命改変プログラム

ファーストなサイコロ

夢の町を見つめて



「今日こそ世界を我が物にしてくれる! 貴様達の命運もこれまでよ!」
 黒いフードに大きな鍵の様な杖を持ち飛び出しそうな目をした悪い魔女が沢山の魔法を発動する。
「そんな事はさせないわ! 私たちは諦めない。愛と勇気が有る限り、世界は私達が守ってみせる!」
 ピンクを基調としたフリフリの服と見えないことが不思議な位のミニスカートの女の子が啖呵を切った。手には綺麗な魔法のステッキがある。
 二人の魔法が激突する。辺りには噴煙が舞い散り木々が吹っ飛んでいく。
「きゃあぁぁぁぁ」
 そして粉塵の中からあの女の子が飛んできて地面を何回も転がった。ステッキが手から放れて甲高い音を立てながらはぜている。
 悪い魔女は空に浮かびそんな女の子を見下して言う。
「それが愛と勇気の限界よ。闇こそが世界の本質。人の本音。尽きることの無い心の叫び!」
 一際強い紫色の光を放つ魔法陣が魔女の上に現れた。きっとあれはとどめの一撃だろう。
「そんなことはない!」
 だけど少女は立ち上がった。ボロボロの体を奮わせながら地面に立つ。だけど魔法のステッキも無い少女に攻撃手段は無い。でも少女は毅然と魔女に言い放つ。
「世界の誰もがそんな事願ってる訳ない! 闇を照らす愛と勇気を誰もがその心に持ってるわ!」
「ふん! ならそんなありもしない物にすがってあの世に行けえぇぇぇ!」
 少女の眼前に迫る闇の塊。絶体絶命の魔法少女の運命は如何に!? 派手なテロップと共にエンディングに入った所で私は立ち上がってテレビから離れた。
「あ~あ、良いところだったのに来週までお預けかぁ」
 そんな声を出して時計を確認すると既に時計の針は八時に迫っていた。
「わわ、遅刻しちゃうよ!」
 急いで朝食のパンをトースターにかけ、その間に身だしなみを整える。髪の毛ボサボサで外に出るなんて出来ない。女子ですから。
 紺を基調としたセーラー服に着替えて鞄の中身を確認。その時、カシャンとトースターからパンが上がった音が聞こえた。
 私は鞄を持ち自室を後にする。リビングに戻り併設されてるキッチンカウンターの上にあるトースターから熱々の食パンを取り出してマーガリンを塗る。
 既に八時五分……もうぎりぎりだ。私はマーガリンを冷蔵庫にしまい玄関へ。黒い革靴に足を通して、そして片方をトントンと地面に叩いて履いていく。
 そして家を出る前に振り返り私は叫ぶ。
「お兄ちゃん、私もう学校行くからね! ちゃんとご飯食べなきゃダメだよ!」
 シンとした家の中に私の声だけが空しく空気に溶けていく。
「もう、またコンピューターいじくってるんだね。ああなったらお兄ちゃん止まらないんだよね」
 私はため息を付いて「いってきま~す」と大声で言ってドアを開く。陽光の光の中に私は飛び出すと朝の少しヒンヤリとした空気が肺一杯に満ちてきた。
 私はパンをくわえて通学路を走り出す。これが私の日常……です。そうこれが……。


「ここは?」
 僕は辺りを見回して困惑する。確かセツリとリンクしてる筈だけど彼女の姿はどこにも無く広がっているのはどこかも分からない町並みだ。
 だけどそれもおかしくてどこかツギハギな感じがする。下町の様な家々の中に唐突に大きな高層ビルがあったり遠くに見える電車は遊園地のアトラクションの様に一回転する仕様だ。
 それに明らかに時代錯誤な家とかも混じっている。あれはLROで見たことある感じもするけど、ここはまるでセツリの記憶で作られた町と言う感じだ。
 彼女はずっと病院のベットの上で過ごしていて情報源はテレビとかだけだったろうからこんなチグハグな町になっているのかも……電車なんて生で見たことも無いのだろう。遊園地のジェットコースターとごっちゃになってる。
 それに一番そう思えるのは、この町には誰も居ないんだ。人っ子一人……影も形もない。まるでゴーストタウン。それは彼女のこれまでの孤独な生を表しているのかな。
 それだと……寂しすぎる。確かにこんな世界には戻りたくないかも知れない。
 僕にとってはリアルはいつだって人に溢れていた。確かに両親とは殆ど一緒に居ないから寂しいと小さいときは思っていたけど、それでもいつも日鞠はいたし。
 ひとたび外に出れば沢山の人が溢れかえっている。そんなリアルに息が詰まりそうな事は有っても最近は寂しいなんて感じた事もなかった。
 だけどここは……寂しい。本当に寂しい世界だ。
 そんなことを考えながら僕は誰も居ない町を歩いていると曲がり角に差し掛かった。そして次の瞬間角から小さな影が飛び出してきてぶつかった。
「うあぁ!」
「きゃぁ!」
 二人の声が重なって静かな町に響く。お尻には地面にぶつけた衝撃で鈍い痛みが走っている。何なんだいったい、と思い気付いた。ここで他に人が居るとしたらそれはセツリしかあり得ない。僕は視線を前方に向けた。
 するとそこには同じようにお尻を打ちつけたセツリがいた。セーラー服を着た彼女の姿はなんだか新鮮だ。だけど目のやり場に困るな・・・彼女の白い太股の先にある物が見えてるから。
 イタ~イとか言ってないで隠して欲しい……いや、そのままでも勿論いいけど。って何考えてるんだ僕は! 自分で自分を殴りつけていると声が聞こえた。
「君……スオウ?」
 それはなんだか凄く懐かしい声。彼女の唇が確かに僕の名前を発した。セツリは立ち上がらずにハイハイで近づいてきて僕の顔をマジマジと見つめる。
 その顔は何回も願った生気がある彼女の顔だった。やっとで助けた思ったけどそれでも見ることは叶わなかったその顔が今目の前にある。
 僕はこみ上げてくる物を隠すように顔を伏せて答えた。「うん……久しぶりセツリ」
 その瞬間、頭にセツリの腕が降ってきた。コツンとぶつかるけど別に痛くは無い。顔を上げるとなんだか怒ってる感じだ。やっぱり来るのが遅かったから……とか思っていたら全然違うこと言われた。
「もう! どうしてくれるの? 朝食落ちちゃったよ!」
 そう言うセツリの背後を見ると確かに地面に落ちた食パンの姿がある。え~と……
「知ってるセツリ? 三秒ルールってのがあって落としても三秒以内に拾えば全然平気なんだよ」
「ホント!?」
 華やいだ彼女の笑顔。そしてホントに道路に落ちた食パンを拾って口に運ぼうとする。
「うああああ! 待った! 嘘だから食べちゃダメだ!」
 僕は慌ててその腕を掴んで止めた。マジで常識ないな。
「う~、嘘教えるなんて君最低だよ!」
 頬を膨らませて怒っているセツリをなだか直視出来ない。可愛いんだ。それでも何故かセツリはパンを放そうとしない。どうしたんだ?
「まだ半分以上あるのにもったいないよね」
「まだ食う気かよ!」
 こんな食い意地が張った奴だったのか。意外だな。するとなんだか僕の方を鋭くした目で見ている。イヤな予感がした。
「君にあげるよ――エイッ」
「ムガァ!」
 落としたパン口に押し込みやがった。何するんだコイツ。
「アハハ、面白い顔してるよ君」
 プチッと来た。僕がどんな思いでここまで来たと思ってるんだ。走り去ろうとするセツリを追いかける。意地でも捕まえて連れ帰ってやる!
「まちやがれー!」
 僕達は早朝の町を楽しく駆け抜けた。


「ハァハァハァ……捕まえた」
 新しい事実が分かった。セツリは足が速い。結局立ち止まるまで捕まえられなかった。そしてその時チャイムの音が静かな町に響いた。
「セーフ。よかった間に合って。楽しかったね」
 そう言って歩き出すセツリ。僕は慌ててその後を追いかける。彼女が向かってるのは白い校舎の建物、学校だ。まあ制服だしそうなんだろうとは思ったけどここにもきっと誰も居ない。
「何するんだ学校で?」
「学校が何するところなのか君は知らないの? しょうがないな私が教えて上げるよ。学校は勉強する場所です!」
 自信満々、胸張って言われた。そんな事知ってるんだけどね。セツリはいっぱいあるげた箱の一つに靴を入れ上履きにはきかえる。どうやら自分で決めた場所を使ってるようだ。
「あ、君は私の隣ね。土足で上がっちゃダメだよ」
 そう言って隣のげた箱を開く。そこには青いカラーの上履きがあった。僕はなんだか断りきれないでそれを履く。するとニコニコした顔で言われた。
「お揃いだね」
「それなら一学年全員お揃いだけどな」
 僕の言葉に何故かセツリは顔を輝かせた。なんで? 皮肉の筈だったんだけど。
「だってそれならみんなとお揃いだよ。素敵だね」
 もしかしたらセツリは集団という物に強い憧れが有るのかも知れない。彼女はパタパタと音を響かせて廊下を進んでいく。
 やっぱり校舎にも誰も居なくて、異様に広いこの空間に僕達の足音だけが響くのはなんだか寂しかった。窓からはいっぱいの陽光が照らしてるのに一向に暖まる感じがしない。
 そしてセツリは一年二組の教室に入っていく。奇遇だね。僕も現実じゃ一年二組だよ。教室に入ったセツリは教卓の真ん前の席に腰掛ける。そして鞄から教科書とかを取り出して机にしまっている。
 僕はなんだかその様子をただ見ていた。入っていいのかよく分かんないし……それに何をするんだろう。てか何でそこ? 一番不人気な席だよそこ。だけど僕の視線は違う意味で捕らえられた。
「何ですか? 言っときますけどこのベストポジションは譲りませんよ」
 やっぱり……セツリは誰もが意欲的に勉強を習いに来る場所が学校だと思っている。だからあの席は先生の真ん前でとても良いはずと判断したんだろう……だけど
「教えとくけどそこ、一番不人気な席だぞ」
「ええ!? 君おかしいんじゃない。こんな勉強しやすい席が不人気なわけ無いじゃない!」
 思った通りの答えが返ってきた。
「あのね、誰もが勉強するために学校に通ってる訳じゃないよ。そりゃあ有名進学校ならそうだろうけど普通の学校じゃ大体そこは一番不人気だと思う」
「えっえ、それじゃあ何しに学校に来てるの?」
 セツリの顔には一杯のハテナが浮かんでいる。僕は当然と言うように答えてやった。
「それは、あれだよ。友達と会うのが大きいかな。取り合えず学校に来れば友達は絶対いるんだし。後は恋愛とか? 部活とかの奴もいると思う」
 するとセツリはちょっと怒ったように言ってきた。
「私だってそれくらい知ってますよ。と当然です。私、部活にだってちゃんと入ってます」
 意外に負けず嫌いな一面も有るみたい。そっぽを向いたセツリに僕は聞いてみる。
「ふ~ん、何部?」
 すると視線が教室中に動く。手もなんだか所在なさげ。
そして何か思いついたのか桜色した唇が動く。
「え~と、それはね……帰宅部」
 それは部活じゃない。もっとあり得る部活思いついたろうに何でそれをチョイスしたんだ? 嘘が付けないのか? その時、再びチャイムが鳴った。
「あっ、ほら君。早く席に着かないと先生来ちゃうよ」
 先生? 誰か他に居るのかなと思い僕は廊下の先を見据えた。だけど何の足音もしない。その時、セツリが再び廊下に出てきて僕の頭を小突いた。
「こら、スオウ君早く教室に入りなさい!」
「ん? え? 何?」
 なんだか呼び方が変わった? 何スオウ君って……びっくりだよ。するとセツリは腰に手を当てて指を指す。
「何じゃありません。先生に向かってそんな言い方したらダメですよ。目上の人には敬語を使いなさい」
 目上? 敬語? 先生?……て先生!? もしかして一人二役? 僕はおそるおそる聞いてみる。
「えっと先生のお名前は何でしょうか?」
「まったくもう、スオウ君は担任の名前も忘れちゃうんですか。でも安心してください、幾ら君の頭が猿より劣化していても先生は見捨てません。ちゃんとホモサピエンスになるまで付き合います」
「悪口だよなソレ!」
 上目線で何言ってんだ。僕は既に人間だ!
「あれ? でも猿から人には絶対にならないんでした。ごめんなさい」
「何に対しての謝罪だ! いいから名前は何なんですか!」
「私は金八先生ですよ」
 三年B組に行ってください。頭抱えるしかない。それに本当に設定上彼女は金八先生らしい。教卓から取り出した学級日誌にそう書いてあった。きっと憧れてるんだね。
 僕はしょうがなく一番前の窓際、校庭が見える方に座った。一体今から何が始まるんだろうと思っていたらHRが始まった。セツリは先生として自分の名前を呼んで、席に着いてその返事をする。一人学校ごっことでも呼べばいいのだろうか? 僕は開いた口が塞がらない状態だ。
「スオウ君」
 教卓に居るセツリからの声。僕も含まれていたのか。でもなんだか素直に返事をしたくない気分。すると
「スオウ君……もとい、猿以下の彼は欠席みたいですね」
「先生失格だアンタ!」
 そんな暴言吐く先生居ないよ! どこから仕入れた情報だ。僕の突っ込みにセツリはクスクス笑っている。なんだかとても楽しそうだ。
 やってることは間抜けだけど……だけどこんな彼女は初めて見たからしょうがなく付き合ってやろうと思った。
 だけどずっと見てるとなんだか笑いがこみ上げてきて僕は何度も金八先生に注意された。


 午後を過ぎて最後の授業の終了を告げる鐘がなり僕達は学校を後にした。
「今日はとっても楽しい学校だったね」
 そんな事を笑顔で聞いてきたセツリに僕は首を振る。
「怒られてばっかりだし、笑いすぎて腹筋が痛い」
「それは君が悪いんだよ」
 そういって思い出し笑いでも始めたセツリ。僕の前を数歩進んでクルクル回る。
 本当にこんな風に一緒に帰れればいいのにとなんだか思った。そしたらいろんな物を正しく教えてやれるのに。
 こんなツギハギの世界じゃなくちゃんとした現実でそれが出来たらどれだけ良いだろう。それは夢みたいな事なんだろうけど、僕はその夢を叶える為にここに来たんだ。
「セツリ……一緒に帰ろう」
 僕は足を止め、回っていたセツリにそう言った。
「何いってるの? 帰ってるよ私達」
 笑顔のままのセツリの声。この笑顔を壊す事になるかも知れない。だけど僕は言わなきゃいけない。
「違う……僕の言ってる帰る場所はリアルだよ」
 セツリの顔から笑顔が消えた。そして俯く。
「まずはLROに戻って……助けたんだセツリを。そして次にリアルへ。必ずやり遂げる」
 セツリからの返事はない。二人だけの町に冷たい風が吹き抜けた。そしてやっとで聞こえたセツリの声はとても小さかった。
「リアルに戻って……私に何があるの? 何も無い……見たくない自分が居るだけ。醜いアヒルの私が居るの」
 それは分かってた答え。彼女はリアルに戻る事を望んでいない。だけどそれでもこのままじゃダメなんだ。
「醜いアヒルは最後に白鳥になったよ」
 そう、最後は白鳥になってみんなに羨ましがれた。それなら君だって……と僕は言いたかった。だけどセツリの返事はそんな考えを切り捨てさせた。
「私の醜い所はね……姿じゃないの。私には飛び立つ羽が無いの……だから白鳥になっても笑われるわ」
 暗く湿った声。そしてさっきまでサンサンと晴れていた空に雲が掛かりだした。それはセツリの感情の変化を表しているのかも知れない。
 一体どういえば彼女の心に届くのだろう。
「僕は笑わない」
「ッ!!」
 セツリは顔を上げてその顔を赤らめた。
「僕は絶対に君を助けるよ。こんな孤独な所で一生を過ごさせたりしない。それに僕だけじゃないんだ。みんながセツリを助けてくれる」
 僕は一歩セツリに近づく。だけどセツリは一歩僕から遠ざかる。
「やめてよ……そんなの私は望んでない! 救いなんていらない!」
 そう言ってセツリは走り出す。僕は慌てて追いかけるけど見失ってしまった。
「はぁはぁ……くそ、どんだけ足早いんだよ」
 せめて家の場所くらい教えて貰っとくべきだった。そしたら見失ってもどうにかなったのに。
 いつの間にか空は真っ黒になっていた。そして嵐の様な風がゴウゴウと吹き付けてくる。やっぱりこの空間の天気はセツリとリンクしてるみたいだ。最後の言葉を言ったとき……セツリは泣いていた。
 でも……セツリは帰りたくないと思ってるけど、きっと一人はイヤな筈なんだ。それはそうだ。ずっと眠り続けてやっと起きたのにまたこんな所に一人閉じこめられて寂しくない訳がない。
 セツリにとって自由な体がここにはあるけど、それだけじゃアイツはダメなんだ。セツリが欲しがるもう一つは一人じゃ絶対に得られないもの。
 だから僕は追いかけなくちゃいけないんだ。諦めるな。走り続けろ。それがたった一つの冴えたやり方。


 私は家に駆け込み、慌ただしく自室へ入って膝を抱えた。本当は逃げたくなんかなかった。だけどダメなの。私はリアルには絶対に戻りたくない。
 空は暗雲。電気も付けずに膝を抱えて丸まった私は真っ暗だった。静かな家の中……何の音一つしない静寂が私を包む。すると自然に思ってしまう。
「さみしいよ」
 思わず口に出た言葉で涙が溢れて膝小僧を濡らしていく。嬉しかった……彼がここに来てくれたことが。そんなことあり得ないと思っていたから、最初見たとき信じられ無かった。
 リアルや仮想を越えてまで誰かが私を追いかけてくるなんて信じられない事。私は濡れた膝を見つめて思い浮かべてしまった。彼の……顔を。
 私を助けると言ってくれた彼の事を……なんだか胸にトクンと暖かい何かが置かれた気がした。でもそれでもやっぱりリアルには戻りたくない。自分の人生の主役は自分だと言うけど私はそんなの降りたかった。その座は誰かにあげるから……どうか私を助けてください。
 私は立ち上がりリビングに降りていく。泣いたからお腹が空いちゃった。私はお菓子を探してクッキーを見つけた。そしてそれをポリポリ食べながら窓際に近づいて空を見る。
 やっぱり空は曇ったままだ。さっきよりは泣いた分だけすっきりしたはずだけど……そんなに変わらないって事かな?
 その時何かが聞こえた。それは私を呼ぶ声? 
「セツリィィ!」
 彼だ! 彼はまだ私を捜してくれている。その瞬間胸が弾けそうな気がした。そして弾けない私の胸の変わりに空が大きく光った。それは雷だ。私は思わず尻餅を付いてしまう。胸の鼓動はきっと雷に驚いたせいだ。だけど何故か収まらない。
 私は気付いて欲しくて叫びそうになる。だけど背後に気配を感じて振り返る。
「お兄ちゃん?」
「ダメだよセツリ。彼を求めたりしたらいけない。セツリはお兄ちゃんよりあんな奴を選ぶのかい?」
 痩せこけた手が私の頬を撫でる。その動作に何故か恐怖を私は感じた。なんで? だってお兄ちゃんだよ。
「ずっとここにいよう。それがセツリにとって一番幸せな事なんだ」
「おにい……ちゃん……どうしたの?」
 寒い……唇が上手く動かない。お兄ちゃんの手が私の唇を撫でそして下に向かって流れる。その瞬間、本当に悪寒が走って私は叫んだ。
「いや……いやっ……助けて! スオウォォ!」
 何かが割れる甲高い音。目の前のお兄ちゃんに長い棒が突き刺さって飛んでいく。
「誰だアンタ? セツリに何してんだ!」
 私は振り返ってその姿を見た。いつだって、何度だって私のピンチに駆けつけてくれる存在。
「……スオウ!」
 私の人生の主役は貴方だよ。

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