美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

H384

「それはあんまりじゃないですかラリア様?」

 そんなまともなことをクロスの奴が言った。いつもはうざったくて仕方ないが、今は許してあげよう。もっと言ってやれ。

「どうしてですかクロス様! 貴方はラーゼに騙されてるから擁護に回るんです。そもそも、私たちが何が出来ます? ラーゼなら機械達を使えます。大丈夫ですよ」

 なかなかに感情的になってるラリア。さっきまでは落ち着いていたのに……まあ演説まではだけど。私の方に求心力? があると目の前で見せられて歯ぎしりしちゃったみたいだね。私と張り合おうとするのが間違いなのに……

「どうしてもラーゼ様に一人で対応させると?」
「それが一番効率的でしょう。私たちが行ってどうなります?」
「もしも、それでも駄目だったらどうします? 私たちは希望が失われる事になる!!」

 私=希望である。そこは間違ってない。そもそもが私が居なかったらじり貧でしかないからね。まだマシな……というかこいつらがコールドスリープに入る前よりも生活の質が上がってるのは私がここに居るから。目覚めてるからなのだ。
 その私を生け贄にするとか……確かに悪手だと思う。でもそんな効率とか戦術とかはきっとラリアはどうでもいいんだろう。私という目障りな存在が居なくなってくれれば良い……きっとそんな感情だ。まあ人には誰もが褒められたいって感情があるのは理解出来るよ。
 私もそうだ。与えるかは別として……私は生きてるだけで色々な人や存在に求められる側だからね。そして私が求められる側で、その関心を周囲から一身に集めてしまう存在だからこそ、嫉妬って奴も集まってきてしまう。

 昔は良かったよ。だってそれが当たり前に受け入れられていた。私には地位があったからだ。庶民の皆さんは私を雲の上の存在として求めるけど、こっちがその見返りを渡す必要も無くて、そもそもが勝手に諦めてくれる立場だった。
 多少偉くても、私は更に偉くてエデンの主という肩書きはそれだけ虫除けにはとても便利だったんだと今更ながらに気づく。今の私は何なのだろうと言えば……何なんだろうね? ただの超絶美少女? そこだけは変わらない。変えようがない不変の事実。

「駄目だったら、隔壁を下ろして籠城することになるでしょうね」
「またコールドスリープですか? でも、希望がなくなったらそれをしたところで……」

 前に皆がコールドスリープをしたのは先に希望が……私という存在があったからみたい。私が目覚めたらまた光は差す。そういう思いが皆にいつ起きるかわからない眠りを決断させた。
 でもそうだよね。私が居なくなったら、もう人種に希望なんて物はない。コールドスリープしても意味は無い。生きながら眠るか、死に眠るかの違いでしかない。

『私は人種の可能性を信じてます! こいつがいなくても! 人種は! 私たちはやれる!!」

 その瞬間、乾いた音がこの場に響き渡った。一瞬何が起ったのかわかんなかった……という顔をしたのはラリアだけ。私はただわくわくしてた。

「いい加減目を覚ましてくださいラリア様!! 貴方は! 貴女自身が人種を見捨てるのですか!?」

 クロスはラリアの頬をたたき、そしてその肩を掴んで間近で叫んでる。なんだろう、いつも変態な奴とは思えない行動……でもいいぞ、今だけはもっとやれって思える。

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