命改変プログラム

ファーストなサイコロ

男のロマン

 
 宿屋『ブリュクの宿』はセンラルトの町の西出入り口付近にあるモダンでシックな落ち着いた雰囲気の宿だ。かれこれ部屋を借りたのが二日前位だったかな?
 サクヤとの一件があってその後にこの宿を借りてそして僕はリンクを利用してセツリの世界へ行った。セツリをあの世界から連れ出して、次にLROに入ったのが翌朝だったからあれ? 一日前位か? まあどっちでもいいか。
 僕達はこの宿の憩いの場のテーブル一つを囲んでいた。なんだか異様に疲れたから一人を除いて僕らは椅子に深く腰掛けて真っ白になってる。


「あ、あ、ああのね、ごめんなさい! そんなつもり……全然無かったんだよ。だけどね……綺麗だったから……その……つい手にとって……本当にごめんなさい!」


 泣き出しそうな顔で必死に頭を下げるのはシルクちゃんである。あのイベントは町にいる全プレイヤーが対象だったけど参加はあくまで自由だった。
 だけど対象であるんだからたった一瞬であろうともイベント参加者、コアクリスタルを獲得する権利がある。ってなわけで僕達の努力は全てシルクちゃんの手の中に収まったんだ。
 小さくなっているシルクちゃんはなんだか可哀想。別にシルクちゃんが悪い訳じゃないのに……てか二時間も待たせたこっちが悪いよ。怒っていいのに、自分を責めるなんて良い子だね。
 大丈夫だと、君は悪くないと言ってあげよう。


「サクヤ……こんな事をなんて言うんだっけ?」


 ん? 窓際で頬杖ついて遠くの空を見てる姿が絵画と思えるほどに様になってるセツリの呟きが聞こえた。何が言いたいんだセツリは。
 するとセツリの後ろに控えるサクヤがクーを肩に置いたまま答える。


「棚からぼた餅ですか?」
「そうそれよ!」
「ごめんなさ~い」


 それか! 言いたかった事。止めろおまえ等。これ以上追い込むなよな。たく、そんなに欲しかったのかあのアイテム? でももうどうしようも無いことなんだ。
 物にも寄るけど貴重なイベントアイテムはトレードや売買が出来ない物もあると聞いた。それが今回のアイテムには噂通りなら当てはまるだろう。


「シルクちゃん、セツリの言うことなんか気にしなくていいよ。別に僕達はシルクちゃんを責めたりしないし。てか出来ないよ。二時間も待たせてごめん」


 やっとで言えた謝罪の言葉だ。アギトとテッケンさんも顔を上げてシルクちゃんに向けてゴメンのポーズ。


「ホント待たせて悪かった。それはもうシルクのもんだよ」
「まあ、離れてた僕が悪い。ここは無念だが譲ろう」


 アギトもテッケンさんもこれでさっぱりしただろう。頭を下げた僕達に対しシルクちゃんはまだ申し訳なさそうだ。そして僕は気づく。視線がチラチラとセツリに向いている。
 気を使う性格らしいシルクちゃんはセツリの機嫌を気に掛けてるんだろう。


「おい、セツリ。もういいだろ? シルクちゃんが可哀想じゃないか。別に何も悪くなんかないのにさ。わかってるだろ?」


 僕はセツリにそう言った。するとセツリは僕の方を向いて言い放つ。


「わかってる! だけど何も分かってないスオウが言わないでよ」


 眉をつり上げたセツリの顔が見える。どういう事だよ一体? そう言えばまだ僕達は仲直りしてないんだっけ? それで怒ってるのかな。


「あのさセツリ」
「何よ?」


 う~ん、なんて言えばいいかな。元々セツリを追いかけてここから出たのに途中からイベントが入ったせいでおかしくなったんだ。
 でもまあ、とりあえずは先に謝る事が大事だね。


「今朝の事なんだけどさ。ゴメン、前の日にメールもしなくてさ。聞いたよアギトから色々と」
「――!!」


 するとセツリは椅子を揺らして身を引いてアギトに視線を向ける。アギトはとにかく素知らぬ顔だ。顔を赤く染めたセツリは椅子から立ち上がり部屋へ行こうとする。だけどその時控えていたサクヤが声を出す。


「それでいいんですかセツリ? 言いたい事があった筈でしょう。逃げ出しても何も変わらない事を知ってるし痛感したんじゃないのですか」


 するとセツリの足が階段に差し掛かった辺りで止まる。そしてぎこちない足取りで戻ってきて僕の前で止まった。肩は微かに震えていて、下だけを見つめる様に頭を伏せている。


「何聞いたの?」


 下に発射された言葉が地面に当たって伝わってきた。実際そんな過程は無いだろうけど、何となくそんな感じがした。弱々しい声が必死に耳まで上がってきたよってさ。


「僕の怒られる要素の数々とか……後はリアルの事を喋ったって」
「うん……」


 なんだろう、確かここら辺でアギトは重要な事を言ってた気がすけど……なんだっけ?


「いっとくけどね。私そんなに怒ってないよ。起きた後、ずっと待ってたのに入ってくれなかったことも残念だけど、それはしょうがないって思えるよ。
 でもね……確かめたい事が合ったんだ。だから……それで……ね。するとモヤモヤ~って……」


 なんだか途中から曖昧すぎてよくわからなかった。もしかしたらセツリも良くわかってないのかな? 
「だから……だから、欲しかったんだよあれが。あのアイテムが……そしたら確かめる事が出来る。私がスオウの……と……とく……べしゅ……って」


 ん? とくべしゅ? ああ、そっか。思い出したよ。アギトに言われたこと。そうだ、これをいってやれって言われてた。
 それを確かめる為にあのアイテムが欲しかったって事なのか。でもなら、アイテムが無くてももう大丈夫だから。


「当たり前じゃん。そんなのアイテムなんかいらないよ。ちゃんと言える、自分の口からさ。セツリは僕にとって……特別だ」


 言った。言ったな僕。爽やかに決めたけど内心結構赤くなってるから。するとセツリはパっと顔を上げた。フワフワの栗色の髪が広がって魅せる。


「私……特別?」
「ああ、そうじゃなかったら命なんて掛けられないよ。セツリと出会った事やそれから起きたこと全部普通じゃない特別だったよ」


 セツリは僕の肩に額を置いて小さく「怒ってゴメンね」と呟いた。僕はやっぱり「こっちこそゴメン」と言うしかない。
 なんだかおかしな態勢だ。幾ら知り合いしか今はいないからって恥ずかしい状態だよ。セツリの髪が僕の首を柔らかく包んでいる様な感じにゾワゾワする。手持ちぶさたな手は自然とセツリの頭に置いた。
 周りに目をやるとアギトがヤレヤレみたいにやってて、テッケンさんは親指を立てている。シルクちゃんは赤らめた頬に両手を当てて僕らを見てた。
 そして何故か背後から殺気が迫る感覚。これはひたすらに無視した。だって怖いもん。でもこれでセツリは僕を許してくれたみたいだし良かった良かったよ。




「ごめんねシルク。でも私、もうそれに未練無いからあげるわ」


 もの凄い手のひら返し。あのあとセツリはさっぱりした顔でそう言った。まあ良かったんだけどね。機嫌も直ったみたいだし。
 これで正式にあのアイテムはシルクちゃんの物だよ。セツリから何故か貰った事になったシルクちゃんだけど


「はい、ありがとうございます」


と笑顔で返す事が出来る事に感心した。本当に良く出来た子だ。実は二十歳超えてたりするのかな? LROの外見は同じ位なんだけど、そこは謎だ。
 なんだか自分の中で女性に年齢を聞くのは失礼な事とインプットされてるから聞けないし。基本、マナーとしてあんまりここLROにリアルは持ち込まない。仮想は仮想として楽しくあればいいって事なんだ。
 不意にリアルでの宿題なんて思い出すだけで嫌気が刺すよ。


「所でさ、結局イベントアイテムって何だったの?」


 僕の一言で全員がシルクちゃんに視線を向ける。実はずっと気になっていたんだ。本当に心覗くアイテムか? それとも未来を見せたりなんかしちゃう奴? 


「そ、それじゃあ早速コアクリスタル変換してみますね」


 シルクちゃんはウインドウからコアクリスタル取り出してテーブルの中心に置いた。僕達は椅子から立ち上がりその周りへ。イベントアイテムはコアクリスタルを獲得者が変換する事でその姿を現すんだって。
 それが出来るのは勝者だけ……なんだか憧れる瞬間だ。
 シルクちゃんがコアクリスタルに触れると小さなウインドウが出てきた。


【変換と叫びお好きな決めポーズでアイテムをお受け取りください】


 ……おかしいだろおい。こんなお茶目なゲームだったかLROってさ。


「ふふふ、時々ありますよ。変なクエストとか、遊び心満点ですね」


 シルクちゃんは馴れてるのか余裕だ。もしかして決めポーズまであるのか? ないよね?


「ありますよ、普通です」
「普通なの!?」


 LROの衝撃事実が発覚だ。なんで決めポーズなんて持ってるの? 戦闘の後とかやってなかったじゃん。


「戦闘の後は疲れてるからやりません」


 意味ないじゃん! 普通使い所はそこじゃないの? 僕は肩の上げ下げが大変だよ。けれどそこで別の声が入ってきた。


「いやいやスオウ君、一番の使い所はクエスト達成した直後だよ。二番目は宝箱開けた時」


 ああ、成る程ねって思っちゃう自分がいたよ! もしかしてあるの? 貴方も持っちゃってるんですかテッケンさん!


「当然だよ。紳士の嗜みとしてね」


 決めポーズに一体どんな紳士的な意味が込められてるんだ!? 小さな体を椅子の上で目一杯反らすテッケンさんは誇らしげだ。


「淑女もですよ」
「なら紳士・淑女の嗜みに」


 ああ、もう訳が分からない。決めポーズ談義は理解出来そうもないので早々に切り上げて変換に移って貰おう。そう思ったとき、やっかいな奴にその熱が移っていた。


「はいはいはい! 決めポーズ見てみたい! 私にも出来ますか!?」


 それは爪先立ちまでして腕を高く上げたセツリだった。僕は思わず頭を押さえた。そう言えば、こんなのセツリは好きそうだ。
 なんたってリンクした世界では愛と勇気の魔法少女に変身した位だからね。
 するとセツリの参戦でアイツも加わりやがった。


「セツリ、私ので良かったら決めポーズ見せる事が出来ますよ」


 なんで元NPCだった奴が決めポーズなんて持ってるんだサクヤ! そこは絶対におかしいだろ。何、顔を赤らめて主張してんだ。


「フン! 決めポーズ一つ持ってない雑魚は引っ込んでないさい。私がセツリと話してるの」


 歪んだ顔に鋭い眼光……それが僕に突き刺さった。超怖いよあの人。それに何、あの勝ち誇った笑い声。僕はいつかサクヤに刺される気がするよ。


「では行きます」


 そんな声と共に肩からクーが飛び出した。クーの羽からはアラレの様な星の粒が輝いて出てる。そしてクーがサクヤの周りを回るのに合わせて腕を動かしターンを決める。合わせてサクヤの掌の上を滑る様に飛ぶクーも息はピッタリ。最後にタ・トンとたたらを踏んで、腕を回り込ませて正面でクーと向かい合い両手で優しくクーを包み込む。
 そして唇とくちばしがチョンっと触れてカメラ目線でフィニッシュだった。妙に高い完成具合だ。それにあのクーの羽はエフェクトか? 決めポーズ用? なんだか思わず見取れてしまったじゃないか! サクヤの癖に……僕を刺す女なのに……決まってないけど。


「スゴい! スゴいよサクヤ! 本当に可愛かった!」


 興奮したセツリがサクヤに抱きついた。するとサクヤの顔は溶けそうな程にデレデレしてる。こいついつかセツリも襲いそうで心配だ。
 周りのシルクちゃんとテッケンさんは拍手を送っている。まあ、確かに可愛かったけどああいうのを人前でやっちゃうわけなのか? 恐ろしいなLRO。


「今のは八十五点はやれるな」
「ん? なんか言ったかアギト?」


 隣で達観してたアギトの方から何か八十……とか聞こえた様な気がした。でもまさかこいつが決めポーズなんて考えられなないな。今もこの通りノってないし。


「べ……別に、何でもねーよ」


 ほらね。何でもないってさ。


「しかし呆れるよね。なんかLROは変だと思ってたけどまさか決めポーズなんてのが要求されるとは思わなかったよ。僕は流石に恥ずかしくて出来ないな」
「何が恥ずかしいんだよ……」


 ん? またどこかから呪いの呪詛めいた低く籠もった声が耳に届いたような? でもこんな昼下がりに霊もないか。てかここはLROだっつうの。霊なんてリアルよりも存在しえないさ。
 前を見ると今度はテッケンさんの決めポーズの披露の番の様だ。小さな体を勇ましく使い武器を手に取り、光のカーテンが出来る。そこからまずは武器が飛び出して来て、カーテンと共にテッケンさんが飛び上がった。
 空中で華麗に武器を手にとった後に煌めく武器の技でカーテンが一輪の花を催した。それは芸術。そしてその花びらの中、彼は尊大に地に降りて武器を掲げてフィニッシュだった。
 うん、なかなかカッコカワイイ系だった。まあモブリのビジュアルはズルいよね。あれならなんとか僕でも出来ると思うもん。
 それって結構あると思うんだ。みんなリアルとは違う自分だから出来るんだよ。そう考えたら僕には絶対に無理だ。だってリアルの姿そのままだもん。


「流石テツ……またレベルをあげたな」
「何か言ったアギト?」
「別に~なんでもね~し~」


 なんであのゲスみたいな口調なんだよ。ん~流石に三度も聞こえると不気味だな。僕って何かに取り付かれてるのかな? 考えたくないし隣のアギトに話しでも振っとこう。


「テッケンさんも良くやるよね。でもさ、ああ出来るのはモブリのビジュアルの恩恵でもあると思うんだよ。だって僕たちがやったら引きそうだろ?」
「……うるせえカス……引っこ抜くぞ……」


 んん? 僕は周囲を見回すけどやっぱり僕たち以外居ない。なんだ? さっきより怨念というか憎悪というか殺意みたいなのを感じた気がする。
 一体何を引っこ抜くんだ? 魂とか? 超怖い。なんだか僕のみじかにそいつは来てる気がするんだ。


「なあ、アギト。この宿、実は霊が出る噂とかないか? さっきから物騒な声が聞こえるんだよ」
「そんな訳あるわけないだろ。何言ってんだ? ここはLROだぞ。そんなのリアル程も存在できねーよ」


 やっぱりか……て、その後半の台詞さっき言ったよ。たく、レパートリー増やせよな。だけどこうなるのとあの声は何なんだろう……空耳で片づけるかな無理矢理にでも。


「物騒な声って何が聞こえるんだよ?」
「う~ん確か……八十個のパンをテツに詰めてスカッと引っこ抜くぞって言ってたな」


 うん、確かそんな感じだった。すると横のアギトがだんだんプルプル震えている。なんだ? 取り付かれたか?
 だけど次の瞬間、襟首捕まれて持ち上げられた。


「誰もんな事言ってねぇぇぇぇぇ!」
「なに……すんだ……アギト」


 やっぱり取り付かれたか? 正気に戻るんだアギト! お前は霊に負けるほど弱くはない。


「スオウ……決めポーズはな……決めポーズはな……」
「アギト?」


 そうか決めポーズの恥ずかしさに耐えきれなくて無念な思いをしたプレイヤー達の残留思念なんだな。なんて可哀想な……だけど僕に任せておけ。あんなおかしな物はリアルに戻って佐々木さん達に抗議して消して貰うから。
 だから君たちももう消えていいんだよ。安心して逝きなさい。
 その時、遠くで四人の話し声が聞こえた。こんな状況になっているのに誰も気付かないなんて凄い熱狂ぶりだな。どうやらセツリの決めポーズを談義してるみたいだ。
 そんな会話がちらほら聞こえる。


「だからやっぱり女の子はキュートが最強だよ。セツリちゃんは外見が凄く可愛らしいから派手なエフェクト使ってもきっと映えるよ」
「そうでしょうか? 私はシンプルイズベストだと思います。これ以上セツリに何がいりますか? 過度な装飾、派手な演出、全て埋もれるだけですよ。
 甘い声で囁いてください『愛してると』それだけで、ウヘヘ……」
「ふふ、サクヤさん願望が出すぎです。そうですね、派手過ぎるのも良くないけど何もしないのもどうかと思いますよ。そこで私は中間をとってみようと思います。
 このペンダントを使うのはどうでしょう? セツリさんは武器が装備出来ないからこれをファーストアタックに使うんです」
「「おお~」」


 そんな感じの会話が耳に入る。これだけでどれほど盛り上がってるか伝わるだろう。シルクちゃんは得意そうなのが解るよ。サクヤは壊れてるけど……何あれ? 流行ってるのか決めポーズ。
 するとアギトの方からも声が聞こえてきた。


「シルク……なかなかのハイセンスだ。だけど俺なら……」


 そんなアギトの声に僕は悲しくなるよ。そんな事、言いたくも無いだろうに……残留思念が口を勝手に突いて出てくるんだな。


「アギト! 正気に戻れ! お前はそんな決めポーズなんかに揺らぐ奴じゃないだろ!」
「なんか……だと……決めポーズはなぁぁぁ――」


 何か不味い事を言ったか。残留思念に取り付かれたアギトが興奮を募らせて遂に爆発しそうだ! 苦しい……。四人で決めポーズ談義してる奴ら……気付よ。


「だからこんなのはどうだろうか。『愛と勇気を力に変えて』を入れたいのなら……」
「私の愛は全てセツリに向いています!」
「めっです。サクヤさん崩壊してますよ。どこのネジを無くしたんです? あ、ネジと言えば良い使い方が思いつきました。このペンダントの……」


 おかしい……僕たちは見えてないみたいだ。


「みんな凄い……どんどん可愛くなってる! 私も頑張ります! 後はフィニッシュ部分だね」
「う~ん、そこが問題だね」
「セツリに問題なんて無いわよ!」
「サクヤさん、そろそろ戻って来ないと永眠させますよ。
 ここまでが素晴らしい出来だからフィニッシュがしっくり来ないんですよね。台詞に合わせるのも難しいですし」


 お、とうとう煮詰まった様だ。これはチャンス! 今なら流石にみんな気付くはずだ。


「お~――」
「スオウ聞け! 決めポーズってのはなぁぁぁ――」


 体がブンブン揺らされる。お前のその台詞すでに三回目だよ。そして不穏なワードが耳に入った。それは『神』。


「ここはもう『神』に頼むか」
「『神』!? まさかそんな……でも……そうなのですか?」
「戻ってきてくれて嬉しいよサクヤさん。うん、実はそうなんです。私たちにはここまでが限界……でも『神』ならきっとサクヤさんがトリップしちゃうほどに仕上げてくれる筈です。セツリちゃんの未知の領域が開かれます」
「……だ……誰……何なの、その……『神』って人は……」


 彼らの緊張がこっちにまで伝わる様だ。揺らされながらでも思う。誰だよ『神』って……。


「スオウォォ! 決めポーズはなぁぁぁ――」


 サクヤより先にアギトがトリップしてるよ。誰かこいつを止めてくれ。殴って良いから。


「ふふ、『神』の正体はね……お~いアッギト~君の力が必要だぁぁ!」
「「え!?」」


 僕とセツリの声が重なった。今なんて言ったテッケンさん。目の前のコイツが決めポーズ界の『神』? 残留思念じゃなくて?


「決めポーズはなぁぁ男のロ・マ・ンなんだよぉぉぉ!」
「うるせぇぇ!!」


 これが僕が本気の本気で親友を殴った瞬間だ。アギトは後頭部を打って気絶した。


「「「かぁみぃぃぃぃ!!」」」


 信者の悲痛な叫びがブリュクの宿に空しく響いていた。後で分かる事だけど『神』の自慢はとある王室でとある方に決めポーズを披露した事だったとさ。

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