命改変プログラム

ファーストなサイコロ

行動と目的の法則



 僕とアギトは小さな公園の左右の出入り口で向かい合っていた。あの後、アギトからの返信で僕はここに来たんだ。すると丁度アギトもここに到着する所だったというわけ。
 僕が怒りをぶつけようと一歩踏み出して言葉を出そうとしたとき、だけども見事に出鼻を挫かれた。


「ようスオウ。よくやったじゃん。でもあのメールは友達でも結構酷いぞ」


 笑顔混じりの顔でそんなことを言うもんだから僕の飛びかけた勢いがヘロヘロってな感じになったじゃないか!


「酷いのはお前だろアギト! セツリに何吹き込みやがった! おかげでバカバカ言われたじゃねーか!」


 そんな僕の言葉を聞いてアギトは自分の頭をポリポリ掻いている。こいつのこの態度……知った事じゃ無いって事か? だけど次に発せられた言葉は僕に取って予想外の物だった。


「うう~ん、スオウお前さ……俺がお前の悪口でもセツリに吹き込んだとでも思ってるのか?」
「当然だろ。他にあんな態度取られる心当たりなんかないよ」


 セツリは世間を知らなくて常識に疎そうだからきっとアギトの嘘八百をそのまま信じたに違いない。こいつの口から出るのは七割方嘘なのに、そんなの真面目に聞いたらいけにないんだ!


「言っとくけど俺は別にお前の悪口なんか言ってないぞ。よく考えて見ろ。怒られる原因はお前にだってあるだろ」


 何言ってるんだこいつ。自分の事を棚に上げて僕の揚げ足取りか! その手には乗らないぞ。僕はここLROで成長したんだ。


「そんな口車に乗るわけ無いだろアギト。責任転嫁なんて見苦しいぞ。おとなしく吐いちまえよ」


 思わず口調が刑事風に。これは吐いちゃうだろ。だけどなんだかアギトは嘆息してる。観念では無く呆れたような感じの奴だ。


「お前は本当に……思い出せよな。お前が中に居た俺達に入れなくなったってメールした時刻をな。かなり遅かったぞ。俺達がセツリが目覚めたってメールしてから数時間経ってた」
「うっ!」


 まさかそれで? いや、それは気付かなかったのは悪かったけど、色々あったんだ。


「目覚めた時最初にセツリは『スオウはどこ』って言ったんだぞ。そしてお前がなかなかメール返さないからずっと入ってきてくれるって信じて待ってたんだよ。そしてようやく届いたメールはそれを裏切る内容だったし……これでも怒られる事に心当たり無いかスオウ?」


 なんてこった。言い返せない。それじゃあまるで全面的に僕のせいじゃないか。全ては僕の甲斐性無しが原因なのか……気配りが足りなかったって事だ。
 やっぱり僕はバカだ。日鞠にも言われたけど続いてセツリにまで同じ事を言われるなんてホント真正のバカだよ僕は。ここは素直に謝るしかない。


「心当たり有りまくったよ。ごめんアギト」


 意気消沈な僕。さっきのセツリの顔が頭から離れない。僕を突き放す様なあの目は痛すぎる。


「まあ俺に当たった事は気にするな。折角リンクして絆を深めたのにアレだったから傷ついたんだろ。俺は気にしてないからさ」


 太陽の様に笑うアギトが眩しい。なんだこいつ神様か? こんな聖人君子みたいな懐の大きい奴だったとは脱帽だ。僕はお前の様な親友を持てて幸せです。


「取り合えず、セツリを探そう。前みたいにヤバいプレイヤーに捕まったらやっかいだ」
「わかった」


 僕たちは再び町中に走り出そうとする。だけどそこで僕は思いだした。あのメールの内容……アギトからの。確か「すまない」って有ったはずだ。
 何故そんな言葉を付けたんだ? 今のアギトの話通りでセツリがあんなに怒ってるとしたら、あの僕への謝罪はいらない筈だ。おかしい……アギトの奴、何か隠してるんじゃないのか?


「おいアギト」


 僕は公園を出ようとしてたアギトを呼び止めた。だってわだかまりが出てきたんだ。モヤモヤしたままはイヤだし、やっぱりアギトを聖人君子なんて思いたくない。
 アギトは面倒そうにこちらを見ている。僕は詰め寄りながら聞いた。


「お前、なんで昨日のメールにすまないって書いたんだ?おかしいだろ。何隠してる?」


 僕の言葉を聞いた瞬間、アギトの顔があからさまに「やっべー」みたいな顔になった。LROの感情表現は大げさで敏感だったのが命取りだ。僕はここぞとばかりに更に詰め寄った。


「アギト……一体何に対しての謝罪だったか聞かせて貰おうか」


 すると遂に観念したように


「分かったよ。言う言う。言うからあんまり近づくな」


 と言った。やっぱりアギトは聖人君子じゃなかったか。親友の僕の目は誤魔化せないぜ。こいつはそんな奴じゃない!


「少しは親友を信じろよ!」
「良いからさっさと白状しろ。何吹き込んだんだ」


 アギトの奴、何言ってるんだか……僕は親友を信じてたからこそこの矛盾に気付いたんだ。
 公園ではNPCの子供達が決まった遊びをしている。この子達は基本全部の行動を前もって決められているから同じ事を永遠に繰り返すだけなんだ。
 普通のRPGの街の人が同じ言葉しか喋らないのと同じだよ。だけどここはLROだからぱっと見じゃそんな感じは全然しない。普通に普通の子供達が遊んでる様にしか見えない。
 それは頭ではプログラムだと分かっていても実際に見てみるとそう割り切れる物じゃ無いんだ。
 子供達の無邪気な声に混じってアギトはため息を付いた。今度は諦めな感じの奴だ。


「言っとくけどな、別にお前の悪口を言った訳じゃないぞ。ただお前が昨日は入れないってメールを入れた後、セツリが言ったんだよ」
「なんて?」


 どんな事を聞いたのか興味がある。それであんな不機嫌になってるとしたら例えば……あれ? 思いつかないぞ。きっと僕の事を聞いたと思うんだけど、別にセツリの気を損なう情報がある気がしない。
 十六年間彼女も居なくて、両親には忘れられてる僕の事を聞いても同情こそすれ怒るなんて気が知れない。そしてやっぱり続いてアギトの口から出てきた言葉は予想通りだった。


「お前の事、教えてくれってさ」
「それで何言ったんだよ。僕の人生でセツリを不機嫌にする要素なんて無いはずだぞ」


 全く持って涙がちょちょぎれる位だよ。


「俺だってそう思ってたさ。ただ単純にお前だけがセツリの事を知ってて自分が何も知らないのがイヤなだけと思ったんだけど……」


 なんだか言い淀むアギト。デカい図体のくせして何縮んでるんだ? 


「なんだよ?」


 僕はアギトの言葉を促す。


「お前の十六年を語る上で外せない奴が居るだろ?」


 んん? 僕のこれまでの人生で外せない奴……親か?


「違う。今じゃ有る意味親より近いところに居るだろうが。身近な異性が」


 身近な異性? それって日鞠の事か?


「そうだよ。セツリは特にそこに食いついていた」


 なんてこった。一体あの脳天気な変態女のどこに引かれたんだ? いや、でも日鞠は学校じゃ人気者だったな……それに中学時代は下級生に絶大な人気を誇っていた。
 それを考えれば、同じ女のセツリが日鞠に興味を抱いたのも頷ける。女の感でそこら辺を見抜いたのかも知れない。


「日鞠って人気だからな。あんな奴でも以外と」
「はあ? 何言ってんだスオウ? セツリはお前の身近に居る異性として日鞠を気にしてるんだよ」


 逆に言えば僕の身近には日鞠しかいないよ! 別に他に欲しいとも思わなかったけど……


「どうしてそんなこと……」


 するとアギトの三度目のため息。今度は呆れた様な感じ。


「じゃあ、お前にとって日鞠ってどういう存在だ?」


 なんだいきなりその質問。僕はアギトに言われて、腕組みしつつ考える。う~ん。


「幼なじみ……てだけじゃしっくり来ないし……かと言って家族な訳じゃ無いよな。ああもう、一言で表せるか! アイツは特別なんだよ!」


 うん? なんだか胸の辺りがムズムズする。変な事を言ったせいで顔も心なしか赤いような。てか特別って何だよ自分。それは変な意味に取られるだろ。
 アギトはヤレヤレみたいな感じで肩を竦めている。


「それだよ。特別な関係って所を俺の話から感じたんだろセツリは。アイツもお前の特別になりたいんじゃないか?」


 特別……僕の? でも日鞠の場所は日鞠だけの場所なんだよな。それに特別って意味ならセツリはもう十分僕にとって特別だ。
 セツリに出会ってここまでの出来事や経験全部が特別だった。絶対に二度と出来ないような事の連続……奇跡の様な出会いや巡り合わせ。だからもう十分特別なんだ。


「セツリも僕にとっては特別だ」
「それならセツリにそう言ってやれよ」


 ニヤニヤと笑うアギトはなんかムカつくな。だけどそう言わなきゃセツリの機嫌は直らないんだろう。なら腹を決めて……少し恥ずかしいけど仕方ない。これからの為だ。


「わかった。それじゃあまずはセツリを見つけよう」
「そうだな」


 僕達は互いの拳を当てて和解した。男は楽でいいよね。話がダメなら次は拳にいけるんだし。今日はそこまで行かなかったけど。それに比べて女の子は大変だ。
 自分の思いを言葉にして吐き出すのって恥ずかしいし勇気も居る。それにちょっと間違うと言葉はナイフより鋭くなるんだ。その点、拳はナイフになることは無いからおもいっきりいける。
 拳は拳以上でも以下でもないからね。それに言葉の様な選択や駆け引きはいらない。だた思いをそこに込めるだけでいい。
 だけどセツリは女の子だ。思いを込めた拳を突き刺す訳には行かない。言葉を紡ぐ作業が必要だ。ちゃんと解ってくれるだろうか。ちゃんと怒りを収めてくれるだろうか。不安で一杯だ。
 その時センラルトの街にラッパの様な音が響き渡った。そして続いてパンパンパンと小さな花火が空に弾いた。


「え? え? 何だ一体?」


 僕は突然の事に混乱する。


「ああ、そう言えば今日だっけ」


 落ち着いてそんな事を呟くアギト。一人で悟ってないで教えろよ。


「お前もたまには公式ページ覗けよな。さっきのはイベント開始の合図だよ。
「イベント?」
「ああ、確かここは定期的に水――」


 アギトの声が途中で聞こえなくなった。それに視界も一瞬奪われた。え? 一体何が怒ったんだ? 


「きゃきゃきゃきゃ」


 そんな声が聞こえて振り返るとそこにはさっきまで公園の遊具で遊んでいたNPCの子供達が居た。なんだろう、NPCからプレイヤーに近づくなんて希なことだ。もしかしてこれもアンフェリティクエストでおかしくなった障害か?
 僕はそう思って身構える。だけど子供達は笑顔を絶やさない。そしておもむろに後ろ手に隠していたバケツを振りかぶる。大量の水が僕の全身に襲いかかった。


「ぶべらぁぁぁ!」


 僕はまたも視界を奪われた。なるほどさっきもこの水を食らったのか。このクソガキ共なにするんだ! この水なんだか色が付いてて全身がオレンジ色になったじゃないか!
 報復してやろうと思って腕まくりすると子供達は逃げて行き今度はまた違う人に水を掛けて掛けられてた。周りをみるとなんだかとっても騒がしい。至る所から色とりどりの水がまき散らされているのが見える。


「これがイベント?」
「そう言うこった」


 声がした方を振り向くと全身に青い水を掛けられたアギトがいた。


「うわ……なんなんだよこれ」


 さっき聞き掛けた事をもう一度聞く。


「この街限定のイベント『水掛け祭り』さ。なんでもこの色の付いた水は悪い物を追い払うとかで、町中の人達が有り難がって他人に掛けるんだよ」


 へぇー、一体なんの意味が有るイベントだ? 水を掛けられた理由は解ったけどそれだけじゃプレイヤーはいい迷惑だ。イベントなら何か目的とかがあってイベント限定のアイテムとか有るんじゃ無いのだろうか?
 そうしないと誰も参加しないだろう。いつのまに人が随分増えたと思ったらそれはきっとこのイベント目当てだろう。ならそれなりのアイテムが貰える筈だ。


「まあその通りだな。ただ水を掛け合う祭りになんか誰も参加するわけない。お前の察した通り、このイベントには限定アイテムがある」
「どんなアイテムなんだよ? これだけ人が集まってるなら貴重な物なんだろ?」


 だけどアギトは首を振る。


「さあね、発表されてなかったんだよ。だけど噂は数有る。一番有力なのはこの街の伝承をなぞらえたアイテムだな」


 なんだコイツ。勿体ぶってないで教えろよ。


「俺達はセンラルトの街の上に有る湖に言ったろ。あの湖は巫女が祈ると精霊の力で未来が見えるって言い伝えられてるんだよ」
「て事は、未来が見えるアイテムって事か?」


 確かにあの湖は光ったし、スゴく綺麗で空を映してたりしたけど未来って……流石にアイテムに出来ないよな? アギトも僕の質問を否定するように首を振る。


「まさか、流石にそんな物無理だろ? いくら仮想のゲーム世界だからって限度はある。未来なんて誰にも分かる物じゃない」


 まさにその通りだ。幾ら仮想でもそんな物が出来たらノーベル賞取れるんじゃないかな。でも未来じゃなければ何だろう? 過去とか? それならアイテムに出来そうだ。 実用性は低そうだけど。それならフォトグラファーでいいしね。僕の視線にアギトは指を一本立ててなんだか気取ってる。だけど全身青いブルーマンだから全然決まってない。
 僕はそんな事を微塵も気にしてないアギトの言葉を待つ。さっさと言えよな。笑いを堪えてるからそろそろ腹筋が痛いぞ。


「未来は無理、過去に魅力はない。だから噂のアイテムは心らしい。心を読むアイテムだ」
「心? それこそ可能か?」


 大いに疑問だ。未来よりは確かに可能性の範囲では近づいたかも知れない。だけどそれだけで心を読むことを可能に出来る訳じゃない。確かに相手の心が読めれば、対人戦では有利だろうし、他人の心を知れるってなんだかワクワクするから魅力的では有るけどね。


「システム的には可能だって言われてる。だって俺達は脳全部をこっちに持ってきてる様なもんだろ。心で生まれた信号を捉えてゲーム機がそのアイテム所有者にネットワークを介して伝える事が出来る……可能性はある」


 マジでそうなのか? いや、それなりに信用出来ないとここまで人は集まらないか。この人の数がそのアイテムの可能性を高めているって事かもしれない。


「ふーん、そう言われると期待するな。所で、何すればそのアイテムが手にはいるんだ?」
「ああ、それは簡単だ。この水かけが無駄にならないように考えられてるからな」


 アギトの言葉に感心する。この色とりどりの水掛けにも意味はあったのか。


「まず取りあえずイベント中は街の出入りは出来ない。イベントは街の中のみで建物にも入れない。そしてこの街のNPCの一体がコアクリスタルを所有してるらしい」


 コアクリスタルはアイテム引換券みたいな物でイベント終了後にそれがアイテムに変わるんだ。町中のみは当然だろう。そして建物にも入れないのは隠れたり出来ない様に? それでもまだまだ広いけど。


「そのNPCはどうやって見つけるんだよ?」


 その言葉を待ってましたと、アギトは自分の青まみれの防具を指す。でもなんだかさっきよりはまともになっている。水が落ちてきたのかな?


「そこでこの水掛けなんだよ。この色とりどりの水を掛けるとそのコアクリスタルが光るらしい。だけどこの水は時間が経つと落ちていくし、その場所にちゃんと掛かってないと光は消える。だからこうやって全身に掛けるんだよ。それに色に寄って水の落ち方が違うとか」


 なるほど。水掛け祭りと伝承を掛けた上手いイベントだ。でも今の自分にはイベントに参加してる余裕はない。一刻も早くセツリを見つけないと。


「意外とセツリも報酬狙って参加してるんじゃないか?」


 隣でぼそっとアギトがそんなことを言った。


「なんでだよ。アイツがこんな事に興味ある……かも知れないけど」


 よく考えたらセツリはお祭りとか好きそうだ。一番にはしゃいでそう。寂しがり屋だからな。でもアイテムはどうだろう。


「セツリは欲しいと思うけどな。その存在を知ればさ。きっと喉から手が出るほど」


 アギトが僕を見ながらそんなことを言う。どうしてそんな事が分かるんだよ。


「スオウだって欲しいんじゃないか? 相手の心が分かれば謝るとき便利だろ?」
「う……それは」


 そうかも知れない。なんだか心がちょっと動いたぞ。更にアギトは僕を押す。


「だから同じ様な事をセツリだって思ってるって事だよ。セツリはお前の弁解を嘘か本当か知りたいと思うはずだろ。ならこのアイテムは必須だ」


 むむむむ……成る程。このイベントに参加することで同じ目的を持って鉢合う可能性があるって事か。確かにこの広い街を闇雲に走り回るよりは良いかも知れない。
 弾ける水の音と飛び交う笑い声の中、僕は決めた。


「よし、やろうアギト! 一石二鳥作戦だ」
「セツリもアイテムもゲットするってか? 欲張りだなお前」
「はあぁ! ななな何言ってんだアギト」


 なんだかいやらしく聞こえるぞ。そんなんじゃない。僕はただセツリとは良好な関係をだな……


「さっさと行くぞアギト! モタモタするなよな! 他の奴に捕られたらどうすんだ!」


 僕は動揺を隠すように走り出す。


「たく、言っとくけどもしもアイテムを一回手にしても気を抜くなよ。これは時間性のイベントだ。タイムアップになるまで終わらない。NPCからアイテムを奪ったプレイヤーはPK対象だ。だからアイテム回収は俺がやる」


 後ろからのアギトの声。確かに僕がアイテムを持って他のプレイヤーにタコ殴りにされるのはイヤだな。万が一HPが尽きたらどうなるか分からないし。
 ここは素直にアギトの言葉に従うか。


「分かったよ。最後の詰めはアギトに任せるよ」
「それでいい。もしもプレイヤーがお前を倒して死んだら、その人に悪いからな」
「僕の心配してたんだじゃないのか!」


 なんて酷い親友だ。そりゃただのゲームで人殺しにされたら相手も迷惑だろうけど。そんな事微塵も思ってない訳だしね他の人は。
 僕とアギトはそれぞれ指定のポイントでバケツをゲットして飛び交う祭りの喧噪に加わった。そしてまずは


「お前じゃアギトォォォォ!」
「食らえ、スオウォォォォ!」


 それぞれの色の水が僕達を濡らす音が響いた。男ってこういうもんだよね。




 町外れの河川敷で私はこの祭りの洗礼を浴びた。体一杯に次々と掛けられる大量の水はイジメとしか思えない。やっとで終わったと思ったら自慢の白のドレス風のワンピースが紫色になっていた。
 するとなんだか悲しくなってきて私はその場に女の子座りして大泣きし始めた。


「うえぇぇぇん、ごめんなさ……い……ヒック……ごめんね……スオウ……ああぁ~ん」


 天罰だと思った。あんな意地悪な事言ったせいだ。私を助けてくれた人なのに……自分だけが特別じゃなかったと知って焼き餅焼いた罰。どうやって謝ろう。許してくれるかな? 嫌われたかも知れない。
 そう思うと泣かずには入られない。涙が止まらない。


「セツリ!」


 聞きなれた声が私を包んでくれた。それは久しぶりにあったサクヤだ。私は自分の罪をサクヤに話した。イジメの事も。だけどサクヤが言うにこれはイジメじゃないみたい。イベント? 心が分かるアイテム? 
 それは私の気持ちを強く惹いた。だから涙を拭いて立ち上がり私は言い放つ。


「サクヤ、私そのアイテム欲しい!」

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