命改変プログラム
掌に愛と勇気を
モンスターの侵攻を食い止める二対の剣の輝きを私は見た。その姿はいつか見た時よりも数段力強く、大きく見えた。そんな背中に心の何かが反応した気がする。
だけどそんな彼の姿を見た時、私は寂しくもあったんだ。彼は私が見ていないたった数日か数週間で最初見たときの頼りなさが消えていた。それはきっと成長と呼べる物なんだと思う。
彼は私の為にこんな大きな背中を用意してくれた。だけどそれに比べて私は何も変わらない。三年前のあの日から仮想に引きこもった私に成長なんて言葉は無くなった。
彼と私は違うんだ。この中で得て来た物の絶対的な質量というか質の違い。もしかしたら私も最初はそんな物を得ていたのかも知れないけど私が見つめたここと彼の見てきたここはきっと違うんだろうなと思った。
でも……それでも……そんな私でも、まだ彼に追いつくことが出来るのなら私はその場所に行きたいと思った。全ての私という存在を魔法のベールで変えて、小さな心を大きく変えて私は初めて前を向くことが出来る。
ほら……地面を蹴れば私の体は宙を駆けることだって出来るんだよ。
胸のリボンは愛の証。ステッキの光は勇気の大きさ。負けられないの。地上で戦う彼に追いつく為にも私はこんな所で負けられない。
初めて自分から近づきたいと思う存在の出現。それはきっとどんな女の子も体験する事で、それは自分を少しずつ変えてくれる事の始まり。
私は大きくした心のままにその行動を実現する。指を指した先のフードの人物に強い目を向けて言い放つ。
「私は絶対にお前を倒す!」
私のステッキと奴の鍵の様な杖がぶつかり合う。ギチギチと音を出して攻め気合う二つの武器。私は必死に力を込めているのにフードの人物は片手だけで杖を操り後ろに引く気配もない。
常に宙に漂っている杖は私を徐々に押し戻し始める。
「くっ……」
でもここで私は止めたりしない。
「通って!」
私は更に力を込める。少しずつ押し戻し始めた私にやっとでフードの人物は反応した。
「愛と勇気……それだけか?」
フードの人物は空いていた方の腕を一度杖に重ねて真横に動かす。すると一瞬杖がブレて動かした腕に付いていく杖がもう一本……
「え? −−きゃあ!」
分裂した杖が私に側面から攻撃をしてきた。私は一気に飛ばされて数メートル落ちてしまう。だけど靴に生えた羽が私を支えてくれる。
上を見ると二つの杖が伸ばした腕の先端で不規則に回っているフードの人物の姿がある。そして二つの杖を今度は片方に移動させて再び腕を振ると更に杖が増え、奴の体の周囲に四つの杖が展開した。
不吉な予感が私の頭をざわつかせた。そしてフードの人物が私に腕を向けると周りで回っていた鍵達は回転運動を止めて一斉に私に向かってきた。
四つの鍵の高速飛来だ。私は宙を蹴って逃げ出した。戦略的逃走だよ。決して怖くなったわけじゃない。だけど鍵達は速かった。後ろから次々に迫る鍵を私はステッキでどうにか受け流す事しかできない。
四つの鍵が波打つように私の周りから縦横無尽にその無機質な体を向けて襲い抱る。
辺りに響くヒュヒュッと言う音は鍵が空気を切る音かな。プリティックアロマ史上最大のピンチかも知れない。
「どうした? 見せないのか? 愛と勇気の力は」
そんな声が聞こえて私はステッキを前に出した。あんなに速く動く鍵を捉えて攻撃を当てるのは至難の業だから方針変更。肉を切らせて骨を絶つ戦法に切り替えだ。
だけどその時私に鍵の一つがぶつかった。回転を加えて私の体は月夜の空に転がる。そして続け様に迫る鍵達の姿を一瞬だけど捉えた私は痛みも傷もお構いなしにステッキに思いを込めた。
「お願い、守って!」
今は交わすことも出来ない状態。すると光の球体が私の体を包み込んだ。その瞬間目にも止まらぬ早さで鍵達がぶつかってきた。だけど表面で滑るようにしてその攻撃は私まで届かない。
だけど、鍵達の攻撃はそれで止まらない。旋回を繰り返し再び攻撃を繰り返す。その衝撃はステッキを支えている私の腕に伝わってきて徐々に痛みへと変わる。
「くぅ…このままじゃ」
「情けない。貴様は私に一撃すらも入れる事は出来ない。その程度の思いで外に出たい? 勘違いじゃないのか」
かなり離れているのにその言葉は掠れる事もなく私の耳に届く。違う! 勘違いなんかじゃない。私は本当に……
「それならどうしてお前は私に届かない? 貴様は信じてなんかいないんだ。彼の事も……」
「そんなこと−−きゃぁぁ!」
光の膜は破られ私は今度こそ地上に落ちていく。重力に逆らえず、地に足を付く度に座り込むのはもしかしたらどこでも変わらないのかも知れない。
リアルの私の足は役立たずで……一度も私を支えてくれた事なんかなかった。でもこの中なら私は立ち上がる事も歩く事も走る事も出来たんだ。でも……それは結局、夢なんだ。リアルでは何も変わらない私がいることを知っている。
私は迫る地面に腕を伸ばす。ここで私が死ぬことは幻? それとも……現実なのかな? それでしか私のこことリアルは繋がらないのかも知れない。
私は本当に上に……表層に戻りたい?
「アロマァァ!」
その瞬間、私は目を見開いた。伸ばした腕に繋がった手の温もりは先刻の疑問に答えをくれる。戻りたいよ……私はこの人と。
「スオウ! ごめんね……私……ごめんね」
私の言葉に彼は困惑の顔をする。そうだよね、分からなくていいよ。
「何言ってんだ? まだ行けるのかよアロマ」
私は彼の質問に元気よく答える。
「勿論だよ。全然へっちゃら。二人で……戻るんだからね」
私は再び前を見つめた。彼が居てくれると私は何度だって前を見れる気がする。遙か上空には四つの鍵を従えた奴の姿。
「それも幻だと何故に気付かん……」
奴の声はなんだか震えていた。だけど少し上に居る彼には聞こえていないみたい。下を見据えている。そこには大きく口を開けた悪魔の姿。
彼は私の腕を取るために空にジャンプしてくれたんだ。私と彼がリンクしてるみたいに奴とも私は繋がってる。
私は握り合った手を確認するように強く握る。
「アロマ?」
私のそんな行為に彼はこっちを見てくれた。今見えている彼の顔は本物だと聞いた事がある。黒い髪は所々癖っ毛がありその下に意志の強い光を宿す瞳。線は細くどこか年寄りも幼く見えてしまいそうな顔だ。
だけどやっぱり男の子な手は私の手を包んでくれている。感じる温もり……どんどん大きくなる感情。これは仮想じゃない……幻なんかじゃないんだ。
「スオウ、私もう一度行ってくる!」
再び私は奴の前に立つ。ステッキを奴に向けて言い放つ。
「私は行くよ。もう邪魔しないで!」
「それならその意志を貫いてみせることだ。お前が言う愛と勇気の力でな」
鍵が一斉に輝きだし大きな光が収束する。私はとっさに横に飛んでそれを交わした。空に一筋の光が放たれたんだ。私がさっきまでいた場所は光に包まれている。
私は無防備に立っている奴に迫る。だけど振り上げたステッキは再び鍵に阻まれた。だけど私は位置を素早く変え再三に渡ってステッキを振りかぶる。
だけど全ての攻撃が届く事はなかった。
フードの人物の腕がこちらに伸ばされる。その瞬間何かに弾かれるように私の体は後方に飛ばされた。だけどまだまだ、諦めない。私は飛ばされながらもステッキを奴に向けた。
「いっけぇぇぇ!」
光が奴に向かって飛んでいく。そして直撃。空に白煙があがった。やっとで一撃入れれた? 白煙が風に流されていくとそこには何事も無かったかの様に佇む奴の姿があった。
それはある意味予想通りともいえる。あれで倒れるのならこんなに苦戦なんてしてないんだ。私は気を引き締め直してステッキを何度も振った。
すると周りには何個もの魔法陣が展開する。そしてそれを続けながら奴を囲む様に一周した。こうなれば質より量で勝負。下手な鉄砲、数打ちゃ当たる作戦だ。
「無駄な事を」
それでも動じない奴を私は一斉射撃。夜空に太陽の代わりの様な光が満ちた。だけどその途中で走った紫の光に次々に魔法陣は破壊されて行く。そしてやっぱり変わらずに奴はそこにいた。
私はそして初めて恐怖した。今まで漠然としかその強さを感じてなかったけど目の前の強さが越えられないものと知ったとき……そこに恐怖が生まれた。
「お前は分かってない。量に意味があるのは当たったときに確実に倒せるから。お前の攻撃じゃ意味の無いこと」
そんな言葉聞きたくない。やっとで前を向いたのにそんな言葉いらない。
「なんで邪魔するのよ! 行かせてよ! 帰してよ!」
私は恐怖でただガムシャラに魔法を放つ。だけど幾ら当たっても効果はない。それに避けることもしなければ動じる事もない奴に私は気が動転しそうになる。
そして私の腕は奴に捕まれる。もう体を強ばらせて目を閉じるしか出来なかった。
「哀れで可哀想な造花の花であれば良かった物を。それならば散ることを知ることは無かったのに。今一度聞こう。お前は外を目指すのか?」
私は震える唇を動かす。激しく体を揺らして腕を解こうとしながら。
「行く……行くよ! 私はそう決めたんだから! だから邪魔しないで!」
私の声に反応して初めてフードの中の瞳が見える。それはなんだか同じような瞳。そういえばお兄ちゃんが言っていた。もう一人の私……もしかして貴方は私なの?
「散らせる花に何が必要だ? ここを望んだのはお前なのに……それを捨てる奴に用はない」
私の体にリアルな衝撃が入った。それはパンチだ。顔面に食い込んだ衝撃は初めての体験だった。目の前がぱちぱちする。
そしてこの一発は奴の憂さ晴らしだったのか次からは普通に魔法を入れてきた。放された体は一気に鍵の攻撃を受けて落ちていく。その上から更に大きな魔法攻撃。なんとか私は防御の魔法を発動したけどその上から押しつぶされる様な感覚。
なんとかして最後の力で私は勢いを弱めたけどグラウンドを何度も跳ねる。
そして地面に土埃を上げて止まる。掠れた瞳に映るのは空に浮かんだ大きな球体。紫の光を発したそれは奴が私をしとめる一撃。
「あの世こそ、本当にお前が求める場所だ。愛と勇気の終着点にこれ以上ふさわしい場所はないだろう。後悔を胸に恐怖を身に刻んでいけ」
大きな光が迫ってくる。私の体は動かない。ここまでなの? 私は結局、ここにも囚われただけだったのかな? 全部を捨ててここまで来てしまった私には結局戻る事なんか許されないの。
この状況……なんだか今朝見たアニメとデジャブだよ。あれってどうなったんだっけ? 強大な敵に勇敢に向かっていった女の子は私と同じように地に伏せていた。
ああ、そうだ。続きは来週だったんだよね。助かったのならいいな……そんな事を考えながら私はその光に飲まれていく。
「ふざけるな!」
大きな声。前を向くと私を守るように魔法を受け止めた彼の背中があった。
「こんな所で死なせるかぁぁ!!」
そして二対の剣が奴の魔法を切り裂いた。そして彼は私に近づいて手を差し伸べる。
「立ち上がれアロマ。今度は一緒に行ってやる!」
私の瞳からは大粒の涙がこぼれていく。そっかそうなんだ……私はもう一人じゃない。その手を掴んだとき、私のステッキはこれまでとは違う輝きを発していた。
どれだけの苦渋をお前に飲まされたか分からない。今ここには僕しかいないんだから絶対に負けられない。助かったのはLROでの強さを映してる訳じゃなかった事。そしてどうやらここは一撃必中のクリティカルシステムでバトルが決まることだ。つまりはどんな強大な敵も真に入れば一撃で倒すことが出来る。
目の前の悪魔は消えていく。ついさきほど渾身の一撃を胴体に決めてやったからだ。だけどその時、背中に光が当たった。上を見上げるとフードの人物が今まさに止めの一撃を放った所だった。
視線を動かしてアロマを探すとグラウンドの中央で倒れている。僕は息が整うのを待たずに走り出す。消えかけている悪魔の体を使い、一気に地面に降り立った。そしてアロマを目指す。
ここは願う分だけそれを力に変換できる。もっと速く、更に速くを僕は願う。そして届いた光に僕は剣を突き立てた。
自分が誰かを守れるなんて思うのはおこがましいのかも知れないけど、今だけは守れると信じないといけない。ここには僕しか彼女を守る人はいないんだから。
光の球体を切り裂いて、僕は彼女に手を差し出す。その手を握った彼女は泣いていた。どうしてこう僕は女の子を泣かせてしまうのだろう。
「光が……」
僕は彼女の手のステッキの光に気付いた。そしてアロマもその光を見つめた。そして泣きはらした顔に笑顔を浮かべて言う。
「なんだか元気が沸いてくるね。一人じゃないとこんなに強い光なんだ。愛と勇気の覚醒だよ!」
アロマは立ち上がり魔法を放つ。それは今までのどの魔法よりも輝いていた。四重の鍵の盾を突き破って魔法はフードの奴に突き刺さる。それはきっと初めての有効打。
そして吹き飛ばしたフードの中を僕たちは見た。それは黒いセツリ? 瞳だけは実態化してるけどそれ以外は前の黒いモンスターの様な感じだ。
奴はふらついて地面に降りてきた。見れば見るほど不気味な姿。何なんだ一体?
「何なのあなた?」
思いが重なったのかアロマが同じ事を言った。
「私は……お前の成れの果て。システムが作り出した仮想と一体化した姿だよ。これこそがお前の望みなんだ!」
なんだって? あれがセツリが望んだ姿? どう言うことだよ。成れの果て……あれがセツリの未来とでも言うのか?
「どういう事? そんな姿、私望んでない!」
「望むと望まないと仮想に居続ければいずれはこうなる。肉体が滅び魂だけとなれば魂はそのより所をシステムに変えてな。私はそのシュミレーターだよ」
信じられない話。目の前のこいつは何話してるんだ?
「何よそれ……じゃあなんで私の姿をしてるの!?」
「私は……いいやこのシステムはお前の願いから生まれたからだと言っておこう。リアルを投げ出したいのだろう? いやここをリアルにしたいのか。それを実現する為のシステムだよ。だからお前は幾ら逃げても我々を求め続ける」
「そんな事ない! −−そんなこと……ない」
人の願いから生まれたシステムなんてあり得るのか? 首を必死に振るアロマは混乱している。僕だってそうだ。ここは一体何なんだ? 僕達はなんだかとんでもない所に迷い込んだんじゃないのだろうか。
僕は迷いを振り切る為にも奴を切った。
「うるさい。これ以上アイツに変な事吹き込むなよな!」
だけど奴は笑っている。
「貴様もいずれ知ることだ。システムに呑まれている一人なのだから」
僕はその言葉に悪寒を感じた。システムに呑まれている? それは仮想に浸透しているって事か? そして奴は言い放つ。
「お前に私は救えない。いいや、お前だからこそ救えない」
僕は剣を振り上げた。だけど消えたはずの鍵にそれは阻まれる。だけど攻撃スピードは僕の方が圧倒的だった。けれど僕の剣は奴の影の様な体には一向に効果がない。
管理者が言っていたっけ奴を倒すのはセツリだと。てかあの管理者は何なんだ? こいつらの仲間じゃないのか。
「あれはその女の為の存在だった奴だ。小賢しい奴の防衛線。だけどそれも同化した」
あれはセツリの為? 奴とは一体……だけどそれを聞いたセツリのステッキが光った。
「よくも……お兄ちゃんを……許さない!」
「あれはお前の兄ではない。そんなこともわからなくなったか?」
確かにそれはこいつの言うとおりだ。だけど今のセツリはそれを分かってない訳じゃない。
「違うもん! あの人も確かな私のお兄ちゃんだった! そんなことも分からない貴方達を私は求めたりしない!」
「そういうことだ!」
僕達は互いを見て奴に迫る。今の僕達には分からない事が多すぎる。だけどやるべき事ははっきりしていた。それは目の前の敵を倒してここから出ることだ!
「私を倒せると? 貴様の愛と勇気では幾らやっても無駄だったろう」
奴の黒い体が広がってマントみたいになった。そこからは無数の鍵が出てくる。そしてそれぞれが魔法を放つ。
「スオウ!」
その掛け声を聞いて僕はとっさにアロマに近づいた。そして全てを彼女の魔法が防ぐ。それには少なからず奴も動揺してるみたいだ。
「貴方は分かってない。愛と勇気に限界なんて無いって事を! 今の私は一人じゃない事を知ったの! 大切な人が居る……それだけで無限大に愛と勇気は溢れて来るんだから!」
恥ずかしい事を恥ずかしがらずにアロマは言う。僕がなんだか恥ずかしい。だけど言葉通りに彼女の光はどんどん強くなっている感じだ。
「アロマ……」
「言ったでしょ。私がここでは守ってあげるって。だけどやっぱりどっちかが後ろに居るのってなんだか変な感じだね。二人で倒そう。そしたら私……もっともっと頑張れる」
僕は頷いた。するとアロマの光が僕にも移ってきた。包んだ光は傷を癒し、体を羽の様に軽くする。これはきっと僕の命綱だな。これが無くちゃ攻撃は意味をなさいのだろうから。
地面を蹴り僕は一瞬で奴の懐に飛び剣を振る。そして今度こそ確かな手応えがあった。包んだ光が奴の影を引きちぎる。
「なっ!」
驚いた奴は横に飛んだ。だけどそこにアロマがステッキを振りかぶる。それは直撃して奴は後方に飛ぶ。ここに来て初めて感じた手応えに二人でいけると思い怒濤のラッシュかける。
僕達は二人で戦うのは初めてなのに何故か息がぴったり合った。それは二人がリンク状態だからだろうか。たまらず奴は空中に逃げた。そこで最後で最大の一撃を打つつもりだ。
「なかなか興味深い現象だ。相乗効果かなんであれ、おもしろい……面白いぞ! でもこれが貴様達に防げるか?」
奴は夜の闇までも飲み込み空から黒が剥がれ落ちた。おかしな空間での最後の衝突だった。僕とアロマは向かって来る闇の奔流に突っ込み飲み込まれる。
だけどその中には光の筋が小さく光出す。それは徐々に昇り奴の手前まで道を造った。そしてその中から飛び出すのは当然アロマだ。光は僕が造った道だった。乱舞の時の風と同じように扱えたんだ。
斬り裂かれた闇は光の中に消えていく。
「これが俺達だ! 防ぐなんてしない、道は自分で斬り裂いてでも造って見せる! アロマァァ!」
飛び出したアロマは奴の上。
「受け取りなさい! これが愛と勇気の力なんだから!」
神々しいまでの光が奴を包み込んで消し去った。
「無意味だよ……君に未来なんて」
それが奴が言った最後の言葉。そして町は消え去っていく。光の粒が弾ける様に町は消滅して行きその波に僕達も呑まれる。
「愛と勇気の力の勝利だね」
光の中で彼女は言った。僕は少し笑ってしまう。
「分かってる? 私の愛と勇気はス……」
赤い顔で何か言い掛けたセツリは言い終わる前に消えてしまった。きっと戻ったんだろう。後で聞けばいい。僕の体も光に消えていっている。その時だった。
「気を付けろ、奴は消えて無い。妹を……セツリを頼む」
振り返ったけど誰もいない。僕の心に不安を残し、夢の様な世界は消え去った。
だけどそんな彼の姿を見た時、私は寂しくもあったんだ。彼は私が見ていないたった数日か数週間で最初見たときの頼りなさが消えていた。それはきっと成長と呼べる物なんだと思う。
彼は私の為にこんな大きな背中を用意してくれた。だけどそれに比べて私は何も変わらない。三年前のあの日から仮想に引きこもった私に成長なんて言葉は無くなった。
彼と私は違うんだ。この中で得て来た物の絶対的な質量というか質の違い。もしかしたら私も最初はそんな物を得ていたのかも知れないけど私が見つめたここと彼の見てきたここはきっと違うんだろうなと思った。
でも……それでも……そんな私でも、まだ彼に追いつくことが出来るのなら私はその場所に行きたいと思った。全ての私という存在を魔法のベールで変えて、小さな心を大きく変えて私は初めて前を向くことが出来る。
ほら……地面を蹴れば私の体は宙を駆けることだって出来るんだよ。
胸のリボンは愛の証。ステッキの光は勇気の大きさ。負けられないの。地上で戦う彼に追いつく為にも私はこんな所で負けられない。
初めて自分から近づきたいと思う存在の出現。それはきっとどんな女の子も体験する事で、それは自分を少しずつ変えてくれる事の始まり。
私は大きくした心のままにその行動を実現する。指を指した先のフードの人物に強い目を向けて言い放つ。
「私は絶対にお前を倒す!」
私のステッキと奴の鍵の様な杖がぶつかり合う。ギチギチと音を出して攻め気合う二つの武器。私は必死に力を込めているのにフードの人物は片手だけで杖を操り後ろに引く気配もない。
常に宙に漂っている杖は私を徐々に押し戻し始める。
「くっ……」
でもここで私は止めたりしない。
「通って!」
私は更に力を込める。少しずつ押し戻し始めた私にやっとでフードの人物は反応した。
「愛と勇気……それだけか?」
フードの人物は空いていた方の腕を一度杖に重ねて真横に動かす。すると一瞬杖がブレて動かした腕に付いていく杖がもう一本……
「え? −−きゃあ!」
分裂した杖が私に側面から攻撃をしてきた。私は一気に飛ばされて数メートル落ちてしまう。だけど靴に生えた羽が私を支えてくれる。
上を見ると二つの杖が伸ばした腕の先端で不規則に回っているフードの人物の姿がある。そして二つの杖を今度は片方に移動させて再び腕を振ると更に杖が増え、奴の体の周囲に四つの杖が展開した。
不吉な予感が私の頭をざわつかせた。そしてフードの人物が私に腕を向けると周りで回っていた鍵達は回転運動を止めて一斉に私に向かってきた。
四つの鍵の高速飛来だ。私は宙を蹴って逃げ出した。戦略的逃走だよ。決して怖くなったわけじゃない。だけど鍵達は速かった。後ろから次々に迫る鍵を私はステッキでどうにか受け流す事しかできない。
四つの鍵が波打つように私の周りから縦横無尽にその無機質な体を向けて襲い抱る。
辺りに響くヒュヒュッと言う音は鍵が空気を切る音かな。プリティックアロマ史上最大のピンチかも知れない。
「どうした? 見せないのか? 愛と勇気の力は」
そんな声が聞こえて私はステッキを前に出した。あんなに速く動く鍵を捉えて攻撃を当てるのは至難の業だから方針変更。肉を切らせて骨を絶つ戦法に切り替えだ。
だけどその時私に鍵の一つがぶつかった。回転を加えて私の体は月夜の空に転がる。そして続け様に迫る鍵達の姿を一瞬だけど捉えた私は痛みも傷もお構いなしにステッキに思いを込めた。
「お願い、守って!」
今は交わすことも出来ない状態。すると光の球体が私の体を包み込んだ。その瞬間目にも止まらぬ早さで鍵達がぶつかってきた。だけど表面で滑るようにしてその攻撃は私まで届かない。
だけど、鍵達の攻撃はそれで止まらない。旋回を繰り返し再び攻撃を繰り返す。その衝撃はステッキを支えている私の腕に伝わってきて徐々に痛みへと変わる。
「くぅ…このままじゃ」
「情けない。貴様は私に一撃すらも入れる事は出来ない。その程度の思いで外に出たい? 勘違いじゃないのか」
かなり離れているのにその言葉は掠れる事もなく私の耳に届く。違う! 勘違いなんかじゃない。私は本当に……
「それならどうしてお前は私に届かない? 貴様は信じてなんかいないんだ。彼の事も……」
「そんなこと−−きゃぁぁ!」
光の膜は破られ私は今度こそ地上に落ちていく。重力に逆らえず、地に足を付く度に座り込むのはもしかしたらどこでも変わらないのかも知れない。
リアルの私の足は役立たずで……一度も私を支えてくれた事なんかなかった。でもこの中なら私は立ち上がる事も歩く事も走る事も出来たんだ。でも……それは結局、夢なんだ。リアルでは何も変わらない私がいることを知っている。
私は迫る地面に腕を伸ばす。ここで私が死ぬことは幻? それとも……現実なのかな? それでしか私のこことリアルは繋がらないのかも知れない。
私は本当に上に……表層に戻りたい?
「アロマァァ!」
その瞬間、私は目を見開いた。伸ばした腕に繋がった手の温もりは先刻の疑問に答えをくれる。戻りたいよ……私はこの人と。
「スオウ! ごめんね……私……ごめんね」
私の言葉に彼は困惑の顔をする。そうだよね、分からなくていいよ。
「何言ってんだ? まだ行けるのかよアロマ」
私は彼の質問に元気よく答える。
「勿論だよ。全然へっちゃら。二人で……戻るんだからね」
私は再び前を見つめた。彼が居てくれると私は何度だって前を見れる気がする。遙か上空には四つの鍵を従えた奴の姿。
「それも幻だと何故に気付かん……」
奴の声はなんだか震えていた。だけど少し上に居る彼には聞こえていないみたい。下を見据えている。そこには大きく口を開けた悪魔の姿。
彼は私の腕を取るために空にジャンプしてくれたんだ。私と彼がリンクしてるみたいに奴とも私は繋がってる。
私は握り合った手を確認するように強く握る。
「アロマ?」
私のそんな行為に彼はこっちを見てくれた。今見えている彼の顔は本物だと聞いた事がある。黒い髪は所々癖っ毛がありその下に意志の強い光を宿す瞳。線は細くどこか年寄りも幼く見えてしまいそうな顔だ。
だけどやっぱり男の子な手は私の手を包んでくれている。感じる温もり……どんどん大きくなる感情。これは仮想じゃない……幻なんかじゃないんだ。
「スオウ、私もう一度行ってくる!」
再び私は奴の前に立つ。ステッキを奴に向けて言い放つ。
「私は行くよ。もう邪魔しないで!」
「それならその意志を貫いてみせることだ。お前が言う愛と勇気の力でな」
鍵が一斉に輝きだし大きな光が収束する。私はとっさに横に飛んでそれを交わした。空に一筋の光が放たれたんだ。私がさっきまでいた場所は光に包まれている。
私は無防備に立っている奴に迫る。だけど振り上げたステッキは再び鍵に阻まれた。だけど私は位置を素早く変え再三に渡ってステッキを振りかぶる。
だけど全ての攻撃が届く事はなかった。
フードの人物の腕がこちらに伸ばされる。その瞬間何かに弾かれるように私の体は後方に飛ばされた。だけどまだまだ、諦めない。私は飛ばされながらもステッキを奴に向けた。
「いっけぇぇぇ!」
光が奴に向かって飛んでいく。そして直撃。空に白煙があがった。やっとで一撃入れれた? 白煙が風に流されていくとそこには何事も無かったかの様に佇む奴の姿があった。
それはある意味予想通りともいえる。あれで倒れるのならこんなに苦戦なんてしてないんだ。私は気を引き締め直してステッキを何度も振った。
すると周りには何個もの魔法陣が展開する。そしてそれを続けながら奴を囲む様に一周した。こうなれば質より量で勝負。下手な鉄砲、数打ちゃ当たる作戦だ。
「無駄な事を」
それでも動じない奴を私は一斉射撃。夜空に太陽の代わりの様な光が満ちた。だけどその途中で走った紫の光に次々に魔法陣は破壊されて行く。そしてやっぱり変わらずに奴はそこにいた。
私はそして初めて恐怖した。今まで漠然としかその強さを感じてなかったけど目の前の強さが越えられないものと知ったとき……そこに恐怖が生まれた。
「お前は分かってない。量に意味があるのは当たったときに確実に倒せるから。お前の攻撃じゃ意味の無いこと」
そんな言葉聞きたくない。やっとで前を向いたのにそんな言葉いらない。
「なんで邪魔するのよ! 行かせてよ! 帰してよ!」
私は恐怖でただガムシャラに魔法を放つ。だけど幾ら当たっても効果はない。それに避けることもしなければ動じる事もない奴に私は気が動転しそうになる。
そして私の腕は奴に捕まれる。もう体を強ばらせて目を閉じるしか出来なかった。
「哀れで可哀想な造花の花であれば良かった物を。それならば散ることを知ることは無かったのに。今一度聞こう。お前は外を目指すのか?」
私は震える唇を動かす。激しく体を揺らして腕を解こうとしながら。
「行く……行くよ! 私はそう決めたんだから! だから邪魔しないで!」
私の声に反応して初めてフードの中の瞳が見える。それはなんだか同じような瞳。そういえばお兄ちゃんが言っていた。もう一人の私……もしかして貴方は私なの?
「散らせる花に何が必要だ? ここを望んだのはお前なのに……それを捨てる奴に用はない」
私の体にリアルな衝撃が入った。それはパンチだ。顔面に食い込んだ衝撃は初めての体験だった。目の前がぱちぱちする。
そしてこの一発は奴の憂さ晴らしだったのか次からは普通に魔法を入れてきた。放された体は一気に鍵の攻撃を受けて落ちていく。その上から更に大きな魔法攻撃。なんとか私は防御の魔法を発動したけどその上から押しつぶされる様な感覚。
なんとかして最後の力で私は勢いを弱めたけどグラウンドを何度も跳ねる。
そして地面に土埃を上げて止まる。掠れた瞳に映るのは空に浮かんだ大きな球体。紫の光を発したそれは奴が私をしとめる一撃。
「あの世こそ、本当にお前が求める場所だ。愛と勇気の終着点にこれ以上ふさわしい場所はないだろう。後悔を胸に恐怖を身に刻んでいけ」
大きな光が迫ってくる。私の体は動かない。ここまでなの? 私は結局、ここにも囚われただけだったのかな? 全部を捨ててここまで来てしまった私には結局戻る事なんか許されないの。
この状況……なんだか今朝見たアニメとデジャブだよ。あれってどうなったんだっけ? 強大な敵に勇敢に向かっていった女の子は私と同じように地に伏せていた。
ああ、そうだ。続きは来週だったんだよね。助かったのならいいな……そんな事を考えながら私はその光に飲まれていく。
「ふざけるな!」
大きな声。前を向くと私を守るように魔法を受け止めた彼の背中があった。
「こんな所で死なせるかぁぁ!!」
そして二対の剣が奴の魔法を切り裂いた。そして彼は私に近づいて手を差し伸べる。
「立ち上がれアロマ。今度は一緒に行ってやる!」
私の瞳からは大粒の涙がこぼれていく。そっかそうなんだ……私はもう一人じゃない。その手を掴んだとき、私のステッキはこれまでとは違う輝きを発していた。
どれだけの苦渋をお前に飲まされたか分からない。今ここには僕しかいないんだから絶対に負けられない。助かったのはLROでの強さを映してる訳じゃなかった事。そしてどうやらここは一撃必中のクリティカルシステムでバトルが決まることだ。つまりはどんな強大な敵も真に入れば一撃で倒すことが出来る。
目の前の悪魔は消えていく。ついさきほど渾身の一撃を胴体に決めてやったからだ。だけどその時、背中に光が当たった。上を見上げるとフードの人物が今まさに止めの一撃を放った所だった。
視線を動かしてアロマを探すとグラウンドの中央で倒れている。僕は息が整うのを待たずに走り出す。消えかけている悪魔の体を使い、一気に地面に降り立った。そしてアロマを目指す。
ここは願う分だけそれを力に変換できる。もっと速く、更に速くを僕は願う。そして届いた光に僕は剣を突き立てた。
自分が誰かを守れるなんて思うのはおこがましいのかも知れないけど、今だけは守れると信じないといけない。ここには僕しか彼女を守る人はいないんだから。
光の球体を切り裂いて、僕は彼女に手を差し出す。その手を握った彼女は泣いていた。どうしてこう僕は女の子を泣かせてしまうのだろう。
「光が……」
僕は彼女の手のステッキの光に気付いた。そしてアロマもその光を見つめた。そして泣きはらした顔に笑顔を浮かべて言う。
「なんだか元気が沸いてくるね。一人じゃないとこんなに強い光なんだ。愛と勇気の覚醒だよ!」
アロマは立ち上がり魔法を放つ。それは今までのどの魔法よりも輝いていた。四重の鍵の盾を突き破って魔法はフードの奴に突き刺さる。それはきっと初めての有効打。
そして吹き飛ばしたフードの中を僕たちは見た。それは黒いセツリ? 瞳だけは実態化してるけどそれ以外は前の黒いモンスターの様な感じだ。
奴はふらついて地面に降りてきた。見れば見るほど不気味な姿。何なんだ一体?
「何なのあなた?」
思いが重なったのかアロマが同じ事を言った。
「私は……お前の成れの果て。システムが作り出した仮想と一体化した姿だよ。これこそがお前の望みなんだ!」
なんだって? あれがセツリが望んだ姿? どう言うことだよ。成れの果て……あれがセツリの未来とでも言うのか?
「どういう事? そんな姿、私望んでない!」
「望むと望まないと仮想に居続ければいずれはこうなる。肉体が滅び魂だけとなれば魂はそのより所をシステムに変えてな。私はそのシュミレーターだよ」
信じられない話。目の前のこいつは何話してるんだ?
「何よそれ……じゃあなんで私の姿をしてるの!?」
「私は……いいやこのシステムはお前の願いから生まれたからだと言っておこう。リアルを投げ出したいのだろう? いやここをリアルにしたいのか。それを実現する為のシステムだよ。だからお前は幾ら逃げても我々を求め続ける」
「そんな事ない! −−そんなこと……ない」
人の願いから生まれたシステムなんてあり得るのか? 首を必死に振るアロマは混乱している。僕だってそうだ。ここは一体何なんだ? 僕達はなんだかとんでもない所に迷い込んだんじゃないのだろうか。
僕は迷いを振り切る為にも奴を切った。
「うるさい。これ以上アイツに変な事吹き込むなよな!」
だけど奴は笑っている。
「貴様もいずれ知ることだ。システムに呑まれている一人なのだから」
僕はその言葉に悪寒を感じた。システムに呑まれている? それは仮想に浸透しているって事か? そして奴は言い放つ。
「お前に私は救えない。いいや、お前だからこそ救えない」
僕は剣を振り上げた。だけど消えたはずの鍵にそれは阻まれる。だけど攻撃スピードは僕の方が圧倒的だった。けれど僕の剣は奴の影の様な体には一向に効果がない。
管理者が言っていたっけ奴を倒すのはセツリだと。てかあの管理者は何なんだ? こいつらの仲間じゃないのか。
「あれはその女の為の存在だった奴だ。小賢しい奴の防衛線。だけどそれも同化した」
あれはセツリの為? 奴とは一体……だけどそれを聞いたセツリのステッキが光った。
「よくも……お兄ちゃんを……許さない!」
「あれはお前の兄ではない。そんなこともわからなくなったか?」
確かにそれはこいつの言うとおりだ。だけど今のセツリはそれを分かってない訳じゃない。
「違うもん! あの人も確かな私のお兄ちゃんだった! そんなことも分からない貴方達を私は求めたりしない!」
「そういうことだ!」
僕達は互いを見て奴に迫る。今の僕達には分からない事が多すぎる。だけどやるべき事ははっきりしていた。それは目の前の敵を倒してここから出ることだ!
「私を倒せると? 貴様の愛と勇気では幾らやっても無駄だったろう」
奴の黒い体が広がってマントみたいになった。そこからは無数の鍵が出てくる。そしてそれぞれが魔法を放つ。
「スオウ!」
その掛け声を聞いて僕はとっさにアロマに近づいた。そして全てを彼女の魔法が防ぐ。それには少なからず奴も動揺してるみたいだ。
「貴方は分かってない。愛と勇気に限界なんて無いって事を! 今の私は一人じゃない事を知ったの! 大切な人が居る……それだけで無限大に愛と勇気は溢れて来るんだから!」
恥ずかしい事を恥ずかしがらずにアロマは言う。僕がなんだか恥ずかしい。だけど言葉通りに彼女の光はどんどん強くなっている感じだ。
「アロマ……」
「言ったでしょ。私がここでは守ってあげるって。だけどやっぱりどっちかが後ろに居るのってなんだか変な感じだね。二人で倒そう。そしたら私……もっともっと頑張れる」
僕は頷いた。するとアロマの光が僕にも移ってきた。包んだ光は傷を癒し、体を羽の様に軽くする。これはきっと僕の命綱だな。これが無くちゃ攻撃は意味をなさいのだろうから。
地面を蹴り僕は一瞬で奴の懐に飛び剣を振る。そして今度こそ確かな手応えがあった。包んだ光が奴の影を引きちぎる。
「なっ!」
驚いた奴は横に飛んだ。だけどそこにアロマがステッキを振りかぶる。それは直撃して奴は後方に飛ぶ。ここに来て初めて感じた手応えに二人でいけると思い怒濤のラッシュかける。
僕達は二人で戦うのは初めてなのに何故か息がぴったり合った。それは二人がリンク状態だからだろうか。たまらず奴は空中に逃げた。そこで最後で最大の一撃を打つつもりだ。
「なかなか興味深い現象だ。相乗効果かなんであれ、おもしろい……面白いぞ! でもこれが貴様達に防げるか?」
奴は夜の闇までも飲み込み空から黒が剥がれ落ちた。おかしな空間での最後の衝突だった。僕とアロマは向かって来る闇の奔流に突っ込み飲み込まれる。
だけどその中には光の筋が小さく光出す。それは徐々に昇り奴の手前まで道を造った。そしてその中から飛び出すのは当然アロマだ。光は僕が造った道だった。乱舞の時の風と同じように扱えたんだ。
斬り裂かれた闇は光の中に消えていく。
「これが俺達だ! 防ぐなんてしない、道は自分で斬り裂いてでも造って見せる! アロマァァ!」
飛び出したアロマは奴の上。
「受け取りなさい! これが愛と勇気の力なんだから!」
神々しいまでの光が奴を包み込んで消し去った。
「無意味だよ……君に未来なんて」
それが奴が言った最後の言葉。そして町は消え去っていく。光の粒が弾ける様に町は消滅して行きその波に僕達も呑まれる。
「愛と勇気の力の勝利だね」
光の中で彼女は言った。僕は少し笑ってしまう。
「分かってる? 私の愛と勇気はス……」
赤い顔で何か言い掛けたセツリは言い終わる前に消えてしまった。きっと戻ったんだろう。後で聞けばいい。僕の体も光に消えていっている。その時だった。
「気を付けろ、奴は消えて無い。妹を……セツリを頼む」
振り返ったけど誰もいない。僕の心に不安を残し、夢の様な世界は消え去った。
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