕は死ねない。アイツにこの刃を突き返すまでは! 言葉の暴力を知れ! 僕は力を振り絞り柄を握りしめる。
 もう殆ど力なんて残って無いと思ってたけど、柄を握った僕の手は驚くほど堅かった。
 シルクちゃんはそんな事を言ったセラを睨みつけている。彼女にとっては僕は大切な仲間のようだ。良かった。だけどセラはそんな事気にする訳でもなく比較的に自由に動かせるらしい首を回して僕の方を見た。


「だけどね。何もやれない事は仕方無い事よ。今生きようとするのはアレの役目でしょ? 貴方達は、貴方達がやれるときにアレがまだ生きてたら全力で動けばいいのよ。助けられる事を待つのはプリンセスだけの特権なんだから」


 何なんだあの目。少しだけ憂いを帯びた様に見えたけど。でも確かに……今を生きようとしない奴に何かをする事はないって事は賛成だ。さっきまでの僕は助ける価値が無いって事だったのか。
 それに僕はそれじゃいけないとセラは遠回しに言ったのかもしれない。僕はセツリを助けなくちゃいけないんだから。


「それに――――」


 んん? まだあるのか? セラの瞳は電撃を受け続ける僕の顔をジッと見つめている。それは熱い視線ともいえた。血迷った発言をするんじゃないだろうな。


「――――アレ、がアギトの様の親友を語るのなら虚言癖のあるバカでも無い限り……こんな所で死ぬわけなぁぁぁぁぁい! ですから」


 は……はははは……言ってくれるなセラの奴。きっとそれはアギトの名誉の為とか何だろうけど……僕がセラを見る目が少し変わったよ。それに今度こそ一歩を踏み出せる。アイツは本当に優秀なメイドだ。
 ここで言っておこう。心を強く繋ぐための秘訣は、仲間を忘れない事。その場に居合わせた、居てくれた仲間が勇気や希望という心を分けてくれている。
 一番や二番とか、時間やきっかけなんか関係無い。僕達はパーティーを組んだその瞬間から大切な仲間なんだ。


「……うん、スオウ君! がんばれ~~!」


 シルクちゃんのそんな声が聞こえる。セラの言葉を聞いて嬉しそうだ。




 残りHPはもう僅か、僕はようやく動く事が出来る……出来る……筈だよね?
 ヤバい……ガッチガッチに縛られて腕を全然動かせない。このままじゃ地味に終わってしまう。それだけはイヤだ。すると不意に電流が止まった。僕のHPは後ほんの一撃でもまともに喰らえば尽きてしまう程しか残っていない。
 助かったのか? だけどそれはほんの僅かな幻想。奴は最後の一撃を入れる準備をしてるんだ。どうやら麒麟は、あの自慢の角で僕の命を絶つつもりらしい。
 わざわざ助走距離を取って足で地面を削ってる。僕は必死に残った力でこの布からの脱出を試みるも、命を削られた僕の力じゃとても無理だった。
 もう、アレに賭けるしかない。僕は紡ぐ、あの言葉を。


「乱舞!」


 だけどいつもの様に体の内側から溢れてくるような力を感じない。それに赤いエフェクトが体から立ちのぼらない。


「乱舞! 乱舞! 乱舞! 乱舞! 乱舞!」


 僕は何度も何度も繰り返した。だけどやはり僕の体に変化はない。今までいつだって僕の最終奥義として、ピンチを救ってきた乱舞が使えない。
 予想してた事とは言え、そのショックは大きい。何より、乱舞が使えないんじゃ僕はこの布から抜け出す事は無理だ。
 目の前には白銀の角を更にまばゆい光で包んだ麒麟の姿がある。アレはエフェクト……自身の最高の技で決めるつもりなのかも知れない。
 そこまでしなくても少し小突けば僕はきっと倒せるだろうに。スキルなら受け止めても今の僕のHPじゃ尽きてしまう。完全回避がここでの絶対条件だ。
 だけどそれは体を縛り付けられた僕には不可能な事で、脱出の術も絶たれてしまっている。奴がもぎ取った左手さえあれば……もしかして乱舞を使えなくする為に、最初に僕の腕を狙ったのか?
 どうしてそんな情報が……と思っても仕方ない事だ。向こうはLROと言うシステムに直結した存在なんだから情報は筒抜けだろう。それを意図的に使うのは反則っぽいけど……試練だから仕方ないのか?


「ん? 試練?」


 僕はその言葉に疑問を感じた。そういえば泉の精は試練と言った。試練と言うことはこの二刀流封じにも意味があるのかも知れない。
 クリア条件はやっぱり目の前の幻獣麒麟を倒す事だろうか? そういえばこの麒麟、ボスクラスのモンスターにしては攻撃力があまり高くないんでは無いだろうか?
 いや直接攻撃は強力だった。だけどその後は何故に、チマチマ削る電撃なんかにしたのかが分からない。直接攻撃ならもっと早くに・・・僕が前を向く前に終わらせる事が出来たのに。
 疑問は尽きない。だけど時間は止まりもしない。ここLROにはタイムなんて都合のいいシステムは無いんだ。


「ヒヒ~~ン!」


 準備が完了した麒麟は一際大きく鳴いて地面を蹴った。その衝撃は凄まじく、地面が数メートル抉れて吹っ飛ぶほどだ。助走距離といってもたかが数十メートル。
 今の麒麟なら数秒で僕にその角を突き刺すだろう。それだけ速く、僕には既に光の線と成った麒麟しか見えてなかった。
 これで終わりなのか。もうどうすることも出来ないのか? 何かを叫ぶシルクちゃん達が最後に目に入ったけど、その音は麒麟の生み出す轟音にかき消されて届かない。
 麒麟の白銀の角が星を散らす如く輝きを放って僕を貫く寸前、真横から炎の塊が麒麟に打ち当たった。
 巻き起こる爆発。吹き飛ぶ麒麟。ついでに吹き飛ぶ僕。


「うあぁぁぁ!」


 何が一体起こったんだ。麒麟にぶつかった炎の影響で周りには爆煙が広がる。余りに寸前だったから僕まで余波で吹き飛ばされたじゃないか! おかげで麒麟の布の呪縛は解けたけど。
 あんな嫌がらせみたいな助け方をするのはセラしかいない。だけど爆煙の向こうの三人はまだ麻痺の影響で立ち上がる事も出来ない状態のままだった。
 じゃあ、あの攻撃は一体誰が? この森には僕達以外、誰も居ないはずだ。その時、僕の前に何かが舞い降りた。
 それは白の先端に朱が混じる羽。僕はこの羽を知っている。
「クピ~!」
 そう鳴いて目の前に現れたのは桜色の小竜だった。桜色の鱗を輝かせて僕を助けてくれたのはピクだったんだ。そう言えばシルクちゃんの肩に居なかったな。忘れてたよ。


「ありがとうピク」
「クピピー」


 僕のお礼の言葉に喜ぶように声を上げて周りを旋回する。するとその旋回の軌跡が光を放ち出した。なんだか柔らかく暖かな光が僕に染み込んでいく。
 確かめて見ると僕のHPが少量だけど回復してる。ゼロ寸前の赤だったのがギリギリ黄色位まで。なんとピクは体力回復まで出来るのか。
 ここではピクに助けられてばかりだ。愛らしいピクを見てると元気も戻ってくる感じがするし、これで僕はもう一度、今度こそ立ち上がれる。


 その時、重い物を押し込む様な振動が周囲に伝わり草木を揺らした。そしてどこからか吹いてきた風に爆煙も流される。
 風が流れて来た方には、紛れも無い怒りを放った麒麟の姿があった。長い布がクジャクの様に広がり、青白く周囲に放電してる。
 だけど僕は臆さない。腕一本でも戦い抜いて見せよう。大丈夫、僕には心強い味方が隣にいる。
 だから勇気はここにある。

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