美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

H666

「私は失敗作なのでしょうか?」

 そう言って私が作り出した素体の彼女――いや見た目私だからね。その私が涙目になってうるうるしだしたら……さ……キュンキュンって――

スパーン!!

 ――「え? あっ?」彼女は何が起きたのかわかってない。なぜなら私がひっぱたいてからだろう。私は私が絶世の美女だとわかってる。だから私が泣いてると私だってキュンキュンってするって思ってた。けどなぜか、無性にイラッてきたんだよね。だから思わず手が出てしまった。

「なんか私が泣いてるのってムカつくね」

「す……すみません」

 そう言ってすぐに彼女は涙を引っ込めた。最初から感情があるのか? と思ったけど、そうじゃてくて、彼女の場合はパターンで涙を流したらしい。悲しい悔しいとか実際生まれたばかりの彼女にはわかんない。だってかなり簡素な存在として生み出してる。

 勿論私だからその体には一切の妥協はない。一点も曇りもない肌や、感触、そして艶やかな髪にぷるるんとした唇とかさ……私を再現するためにに手抜きなんて一切してない。けどそれは体だけである。心……というか疑似人格である彼女は結構適当だ。とりあえず私の体の具合を確かめる為の存在だからね。

 そんな複雑な感情なんて与えてないのだ。だからいきなり泣き出してイラッとしてたのかもしれない。私がそんな事で泣く訳ない――ってことではなくて、私はそれがウソ泣きだと見極めてたからイラッとしたわけだよ。

「ふむ……」

 私は神の目……ゴッドアイで自身が作り出した自分を観る。だいたい完璧だよ。けどやっぱりさっき私が私自身を打って思った。いや、確信だね。もしも私に魅了が少しでも効いてたら、打つなんて出来なかったと思う。けど私は打った。ためらいなんてなかった。イラッとした感情は本物だった。それは魅了されて愛おしいと思う感情とは別だよね。

(でも私にはそもそも効かないってこともありえるか……)

「ちょっとドラクに向かって可愛らしい仕草してみなさい」

 私は検証のためにそんな命令を出した。そしてそれに素直に従って、ドラクに向かってくねくねして、ニコニコして、そしてちょんとしなだれかかる。ドラクは私にぞっこんラブである。そんなドラクだから、私とだいたい同じ見た目の彼女にそんな事されたら流石に打つなんて事は――投げ捨てられて建物の壁にぶつかる彼女がいた。

「気持ち悪い。近づくな」

「ふえええ……」

 涙目になってる私……の素体。なんかこれにはちょっとズキンときた。私じゃないけど、私と同一の見た目のやつが辛辣な言葉を言われてるのを観るのは……ね。でもどうやらドラクにも魅了は効いてない……いや、やっぱりないと見たほういいだろう。

 てかあの私、なかなかに不幸だね。

「美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く