命改変プログラム

ファーストなサイコロ

輝きの国『アルテミナス』

 
 光の柱が収束していく。僕達はシルクちゃんの転移魔法でエルフの国『アルテミナス』へ降り立った。今まで行っていた所はやっぱり人の国の方なんだ……そう思えるほどアルテミナスは景観が違った。


「エルフの国アルテミナスの首都アルテミナスは一番エルフの色が出てる街だからな。他はそうでも無
いんだぞ。別段、今までの町や村と変わりはしない。
 ただここは首都だからな」


 そう言ってアギトは自分の故郷を懐かしむ様に息を吸い、周りを見渡していた。
 今までの石造りの西洋風とは全く違う。これはもしかして大理石という奴だろうか? 地面に満遍なく白い石があってそれに当たった光はそこかしこに点在してるクリスタルに当たり、七色の光を内包して輝いていた。
 建物はその光とは対照的に落ち着いた色の煉瓦作りが主流な様でどれも大きくて豪奢な物だ。どこもかしこもちゃんと整備された街作りが印象的に映るのにたった二箇所だけは異質な感じ。
 それは二つともエルフの国アルテミナスを象徴する建物らしい。


「目の前のあれがアルテミナス城で右向こうに見えるのが光明の塔と呼ばれる巨大クリスタルだよ。どうだい?」


 何故かアギトに変わり得意気に話すのはテッケンさん。この人は特に人の世話を焼くのが好きなようだ。いや、話すのが好きと言うこともありそうだけど。


「スッ――――――ゴく綺麗!」
「だな」


 僕とセツリは素直に今の気持ちを言った。言葉が突いて出るとはこう言うのを言うのかな。目の前のアルテミナス城は左右の造りが違う……いや、素材が違うのかな? 二対の異なる先端部分が空に伸びて色は白と黒って……なんでそんな風になってるのか謎だ。
 それから光明の塔と呼ばれる巨大なクリスタルには圧巻の一言だ。結構まだ遠いけどその輝きはこの距離でも感じれた。だけど光を受けて光ってる訳じゃなく内側から淡い光を発していて、鼓動の様に強くなったり弱くなったりしてる。光の凝縮された形って感じ。
 不思議な感覚だ。地続きの筈なのにこんなにも変わる物なんだ。それはきっとリアルでもそうなんだろうけど。勿論ここまで外観は変わらないだろうけど文化とか風習なんてのは世界で本当に千差万別なんだ。
 僕とセツリは初めてのエルフの国に興奮しっぱなしだ。サクヤとかも初めてだろうにクールなもんだ。AIだからそこら辺はまだ抜けてるのかも知れないな。
 それとも僕達がただガキなだけとか?


「俺だって最初は興奮したぞ。新しい街に入る時も前はいつだってお前達にみたいに……」


 僕達の行動を見て呟いていたアギトの声が不意に途切れた。どうしたんだ?


「別に……ただそういう感動っていつの間にか無くしていくんだなって思っただけだ」


 アギトの言葉に僕は首を傾げる。そういう物なのだろうか? でも、そういうものかも知れないな。それが当たり前って奴なんだろう。
 それが悲しい事なのか……嬉しいことなのかはわからないけどね。


「それでもさ、ここ最近は新鮮だったんだよな。お前がLROを初めて、セツリに会って、また俺の中の色褪せた部分に新鮮な染料が落ちてきたみたいなさ……」


 なんだ? キモいぞアギト。故郷に戻ってセンチメンタルにでもなってるのか?


「どうしたんだよアギト。お前なんかおかしいぞ」


 僕の言葉にアギトは喉を鳴らして笑った。


「ククク、まあやっちゃったな~て思ってるって事だよ」


 訳分からん。それはここに戻ってきた事を後悔してるって事か? よく考えたら僕が始めるまでのアギトのLROでの一年間を僕は知らない。
 ここにはいろんな人達がいるからいざこざだって当然起きるだろう。でも、もしそんな事があったとしても僕はその時ここにはいなかったし、いたとしても何かが出来たのだろうか? 
 アギトはここでの僕も良く知ってくれてるけど、僕はここでのアギトの事を実はまったく知らないんだと感じた。それはこいつが話さないってのもあるんだけど……調べようと思えばそれも出来るんだろう。
 どういう風にアギトがLROを生きてきたか興味はある。だけどそれは墓を暴くように知ることじゃ無いと思うんだ。


「ん?」


 なんだか周りがザワザワしてる。行き来してた人達が立ち止まり僕達の周りを囲んでいた。


「なんだこれ?」
「あっれでしょー。私も気になってたもん」


 テンション高い声で僕の声に応えたのはセラだ。そしてセラが指さした方を見るとそこにはシルクちゃんの姿がある。ああ、成る程ね。
 要するにみんなシルクちゃんの肩に乗っているピクに驚いたり興味を示したりしてる訳だ。ピクの珍しさは半端じゃないもんね。
 今現在、サポートモンスターとしての存在はピクが唯一何だから注目されないわけがない。みんなそれは分かってないだろうけどピクを肩に乗せたシルクちゃんを見る度に歩いてた人は立ち止まる。
 だからいつの間にか凄い人垣が出来ていた。シルクちゃんは多数のプレイヤーからの質問責めにあっている。


「そのドラゴンなんなんですか?」「一体、どうやって……」「ああ! もしかしてもうサポートモンスターって導入されてんの?」


 次から次へと降りかかる言葉の雨にシルクちゃんは首をいろんな方向に向けるしか出来ない。もともと大人しい子なんだ。勘弁してあげてほしい。同情しちゃう光景だね。


「静まりたまえ君達!」


 その時シルクちゃんに救世主が現れた。僅か五十センチ位の小さな勇者。それはテッケンさんだ。


「君達が興奮するのも分かるがレディに対していささか強引だよ。彼女は見た目通りのか弱い女の子なのだからね。見たまえ、テンパってしまってるじゃないか!」
「わわわわ、あああの、このこのこの子は……」


 まさしくテッケンさんの言うとおりシルクちゃんはテンパっていた。だから代わりに胸を張って彼は叫んだ。


「だから僕が彼女とその肩に止まるドラゴンに付いて説明しようじゃないか。さぁさぁさぁさぁ! 一見一聞の価値有りだよー」


 なんだかショウを始めたぞあの人。本当に喋るのが好きな人なんだな。あれだけの人数の前で、あれほど堂々と喋れると言うのも一種の才能だよね。
 既にシルクちゃんはマネキンと化している。いや、この場合はピクの止まり木なのかも。なんであれ可哀想だ。


「な~にやってんだかテツの奴」
「ほんとどこでも楽しそうにしてる人だよね。あれ? 所でセツリとサクヤは?」


 アギトの言葉に相槌を打っているとそんな事に気づいたよ。シルクちゃんの方を向いてた間にセツリ達が周りにいない。


「おい、あそこ」


 辺りを見回してるとアギトが二人を見つけた様だった。セツリとサクヤは地面に刺さったようなクリスタルに目を向けている。


「ほんっとーに落ち着きがないんだから。困っちゃうわ」


 セラのそんな言葉が聞こえてきた。人を田舎もんみたいに言うなよな。


「ここではエルフが一番なんだから、アンタ達は田舎者よ!」


 なんて奴だ。種族なんて有ってない様な物でいいと思うんだけど。これまではそうだったよ。セラみたいに種族で優劣なんて誰もつけて無かったのにさ。


「フン! 愛が足りないのよ! その分私は国と~そしてアギト様に全部ささ……きゃぁぁ、何言って
るんだろぅ」


 なんだかその場でクネクネし始めたセラ。何なのこの子。言動が突飛過ぎて時々あっけにとられるよ。


「大丈夫か? ココ」


 僕は指で頭をコツコツ叩きながら指摘してやった。するとその瞬間僕の頬を何かが掠めた。後ろの方でカンッて甲高い音が聞こえた。
 頬に水滴が流れる感覚がする。僕はそれを拭ってみた。それは赤い液体だった。


「あっれ~? なんで血なんか出ちゃうわけ? おっもしろ~い!」


 そんな事を楽しげに言うセラに何かがプツンと切れる音が僕の中で聞こえた。なんて危ないことしやがんだ!


「ふざけんなぁ! 死ぬかと思ったわ! 死ぬかと思った。いいやお前殺す気だろ!」
「今更、気づいちゃった訳?」


 ダメだ。僕が生き残る術はヤられる前にヤるしかない。でも今、僕は武器を持ち合わせてない。このままではこっちがヤられる事確定だ。


「血が出ちゃうなんて、もしかしてちゃんと死んでくれるの? 試しちゃおっか」


 くそ……万事休すなのか? 結局ゲームと思ってそんな事が本当に起こり得ると思ってないからやる気満々だなセラの奴。でもこっちはそんな脳天気になってられない。
 武器さえ有れば……ん、武器? 僕の頭にセラに対してだけの最強の武器が思い浮かんだ。ふふ、やれるもんならやってみやがれ!


「これでもその武器を投げられるって言うんならな!」
「なっ……この卑怯者!」


 僕がとった行動はとても簡単だ。アギトの後ろに隠れた。セラは気持ち悪い位にアギトを慕ってるからこれこそ奴にとっての最強の盾で矛だ! 


「スオウ、お前まで何やってんだよ。それにセラもさ、止めろそういうの」


 二人の間に挟まれたアギトが呆れ声でそんな事を言った。


「「だってこいつが!!」」


 僕達はそれぞれ自分の正当性を訴えるように互いを指さす。人に罪を擦り付けようだなんてみっともない奴だ。僕達の言い合いは巻き込まれたアギトはさぞ、迷惑そうだった。




「何をやってるんだ貴様等は!」


 その時、一際大きな声がその場に響いて空気が凍り付いた。
 テッケンさんの演説はいつの間にか情報収集に変わっていたらしく様々なプレイヤーから『幻獣』やら『神酒』やら耳慣れないワードが出ていた所を断絶された。
 そして現れたのは蒼い鎧に身を包んだ長身のエルフ。腰には立派な装飾が施された剣が輝いてた。
 僕達の周りは一気に閑散とした。取り巻きみたいな横に控えた二人が集まってた人達を半ば強制的にバラしたみたいだな。で……誰?


「まったく、誇り高い我らエルフが余所者如きに何をやってるんだか。なあ、そう思うだろアギト」


 いきなり知ってる名前を言ったアイツに僕はびっくりした。なんだ二人は知り合いか? 


「ガイエン様、この通りアギト様をお連れいたしました」


 さっきまで僕と言い合いしてた奴とは思えない程の切り替えの早さでセラが報告した。ガイエンが目の前のエルフの名前か。


「セラ良くやった。約束の物は後日でいいか?」
「いえいえ、今この場でないと困りますなぁ」
「ふふ、貴様も悪よな」
「いえいえ、ガイエン様程では……」
「「ふはははははは」」


 なんだあの二人は? おい! そこで裏取引が行われてるぞ。だって国民的時代劇で良く見るよあのシーン。まあワザとだろうけど何かを受け渡ししたのはマジっぽかった。一体何をセラは受け取ったんだ? 「ピ……ピンナップ。はわぁぁ」とか言ってる。
 誰の? 誰のピンナップなんだ? もしかしてアギトのじゃないよな? 


「ガイエン……」


 その時、横のアギトが苦虫でも潰した様な声でそう呟いた。


「久しいなアギト」


 二人の間になんだか奇妙な空気が流れてる感じがする。すると、横の取り巻きが何かを耳打ちしてガイエンなる人物は頷いている。


「そうだな、懐かしい友との再会に立ち話もなんだ。皆も待ってるし、では行くかアギト」


 そう言って振り返り歩き出すガイエン。でもアギトは歩かない。拳を握りしめて何かに耐えてるみたいな……。


「どうした? ついて来いアギト」


 付いてきてないアギトに気付いたガイエンは振り返りそう言う。なんだろう、別に威圧的な訳じゃないけど……その口調には迷いがない。
 それが当然みたいな。すると横のアギトが突然声を荒げた。


「俺は元々お前の下に付いてない! その言い方止めろ!」
「「なっ! 貴様」」


 横の取り巻き(きっと護衛)がそのアギトの言葉でいきりたち武器に手を伸ばす。だけどそれをガイエンが手で制した。


「やめろお前達。……ふ、そうだな。悪い、ついつい前のままで接してしまった。じゃあ、そうだな付いて来てくれるか? そうそう、周りのお仲間の人達と共にな」


 なんだろう……普通に見てるだけなら別にそんな悪い人には決して見えない。だけどこれだけアギトが警戒してるのを感じると、僕の中でもそれが生まれる。
 僕達はそれぞれ信頼しあってるから、そういうのは共通だよ。
 てか、ガイエンとか言う奴。今初めて僕達に気付いた様に言いやがった感じだな。見えてないのか? 弱小種族は?


「ほらほら、アギト様いきましょー。皆さんお待ちかねですよ」


 アギトの手を取りセラが引っ張る。そしてようやくアギトも一歩を踏み出した。僕達もそれに続く。緊急対策会議はアルテミナス城の中で行われる様だ。




 豪華な装飾品と調度品が惜しげも無く飾られた城の中を進み僕達は一つの扉の前に付いた。扉も一つ取ってにしても、もの凄いこだわりで作ってある事がわかる代物だ。


「皆、喜ぶ。お前が戻ってきてくれた事にな。目に浮かぶ様だ」


 扉の前に立ちそんな事を言うガイエンにアギトは睨みを効かせている。


「そんなことはいいからさっさと開けろよ」


 アギトの暴言にイチイチ二人の取り巻きが反応する様は面白いけど、やっぱりアギトはさっきからおかしいな。


「たく、そんなに睨むなよ」


 そう言ってガイエンは取り巻きが開けた扉の奥に進み行く。それに続いて僕達も入ろうとした時、制された。


「ここから先はエルフの国のエルフの問題だ。あなた方は別の部屋でくつろいでいなさい」


 丁寧な言葉……なのに僕達に反論する余地はなかった。ガイエンはこっちを見ることもしなかった。この瞬間アイツは嫌な奴だと僕の中で認識された。


「おい! アイツ等は関係無いって事か? エルフとかなんとか言ってる場合か! これは一大事なんだぞ!」


 アギトの言葉にその場の椅子に腰掛けてる人々と、そしてようやくガイエンが振り返る。


「分かっている。だからこそまずは世界の中心の我らがその方針とやり方を明確に決めるんだ。それでこそ城下のさしては世界の不安は振り払われる」


 やっぱり、ガイエンもエルフこそが上に立つ種族と思っているらしい。そんなに誰かの上に立ちたい物なのか?


「お前は……何も変わってないな。あの時のままだ」


 アギトの言葉は相変わらず苦そうだ。一体何が二人の間で有ったのだろうか。その時反対側の扉が開かれて、沢山の甲冑が仰々しく現れた。
 その中には一際目を引く女性が居る。外見は僕達とそうかわらなそうで、だけど身につけているそれは高いと一目で分かる。
 それだけ彼女は輝いていた。装飾が……と言う意味だけど。パッと見た感じ彼女自身は暗そうに目を伏せていたしどこか喪失感を漂わせてたから完全に周りの宝石に負けてる感じ。
 でも美人じゃない訳じゃない。凄く綺麗だし、胸を張って自信をつければ宝石なんかに彼女は負けないだろう。


「アイリ……」


 不意にそんな言葉をアギトが口にした。その瞬間甲冑に取り囲まれた彼女は目を見開いた。そして僕達の……いやアギトを見た。
 アイリと呼ばれた彼女は両手で顔を覆い、直ぐに涙を流した。そして甲冑の群から飛び出し、ドレスをめくり上げアギトに向かって駆ける。
 だけどそれはガイエンに寄って阻まれた。何するんだコイツ。どうみてもさっきのシーンは感動の再会の場面。部外者が立ち入るなよな。


「姫、お立場をわきまえてください。ここには下賤の物が居るのですよ」


 そう言ってチラリと視線をこちらに向けるガイエン。ほっほ~下賤とは僕らの事か。てか、さっき『姫』と呼ばなかったかあの野郎。


「あの方は『アイリ・アルテミナス』特定の条件を満たしこの国の王侯貴族に直列した唯一のプレイヤーです」


 僕は開いた口が塞がらない状況に陥っていた。何、LROって王族に入れちゃうんだ。てか流石にこの場ではセラの奴ちゃんとメイド仕様になってて二度びっくりだよ。
 僕に対してあり得ない丁寧な答えをくれた。


「じゃあ、あの子はここでは本物のお姫様って事?」


 セツリの疑問府にセラは首を縦に振って肯定する。でも、それならあの二人の関係が今度は気になるな。アギトとアイリ……それにガイエンも絡んでそうだけど一体どういう痴情のもつれだ。


「どきなさいガイエン!」


 アイリの声がその場に響く。さっきまでの弱々しい印象を吹っ飛ばす様な力強さだ。だけど少女の言葉で目の前の奴は動くような奴じゃないみたい。姫なんだけどね。


「姫、アギトはもうここに戻ってきたのです。焦る必要は有りません。この後にでも……」


 後に何をさせる気だ。その時、ぽつりとアイリの口から言葉がコボレた。


「そう言って……また」


 また……なんだろうか。僕には察しようもないけどセラなら何か知ってるのだろうか?


「我が国の問題ですよ。他民に教える事じゃありません」


 そう言われた。きっぱりした奴だ。もしかしたらこれはこれでメイドとして優秀なのかも。


「アギト……」


 その時、アイリの拙い声が聞こえて前を見た。彼女は何かを期待してる様にアギトを見てる。この時アギトはどんな顔をしてたのだろうか?
 僕はアギトの後ろにいたからそれを知ることは出来なかった。だけど二人がまた次第に離れて行くのは分かった。なんだかアギトは彼女に触れないように必死にしてる感じだ。
 それはおかしな事だ。コイツは困った奴をほっとけない質で、一人で居る奴に初対面でも臆することなく話しかける奴だ。それも泣いた女の子なんて男が守るべき最優先事項だとか言いそうなのに……どうしたんだよ。
 ついにはアギトは顔を逸らした。そして彼女の瞳は再び影を帯びた。落とされる腕……それを取ったのはガイエンだった。


「では、席に着きましょう姫。エスコートいたしますよ」


 アイリはゆっくりとアギトから離れていく。今度は本当の距離だ。そしてアイリは一番前の一段高い席に付きその傍らにガイエンが立った。


「では、タゼホの件の緊急対策会議を始めよう。そこの部外者は早々に立ち去りたまえ」


 部外者部外者ウルサい奴だ。お前の顔なんか見たくないから行くさ。けど、その前に――


「おいアギト。僕は別にお前に何も言えないけど……さっきのはお前らしくないぞ。無理には聞かないけど、話したくなったら言えよな。親友だろ」


 僕はアギトの背中をど突いてそう言った。照れ隠しもあるけどね。するとアギトは少しだけ晴れやかに「ああ」と言った。そして僕達はこの場を後にす――


「あの! 貴方達は……アギトのお仲間ですか?」


 ――突如掛けられた声に振り返るとお姫様が頑張って立ち上がっていた。何かを……アギトとの何かを必死に繋ぎとめておきたいのだろう。
 僕はその質問を肯定した。すると何か考えて言葉を出す。


「風の噂で、アギトは今アンフィリティクエストの攻略組だと聞きました。それでは貴方達の中にリアルへ返すべき人が居るのですか?」


 その言葉にセツリは名乗り出た。周りはザワメいて、そんなのデタラメだ、みたいな言葉が飛び交う。だけど決意を決めた顔をしたアイリは全員に言い放つ。


「私、アイリ・アルテミナスの名において申しあげます。我らエルフはアンフィリティクエストの
攻略組にこの事態の解決の為の助力を求めます!」
 彼女の視線と僕はぶつかった。僕はその願いに気付いたよ。だから大きくこう言った。


「その要請、乗ったぁ!」


 そうして僕らは様々な思惑が飛び交う国という枠組みに飛び込んだ。それは自分の目的の為でもあるけど、親友の為だ。僕は知っている。アイリの指に輝くその指輪をさ。

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