命改変プログラム

ファーストなサイコロ

クライシス・クライアス

「スオウ君!」


 テッケンさんの声が橋の上に響いた。僕の手の中に吸い込まれたのはアイテム『思いでの結晶』。僕はそれを握りしめサクヤを見る。だけどまだ、さっき打ち込んだ思いでの落日を受け入れてる最中みたいだ。
 流石にあんな苦しむサクヤに続けては打ち込めない。僕達は少しの――だけど長く感じる時間を生き延びなくちゃいけない。


「私の……役目は……あの子を……向こうに……」


 震える唇からこぼれる言葉はもう殆どを思い出した事を指している。
 サクヤの役目。それは最初から何も変わってなんかないんだ。ただ彼女は進化し過ぎた。彼女は心を得ることで自身のプログラムが絶対じゃない事があることに気づいたんだ。
 更に大きくなったフクロウは僕達に向かってその羽を叩きつけて来た。僕達はその攻撃をなんとか避ける。だけどその攻撃で僕達とサクヤは完全に隔てられる。
 奴の羽は橋を叩き割ったんだ。砕けた石が、破片が宙に飛ぶ。これじゃぁダメだ! このままじゃあたどり着けなくなる。
 でも今なら……宙の瓦礫を伝えば行けるかも知れない。僕は駆け出す……出そうとした。だけどそれは対の羽に阻まれた。更に僕らの距離は開く。
 瓦礫が次々と湖畔に波紋を作り、一回羽ばたくだけでフクロウの起こした風は僕らを飛ばす。輝く羽と長い尾は湖の光全てを集めてるみたい。
 神々しいその姿が向かってくる。シルフィングを叩き付けるけど効いてない?
 僕はフクロウの攻撃をギリギリで防ぎつつ大声を上げた。まだ全部じゃない。だけど……それでも、既にサクヤは自分を知った筈だ!


「サクヤァ! お前は本当はどうしたかったんだよ! お前の本心はなんだなんだぁ!」


 僕のその言葉が届いたのかは解らない。だけど頭を押さえつつサクヤが立ち上がったのは見えた。フクロウの攻撃は更に激しさを増す。輝く羽から放たれる無数の刃は完全にかわすことも防ぐ事も不可能な物量だ。
 それでも僕は腕を振り続ける。乱舞の起こす風の隙間を縫って攻撃が届いてもこの腕を止める訳には行かない。
 何故なら後ろには瀕死のアギトと回復してるシルクちゃんが居る。
 風と風のぶつかり合いで乱れた気流が湖畔に幾つものトルネードを作り出す。それは輝く湖畔の水を吸い上げて黄金の柱と降り注ぐ雨になっていた。


「サク……ヤァァァァァ!」


 僕は唸る。助けたいんだ、救いたいんだ……だからお前の声を聞かせてくれ!


「私は……あの子に……幸せに……なってほしかった! 私は……幻でも……この……世界が……現実じゃなくても……けど……あの子は……こっちがリアル……」


 うあぁぁぁぁぁ…………と湖畔にサクヤの悲鳴が轟く。
 サクヤは元々、セツリの世話係として生み出された存在。だけどサクヤはセツリと触れ合う内に少しずつ個性を生み出していってそれは心だったんだ。
 そして彼女達はお互いを本当の家族の様に思っていた。だけどその頃から、セツリはリアルに戻る時間がだんだん減っていったんだ。
 サクヤは世話係でその対象はセツリだけどもう一人マスターが居た。それはサクヤを作った存在……つまりは当夜さんだ。彼はそんな妹の事が心配でサクヤにある事を命じた。
 それはセツリをちゃんとリアルに帰すことだ。一日に一回必ず。サクヤもそれは解っていた。サクヤは自分の世界は幻だと知っていたから……セツリにはちゃんとリアルが有ることも解っていた。
 だから次第に帰るのを嫌がるセツリの事が心配だった。だけど産みでた心にはそれとは逆の思いもサクヤには有ったんだ。


「私は……心配だった……心配だったのあの子が。でも……それなのに……嬉しくて……あの子が私の名前を呼ぶのが……抱きついて来るのが……あの子と……居る時間はいつだって輝いていて……私はだから、あの約束を……」


 そう、だからあの約束をサクヤはした。セツリとサクヤのその証とも言える事だ。セツリが仮想空間に閉じこめられた三年前のあの日の事故……いや、そもそもあれは事故なんかじゃなかったんだ。


 乱舞の限界時間。僕の体から発せられてた赤い蒸気はなくなり風も掴めなくなる。その瞬間、風がまるで巨大な岩の様に僕の体に当たった。
 このままの勢いで壁にぶつかったら確実にHPが尽きる。だけど体は縛られた様に動かない。


「スオウ!」


 アギトの腕が僕を掴む。なんとか回復は間に合った様だ。アギトは自分の武器を突き刺して勢いを止めてくれた。そして次にアギトの背で風を凌いでいたシルクちゃんが武器を掲げて魔法を発動する。


「ホーリーフェンス!」


 光の壁が僕達とフクロウ間に現れて風を防いだ。だけどその壁には直ぐにヒビが入る。長くは持ちそうに無い。するとアギトが大量の回復薬を僕に押しつける。


「こんな所でくたばる訳には行かないだろ? 選手交代だ。少し休め」
「だけどアギト、やれるのか?」


 そう言った僕の頭を小突く。


「お前な~、もしかして乱舞があるから俺より強いと思ってるのか? 見てろ。まだまだ追いつかせねーよ」


 アギトはそう言って前に歩み出す。そして壁が破られた。僕達に向かって風が襲いかかる。嵐の様な風のうねりの中、アギトはウインドウを出している。そして武器を……「はっ?」 その瞬間、あまりの暴風に晒された橋が崩れ出す。僕達は一瞬アギトを見失った。


「アギト!」


 そして崩れだした橋に慌てている僕達をチャンスだと思ったのかフクロウは突進してきた。一回の羽ばたきでトップスピードに乗ったフクロウは一直線にその巨体を僕達に向けて来る。
 崩れかける橋の上で僕達には殆ど逃げ場なんてない。僕は力が入りきらない腕を無視して前に立とうとした……だけどその時、横から割ってきた奴が巨大な盾でフクロウを受け止めた。


「はっ、さっさと回復しろよ――な!」
「アギト?」


 あの赤髪は間違いなくアギトだ。だけど装備が違う。戦闘中に取り替えたのか。最後の一声で大きく力を込めたアギトは右手に持った身の丈を越える大剣をフクロウに突き立てる。左手には真紅の大きな盾とこれじゃぁまるで……


「スキル『ナイト・オブ・ウォカー』俺の隠し玉だ」


 そうアギトは言った。確かに今のアギトはナイトみたいだ。重戦士みたい。だけどその規格外の大きさの盾と剣を上手く使いフクロウにラッシュをかける。盾もただ盾としてじゃなく武器にも使えるみたい。
 だけどなんであんな凄いの隠しといたんだ?


「切り札ってもんはそうそう見せるもんじゃないだろ!」


 そう言ってフクロウを弾き飛ばすアギト。そうそうは一杯これまでにあったぞオイ。まあアギトにも理由が有るんだろう。だけどフクロウを攻撃するとサクヤの魔法が来るぞ!
 そして案の定、既にアギトはお札に囲まれている。また同じ魔法か。


「やめろサクヤ!」


 だけど止める訳はなかった。サクヤはフクロウを傷つける奴に厳しい。そしてアギトが再び炎上した。あれ? だけどアギトのHPは減ったけどそれほどでも無い。
 すると炎を弾き返してアギトは生還した。その手に携わった盾は不思議な光を帯びている。どうやら特別性の盾らしい。そしてこちらをチラリと見ると言った。


「任せとけスオウ。お前はあのNPCを助けるんだろ?」


 僕はそのアギトの言葉に頷いた。そうだ……これならアギトは大丈夫だろう。ただし


「倒さないでくれ……そいつは多分、ただ守りたいだけなんだ」


 そんな僕の言葉にアギトは呆れた様に言った。


「しのぐだけならともかく、倒すなんて出来るかよ。買い被るな。お前は自分が助けたい奴だけ見てろ」
「ああ、そうするよ」


 ありがたい言葉だった。そうだな……僕には目の前の事しか見えない。他を見る余裕なんて初心者な僕には早いよね。
 だから……目の前の……今は遠いサクヤの場所に行かないと。






 遠くで風がはぜる音が聞こえた。頭にはまだ穴があってズキズキするけど私はもう自分の事を殆ど思い出した。私は「サクヤ」。この名前はあの子が付けてくれました。


「初めましてサクヤ、私はセツリ。サクヤって言うのはサクヤの名前ね。あなたがサクヤだよ。気に入った? 実はずっと前から考えてたの。可愛いでしょ? 可愛いよね」


 初めて見たあの子はその時から表情がコロコロ変わる子で私はこれが人間か……なんて思いました。
 私はあの子の為にお兄さんが作ったのです。広い世界を与えたらあの子は「一人じゃつまんないよ。友達がほしい」と言ったから私は作られました。
 初めはただの子守役……だけど私たちは仲良くなって次第に一緒に居る時間が長くなると私にはもう一つの役割が与えられました。
 それは「監視」と「観察」です。私たちが最初に出会った空間はもともと実験設備だったのだから当然でしょう。だけどお兄さんはこの頃から危惧していたのかも知れません。
 仮想で全ての夢を叶えてしまったらあの子はお兄さんの居る世界に戻ってこなくなるのでは無いのかと。だからこその監視と観察でした。
 そして私もこの頃からあの子の幸せはどこに有るのだろうと考え初めていました。そんなある日、あの子は自分が作ったお話を私に聴かせたくて持ってきました。そして私は気付きます。あの子の想いと願いに。
 『命改変プログラム』と題されたそのお話はあの子の夢の結晶でした。もしかしたらあの時、一緒に作ろうなんて言わなければ良かったのかも知れません。
 だけど落ち込むあの子の顔を見たくなんて無くて、華やかなあの子の笑顔が好きで、私はあの子に求められる事を願っていてそれが喜びでした。
 それからあの子は更に仮想の空間に入り浸りました。二日に一度も帰らなくなり私は不安と共に嬉しくも有りました。


「ねぇサクヤ。一緒にお風呂入ろうね。一緒に寝ようね」


 もうこの頃から私が一人はイヤだと思っていたのかも知れません。共に過ごす時間の分だけ、いやそれ以上に私はあの子を愛していました。
 でもだからこそ……私はあの子の幸せを願っても居たのです。私はお兄さんの命令で心は痛んだけど必ずあの子が寝たらリアルに戻す様にしました。
 私にはその機能が付けられたのです。これはあの子の為と想い、一人の夜を何日も過ごしました。
 私という存在はリアルでは何の価値も無いのです。だからこそ向こうで価値有る生を生きれるのならそれが良いと私は思っていました。


「サクヤのバカァ! バカバカバカだよサクヤ! 価値なんて私が決める! 私にとって大切な物は私が決める! 大丈夫だよ、サクヤは私の大事だよ」


 何日間かずっと怒っていたあの子が私に言った最上の言葉でした。私はその時初めて涙を流しました。悲しい時に出るはずの物なのに……私は必死に堪えても止めどなくそれは流れていきました。
 悲しい訳じゃないというとあの子は「うん」と優しい微笑みをくれました。真っ赤な鼻を鳴らしていた私はさぞやみっとも無かったでしょうに。
 それから私は聴きました。「幸せ」は何ですかと。するとあの子はこう言いました。


「ずっとここにいたい。ここなら私は走れるしなんだって自由だよ。それに家族も入るし……お兄ちゃんだって来ようと思えば来れるしね。見たくなんてないもん……現実の私なんて……」


 そしてあの子は私に約束を持ちかけました。二人だけの秘密の約束。


「ねえサクヤ。サクヤは私と一緒にいたい?」


 私はただ頷きます。


「じゃあね、私がずっとここに居たいって言ったらどうする?」
「それは駄目です。リアルの体がどうなるか……それにお兄さんはどうするんですか? 会えないのは辛いですよ」
「あんなのただの入れ物よ。お兄ちゃんは私に会いに来てくれる。ねえサクヤ……私のリアルをここにして」


 それはもっとも重大なアラート発言でした。私はこの時お兄さんに知らせるべきだったのかも知れません。だけどこの時の私はそれがあの子の望む幸せで……そして私もそれを望んでしまいました。
 そして次の日にあの子はそれをお兄さんに言ったみたいでした。すると当然ここに居る時間に制限が付けられました。その事にあの子はいたくご立腹です。私も会えない時間が増えてとても寂しく感じていました。
 ある日の事です。あの子はあの物語をお兄さんにしたようでした。その日は珍しく機嫌が良くてその時の事を饒舌に話してくれました。


「王子様はお兄ちゃんなんだよって言ったら顔が真っ赤になってね。サクヤにも見せたかったな~」


 あの子の顔からはお花がこぼれそうでした。だけどこの一週間後です。
 あの子は涙を流してここに現れ言いました。


「サクヤ……プログラムを実行して」
「でも……あれは」
「いいからしてよ! サクヤも私を捨てるの!……約束でしょう。お願い」


 私はあの子の意識を表層から真理へと導きます。システムの手が届かない所へ。そこで新しい日々が始まる筈でした。
 だけどその時、この空間が崩れ始めたのです。原因は分かりませんでした。だけど私はあの子の手を引いて戻るように促します。このままじゃどうなるか分からなかったから。
 だけどあの子はそれを拒みました。涙を伝う頬には悲しみが溢れ、星を散りばめた様な瞳は黒く陰っていました。


「ホラね……邪魔な子なんだよ私」


 その言葉にどんな意味が込められていたのか私には分かりませんでした。ただ最後に


「サクヤ……ありがとう……忘れて」


 そう言ったあの子の顔だけが心に焼き付いてしまいました。そしてあの子は私に背中を向けます。あの子は自ら奥深くに進んだんです。
 その後の事は……まだ頭に有りません。それはきっと今、目の前に飛んできたあの子の王子様の手の中に有るのでしょう。でも私はそれを受け入れていいのでしょうか?






 僕とシルクちゃんは城の頂上部分に来ていた。遙か下方ではアギトがフクロウを止めている。どうしても距離が必要だったんだ。サクヤの元に行くために。


「この高さから落ちたら死んじゃいますよ」
「落ちるんじゃない。飛ぶんだよ」
「一緒です。羽が生えるのは少しの間で、操作も私なんだから確実に落ちます!」
「大丈夫だよ。どうせ一直線だし。なんとかなるよ」
「どうして、そう楽天的なんですか」


 シルクちゃんの溜息。だけどこれしか方法がないんだ。それに楽天的じゃなく信じてるだけだ。仲間を。


「もうー! やるしかないですね」


 彼女は意気揚々と杖を振る。すると僕の背中に二対の七色に光る翼がついた。簡素で透明なその羽は蜂みたいだ。 このスキルは一時期人の夢を叶える魔法としてスゴく流行ったらしい。だけどその操作性の問題から事故が相次ぎ今では使用する人はいないと言う。
 だけど一度覚えたスキルは忘れないから助かった。これで僕は届く事が出来るんだから。
「失敗はあの世で後悔してくださいね。恨み妬みは受け付けません」
「今言うことそれ?」


 ヒドいよ、シルクちゃん!


「だから……絶対に帰って来てくださいって事です!」


 なるほど。ありがとうシルクちゃん。僕は城の物見台(?)から飛び出した。
 その瞬間シルクちゃんの操作で羽が震えて僕の体は上下左右に振られる。


「うわぁぁわぁぁわわぁ!」
「なんでこうなるの? ええ~~い、行っちゃえーー!」


 なんかやけくそ気味のシルクちゃんの声。マジで死ぬかもと思った僕の体は羽に引っ張られる様に進んだ。
 輝く湖畔の上空を僕は滑空する。その時目の前に立ちふさがったフクロウ。どうやら僕の姿に気付いたらしい。
だけど止まること何てあり得ない。
 僕はシルフィングを構えて輝く鳥と激突した。青い刀身が奴に食い込む……だけどそれでも奴は止まらない。こいつにも守り抜きたい物があるから。だけど……


「おまえの大好きなあの子の為なんだ! だから道を、空けてくれぇぇぇ!」


 その瞬間、フッと勢いが弱まった気がした。僕は一気に二刀を振り下げフクロウを叩き落とす。あの位で落ちる訳無いのにフクロウは何故か飛ぼうとしない。
 僕はその姿に言った。


「必ず助ける! お前のご主人様を!」


 僕は最初から感じていた。あのフクロウはただサクヤを守りたかっただけなんだって。だから僕達はぶつかった。だけど今……僕達の想いは伝わったんだ。
 アギト達はそんな事無いと笑うかも知れない。だけど僕はあのフクロウの思いも受け取った。その時大量のお札が飛散する。やっぱり攻撃されるのか。
 だけど僕は突き進む。僕の居た場所に刹那遅れて炎が舞う。それは空に炎の柱を描き出している。でも進む。真っ直ぐに……ただ一直線にあの子にむかって。
 最後の防衛線をサクヤが大量のお札で作る。だけど僕はそれを二刀で打った斬る。もの凄い爆発で全身が痛いけど気にしない。ただ後一枚……この壁の向こうにサクヤが居るんだから! 
 僕は二刀に力を込めてクロスさせる。バツ印が付いた壁は一際激しい爆発を起こした。湖畔一杯に響く爆音。衝撃で揺らぐ水面。
 これで僕のHPは尽きてもおかしくは無かった。だけど僕はそんな爆炎の中から飛び出した。そこには乱舞で作った風の道が通っている。


「うおおおおおお!」


 届く! もうすぐだ! 僕は雄叫びと共にサクヤに迫った。だけど彼女の高速詠唱は凄まじい。魔法が次々に発動しだす。流石に次食らえば僕のHPは尽きてしまう。
 だけどその時、発動直前の魔法が誰かの攻撃に寄って叩かれた。それはなんだか小さい影……テッケンさんだ!
 今までどこに行ったのかと思っていたら得意のスキルで透明になってサクヤ側の橋にいたらしい。彼は叫ぶ。


「この時を待ってたよ! 準備は万端だ。さあ来い、スオウ君!」


 テッケンさんはなんと僕に向かってタックルした。きっと勢いを止めるためだろう。味方同士の衝突でHPは減らない。あのまま橋に激突したら僕のHPはどうなったか分からない。
 だけど完全には止まらない僕達はそのままサクヤに衝突する。
 橋に噴煙が上がった。そして丁度良いことにマウントポジションに僕はいた。サクヤの瞳は揺れている。


「どうして……どうしたらいいの? 私は……私のせいで」
「その答えは自分で出すべきだよ。これを返す前に聴かせてくれ」


 僕が見せたのは思い出の結晶だ。


「分からない……でも私は知っていた。あの子の幸せはここじゃ駄目なんだって……でも私には約束があって……助けたい……助けたいのに……どっちなのか分からない」


 サクヤはずっと揺れていた。自分の心とセツリとの約束で。それが毒みたいになって彼女を壊してたんだ。


「そのどっちかは君が選ぶべきなんだ!」


 そうサクヤは本当はもう答えを出してる筈なんだから。


「……私は間違ってた。それでも……自分の為にあの子に理由を付けて……約束を……だけど違うから。私は……セツリを……出してあげたい。謝りたいの」


 僕は涙が落ちるサクヤの額にそっと巾着袋を当てた。そして吸い込まれていく。完全に消えた時、彼女の額の帯は切れて飛んでいった。






「私は……あの子を……救いたいんです」


 光の中であの人の前でそう願った。


「分かったよ。じゃあ僕の『命改変プログラム』を受け取って……これは契約。必ず妹を……摂理を救い出せる人に……」


 そこで思い出の結晶の記憶は散った。このあと私はNPCとしてLROに行ったのです。

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