命改変プログラム

ファーストなサイコロ

日差しの暖かな日

 
 明朝。僕はいつになくスッキリと目覚めることが出来た。これはきっとセツリが無事にLROで目覚めたからだろう。僕の心の穴は埋まって、何か大きな事を一つやり遂げた感覚だったんだ。
 今まではいつも空振りな事が多かったからこの達成感はとても気持ちが良いものだった。僕に自信をくれたんだ。
 だから昨日はずっと日鞠の話しに耳を預ける余裕もあったし、いつも旨い晩ご飯を作ってくれる事を素直に感謝したりした。それに初めて長期休暇中の課題に手を着けたし、色々と良い気分な夜だった訳だ。
 だから今朝はとっても気持ち良い朝だった。澄んだ空気を感じて、爽やかな朝日を体に当てる。すると眠っていた僕の体の細胞が活性化していくかの様だ。
 僕はブルッと体を震わせた。ヒンヤリとした廊下に出て階段を下りると、包丁が小気味良い音をリズミカルに立てていた。


 僕は少し開いたドアの隙間からその音の正体を見る。鍋やフライパンを行き来し世話しなく動いてる人物は楽しそうに何かの歌を口ずさんでる。
 一体何想像しながら作ってるのか……でもそんなアイツをこうやって見るのはなんだか好きなんだ。僕の親は殆ど家に居ないから、いつの間にか僕の家のキッチンに立つのはアイツが当たり前になっていた。
 お袋の味はきっと僕にとってはアイツの味だよ。小皿に少しだけ味噌汁を取って味見している。味わって……そして満足したように頷いた。どうやら出来は上々の様だ。
 長い黒髪を今日はポニーテール風に後ろで纏めて、膝下位のパンツに赤いTシャツを着てエプロンは中学の時に家庭科の実習で僕が作った奴だ。
 そう言えば、僕達はそれぞれで作ったエプロンを交換したっけ。みんな自分の奴を作ってるのに女物を作るのはとっても恥ずかしかった記憶がある。
 それでも作ったのはやっぱり僕はアイツに感謝してたからだと思う。僕が作ったエプロンを嬉しそうに付けてあそこで回っていた日鞠の姿は今でも目を閉じれば頭に浮かぶ。
 僕は取り合えず顔でも洗おうと洗面所へ。そして今度こそキッチンへ入る。四人掛けのテーブルには既に僕と日鞠の分の朝食が並べてあって僕が入ってきた事に気付くといつもの挨拶が飛び出す。


「うーすスオウ、おっはー」
「お前、僕の爽やかな描写を返せ! なんで心の語りを読んでんだよ!」


 まったくいつも道理の日鞠だ。期待を裏切らない奴だな。


「えへへー、それにもしても珍しいね。スオウが一人で起きるなんて」


 日鞠はエプロンを外して畳みながらそんなことを言う。そこまで珍しい事かな? 僕はそこまでだらしない奴じゃないぞ。


「私の朝の楽しみの一つを奪わないでよね。設置し直す暇がないよ」


 何をだよ。カメラか? 前、取り外させたカメラを再設置し直す気だったのか?


「はぁ、お前って悉く爽やかな朝を壊すのな。もういいよ。取り合えずご飯食わせろ」


 僕は今は気分が良いからあえて突っ込まないでやろう。変態はいつか突然直ったりしないだろうからね。まあ、だからこそ飽きもせずに突っ込まなくちゃいけないのかもだけど……今日は変態で居ることを許してやろう。
 こんな良い朝にはあんまり大声を出したくない。


「む……スオウつまんないね。それに食わせろだなんて私にあ~んして欲しいのかな?」


 日鞠はそんな事良いながら向かいの席に着く。我慢だ我慢。今日はこんな気分がいいんだから。そうだ、食いつかずに話題を逸らすんだ。
 僕は「いただきます」を意に介さず先に言う。「あっ」と言って急いで僕に続いて両手を合わせる日鞠。ここら辺はマナーを守れるのになんで常識というマナーは守れないんだろう。まあ取り合えず話題逸らしだ。


「日鞠ってまだそのエプロン使ってたんだ。小さく無いわけ?」


 僕の言葉で日鞠はテーブルの端に畳んで置いたエプロンを見る。そして何かを思い出す様に目を閉じて言った。


「覚えてるスオウ? あれって初めてのスオウからも贈り物なんだよ」


 そうだったっけ? それまで何も贈らなかったか? 誕生日会とかやってたような気がするけど……。


「スオウは全部言葉だったよ。口約束を贈るの。本当に小さいときからジゴロだったんだから」
「ジゴロは言い過ぎだろ。別にそんな気があった訳じゃ無いんだし。なんて言ったっけ?」


 正直あんまり覚えてない。今までずっと同じ場所にいて初めてのプレゼントがエプロンなんてジゴロどころか甲斐性無しっぽいけど。
 それで日鞠は納得してくれてたのか。一体どんな恥ずかしい約束をしたんだろう。やっぱりここはベタに


「大きくなったら結婚しようとか?」
「ううん、お前は俺の物だからなって言ってたよ」


 手に持ったお椀を落としそうになる。なんて酷い奴だ。いいや酷いジゴロだ。自分が恥ずかしい。もしかして日鞠が道を踏み外した要因は僕にあるのでは? と一瞬でも思ってしまうじゃないか。


「お前、ねつ造してるんじゃないだろうな」
「そんな事しないよ。過去も今もその言葉通り私はスオウの物だよ」


 そんな事を言って笑う日鞠になんだか僕の鼓動が早くなる。なんでこいつはこんな……


「だからスオウも私の物だよ」
「は?」


 不意の言葉に思わず声が漏れた。そして日鞠は食事中なのに携帯をポチポチいじり出す。普段は絶対そんな事しないのによっぽど何か在るのだろう。
 そして僕の方にその画面が向けられた。


「ほら、こんな事をしたってそれは合意の元なんだよ」


 画面は日鞠のブログだ。そこには選び抜かれたであろう僕の寝顔の写真と、膝枕の写真がなんともかわいらしく載せてあった。


「バックアップがあったのかよ!」


 それは紛れもなく昨日消したはずの写真。コメントは「お父様、お母様。私たちのゴールインの日は日々近づいてます」だ。
 日鞠が元々ブログを始めたのは僕の様子を両親に知らせる為だったけどなんだか暴走しだしてるな。両親だけが見てるわけじゃないって事を知れよ。なんて事全世界にウェブ配信してるんだこいつ!


「スオウは甘いよね。最近のデジカメは取った写真を直ぐに本体と他にパソコンにも自動で送って保存するんだよ。リンクしてるの」
「ふざけんなぁー!」


 この瞬間僕の爽やかだった朝は崩壊した。僕は日鞠の手から携帯を取り返そうとした。けれどその手は空を切る。燦々としていた心には何か黒くドロドロした物が生まれた気がする。
 だけどこれがやっぱりいつもの僕達の日常だった。僕が怒って日鞠は笑う。それはいつも通り過ぎる位の光景で昨日の変化が嘘の様に感じれた。
 だけど僕達はやっぱりこのままじゃ居られない。ただ近くに居続けるだけの不自然な関係のままを止めようと決めたんだ。
 朝食の終わりと共に日鞠は手早く後片づけを済まして、持ってきていたバックから紙を取り出した。


「ほら、スオウの為に作ってきたんだ」
「うん? 掃除のやり方と予定表?」


 受け取った紙にはそんな事が書かれていて綺麗にカラーペンなんかで色分けされてるのを見ると日鞠も女の子何だなと改めて思う。


「二人のお家は二人で綺麗にしようね」
「なんだかその言い方いやだな」
「むー何でよスオウ!」


 頬を膨らませる日鞠。だけどここで僕は思う。いつもの日鞠なら予定表はともかく掃除のやり方なんて手取り足取り教えるよ~とか言いそうなのに何かあるのだろうか?


「取り合えず今日はその通りにお掃除してね」


 そう言って日鞠は自分のバックを肩に掛けて外に出る準備をしてる。それはやっぱり今日はもう出ていくと言う事か。


「そう言えば最近何やってんの?」


 リビングから出ていく所の日鞠に声をかける。居なくても別に良いけど、少しは気になるからね。すると振り返った日鞠はなんだかニヤニヤしてた。


「あれれ、心配? でもねスオウ、今は奥さんを家に閉じこめる風潮はないよ」


 うるせえよ。誰が奥さんだ。気にした自分が恥ずかしい。さっさと行けばいいんだ日鞠なんて!


「大丈夫、浮気なんてしてないから心配しないでいいよ」
「そんな心配誰がするか! だけどな、今度ここに来たときには既に僕の家事スキルが上がっていて日鞠の居場所は無いかも知れないけどな!」


 そんなわけ無いけど何か言い返さなくちゃいけないだろうさっきのは。日鞠は面白そうに笑って「いってきます」を残して家を後にした。
 本当に何やってんだろあいつ。今まではこれから掃除とかしてたし、何も無くても無駄にここに居座っていたのに……ってなんだかそんなことを考えてると僕が寂しがってるみたいだ。そんな訳無いのに。
 だけどなんだか静まった部屋がイヤでテレビを付けた。聞こえてくるのはアイドルアナウンサーの声だ。僕は取り合えず日鞠が作ってくれた予定表と掃除のやり方を参考に部屋の掃除を始めた。
 啖呵を切ったしやらない訳には行かない。約束だし。


 部屋は元々綺麗だったのかそんなに苦労する程じゃなかった。多分それは毎日日鞠が掃除をこまめにやってくれていたおかげだろう。
 日々の積み重ねって大事だね。僕だけじゃゴミ屋敷になりそうだ。流石にそこまで放置しないと思うけど……そこは自分を信じたい。
 掃除機を片づけてリビングに戻るとなんだか堅苦しいニュースの話が耳に入ってきた。経済がどうとか、昨今の教育がどうとか、政治家の汚職がどうとか……リアルでやることなんか今も昔も別に代わり映えなんてしない。
 子供の僕から見れば同じ事を繰り返してる様にしか思えないよ。代わり映えしないニュースの連続にチャンネルを変えようとした時、僕にとって聞き逃せない事をアナウンサーは言った。


「続いてのニュースです。今世間で話題のフルダイブ型仮想シュミレーションゲームですが、昨今その安全性が問題視されています。特にLROことライフリヴァルオンラインはユーザー数三百万人を突破し、その仮想空間は一つの世界を作りつつあるといえます。
 ですがそれにのめり込む人々も増えつつあり、政府は仮想空間での問題の対応を取る機関を近く組織するとの事です。これによって問題が認められたフルダイブ型のゲームはサービスの停止もあり得るとの事でこれからの影響が――――」


 なんだって? 今のニュースマジ? だって今のLROは問題だらけだ。特にゲームの製作会社がゲームを管理出来てないって大問題だろ。
 それにLROは既に一つの問題を抱えてる。制作者の一人が意識不明なんだから同じ事が起きないかそういう組織は調べに来るんじゃないのか? 
 最悪の結果のサービス停止……それは永遠にセツリを向こうから連れ戻せないって事だ。
 テレビの中の知的ぶる学者やコメンテイターや有名人はそれぞれ適当な事を言っている。「しょうがない」やら「仕方ない」やら「残念ですけど、危ないなら」やら、それだけで済む話しじゃない。それは僕にとってなんだろうけど……それでもあそこには助けを待ってる奴がいるんだ。
 その時、部屋に響きわたったチャイムの音に体が震えた。僕は重い足取りで玄関に行き扉を開ける。そこで顔を覗かせたのは佐々木さんだ。佐々木さんの腕には紙袋が下げられてる。
 そこにはきっと待ちにまった僕のゲーム機があるんだろう。


「や、待たせて悪かったねスオウ君」


 気さくに挨拶してくれた佐々木さんだけど目の下にはクマが出来ていた。やっぱり色々大変なんだろう。


「いえ、全然大丈夫ですけど……佐々木さん達こそ大丈夫ですか? クマが酷いですよ」
「ははは、スゴいデータ量でね。正直解析の目途が立たないよ。君と出会って驚くことの連続だ」


 それは誉め言葉なのか皮肉なのか……どちらに捉えればいいのか分からない。まあ、大変な話を楽しそうにしてるからいいのかな多分。


「それは一緒ですよ。僕だってLROに入って驚いてばっかりです」
「そうだね……でもきっと君の方がずっと大変だ。だからこそ大人な僕たちが根をあげる訳にはいかないよ」


 それは頼もしい言葉だ。信じれる大人の人がいるってのは心強いものだよね。子供としては。そして僕は紙袋を受け取った。


「そういえば……ニュースで言ってたことは……」


 紙袋の中のゲーム機を見つめて僕は呟いた。あれは本当に起こり得る事なのだろうか。


「そうか……もう耳に入っちゃってるよね。……でも大丈夫だよ。視察なんて乗り越えるよ。今LROを停止させる訳には行かないからね」


 そう言った佐々木さんだけど僕にはなんだか不安が見て取れる様な気がした。直感だけど。クマをつけた顔だったからかも知れない。もしかしたら本当に大丈夫なのかも。
 そこらへんは僕には分からないし、心配するだけ無駄なのかな? そんなことを気にするより、一刻も早くセツリをリアルに連れ戻す努力を僕はするしかない。


「分かりました。信じてます。僕も出来ることをやりに行きますよ」


 そう言って僕はゲーム機を掲げて見せる。


「ああ、頼んだよ」


 佐々木さんはそう言って僕の家を後にした。車で来てたのか轟いたエンジン音が次第に遠ざかって消えていく。僕は扉を閉め、部屋へ急いだ。
 電源を入れ、頭に装着。ベットに横たわりいよいよあの言葉を呟こうとした時、充電器にセットしていた携帯が甲高い音を鳴らした。
 無視しようとも思ったけどリアルの事はちゃんとしなさいと日鞠に言われてるから携帯を取って画面を確認する。どうやらメールを受信したようだ。差出人はアギト。
 僕のメール相手はアギトしかいないのかと思うほどこいつからしかメールが来ないな。少し悲しくなるよ。てか、アギトは昨日から入りっぱなしなのだろうか? 流石に親に怒られそうだけど……アイツの家はちゃんと家族勢揃いしてるからね。
 僕はメールの内容を確認する。昨日もそうだったけど、アギトのメールは異様に短い。昨日はそれでも伝わったけど今日のはなんだこれ? ちゃんと中身を書いてほしい。だって意味が分からない。
 アギトからのメールにはこう書かれていた。


【覚悟しといた方がいい。すまん】


 全く持って理解不能だ。僕は返信しようか迷ったけど止めてベットに再び寝転がる。だって別に直ぐに会えるんだし、別にいいだろうと思ったんだ。
 僕は目を閉じて言葉を紡ぐ。
「ダイブ・オン」


 つい二日前ぐらいぶりなのになんだか懐かしく感じるLROの中に僕は戻ってきた。街の名前は『センラルト』サクヤと出会ったあの街だ。
 僕が落ちたのはその街の一軒の宿屋の中だったから当然そこに僕は現れた。小さく簡素な部屋にはベットがあり小さな燭台があるだけだ。


「スオウ?」


 僕は声が聞こえた窓辺を見る。自分の鼓動が早くなるのが分かる。昨日アギトからの写真でそれは分かっていた事だけどやっぱり目の当たりにするまではどこか完全には安心しきって居なかったのかも知れない。


「セツリ」


 窓辺に立って陽光をその体に受ける姿は紛れもなくセツリだった。白いドレスが光を受けて浮かんだように見えて、栗色の髪は柔らかく垂れている。精気を取り戻した顔には星を散りばめた様な輝きを持つ大きな瞳が開かれていた。


「良かった……」


 僕はそう呟いてセツリの存在を確かめたくて手を伸ばした。そして肩に後少しで触れるという所で、セツリの肩は僕の手をかわした。
 ん? イヤだったのかな? 僕はもう一度チャレンジしてみる。だけど僕の手は何度も宙に落ちた。流石にちょっとへこむんだけど……


「何なんだよ一体! 逃げること無いだろ!」


 僕は思わず心の叫びを直に出す。すると今度はフンってな感じで顔を背けるセツリ。何? 顔も見たくないって訳か?


「どうしたんだよ。何怒ってるんだ? 言わなきゃわかんねーよ」


 流石にちょっとカチンと来るぞ。すると僕の声にセツリの方が早く頭に来たような台詞を吐いた。


「あぁ~もう! うるさいなぁ。ちょっとそこどいてよ!」


 そう言って僕を押し退けてセツリは扉を開けて出ていこうとする。なんだか僕は気圧されて怒りは消えていた。てか混乱していて怒りという感情に繋がらないんだ。
 本当になんでそんなにも怒ってるのかが分からない。するとセツリは出ていく前に立ち止まり。いきおいよく振り返り握った両手を下に振って罵声を飛ばす。


「スオウのバカ! 甲斐性無し! 君なんて君なんて君なんて君なんて、死んじゃえ!」


 バダン!! と宿屋が揺れたかと思うほどの大音量で扉を閉めたセツリ。そして駆け足で階段を下りる音が聞こえた。僕はただ呆然としていて動くことが出来ない。
 女の子のおかしな行動は日鞠の件でかなり免疫がついて来ていたと思っていたけど……お手上げだった。そして思い当ったのはアギトのあのメールだ。
 もしかしてアイツが謝っていたのはこうなる事を分かっていたからか? 覚悟もセツリのあんな行動を覚悟しておけと言うことか……すまんって何吹き込んだ? 
 今の情報じゃ何も決めつける事は出来ないけど、僕にはあんな態度取られる覚えはない。少なくともリンクしてた世界から分かれる時はもっと良い雰囲気だった筈だ。
 それがたった一日で何あの態度の豹変。これは直ぐにでもアギトを捕まえなくてはならない。一体何に怒ってるのか全然想像出来ないんだ。
 このままじゃクエストクリアに影響しちゃうよ。ギスギスしたままやっていきたくない。早急に関係の修復をしなくちゃ。
 僕は扉を開けて階下に降りた。するとそこにはシルクちゃんが慌てていた。


「あ、スオウ君。何したの? セツリちゃんが出ていったよ!」


 僕に気づいたシルクちゃんはまくし立てる様に状況の報告をしてくれた。また飛び出したのかセツリの奴。サクヤ達は後を追ったのだろうか? 全員が居なくなったら戻ってきた時困るからその役目がシルクちゃんなんだろう。


「アギトは? アイツはセツリを追いかけているんだよね?」
「うん、そうです。後はサクヤさん。テッケンさんはまだ入って居ないですから」


 なるほどね。そこまで聞ければ十分だ。だけど僕も外に出ようとしたらシルクちゃんが呼び止めた。


「何?」
「あの……彼女を無事に連れ戻せたことお疲れさまでした」


 ああ、そのことか。別にシルクちゃんが言わなくてもいいと思うけどなんだか素直にうれしい。やっとで連れ帰った奴にあんな態度取られたから余計に心に染みる。


「うん、ありがとうシルクちゃん。必ず見つけて来るよ」
「はい」


 彼女の弾けた笑顔が眩しかった。僕は赤くなる顔を見られたく無かったから急いで外に飛び出した。人が溢れる街の中、太陽が昇った青空の下を僕は走り出す。
 まずはアギトと合流して、その後にセツリを探そう。そう思って腕を振り、ウインドウを表す。そしてフレンドリストからアギトを選択。僕は路地に入ってメールを打つ。


『ちょっと面貸せやアギト!』


 このくらいの口調が今の自分にはふさわしかった。そしてメールを送信。洗いざらい吐かせてやる。僕は黒い決意を胸に抱いてアギトからの返信をまった。
 空はいつになく穏やかで、街の喧噪に呑まれる今はなんだか普通だと僕は感じていた。

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