美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

H420

「はあはあはあ……」

 私はその体全体に汗を噴き出させてた。それに動いては力を放ち続けてたから、私の長いきれいな髪が体にひっついて気持ち悪い。最初は神々しかった姿もこうなったら形無しかもしれない。
 いや、こういう姿にこそ興奮するっ奴もいるとは思う。何せみすぼらしくなったわけじゃない。むしろ色気って奴が出てる気がする。はあはあ言ってる私エロいし。

『そろそろか……限界は近いと見える』

 そんなふうにどこからともなくゼンマイの声が聞こえる。余裕綽々ね。普通はこんなに美少女が頑張ってたらそろそろ王子様がやってくる場面なんだけど? そう言う気遣いはないのかな? まあ敵だしね。わかってる。それに現実はそんな夢物語のようなことは起きえないのだ。知ってるよ。だってこの世界に……いやこの宇宙には既にこのアクトパラスとゼンマイに楯突くような奴らはきっと居ないんだろう。わかってる、それだけ圧倒的な力がこいつにはある。世界樹があることがどれだけ優位かなんてこと……世界樹の巫女とか呼ばれてた私がいちばんわかってるもん。
 世界樹があれば事実上無限のマナを持ってるのと同じ。それが一つの世界でも無限大のマナ供給があったのに、今のアクトパラスとゼンマイはそれが宇宙規模だ。私の後ろ盾になってたクリスタルウッドとは規模が違う。
 私は誰にも悟られないように歯軋りするよ。いや、実際私は一人だ。だから誰かに憚る必要なんてない。

「あーあ、なにやってるんだろう私」

 そんな風に私は声を出す。もういいんじゃない? って気持ちが湧いてくる。でも……

『『『ラーゼ様……』』』

 そんな思いが私に届いてくる。それはエデンで震えてるみんなの声だ。本当に危なくなったら、私の性格的にみんなを見捨ててでも……とか思ってた。だって私は自分がいちばん可愛いと思ってる。それは外見ではなくて(もちろん外見もだけど)そうじゃなくて、自分本位ということだ。でもそれって誰だってそうだし……その時は仕方ない−−って思えるはずだったのに。

(まあ逃げる場所なんて無いんだよね)

 ゼルが来てくれたら……と思う。ゼルならもしかしたら宇宙を取ったアクトパラスとゼンマイに対抗できる可能性はある。まあ流石にゼルでも今のこのアクトパラスとゼンマイに対抗するのは厳しいと思うけどね。だからこそなんか魂の回廊で呼びかけても反応がないのかも? 
 てか数千年経ってるわけだし、寝てる可能性大なんだよね。力は供給されてるから生きてるのはたしかだろうけど、それ以上は私にはわからない。私からゼルに何かできたらいいんだけどね。

『もう終わりだ。諦める頃合いだと思うけど?』
「そうかもね」

 とりあえず向かってくる世界樹の根を壊しつつそんな返事をする。でもそろそろ私の体が限界に近い。これ以上体から大量のマナを放出したら、私のこの体は……今までは腕がなくなろうが足がなくなろうが強引に元に戻すことができた。でもそれも無理なくらいに体を酷使してる。
 これ以上はダメだと、体が訴えてるのがわかる。私の想定よりもずっと弱い光は世界樹の根を壊し切らずに私の体を吹き飛ばしてエデンの中央近くにその太い存在を突き刺した。
 それは全ての終わりのようなそんな光景だった。

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