命改変プログラム

ファーストなサイコロ

閉じかけた勇気



 何が自分に出来たのか、それは分からない。だけど目の前の女の子は笑ってくれた。それだけで何かが許された様な気になる。これで良かったのだと思える。
 自分にも誰かを救える……そんな夢を見た。


「ありがとう……ございます」
 全ての記憶が戻ったサクヤがそういった。彼女の肩には元の姿に戻ったフクロウが鎮座している。
「クーもごめんね。ありがとう」
 そう言ってフクロウを撫でるサクヤ。『クー』と言うのはフクロウの名前のようだ。
「それで……もう大丈夫なんだよね?」
 僕の質問にサクヤはコクリと頷いた。
「大丈夫です。私はもう迷いません。私はあの子を・・・セツリを帰したい」
 長い黒髪が湖の光を吸い込むように存在感を表す。これまでとは違う。もう彼女はただのNPCじゃ無なくなっている。
「それじゃあ早速彼女を解放して貰おう。聴きたいことも沢山あるんだしね。全てはクエストを達成してからだよ」
 そう言ったのは小さなモブリのテッケンさんだ。確かにそうだね。もうサクヤは僕達の味方だ。何も焦る事なんかない。
 セツリを助けて街に戻ってからでもゆっくり事情を聞こう。
「そうですね。でも一つだけ私も聴きたい事があります」
 そう言ってサクヤは僕に強い眼差しを向けてくる。なんだろうドキドキしちゃうよ。
「貴方は……セツリをどこまで背負う覚悟がありますか?」
 その言葉に僕はなんて返したらいいのだろう。背負う? それはどういう事だ。
「命掛けでセツリを救う覚悟をしてくれたみたいですけど私が言いたいのはその後です」
「その後?」
 それはセツリを無事にリアルに戻せた時の事か? そんなこと考えた事もない……と言うか余裕がなかった。でもなんで今そんな話を?
「セツリは向こうでは一人ぼっちです。お兄さんも居ないんじゃ誰がセツリを向こうで迎えるんですか? 支えるんですか? 私は何も出来ません!」
 確かにそうだ。サクヤはこの世界でだけその存在があるプログラム。リアルでセツリは孤独なんだ。だからこそセツリは戻りたがってない。確かに独りぼっちで体も自由に動かないんじゃそうかも知れない。
 だからこそサクヤは向こうで彼女を支える存在で有って欲しいと僕に願っているのか。でも……それって、どうなればいいの?
 そんな僕の疑問にサクヤは当たり前の様に答える。
「だから貴方は……セツリと結婚してください!」
「はぁ!」
 何言ってんのこの子。話が飛躍しすぎだろ!
「何もおかしくなんてありません。命を懸けれるぐらいにセツリを思ってくれてるんじゃないのですか!?」
 そう言ってズカズカ詰め寄るサクヤ。この子、セツリの事に成ると性格変わるのか? 僕はたじろぎまくる。
「ええっと……そりゃぁ思ってるけど。いきなり結婚って……それは……」
「セツリには……向こうに戻りたく成るための存在が必要なんです! セツリにはちゃんと向こうをリアルとして生きてほしい。そのためにはあの子を愛してくれる人が向こうにも必要です!」
 サクヤの顔は真剣だった。その話も分かるけど……その存在は僕なのだろうか? 
「これはアンフェリティクエストを達成する為には絶対に必要な思いの一つです」
 沢山の思いがこのLROにはある。だけどその中でセツリはたった一人……孤独なのかも知れない。
「僕は……セツリを救い出したいし、それが出来たらリアルでも勿論交流したいと思ってる。だけど今はそれよりもただもっと一緒にいて仲良くなりたいだけなんだ」
 僕の答えにサクヤは腕組みして考え込む。そして僕の顔をのぞきこんできて「それだけですか?」と聞いた。僕は自分でもそれだけかな? とか思った。そして考えてこう答えた。
「ただ絶対に無くしたくない。放したくない……繋がっていたいから僕は命を懸けてでも追いかけてるんだと思う」
「……そうですか」
 それで今はいいです。サクヤはそう言って離れた。テッケンさんはなんだかニヤニヤしてる。よかったここにアギトが居なくて。あいつはきっとからかうからね。
 僕は橋の崩れた方を見る。そこは空白・・・クーの攻撃で破壊されている。そして向こう側にシルクちゃんとアギトの姿。やっぱりかなり遠い。合流したいけどどうすれば……そう思っているとサクヤが歩みでた。
「クー、お願い」
 その言葉と同時にフクロウは大きくなった。僕達と戦った時の神々しい姿だ。そしてサクヤはクーの背へ。僕達も後へ続こうとしたらサクヤは腕を出してそれを制す。
「なんだよ」
「二人は尾に捕まってください。クーは一人乗りなんです」
 僕とテッケンさんは渋々枝の様に分かれている尻尾を適当に握る。そして次の瞬間、僕達は音を置き去りにした。クーの余りのスピードは音速を初速で越えたんだ。あり得ない。
 一瞬だけ聞こえた爆音は既に遠く、僕達は限りなく静かな場所にいた。そして一気に反対側……つまりアギトとシルクちゃんのいる方まで来ていた。
 僕の足が地面に付く。するとそこから大きな安心が伝わってきた。隣を見ると同じ様な表情のテッケンさんと目が合う。
 僕達はプルプル震えながら手を合わせて地面の素晴らしさを感じていた。大地は雄大だ。
「何やってんだお前等?」
 僕達の感動に水を差す声はアギトだった。その後ろではシルクちゃんがクーを見てビクビクしている。僕とテッケンさんは同時にアギトに向かって言った。
「「大地の素晴らしさをかみしてるんだ!」」
 見事なシンクロ率。アギトは頭を抱えている。そしてサクヤが降りてきてクーは元の小さな姿へと戻る。するとシルクちゃんは安心したのか前に出てきた。
 サクヤは僕達を見てクスクス笑っている。なんだか異様に恥ずかしい。
「なんだかやっぱり頼りないですね」
 そんな事を言われてしまった! 僕が落胆してると小さな手が僕の肩に置かれる。顔を上げるとテッケンさんが親指を立てて決めていた。
 うう……なんて優しいんだ。僕が女なら惚れてるよ。
 そんな僕らのやり取りを余所にサクヤはアギト達に自分の非礼を詫びていた。それに対してシルクちゃんは涙目に成りながら両手を胸の前でブンブン振っている。アギトはお詫びの後にただ一回笑顔を見せただけ。
 こいつも女の子の前だと無駄にカッコつける。NPCまで守備範囲だったのか、恐ろしい。僕達はこの戦闘の前と後じゃきっと繋がりが違う。
 立ちはだかる困難を乗り越えた先に有る絆をこのLROと言うゲームは感じさせてくれる。それこそ、沢山の人を魅了する要因なのかも・・・。
「良いですね。人と言うのは。セツリももっといろんな人達と触れ合えれば何かが変わるのでしょうか?」
 そんな事を羨ましそうに僕らを見ていたサクヤが言う。だから僕は力強く言ってあげよう。
「変わるさ。価値観はいつだってどんな時でも変わってく。だから僕達は諦めずにセツリの前に立とうサクヤ。アイツを帰すその日まで」
 するとサクヤの瞳から一筋の涙が落ちる。そして何度も「はい……はい」と言って首を縦に振る。そのたびにサクヤの瞳からは涙が飛んでいた。


 湖畔の輝きは増し、どこからともなく何かが歌う声が聞こえてきた。僕達はこのクエストの最後のイベントを見ている。
 巫女服姿のサクヤはゆっくりと湖に立ち前に進んだ。そして無数のお札を風に舞わせ湖に散りばめる。よく見ると彼女はずっと何かを呟いていて、その周りには透明な何かがいる。
 小さいそれは上下にゆらゆら飛んで時々足を着けて湖に波紋を広げていた。そしてその波紋は次第に多くなっていく。周りを見回すと大きな湖に沢山のそれが円になって踊っているようだ。
 この歌はきっと彼らの合唱。優しく心に波紋を落とす様な歌だった。そして次第に彼らの円から水が大量に吹き上がる。彼らは面白がる様に愉快な声と共にその水を駆け上がっている。次々に彼らは空に駆けだし、湖の水を引っ張り上げる。
 すると湖畔には幾つもの水のアーチが出来上がった。ああそうか。精霊を呼び出すとか最初にアギトが言っていた。彼らがその精霊なのだろう。
 精霊達はこの湖を遊び場にしてるみたい。優しい歌と愉快な声が湖畔中に響いていた。そして最後に精霊達は湖の中の水を全部引っ張り上げる。空中で彼らは縦横無尽に遊んでいる。
 なんだか彼らを遊ばせるのが目的みたいだな。そんな事を考えてると水の無くなった底にいるサクヤが言った。
「そうですよ。私のNPCとしての役目はここまでたどり着いてあの精霊達を遊ばせる事です。これで本当はクリアの簡単なクエストの筈でした。だけどいろんな事が重なって私のその役目もこのクエスト事態も壊れてしまいましたけど」
 そういうサクヤは僕らを手招きして歩き出す。そして着いたのは僕達が城の中から見た場所。大きな大樹がある場所だった。この枝の中でセツリは眠っている。
「どうすればいいんだ?」
「簡単です。精霊の力が通っていた水は消えたから叩き切ればセツリは解放されます」
 そう言ってサクヤは僕を促す。僕は愛刀を抜いて一線した。すると大樹に僕が切った切り傷が刻まれそこから亀裂が入り全身へと広がった。
 そして甲高い音を響かせて砕け散った。粉雪の様に舞う大樹の欠片は天上からの光を受けて輝いている。そんな中をゆっくりと降りてくる影。僕は彼女を静かに……だけど力強く抱きしめた。
 なんども願った彼女を今、僕達は取り戻した。魂が彼女の温もりを感じて僕の目からは押さえきれない物が流れていた。
 その時、僕達にはもう一つ贈り物があった。天上から降ってきた四つのアイテムはこの壊れたクエストの成功報酬か粋な精霊達からの贈り物だったのかはわからない。


 僕達は『センラルト』の街に戻ってきて宿屋の休憩所を囲んでいた。一つ取った部屋にはセツリを寝かせている。宿屋はこのLROの世界では絶対に安全な場所だ。攻撃は勿論、他人の部屋に勝手に入ることは出来ない。
 僕達はここで束の間の休息を取るはずだったけど事態はそう軽くは無いようだった。何故ならセツリは目覚めないんだ。
 あの場からここに来るまで……そしてこの宿屋に着いてから何度も彼女を起こそうとしたけどダメだった。
「どうなってんだよ」」
 僕の呟きにみんなが黙り込む。さっきからただ沈黙が訪れているだけ……そして何か発する度に空気は重くなってる感じだ。
 外の喧噪とは裏腹に僕達の気持ちは落ちていた。あんなに苦労して、やっとで掴めたのに……その結果がこれなんてあんまりだ。
 彼女はリアルでも眠ったままで……そしてこの中でもそうしてしまったのか? なんで……どうしてなんだ。ここはセツリの夢見た世界の筈なのに。
 もしかしたら僕はセツリに拒絶されたって事なのか、とも考える。こうなったら悪い方へばかり思考は落ちていく。まるで底なし沼で……深く暗く冷たい。イヤになる。僕はいつだって遅い。
 もっと早く……いや、あの時……なんて意味はない。あの時僕はセツリを守れなかった。
 僕はセツリが起きないって事が信じられないんだ。だってあの堅く閉じた瞳は最初に出会った頃と同じで……また僕が呼びかけると起きてくれるとどこかでそう信じてた。
 僕の声にいつも笑顔を返してくれたセツリだから直ぐに目覚めて「遅いよ、ばか」とか言われる事を少なからず期待していた。
 だけど彼女の瞼は何度呼びかけても堅く閉じたままだった。一度も動くことも無かった瞼を見たら僕はもう忘れられたのかも知れないとさえ思った。
 考えてみればセツリとはほんの少しの間しか一緒に居なかったんだ。出会って……別れて……追いかけて……離れての繰り返しで積み重ねた物なんてない。
 それでも僕は追いかけてきてセツリを捕まえたけどそれは彼女に取って迷惑だったのかな? するとその時、誰かがテーブルを大音量で叩いた。僕達は一斉にそちらを見る。それはサクヤだった。
「ふざけないでください。スオウさん、貴方はたとえセツリに嫌われてもやり遂げて貰います。それが覚悟や決意という物です」
 厳しい事を言ってくれる。嫌われたまま助けるなんて心折れそうだよ。
「本当にそんな事思ってるんですか? あの子が……セツリが本気で……」
 ワナワナ震えたサクヤには怒りが見える。だけど何故か今日の僕は止まらなかった。
「本気で言ってる分けないだろ! その位、分かれよ! 本気でそんな事、少しでも考えたら僕はこんな所で命懸けるかよ!」
 肺の空気を全て吐き出してしまった。なんで僕はこんなにイライラしてるんだ。女の子にこんな風に突っかかった事なんて一度もないのに。
 だけどサクヤも止まらない。外見からはこんな風に怒るとは思えないのに彼女は僕に食いかかる。
「どうせ私は分かりません! 私は人じゃ無いですから一から十まで応えてくれなきゃわかんないプログラムです!だけどそれでも貴方なんかの様な根暗な回路は持ってませんけどね!」
「なぁ! こっちだってな、プログラム風情に言われる筋合いなんかない! 0と1を永遠に繰り返してろ!」
 僕達は互いに掴み掛かろうとした。だけどそれはアギトによって制された。
「いい加減にしろ二人とも! そんなバカな事やってる場合じゃ無いだろ!」
 そう言って僕は殴られ、サクヤは強引にイスに戻された。僕は床に倒れたまま立ち上がろうとしなかった。なんだかそんな気力が無い。
 だけど不意にやっぱりセツリの顔が見たくなって立ち上がる。もしかしたら今度こそ……僕は一人彼女の眠る部屋に向かう。後ろかアギトの呼ぶ声が聞こえたけど無視した。
 痛かったよおまえの拳。


 僕はずっとセツリの横顔を見つめた。これじゃあ何も変わらない。リアルの無力な自分と同じだった。僕は向こうでもこうしていた。こうするしか出来なかった。だけどこっちではそうじゃないと思っていた。
 けれど結局……こうなった。セツリの側には無力な僕が居るだけだ。
「なんで……なんで……僕だったんだよ」
 思わずそんな言葉が出てきた。もっと他の誰かならスムーズにセツリを助け出せたかもしれない。僕の様な初心者じゃなく例えばアギトの様な奴なら……きっと僕よりずっと上手くやったはずだ。
 LROには何百万というプレイヤーが居るのに、なんで寄りによって僕なんだよ。
 僕はセツリの僅かに開いた唇に目がいく。花の蕾の様な可愛い唇。僕はベットに手を突き自分の顔を近づけていく。あの時はこれで……その時廊下から何かが割れるような音が聞こえて僕は動きを止めた。
 何やってるんだろう……最低だ。僕は再びイスに腰を下ろす。完全に脱力したように体重を椅子に預けた。消えて無くなりたいと思った。それだけの事を僕はしようとしたんだ。
 もうここにいるのも辛くなってきた。これもリアルで感じた事だ。何も出来ない自分はここにいてはいけない気がする。それをLRO内でも感じるなんて……。
 僕は椅子から立ち上がる。だけどどうにも力が上手く伝わらなくてフラツいた。そしてドスンと床に尻餅を着く。その時、僕の腕はベットで眠るセツリの手に触れた。細くか弱い手だ。
 誰かが守ってやらないと今にも崩れて無くなってしまいそうなそんな感じがする。僕はそんなセツリの手を少しだけ自分の手で包んだ。
 さっき逃げだそうとした僕にそんな資格あるわけも無いけど、今この瞬間だけ……少しだけセツリの温もりを貰って置きたい。
 そんな事を考えると何故か僕の視界が滲んでボヤケてしまう。それでも構わず僕はただじっとセツリの手を優しく包む。その時、何かが僕の指に当たった感覚。
 僕は身を乗り出しセツリを確認する。
「セツリ!?」
 だけど彼女の瞳は堅く閉ざされたままだ。僕はさっきまで触れていた手を見る。何も無い。勘違いかも知れない。 だけどなんだかそうとも思えなかった。
「諦めないで」
 彼女は僕にそう言って、諦めない事を僕は彼女に誓った筈だ。だけど一人では僕は直ぐに揺らぐ。不安が次々に襲ってきて、やり遂げた後に結果はついて来なかった。
 そして今度こそと戻ってきた筈の彼女は目覚めなくて……その姿を目の当たりにしたとき、自分は最初の頃と何も変わってないと思った。
「そんなことは無いだろ?」
 その時、後ろから声がした。見知った声だ。振り向かなくても誰だか分かる。
「そうかな……僕は沢山の人に助けて貰ったけど結局、全部空振りだ。結果がないよ」
「俺は、お前が強くなってると思うけどな。だって俺には真似できない……ここで、LROで命を懸けるなんてさ。そんな枷を背負ったら……逃げ出す。間違いなく。だから俺はお前を強いと思う」
 ハッキリとした強い口調。僕は思わず涙を堪える。
「俺達はさ、結局野次馬と変わらないんだよ。とんでもない物を背負ったお前とは違う。だけどその中に入りたくてウズウズしてる奴がお前に付いてくる。協力してくれる。言い方は悪いけどな。
 俺達は気が楽だよ。ゲームだからな。どこまで行っても俺達にはLROはゲームでしかない。だからこそ見たいんだ。ゲーム野郎達が望むのは本物の勇者なんだぜ」
 僕はもう嗚咽も堪える事が出来ない。さっき殴られた頬が熱くて堪らない。簡素なベットだけの板張りの部屋に僕の涙は落ちて水を称える。
 そして次々と声が届いた。
「僕はスオウ君を尊敬してる! 声を掛けてくれれば例え世界の裏側からでも駆けつけよう! 仲間として友として、幾らでも迷惑を掛けてくれ! 一人の友人を失う事は僕の人生の最大の損失だ」
 ドアの前に立つ小さい影はテッケンさんだ。
「私も……出来る事ならなんでも協力します! 私はLROをゲームとしか見れないし……やっぱり野次馬だけど、二人が幸せに成るのを見たいんだ!」
 テッケンさんの後ろで体を縮めてそれでも精一杯声を出してくれたのはシルクちゃんだ。
「私に道をくれたのは貴方です。迷路から私を導いた光は貴方です。どうしてもセツリには貴方が必要なんですよ!
 私じゃダメなんです! ごめんなさい……私は押しつける事しか出来ません」
 震えて頭を下げるのはサクヤ。そしてその肩に止まっていたクーが僕に突進してきた。いつかの様に僕は倒れる。だけど痛くなかった。僕はセツリのベットの上……結構やばい位置に居るかも。
 その時、何かが涙で濡れた目に映った。あれはホクロ? いやなんか赤い点が耳の裏の部分に浮かんでる。
 僕はセツリの髪をかきあげて確認する。その行為にみんなも近寄ってきた。そしてその赤い点を見て一番に可能性を指したのはサクヤだ。
「この部分には本機のリンク機能があったはずです」
 リンク? 確か二台のゲーム機を繋げて意識をネットを介さず共有出来たりなんかした機能だった筈だ。
「この機能を使えばセツリを連れ戻せるかも知れません!」
「本当か?」
 希望が僕達の胸に沸く。
「はい、ただしセツリはきっと深い所に潜ってます。だから起きれない、迷ってる。普通の人ではそこまで意識を仮想に浸透できません。……でも」
 そこでサクヤの言葉が詰まる。
「でも、僕なら行ける!」
 その先を強引に引き継いだ。サクヤは頷く。小さな刻印が僕達の光を生み出した。


「ログアウト」


 僕は再びリアルに向かう。



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